姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 作:気力♪
リオに、『ガッコウ』を試してみる事を勧められた。なんでも聖華学園というところでは己と同様に悪魔関係で被害を受けた子供達が通っており、この世界で必要な社会的スキル、将来有望な者達との人脈、そして教え導くスキルを持った先生方のサポートなどを受けられるとの事だ。
『社会保障』という仕組みはいまいち理解できなかったが、年若い己であればさほどの支出もなく学校に通う権利を得られるらしい。年若い者を善く育てるために生み出された仕組みなのだろう。きっと。
そういう訳で学校の広報誌や契約に使う書類などを送ってもらうこととなったある日のことだ。
己とリオは少し遠くの異界の様子を見て回ってから
レルムとは一つの場所を指す言葉ではなく、悪魔合体施設の周辺にある商業区域の事を指す言葉らしい。なので、イメージとしては隣町の市場というのが近いだろう。
このレルムではレベル70台のバスターが常駐しているとかで治安は落ち着いている。検証勢『黎明の夜明け』の者達は元気に戦い続けており、レベル上げ中の者達は情報交換しつつ英気を養っている。
このレルムではリオの知り合いの『らぁめん屋』なる食事処の店主が店を構えているらしく、今日は顔見せがてら己に食事をご馳走してくれるとのことだった。
知識として知らないわけではない。小麦だとかを練り上げて細い麺の形にして、それを味のついたスープに混ぜて食べるものだとか。ハンターとして駆け出しであった頃同行した先輩ハンターが、折れた暖簾を見て『お前にも食わせてやりたかったよ』と言った事があった。相当に美味で、温かい味のする食べ物らしい。
尚、異界を回った理由はまたしてもGP上昇に由来する変化の有無を確かめるためだ。異界を管理している者達は他の異界で『想定外の悪魔』に奇襲されてしまったとかで負傷しているらしく、ツテのある技研を頼ったらしい。負傷した者達に大事なければ良い、と思うばかりだ。
また、今回は物資調達も兼ねて探索を行った。プリンパなどで混乱状態になった悪魔は価値感がガバガバになるという習性を元に、ほぼ無償に近い形でアイテムを集めていく。魔石が集められたのは当然として、宝石類やチャクラポットも集められた。
簡単な見回りだった為少量でしかないが、0で無くなったのはこれからの戦いの際にとても役に立つだろう。
尚、貰ったチャクラポットはMPを全回復するタイプらしかった。己の知らない良質なものでびっくり仰天である。*1
店の前に着くと、ガラスの扉が勝手に開いた。
自動ドアというモノらしく、ドアの前に人が来る事をセンサーで感じ取り人が通る間だけ開くモノだ。
押し引きする戸であれば、腕ひ武器の仕込みをしている者には開きにくかったりもするのだろう。皆に対して気持ちよくある空間にさせる『バリアフリー』という概念だろうか?
なんだか少しずれている気がするが、気配りの結果だという事には違いあるまい。
「姫! 来てくださったんですか!」
「うん。この子に美味しいラーメンを食べさせたい気分だったの」
店主がリオの姿を見て喜びを示す。落ち目だった、とか元ヤクザでしかない、とか言う割には秀英会の影響力はそれなりに残っているようの思える。権力や財産という形ではなく、人の繋がりという意味で。
ここの飯屋の店主は左腕が義手であるようだ。魔導によるものかこの世界の科学技術によるものかは分からないが、ごく自然に料理に扱えている。時に小指が折れて中から温度計が出たりするのは、ハイテックのなせる技だろう。
「して、コイツは? 新しい舎弟ですかい?」
「その通りだ! 己はジエン。現在はリオと共に戦っている人外ハンターだ。よろしく頼むぞ店主殿!」
「舎弟じゃないよ? 同僚とか被保護者とかだよ? 分かってる? ジエンくん」
「威勢がいいのは嫌いじゃねぇぜ? ま、無茶だけはするモンじゃねぇがな! それで、ご注文は?」
「私醤油ラーメン味玉付きで、ジエンくんは何が良い?」
「……すまないが何が良いのか検討がつかぬ。なので、店主殿のお勧めを一つ願いたい!」
「なら、黒豚骨の大盛りなんかどうよ? 腹減り盛りのガキなんだから、コレくらいはいけるだろう?」
「任せてくれ! 己はコレでも大喰らいなのだ!」
と、店主がさっさと調理にかかる。
店主の他に厨房にいるのは若い男が一人と、なんだが見覚えのない
「リオ、あちらの悪魔はなんなのだ? 正確無比な動きで調理をサポートしているが」
「あれは造魔ね。ホムンクルスだとかドリーカドモンだとか、そんな感じの人工体をコアにした悪魔よ。維持が簡単らしいわ」
「なるほど、店内での荒事用だけでなく調理のサポートもさせるとは、手広く有用な悪魔なのだな」
「オホメニアズカリ、カンシャシマス」
「どういたしまして! だ」
「あれ、虚心は? *2」
