姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 作:気力♪
ゾクリ、という悍ましい気配を感じさせる何かの力によって、学園を模したこの異界が乗っ取られた。
それにより、異界構造は変化を始める。実のところそう大きな変化ではなかったのかもしれないが、『通路』という変化が大きくなってしまう場所にいた己達には大問題であった。ついでに言えば、模擬戦での疲労なりで動けない者たちがいたのが、さらに問題を大きくしている。
故に、異界の変化が起きた瞬間、己たちは3手に分かれて動いた。反応できた己、雷市殿、つくよみちゃん殿の三人で、反応できていなかったセナ殿、ロミン殿にシャナイア殿の三人をカバーせんとするためだ。
担当は、各自最短距離の仲間に向かったというだけ。それによって己はシャナイア殿、つくよみちゃん殿はロミン殿、雷市殿はセナ殿をそれぞれ引っ掴み、最低限の防御を行った。
「雷市殿、つくよみちゃん殿、ワイヤー!」
「相変わらず準備いいなテメェ!」
「合流よりも、マトモな足場に着地するのを優先して下さい!」
そして、己はCOMPから取り出したワイヤーを雷市殿とシャナイア殿に投げ渡す。つくよみちゃん殿からも雷市殿にワイヤーが投げられていたので、突然足場が消えて下フロアに落下することになってもサポートが可能だった。
が、これはちょっと無理だった。
「転移反応ッ⁉︎」
「ターゲットは場所……ではない、シャナイア殿か!」
虚な目でぶつぶつと、「いあ……いあ……」と唱えていた。ボッコボコにされて弱った心では、
判断は一瞬。この状況なら己は己自身を守るために離れるのが最良であるだろう。
「皆、ちょっと行ってくるぞ!」
が、それは短期的な話。
シャナイア殿一個人を助けに行くことは“気分がいい”以外のメリットはないが、困難な味方を助けに行くというイメージを皆から持たれる事には大きなメリットがある。
ごく普通に考えて、この世界では『善人』の方が得なのだ。であるならば、『善人』に勘違いされるポイントは増やしておくに越した事はない。己は割と悪評立ちやすいのだし。
「ジエン! っのアホが!」
「すぐ追いつきます! シャナイアさんを、どうか!」
雷市殿はワイヤーを引っ張って己を引き戻そうとするが、既に手を離しているので意味はない。
揺れでワイヤーがびたーんと当たって地味に痛いくらいだ。
つくよみちゃん殿は、己の行動を止める手段がないことを悟ったようで、激励の言葉だけをかけて己を見送ってくれた。ありがたい、元気が出るぞ。
そうして転移に巻き込まれる最中にて、前を向いてシャナイア殿を見る。
シャナイア殿の瞳はどろりとした色に染まっており、到底マトモな精神状態には見えない。
ともすれば、ゾクリと感じたアレが何らかの誘いとなっていたのかもしれない。波長の合う者を引き込むような、『深淵からの呼び声』に
そんなことを考えながら、転移の力に逆らわずに飛び込んでいった。
転移の最中に片目を開く。
パッと飛ぶ感じの転移ではなく、多少周りの風景が見えるような転移であったためだ。
そんな中で己はふわふわと浮いている浮遊霊みたい感じとなっており、シャナイア殿は机にてひたすらペンを動かす人となっていた。
シャナイア殿がいるのは、聖華学園の教室だ。結構いろんな授業が行われる自由教室? とかそんなのなので具体的に『何々の教室』とは言いづらいのだが、己が倫理の授業でポカやった際皆と一緒に指導を受けるのがこの教室の印象だろう。
雷市殿と初めてあったのも、この教室であった筈だ。
ただ、教室の雰囲気こそ同じでも窓から見える風景や、壁に張られている掲示物、机の傷の古さ新しさなどが異なっていた。むしろなんであの教室だと理解できたのか不思議なくらいである。
そんな中で、シャナイア殿はひたすらにペンを動かしていた。その瞳には狂信の色があり、しかしその奥に諦めの色があった。
「シャナイア殿ー」と声をかけるが、光景が見えているだけで転移空間の間であることに変わりはなく、声は空気を響かせず、届かない。
とはいえふわふわ動けはするので、なにを勉強しているか? とシャナイア殿のノートを見てみる。シャナイア殿はノートを写しながら自分の考えを書き加えており、小さなイラストをつけてわかりやすくしていた。
内容は、『龍王による砲撃を主軸とした遠距離攻撃戦法』について。
夜叉神殿や棗殿が流行らせようとして流行らなかったりしている、『龍王砲』の雛形になっているものに見える。とすれば、これは『クズリュウ派』の一人として生きていた世界のシャナイア殿であるのだろうか? 勘が結構混ざる推測であるのだけれど。
そんな己の考えを他所に、シャナイア殿はノートに言葉を付け加えていく。『“近接戦闘を行わない”とすることでの生徒の徴兵への精神的負担の軽減』『“遠距離からの攻撃に徹する”ことで、戦闘適性の薄い者達の戦力化』、『“容易に逃走可能である”ことによる人員損耗軽減』など多くの甘い言葉が書かれている。
これは、ある種の欺瞞であるとも思う。書いているシャナイア殿もコレが机上の空論だと半ば勘付いているし、多分徴兵のハードルを下げることで『雑魚』と『ゴミ』が混ざる現実も肌感覚として理解しているとも思う。
けれど、それでも子供と戦わせようとするのならば、なにか嘘でも『大丈夫』だと信じて言える理屈が欲しかったのだろう。
──ただ、事実だけを元にして考えると言えることが一つある。
クズリュウ派世界の龍王砲使いって、棗殿を残して全員死んでいるのだよなぁ
「分かってんだよそんな事!」
「聞こえていたのか、いや、感じていたのか? まぁ、どっちでもいいのだが」
シャナイア殿が、ノートを書きながら叫び出した。今の叫びの感覚は、己の知っているシャナイア殿であるように思う。
シャナイア殿が叫んだの同時に、周りの景色が変わっていく。シャナイア殿は、“周りの大人が皆死に絶えるような大きな戦”で生き残ったデビルサマナーとして、『戦術顧問』と名札のつけられた男と共に戦術を組み立てていた。
顧問の男は、先人達が遺し、実際に成果を上げた『龍王砲』を主軸に据えた事によるメリットを見ており、シャナイア殿はその一つ向こうの致命的なデメリットに勘付いていた。
そして、そのデメリットを内に抱えたまま『戦術顧問』の男が病に倒れ、それから少ししての戦いで──『己』がいた
