姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 作:気力♪
「嘘だろおい、連中誰も死なずに逃げ延びやがった」
暴虐の限りを尽くした怪物、『チンゼイハチロウ』が
チンゼイハチロウが放った矢は三十二発。そのうち半数は自分たちで受け止めたが、それでも十六発の矢が侵入者に放たれていた。
チンゼイハチロウの破壊力は身をもって知っている。数合わせではあるものの、サマナーの仲魔として召喚され戦ったからだ。
──別の周回での話になるが、あのペルソナはその弓矢にて世界崩壊に耐えうる方舟すら破壊した事がある正真正銘の化け物である。今でこそ致命傷を受けたまま固定化した事で弱体化したものの、放つ技の威力が桁外れなのは変わらない。
「ま、だからこそあの男すら使えねえ欠陥ペルソナなんだろうがな」
奴の
ペルソナとしての奴を降魔するのは鍛え上げた
その無双を無力化するために人の邪念で調整された
あの襲撃者達と命懸けの殺し合いをしたい。そういう欲がある。
チンゼイハチロウの暴走をうまく利用し、効率的に敵を始末するべきという理性がある。
こういう時、物語の三蔵法師ならば道を示してくれるのか? とゲンジョウをみるも、奴は何も語らない。
当然だ。コレは人工的に抽出されたシャドウであり、意志を持たない
「しっかし、どうすっかねぇ?」
チンゼイハチロウの16矢は、無傷で凌ぎ切った。そして、それ以上の行動はチンゼイハチロウにはできない。
そもそもがなぜ存在し続けられているのか不思議な状態だ。本体との接続は僅かばかり、
「……つーか、どっちにしても俺契約破りじゃねぇかよ。目撃者の皆殺しも、チンゼイハチロウの封印もどっち付かずになってやがる。面倒臭えなマジで。死ぬってんなら楽だけど、また変なのに改造されて死ぬに死ねねぇってのは御免だぜ? なぁお師匠さん」
ゲンジョウは答えない。が、単に気を紛らわせたくなっただけなのでそれで良いのだろう。
──直感というか、ひとつの経験則がある。次の戦いで勝つことはないだろう、と。
人間に『2回目』を与えてはならない。人間に『逆襲』をさせてはならない。
初手で命を奪うでも、心を折り砕くでも何でもいい、させてはならないのだ。
「……これは、死んだな」
二度目に戦う時の人間は、考え抜いた勝機をひたすらに追い求める、餓狼の群れとなるのだから。
目の前の、戦士達のように。
「まず大前提として、チンゼイハチロウは生死の境を彷徨っています」
作戦を立てる初期段階でフジワラの言ったその言葉。チンゼイハチロウが現れたその瞬間の衝撃が強すぎて飲み込めはしなかったが今現在ならば深く理解できる。
あの鬼神めいた鎧の下には深く切られた傷跡があり、その傷跡からは血やMAGが流れ出し続けている。これが事実だ。
暴虐の限りをつくすであろう武技の数々も、張り付けにされて水源に浸されている現在では見る影もない。ダメージは、確かにそこにある。
ならばと先手でチンゼイハチロウにトドメを刺すか? とは思ったが、そうはしない方針になった。
手負いの獣ほど危険なものはない。トドメを刺そうとすればチンゼイハチロウからの反撃で死人が出るのは間違いないだろうし、そうなればセイテンタイセイ達からの横槍で壊滅だってあり得てしまう。
チンゼイハチロウがどうかしているほどに強すぎるだけで、セイテンタイセイ達も普通に強い敵であることには変わりがないのだ。
──戦場に辿り着くまでに妨害はなかった。そりゃあそうである。いつ暴走するかわからない不発弾から目を逸らして行動できるほど、セイテンタイセイ達に余裕があるわけではない。これは勘になってしまうが、目を逸らして同行できるような自由裁量を与えられているような契約でもないとも思える。
