姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 作:気力♪
「え、田井中さん子供できたんですか? おめでとうございます」
技研のオフィスにて、仲魔集め、宝石集めの際の収支報告書をポチポチ作っていた己たちの耳、リオの言葉が聞こえてくる。
田井中殿とは、児童相談所と言ったか? 養子とか里親とか、実の子供ではない者達を別の裕福な者達に紹介するあれこれを仕事にしている役所の人だ。明朗快活な男性であり、なにか問題が生まれていないかと根気強く己達と接してくれていたのは記憶に新しい。優しいだけでなく、その優しさを貫ける強い芯を持った良き人だ。見習いたいぞ。
まぁ、己は実のところ偽造戸籍でリオ達の親戚になったので大して関わりはないのだが、フジワラは漂流者としての制度を使って戸籍を手に入れた結果、養子云々の話をちゃんとしている。
なので、きちんとした機関からの相談とか視察とかを受けなければならないのだ。まぁ頻度は然程多くないけれども。
「どうにも、私たちを見にくる人が変わるらしいですね」
「そうなのか?」
「この世界では、子供を育てるために仕事を休む『育児休暇』という制度が存在するようです。現に、杏奈も休んでいるでしょう?」
「なるほどなー」
とりあえず、子供が出来ると休暇を貰えるらしいとはわかった。細かいことは知らずとも良いだろう。まだ精通来てないので物理的に産ませられぬし。
しかし、呪術的なアレコレで女性ハンターの子供を産んだお姉さんが居たよな? と思い出す。精通なくても子供はできそうだし、一応覚えておこう。
「ジエンくん、フジワラちゃん、今日って空いてるよね?」
「空いているぞ! サブスクで映画を見る程度の予定だったからな!」
「ブラックフィエンドの方々の勧めるジャスティスリーグは見終えましたから、対するマーベル作品を見てみようとしていました。まぁ、掲示板でいくらかネタバレは踏んでしまっている気はするのですが」
「結構古い作品だしねぇ……まぁ、なるべくネタバレからは避ける方向で……じゃなくて、行けるのね?」
「うむ!」
「はい、問題ありません。死んでいなければあとで見れるので」
児童相談所の人と会うだけで命の危険がある世界とは誠に無情であるが、まぁ仕方ないのである。リオの身柄ががっつりと狙われているし、『造魔使い』とはしっかりと殺し合っている。なんならこっちから攻め込んでもいいと思っている。
どちらにせよ仕留めるのには変わらないので、どちらでもいいといえばどちらでもいい。奴の手札、情報解析率を100%にする『マッパー*1』と『アリ・ダンス*2』を組み合わせた回避術を破る手札にはいくらか心当たりある。確実を期すためには『ディアジャマ*3』や『デカバー*4』といった回復封じが欲しくはあるので、合体の際に狙ってみようとは思うが、無くても仕留められる計算ではある。まぁ、ダメージ量の上振れが必要な乱数ゲーになる気がしなくもないのだけれども。
とはいえ、シモン殿の所含め各地の邪教の館の予約状況はもはやペンペン草も残らない状況になっているので合体は難航していたりする。
ゴドー殿がコネの力でもぎ取った最高峰の『業魔殿』予約はあるものの、そこに手持ちの壊滅したゴドー殿とレベル上がりまくったツギハギ殿とついに70レベルにまで到達した己が一緒にやるのは秒単位での合体チャートを組んでも無理だったので、残念ながら己は別口である。
聖華学園の合体施設もそれはそれは混んでいるので、最悪COMP合体になりそうで少し辛いぞ、うん。
閑話休題
そんなこんなで、応接室にお茶とお菓子を用意する。技研のお茶菓子には拘りはあまりなく、買い出しをする人によって内容が変わっていてちょっと面白い。サトー殿は甘めのお菓子が多く、タナカ殿は甘じょっぱいお菓子が多い。事務員さんはハッピーターンを買い込むし、リオとゴドーは柿の種をメインにしている。
己とフジワラはまだメインでの買い出しに行った事はないのだが、どんな特色が出るのだろう? と思わなくはない。今の所は蒲焼さん太朗とか安めのお菓子を沢山買いたい気分ではある。
そうして少し待つと、一階のインターホンが押された音がする。よく語られるピンポーンという音でなくテレレン♪ テレレン♪ という音だ。
他にどんな音の種類があるのだろう? と思う。
この時点で己は相当にぼけーっとしており、そうとうにリラックスしていたと思う。
それは、来るようで来ない『造魔使い』への警戒にダレて来ていたからかもしれない。奴対策のために個人行動ができず、若干の不自由さを感じていたりしたからだろう。
だから、
「……市役所から来ました。呪い避けのために『セナ』と名乗っています」
「わざわざご丁寧にありがとうございます。秀英戦国技術研究所所属で、ジエンくんとフジワラちゃんの保護者役をやっている琴葉リオです。田井中さんからお話は常々」
「うむ! 己がジエンであるぞ。琴葉の姓を借り受けて、琴葉ジエンと名乗っているぞ!」
「同じく、こちらに保護されている琴葉フジワラです。よろしくお願いします」
朗らかに自己紹介し、和やかなムードを偽装しているが彼女は明らかに己達、というかリオや技研の皆に対して敵意をバリバリに持っているようだった。
偽名を名乗るのは別段不思議なことでないが、それをわざわざ伝えるというのは、『この名前で呪うのは無駄だぞ?』という牽制の意味を含んでいるからだ。
ここ数日外で仲魔集め宝石集めをしている時以外は集団行動ばかりで安全マージンしっかり守った戦いばかりであったから、こういう一風変わった殺意のある相手と相対するのは緊張感を保てて良い。
巷で噂の、社会戦攻撃という奴だな!
と、テンションを上げていた己の頭が軽く叩かれる。フジワラとリオのコンビ技であった。
目で示されたニュアンスとしては、『説得するから話をややこしくするな』か? 社会戦で相手をするのだな! ならば見に回るか。
「……随分と、仲がよろしいのですね」
「流れが合うというか、波長が合うんでしょうかね? 一緒にいて苦になることはあんまりないですよ。いい子達ですから」
リオの他所行きの語り口をからかいたい気分はあるけれど、一旦黙っておく。いい子……いい子? 己達がいい子?
