姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 作:気力♪
ヒナ会長のルール説明と、ライブ感で決まったと思われる補足のをまとめると、こんな感じになる。
・現役デビバスが2時間かけてこさえた陣地を襲撃側である己たち生徒が襲撃する模擬戦闘。
・制圧地点となる教室を司令室として、そこが制圧できた時、あるいは(これは無理だろうが)敵デビバスを全滅させた時己たちの勝利となる。
・サマナーは1人、他は2人で開始。漫画殿の仲魔であるALyCE殿のランダム転移ゲート(そんなスキルあるのか⁉︎)によって戦場に放り出される。
・降参する、死亡する、あるいは『食いしばり』などを切った時点で失格となり、救護班によって戦闘エリア外に放り出される。
・仲魔の蘇生は問題ないが、悪魔人間など一人の人間として認められている感じの者は参加者同様に蘇生禁止。
・レッドチェックで死体を砕くのは禁止。
このくらいか?
細かいルールだとかを記載されたプリントなどのルールブックは配布されていないので、ルールの穴をきちんと認識して質問するのもレクリエーションの一環であるように思う。
そんな確認を終え、デビバスの皆皆が美味しそうに食事効果のあるピザやら寿司やらを食べている光景を歯噛みしつつ眺めていたのがさっきまでの己たちである。せっかくのレクリエーションなのに『美味しい』を独占するなど到底許せぬ。全身全霊を持ってぶっ潰してやろうという気持ちが湧いてきたように思う。
で、現在時刻は11時くらい。模擬戦開始は13時と実は結構な時間が空いている。それはルール説明をしてから生徒たちの作戦会議が必要であるのと、異界化させた学校に現役デビバスたちが罠を張る時間が必要だったからだ。
とはいえ、2時間もあれば話は纏まるだろう。己は己でやる事をしていよう。
観戦席に居るフジワラに手を振る。向こうは雑に手を振ってきた。思った通り、観戦席からのモニタリングでどこで誰が戦闘を行えるかを見ることができるらしい。
なので、己はガントレットを駆使して
そのデータをフジワラに送信する事で、ミッションの第一段階は突破だ。
「くくく、順調であるぞ」
「なにニヤケてんだお前、腹減りすぎておかしくなったか?」
「うむ。実は先ほど、『お宝』を作るためのデータを仲間に送ったのだよ」
「お宝だぁ?」
そうして話しかけてきた雷市殿に己のこのレクリエーションでの
先ほど気取られた彼女も遠くから聞いていたようで、若干白い目で見てきた。平謝りしたら『どうでも良いけどね』みたいな緩めの無干渉の言質を貰ったので大きな問題にはならないだろう。多分。
「んなことより、向こうやべーことになってんぞ。頭決めるだけでぎゃーぎゃー喚き散らすとか、クズリュウってのもたかがしれてるな」
「正直、烏合の衆である学生チームの司令塔とかやりたくないオブやりたくないのだけれど。なんで夜叉神どのあんな意地になっているのだ?」
「知らね、元々が猿山の大将だからじゃねぇか?」
雷市殿はまぁ酷い言い方であるが、側から見てそんな感じに見えてしまうのは悲しいことである。過去の世界の栄光引き摺り度が高い面々は、新しい世界に適応した面々からしたらなかなかに痛々しく見えるのである。
かつて『反省室』クラス*1の生徒であったが、サッカーと出会った事で己たちの『非常識』クラスレベルの社会性を獲得した雷市殿からは、『クズリュウ派』は勿体無く見えるのだろう。口調こそ荒いものの、雷市殿は優しい者であるし。
「で、砂狼殿と口論になり分断が生まれそうな気配であると」
「なんで様子見てたか知らねーが、お前ああいうの纏めんの得意だろ。なんとかして来い」
「普通に嫌であるぞ。己が出てって騙くらかしたら纏められそうではあるが、そんなことしても戦闘中に分断が起きて余計酷いことになる」
「ついでに、外に出るための革命であるのに、もう外で好き勝手にしている己が主導してしまうのは道理が合わぬ。友として力は貸すが、大将になるべきは夜叉神殿やエーデルガルト殿のような心に熱い想いを持つものがやるべきであろう」