所謂、ハコニワ戦争というものなのだろう。異世界脱出シェルター異界同士の生き残りをかけた殺し合い。それにおいて、ちょっと成長して大人になっていた己は雑兵である手駒を殺さずに、中間層の指示の中継と全体の緩衝役となる者を
笑顔ではあったが、特に楽しそうには見えなかったのでまぁ演技だろう。
己に殺意が向くように、指示の浮いた手駒が心に任せて暴れ出すように。そういう誘導の小細工だった。
──その小細工が成り、暴れ出した雑兵たちの中にシャナイア殿の息子がいた。
シャナイア殿と異なり勇敢そうな顔つきで、巨体をもって仲間を守る盾のごとき益荒男であった。そこに強さはあっても冷徹さはなかったから、一緒に突出した仲間の盾になるように動かして削りに削ってから、『龍王砲』の誤射に巻き込ませる形で殺していた。
殺した一撃を放ったのは、シャナイア殿の仲魔であった。
光景がガラッと変わり、またしても戦争が日常な景色になる。
こちらでのシャナイア殿は、普通に己の知っているシャナイア殿であるようだ。両手に拳銃を構え、回復魔法をちょいちょい挟みながら中距離銃撃を行い味方の突撃をサポートする動きだ。
今回のシャナイア殿の敵は、体にMAG発光ラインの見える改造人間たちで、セナ殿の出身のところであるようだ。
いま、ちょい遠めのあたりでセナ殿が仲間のサポートを受けて攻撃を行い、直撃を受けた人間が爆散していた。強い衝撃が体内で爆発すると、人間はあんな感じになる。そういうのを食い止めるのが『食いしばり』であるから、大事なのよなーなんてことを思ったり。
そう思考を脇道に逸らしながら見ていると、シャナイア殿と共に戦っている少女がとても良い感じをしているのがよく分かる。自ら先んじて危険に飛び込んで、仲間を見捨てず、強い意志と決意で皆の背中を押していた。
「諦めんなよテメェら! ババアが必ず敵の大将をブチ殺す! それまで死ぬんじゃねぇぞ!」
口調は荒く、動きはもっと荒く、背丈は小さく、しかし器が大きい立派なリーダーだった。故にシャナイアも仲間たちも、彼女を信じて、『少数による敵主力の足止め』という任務を行うことができていた。
その信頼が揺らいだのは彼女の言った『ババア』、主力部隊による大将暗殺が失敗に終わったことからだろう。
そうなった際、少女は言った。
「元はと言えばアタシの一族が巻き込んだ戦いだ。負けが決まったからってお前らまで死ぬことはねぇ。他の連中とまたレジスタンスやるなり、この世界のどっかで生きるなり好きにしろ」
「その程度の未来は、アタシでも作れるさ」
そんな言葉と共に殿を引き受けた彼女は、仲間を逃すために必死で戦い、そして──『己』の罠にかかって捕らえられた。
シャナイア殿側の勢力の死体を生きているかのように見せかけて、「助けて」と言葉を鳴らす。そうすると、正義の者であればあるほど、範囲攻撃からカバーしようと動くのだ。
割とよく使った、よく知っている手であった。
そうなると、そこからは案の定の話である。シャナイア殿達は『瞳』という内蔵ガジェットにより通信が繋がっており、こちらからの放送は届いている。
捕らえた少女の両手両足の爪を剥ぐなどの肉体的な拷問に始まり、それが効かぬと見るや死んだ仲間を彼女の手で握り潰させたり、裂いた腹に屍肉を詰めてから回復魔法を行って
「貴様が今自らを癒すのに使ったのは、仲間が必死に生きてここまで戦った結晶だ。良かったな、貴様の命を繋ぐ糧になってくれて」
とか“仲間をここに連れてきたことが間違いである”という結論を心が出すように誘導していた。気づかれぬように薬物を仕込んだりしていながら。
そうすると、『強い心で自分たちを逃がしてくれたリーダー』から『外道によって地獄を見ている仲間』に印象が変わり、あれだけ強かった『リーダー』が弱みを見せている光景、ということになる。
そうすると案の定、心だけで動いて一人、また一人と彼女を助けに戻ってくる者達が出てきた。
その結果、『立ち向かわなかったシャナイア殿』を残して皆死ぬこととなる。己が、執拗に、効率的に、徹底的に殺していた。
「ここで出てこれぬ相手で安心したよ、シャナイア・リィド。仲間の苦難に立ち向かえぬ貴様であれば、生き残ってもまた仲間の足を引っ張ってこちらの利となってくれる。良かったよ、お前が人でなしで」
嫌にくっきりとその言葉が残っているのは、シャナイア殿のトラウマだからであろう。
二つの絶望が、『己を殺す』という一念で強く結びつき、『己を殺す』という目的のために互いに力を与え合っており、『己を殺す』という理由のために今現れようとしている。
「これは言い訳に聞こえるかもしれんが。それは異界の己で今ここに生きている己ではないぞ」
二つの絶望を垣間見た結果、シャナイア殿が己を殺したいと願う想いに偽りはないように思う。けれど、一応別人なので筋を通すためにそう告げておく。
すると、《二人/一人》は激昂しながら叫んできた。
「「分かってんだよそんな事は!」」
「別人だって、思い込もうとした!」
「結局は私が選んだ事だってのは変わらない!」
「「けど、やっぱダメなんだよ」」
「お前の顔がチラつくたびに、アイツの、『ゴンドウ』の泣きながら助けてって媚びていた顔が目に浮かぶ!」
「お前が笑っているたびに、『ライン』が、息子が生きて皆と居たらって想像する!」
「お前の笑顔が見えるたびに、ゲラゲラ嗤って皆を喰ってたあの声が聞こえてくる!」
「お前の声が聞こえるたびに、私を嘲笑するお前の顔が見えてくる!」
「「お前の命が続いてくたび、私は……こんな苦しいのを持ったまま生きなきゃならない! なら、殺すしか、ないじゃないか!」」
「「そのための力が、『今の私』にはあるんだから!」」
────少し、意外であった。シャナイア殿がこの状況であってもまだ
嘘というよりも、それは自分がそう思っていると思い込みたい真実、であるのかもしれないけれど。まぁ事実でないので嘘だろう。軽く見ただけで己に伝わる程度の、浅い嘘なのだが。
ともすれば、それはこの異常な空間がもたらしたものなのかもしれない。
何処となく、この異界の主人も我欲を隠しているように思えるからだろうか? ちらほら見える壁に張られている戦争のための新手のの裏に将棋の実力者向け向けポスターが見えるということからの、かなり憶測混じりのものなのだけれども。
閑話休題。奇襲警戒にぼんやりと周囲を見ていた意識をシャナイア殿に集中させる。
転移が落ち着いて行くたび、周囲にのっぺらぼう……影人間とか言うのだったか? 人の似姿達がシャナイア殿の叫びに呼応して集まってきている。