首だけが回転して己達の方に声をかけてくる。声は口で発した音声ではなく、霊的な感覚にて聞き取れるモノだった。発声器官がないのか、あるいは調理中に唾などが飛んでしまうのを恐れて霊的なものにしたのか。後者だと思うが確証はない。しかし、料理に対しての確かな情熱と、食べる者に対しての真摯さを併せ持っているようだ。
「へいお待ち!」
「……うん、相変わらず良い仕事してるわ」
「うむ! 美味しそうなスープだな!」
「おうよ! たんと食いな!」
リオに倣って木でできたものを取る。棒部分を開くように力を入れると上方の割れやすくなっている部分が離れて二つの棒になり、箸として使える使い捨ての食器になる。
「ぜいたくなモノの使い方だな」
「けど、端材を使って作ってるから材料って意味だと無駄がないみたいだよ? 建材にするのには柔らかすぎて難しいんだってさ」
「なるほど、そうなのか」
割り箸を使ってラーメンを食べようとする。しかしなかなかうまく麺を挟むことができず、食べるのが難しい。
「ジエンくん、箸苦手?」
「正直に言えば、素手とナイフ以外で食事を食べたことは数える程度しかないのだ。箸は以前一度使ったことがあったのだがな……」
「どんな生き方してんだよ坊主。フォーク出してやるからちょっと待ってな」
「……感謝する」
少しだが、ほんの少しだが悔しい気持ちになった。
なので店主が来るまでにリオの手にある箸を見る。
親指の付け根あたりで一本の箸を固定して、そこに人差し指と中指で持った箸を動かす事で食べ物を挟んで手元に持ってくる。というのが箸の使い方のはずだ。
やり方は合っているはずである。*3
だが手元の割り箸をそう扱っても先端は噛み合わず、ものを挟むことはできない。
「要練習、だね」
「むぅ……」
「むくれんなよ。箸がうまく使えなくても飯は食える。気にすんな」
渡された食器、フォークは匙の要領で使うことができ、麺を引っ掛けて口に運ぶことができるた。
そして、麺を口に入れる。
香りの時点で分かっていたが、芳しいものと塩などの強い味が口の中で広がっていく。そんな中で感じるのは、カラタキウワ*4を食していた時の味だ。
それ以上の、なぜコレが美味しいのか? やなぜこのような味がするのか? については理解不可能だった。食している間頭の中には浮かんでいたのは異界が崩壊した時の時空の狭間のようなものが浮かび続けている。
理解が追いついていない。
「……ハッ⁉︎スープの一滴すら残っていない⁉︎お椀の底に書いてある感謝の文字が見えているぞ⁉︎」
「無心で食ってて、良い食べっぷりだったぜ坊主!」
「これは新しい常連客を捕まえちゃったねぇ?」
「姫のおかげですわ本当に」
「姫とか言うなし」
一緒に出されていた透明な水を飲む。すっきりとした味わいが口の中の後味を洗い流してくれた。
……もう少し味わっているべきだっただろうか? と水を飲んでから気付いた己は、食事を味わうという事について得手ではないのだろう。
「今更ながら、リオはなぜ『姫』と呼ばれるのだ? ゴドーの娘だからだろうか」
「そりゃ見た目だけは雛人形みたく可愛いからよ」
「見た目だけ言うな。内面もちゃんと褒めろ」
「リオは情熱的で苦を苦と思わず走り続けられる強い人だ! 店主殿が内面の評価を秘めた事を気にする必要はないぞ!」
「……ごめん、恥ずかしいから言わないで」
「すげえなこのガキ」
と、ゆったり食後の話をしていると、少し離れた席のハンター……じゃなかった、デビルバスターがなにやら『悪い事を思いついた』という顔をしていた。
「む? そちらの方よ、食い逃げの算段か?」
「んなことしないっすよ常連なんですから、ら酷ぇ言い草だ」
「すまぬ。何か企みを持ったように見えたものでな」
「ちょっとした儲け話を思いついただけだ、大した事じゃねぇ」
と、人外ハンターであった時のように話しかけてしまった。今の権威のない己が言ったのでは、ただの失礼ではないか! と思い至り、自省する。
頭を下げ詫びを申し出ると、簡単に許してくれた。とても善い人格者であった。
そう話していると、リオが何かを思い出したように言葉を紡ぐ。喉の奥の小骨が取れたかのようだった。
「あぁ、あんた緑化界の時ごっついラジカセ持ってきてた奴じゃない。空飛んで着いてくる奴」
「……あ、あん時の! 物理貫通のガキんちょ、元気してたか?」
「してるわよ勿論。で、アンタニヤニヤしてどうしたのさ。アイテム相場が弾けたとか?」
「……まぁ良いか。ちょいとコイツを見てくんな」
男に示されたスレッドを見る。
そこには、『レッドアイホークの処刑』という事が闇闘技場のイベントとして開かれるという情報が書かれていた。
「む? レッドアイホークとは何者なのだ?」
「あ、コイツ大丈夫なヤツか?」
「RTAやってる子だから大体キリギリスよ」
え、マジで? という顔をした後に男は言葉を発する。
「レッドアイホークってのは、HN:漫画好きの別名だ。ちょい昔の話になるが、ヤクザだとか闘技場だとかをぶっ壊し回ってた奴さ」