「理想論……じゃねぇな、テメェがそんな殊勝なタマなわきゃねぇ」
「その方が普通に勝率高くなるし、損耗率も低くなるというだけなのだがなー」
実際問題、己が主導権を取るやり方はある。
管制室、あるいは情報解析班などの情報を管理するチームを作り、そこを乗っ取るのが手っ取り早いだろう。
夜叉神殿らと砂狼殿らの対立関係そのままに、生徒たちの考えを誘導して個人個人が自然と指示通りに動くようにするやり方だ。
ただ、このやり方で育つ戦士は気付いたら味方と殺し合ってても止まらないような思考停止をする性質があった。同士討ちするまで至っても尚止まらなかったのだから、この世界で使える戦士ではなくなるだろう。敵対する分には楽で良いのだが、未来の味方であるあらなー。
とはいっても、このレクリエーションで誰かの命がかかっていたら迷わずやるだろう。しかし、これは普通に訓練であり模擬戦なのである。面倒ばかりでリターンがなく、未来に負債を残すような事を誰かやるかという話だ。
あとは、己が部下の類を効率よく死なせる事に長けてしまっているタイプというのもあるか。その人物を生かして得られる成果より、死なせて得られる成果が大きくなるタイミングで迷わず死に追いやれるのは、人間社会では欠点なのだ。
閑話休題
夜叉神殿と砂狼殿のバチバチ主導権争いは止まらない。砂狼殿の『先生』なる者が相当な指揮強者らしく、将棋つよつよガールである夜叉神殿程度ならあっさりあしらわれてしまうとの談だ。
だからこそ一塊となり、単一の意志の元で団結していこうという夜叉神殿の言い分は正しい。だが、夜叉神殿の指揮は高度であるが故に全体知識が多く必要であるからほとんどの生徒には不可能という砂狼殿の言い分も正しい。
「これ、連絡ツールとか決める時間消えるな?」
「お、行くのかよ」
「『クズリュウ派』のナンバー2は棗殿で良いと思うが、『カジュアル派』のナンバー2は誰になるか知っているか?」
「あ? んなもんエーデルなんちゃらがナンバー2だろ。砂狼に言いくるめられてんじゃねぇか」
「渦中であるか……仕方がない、さっきの彼女をカジュアル代表として話をするか」
ということで、さっきの彼女に声をかける。なんだか初めてみる気がしない少女である、己に植え付けられた『戦士たちのイマージュ』のうちの誰かだったりするのだろうか? とか思わなくはない。レベルは90以上、近接タイプのバスターサマナーと見た。
「すまぬが、少し話して良いか?」
「……何かな?」
「レクリエーション中に使う連絡ツールを擦り合わせたい。砂狼殿と夜叉神殿、ついでエーデルガルト殿はしばらく口論が続くだろうから、棗殿と話すつもりだ。来てくれるだろうか?」
「……なんで私?」
「クズリュウ派以外であり、強く、口論に興味がなさそうだったからだな。嫌だというなら他を当たる」
「別に良いけど、私普通のやつしか使ってないよ?」
「皆の普通はそれぞれ違うことがある。集団で動くなら擦り合わせて損はないだろうよ」
実際、奥多摩アビスの連絡ツールはDisc⚪︎rdもどき(リオ談)を使ったが、技研では常用ツールだったそれを初めて知るというデビバスはそこそこいた。ツギハギ殿と初めて会った初心者レベリングツアーで使った連絡ツールはまた別のもので、無機質な文字だけのチャットツールであったし。
また、聖華学園には(あんまり使われていないが)学生用連絡チャットツールもあったりする。主に先生方からの連絡を受け取るだけの使われ方をしているが、あれでも友人との連絡はできなくもない。
そんな感じの事を歩きながら話していると「あ、ジエンくんに友奈ちゃん! 珍しい組み合わせですね!」とヒフミ殿が声をかけてくれた。
あ、自己紹介してなかった。
「すまぬな、ユーナ殿? 自己紹介を忘れていた。己はジエン、琴葉のジエンという」
「あ、私も野生児くんって普通に納得してたけど名前じゃないんだよね。私は高嶋友奈、よろしくね」
「え、お二人自己紹介はしてなかったんですか?」
「桜の人という印象が強くてな。名前を聞いていないのを忘れていたのだ」
「桜の人?」
「そういえば、友奈ちゃんのデジタライズ、桜の意匠が入ってましたよね」