向こうもいろいろ大変なのは伝わってきているのだ。
そうして、広間に出る。セイテンタイセイは既にシャドウどもを召喚しており、臨戦体制を取っている。チンゼイハチロウは先の戦いで見たときと同じ場所に貼り付けられている。四肢を刺している杭は新しいものだが、首を刺している杭だけは使い古された跡が見える。あの杭にある呪いとかでペルソナをこんなところに拘束しているのだろう。
……首に杭がぐっさりと刺さっていても生きている理由は知らん。生命力が化け物だからだろう、きっと。
「待たせてしまったな、セイテンタイセイ。その命を取りに来たぞ!」
「ひっでえガキだ。そもそもの話として、テメェらはなんで俺を殺そうとしてんだ? 特段迷惑だとかもかけちゃいねぇだろ」
「そんなものは決まっている」
「そこに居た。理由はそれで十分だろう?」
「ひっでえ理屈」
この異界は、春日部廃マンションに接続したどこかの異界である。その異界についての情報は可能な限り調べたが、ヤタガラス、キリギリスのデータベースを見ても『手を出すな』と指定された異界ではなかった。
そんな推定敵地にて他人のペルソナを掻っ捌いている危険悪魔なぞ、とりあえず敵としてぶっ殺すのが定石なのである。真偽だとか企みだとかは後で調べればいい。間違っていたら……まぁその時はその時だ。
「ま、正しいんだけどよ。ウチのサマナーはぶっ殺されるに足るクソ野郎だぜ」
「それは良い! 後腐れがなくなった!実のところ賠償金だとかの余裕はないから、もし貴様が善人だったならお前のサマナーを故なくぶっ殺さなければならない所だったのだよ」
ガンガンと会話しながら、配置を整える。
今回もメインは己であると印象をつけておくが、まぁ無駄だったろう。その目はカグラギ殿のことをしっかり捉えている。先鋒が誰かは読み切っているようだ。
「それでは、参りましょうか!」
カグラギ殿が堂々とした足取りで前に進む。先の戦いで見たセイテンタイセイの踏み込みの距離から若干外側に立ち、仲魔を構えている。
召喚しているのは『邪鬼ギリメカラ』に『妖獣トウコツ』。妖獣の種族スキル『妖光一閃*1』を用いれば一足で先手で仕掛けられる位置取りだ。
己達はカグラギ殿を先頭に立たせながら、チンゼイハチロウとの距離を測る。いつ起爆するかわからない危険物だが、その起爆には予兆がある。フジワラなら感知できるので、その後に対応できる距離を保てば良い。
「そこの歌舞伎野郎、テメェで俺を止められるとでも?」
「止められますとも。借り物の技しかない、貴方程度であるならば」
「テメェの技も借りもんだろうがよぉ!」
踏み込んできた。先の戦闘の時よりも深く。
カグラギ殿とセイテンタイセイ達が戦闘を始める。敵の『S骨抜の秘法*2』がカグラギ殿を蝕むが、今回の戦闘では問題にはならないだろう。
Sテトラカーン | 先制発動スキル | 戦闘開始時、味方全体にテトラカーンを発動する |
「ッ⁉︎的中の秘法じゃねぇ⁉︎」
「借り物の技でありますれば、付け替えは容易いのですよ」
カグラギ殿の罠が刺さる。敵方はカグラギ殿の『S的中の秘法』を印象深く覚えていたらしい。向こうの価値観としてはそうだろう。命中不安定な朧一閃だとかの弱点を埋められる垂涎のスキルなのだから。
とはいえ一本釣りできるとは思わなかった。ギリメカラの『邪念呪縛』で動きを止めてから殴り合う予定だったので、楽で良い。
「だとしても、どうにでもするさ!」