「普通にほっとけば? レベル100殺せるような化け物をそこらのチンピラが殺せるわけないじゃない」
「いやいやいや、コイツは漫画好きがこれからこの裏闘技場をぶっ壊すって合図だぜ? となるとコイツはキリギリス的に言えば『好き勝手に悪い奴をぶん殴れる楽しいイベント』って事になる訳よ」
「……あ、暴れたいだけか」
「加えて言えば、暴れたい奴に道具を売るチャンスって事だよ。ちょうど正体隠匿効果のあるアクセサリーがかなり在庫にあったからな」
「なんでそんなに数あんの?」
「ガイア系組織への襲撃に使おうとしてたんだが、セプテンで潰すまでもなく壊滅しててな……」
「楽でよかったじゃない」
なんとなくだが、話の流れが見えた。
彼の目的は『キリギリスを助ける事』ではない。敵組織に与えるダメージを大きくする事だ。
闇闘技場を仕切っているのは凶悪な組織なのだろう、自身の正体を隠さないで正面から戦えば勝ち目がないほどに。だが『漫画好き』、レッドアイホークなる人物の実力ならば正面から打ち倒すことができる。
しかしそれは、組織に大きなダメージを与えられるという訳ではない。
どんなに強い人物がいても少数であれば、同程度の数を囮にすれば逃走はできる。囮の人数が多ければ仲間の居所につながる情報を隠すこともできるし、さらに多くの仲間を逃すこともできる。
一般的な話として、個人の力には限界はあるのだ。
「このレルムの地図は、サマナーネットに公開されているコレで合っているのか?」
「おう? ……まぁそうだぜ。工事にかける時間もなかったから秘密の地下道だとかは考えなくて良い。転移装置だとかは大量のエネルギーを使うが、設置できない訳じゃねぇから保留。数回は使えると見といて良いだろう」
「お前ら、ラーメン屋でカチコミの相談してんじゃねぇよ」
支払いを終えて外に出る。そこで目につくのは修羅の気配。
レベルではない。練度や覚悟、潜り抜けた戦いの数が磨き上げる強者の魂《ソウル》を匂わせる人物がちらほらといた。
レベルこそ己と同等程度だが、戦えば死ぬのは己だろう。人間のレベルが少し高い程度で技の冴えが覆えてなるものか。
「耳が早い奴多いわね。アンタあの辺に売り込んでみたら?」
「流石に下見が先だっつの」
「ラジカセの人よ、己達の助力は必要か?」
「飯屋でちょいと話しただけの奴をそこまで信用するのはただの馬鹿だぜ? 俺のアカウントと隠蔽能力の高い外套を余らせてる奴が居るって伝えてくれりゃあ十分さ」
そう言って足早に去っていく男。
とはいえ襲撃が起きるまでに長い時間があるわけではないのだから、また遭遇することもあるだろう。
「リオはキリギリスの強者であるのだろう? 『漫画好き』殿の援護に行かないのか?」
「どっちかというと周辺被害見ときたいかな。制御無くして暴れ回る悪魔とか出てきそうだし、会場には行かないでおくよ。ジエンくんは見物行きたかった?」
「レベル100オーバーを相手取れる達人の技なのだ、見て見たさは当然にある。だが、可能なのか?」
「難しいかな。ウチ系列って表側にちょっぴり支援してる程度だから。観客席取れない」
「ならば是非はないだろう。己も周辺警戒に回るぞ!」
「……せっかくのゲリライベントなのに乗り切れないのは、私のぼっち気質なのかなぁ?」
そうして、地図を片手にレルムを巡る。
裏闘技場周辺には人を惑わせる結界がある。詳しい理屈は分からないが、見た感じでは迷いの森のような仕掛けだろう。特定の行き方をしなければ秘められた場所には辿り着けないが、外に出る道は多くある、のように。
あの手の仕掛けは上手く使えば奇襲分断大将狩りとなんでもできるので攻め込む側としては警戒が必要だ。己は踏み込まないけれども。
「うん、ざっと見た感じ抑えた方が良さげなのはココとココだね。送迎車両はここから出てる筈。周囲にあるのはスポンサーの息のかかった店舗だから守りも硬そう」
「コチラのレルム外に繋がる方は抑えなくて良いのか? 手分けをすれば可能だと思うが」
「楽しいだけのイベントで無駄にリスク取るのもアレじゃない? 私たちの他に戦力が居たら相談するくらいで良いと思うわ」
「しかし、邪悪を逃してしまうのでは?」
「単純に、こっちのルート使う奴は自分の実力に自信があるレベル60から70あたりか、それ以上の化け物になりそうなの。『自力でなんとかできる』からルートの安全性を考慮しなくて良い連中のルートね。闘技場の観客のレベル帯、人数がどんなもんかの情報がゼロの今は避けたほうが良いかな」
「それは、逃げではなかろうか?」
「まぁ若干逃げよりの選択ではあるけど、安全なルートで逃げようとする連中の方が逃したら後々面倒臭いってのが理由としては大きいわ。権力者を仕留めるときは、権力が及ばないフィールドでやるべきなのよ」
なるほど、と思う。
言い方を変えれば『ハイエナ』、美味しいところ取りであるのだけれど、今回の場合は闘技場で楽しく暴れるのが美味しいところだから、残飯処理になるのだろうか?