「む? でじたらいず?」
「あれ、違うんですか?」
話がすれ違い続けているが、シンプルに友奈殿を見て桜みたいな人だという印象を感じただけだった。デジタライズ? なるパワーアップ形態にて桜の意匠が込められているというのは偶然か、デザインをした人も己と同じように高嶋殿を桜の人と見て、それに合わせたかだろう。
偶然であれば素晴らしく、狙ったのであればよくよく高嶋殿を見ていることになる。良き仲間を持てたものだ。
それはおいておいて、ヒフミ殿とその近くにいたオサム殿もなんとなくついてきてくれたこの即席チームにて棗殿との話し合いに入る。
どういう連絡ツールを使うのか? と問うた結果、見せられたのは「普通にこれですが」と全く知らないツールを見せられた。
「漢字多いあたり、純日本製な感じであるなー」
「というかこれ、ダウンロードできるやつです?」
「普通にコピーして渡せますが」
棗殿はそういうが、かなりマイナー気味なツールをコピーして手渡していくとなると2時間全部吹っ飛ぶだろう。
どうせ起きる初期不良や、非対応デバイスをどうするかなど色々大変な事になるだろうからあまり現実的ではないな。
「というか、連絡ツールってコレじゃないの?」
高嶋殿はまた知らないツールを見せてくる。
L⚪︎NE的な雰囲気のツールだったが、なんかお花とかそういうのをデザインのイメージにしているようだ*2。可愛げがあって好ましく思う。
「ツ、ツールの宗教戦争が始まりかねません! どうすれば……ッ!」
「友奈ちゃんもイロハちゃんも別に拘りがある感じじゃないから大丈夫ですよ……多分」
オサム殿が若干取り乱したがそれはそれ。己が見かける時は大体こんな感じであるから、本人の気質なのだろう、うん。
「己は集団戦でのバックアップは仲間に任せていたからな。集団での情報管理ツールは知らぬ」
「弱りましたね……」
「ので、ちょっと聞いてみるぞ」
思い立ったが吉日ということで、観客席のフジワラに連絡をしてみる。フジワラはものすごい不機嫌そうな声で「なんですか?」と言ってきた。
「紹介しよう。彼女はフジワラ、苗字がない所から来たので、この世界では琴葉フジワラという名前になる」
「苗字苗字なんですね」
「……断りもなく人の声をスピーカーで他人に紹介しますか。まぁ、別に良いですが」
あ、これ地味に根に持つ奴だ。後で謝罪をしなければ。
「ざっくりと話すが、大軍での連絡ツールについての相談だ。皆のツールが異なっていてややこしいのだ」
「パッと見た感じですと、いま口論をしている小さい方の側の彼女、ルールーさんという方にサーバー役を任せてしまえば良いのでは? 彼女の演算リソースは高そうですし、複数のツールでの連絡を統括するのは可能だと思います」
夜叉神殿と砂狼殿の口論の最中「何か?」とこちらを見たルールー殿。イロハ殿が漢字だらけのツールを見せたら、そちらの方にチャットで反応してきた。造魔らしいので、Wifi通ってるタイプの人間であるらしい。
夜叉神殿の砂狼殿との口論をサポートしつつチャットツールで別の話もできている。これは紛れもなく、情報の使い手の資質! と内心ビビりつつ、棗殿の持つ端末に表示されるルールー殿の言葉を見る。
『裏13生徒会で使っていたツールが皆さんのCOMPに適応していない可能性は分かりました。でしたら、そちらの高嶋友奈様の使っているツールをメインの連絡ツールとしましょう。そのツールを扱えない方々の情報は私が統括し、他のツールに流します』
秒で問題が解決したぞ。すげーなルールー殿。
どうにも大体のツールは互換性があるというか、同一のサーバーで管理されている場合だと同種別ツール間での通信が問題なくできるように設計されているらしい。
よく分からないが、おそらく血で血を洗うようなツール戦争が昔にあったのだろうなぁ……と過去に思いを馳せたくなる気分だった。
まぁそれはそれ、切り替えていこう。
「うむ。であれば己はその事を皆に伝えてこよう。さっき話しながら、その、なんちゃらアプリ? はインストールした。アカウントはコレであるから、連絡用のルームができたらメッセージを送ってくれ」