その姿は学園で見ている皆に似た者が多く、親か子か、異世界での血縁者であるように思う。しかしながら、彼らに顔はなく、意思もなさそうだった。
強い力、強い意志に盲目的に従うだけの雑魚ども、という事なのだろう。この異界の主人の作り出した彼らという存在は。
そんな彼らが、黒く邪悪に、殺意に染まって穢れていく。
それは、シャナイア殿がこの領域と深く結びついたからであるのだろう。空間全体から、己に対しての殺意、憎しみ、恨み、そして『仲間を返せ』という悲しみが伝わってくる。主となっているのは、異世界のシャナイア殿の仲間であった影人間達であるらしい。
「……だから、此処で! お前が死ねぇえええええ!!!!!」
シャナイア殿は、ありったけの殺意を込めて叫んでくる。手に持った封魔管からは悪魔が召喚された。
呼び出された悪魔は、『龍王ラドン』
LVはたったの34で、単体では雑魚そのものだろう。ただ、なにかしらのチューンナップがされている気配があり、侮りすぎてはいけないと感じもする。
「まだだ!」
「……さすがに、見ているだけの案山子であってはくれないか!」
そして、シャナイア殿に呼応する形で他の似姿であった者達、主に若い生徒達が同じ動きで『龍王ラドン』、あるいはLV26 の『龍王ユルング』を召喚していた。それはシャナイア殿の指揮下にあるようで、あるいはもっと上の大きな意思の下にあるようで、一糸乱れぬ統率の中にある。
\カカッ! /
| 軍勢 | LV63 | 龍王門下生先代一同 |
そして、シャナイア殿らは天高くに登っていく。あるいは己が地の底に落ちていく。
彼女らの足場には学園外壁が元になっているような城壁、あるいは防壁が存在しており、そうそう容易く登れそうにはない。
己のいる位置は地下深くへと沈んだ場所である。転移の際に、シャナイア殿の聖華学園の人間ではない己は放り出されてしまったらしい。城壁近くに掘られた馬鹿みたい深い穴? 堀? の最下層。落ちた奴は二度と生きては返さないという覚悟にも似た深さと怨念のある一角だ。
『奈落』と呼んで差し支えはないだろう。
分かっていたが、こういう転移に無策で乗っかるものではないなーとざっくり思う。自ら望んだ窮地なので、後悔はないのだけれど。
彼我の距離を直線距離にするとだいたい700メートル。
『奈落』広さは直径100メートル程度で、微妙に広いが全体魔法を回避できるほどではない。
広さ100メートル、高さ700メートルの奈落の底に落ちた状態から、殺し合いが始まっているワケである。
加えて言うと、700メートルは『龍王』による遠隔攻撃の最長距離がジャストである。どう頑張っても敵からの距離を離せない状態であるから、逃げ場はない。
思いっきりの『敵対者ぶっ殺しゾーン』であった。
これは、接近されることが弱点である『龍王砲』の欠点を埋める戦術であるのだろう。接近を阻む『距離』という障壁の向こう側に陣取って一方的に攻撃を続ける殺法。クズリュウ派のネーミングにあやかるのであれば、九頭竜
──そうやって敵の戦術を分析していると、シャナイア殿の号令が入り、己のいるキルゾーンを耕すように砲撃が飛んできた。己が着地してから2秒34、指示出しは少し遅かったが、指示を出されてからの動きは早い。訓練された兵隊の動きとは違う、選択肢が少ないから動きが早い思考停止の速度だった。有利とられている中では1番厄介な動きである。
撃ってくるのは18体。シャナイア殿を含めて18人のサマナーが操る、18体の『龍王』からの攻撃だ。
ここまで追い詰めて、ここまで有利な盤面であれば絶対に殺せる。そう確信しているのだろう。その顔には勝利の確信があった。
「些か……幸せな頭をしているのだな、貴様らは」
──敵の主軸となっている悪魔スペックは把握している。龍王ラドンに龍王ユルング。どちらも遠距離攻撃という一芸こそあるが、打点が狂っていたり必殺を持っていたりはしない。単体ごとのスペックはレベル相応であるだろう。ギガプレロマと貫通が追加されているパターンを並行して考えつつ、良く相手を見る。
18発の一斉射撃に見えるが、厳密に同時に対処しなくてはならない攻撃はなかった。瞬き程度であるが、ズレている。
故に意識を細かく刻み、一発目から順番に対処していく。
まず、敵の『貫通』がどの貫通かを確認。反射が抜けるものか、テトラカーンすらぶち抜くものかを検証する。
貫通がない可能性は無視。あれだけ数がいるのなら、見た目を同じ悪魔にしてもスキルなは微調整を加えていない理由がない。
召喚していたドッペルゲンガーを少し前に出す。
己を狙う攻撃であるが、このドッペルゲンガーはムラカミ殿からの全書データの『パスワード共有*1』で貰ったものである。継承したいスキルを持たせつつ、それ以外のスキルの一切を排除した素材用悪魔だ。ストックに置いておけば奇襲にもなるおまけがついているが、メインは素材用である。
ドッペルゲンガーにカバーさせたことで、物理反射によって、『ATTACK』は敵の側に帰っていった。
敵の貫通は反射が抜けないタイプであるらしい。揃えられている数と、レベルの低さから考えるとまぁ順当ではある。
こちらに攻撃が有効でない場合、敵の詰め方はバッドステータスによるものであるだろう。故に後衛に『マハーマユリ』を召喚しておく。
| 孔雀明王 | 自動効果スキル | 状態異常にならない。自分ターン開始時に連動効果発動『味方全体の状態異常を全て回復する』D2出典 |
『孔雀明王』によって味方全体のバッドステータスは回復できるので、カバーの主軸であるドッペルゲンガーが潰されたまま連撃で己が死ぬことはない。
「……なら、これはどうだ!」
そうして先出し対処をした後に、ユルングの一体が『マスタードブレス*2』を放ってくる。当然、『マスタードブレス』の次の砲撃が届く前に、ドッペルゲンガーの
アプリ殺法のように三人くらいで纏まっていたりすれば麻痺の瞬間に攻撃を合わせるとかできるのだろうけれど、そんな小細工のできる腕は敵にはない。個の行動に対してピントを合わせるだけで『孔雀明王』が発動し、麻痺を回復してくれる。
とはいえ、それには一応シンプルな理由がある。『龍王』の力は、自分自身の攻撃射程しか伸ばさない*3ので、チームに合わせるのは相当難しいのだ。
そんなこんなで、『龍王砲』そのものに対する対処は完了した。
──が、これでは勝てない。