セイテンタイセイ達のチームは猿豚河童の三人衆。河童たる『ケンレンタイショウ』が先手にて『ATTACK』。カグラギ殿を殴ってテトラカーンを剥がす。そこにセイテンタイセイが必殺の一撃を叩き込む。『朧一閃』、特大威力の確定クリティカル攻撃だ。
「この一撃が決まれば、死んでしまいますな! ですので……ギリメカラ」
騎士の精神 | 自動効果スキル | リーダーが致命ダメージを受ける時、代わりに攻撃を受ける |
セイテンタイセイの一撃はギリメカラの『物理反射』に乗ってセイテンタイセイに返ってくる。
その一撃は完全に予想外だったようで、セイテンタイセイの位置取りは大きく乱れた。そうなれば、
初手を潰せば、それまでだ。
「それでは、反撃といきましょうか」
カグラギ殿のトウコツが『ギガジャマ』を叩き込む。セイテンタイセイにヒットして、スキルは封じられる。ギリメカラはブフダインにて
そして、『
盟主の精神 | 自動効果スキル | 仲魔だけが致命傷を受ける時、リーダーが身代わりになる |
「完全に対策取ってやがるか!」
「……この動き、やはり数を減らしたくない理由がありますな!」
そして、アプリ殺法特有の大きな呼吸が入る。1ターンに全力をかけまくるのがアプリ殺法なので、その消耗を回復するために必要な動きだ。
「その隙貰ったぁ!」
とはいえ、この世界は将棋のようなターンバトルではない。戦闘した後の一呼吸とか突かない方がおかしいほどの大きな隙だ。そりゃあ後詰めの己が飛びついて追撃を加えるとも。
「まず一体仕留めさせてもらう!」
「ゲンジョウからの支援が届く前に動きを差し込んだか! やってくれる!」
「マスターテリオン! ソロネ!」
マスターテリオンの放った『マハガルーラ*5』が全体に命中する。『盟主の精神』だろうが『騎士の精神』だろうが全体を薙ぎ払えばカバーもクソもない。*6
マハガルーラは
続いて、浮いた手番でソロネが『マハラギダイン』を放つ。セイテンタイセイは火炎無効で、テンホウゲンスイは火炎弱点。だが、先ほどと同じように全体攻撃にパッシブのカバーは入らない。セイテンタイセイの火炎無効の分だけソロネが動揺して呼吸は乱れるも、先程マスターテリオンが稼いだ分で帳尻は合う。
そして、ダイン級の火力を弱点に受けたテンホウゲンスイはLV50という低いレベルの分耐久が足りず、焼豚にもならず炭化する。
残りは、セイテンタイセイただ一体。
「さぁ、乱数に祈るが良い!」
百麻痺針 | 物理スキル | 敵複数体に銃撃属性小ダメージ1〜3回 緊縛の追加効果 |
麻痺針は三発放たれて、三発とも命中。緊縛の追加効果が入るという超絶なる運の上振れであった。
「テトラ要員に呼んだ筈なのだが、まぁ狙えるならば狙うさ!」
「鍛え上げられた私の芸術、その身に受けて死んでいただきます」
弱者必滅拳 | 物理スキル | 敵単体に物理属性ダメージ。状態異常の場合は大ダメージに変化 |
サラスヴァティの一撃がクリティカルに入り、セイテンタイセイは吹き飛んでいく。そしてそこにマスターテリオンが『マハアクエス』を『
「残り2体! カバー入らなかったからなんかあるよ!」
「そりゃあるさ。そういう仕掛けで動く人造シャドウで、人造悪魔だからな」
バッドカンパニー | 魔法スキル | 味方全体をストックに戻し、レベルの高い順に召喚し直す |
ゲンジョウが動く。放たれたスキルは『使う時は大好きだが使われる時は殺意しか湧かない邪悪スキル』の一角、バッドカンパニーだ。
ストックに戻り、召喚し直されたのは次の5体。
破壊神 | セイテンタイセイ | LV64 |
法王 | ゲンジョウ | LV50 |
隠者 | テンホウゲンスイ | LV50 |
星 | ケンレンタイショウ | LV50 |
剛毅 | リュウメ | LV50 |