『今作成しました。セキュリティについては皆さんの登録を終えてから行うので、まずは人を集めるのをお願いします』
この場の皆にチャットルームへの招待が入る。いや、これワークスペースという名前なのか? まぁいいや、ニュアンスは同じであるし。
棗殿は導入に四苦八苦している感じがあったが、そこはヒフミ殿とかオサム殿とかに任せれば良いだろう。
それから大声で人を集めて、花っぽい奴をメインツールに使う事を伝えつつ、導入に困っている人はCOMP強そう勢の集まっていた場所に投げ渡す。その他、説明が終わってから爆速で昼飯を食いに行った勢を拾ったり、COMP持たない勢をどうするか皆と悩みながらあれこれしていると2時間はあっというまにすぎてしまった。
やっべ、戦術戦略について相談してねぇ! と気づいたのは参加者リストとワークスペースの人員リストが合致しているのを確認した瞬間だった。己以外はわりとチャットで方針を決めたりしていたので、それを爆速で読みながら己の方針を考える。
まず、懸念点だった夜叉神殿と砂狼殿の口論は決着が着かずに終わってしまったらしい。夜叉神殿の統率の元で動く『クズリュウ派』、エーデルガルト殿の大雑把な指揮で動く『カジュアル派』の2つに分かれ行動をするらしい。人数は半々、くじ引きとか希望制で決めることになっていたらしいが、己は希望してないのに『カジュアル派』に押し込まれていた。なんでさ? *3
……正直、この人数の割り振りには夜叉神殿も砂狼殿もやらかしやがったな? と思う。猿山のボスにも成れない輩が仲間を勝利に導けるわけない。そんな風に勝負を捨てた奴らを上役にしたまま戦うのはあまり良い感じではないだろう。
まぁ、上も下も仲間もアテにならない環境での戦いには慣れている。適当にやろう。
……いや、でも最近は仲間には恵まれていたし、妙な手癖がついているかも知れないか。適当にやったら変なところでフォロー待ちしてしまうかもしれん。気持ち丁寧にやらねば。
「ほら、次なの」
「うむ。よろしく頼むぞALyCE殿。今回は敵同士であるが、勝負が終わればノーサイドで頼む」
「お前それ、恨まれるようなヤバい手使うつもりって白状してるの?」
「うむ、いざとなればするであろう。人格攻撃や精神攻撃は強敵相手の基本であるからな」
「安心するの。そんな無駄口叩けないウチにぶちのめしてあげるの」
とは言っているが、ALyCE殿は多分さして引き摺らないだろう。こんなレクリエーションで言われる事にさして傷つかないし、なんならそんなことよりお菓子の事なりサマナーである漫画殿のことなりを考える方が彼女の中では重くなるだろうから。
一応の想定として、挑発はサマナーである漫画殿を貶すもの
漫画殿を好ましく思っていることと、(敵が強すぎるだけであるのだけれども)ALyCE殿の強い力が無敵ではない事を組み合わせて、それっぽいことをペラ回ししてさもALyCE殿が弱いと誘導して惑いを与えるのが有効に思う。
漫画殿と合流していたら秒で解かれる精神デバフだと思うが、単独行動している場合なら有効のはず。
尚、ALyCE殿が漫画殿と同行している場合はそもそも何やっても勝てないので考慮する必要はない。鬼に金棒なんて生やさしいものでなく、大統領にメタルウルフであるぞあんなもん。
「この考え、負け犬のそれであるかなぁ……」
ドアを開き、見慣れたような見慣れないような学園を元にした異界に降り立つ。
ルールの関係で、同行者はなし。
着地狩りはされなかったので、即座に仲魔を召喚、隠密行動。
召喚した仲魔は、ペルセポネー、イシュタル、ドッペルゲンガーの3体。
割と大型の多い己の仲魔のうちで身体が小さめで小回りが効くペルセポネーとイシュタルの2体と、適当に突っ込ませて死なせる役のドッペルゲンガー(未育成の素材悪魔)である。
6時間と攻城戦にしては短い制限時間であるので、とくに長期戦の備えとしてあれこれをする必要はないという考えから基本の3体召喚だ。