なるほど、おべんちゃらという奴だな。彼女には隙を見せない方がいいとの判断だろう。
社会戦とは、奥が深いなぁ。
「では、形式的な聞き取り調査をさせていただきます。よろしくお願いしますね、ジエンさん、フジワラさん」
「はい」
「うむ!」
「フジワラさん、今現在学校に通えていないようですが、勉強の方は問題はありませんか?」
「はい。聖華学園から頂いた予習リストを元に学習を開始し、現在は難関私大大学院の入試問題に取り組んでいます。勉強の歴史の些細な食い違いなどの問題点は、今のところ改善できていますね」
「……なるほ、ど?」
「フジワラちゃん本当に頭いいですからねぇ……私たちが教えられる範囲から三日で飛び出して行ったというかなんというか……」
「シェルターの指導者をしていた際、ある程度の学習をしました。今の所はその応用でなんとかなっています」
ある程度というのは、フジワラの見栄張りだろう。ゲームにせよ漫画にせよ勉強にせよ、凝り性であるフジワラはなかなかに止まらない。寝食を捨て、ゲーム機を占領し、タブレットを独占し、おやつを食べつくす暴君となるのだ。
まぁ、暴君モードになる前に許可を取るあたりがフジワラのちゃんとしている所であるのだけれども。熱中するのは悪いことでないし、もっとやれと煽る者達ばかりだし。
「どうだ、フジワラは凄かろう!」
「なんでジエンくんが偉ぶるのさ。赤点ギリギリ少年が」
「己がテストで赤点を取っていないのは、フジワラの助けがあってこそだからな!」
「地頭は悪くない筈なのですが、致命的にテストに向いていない頭の回り方をするのですよね」
そうして語られる己の醜態。テストの最中に合体ルートを思いつき見直しの時間を放り捨ててチャートを作っただとか、英単語をド忘れした所に同じ意味のルーン文字を書いて部分点貰えないか? とやってしまった結果回答用紙が燃えたとか、そのあたりである。
本気でやばい類の話は隠してくれているようである。手心という奴か。
いや、でも工作部の機材を使って作ったゲーム用紙幣が偽札と間違われかけたのは違くないか? あれはデザイン担当が悪いと思うぞ? 。
「……犯罪などには関わっていませんよね?」
セナ殿が恐る恐るそう語る。
「誓って言うが、お天道様に胸を張れないことはやっていないとも!」
「そこはイエスがノーで答えるべきでは?」
「いや、己いまだに全ての犯罪を知らぬから、気付かぬうちになんかしている可能性はなくはないのだ」
「この世界のルール、色々と細かいですから」
ジトっとした目でセナ殿がリオを見る。監督責任を問うているのだろうけど、リオの方は無茶言うなという顔をしている。やらかすタイミングは、大体リオの目が届いていない時だものなー。
まぁ、それが言い訳にならないのが、保護者というシステムであると理解しているが。
借金の保証人のようなニュアンスも含まれており、己がやらかしたことはリオのやらかしとして社会に見られるという感じのアレだ。
なので、誰かを傷つけたり財産を害するような悪さにはなるべく関わらないようにしているのである。悪ガキで許されるラインとは、終わった後で皆で笑っていられるようなものなのだから。
そんなこんながありつつ談笑しつつの聞き取り調査が続く。
そうして、ほんの少し気が緩んだところで、セナ殿はこう言って来た。
「では、最後の確認です。ジエンさん、フジワラさん、助けが必要なことはありませんね?」
「うむ! 問題ないぞ!」
「特に思いつくことはないですね」
「お気遣いありがとうございます。けれど今のところはなんとかなっていますので……」
「一応確認ですが、リオさんがジエンさんを性的な目で見ているという情報が私たちの元にありまして……」
「ははは、そんなわけないじゃないですかー」
チーンと謎の音が鳴った。音の元はセナさんの手荷物の中。ベルの音のように聞こえるが、なにか魔術的、呪術的な気配を感じなくもない。
セナ殿の瞳は氷点下の冷たさであり、リオの表情は『しまったッ⁉︎』と失策に気づいたことを示していた。
「リオさんはご存知のようですね。こちらの魔道具、閻魔大王の舌抜き道具とも呼ばれるヤマのカジヤを」
「そうか、長時間だらだらと雑談をしていたのはその魔道具のMAGを馴染ませるためッ!」
「……つまり、どう言うことだ?」
「この魔道具の半径3メートル以内において、嘘を付くとカジヤが閉じ、それによりベルが鳴るというものです」
「チイッ気合を入れていれば防げる程度の感情知覚だってのに、油断したッ!」
「否定しないと言うことは、彼に性的な欲求を抱いていたと言うのは本当のようですね!」
「……ゼロじゃないってだけだから! 流石の私も保護した子で逆光源氏決めるような恥知らずじゃないわ!」
セナ殿がどう感じるかは知らぬが、己とフジワラは魔道具にMAGを感知させないようにしっかりと気を張ったのを理解した。あれ、あからさまに嘘発見器対策のMAG調整法であるな? 呼吸をもってMAGの揺らぎを最小限に、自然体にして気配を自然に溶け込ませる技術の応用に見える。
醜態とは別にして、無駄に高度な技だった。
「ジエン、割と本気で寝床くらいは変えても良いのでは?」
「登下校に面倒くささを感じるようになった己としては、職場まで徒歩0分という立地は外せぬのだ」
「それに別段、リオなら良いのではないか? レベルも己より高いし」
「え、マジで⁉︎」
「あなたは……ッ!」
「ジエンの貞操観念は緩すぎるのでは?」
「割とフジワラにだけは言われたくないのだが」
互いが互いに酷いことを言っている気はするが、割と事実である。
己は愛だの恋だのと性行為の繋がりがよくわかってない民だったで適当なのだが、フジワラは赤子が産めるようになった瞬間に子作りを始める限界シェルターで育った民なので突発的に変な事を言ったりする。
『子供が作れるようになったので2〜3人産みたいと思うのですが、相手は誰が良いでしょうか?』と素面でぶっ放された時の技研の空気はヒエッヒエであったのを覚えている。
とはいえそれは昔の話。今では多くの作品に触れ、掲示板や銭湯などで『純愛最高と言いなさい』と洗脳を受けた結果いくらかマシになっている。
よく行く銭湯こと『草津温泉風湯布院』にて由崎夫婦が純愛濃度を跳ね上げた結果、ほかのややこしい性癖が抑えられる傾向にあるのだ、うん。あの夫婦の形には、憧れるものがあるぞ。
「で、どうしましょう」
「放置で良いのでは? 己達がリオを保護者として望んでいるのとは別に、リオ以外に己達高レベル問題児どもを引き受けられる能力のあるものはあんまり居ないのだし」
セナ殿の追及があり、リオがそれをあの手この手で躱して……いけてるのかは知らないが、まぁなんとかなっている。