まぁ、やってみればわかるだろう。
人を人とは思わぬ外道、捕らえて懺悔させたくあるが余裕がないなら倒すで良い。
ハンターであった頃から、その辺りはあまり変わりはないのだ。
統一した格好、『かめんらいだーおうじゃ』という戦士の服装に偽装した者達や、先のラジカセ殿が売り捌いた、あるいは元々持っていた姿隠しの外套の類を使った襲撃者たちがいた。
明確な参加人数などは知らない。キリギリスの掲示板に侵入ルートがいくつか載せられていた事と、『現地集合現地解散』の取り決めがされたこと。 あとはこちらに会釈してきた修羅の匂いの者達がたまに紫色の鎧を着ていたことから『そこそこの数』だとわかる程度だ。
「ハイエナする人は、まぁあんま居ないわね」
「乗り込み暴れたいのであろう。だが、『悪人を倒す』という行為は快感を得られてしまうからな。ヤクザ者が手下の洗脳にそういう手段を使っていたので、少し心配ではあるな」
「そのへんの自制は大丈夫でしよ。自分で考えた頭で『倒すべき悪』を決めた馬鹿しか参加してないし。その辺の感覚がズレてるヤツはとっくに邪悪に堕ちてるわ」
「なるほど」
そう語りながら、遠方での乱戦を見る
幾人かは闘技場外壁を破壊して侵入したようで、激しい戦闘音が聞こえてくる。遠目でしかないが、襲撃側が優位に立って居るように見てとれた。
すると、幾つかの車両が闘技場内部から出ようとするのが見える。己達が敵として戦うのはあの連中であるだろう。
「あら?」
「む!」
そう遠くを見た瞬間、横合いから現れた何者かの襲撃がやってくる。
放たれたスキルは 見たことがないものだった。
| かいてんげき*5 | 敵前列に大ダメージ |
「後詰がテメェとは豪勢な襲撃だなぁオイ姫サマよぉ!」
攻撃のダメージが重い、意識の隙間に入られたが魂の高揚《ニヤリ》まではされなかった筈だが
受けた衝撃で戦場を移動させられる。待ち伏せをしていたレルムの一角より、シャッターの閉まっていた店内へと。
「「召喚!」」
互いの悪魔召喚プログラムが起動する
己は『ペルセポネー』『クイーンメイブ』『ゲンブ』の三体の召喚だ。
敵は見たことのない悪魔が多い。スマホの簡易アナライズによると、このように出る
| LV41 | 邪神 | ナラギリ*6 |
| LV41 | 堕天使 | ベリス*7 |
| LV46 | 龍神 | ペクヨン*8 |
| LV49 | 幽鬼 | グール*9 |
| LV65 | ??? | ナッジアント |
「リオ、大将首のナッジアントのレベル己達以上だ、気をつけろ!」
「馬鹿が! 先手を取った時点でお前らに先はねぇ! ベリス! ペクヨン! ナラギリ! やれ!」
「何ッ⁉︎」
3種のスキルが混ざり合い、発生するのは凶悪な炎の力。見たことのないスキルであるこれは、下手をしたらマハラギダイン級の大火力*11であるように見えた。
警戒状態であった己とリオは『防御』をしていたので問題はない、だが召喚したばかりの仲魔たちはガードしていない状態で被弾して、そのうえゲンブは火炎弱点故に致命傷一歩手前だ。
「誰も落ちねぇとかマジかよ。グール、デバフでもかけとけ」
そして、追撃に放たれたのはグールの『フォッグブレス*12』攻撃力、敏捷性を減少させる霧のブレスは己達を弱らせた。
「普通にやるわねコイツ、ジエンくんメイン*13任せた」
「任された! 『フォッグブレス』!」
口からMAGで作った霧を出して弱体化と錯乱を同時に行う。リオへの視線を切りながら先ほどの合体魔法の火力を低下させるのが狙いだ。
続けてクイーンメイブが高い魔力からのメディラマ*14でダメージを癒し、ゲンブがラクカジャ*15にて防御力の上昇を試みる。
そして、ペルセポネーを攻勢に出す。
『バインドボイス*16』 金切り声に乗せた魔力で体の動きを阻害して、緊縛の状態異常にする技だ。
敵全体に効力を発揮したしたが、龍神ペクヨンは無効耐性にてそれを弾く。グールにも通らなかった。
「チッ! バステ使いかよ!」
「それだけじゃないよ」