「さ、続きだ」
「蘇生……じゃない、肉体のストック! バッドカンパニーの召喚制限*7を使って、西遊記シリーズを揃える戦法!」
「うわ一瞬で見抜かれたかよ。笑えるね」
敵方のセイテンタイセイはレベル64に弱体化している。リオの言葉が正しいのならば、レベル64の別の肉体が召喚されているということなのだろう。
セイテンタイセイの意思が連続しているのは、おそらくセイテンタイセイもシャドウだから。アルカナがどれかは知らないが、他の河童たちと同じくシャドウであるセイテンタイセイが悪魔のセイテンタイセイを操り、戦闘をしているのだ。
おそらく、目の前にいるこの西遊記シリーズは本物セイテンタイセイのラジコンなのだろう。本体は本体として別の場所にいて、西遊記シリーズ5体を操作しているのだろう。
「振り出し……じゃあないわね」
「そりゃあそうさ。時間は確かに経過してる。奴が力を貯めるだけの時間がな」
ゲンジョウは己達からも、水源からも十分な距離をとっていた。なのでゲンジョウに召喚された新しい5体も当然離れた場所にいる。
「起きるのは次ターンの始まりですね。チンゼイハチロウ、もうすぐ起動します」
「そりゃあ遠くまで逃げるかぁ……この距離だと、5体まとめて殺すのは無理ね」
「しからば、対処を行うとしましょうか」
「対処? この化け物を封じる手段でも見つけたのか?」
「勿論だとも。そうでなければ逃げずにここにいる訳はない!」
「言ってくれるぜ。まぁ、好きにしな」
「俺たちは、先に安全圏に逃げさせて貰う」
シンドゥミステリー | 合体魔法 | しばらく行動できなくなる代わりに、あらゆるダメージを受けなくなる |
チンゼイハチロウが『
無敵モード、という奴だろう。
「……なるほど、チンゼイハチロウから逃げ延びれる訳です。彼のMPは尽きているのに戦闘ができるのは『
「トランザムの間ひたすらガン逃げ決めるとか、ロマンがない連中ね」
「しかし、我々がこれから行うことも大概では?」
「それは……まぁ、うん」
そんな言葉と共にリオが
「アプリサマナーの利点は、近くの仲間で悪魔をシェアリングできる*8事にあります。サマナー以外の方でも、携帯を渡せばこの通り」
「信用できない悪魔召喚プログラムとかゴメンなんだけどねぇ……弱いと手段が選べなくて嫌だわ」
そうしてリオがカグラギ殿が『デビオク*9』なる闇オークションで引っ張ってきた悪魔『邪鬼レギオンLV39』を召喚する。そうしてチンゼイハチロウに少し近づいて、スキルを叩き込む。
邪念呪縛 | 種族固有スキル | 対象のチームの次回行動の移動力を1にする。敵の行動を順を一つ遅らせる。射程距離3マス。 |
チンゼイハチロウにレギオンの放った呪縛が入る。移動距離を縛る呪いだ。
チンゼイハチロウの攻撃は弓なのだから立ち位置なんて意味ないのでは? とはならない。踏み込む距離が短ければ彼我の距離が大きくなり、矢が放たれてから着弾するまでの時間が長くなる。
速度が速度なので伸びる時間は一瞬程度だが、その一瞬あれば回避行動はギリいける。これは先の戦いで必死に逃げ回りながら実感したことだ。
チンゼイハチロウの『ヤブサメショット』が放たれる。全体攻撃の全体をマップ全体にするなと言いたくなるレベルの速射だが、落ち着いていれば避けられない訳じゃない。当たれば汚い花火になるだろうが、そこはいつもの事なので気にするだけ無駄だ。
「コイツ、身体ガッタガタじゃない。気迫だけでよくもまぁ誤魔化したもんね」
ヤブサメショットを回避する。
とはいえギリギリな感じはあったので、ファフニールを召喚し『邪念流動*10』にて射程を伸ばし、遠距離からの『フォッグブレス*11』を入れて