そんな時、応接室の扉を開けて、ゴドー殿がやってきた。
「……些か急だが、仕事だ」
「む? どこかで異界でも生まれたのか?」
「表の仕事関係だ。秘伝書『墨式波和布流悪魔召喚術』の継承権は自分のものだと言う者が現れた」
「……経歴の詐称ですか?」
「詐称だろうが本流だろうが対処は変わらん。技研よりもその技術に長けていれば、そいつが秘伝書の権利者だ」
「なるほど、喧嘩を売った者が現れたのですね」と納得するフジワラ。仕事内容を説明されたときに記憶した、馬鹿じゃねぇの? と思った制度が思い出される。
「秘伝書への挑戦者か!」
「そうだ。翁の都合により日程が今日になった。準備しろ」
技研にて無料公開されている秘伝書の数々は、戦後? というドタバタした時に集まったものが多く、出自が不明なものが多い。
そんなものばかりなので、実は滅んでなかった血筋が秘伝書の所有権を求めることとかもあったらしい。
血筋の正当性とか権利の正当性とか色々面倒になった(リオの大雑把要約)若き日のゴドー殿が、『その秘伝書の内容を技研以上に高められていたならば、その者が秘伝書の権利者である』という暴論極まりないルールを作ったのだとか。
これまでに売られた喧嘩はおおよそ年に1〜2回程度。全てゴドー殿やリオが薙ぎ払っているので今のところ秘伝書の権利が他に渡ったことはないらしい。
ちなみに一回の挑戦は一律50万円。先払いであるが、継承権が認められたなら45万円キャッシュバックするというルールである。また、その勝負には『翁』と呼ばれる有力者の立ち会いが必要としており、そこのアポイントメントも挑戦者がしなければならないという不親切ルールでもあるのだとか。
月一くらいで遊びにくる元気なお爺さんであり、トンチキ武術マイナー魔術の好事家であるのだとか。囲碁で勝ったらお小遣いをやろうと誑かされて挑んだが、5戦くらいしても全く勝てなかったこともあったりする。5戦目はAIを使ったりしたのだがなー……
「それからそこのバカ娘に絡んでいる跳ね返り、お前も来い」
「跳ね返りッ⁉︎……いえ、確かに冷静ではありませんでした」
「親父! なんでこんな女を連れて行くのさ⁉︎」
「明らかな越権行為で踏み込んできた奴だ。実情を見なければ納得はするまい。お前がどんな親代わりをしているかは、行動で示せ」
越権行為という言葉に苦い顔をするセナ殿。どの辺がやらかしたことなのかは知らないが、勢いでやらかしていたらしい。正義感の暴走という奴だなー。
己は雰囲気とかで正義を使い分けているから特に暴走をした覚えはないのだけれど、大変そうだなーとはいつも思う。
そんなこんなで移動が始まり、車に乗ってシナガワレルムへと向かった。
グルルなりラクシュミなりが相応に暴れ散らかしたレルムであるが、主要なところはもう修繕が終わっていた。細かなところはまだ修繕中だったりオーナーが夜逃げして別の権利者に乗っ取られていたり被害の爪痕は残っているが、おおよそいつものレルムの空気に戻っているようだった。
怪しげな風貌の店主がいかにも訳アリ商品といった風に手作りアクセサリーを売っていたり、3日で制限が入る体験版COMPインストールソフトを配布しているショップがあったりと賑わいがあったりする。
食事処については前回のレイドバトルでぶっ壊れて浮いた土地に様々な者達が参入しており、ハンバーガーショップだとか餃子屋だとか、何故かチェーン店の味にそっくりなお店が増えていて個人経営店は逆境に立たされている……訳でもないとか。
表の世界より財布の紐は緩いので価格競争にはあんまり意味はなく、食事によるステータスアップや特殊効果とかそっちが優先されているらしい。
まぁ、そういうのとは関係なく美味しさで人を惹きつけるお店もそこそこあるのだけれどな。あそこの角のお好み焼き屋さんとか美味しいし安いし量が多いしおばちゃん良い人だしで無敵だぞ。学生……ではなく不良学生の味方だ。
ただ、己含めリピーターが宣伝しまくった結果学園の手の者の巡回ルートに入ってしまったので利用は気をつけなくてはならないだろうが。
その状況をなんとかするために殉教者Bが警備員の人のデバイスをショルダーハック*5して巡回ルートを手に入れたりもしたのだが、逆利用され多くの同胞達が生徒指導室送りとなってしまったという苦い敗北の記憶があったりする。『造魔使い』とのあれこれに巻き込まれていなければ、己も指導室送りだっただろう。くわばらくわばらである。
「フジワラが学園にて戦線に加わってくれたのなら、もう少し選択肢は広がるのだがなぁ……」
「ジエン、私は普通にルールを守りますし、ルールを破る方は通報し晒し上げトラウマを植え付けるまでやりますからね?」
「ふっふっふっ、それはおばちゃんのお好み焼きを味わっていないから言える言葉だぞ! 凄い美味しくて美味しいのだからな!」
「ボキャブラリーが死んでいますよ、ジエン」
そんなこんなで、一つの大きめな建物にやってきた。看板には手書きで、『シルバーマルチスポーツジムシナガワレルム店』と書かれていた。恐ろしくやっつけ仕事であるが、右下に小さく『看板発注が開店に間に合いませんでした』と書いてあった。苦肉の策なのだなー。
「なんとも、妙な所に来たわねえ。悪魔相手にばったばったと大立ち回りしてる連中相手にスポーツジム営業するなんてさ」
「中はもう少し面白くできている。異界化により空間を弄ってあり、サッカー場にテニスコート、野球場にプールなどもある」
「へぇ……超人スポーツやりたいって連中の遊び場?」
「そんな所だ。入っている資本は防具系メーカーがメインだな。ウェアやボール、器具などの防御性能を見せつけることで間接的に商品の宣伝も兼ねている」
「……うずうず」
「ジエン、貴方は『待て』もできない犬ですか?」
「失礼な。待てができているからうずうずしているのではないか」
話を聞くだけで面白そうな施設である。全力で動いてのスポーツは学園では限られていたし、仲間内でやってもボールが破裂したり焼けたりしてうまくいかなかったりしたのだ。
流石に多少の手加減は必要だろうけれど、全力でのスポーツというのはやってみたいものである。ダンクシュートとかやりたいぞ。
「……ここまで無邪気に楽しんでいる以上、子供達からの信用は確かなもののようですね」
「当たり前でしょうが。信用されてなかったらジエンくんもフジワラちゃんも……どっか別の所行ってるわよ。年齢的に子供ではあるけれど、しっかり自分で決めて生きてる子達なんだから」
リオが若干ぼかしたのは、『自分を殺してでも』という言葉だろう。スタンスなりアライメントなりが合わなかったら神様相手でもぶっ殺して自由を奪い取れというのが人外ハンターの生き方である。流石に情があるのでもう殺してでもというのは……多分ないけれど、リオから自由を奪い取る必要があるとするならばそれはもう凄惨な殺し合いになることは疑いようはない。