と、リオが己の手番と敵の手番が入れ替わるタイミング*17にて横槍を入れる。
『霞駆け*18』 複数体に攻撃を入れながら
「ナラギリに若干の耐性*19! グール耐性無し、ペクヨンが吸収*20! 耐性の手応えは技関係*21!」
『耐性の手応え』というよく分からない感覚は置いておくとして、リオの霞駆けのバステを崩しの主軸に組み込むのは難しそうだった。
「……宝玉輪*22を使わないとか舐めてるよなぁ! お前ら! セイギュウカイ! やれ!」
敵陣背後に隠されていたセイギュウカイが姿を現す。敵は戦闘前に仕込みをしていたらしい
『静寂の祈り*23』 全体の補助効果を消失させる凶悪なスキルは敵陣にかかっていたフォッグブレスの影響と自陣のラクカジャの防御強化をリセットさせた。
攻撃力のラインが変化したことで、ゲンブの耐久力計算が狂う!
「グール、『アムリタシャワー』*24んでマカの葉*25。からのぉ!」
合体魔法 ロワゾー・ド・フー
ベリス ペクヨン ナラギリの三体が再び合体魔法を解き放つ。
マハラギダインクラスのダメージであるそれはダメージの完全回復ができなかったゲンブを焼き殺し、己たちに深手を与える。
この時、ゲンブの弱点を突かれたことによる と敵の追加行動に備えた。
しかし、
この瞬間、何か敵の
「キミ、サマナーとしては二流だね?」
リオが敵に対して言葉を投げかける。影を薄め*27致命の一撃を狙いやすくするメリットよりも敵を揺さぶることを選んだようだ。
「最大戦力のゲンブを失って気が狂ったか? 悪魔を手足の如く扱えるこの俺が二流だと?」
「私も気持ちは分かるさ。仲魔とテンポ合わせるのが苦手なタイプでしょ? だから事前に与えた指示通りにしか動かしてない。まぁ、アンタみたく強い『ペルソナ使い』ならそれでも良かったんだろうけどさ」
「言ってろ雑魚が。達磨にしてから好事家に売り払ってやるから覚悟しとけや技研の姫サマよぉ!」
そう吠えた敵の背後に悪魔のようなビジョンが現れる。
多くの本を持ち、それを読み取る知識の堕天使ダンダリアン。姿こそ若干違うがそのように己には見えた。
敵の攻め手を考える、合体魔法は3体の行動を連携させて放つ技だ。しかし火炎弱点のゲンブを除いてメディラマで治せないレベルのダメージを負う者はいない。弱点である者はいない上、クイーンメイブは四属性に耐性を持つ。
邪神ナラギリはマハラギオンを放つ火炎使いだ。しかし物理にも強そうな気配がする。
堕天使ベリスはアギラオを使う。騎士然とした見た目を信じるのならば物理スキルにも強い万能タイプだろう。アギラオ以外の属性魔法などを継承で獲得していてもおかしくはない。
そして、龍神ペクヨン。見たことのない悪魔。マグナスというレアな属性を使っているのだから、他にも手があると踏んだ方が良い。だが、合体魔法としてロワゾー・ド・フーになる前のマグナスには強い力を感じなかった。魔力が低いか、適性が低いタイプと判断する。
──崩し方は見えた。
「行くぞ!」
己の手番がやってくる。このとき仲魔達の合わせているテンポをあえて崩す*28。敵の調子が崩れた時に追撃ができなくなるが、今の段階ならば問題点は少ない。
「メディラマ!」
己がウィスパーされたスキルであるメディラマ+5を放つ。これで全員の合体魔法によるダメージを治療。
そして、敵方の動きが始まる。
「は! 手を緩めるとか死にたいらしいなクソガキ! 暗夜剣*29!」
己に向けて放たれる物理スキル。中ダメージ2回に加えて体内の魔力の流れを断ち切る技だった。そのダメージによって己はロワードオブフーのダメージで致命傷を負うラインを下回る。若干の賭けにはなるが、問題はない。
「行け、ベリス! ペクヨン! ナラギ「ここね」リッ⁉︎」
敵が合体魔法を組み上げるその瞬間、出番を遅らせていた仲魔を動き出させる。タイミングはベリス、ペクヨンが魔法を発動したとき。
アギラオ、マグナスは既に放たれているタイミングであるが、そこにナラギリのマハラギオンが重なり合う前の僅かな隙だ。