『みはらしの玉*4』を使用してオートマッピングを知覚。記録して、ツールを用いてささっと連絡。対悪魔戦闘ならば『バックアッパー*5』とかで雑にできるのだが、あれは無差別に情報を放り捨てるようなものなので、敵に情報が漏れる可能性がとても高い。パスワードなどで読み取り側に制限をかけるのも可能ではあるが、複雑なパスワードを管理できる能力が学生側にはないので話題にすら上げなかった奴である。
模擬戦であるし、知り合いにろいありてぃ? *6がちょびっと入るらしいし布教しても良かったのだが、限られた時間の中でで使えない理由まで伝えるのは面倒だったのでやめておいた。
実際全員が確認できたのは時間ギリギリの時だったので、判断は間違いではなかっただろうとは思う。が、模擬戦で今勝つことだけを考えるのは馬鹿のすることなのだ。実戦で勝つ為にいろいろするのが模擬戦なのだから。
ふぅと一息
こちらから視認できていないので、フジワラのようなバックアップ異能、もしくは『天空の眼界*7』のような認識延長スキルだろう。
空気の流れにこちらに動こうとする意識が乗っている気がする。勘だが。
連絡ツールを確認、共有されたデータの中に
足音は4人と推定。足音の出るタイミングを重ねつつ、歩法により軽い足音にする事で重み的には一人分の音しか出ていないように聞こえる技法であると仮定する。4人でなければ1人なので、そっちの間違いならば問題はない。
孤立無縁、仲魔込みで数的互角、敵方が召喚を行えば敵の数は8にはなるだろう。一人1召喚という雑計算であるが、バスターしつつ仲魔を呼ぶ場合は1体にするのがMAG効率が良いとは良く聞くのでそうそう違いはないだろう。
「ペルセポネー、チェンジだ」
「……あの、サマナー。正気ですか?」
「このまま逃げても防戦しても10割負けるであろうが」
「まぁ、そうなのですが」
ペルセポネーが酷い事を言いやがるが、実際問題として他に手がない。
周辺にマップデータがあれば迷いなく逃げたのだが、現在判明しているマップデータは己周辺にしたマッパー分だけ、逃げた先に敵が待ち構えていないという保証はない。
というか、右も左も敵だらけの敵地なのだから確実に居るだろう。強い味方であれば問題はないが、参加学生のレベル帯は、使えそうな面々で50がそこら。己より強い者も多くはあるが、異界の広さを考えると出会える確率は相当に低い。
手持ちのアイテムにならない部品たちを確認、トラップを使ってギリギリまで遅延を試みる事は可能そうだ。
通路幅はオートマッピング1マス分、まず、壁に赤外線レーザー付きのトラップを起動してを両面テープで張る。次に廊下の色に合わせた細いワイヤーをドッペルゲンガーに持って行かせて、向かい側の壁際に積まれていた机の影に隠す形で貼り付ける。
そして、天井に『スタングレネード*8』を引っ付ける。
通常であれば、こんな雑なワイヤートラップ程度当然気付くだろう。熟練であれば、赤外線センサーの方にも気付けるだろう。そして周囲を見て、スタングレネードにも気付くだろう。
だが、これらの罠は見た目だけを整えただけのハリボテである。あるのだが、これを瞬時にハリボテと断じて無視するような盤面でないから、30秒程度時間は稼げるだろう。
マッパーで確認できているエリアから離れないままギリギリまで接敵を遅らせる。
敵の増援の可能性は増すが、こちらの味方からのデータ共有で逃げ道が生まれる可能性もあるからだ。
……正直己は、このあたりの判断バランスが決死の戦いと模擬戦で異なりがちな事は知っている。負けて良い戦いだと勘がそこそこ鈍くなるという己の悪癖だ。
が、遅延をすると決めたなら中途半端は良くないだろう。もうちょっと仕込んでおこう。
先頭を歩いている男がハンドサインを行い、背後の仲間達の歩みを止める。
通路に張られているワイヤーが気付かれたようだ。同時に自分たちが気付かれていることを理解したようで、音を隠す動きが緩み、襲撃に即応できるような構えになっている。
無線にてバックアップに指示を仰いでから、発砲を始めた。サイレンサー付きの3点バーストで、積まれているダンボールなどに隠れていないかの確認のようだ。
同時に、他の面子がトラップの解除を試みている。ハリボテであるのは薄々気付いているが、『何故こんなことを?』と混乱している様子だ?