今のところ好きでリオたちとつるんでいるので、気にする必要のない事ではあるけれども。
そんな己達はゴドー殿の顔パスでジムの中に入り、シューズを借りて体育館っぽい空間へと入る。
するとそこでは、キャンプチェアで座っているアロハシャツにサングラスな老人が入念にウォーミングアップをする1人の青年を見ていた。
「翁、御壮健で何よりです」
「爺様、久しぶりー」
「元気そうで何よりだ!」
「姫も小僧も嬢ちゃんもは相変わらず元気じゃのう。ゴドーの方はしばらく連絡が取れなかったから、死んだと思ったがの」
ただひたすらに翁と名乗るその雰囲気はどこか事務員さんに似ているので、案外親戚か何かなのかもしれない。なんて事をふと思う。
名前を名乗らないのは呪い避けの類だろうけれど、それにしても偽名すら名乗らないのはちょっとアレでは? と思わなくもない。
まぁ、ゴドー殿がアレほど畏っているのだから、権力や知恵のある方なのだろう。己達にとっては気の良い爺さんであるけれども
「来たか、技研の!」
「貴様が挑戦者か。COMPで済む召喚術など今時流行らんだろうに、よくやる」
「はっ! 新時代の波和布流召喚術はCOMPよりも情熱を重んじるのさ!」
何やら決め台詞っぽい言葉を放つ青年。スポーツウェアの内側にはタトゥーとして術式、魔法陣が刻み込まれており、それを使ってなんやかんやするつもりであるらしい。
「さぁ、やろうか!」
「新生波和布流召喚術、それはスポーツへの情熱を利用した悪魔召喚法! 大昔の連中は決闘だの死合だので無駄に命を散らしていたが今は違うッ!」
「ならば、相手をしよう。競技はなんだ?」
「セパタクローだ!」
お、なんかとんでもないコトが始まりそうな奴であるぞ? とポップコーンを取り出しておく。すると、セナ殿が壁を指差し体育館内での飲食はご遠慮ください。と書かれた掲示板を示してくる。だめなのか……
「して、何故に己達ここに連れてこられたのだ?」
「『造魔使い』相手の手数では?」
「違う違う。出てくる悪魔を相手にする要員だよ」
「なんと?」
「波和布流召喚術って、あくまで悪魔を召喚するまでの技だから調伏はまた別の話なんだよねー。そもそも悪魔を調伏できるフィジカルがある前提のガッカリ召喚法というか……」
「で、波和布流の面白いところは、本人のMAGや地脈をメインにするんじゃなくて、喜怒哀楽の感情をメインにした召喚方法ってこと。日本での波和布流は踊りとか歌とかの喜び、感動の色を使って
「む、日本での?」
「うん、これ墨式っていって、メキシコの流れを汲んでる召喚術なのよ。厳密に言えばアステカ神話系統のニュアンスなんだけどね。生贄の儀式における観客、執行人の感情の昂りを利用してDARK系統の悪魔を召喚しようってのが『墨式波和布流悪魔召喚術』よ」
なるほどなー、と思う。
と言うことは、生贄云々をやっていない今回の奴は、前提条件としてダメなのでは?
「まぁ、うん。こっから大逆転のネタがなかったら普通にダメなパターンかなー?」
「つまり……50万円をドブに捨てたのですか、あの人」
「疑問なのですが、秘伝書の所有権というのはそれほど欲しいものなのですか?」
「いや、別に。サイトに名前が載るくらい?」
「ゴドーを一芸で上回ったという実績があるかも知れませんね」
「一発芸の間違いじゃなくて?」
ガヤガヤと外野で言っているが、しかし挑戦者殿の瞳には情熱が燃え上がっている。
──それを感じて、自分を恥じた。
彼の目は、負けを前提にした芸人の瞳ではない。戦い、心を燃やし、勝利する事を目的とした戦士の瞳だ!
「挑戦者殿! 謝罪と提案がある!」
「……何さ?」
「一時でもその情熱を疑ったことを謝罪したい! 貴殿は確かな決意を持ってここにきた挑戦者だと己は見た!」
「……え? えっと……ありがとう?」
「故に、貴殿のサポートをしたいと考えているぞ! リオ、ゴドー殿、許しをくれ!」
「ふん……一対一のセパタクローではブロックが無いからな、些かつまらんとは思っていた」
「私たちはオッケーだよー」
「感謝するぞ! 2人とも!」
流れるように己の離反が認められ、挑戦者殿の陣営に着くことを許された。
いささか調子の狂ったような挑戦者殿である。とはいえ、どう支援するかは彼次第だ。応援か、セコンドか、パートナーか、なんでもやるつもりである。
「……君、俺の情熱が本当だって言ったけど、それは何で?」
「己がそう感じたからだ。瞳の奥に燃えている魂が、己には見えた気がしたからだ! 要するに、直感である!」
そう言うと、彼は己の瞳をじっと見る。
勢い任せで悪ノリに流れたと思われても仕方ない蛮行であったが、しかし後悔はない。彼の情熱を応援したいと心が叫んでいるのだから。
「分かった、やろう」
「うむ!」
「琴葉ゴドー。1対1から2対2に変更だ。俺とこの子、お前とリオさんにしよう」
「構わん」
「私も構わないわ。いつでも動けるようにはしてるしね」
そんなこんなで、2対2の変則セパタクローが始まることとなった。
セパタクローとは、足でやるバレーボールみたいなスポーツである。空中の格闘技と呼ばれていることもあるとか。
バレーボールと同じように、3回のタッチ以内で敵陣にボールを叩き込めば一点。叩き込まれたのが敵陣の外であればアウトとなり敵側に一点だ。
そういうラリーを繰り返して21点先取した方がそのセットの勝者。2セットを先に取ったほうが勝利となる。
バレーボールと違う所としては、手を使ってはいけないことの他に、守備のローテーションをしないこと、同じ人が続けてボールを触っても良いということがある。
ゴドー殿殿と挑戦者殿は、そのルールを元に自分でレシーブして自分でトスをあげて、自分でアタックするという超人モードでの激闘をする予定だったとか。
だが、ゴドー殿の言ったようにそれでは敵のアタックを体を張ってブロックするのができないという問題点がある。己の参戦を挑戦者殿が認めたのはその辺りが理由だろう。
「それでは、試合を開始します。主審は翁様。線審、点審はカメラドローンを用いてダニーが行います。技研チームの監督は私フジワラが、挑戦者チームの監督はセナ様が行います」
「よろしくお願いします!」と己と挑戦者殿は大きく声を上げ、ゴドー殿は普通のトーンで「よろしくお願いします」と言い、リオはゆるりと「あーしあーす」と言っていた。
声の大きさで勝敗は変わらないとはいえ、気分的にアドバンテージを撮れたのは大きい。先行サーブも己達であるから、この調子に乗っていこう。
「挑戦者殿、高さ速さは打ち合わせ通りで良いのだな?」
「君の技量を信じてる」
「うむ!」