勝つためには攻撃を行わなくてはならず、こちらからの攻撃手段は結構限られているのだ。作戦は2つ。気合いで崖上りするか、邪龍で遠距離戦闘を仕掛けるかだ。
まず、崖下から『邪龍ティアマット』を召喚し、『邪念流動*4』にて射程を拡張し、100メートル気合いで登ったのちにぶちかます作戦を考える。敵は100メートル区画に纏まっている『軍勢』でもあるので、全体魔法を打ちまくれれば、あるいは『風邪*5』からの『パンデミアブーム*6』が入れば皆殺しにできるだろう。
しかし、そこにはかなりのリスクがある。
まず、100メートルの上昇と射撃中が無防備になること。アプリ殺法は3体1チームになることが必須条件だ。それは、種族特有スキルが3体までしか影響しないというスキルの縛りもあれば、4体以上のチームだとプログラムがうまく動かないというシステムの縛りもある。
ので、この作戦を取る場合だと100メートル駆け上がるのは己、ティアマット、あと誰か一体の3体でなければならない。なので、実のところこの作戦を選ぶと己は10割で死ぬ。
奴らの攻撃はレベル30相当の攻撃力しかない。ので、最初に『マスタードブレス』を放つ奴を除いた17発の攻撃が己に飛んでくる訳である。機と見れば『マハ・タルカジャ*7』あたりで打点を上げてくる筈なので、20%の上昇なら10発程度で、1回50%なら八発で、そして怖いところである最強倍率『タル・カジャ*8』で威力は4.5倍になっていれば、最悪三発で落ちかねない。
スレッタ殿の『造魔カヴン』は8回最大3.5倍*9なので、四発の可能性が1番高いか? とも思うが。
仲魔の防御効果*10込みでこれなので、普通に死ねる奴である。防御力が欲しいッ!
「どうしたシャナイア殿。己を殺すにしては随分と手緩いが」
「まさか、であるが」
「その程度で、己を、殺せるとでも」
「夢見たのか?」
そんな内心を押し隠し、ハッタリをかましつつ城壁を観察する。
全体の高さは700メートルと少し。穴の深さが600メートルくらいで、壁の高さが100くらいだ。下の方は万能魔法あたりでくり抜いた大穴であり、壁につかめる場所はないが壁に指とかを突き刺して上ることができるだろう。
なので、作戦2の『気合いで登る大作戦』は案外どうとでもなりそうだ。しかし、最上段100メートルの城壁しっかりと返しがついており、赤い感じの掴める気配*11も全くしない。
100メートルほどの、侵入禁止ブロックと見るのが理解は楽だろう。
とはいえ、あの場所は龍王から近すぎるがために安全圏にもなっている。この方式*12の『龍王』は遠くを殴れるように進化した結果、近くを殴る力が弱体化した。そういう話であるらしい。一説によると、だが。
――思考を切り替え、必要な能力から逆算していく。
マハーマユリの加護があれば『マスタードブレス』は無力化できる。ドッペルゲンガーの自動カバーがあれば己が死なずに抜けられる。ティアマットの加護があれば、100メートルで射程距離に入れられる。
己の供に選べる仲魔は2体まで。
……であれば!
「行け、ティアマット! ドッペルゲンガー! マハーマユリ!」
チームを再編成。マハーマユリをリーダーに、ティアマットとドッペルゲンガーをサブにして直上に走らせる。ヤタガラスは己の供周りとし、仲魔チームを盾としてその真後ろ、というか真下を走っていく。
ちょっぴり鈍重な面々ではあるのだけれど、コイツらも悪魔である。100メートル程度登るくらいは訳はない。
「……右舷! 斉射の対象を突出してきた敵悪魔に! 中央、左舷! 変わらず奴を狙い続けろ!」
己が動き出したことで生まれた一瞬の戸惑いを、ピシャリとした指示が切り捨てる。異世界シャナイア殿であるのだろう。指示出しに慣れがある。少し苦手そうではあるけれど。
「一手分、頼む!」
そう己がいうと、ドッペルゲンガーからは舌打ちが、マハーマユリはアルカイックスマイルの内側で『死ねよクソガキが』という意思が伝わってきておりなかなかに愉快な仲魔たちである。ティアマットはそんな面々を見て顔を引き攣らせていた。あれは笑いを我慢している顔なので、戦闘中でなかったら爆笑していただろう。
ドッペルゲンガーがカバー行い、マハーマユリが『マスタードブレス』を無効化し、ティアマットの『邪念流動』射程を拡張して敵の『軍勢』を射程圏に入れる。
「……こういうとき、『マハザンダイン*13』を残しておけば、と思いますね」
「アタックしかできぬ輩もおる故、気にするでない」
「……」
敵軍勢に対して、どでかい攻撃が入る。
ティアマットの『マハジオダイン*14』、マハーマユリの『慈愛の旋風*15』、ついでにドッペルゲンガーの『ATTACK』だ。
ノックもせずに危険では? ということはなく、射程バカ長タイプの龍王は氷結と衝撃が200で火炎電撃が100、ついでにハマが50に呪殺無効の耐性なのである*16。
あと、龍とかからの打撃に弱く*17、獣やら鳥やら妖精やらからの打撃に強い*18とかの妙な耐性はありはするのだが、魔法にはその相性乗らない(らしい)ので今は無視。
「さぁ、祈れ! 軍勢であるから感電確率は3倍だぁ!」
そして、敵は軍勢として皆で固まっているから、
「……ッ!」
「そして! 群として感電すれば個として動くことは叶わない! 個で動こうにも隣の奴らが邪魔であるからなぁ!」
そうして敵が感電したことで、敵の一斉射撃が一行動分だけ停止した。立て直しにかかるのは半手分くらいだろう。シャナイア殿『メ・ルルド*19』とか使えるし
「ほれ、行くが良い」
ティアマットの腕に着地し、そこから投げられることで初速を貰い跳躍を加速させる。
ヤタガラスの『飛翔天駆*20』により、空中を自在に……とはちょっと盛りすぎで、そこそこ自由に動ける己は、最高速度のままに仲魔を呼び出し戦闘態勢を整える。
上昇距離200メートル突破。ティアマットに一度着地したことで初速を貰えたので、まだまだ距離には余裕がある。
上昇距離400メートル突破。上昇をヤタガラスの加護に頼り切らず、己自身の足で壁を蹴って速度を生み出し加速していく。
上昇距離600メートル突破。軍勢として立ち直ったらしく、サマナー共がラドン、ユルングを後方に移動させているのを感じる。そのさい、魔法の気配を感じた。まず間違いなく火力補助、『タル・カジャ』か、『力のドナム*21』かその辺り。
そして、補助を入れた後の動きから敵の『殺法』が見えてきた。命を放り捨ててでもブチ殺すという決意、己は結構好きであるぞ!