おく。これで安心だ。
「おおっと、逃しませんよ?」
カグラギ殿がチンゼイハチロウの2手目の前に割り込んでギリメカラの『邪念呪縛』を叩き込む。
リレー形式でリオとカグラギ殿が呪縛を叩き込み続けることでチンゼイハチロウの行動速度を上回る回数で呪いを入れ続け、移動を封じるというのが己達の取ったチンゼイハチロウ対策だ。
なんというか、酷いやり方だなぁと思う。
チンゼイハチロウに移動強化スキルが存在しないのは確認できているし、時間制限があるので『待ち』もできない。故に、チンゼイハチロウ対策としては及第点だろう。
コレをやられた時の対策として妖獣はストックに仕込んでおこうという気持ちにはなるくらいには、面倒な戦法だ。
そうしていると、チンゼイハチロウの攻撃タイミングとシンドゥミステリーで静止しているセイテンタイセイ達の動きの感覚にどこか違和感があるような気がした。
「ダニー、行ってください。計算が正しければ、面白いことができますよ」
フジワラがダニーを敵チームの方に派遣する。フジワラ本人は結構な距離を取ったのでチンゼイハチロウの射撃は回避できると踏んだのだろう。
そうして、フジワラが視界に表示した『行動順タイムライン』を見たことで、己もフジワラの悪巧みに乗ることに決めた。
「ダニー、ぶちかまして下さい」
「ほうら『ザン』だ! ノックバックしていけ!」
己とダニーが敵に衝撃を与えまくる。どうにも『シンドゥミステリー』が無効にするのはダメージだけなようで、衝撃とそれに追随するノックバック効果に関してはノーガードであるようだった。
セイテンタイセイ達の疑問の表情が面白い。敵のチンゼイハチロウ破りと己達の取ったチンゼイハチロウ破りが噛み合いまくった結果の奇跡なので、セイテンタイセイ達は想像も付かないだろう。少なくとも数秒前の己も想像できなかったのだし。
ノックバックにより、セイテンタイセイ達はチンゼイハチロウに近づいていく。邪念呪縛の縛りがあって尚、一歩一歩チンゼイハチロウはこちらに踏み込んでくる。
そうして、時は来た。
「……ッ⁉︎馬鹿な、早すぎるッ⁉︎」
「先の戦いでは効果時間をカウントできていませんでしたので推測ですが、あなたの使ったスキル時間が短くなったわけではありませんよ」
「たまたま、あの化け物が
現在のセイテンタイセイとゲンジョウ、二つのチームのリーダーの位置はチンゼイハチロウの射程距離内。しかも奴らは『シンドゥミステリー』の効果で動きが止まっていたので、回避のための初速を持っていない。
そして、呪縛のたびに手番を後ろにずらされ続けた*13チンゼイハチロウは、まだオーバーヒートしていない。
殆ど死に体のはずのチンゼイハチロウは、ぐぽーんという音と共にその瞳を光らせた。龍を思わせるその瞳は、敵を捉えて離さない。
物理ギガプレロマ | 自動効果スキル | 物理属性のダメージを大きく増加させる(40%加算) |
会心専心 | 自動効果スキル | 通常時のダメージが低下する代わりに、クリティカル時のダメージが大きく向上する |
龍眼 | 自動効果スキル | 自身の命中率を大きく向上させる |
物理貫通 | 自動効果スキル | 物理貫通を得る |
ヤブサメショット | 物理スキル | 敵全体に物理属性小ダメージ。確定クリティカル。貫通効果。 |
ニ身の残影 | 自動効果スキル | バトル中、25%の確率で同じ行動を繰り返す |
ヤブサメショット | 物理スキル | 敵全体に物理属性小ダメージ。確定クリティカル。貫通効果。 |
ゲンジョウの先制発動の『Sテトラカーン』が発動したのは確かに見てとれた。しかしながらその展開されたテトラカーンはブチ抜かれてヤブサメショットが突き刺さる。