挑戦者殿が軸足をコートの中心のサービスサークルに置き、己がそこに向かってボールを投げる。
他人から投げられたボールを蹴りでぶっ飛ばすのが、セパタクローのサーブである。
「完璧なスローだよ」
「『技』には自信があるのだ」
そうして、挑戦者殿のベストポジションで蹴りが放たれる。ドライブ回転のかかったその球は突き刺さるように敵コートの隅へと飛んでいく。
「遅い!」
しかし、それをリオがレシーブする。右足でサーブの勢いを殺しながら、ネット際へと丁度いい高さにて放られたボールを、ゴドー殿がジャンプし、オーバーヘッドキックを行おうとしてくる。
「させぬ!」
トスを省略するプレイには驚いたが、しかしネット際には己がいる。跳躍し足を上げることにより、伸ばした足によってスパイクをブロックし敵陣に蹴り返す腹積りだ。
高さは十分。超越者としての身体能力を活かしての跳躍であるから、身長が理由でブロックを上回られるということもない。
「ふん!」
とはいえ、それだけで防げる敵ではなかった。
ゴドー殿は己のブロックを上に躱すようなスパイクを放った。そのボールはもはや逆回転しているかのような高速回転がかかっており、空気との摩擦熱で火が出て、ボールの軌跡を描いていく。
「火が出た程度!」
そのボールはラインギリギリに突き刺さろうとしたが、挑戦者殿の左足がそれを拾う。そうして放られたボールを着地した己が蹴り上げてネット際のベストポジションへ上げて、挑戦者殿にトスを上げる。
そして、そのボールの少し上まで跳躍した彼は、足の裏でボールを叩き落とす鋭角スパイクを放った。ゴドー殿がブロックに入っているが、角度的にそれを回避するルートに叩き込めそうだ。
「……ォラァッ!」
その一撃が敵陣に突き刺さる少し前に、翁殿の手元にあるホイッスルが鳴った。
「フォルト、オーバーネットじゃ」
己達チームの反則として、ゴドー達に一点が入る。オーバーネットとは、敵陣に足が出てしまう反則のことだ。敵陣の上に入る前にボールを叩き込む必要があるとのこと。
「トスをしくじっていたか?」
「いや、君のボールは完璧だった。ただ、ゴドーを躱すために少し無理をした」
「……誘いの隙であったな」
「かもね。……今回の審判の癖は分かった。切り替えていこう」
そうして、二球目のサーブが放たれる。今回はドライブ回転ではなく、横回転。それも先ほどのゴドー殿と同じように摩擦でボールが燃えるレベルのものだった。
「火炎耐性防具付けとくんだったかな!」
リオがサーブを拾ったものの、レシーブがこちらのコートに入りそうな軌道をしていた。そこにゴドー殿が跳躍し、スパイクに移行しようとするがベストタイミングでの一撃とはならなかった。
「甘い!」
それを、挑戦者殿がブロックして敵陣に叩き返す。文句なしの一点であった。
「しゃあ!」
ハイタッチを一回、そしてボールを貰って次のプレーの準備をする。乗ってきたぞ!
「行くぞ!」
「おう!」
それから、一進一退の攻防が繰り広げられるのだった。
ボール破損による交換は7回ほどあった激闘が一時中断となる。18対21でゴドー殿達に1セット目が取られてしまった小休憩《ハーフタイム》だ。セナ殿が己達をアイシングしながら、ジトーっとした目で見てきた。
ブロックの時にボールが直撃するのでも、3回くらい積み重なれば骨折くらいにはなるのが
「セナ殿。感謝するぞ」
「……何かの流れです。気にしないで下さい」
「俺からもありがとう。お陰でまだ戦える」
「これは、あの2人からの虐待に入りませんか?」
「リオ達が傷つけるつもりでやっていたなら、首と胴体は離れているぞ? 故に、単なる事故だ」
「向こうは回復魔法を受ける素振りもない。フィジカルでは向こうが上だね」
フィジカルが上であるのには間違いはないが、しかし敵チームが回復魔法を使わないのは自動回復スキルによるものが大きいだろう。
ゴドー殿は『大治癒促進*6』のスキルをチンゼイハチロウが持っており、リオはアクセサリーに『中治癒促進パッチ*7』という怪しげなものを装備している。
装備は何でもありなルールではあると双方の了解はあったとはいえ、若干の狡さを感じなくもない。
「それで、2セット目はどうするのですか? 現状、向こうの方が有利です」
「後半からは、この『地球シール*8を使う。これで体力差による動きの鈍りは抑えられる筈だよ」
「失点の原因は痛みによる行動の鈍りが多かったものな」
「ジエンさん。貴方はそういった継続回復アクセサリーをお持ちですか?」
「あいにくと持ち合わせが無い。根性でやるしか無いな」
「タイムアウトのタイミングは任せますね、セナさん」
「……わかりました。ジエンさんも貴方も、死なないようにして下さいね」
スポーツをやるだけで命懸けというのは些かおかしな気もするが、しかし命懸けだからこそ燃え上がるものがある。勝ちたいという願いと、負けたくないというプライドと、この試合がとてつもなく楽しいという感情だ。
「しゃあ! やるぞ!」
「ぶっ倒してやるとも!」
「向こうは元気ですね」
「みたいだね。あ、フジワラちゃんスポドリちょーだい」
「こちらも向こうも、スタミナは十分であるらしい。あの男、研鑽は本物だな」
「秘伝書譲っても良いとか思ってる?」
「思っている。だが結果次第だ。奴が俺の技を上回らなければ、渡せんさ」
ハーフタイムが終わり、若干聞こえてきた、あるいは聞かせても良いと声を潜めなかった言葉達は笛の音にかき消されていく。
戦いの時間だ。
「ふん!」
ゴドー殿のサーブから始まる2セット目。そのサーブをブロックするという己の奇襲がリオの飛び込みレシーブに防がれたところから始まる、死闘であった。
明らかにコンビネーションが上達していくジエンさん達を見ながら、これまでのことを思い返す。
私こと『セナ』が技研に保護されている2人の少年少女、ジエンさんとリオさんの調査に来た理由は、信頼できる筋からのタレコミが複数あったからだ。
曰く、保護した少女を学校にも行かせず戦力として使い潰している。
曰く、奥多摩アビスにて、深層へのほぼ単独潜入を少年に命じた外道がいる。
曰く、少年少女の自由意志を奪い、都合のいい兵士として洗脳している。
そのような情報が、田井中さんの産休前からちらほらと届くようになっていた。
正直に言うと、似たようなケースは本当に多い。漂流者の子供達は無知で、戸籍もなく、常識が違う。
ゴミのような食事を与えただけで隷属を誓っていた子供がいた。水を飲ませてくれるからと肉体を差し出した少女がいた。戦う場所を提供してくれる相手だからと、外道を信じていた子供もいた。
私たちが見つけていた子供達なんて氷山の一角にも満たないだろうことは、レルムなどの悪魔関連都市で流れる空気が物語っている。闇は、どこまでも深い。