そして、上昇距離700メートル。己の手が城壁の縁を掴み、体を上に出しそうとした瞬間
「やはりそう来るよなぁ!」
「お前は地獄に落とす! ここでぇ!」
龍王砲たちに指示を出したサマナー18名全員が、己に向かって飛びかかってくる。その向こうを見れば、龍王どもは攻撃態勢を取っている。自身のサマナーごと己をぶち殺す算段らしい。
己が着地する
人の群れが己の着地せんとした足場を埋め尽くす。押しのけて場を取るには時間も腕力も足りず、己は空中に放り出されて龍王砲で蜂の巣となり無様に死ぬ。そういう未来が、描かれている。
──そこが、隙だ
「事前に出した指示は確かに早い。だが、盤面の変化に対応できないのだよ。己もそれで痛い目を見たぞついさっきなぁ!」
思い出すのは、デモニカ忍者の分身に一杯食わされた時のアレである。今回の仕込みはシンプル。
「さぁ、撃ちまくって来い龍王砲! タルカジャかかったその火力で!
| テトラカーン | 魔法スキル | 味方全体に1ターンの間物理攻撃を反射する障壁を展開する(真1仕様) |
己がヤタガラス以外に召喚した仲魔は『地母神イシュタル』。『天女サラスヴァティ』より合体で作った仲魔であり、
このテトラカーンは1回反射して消えるものではなく、1ターン継続して何度でも攻撃を反射してくれる。そんな奴にオート攻撃を指示された仲魔がどうなるか?
奴らの背後で一発攻撃するたびに爆散していく龍王達が、それを示してくれるだろう。そんなに汚くは思わないが、よくよく言われる言葉ではこう言える。
「汚い花火であるなぁ! 龍王ども!」
「まだ、まだだ! お前が死ねば!」
「流石に死んではやれんよ。この程度ではな」
シャナイア殿が、必死に攻撃をしようともがいている。周りの駒どもはロクに動かず、指示を待ってしまっている。
それにより己は一度奈落の底に着地し、再び飛翔。二手かけて700メートルを上り切り、すれ違いざまに敵一体の首を刎ねつつ城壁の端に着地。死体は奈落の底へと落ちていったのでまぁ死んだだろう。
己は、敵と同じ高さへとたどり着くことができた。そして、まだ龍王たちは蘇生されていない。
立て直す前に崩し切る。
「あと、17」
次に、近場にいた2人が殴りかかってくる。手元に武器はなく、素人のような腰の入っていない動きであった。サマナーとしての最低限の仕込みだけで戦力にしようとした結果だろう。エースを活かすためにと無駄に揃えられた、雑兵以下の動きだ。
イシュタルの立ち位置を動かしすれ違い様に2人を殴り砕かせ始末する*23。
「15」
近くにいた4人ほどが、示し合わせて動き出す。最初の一人が死兵となって己の動きを止め、残り3人が仕留めにかかる動きだった。喧嘩殺法ながらも意図がはっきりしている動きだった。
ので、死兵となった一人の頭蓋を横からヤタガラスの嘴で砕かせる。すると敵は想定外に動きが止まったので、イシュタルが2体殴り砕き、己が1体の首をするっと斬り殺す。
「11」
このあたりで、敵方の空気が変わる。現実逃避が3人、逃走が2、破れかぶれの突撃が3、突撃に合わせようとしているのが3だ。
「ゴグマゴグ」
敵の動きの底が見えたので、下で落ちてきた死体を弄んでる連中を帰還させ、余剰リソースでゴグマゴグを召喚。『アースクエイク*24』で大地からのエネルギーを流し込み、こちらを攻めようとしていた面々の体を爆散させる。
「5」
あとは作業だ。
「4」
淡々と、淡々と
「3」
こちらを攻める気を持っている面々から順に殺していく
「2」
そして、最後のヒトモドキを踏み潰したその足で『
「1」
「……ぁ」
「どうした? 己を殺すのであろう?」
「己が生きているだけで、友を辱める外道が思い出されるのであろう? 己が笑うたびに、息子が踏み躙られ死んだ事実が蘇るのであろう?」
そう、動かなかった者に告げる
そう、動けなかった者に告げる
シャナイア殿は、あれほど復讐のためだと啖呵を切っておきながら、想定外一つで心を折ってしまっていた。
ひどく普通の、弱い人だった。
「……じゃあどうしろってんだよ!」
「分かってんだよこんな程度でお前を殺せないなんて! けど辛いんだよ、苦しいんだよ! お前がいるから!」
「
シャナイア殿が、そう叫ぶ。
──まぁ、そうなるか。
「であれば、何故まだ生きている? 自死は許されるべきことではないが、禁止されてはいないはずだ」
「……ッ!」
「現状に文句を言うし、自分に都合のいい世界になってほしいとも願うが、今を変える為に努力も行動もしていない。流石にそれは、通らんよ」
「じゃあ殺すか」とフラットに考えたところで、ガントレットに通信が入ってきた。メッセージの主はフジワラであり、バックアップデータなどもろもろを押し付けてきたものだった。
それによると、己がシャナイア殿とじゃれあっていた時間で大勢は決まりつつあるらしい。早くない? 割と秒殺したつもりだったぞ己? というのはおいておく。
敵の首魁は漫画殿と殺し合っているが、高嶋殿と砂狼殿が救援に入ったことで流れは漫画殿に向いてきており、敵の手筋もそう大したものではなかったので順当に進めば漫画殿が勝つという算段らしかった。順当に進んでなくても漫画殿が勝つだろうからどう転んでも何とかなるだろう、という楽観交じりの考察から、己に次の指示を出しているようだった。
あるいは、覗いていたからその楽観交じりでも無理やり止めようとデータを送ってきたのかもしれないが、それは邪推だろう。
そんなこんなで、フジワラから送られてきた指令は『敵の対処より人命救助優先で動け』というものだった。特に指揮権が有るわけではないが、そうした方が良いので従っておこう。
「さて、シャナイア殿。話をしようか」
「……話?」
「あぁ。外からの通信が先ほど入った。敵の首魁はもうじき死ぬ。盤面不利ならばシャナイア殿を殺してさっさと次に行くつもりだったが、特にその必要もないらしい」
「──殺してすら、くれないのかよ」
「特に殺す理由はないのでな」
シャナイア殿が逆切れして想定外の動きをしても対応できるように呼吸と動きに余裕を持たせつつ、ゆっくり気味に言葉を紡ぐ。