3、2、1……
積まれている机の引き出しに仕込んでいるキッチンタイマーが鳴る。トラップの解除に失敗した可能性を考慮して、4人は警戒態勢に入る。
一本道になっている通路にて、前方に3人、後方に1人の陣営で銃が構えられていた。
数秒警戒の構えを取ってから、一人がタイマーを確認して呆れのため息を発していた。時間稼ぎの仕掛けであることに気づかれてしまったらしい。
赤外線センサーの方も繋げている箱がお菓子の箱で、中身に何もなさそうなのもあるだろう。
「残念、時限式だ」
バン、とお菓子の箱の中に仕込んでいたスモークグレードが爆発する。煙が連中の視界を奪い、己が攻め込むまでに的にされる可能性を削ってくれた。
「さぁ、勝負だ!」
全力ダッシュによって敵に接近する。己たちが彼らを見ていた場所はそこそこ遠方にあるダンボールの中だ。やはり隠密にはダンボール!
当然、足音は隠せていないので敵は銃撃を放ってくる。しかし、スモークで視界を塞がれている以上そうそう当たるものではない。
それでも煙で防がれる前のマップを記憶しているのか、先頭の男を攻め込むためのルートにフルオートで銃撃が置かれ、走るルートが制限されている。が、そもそも最短距離を走るつもりはないので問題はない。
加速には距離が必要だ。
速度が乗った状態での攻撃は、敵チームの呼吸を大きく崩すことができる。
今朝掲示板で知った、『強襲アタック*9』と呼ばれる、アドバンテージの取り方だ。
加速状態から放つ昇竜拳じみた軌道の斬撃が敵を浮かし、追撃を可能にするのだとか。チャドー呼吸? なる忍者の呼吸法によって加速距離を短くできるらしい*10が残念ながらそっちは実感できていないので使えそうにない。加速距離が呼吸法で変わることはないと思うのだがなぁ……
こういう思い込みが悪さしているのかなぁ? と思いつつ走るルートを微修正。数歩だけ壁を走ることで足元を狙うフルオート射撃を回避しつつ距離を詰める。
間合いに入った。
「コマンド入力は安定しないが、リアルでやる分には苦労はしないのだよなぁ!」
斬り上げが戦闘の男にクリティカルに入り、大きく姿勢が崩れる。一人の姿勢が大きく崩れたことで、連携している敵たちも呼吸を奪われて動きが一瞬止まったのが確認できた。
| マハラクカオート | 自動効果スキル | 戦闘開始時、味方全体の防御力を一段階強化する |
敵方の自動効果が発動し、初撃を防がんとする備えが起動していた。
「マッスルドリンコもある、初撃は気合いで凌げ!」
「必殺を気合いで防げることはそこそこあるが、残念ながら今ではない!」
現在召喚している仲魔は『怪異ドッペルゲンガー』『天使ヴァーチャー』『地母神イシュタル』の3体
ドッペルゲンガーはレベル49*11、ヴァーチャーはレベル41*12とレベル70台の己には力不足ではありまくるのだけれども、ドッペルゲンガーが己の姿を形取ったスキル構成をしている事*13となんかストックの底に転がっていたヴァーチャーを組み合わせた即席必殺コンボだ。
| オール1 | 合体魔法 | sesame"> |
「自爆覚悟かよ⁉︎」
「それは、どうかな!」
尚、この合体魔法を発動したタイミングでの前線メンバーは、『ドッペルゲンガー』『ヴァーチャー』『イシュタル』の3体だけである。
己は
微妙に知名度の低い事であるが、敵味方全体を対象にした術理は
普通に攻撃が届いていないから当たらなかっただけで、実は
敵の4人は、奇襲の影響下なのだから!
