姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 作:気力♪
嵐の前の日々のこと(前編) 偽装ファミレスにて、過去を語る彼らが手にするモノとは?
掲示板などで、『貫通*1』と『夜魔ジャアクフロスト*2』についての挙動を調べながら、パスタを食べる。
これはソーセージで良いのか? (おそらく)内臓の肉を捏ねたりして整形したものが乗っているが、これがなかなか美味である。好みの味、というより『しっくり来る味』というものだろうか?
「これ、好きだなー」
「……珍しいね。ジエンが『美味しい』じゃなくて『好き』って言うのは」
「うむ。もちろん美味しくはあるのだがな」
己は現在、レルムのとある『偽装ファミレス*3』にて、相席になった者と駄弁っている。
彼は『スズキ』殿。この世界に生まれて育った一介の高校生である。聖華学園に通ってこそいるが戦闘向きの性質ではなく、悪魔絡みの案件にも深く関わっていない。
つい最近、『なんかいっぱい覚醒してた事件』まで覚醒もしていなかった、普通の男子生徒であり、己の友人だった。
なお、約束をしていたとかではなく完全に偶然の遭遇で、偶然の相席だった。人の縁とは不思議なものであるなー。
「で、スズキ殿はどうしていたのだ? 聖華学園が吹き飛びかけて*4から」
「あー……まぁ、実家戻った感じ」
「彼女たちをを連れて?」
「……行くところ無いって言ってたし」
「そんな優柔不断だからタカナシ殿に誤解されたままのだよ」
「……うぐっ」
こちらのスズキ殿は、漂流者の出現によって困難の最中にいる一人である。主に色恋の関係で、だが。
彼の聖華学園での渾名は『催眠クソ野郎』
異世界の自分が催眠アプリ(に偽装された悪魔召喚プログラムの一種)を使って女性たちを支配していた、という交通事故に等しい過去の罪業(別人のもの)が明らかとなってしまったがために、女子生徒たちから白い目で見られている系男子であった。
それの具体的な実害としては、高一の時から健全に恋をしている『タカナシ』殿という女生徒からの好感度が絶無になったことがあるだろう。
好きな子に恥じないために異能の使用に踏み止まっている男子生徒に対してなかなか酷な環境ではある。
──その逆境で力に縋り、『タカナシ』殿の心を弄ぶならば処理するだけなのだが、誰に言われるでもなく踏みとどまる事ができている。ので、そんな頑張りを尊敬している己としては、できる程度の力を貸してあげたいと思うのだった。
まぁ1番は『タカナシ』殿の気持ちなので、気持ちを傾けるための具体的な行動を起こせていない『スズキ』殿に対してロクな力は貸せてないのだけどね。このヘタレが
「で、異能については今どのような感じなのだ? だいたい『マリンカリン』なので制御も容易かろう?」
「下手にやって暴発するような癖つけたらダメだから、プログラム無しでは使ってないよ。先生たちに暴発したら……あれじゃん」
「殺されたくはないものなー」
「大体の先生が催眠の発動から着弾までに僕を殺せるってマジで笑うよね。そもそも催眠通じない人も多いし」
そう言いながら、彼は『マカーブル』やら『シルキー』やらの
彼は、魅了系の異能使いではあるのだが、魅了系に対しての耐性を所持してはいなかった。そのための用心である。
「異世界から来た彼女たちは、やはり隙あらばやってくるのか?」
「……うん。怖くて手放せないよ、コレ」
なお、異世界の『スズキ』殿が催眠アプリを使えたのと同様に、異世界にて引っ掛けた女性たちも催眠アプリ(潜在能力を覚醒させているだけなので実質自力】を使うことができている。びっくりする事にできてしまっている。
その結果、エロエロパッパラパーな日々を取り戻そうとした女性たちは日々隙を見て『スズキ』殿を催眠の魔の手にかけ、自分たちを淫らに変えた異世界のスズキ殿のような鬼畜外道へと変貌させようとしているのだった。いや、マジで距離とった方が良いと思うぞ。本当に。
「やはり金などを渡してどこかにやるのが正しい気がするぞ。スズキ殿が破滅しかねん」
「なんだけどさ……あんな苦しそうな目をされると、見捨てるのは正直しんどいって」
「己としては嫌いではない心向きではあるのだが、それ『タカナシ』殿に胸を張れないやつでないか? 縋り付かれれば恋人でも無い女性を助けるというのは、