それでも正しいことをしようと、一つ一つ裏を取って対処していった田井中さんは、ある日突然に追及を止め、別人のようになってしまった。
出来ちゃった婚をしてしまったと言って大慌てで仕事の引き継ぎをしたのだって、おそらく何かの陰謀に巻き込まれての事だろう。彼の振る舞い、特にお金の使い方は明らかに変わっていた。結婚するからという理由だけでは考えられないような、
だから私は、彼が受け持っていた子供を調べ始めた。もし万が一、彼の立場を利用しての犯罪行為があるとするならば、その被害者は子供達であろうから。
──結果、私は今セパタクローをしている子供を見ている。
少年の方、漂流者制度が定まる前に戸籍の確保などをしていたような古株漂流者な方であるジエンさんはコートを自在走り回り、自由に楽しく、そして情熱的に生きていた。
これまで色んな人を見てきたが、あそこまで人生を楽しんでいる子供を見たことはない。今が幸せなのだろう。
少女の方、フジワラさんはマシンドッグの状態を確認しながら何かをタブレットで描いている。ハーフタイムの時に少し見た限りでは、こちらの運動データ、向こうの得点時と被得点時の行動をデータにし、ハーフタイム内でゴドーさん達に説明をしていた。
プロチームのデータ分析官のような仕事だが、彼女の顔は明るい。心から楽しくいられているようだった。
彼らは、保護者の立場を利用されての被害を受けてはいないだろう。でなければ、あんなに笑う事は出来ない。
薄々感じていたが、やはり無意味な暴走をしてしまっていたらしい。彼らは健やかに生きていられている。
もちろん、子供達が笑える暮らしを出来ていれば良いとはならない。大人が子供を守れる社会であるためには、守らなくてはならないルールがあるのだから。
けれど少しだけ、色眼鏡を外して見てみようという気になった。
「グボァ⁉︎」
「ジエンくん⁉︎体張り過ぎでしょ!」
「だが、ブロックは成功し得点にはなった。良いプレーだ」
「あの、首が変な方向に曲がっているのですが?」
「セナ殿、流石に回復するのでタイムアウト頼むぞー」
──その結果、首が簡単に折れるような危険なスポーツに子供を参加させている危機感のない大人達という実像が浮かび上がっている。
今はまだ子供達が琴葉を慕っているから難しいだろうが、来るべき時には必ず彼ら外道の魔の手から2人を解放してみせる。そう心に誓った。
残念ながら、2セット目もリオ達が取った結果己達はセパタクローに敗北してしまった。
己の首が曲がったのを治療するタイムアウト以降のリオ達の攻め手が変わり、それに対応しきれずに己達は徐々に点を取られ、結果巻き返せない点差となってしまったのだ。
とはいえ、誰もが忘れ去っていただろう当初の目的は果たされた。『情熱』高まる試合という悪魔召喚に使う“捧げもの”を作るというアレだ。
己の首が変な方向に曲がったり、リオの肘から骨が飛び出たり、挑戦者殿の目が一つ潰れたりとなかなかにバイオレンスであり、回復魔法がなかったら洒落になっていない惨状であったが、まぁ、うん。それはそれだ。試合は良いものだったぞ?
「セパタクローでは負けちまったが……本当の勝負はここからだ!」
「ふっ……来い!」
挑戦者殿のMAGが励起する。
コートの四方に配置されていた古めかしいMAGバッテリーみたいなのがそ呼応して起動する。さらに、その補助として肉体に刻まれた幾つかの術式が光り輝き起動していた。
「その情熱、その錬磨、我を呼ぶにはふさわしい……生贄こそ足りぬがな」
「これが、新世代の波和布流悪魔召喚!」
呼び出された悪魔は、アステカ神話の大悪魔『テスカトリポカ』、その強さはなんと……ッ!
\カカッ? /
| 邪神 | テスカトリポカ | LV58*9 |
「8点、良いんじゃない?」
「あのテスカトリポカは! タル・カジャがめちゃんこ強いタイプではないか⁉︎150から450まで伸びる奴!」
「これは良い腕してるわ。親父も危ないんじゃない?」
「こんな悪魔を前にして……ッ⁉︎」
冷や汗をかきながらテスカトリポカを見るセナ殿。セナ殿覚醒はしているようだがレベルは一桁のそれであるから、脅威を過剰に見積もっているようだった。強くはあるが、それだけだろうに。
「wikiでの耐性は破魔、呪殺無効に打撃、技属性反射です。魔力神経精神は50%耐性です。属性魔法と斬撃銃撃は素通しなので、そのあたりで」
「挑戦者殿の執念と情熱と注ぎ込んだMAGにより、生き生きとはしているな」
そんな雑魚に対してゆるく戦端を開こうとするも、ゴドー殿から『待て』が入る。
「お前の召喚術は確かに良いものだ。だが、まだ練度が足りん。情熱と競争を元にした悪魔召喚術とは、こうやる……!」
ゴドー殿がセパタクローをしながらMAGで空間を裂いて刻んでいた軌跡が、光り輝き三次元の魔法陣に変化する。いま召喚されていたテスカトリポカの出現リソースを食い潰し、挑戦者殿の陣の所有権すら奪い取っての召喚が始まる。
そうして現れた悪魔は、まさかのまさかの『テスカトリポカ』であった。
\カカカッ! /
| 狂神 | テスカトリポカ | LV75(81-6)*10 |
「……なんて、悪魔ッ!」
戦慄するセナ殿。確かに、ベースレベル80を超える相手の気配は、異質さというか格の違いみたいなものを感じなくない。まぁ大体において気のせいなのだし、注意するべきは格の高さではなく攻防での確定数がどれくらいかなのだけれども。
「ハッ、俺を呼ぶために
「生贄にはなっていないな。まだ息があるぞ」
「そうか……」
そう言ってテスカトリポカは爪を振るい、MAGを吸われて瀕死になっていた弱い方のテスカトリポカを切り刻んだ。
『虚空爪激*11』という奴だろう。今回は大威力一回の安定ダメージタイプ。同名スキルに単体に複数回ダメージ*12のものがメインだが、稀に複数体に複数ダメージのものもあったりする*13。
「これで邪魔はないな。些か面白いやり方で呼んだ礼だ。交渉はシンプルにしてやる」
「ほう?」
「そこの女の命をよこせ。肉を裂き、骨を砕き、魂をすり潰せばいくらか愉快な悲鳴が出るだろうよ」
テスカトリポカが示したのは、リオである。露骨に嫌そうな顔をして「こっちにしない?」とかセナ殿を身代わりにしようとしているが、まぁよくある事なので置いておく。
「……この程度の悪魔に娘は使えん」
「親父ー、いい感じの悪魔だったら私を使っていってるようにきこえるんだけどー?」
「時と場合によるだろうが」
「それ言っちゃダメな奴だってば」
ゆるっと戦闘態勢を取る2人。だが、まだ交渉の余地はありそうだ。
「時にテスカトリポカ殿! セパタクローはどうであったか!」
「良かったぞ。常人ならば死しかないような球が飛び交い、よく血が流れた。褒美をくれてやりたいくらいだ」