「そこ」
という調子にノリノリだった己の背後から、ひとつの殺気が飛んできた。
この場にいては必ず死ぬという確信から、プレスターンを崩して己も前に出る。
最悪なことに、プレスターンが崩れたタイミングは『オール1』が発動した直後で、着弾する前だ。
「分かってると思うけどその合体魔法は強くない。割り込みが入れば今みたいに致命の隙を晒すことになる」
「他に有効な手があったらそっち使っている! 開始3分孤立無援に情報皆無であるのだぞ! 博打を打つしかないであろうが!」
「それは……少し、同情する」
己の背後から殺気を飛ばし、必殺の陣形に割り込んできやがったのは銀の髪の美しい、(偽名の可能性はあるが)白州さん家のアズサ殿である。ちょんとガルムを召喚しているだけのあからさまにMAGをケチっての戦闘待機状態である彼女は、宝玉輪と同等の効果のアイテムと思われる『宝玉林檎*15』で敵チームの回復をしていた。消費期限ギリギリの奴が投げ売りされてたの食べたことがあるが、なかな美味しかったのは覚えている。
……まぁ、割り込みのタイミング的にアズサ殿自身も
博打は大失敗オブ大失敗であったが、運はまだ残っていそうだ。
「敵確認! LV49怪異ドッペルゲンガー、物理反射銃撃弱点と推定! LV41天使ヴァーチャーは衝撃破魔無効、召喚持ち*16! LV70地母神イシュタルは破魔呪殺魔力神経通らず、弱点なし!」
「敵サマナー、ヤクトヘルム確認、プレートバンダナ存在せず!」
「銃撃有効! 撃ちまくれ!」
一人目、『ボルトバズーカ*17』による複数回射撃、弾丸は不明だが、『しんけいだん』のような相性無視の匂いがする。
「ヴァーチャー、肉壁!」
「恨みますよ、サマナー」
己を狙った銃撃はヴァーチャーの陰に飛び込んで回避し、そのままヴァーチャーを壁にして残りの銃撃を防ぐ。
死体が砕けても大して気にならない素材悪魔だったが、幸いなことにボルトバズーカから発射された有効な銃弾は二発、死体は残ってくれたようだ。
二人目、『90Pマシンガン』による全体掃射、といきたいようだったが己への牽制のために撃ちまくっていた者だったようであり、リロードしながら仲間のカバー待機をして己の反撃に備えているようだ。
三人目、銃型の武器COMPによるATTACKだ。しかも『デュプリケータ*18』という連射機構が起動しているようで
イシュタルが射撃を受けて吹き飛んだ。どうにも配慮してくれたようで、死体砕き用の二発目は意図して外してくれたらしい。あからさまに狙いは逸れていた。
四人目、敵の最後の行動。
恐ろしく嫌な感覚のする拳銃を構え、放とうとしてくる。狙いを錯乱するためにドッペルゲンガーと位置を交換する……フリをする。
トラップを見せてしまっまので己の詐術の癖が見抜かれている可能性はあるが、何もしなかったら10割命中する奴なのでやらないのだけはありえない。
「チッ、俺は二択が苦手なんだ」
構えられている銃は『死神コルト*19』であるだろう。だが、以前露店で見かけた時に感じた強さとは別格に思える。何かしらの特別な強化をしているのだろうか?