ヤブサメショットの貫通はテトラカーンを抜けない*14ものなのだけれども、チンゼイハチロウが持っている物理貫通*15の方はテトラカーンもお構いなしの暴虐仕様だったらしい。
「……初手で仕留めきれなかったんだ。順当な結果って奴だな……畜生」
テトラカーンをごと貫かれたセイテンタイセイはそんな言葉を最後に残し、ヤブサメショットの衝撃により爆散し消滅した。
2体のリーダー悪魔が消滅した事で残りの連中は一瞬動きが停止して、その瞬間にカグラギ殿の『暗殺拳』やリオの『闇討ち』にて刈り取られて消滅した。
チンゼイハチロウは
「完全勝利! 復讐完了だぁ!」
「よっしゃあ生き残ったー!」
「やはり、復讐を完遂した気分は心地がいいですね」
「皆様、喜ぶのは後に。これからどうするかを考えなければなりますまい」
カグラギ殿はそう言うが、その表情はとても明るい。おそらく最後に殺したテンホウゲンスイかケンレンタイショウのどっちかのスキルを『スキルクラック*16』したのだろう。スキルクラックシステムは魂を汚染するタイプの激毒ではあるらしいが、手っ取り早く強くなるには有用な手段だ。カグラギ殿も生き急いでいるタチであるし、ハイリスクを飲み込んでハイリターンを取ろうとしているのだろう。
「さて、このバケモン回復して良いと思う?」
「治すべきかと。我々はセイテンタイセイ達と同じようにこの場に彼を縛り続ける事はできませぬ。スキルを習得できるアクセサリーとしての水は、ここで汲んだもののみと致しましょう」
「なるほど、どうせ勝手に蘇るのだから、せめて回復して恩を売るという話だな!」
「問題は治った瞬間に反撃してこないかですが……ちょうど今はオーバーヒートで動けないようですし、大丈夫でしょう」
ということで、皆の回復ついでにチンゼイハチロウも『メディアラハン』の効果範囲に入れる。ボロボロであった肉体の傷は塞がり、鎧についている傷も直ってピカピカになっている。
チンゼイハチロウは、己達を見る。そして自身が縛られていた板を指差した。
そこには何やら槍の穂先のようなものが刺さっている。位置的には首にぶっ刺さっていたものがペルソナであるチンゼイハチロウを縛りつけているものなのだろう。よくよく見れば穂先からチンゼイハチロウに伸びる呪いの流れが見えているし。
「ロンギヌスコピー*17……でしょうか。ペルソナを封じる力があるとどこかで聞いた覚えがあります」
「なんかに使えそうだけど、ああも禍々しく刺さってたらぶっ壊す以外無さそうね」
リオはたたんと近づいて、穂先を破壊した。惚れ惚れするような綺麗な蹴りである。
それを見て、ふと納得がいった。
この異界にて現れた悪魔達の使っていた数多の技、前転や朧一閃のような超ハイレベルな技なのに、魂の奥底まで震えるような恐怖を覚えなかったのかについて。
あれはあくまでチンゼイハチロウの技だからだ。
カシマレイコが前転を使おうが、セイテンタイセイが朧一閃を使おうがそれでなぞれるのは表層の動きだけで、動作の一つ一つが使い手の技として洗練されていなかった。だから、セイテンタイセイの朧一閃の直撃なんてヤバいのを受けても己は致命傷にならない受け方ができたのだろう。
「スキルを使うことはできても、使いこなすことは難しい。よくよく言われている言葉だな」
「なぁに、ものは使いようでございます。一部が劣ろうと、技であるには変わりませぬ。長所が生きるような戦い方をすれば良いのですよ、今回急造のアプリサマナーとして戦った、リオ殿のように」
チンゼイハチロウは槍の魔力による拘束から解き放たれ、一段と存在感が増していく。
その時、ようやく気がついた。