「ほほう! 調子に乗ってしまいそうだぞ。こんな事もしてしまうな!」
ちょうどよく足元にきていたセパタクローのボールを上に蹴り上げ、ボールを頭の上で静止させる。ヘッドストールとか呼ばれている、サッカーボールでパフォーマンスをする『フリースタイルフットボール』なる競技の技らしい。ボールで遊んでるだけの事に技名があるとは面白い文化であるなー。
そこからいくらかの技を見せる。テスカトリポカはそこそこ喜んでくれているようだ。
うむ、話題をぶった切るタイプの『誤魔化し』はあんまり成功率は良くないのだけれど、なんとかなったらしい。
| ごまかす | 悪魔会話選択肢 | 敵悪魔の要求を誤魔化して、良い気分にさせる。成功すれば対価なしで好感度は上がるが、失敗した時悪魔はより怒りやすい。真4以降 |
「小僧の芸のおかげで気分がいい。よし、力比べで俺に勝ったのなら、仲魔になってやる」
「いいだろう」
そうして、ゴドー殿とテスカトリポカが『手四つ』とかいう互いの手を握り合っての力比べをする。
結果、ゴドー殿がテスカトリポカを圧倒してみせた。パワーが違うのだパワーが。
「俺は『狂神テスカトリポカ』、今後ともよろしく……」
挑戦者殿にはすこし残念であったが、決着はついたようだ。
挑戦者殿の敗北に両者納得でき、借りていたらしい体育館エリアの時間が来たとかで退散した己たち。このまま帰るのも何だからとスポーツクラブに備え付けられている風呂やサウナを堪能することになった。
外では警戒を強める必要がある、とかの真っ当な意見はありはしたのだが、己達基本的に欲望に流れる連中なのでそこは気にしないようにした。己はガントレットつけっぱなしだし、他の皆も最低限の武器は手元に残しているけれども。
尚、このスポーツクラブのルールとしては、入浴場に武器とかの持ち込みはアリらしい。義手義足が武器になっている者への配慮と、風呂場で襲われて武器がなかったから死んだぞ! といういちゃもんを回避するためのルールであるらしい。
武器持ち同士の諍いが起きたらどうするのだ? というのはあるだろうが、正直素手同士でも十分に殺し合いになるから誤差の範囲内だろう。魔法とかもあるし。
「……して、挑戦者殿は何故に技研に喧嘩を売りにきたのだ? あの程度で勝てるとは流石に思ってなかろう」
「……琴葉ゴドーも琴葉リオも情熱という点に関しては大したことはないと踏んでたんだ。だから、召喚勝負では勝てると思っていた……」
アンニュイな空気を漂わせながらサウナでだらんとする挑戦者殿。名前は語らぬが、通り名はパワサカとかパワプロとか呼ばれたり呼ばれなかったりしているらしい。
魔法陣が刻まれた肉体が光の当たり具合によって風景と同化して、ジョイメカファイト*14のように末端以外のパーツが見えなくなる事がある事から名付けられた通称だそうな。
ただ、本人はプロ野球選手でもプロサッカー選手でもない普通の……普通の? まぁきっと普通のスポーツ好きであるらしく、名前負けしてるのが若干のコンプレックスだったらしい。
「気にする必要はないのではないか? 誰に何を言われようと、挑戦者殿は挑戦者殿であるぞ。呼ばれ方一つで適性が変わるわけでもあるまい」
「だけどさ……」
「ブラックフィエンドとか、別世界の連中とかが言うんだよ。『〇〇選手ですよね!』って。高校野球、大学野球、プロ野球にプロサッカー、結構いろんな世界でスポーツ選手やれてたみたいなんだよ、俺。ちょっとしたきっかけでデビバスになったけどさ」
「だったら、せめて胸の情熱くらいは信じられるような、そんな証が欲しくなったんだよ。俺」
そうして、デビバスをしながらでもできる何かを探し、波和布流召喚術に行き合ったらしい。
「つまんない話でごめんね」
「いいや! 興味深い話であったとも! だが、やはり証を立てる必要というのはわからぬがな」
「そう?」
「挑戦者殿がセパタクローをしていた姿は生き生きとしていて格好良かったぞ! あの瞬間の輝きが本物なのだから、後先のごちゃごちゃは必要あるまいて」
「……ありがと」
そう言ってから、「先上がるね」とサウナから出る挑戦者殿。
「あぁ、それと。『パワプロ』でいいよ。名前負けしてるなーって印象は、だいぶマシになった気がするから」
「うむ! 了解したぞパワプロ殿! その名に恥じぬ活躍ができると己は信じている!」
「あついねー」と言いながら外に出る彼の顔が赤いのは、恥ずかしさとかもあるのかも知れない。己が素直に人のことを言うと、こういう反応をする者たちがそこそこにいるのだ。事実なのだから素直に受け止めれば良いものを。
それから少しして己もいい感じにあったまったので、サウナを出る。すると、湯船でゆっくりと浸かっている傷だらけの者たちがいた。
ゴドー殿と、翁殿である。
「おう坊主、サウナはどうだった?」
「清潔で熱さも心地よかったぞ! 暇つぶしとしてモニターに流れる広告を見るのも面白かったぞ。見知った店が多くてな!」
「かっかっかっ、学生の出入りは危ねぇからやめろって話だろうに」
「馬鹿をやるなとは言わんが、責任は取れよ。禁止されているには相応の理由があるものだ」
説教の気配がしたので「了解した!」と返事をして水風呂に向かう。
時間的に、サウナのエンドフェイズ はこの水風呂だろう。うん。……いや、もう一回くらい行けるか?
「あの、すみません。結局私は何故連れて来られたのですか? 必要はなかったようですが」
「親父に聞いてよそんなこと。私は知らないって」
「私たちの素の姿を見せれば納得するだろうという割と浅い考えだったのでは?」
「馬鹿言わないでっての。自然体の生き方させられてる自信はあるけどさー、それと社会システムにちゃんと適応させられてるかは別問題じゃない?」
「本人が言いますか、それを」
だらだらと、気の抜けたような会話が続く。実際サウナの熱気による心地よさで気は抜けているのだろうと思う。
「あぁ、なぜこの場にダニーを連れて来れなかったのでしょう。この程度の温度湿度で不調をきたすような柔なボディではないですのに」
「マシンドッグをサウナに入れようとすな」
「落ち着いて見えていましたが、フジワラさんも自由ですね……」
「失礼な。私が自由であったなら監視カメラを全てハッキングしてダニーを連れてきています」
「悪い友達からハッキングツールとか貰っちゃってるからもー」
「やはり、子供達を育てるのに適した環境ではないのでは?」
「マトモな子ならねー。けど、ジエンくんもフジワラちゃんも違うでしょ」
「リオ、言い方が酷くありませんか? 私はジエンと違いまともです」
「はいはいまともまともー」
リオがだらけたように言葉を放つ。熱で頭の中まで蕩けているのだろうか?