「……うぐっ」
胸に手を当ててぐでっと倒れるスズキ殿。
割といつもの光景だった。
ストローでジュースを飲むと、カラリと氷の当たる音がした。飲み切ってしまったらしい。
だがしかし、ファミレスにおいては飲料のお代わりが可能である。
ドリンクバー・システムを考え付いた者はおそらく天才であるだろう。ジュースを取りに行くのはそこそこ楽しいし、複数の味を選べるのは魅力的だ。原価を考えると相当飲まなければ得にはならないらしいのだけれども、ジュースを選ぶ時間のワクワク感を考えるならば十分に得であるだろう。素敵なシステムだ。
「ドリンクバーのお代わり取ってくるが、スズキ殿はなにか必要か?」
「あー……じゃコーラお願い」
「了解だぞ」
飲み切った己のコップとスズキ殿のコップを持って、てくてくとドリンクサーバーのある場所に行く。
コーラとメロンソーダをコップに入れ、テクテクと戻っていく。
すると、スズキ殿はスマホを見てため息を吐いていた。幸せが逃げると言うておるだろうに。
「戻ったぞー」
「あんがと……ジエン、ちょい見て」
「なんぞ?」
差し出されたスマホを見る。
画面の中には、彼のバイト先からの研修動画があった。かつての世では一子相伝とも言えた『弾丸』の製法についての解説動画であった
字幕と合成音声がついており、『ずんだの妖精』である彼、あるいは彼女の可愛らしいボイスであるが、難解な表現とアカデミックな用語がポンポコポンと出てくる頭の痛くなる動画であった。
「これは?」
「バイト先で作ってる新入りバイト向けの動画だって。ほら、この前の
動画の中では、
弾丸に呪術的な作り方で作成した特殊薬品を注入し、精密な調印により弾丸内部に作り出した結界の中に封じ込めるという工程についての解説であり、『催眠術を用いた精密動作により、初心者でもかんたん!』とテロップが示されている。
「……現場を知らない上の判断のやつであるな」
「だよね! 催眠を使っての精密作業とか簡単に言うけどさ、個人個人の筋肉量だの疲労度だのその日のコンディションだのを正確にプログラムに入れないと弾丸がぐっちゃぐっちゃになるやつだよねこれ!」
「自分自身へのコントロールだとその辺のマスクデータは感覚で分かるのだけど、他人への操作となると地獄になるやつなのよな」
このあたりは実際にその手のシステムを回す側になってみないと分からない話なので無理はない。ないのだが、現場としては『クソが』と思うアレであった。
「これ、『
「まぁ、わかってた。愚痴りたかっただけだし」
こんな感じに、『催眠パワーをバイトの効率化にて使う』というアイデアを出したのは己である。催眠の異能を持っているが、それを全く使わないのはむしろ健全では無いという考えからだ。
とはいえ、それを磨いて弾丸への調印とかいう超精密動作までに適応させたのはスズキ殿の努力である。
「てかこれさ、『上司に業務効率化について話すなや!給料変わらねぇんだからよぉ!』みたいなネットの胡乱な話の類型じゃない?」
「己その言は割と分からぬぞ。規定の期間内に仕事完了できぬと回り回って自分が死ぬではないか」
「……そうかな?」
「というか、スズキ殿は催眠で時給上がったと言っていたではないか。甘んじて受け入れろ」
「まぁ、無理なら無理と早めに伝えるべきだとは思うぞ」と補足はしておく。スズキ殿のバイト先である工房は頭が堅く金払いの悪い、などという体質ではないので、話せばいい感じに落ち着くであろう。
ということで、スマホの操作を続ける。
「てか、今更ながらジエンはなんでスマホ5つも並べてんの? いつもの奇行にしては長くない?」
「アニメ用、掲示板用、動画用、SNS用、漫画用で5つだな。コンテンツ視聴の時間が足りぬのだ」
「え、操作してる?」
「してるぞ。ほれ」
スズキ殿にスマホを見せる。掲示板でスクロールをしたり、SNSで検索などをしてみせる。
「え、触ってないよね?」
「スマホの操作って触れることで画面の上に電位差が生まれることでのものだから、
「へー、すごいね魔法」
「けっこう練習したからな。地元とは違って、この世界ではスマホのジャンクパーツあんまり貴重でないから、練習できるようになったのだ」