この感覚は、覚えがあると。
「……ちょっと待って。アンタは、まさか⁉︎」
「ペルソナを剥がされ拘束されるような状況に置かれていると言うのですか⁉︎」
「だが、そうとしか考えられん! 無限の研鑽を感じさせるような強さのあり方は、己は一人しか知らぬ!」
「親父、なの……?」
チンゼイハチロウはその言葉に答えることはなく、粒子となって消えていった。心の海へと帰ったのだとフジワラは言ったが、そこからゴドーの元に帰れるのかどうかは定かではない。
「……なにやら、尋常でない様子。撤退を考えては?」
「……そうですね。チンゼイハチロウが消えた事で異界全体が収縮しています。急ぎ離脱しなければトラエストで帰還できない可能性もありますから」
「おーけー落ち着いた。まずは親父と親父の仲間に連絡取るのが先ね。案外ペルソナ剥がされただけかもだし」
そんな思ってもいないことをリオが言う。
金が欲しいと突っ込んでいった異界にて、実の父親が囚われの身になっていると聞いたリオの心情は想像すらできない。しかし、リオが動く時には己も動けるよう、きちんと己自身のコンディションを整えておく必要がありそうだった。
とある異界にて、一人の男が椅子に縛り付けられている。間接という間接には杭が差し込み固定され、その杭は回復魔法により肉体と癒着し離れなくなっている。動こうとすれば杭が物理的に動きを阻害し、かつそこに刻まれた呪いが肉体を犯し激痛を走らせるだろう。
そんな男を、少年の容姿をしている何者かが笑顔で見つめていた。
「ゴドー、ゴドー、ゴドーコトノハ……うん、やはり良い名前だね。君が考えたのかな?」
「……」
「だんまりかい?つれないじゃないか。ボクと君との仲だというのに」
「……お前など、知らん」
「そんな嘘をついても意味はないというのに……まぁいいさ。それじゃあもう一回尋ねるけど、今回の知識はどこに遺しているんだい?世界がもうすぐ滅ぶと分かっている君が、未来に種を蒔かない訳がない。わかっているんだよ、僕と君はトモダチだからね」
「……」
ニコリと笑いながら男がゴドーの爪を剥ぐ。ゴドーに指一本触れないで行う、念動属性の魔法を精密にコントロールしての技だった。
「むぅ、動じない。今回の君は頑固だ。君は、僕のために記録をつけてくれる自動人形だろう?君に生きれるだけの知識を与えたのはボクだ。君に立ち上がるための肉体を与えたのはボクだ。だから、君はボクに恩を返さないといけない。わかるよね?」
ゴドーは何も答えない。歯を食いしばることもせず、平熱の瞳で、少年を見ていた。
「……もしかして、君はまだ自分が人間だなんて勘違いしてたりするのかい?そうだとしたら言って欲しいな、今度のパーティで話すネタくらいにはなりそうだ」
「ボクは流れで組織に帰順しているだけだから、あまり理念だとかに興味がないんだ。けれど人間関係を断ち切るというわけにはいかないのが辛いところでさ。
「そういうのからボクは早く解放されたいんだよ。天辺を取る……とまでは行かなくても、十把一絡げの連中から頭ひとつ抜け出したら、あとは人付き合いの悪いって個性で片付けられるからね。だから、教えて欲しいな」
ゴドーは答えない。平熱の瞳のまま、少年を見つめている。それを見て、少年は笑う。平熱の瞳の中の僅かな変化を見出したかのように。
「……そんなに熱くなるんだ。面白いね、今回のキミは。魂レベルで1から設計したとは言っても、結構な周回数を重ねてメンテナンスが必要になっちゃったのかな?けどそんなに複雑な設計じゃないんだから、壊れることもないと思うんだけど……」
「生まれてからずっと記録を集めて、世界が滅ぶ前に記録を遺す。それだけだよ?どこに壊れる要素があるってのさ」