「……お前を殺そうとしたのは、理由にはならないってのか?」
「逆に聞くが、己が殺されるに値しない善人だとでも思っているのか?」
シャナイア殿から投げかけられた問いにそう返すと、シャナイア殿は推し黙る。否定されると思ったことを肯定されるとびっくりするよなー、と。
「結構皆に勘づかれているのだが、己が相当の邪悪を行なってきたのは事実であるよ。復讐に殺されるとしてもそれは単なる因果応報だ。それだけのことをした自覚はある」
応報は必ずやってくる。己のような悪鬼外道は、この世界で栄えていた邪悪の輩達と同様に来るべき時がきたら裁かれるだろう。
とはいえ、己自身は生きていたいので普通に抵抗するのだけれども。
「で、シャナイア殿。己の知るシャナイア殿も、異世界のシャナイア殿もその胸に抱いた復讐の念は正しいものだ。復讐の矛先も
「シャナイア殿の行動は、
「……だが、シャナイア殿が本当に恨んでいるのは
「……ッ⁉︎」
これは、順当に考えた結果である。是が非でも己を殺したいのであれば、信用も信頼もできそうもないこの件の黒幕とか異世界の自分自身とかと組むのではなく、仁義と力のある『ダークサマナー*25』をどうにかして雇う方が成功率は高くなる。
たとえダークサマナーへの伝手がなくとも、教員の皆や他の生徒達など己の邪悪を示せば排斥し、抹殺せんと動く者達は大勢いる筈だ。この世界は、邪悪を許さぬ『善人』と『正義』が多く存在するのだから。
そうしないのは、復讐が『目的』ではなく、『手段』になっているからだ。
「自分は、復讐ができるほどに仲間への情を持っている。そう思いたいのであろう?」
「……ざ、けんなッ!」
「断言するがそれはないよ。シャナイア殿は己と同じ外道の類だ。仲間の死など大して傷にも残るまい」
これは、まぁよくあることなのだけれども。
死がそこそこ身近な世界の出身の者達は、仲間の死には憤りよりも先に諦めと納得を感じてしまう。
『やっぱり死んだのか』と心に予防線を張っておかなくては心が痛くて耐えられないのだ。そうして日常茶飯事になっているので、痛みが鈍って心が昏く燃えてくれないのだ。
復讐なんて余計なことを考えながら生きていける世界など、この世界のような恵まれた世界だけなのである。
「要するに、シャナイア殿は普通なのであるよ。皆が皆、仲間の復讐のために命をかける訳ではない。シャナイア殿は自分が生きることを選んだだけで、それが生きるに値しないほどの邪悪という訳ではない」
「そんな、薄っぺらい言葉で!」
「うむ。これは言葉を選んだ。すまない」
「シャナイア殿のようなクズでも、己のような外道でも、この世界にとっては生きる価値がある。だから皆と違って自分が穢れている程度で心を病んで死に向かうのは、ともすれば害悪であるぞ」
そもそもの話として、異世界の己はシャナイア殿を地獄に追い込んだ大きな要因ではあるが、異世界の息子さんを殺したのも、友を見捨てて生き延びたのもシャナイア殿自身の選択である。
そう選ばせた己への恨みとして殺意を研いできたのならばそれでも良いのだが、シャナイア殿は別に
「まぁ、復讐の念を長く持つのは面倒であるのは分かるのだがな」
「──違う! 私は、お前に復讐する為に!」
「であれば何故後先を考える? 己を殺すだけが目的ならば、有事でなくとも殺せる機を狙い続ける筈だ。シャナイア殿は
事実、そういう連中はそこそこ居た。部活巡りのついでにいろんな先輩にそれとなく押しつけたら殆どいなくなったが、まだ残っている気配はあったりする。
「日常の中で笑えるようになれたセナ殿を見て、『どうして自分はこうでないのだ』とか考えたのだろう?」
「辛い思いに蓋をして、皆のために頑張ることのできるロミン殿を見て眩しいと思ったのだろう?」
「そして」
「二人が死んだ時、『復讐しない自分』のままでいるのは、嫌だったのだろう?」
努めて軽い言葉で、しかし嫌な質感のある伝え方でシャナイア殿に投げかける。自分含め、多くの漂流者が共通で持つ内心を、嫌な形で言葉にして押し付けた形だ。
「……そう、だよ。お前なんか生きてても死んでてもどうでも良い。けど、『そうなった』ときに何もしないのは、嫌なんだよッ!」
それは、シャナイア殿に少しだけ腹の内側を吐き出させるきっかけになったらしい。
――たたみかける。時間的にはそろそろだ。
「ならば、これは二人への裏切りであるな。よかったよ、性根は腐ったままで」
「……ふざけ「信じていないのだろう? 二人を」……ッ!」
「シャナイア殿が本当に二人を信じていたならば、この場にいるのはシャナイア殿だけではなかった筈だ。そっちの方が、己の命に届く確率は高かったぞ」
「この場にどこの馬の骨とも知らぬ外道の助けを借りて一人でいるのが、シャナイア殿がさして変わらずクズなことの証左であるよ。人は、そう簡単に変わらない」
「自覚している通りだ。理由があれば、シャナイア殿は仲間を殺せてしまう外道であり、害悪だ」
断定系で、シャナイア殿の実態を悪し様に決めつけて、傷を抉りまくる。
そういう意図から己が言い放った時、『ゴウッ』という空気の壁をブチ破る轟音と共に鉄球が飛んで来た。
──計算通りである。
それを己は
「あ……ごめんジエンくん。でもそれは、見過ごせないッ!」
鉄球を投げてきたのはセナ殿だった。つい我慢できず手、というかハンマーが出てしまったのだろう。とはいえ己なら避けるだろうと踏んで投げられた感じがしており、鉄球が当たってしまったことで、少し調子を狂わせていた。
しかし。その雰囲気は『勇者』のものだった。外道に対して心で立ち向かう、勇気ある者の姿である。
そんなセナ殿のそばにはロミン殿がおり、彼女も己に対して強い敵意を向けている。彼女の心もまた、己に立ち向かうようになってくれているらしい。
――そんな姿を、少し遠くからかなりジトっとした目で見ているつくよみちゃん殿と雷市殿が居た。シャナイア殿の初期位置あたりのゲートの保持を行っており、退路を確保してシャナイア殿と己を助けに来てくれたようだった。