マハラギオンが乗る前の魔法がペルセポネーのスキルの影響下に入った。さらに風邪の状態異常によって敵の動きは鈍り付け入る隙が発生する。
合体に失敗し放たれたままのアギラオ、マグナスは己へと向かうが、己を庇える位置にいたクイーンメイブがその身で魔法を受けて、吸血*30の回復効果にて傷を癒した。
その後放たれるナラギリのマハラギオン。それはあの合体魔法を放った者とは思えない普通の威力であり、問題はない
流れはこちらにやってきた。
「チィッ!」
「あと邪魔なのはソイツね。『黒龍撃』」
続いて様子を見ていたリオが呪殺属性物理スキルの黒龍撃*31にてセイギュウカイを攻撃する。セイギュウカイの動く直前にカウンター気味に命中したその一撃は、致命の一撃となりセイギュウカイを始末した。
「馬鹿な! 活泉持ち*32を一撃だとッ⁉︎」
と、ここで崩れてくれる雑魚ならば問題はなかったのに、敵は仲魔の統率を取り直してしまった。グールに無言でアムリタシャワー*33を使わせたのがその証左だ
こちらも追撃に入らず調子を合わせる*34。
グールを動かした関係で、先に動けるのはこちらのようだ。
「セイギュウカイが消えたなら! 『フォッグブレス*35!』
「緊縛無効がいるのならこちらです、『パンデミアブーム*36』」
「私は変わらずね、『吸血*37』」
リオは手番を『
そして、敵は動き始める。
まず行われたのがグール*38による『アムリタシャワー』風邪を残していれば全滅させられたのでこれは間違っていない。
この時、敵の手元のスマホに通知音が鳴る。耐性のアナライズをされたようだ。
「アナライズ完了。ペルセポネーの電撃弱点が見えてるなぁ! ナラギリ! 『マハラギオン』、ペクヨン! 『マグナス』、ベリス! 『ジオンガ』。合体魔法サンダーブラストだぁ! 俺の完全な指揮下にあるコイツらにさっきみたいな割り込みは通じねぇ! 感電でそのままぶっ殺してやるよ!」
そうして、3つの魔法が放たれようとする。実際のところ『優先するべきこと』があって先ほどのマハラギオンだとかの若干のダメージが残っている。電撃属性で『ロワゾー・ド・フー』並の一撃が放たれたのなら致命傷を受けたかもしれない。
合体魔法が、成立したらの話だが。
ナラギリのマハラギオンの後にペクヨンのマグナスは放たれなかった。
「は?」
「己の仲魔への理解が甘ければ窮地となる。よく聞く話だ」
クイーンメイブのスキル『吸血*40』
これはどういう理由かわからないが、HPの他にMPも吸収する。合体師殿の話ではこのタイプの合体方式の場合に起きるエナジードレインとの混ざりだそうだ。
それの集中を受けていたペクヨンは、その魔力の底をついていた。
通常のサマナーであれば気付くであろうこと。しかし奴はリオの言う通りサマナーとしての技量が低い。
パターンとして決められた行動をなぞらせているだけで、そこにあるハズの悪魔の自己判断を無視している。それでも命令を守ろうとしたペクヨンは魔法の発動に失敗したのだ。
放たれるのはマハラギオンとジオンガのだけ、ジオンガもクイーンメイブに庇われたのでペルセポネーは大事ない。
「コレだから雑魚は使えねぇ……ッ! ダンダリアン!」
そして、敵サマナーはダンダリアンに
そして、リオの絶技が始まる。
「喰らいなよ、千烈突き*41」
放たれたのは6発の抜き手。
グールに3発命中し、内部から爆散。ベリスに2発命中し、首がねじ切れ飛んだ、そしてペクヨンに1発命中して、その動きを拘束する
「カジュアルから見とった麻痺追加*42、やっぱ連打技と相性良いね」
そして、その全てがクリティカル。
『会心の眼力』を使ったその連打によって、リオは『ニヤリ』と魂を高揚させた。
「実質全滅だなコイツは。ナラギリ、適当にしてろ。あとは俺一人でやる」
そう指示されたナラギリは通常攻撃をして、リオの反撃*43によってその体を麻痺にさせられ*44沈黙した。
「で、何するのよアンタ。そのペルソナを使ったらレベルが上がったみたいだけど」
「ハッ! お前ら雑魚を効率よく始末するためのスキルを『お勉強』したんだよ」
それから放たれる敵本人のスキル、『暗殺拳*45』