「それで、フジワラさんは未だ学校に通えていないことをどう考えているのですか?」
「納得はしています。私のような単体で機能しない鴨葱を受け入れるにあたって学園側も相当努力してくれていますから」
「フジワラちゃんは利他的意識が強すぎるのさえなんとかなればねー。ジエンくんの馬鹿に付き合ったり友達とネットで遊んだりして緩くなってきてるけどさ」
「それは、どうして?」
「
リオが、キアラ先生からの診断結果をもとにした話をする。私が覗き見できることを理解した上で、丁寧に誤解なく状態を記してくれた診断情報であり、私が理解している見解と変わりはない。
「奴隷、ですか……」
「フジワラちゃんと会う子供達がみんないい子ならなんも問題ないんだけどさー。高レベルで、女の子で、頼んだら本当になんでもしてくれる子で、ってなったら他の子達に寄生されて養分になるのが目に見えてたのよ」
私は、ジエン達に救われるまで“皆”と接続して過ごしていた。“皆”の意思を受け取り、纏めて可能な限りで叶えるというのが私の機能だった。
その経験は、私と皆か分離した今では、無条件に頼み事を叶えるのが常態化した存在ということになってしまう。“皆”の願い事ばかりを聞いていたつもりはないのだが、それは「根本の方まで奴隷根性が染み付いているからでは?」というジエンのあんまりな言い方が適切だった。
それを言われた時、ジエンのパスタにタバスコをふんだんにかける八つ当たりをしたのに「これはこれで」と受け入れていた姿と共に覚えている。あんなに
「とはいえ、だいぶマシになっているとキアラ先生にも言われています。利他的思考は過ぎれば毒かもしれませんが、少なければ『友愛』という特徴で収まりますのでそう心配は要らないでしょう」
そろそろ辛くなってきたので、一足先にサウナから上がることにする。
ジエンやツギハギ曰く。サウナのエンドフェイズ には、水風呂に10秒くらい入るのが丁度いいらしい。
サウナのエンドフェイズ という単語に微妙なおかしさを感じるものの、ちょっと試してみるくらいしてみようとは思う。
けれど、水風呂は冷たくて嫌だから、シャワーの温度をぬるめにして代替しよう。身体を冷やすという目的は果たせる筈だ。
決して、水風呂が怖い訳ではない。うん。
なんやかんやとパワプロ殿と連絡先を交換したりと楽しんでいたが、良い時間になってきたので解散ということになった。
そんな帰りの車内にて、気になっていたことを尋ねてみる。
「して、今回の
今回の、ブレイド殿とツギハギ殿の戦果はどうなのか? という事だ。
「2人からの定時連絡は来てたのよね?」
「ああ。符牒にも問題はなく、COMPを奪われただのの可能性はなかった。残念ながら、坊主、釣果ゼロだな」
あんまり詳しく話を聞いていなかったので、改めて諸々を確認する。
児童相談所のセナさんがやってきたタイミングでゴドー殿を引っ張り出す用事があったこと。そのあたりでこれは敵側の罠なのでは? と踏んだらしい。
セナ殿が罠である可能性、パワプロ殿が罠である可能性、どちらも罠である可能性、まぁ色々見えていたので、2人を纏めておけば楽だろう。という考えだったのだとか。
結果は、空振りだったようだが。
「だが、収穫はある。翁から面白い話を聞けた」
「ほう?」
「調布のあたりの異界にて、人型悪魔が武術めいた動きを取り始めたらしい」
「……ほう?」
悪魔が武術を使い出すというのは、ゴドー殿の失踪が明らかになったときの異界『水源異界』にて起きた現象だ。
だが、あれはチンゼイハチロウの出し汁が悪魔を汚染する奴ではなかったか?
「
「そこを辿れば正規ルートで泉に行けるって訳ね。ようやくアイツを仕留められるわ」
「さっさと対処しなければ杏奈の様子も見に行けませんからね。母子共に問題はないと言っていますが、出産となればやはり不安です」
「ジエン、手持ちの強化と武器防具の調達を急げ。俺とツギハギの悪魔合体が終わり次第、攻め込むぞ」
「了解した」
ゴドー殿らの業魔殿予約は三日後の午後。それまでにどこかしらの合体施設に転がり込まなければならないらしい。
少しばかり厳しいが、まぁなんとかなるだろう。問題があるとすれば……
「全書から呼び出す素材悪魔用のマッカが足りるかは不安である。レベル的にマハーマユリ以外ほぼ全て更新であるし」
「……すまん」
ゴドー殿のCOMPも仲魔もまとめて吹き飛んだが故にマッカの余裕がないのは当たり前ではあるのだが、悲しい気持ちにはなった。おのれ『造魔使い』!
更新遅くなりましたー
だいたい週一更新というガバガバ予定は崩れ去りましたが、それなりに納得できる話にはなったので満足です。……長くなりすぎた感はありましたけど
・ウルトラ問題児ジエンくん
数多のトンチキエピソードを量産し続ける本作の主人公。
今回はスポーツクラブで超人用のボールを複数種類注文しており、近々学園に持っていく予定ができた。
スポーツ経験は体育の授業と、昼休みで校庭で遊んでる経験だけ。なのにあの超人セパタクローに適応できたのは天才だからというのと、先人達の
・児童相談所職員『セナ』さん
尊敬していた上司がメスガキめいた娘(成人済み)を連れて『私たち結婚しまーす!』と出来ちゃった婚報告をした結果、押し付けられた仕事のストレスで陰謀論に目覚めかけた人。実際に陰謀かどうかはガイア再生機構の情報戦略部のみぞ知る。役所とか社会システムを回す人を狙う攻撃とかエグそうだなーとは思ってます。
キャライメージでこのすばのセナさんとして最初に出たが、他に良いキャラいないか? とかオリキャラにするか? とか悩んでたら時間がいつのまにか過ぎてました。ごちゃごちゃ悩むくらいなら書けばよかったなーとは今の作者の感想です。
・挑戦者→パワプロくん
おそらく野球の世界に行ってもオオタニサンに勝てないタイプの人。どのシリーズのどのパワプロくんかとかは特に決めておらず、なんかに巻き込まれてパワポケめいた裏サクセスルートに入った人という感じ(雑設定)
裏サクセスに入った彼が、過去周回からの漂流者によって表サクセスでの活躍があったと意識してしまったことがセパタクローに繋がった。召喚術の波和布流はパワフルから。安直!
架空の表サクセス『実況パワフルセパタクロー』と架空裏サクセスの『ヘンテコ古式悪魔召喚士』の両方でゴドーに挑んで、両方で負けてしまったが、気持ち前向きになった。挑戦料50万円は吹き飛んだ。