「……真実を覆い隠した所でいい事などあんまりないのだぞ?」
「それは、一方的な意見の押し付けだよ! シャナイアは、そんな自分が嫌だから! ちゃんと変わろうって頑張れてる!」
「優しくなろうと頑張れてる、シャナイアを馬鹿にしないで!」
セナ殿が、今までにないほどの大声で叫んでくる。その声の中には先程までの己の薄っぺらい言葉とは異なり、確かな熱と優しさがある。
「ごめんジエン、私も賛同できないわ。必要があって、それしかなかったら『酷いこと』をするなんて誰だってそうでしょ。そんな当たり前のことを人格攻撃の棒にしないでよ」
ロミン殿は、努めて冷静にしている。悪いのはシャナイア殿で、正しいのは己であるという理解の下からだろう。ブチ切れたい心を、ちゃんと抑え込めているらしい。
「だが、それならシャナイア殿が実際に己を殺そうとしたのは? 被害者である己の意見など無視か?」
「己には、シャナイア殿に報復する権利があるのだぞ?」
そう、『なぜ正しくない側の味方をするのか?』という問いを投げかける。苛立ちと、殺気を見せつけるように示しながら。
「……うん、そうだと思う。ジエンくんが反撃しても、多分それは正しいことで、攻撃したシャナイアの味方をする私たちの方が、ダメなんだと思う!」
「だからお願いジエンくん。私にできることはなんでもするから、シャナイアを殺さないで」
セナ殿は、事実を偽らず、真摯な言葉をそう投げかけてきた。真心で、正面からやってくるらしい。
「ふざ……けんな! 私は! そうやって守られるのが1番嫌なんだよ!」
「だとしても! シャナイアに死んで欲しくない!」
「……ざけんな。私だって、お前の仲間の仇だろうが! 隠してるだけで、お前も私のこと殺したいって思ってるだろうが!」
「そうだとしても!」
「──友達に、なれたから」
セナ殿が万感の思いを込めてそう言ってのける。シャナイア殿は、その言葉に完全に折れたようだった。
──雷市殿とアイコンタクト。先に行ってくれと。
「承知した。であればこちらから求めるのは3つ」
「1つ、今回の件について口外するのを禁じる。教員方には己の都合のいいように説明するから、シャナイア殿は黙っているか、己の作り話に乗っているだけにしろ。今回の件は仲間内だけの秘密にしておけ」
「2つ、シャナイア殿の魂が砕けた際には、己がその獲物を貰い受ける。そういう念書を書いて貰うぞ。積極的に死なせるつもりは今の所ないが、死んだ際には己が十全に活用するためだ」
「3つ、できるだけ長く稼働して、『日常』を継続させろ。己やシャナイア殿らのような外道でも、この世界を回していく人員にカウントされるほどに、この世界には『人間」が足りていない。己のため、ひいては漂流者全体のため、善い人間のフリをして、長く社会を回せ」
「以上の3つが、こちらからの条件だ。守れなかった場合は、この場の全員をどうにかして、『己の得』になるようにする。己が手段を選ばぬということは理解しているだろう? 懸命な判断を期待する」
そう己が脅しながら言うと、シャナイア殿はぐちゃぐちゃな表情をして、それをそっとセナ殿が抱きしめていた。
「──分かった。シャナイアだけじゃなくて、私の『大彗槌』……このハンマーもジエンくんに渡るように遺書を書いとく。だから、シャナイアを傷つけるような言い方をしないで」
そうセナ殿が言ったことで、己は殺意などを納めていつもの雰囲気に切り替える。その落差に3人はすっとんきょうな顔をしていた。
「──少し疑問なのだが、なぜシャナイア殿をそれほどに『友』だと思うのだ?」
と、それで要件はだいたい終わりなのだけれど折角なので一つおまけで聞いてみる。シャナイア殿を、なぜそこまで友だと思うのかを。
セナ殿は言った。
「私がこの世界に来たとき、シャナイアと一緒だったんだ。私の仲間達も、シャナイアの仲間達も『喰人』たちのせいでぐちゃぐちゃになって、逃げ込んだ洞窟で、二人で居たんだ」
「敵だったから、私はシャナイアに殺されるって思った。私はボロボロで、シャナイアはまだ少し動けてたから」
「けど、シャナイアは私を殺さなかった」
「私より泣きそうな顔で、心もおんなじくらいぐちゃぐちゃになってて、そういう時にシャナイアは、『撃たない』事を選べたんだよ!」
「それを私は、『優しい』って事だと信じてる」
ロミン殿は言った。
「大した理由なんてないわよ。普通に友達やって、こいつが若干自己中で冷たいやつなのも、優しさとか親切とかを出すが微妙に苦手に捻くれてるのも知ってるし」
「絵を描いてる時のコイツが、けっこう良い顔してるのも知ってるわ」
「単なる友達だし、私にはセナ達みたいなヤバい武器がないから死んだらどうこう、ってのは出来ないけどさ。生きててほしいとは、思ってるわよ。それって命賭けるのに十分な理由じゃない?」
二人が二通りの言葉を放ってきた。しっかりと根を張っている、彼女達二人の言葉だった。
「なら、問題はないな」
「ついでにひとつお節介を言うと、シャナイア殿は、やはり『何故自分が今まで自死を選ばなかったのか』を二人と話し合ってみるといいかもしれんぞ」
「せっかく、周りの者に恵まれたのだからな」
そう言って、己は「念の為少し周りを見てくる」と言ってこの場から離れ、『龍王砲使い』達が守ろうとしていた校舎の中に入ってみる。
そこには、COMP画面にて『追跡結果』を示している雷市殿がいた。
フジワラの奴が、洗脳毒電波の大元を突き止めるための即席ツールを雷市殿のCOMPに仕込んだと言っていた。雷市殿が選ばれたのはCOMPのインストールソフト空き容量的な意味らしい。あんまCOMP使ってなかったものなー
「茶番で待たせ過ぎだハゲ」
「ハゲても5分くらいで生やせるぞ、己」
「微妙なとこで人外アピールするんじゃねぇよ」
そうして、少し離れてから雷市殿は言った。
「で、どこまで
「だいたい全部であるぞ。シャナイア殿、普通の感性してるから誘導は簡単だった」
「……お前ホントクソ野郎だよな」