そうしていると、1通のメールが端末に届けられる。現地に入っているエージェントからの調査報告書だった。
「……へぇ、娘がいるんだ」
「……それが?」
「キミが結婚して子供を産むなんて想像もできなかった。これはボクの失態だよ。それなら簡単に記録の場所は考えついたのに」
「今回、キミは自分の娘を
「それじゃあ、漂白装置に入れちゃおうか。心のどこかでボクへの恨みを覚えていたら、次の世界で面倒になるからね。……でも、もしも娘が記録媒体じゃなかった時のことも考えなきゃかぁ……」
「ま、いっか!どうせゴミみたいな記録しか残ってないだろうし!」
瞬間、殺気が溢れ出る。少年の一言は、ゴドーの中の決して超えてはいけなきゃ一線を踏み抜いたようだった。
「……なんだ、やっぱりキミはキミじゃないか。娘を作ったなんて聞いたから変わったものかと思ったけれど、記録に対してのプライドがあるのならそれでいいか」
「とりあえずキミの娘を回収してから考えることにするよ。キミから恨まれるというのも、よくよく考えてみれば面白そうだしね」
少年は踊るような足取りで背後のドアを開けて去っていく。そうして少年が通ったドアは消失し、空間には椅子に縛り付けられたゴドーしか残らない。必要な時以外に外部と接続しない、牢獄としての異界である。
「個室研究室貰うくらいには偉くなりたいから、頑張ろうか」
少年の姿をしたこの存在の名前は
滅びゆく世界から、いつかの未来に遺す希望を盗み取る、悪漢の一人である
今回、なんか筆がノリノリでした。他の三次が投稿されまくっているからですかね?
けどこういう調子のいい時のペースを基準にすると碌なことにはならないので、次からの投稿ペースはいつもくらいに戻します。
邪念呪縛でターンを流すという戦法とのとシンドゥミステリーの効果時間が噛み合った打開方法でした。ノリで書いたらなんか繋がったので取り敢えず書いてみるのは大事。
それはそれとして、第三章の敵キャラ登場です。今作のメインギミックにしようと頑張っていたけどなかなか描写できていない要素、『世界を超えた技術の継承』に対しての明確な敵です。
・ジエンくん
復讐できてすっきりした
・フジワラちゃん
復讐できてすっきりした
・カグラギ殿
復讐できてすっきりした
・リオさん
積み重なったモヤモヤが爆発しようとしている。この異界にて見てきた悪魔の技の数々に極々微妙な既視感があったからである。
それが実の父親の技のコピーであると理解した瞬間に、その程度の技で親父のコピーやってんじゃねぇぞ塵どもが!と内心爆発しかけている。どれもこれもゴドーの技と比べると酷いものだったから、逆に類似点に気付けなかった人。
ちなみにブチギレ率が度合いが1番大きいのはセイテンタイセイの朧一閃。刀での朧一閃を如意棒でやられているので、力の込め方が最適化されていない。
突けば槍払えば薙刀打てば太刀なんて言われる杖術であるけれど、言われてるだけで別物は別物なのだ。
・琴葉護藤さん
三章の囚われのプリンセス枠。
随分昔の周回において、『技術を蒐集し、次の世界に遺し伝える』という命令を刻み込まれる。本人の気質とも違わないので、無意識に刻み込まれた方針に従ってしまっていた。
技術を遺す手段に『自分の魂に刻み込んで輪廻転生をすり抜ける』というのをちょくちょくやっている。しかし魂に刻み込むことはできても、存在してると分かってないと誰も読みとらないので、情報が正しく伝わることはあんまりない。
平安ガンダムの出し汁がなかなか薄まらなかったのは、魂に刻まれている(物理)に気付かないで同じ内容を何回も何回も刻み込んでいるからであったりする。