警戒を怠っていなかったにも関わらず己の警戒範囲の内側に入り込み、強烈な一撃を当ててきた。ナイフでの迎撃が間に合わないッ⁉︎
「ガッ⁉︎」
「ナイフを抜く手が遅せぇ、悪魔に隠れて戦うことしか出来ていねぇな? だからもう一発喰らうんだよ!」
クリティカルを貰ったことによる追撃が来る。ナラギリとペクヨンは動かず奴一人しか続かない。しかしそれは、奴一人で十分だという事を意味しているようだった。
「これでぇ! 「なんだ、その程度だったの」ッ⁉︎」
しかし、2発目は放たれなかった。リオが庇った訳ではない。リオは言葉を言っただけ。
己は2発目を耐える覚悟と急所の防御をしただけで、何もしていない。
恐らくレベルの上昇と共に磨かれた感性がそこが死地だと断じたのだろう。敵は攻撃を踏みとどまった。
「……割り込みやがったのか?」
「その技はカジュアルとかこの前のセプテンとかが使うスキル『暗殺拳』。仲魔に守られた状態の相手に100%のダメージを入れる技ね。その技は忍を祖とするいくつかの流派で研鑽されていて、炎魔の所の奥義として記されていたかしら」
「……歴史の講釈?」
「技の根幹は防御の隙間に身体を潜り込ませる事、僅かな拍子の隙間を抜けて一撃を通す技でしかないから、そこに焦点を合わせていれば反撃は容易なのよ。横からはね」
その言葉に冷や汗を流す男。
ぺるそな? であるダンダリアンのビジョンは手元の本から何か情報を探そうとしている。臆している様子だ。
「うん、あなたはペルソナで何処かの誰かの経験を『魔導書』や『スキルカード』みたいに自分のモノにできる力を持っている。けど持続時間は短い。だから仲魔は自分本来の40レベルあたりのしか操れない。レベルの方にも限界があるから60ちょっとの強さにしかならない」
「……それが、どうした?」
「で、それで身につくのは技の表層だけ。技の
「悪魔共で合体魔法やってたのは、知ったばかりの技を試したかっただけでしょう? キリギリスからなのか、ペルソナからなのかは知らないけど。だけど仲魔の制御が緩かったから自分の強みである個人の武力を活かしきれてなかった。総じて、半端ね貴方」
そう話しながらリオは距離を詰める。スマホに表示された敵のレベルは69。しかしリオは揺るがない。
「あなた、知識は仕入れられるけど扱う
「テメェ!!!!!!」
リオの『挑発*46』に乗った男は先ほどのように『暗殺拳』を解き放つ。そこにリオは未来が見えていたかのように寸前で避け、そして崩れた体勢へ追撃の『霞駆け*47』を放つ
高速連打によって『めまい』に揺らいだ男は手番を握れず、続けての『霞駆け*48』によって視界を揺らされて目を惑わされた。
そこまではレベルの高い男は耐え抜き、反撃の『暗夜剣』を放ったが幻惑によって命中せず、リオは『ニヤリ』と魂を震わせた。
「じゃあ、死んで。
その一撃で、空気は震えなかった。
その一撃で、音は響かなかった。
ただ、一撃の破壊力を体内に受けた男は先ほどまでの力が嘘のように、息絶えていた。
「全然まだまだ未完成、これだから武の道なんてやってられないのよ」
そうぼやいていたリオは、今の絶技にカケラも納得していないようで
素直に『勝てない』と理解した。
「ジエンくん、増援なさそう?」
「あ、ああ……警戒はしていたが増援の様子はない。戦闘の音も聞こえてくる以上、他の『キリギリス』が戦闘を行ったと思われる」
「ここを通った車は無し。回り道して他の馬鹿に捕まったかな?」
そんなことを言いながら、リオは掲示板を確認していた。
「ヘビクラ隊長ジャグラーコスで出現? 何それ超見たい」
よく分からないが、良い感情に思える。きっとキリギリスの者たちが勝利したのだろう。良い事だ。
と、その時敵サマナーの死体のそばにある一つの『メモ』が目についた。血濡れのように見える力強い文字で『■■■を学んでいたのなら』と記されていた。
この男にも、何か悪さをするだけの理由があったのだろうか? と少しだけ郷愁の念のようなものを感じるのだった。
後日談と言うのだろうか?