まぁ、今の己たちはピクシーのパンチで死ぬ程度にはボロボロなので威力など考える必要はないのだが。
銃弾が命中し、ドッペルゲンガーの上半身が綺麗に吹き飛んだが、己への銃撃はなかった。回数で低乱数を引いたようである。
その際弱点ヒットが発生しなかったことから、属性弾であることがわかった。ターンを使わないでの神速リロードの使い手*20だろうか? 基本を属性弾にしているのは少し珍しく思う。
「そろそろ動いてくる。奴は結構早くに動けたのに全体回復を行わなかった。追加の召喚のためにリソースを温存していたように思う」
バレているなぁ……まぁ、温存していたのは技のリソースではなくアイテムなのだけれども。
「逃げの一択! 防がれた奇襲に拘って死んでられん!」
「逃げる? どうやって?」
挑発するようにアズサ殿が言う。己の背後からアズサ殿が突っ込んできた形であるので挟み撃ちの形になっている。
逃げ場などどこにもないのである。
「ルナトラップ*21ないならどうにでもなるのだ」
普通に『トラフーリジェム』を用いて短距離転移を行い、囲みから離れる。
だが、読んでいたようで即座に戦闘を再開しようと銃撃によるフィールドアタック*22で足を止めようとしてくるが、その前に銃撃を一発放ち、仕込んでいた置き土産を起爆させる。
天井に貼り付けており、さも『罠と連動しますよ!』とアピールをしていた『スタングレネード』である。
「ここで使うか!」
「一人くらいは削りたかったなぁ!」
走りながら『魔石』を使ってHPを回復、ディアラハンや宝玉を使わないのは、ケチっているからである。
己は別にこのレクリエーションに命も名誉もお金もかけていないので、ケチれるところはケチる気満々なのだ。
己が戦闘を起こしたことで周囲の面々の動きが変わり、共有されているオートマッピングにさまざまな位置情報が見えてくる。
情報が増え敵の位置が多少予想できるようになったので、待ち伏せからの不意打ちがありそうなポイントを警戒することができるようになった。
全方向危険しかなかった戦闘前とは大きな違いである。これならなんとかなりそうだ。
尚、逃げながら今回の戦闘を報告した際に言われた『何しに行ったのアンタ?』という夜叉神殿のチクチク言葉はかなり効いた。チクチク言葉は、自分で思っていることを言われる時に地味に苦しくなるのだ。
……それはそれとして、己を誰かと重ねているような、雑な気安さのある言葉であった。が、己と夜叉神殿はその親しい間柄ではないので普通に雑に扱われてしまった寂しさがあるだけである。
だが、まぁ己は夜叉神殿より歳上なのでこの程度は呑み込もう。うん。
いやホント、何しに行ったのだろう、己
一周目全コミュMAX見えてきたぞ! という12月のP3で、テレッテ、真田先輩ときて次は天田だろ! というリンクエピソードが出現しなかった悲しみ。
どうにも2個目のリンクエピソード取り逃がしていたみたいです。十二月に気付いてもどうしようもねぇよ畜生!
まぁ、一周目100時間とかが見えているゆるゆる進行ペースなので気長にやります。ユニコーンオーバーロードに乗り遅れた感強いのが悲しいですねー
・ジエンくん
元の世界での人外ハンターランク8は、人外ハンター商会におけるバイトリーダーみたいなもの。やっておかないと後々面倒そうな仕事に対する嗅覚はかなり鋭い。
今回のことは、自分の運が悪かったとは思っているが自分以外でアズサ含む五人体勢のチームから逃げ延びれる生徒は少なかったと思うので全体的にには得をしたと思っている。プラス思考の権化。
・アズサちゃん
罠を仕掛けられた可能性あり! と近くの連中が報告したので様子を見に行った遊撃役。爆速ダッシュするジエンくんに悟られないようにしつつ、背後から襲いにいった。
が、初手『オール1』ぶっぱは想定外だったのでジエンくん暗殺チャート変更し、味方全体の回復を優先した。
・銃装備バスター4人
カモフラージュ用の装備が被っていたから話した程度の仲であり、特にこれまで組んでいたという訳ではない。のでチームワークは適当に打ち合わせてそれっぽくしただけのものである。
こういう、仕事人スタイルの動きって格好いいよな! というのが四人の共通イメージ。特に軍人上がりとかではない。
食いしばりがルールで禁止されているからってそんな博打を初手でやるか? という常識的な思いはある。が、『オール1』が決まっていても2人が2人をカバーして反撃には移れるようにしていたのでやっぱり修羅である。