「そのクソ野郎なりになんとかしようと思ったのだぞ? ぶちのめした後だとしても、己の言葉ではシャナイア殿は変わるまい。ならばそれっぽく生きる方の流れに持っていくしかないのだから」
シャナイア殿が、自分自身を憎みながらも今まで生きている理由は、己にはシンプルに思えてならない。
今が幸せだから。
友人ができたから。
そういう、元の世界では宝石のような貴重な、しかしこの世界では割とどこにでもある石ころのような理由からだ。
「なら、『そこ』以外の心を踏み躙っていれば、『そこ』が1番大事に見えるであろう? 実際心の内の優先順位など、ノリと勢いでコロコロ変わるというのにな」
「じゃあ、あの中身スッカスカの契約は何だ?」
「あれは単なる小道具であるよ。自分が死ねば己の利になるという流れがあれば、それも少しは生きる理由にはなるだろう?」
「まぁ、そもそもの話として己自身の言葉で説得ができたのなら良かったのだが、背中を押す方の説得でないとどうにもな。己が説得をするとつい結論が『やっちまえ!』になってしまうのだよ」
「そりゃ、テメェの言葉は嘘ばっかだからな。テメェの言葉を間に受けて心変わりする奴はいねぇよ」
「違いない」
今回の場合、シャナイア殿が本当にやりたいことは己への復讐ではなかった。それを隠したまま復讐を追いかけてしまえば、今際の際で笑えんだろう。
「笑って生きて、笑って死ぬ。そういうのにシャナイア殿もなって欲しいからな。そのためには多少の嘘も泥も被るとも。慣れているからな」
「──そういうのをなんでさっきの茶番で言わねぇんだよ」
「いや、普通に拒否るであろうが。ぶっ殺したいランキング一位の言葉であるぞ? 絶対の真実だとしても否定したくなるのが感情というものだ」
そんな感じの言葉を交わしながら、てくてくと奥に進んでいく。
進んでいくと、『シャナイア殿』によく似ている大人の女性と、それと歳が同じくらいの大人達が避難所と思われる場所で縮こまっていた。老若男女様々で歳の頃もバラバラであるが、どいつもコイツも理由をつけて立ち上がることをしなかったクズの匂いがする。
「じゃあ、殺るか」
「だな。正直苛立って仕方ねぇんだよ。テメェのクソみてえな演技も、そのクソみてぇ演技が使えるって知って黙ってるテメェ自身にもな」
「……なんで、私たちを殺すんだよ! 許したんじゃなかったのかよ!」
そう大人異世界シャナイア殿が言ってくる。あれ? 許すって言ったっけ? と自分の記憶を洗いつつ、さっぱり断言する。
「己が生かすと断じたのは生きているシャナイア殿であるよ」
シャドウのシャナイア殿が、己を絶望の瞳で見る。
「命すら賭けることをしなかった貴様らではない」
「他人に死へと導きながら、それでも自分を正当化している貴様は──邪魔だ」
「一木一草残さずに、
それから5分程度、記録に残さない虐殺があった。
クズリュウ派親世代、子供に毒物と負債を押し付けた事に見て見ぬふりをしていた者達の亡霊。
あるいは、そうであると役割を押し付けられた影人間達。
その痕跡は、もうどこにも残っていなかった。
あとがき!
エピローグまで纏めないと感想荒れる奴だ! とわかっていても間に合わなかったマンです。前回の投稿から一ヶ月、経っちゃいました。
脱ニートしたので生活リズムは変わるのは予想していたんですが、全く書けないほどでもなく、しかし書きまくれる程でもない細かい休息の多さに慣れずにいます。真VV楽しいのもあります(寧ろこっちの方が重い?)
ただ、ポケモンスリープのお陰で睡眠はちゃんと取れているのでそのうち何とかなるでしょう! ということでもうしばらく不安定な更新となりますのでご容赦下さいな。
・ジエンくん
エピソードのダイエット重ねた結果人外ハンター時代の悪逆非道などなどが匂わせ態度で終わってしまった系主人公。
次回のエピローグで描写できたらいいんですが、そっちはパイセンとジエンくんの関係重視になりそうなので微妙な感じです。小説って難しい。
・シャナイア・リィド(いせかいのすがた)
九頭竜との大戦にて生き残ってしまったデビルサマナー。しかもその時は負傷により前線に出られなかったのを誤魔化すために無理やりサマナーとして自分を使っただけ。
龍王砲使いが必死に戦う姿を見て脳を焼かれた『九頭龍王』の世界では英雄の一人であった。実際はうっすらと「間違っているんじゃないか?」という思いを持ちながら、それを言葉や行動に移さなかった人。
その結果として息子を含む多くの者達を死に導いたことで壊れてしまい自殺し、裏13生徒会の学校に取り憑く怨霊以下になっていた。
浮上したのは、『九頭龍王』の世界で『龍王砲使いの英雄シャナイア・リィド』という影人間が出来上がりそれに釣られたため。影人間シャナイアを怨霊シャナイアが乗っ取り、そのシャナイアが生きてるシャナイアに『誘拐*26』をしかけた結果、ジエンくんの前に現れた敵となった。
が、それで本人のメンタルが強くなる訳ではないので、ジエンくんの口撃で心を折られて逃げ出した。『そういうところ』が嫌で暴れたのに、『そういうところ』がでてしまうと言うオチでした。
特に何か大切なものを天衣ちゃん達に残すことのなかった、極限下の普通の人。
尚補足として、シャナイアの息子として出た『ライン』はゼノブレイド1より。「ワイルドダウン!」の声を響かせ戦うシュルクの親友。
ゼノブレ3DLCにより、ラインの娘がシャナイアの実家リィド家のご先祖様だった関係。ご先祖と子孫が逆になっているのは輪廻転生マジックということでどうか。
・シャナイア・リィド
普通の女の子。
追い詰められれば判断を間違えるし、間違いなく苛立ち八つ当たりもする。
けど、それは追い詰められたからな話であった、平時の彼女は絵を描くのが得意で、自分に自信がないだけの普通の女の子。
だからこそ逆切れ気味にブチ切れたあの1シーンに爆発的な破壊力があるのです。声優さんの怪演も合間って大大大好きなシーンです。
AA0枚だったからキャスティングしたんですが、なんか沢山増えて超てびっくり。↑の一枚はXで流れてきたので知っていたのですが、
こういうのが増えてて驚きました。すげーな職人様