なんとなくで闇闘技場襲撃の片棒を担いだ訳である。とんでもないことをやってしまったのでは? という恐れが今更出た己である。
そんな己は幾らかのアイテムの換金に成功して、『娯楽用のお金』ができた。
なので、他の作り方をした『らぁめん』を食べてみようと思い立ち、リオを誘って店主殿の店のあるレルムへと赴いた。
そうして店主殿の店へと歩いて行くと、店にて話した『ラジカセ』の方が店主殿と何かを話していた。
「おぉ! ラジカセ殿! 無事だったか!」
「あぁ、坊主達か。奇遇だな。ちょいと探していたんだ」
「む? 己達をか?」
「この前の騒ぎの話らしいぜ? 武術使いのダークサマナーの話を聞きたいんだとさ」
そんな補足をする店主殿の礼を言い、ラジカセ殿の隣に座る。
ラジカセ殿は追加で『はんちゃーはん』と言うものを頼んでいた。
「んで、ナッジアントはどうなった? 仕留めたのか?」
「その者は、ダンダリアンのビジョンを持つ『ぺるそな使い』であっているか? 名前が表示されていた気がするが、特に気にしていなかったのだ」
「……ペルソナ使いではある。ビジョンの形は知らんが、武術を得手としてたな」
「ならばリオが倒したぞ。どう頑張っても蘇生できそうにないほどに粉々にな!」
「マジか! アイツを仕留めるために『ロンギヌスコピー』仕入れたんだぜ俺」
「レベルは高かったけど、雑魚だったわよ。なんかの仇とかだった?」
「滅茶苦茶邪魔な奴でな。キリギリス掲示板の情報だけ抜き取ってたりで暗殺の依頼があったんだよ。俺の狙ってたマフィアの護衛に入ったらしく、ついでにと暗殺依頼を受けたんだが……この場合ってキャンセル料払うんだったかね?」
「どこ系列よ。ガイア穏健派系列なら『もう死んでた』って言えば確か問題無いはず。死亡確認できてれば報酬も受けれる筈よ」
「又聞きの死亡確認で報酬差っ引くのはやりたくねぇなぁ……ただでさえ信用ねぇのに」
「信用や信頼は一瞬で砕けるとはよく聞くな。だから積み上げる大変さが際立つのだと」
「……又聞きの蘊蓄の説得力ってどうしてこうも薄いんだろうなぁ?」
「己が確かな経験と共に語っていないからだと愚考する。幸いなことに信頼を裏切らなくてはならなかった経験はまだないのだ」
「ジエン君良い子だもんねぇ……」
ほっこりした表情になるリオ。こんな様子だが己よりレベルの高い使い手を封殺する修羅の姫である。見かけによらないとはこのことか。
「まぁ、死んでるなら良いか。今回の襲撃は大事だったが大事はなし。世界は変わらず地獄のままにゆるりと続いていくのよな」
その日は、ラジカセさんにラーメンを奢ってもらった。トッピングというメニューの範囲外の食材を加えるやり方を試す事ができたのは僥倖だろう。
しかし、変わらず美味しすぎて夢中のままに食べ終わってしまったのは心残りである。ゆったりと味わってみたかった……
あとがき
レルムの祭りに参加させないで他所から見るのでも良いかな?と思ってた所で合体魔法を使う敵サマナーを思いつく。なので若干の言い訳しつつの外周エリアで参戦
敵サマナー『ナッジアント』のネーミングはフィーリング。ナッジ(知識)の後は語呂が良かったのでアリになりました。
ダンダリアンのスキルは『魔導書作成』経験を魔導書にして作成する能力。ペルソナ使いとして普遍的無意識に接続して、経験の読み取りやすい他者の記録を取り込み、本に書き込むでレベルとスキルを記録していた。
ただしこれはフィレモン式のペルソナ使いなら無意識にやれる『自分の可能性を重ねて達人になる』アレを頑張ってやっているだけ。レベルアップは普通に魔導書を読んだ事によるもの。戦闘のない時にせこせこ作った魔導書を一気に消費してレベルアップしているのだ。
尚、通常であれば魔導書などでは次のレベルに上がることはできない。ナッジアントは自分とよく似た者の経験を取り込むことで魂の研鑽の閾値を超えている。
技研の姫 琴葉リオ
数多の秘伝書を読み込んで血肉としているやべー奴。秘伝書に書かれたスキルそのものよりも、そのスキルを身につけるための修練、理屈、魔力操作などを磨いているからこそ様々なスキルを体得し、新しく目にしたスキルの中で取り込めるものを取り込んでいる。
ただしそれは、本物の達人の域まで研鑽し続ける事の難しさと直面し続ける事でもある。属性魔法の修練を放棄して物理スキルの研鑽に集中しても、彼女の技は『本物』に一歩届かない。より多くを切り捨てるべきか、それとも……
人外ハンター ジエン
らぁめんの美味しさに宇宙を見た