流石に破壊が怖いのでメインのスマホは使えないのだが、ちょっとした作業の際に手を使わないでやれる事の快適さは侮れない。
「そんな便利なのを学校でやってないのはなんでなん? 見せびらかしそうなもんだけど」
「ちょっとしたMAGの影響で四散する程度の電気量だからな。皆が好きに勝手に動き回る学園では不可能……とは言わぬが、まぁ難しいのだよ」
「ふーん?」
などと言ったスズキ殿は、異能を使う時の要領でMAGを発露させた。そうくると思ったぞ
「あ、お絵描きアプリ起動してる」
「そう、これがスズキ殿のパワーによって乱された己のスマホ操作だ」
絵に描かれているのは、最初だけ妙に達筆で描かれている『寿限無』殿の名前であった。
寿限無寿限無五劫の擦り切れかいじゃりすいぎょぉぉのうんぎょまつふんぎゃらほい
と、途中で諦めたのだけれども
「ふんぎゃらほい?」
「ふんぎゃらほいである。なんかそうなった」
「操作してるとこ見えないからこの微妙な展開が狙ったものか分からないね」
「うむ。ネタとして走るならもっと頑張るべきであったのだが。思ったよりスズキ殿の力の影響が強くてな。もっとカスみたいなパワーであると思っていたぞ」
「まぁ……はい」
「……やったのか? MAG太りするようなことを」
「やってないやってない。……筈。自分で自分の記憶が信じられないのはアレなんだけど、少なくとも自覚的にはやってない」
「まさか……押し負けて家に彼女らを泊めるようになったのは……」
「怖い冗談言わないでよ……冗談だよね?」
怖かったので、店員さんに断りを入れて『鬼女クロトLV52』を召喚し、『ディアムリタ』を使っておいた。素材悪魔として集めたやつだった。
「そこの男子学生どもー、終わったかー?」
「あ、すまぬがドリンクバーをもう一つ頼むぞ。クロトが物欲しげに見ていてな」
すると、ガントレット内部からやいのやいのと抗議の声が聞こえてくる。抗議の声を上げているのは主に学園での模擬戦より今日までにちまちま集めた連中だった。
貴様ら全員にドリンクバーを提供することなど契約にないだろうが。
あとで業務スーパーでジュースをデカいのたくさん買ってやるから黙るがいい。
「あ、貴様には買う分のジュースは飲ませぬぞ。クロト。ドリンクバーの分があるからな」
「……ッ⁉︎」と戦慄の表情をするクロトは、すぐに切り替えドリンクバーへと駆け寄って行く。
元を取ろうとさまざま飲むつもりらしい。浅ましいと思う者もいるかもしれないが、己は好ましく思うぞ。
「ねぇ、なんでジエンは仲魔に反逆されてないの?」
「己が強いことと、ガントレットの縛りが強いことなど色々あるのだろうが、一応言うのならば断りなく契約を破ったことはないからだな」
仲魔の契約は基本的に『自分を強くしろ』、『敵と戦わせろ』、『自分を楽しませろ』などである。
契約内容以外でどれだけ酷い目に合わせたかはまぁ考えるまでも無いのだが、契約だけはきっちり守っているので己の仲魔たちは不満こそ言うものの基本的には従ってくれているのだ。
まぁそれでも破らざるを得なくなる盤面はあったのだが、その時はなるべく許可をとっているので、仲魔たちの心情的にはギリ許せる範囲とのこと。
ドリンクバーにてリンゴジュースを取ってくるクロトを尻目に、スマホの操作を続ける。
「それはそうと、今日のジエンってなんか……ローテンションすぎない? 悪いものでも食べた?」
「悪いものはそこそこ食べているが、体を壊すようなものに心当たりはないな」
「……何食べたん?」
「仲魔集めの際に赴いた異界の主が邪鬼オンギョウキでな。人型の捌き方忘れないがてら焼肉にしたのだが、あんまり良いもの食べてなかったようで肉が硬い臭い不味いでダメダメだったのだよ」
人型の悪魔などは、美味に食える部分が少なくて食すのには適していないのよな。この世界に来て美味しいものを食べ過ぎてしまったから、舌が真面目になってしまった可能性もあるけれど。
「……そういうの、やめない? 何の得もないでしょ」
「いや、人型悪魔の捌き方はマニュアル化しようと思っていてな。できれば外国語に翻訳しやすい形にして。そのマニュアルの動向次第では十分に金になる」
「そりゃまたどうしてそんなことを」
「この配信者殿を見てくれ」
スズキ殿に、壊れてもいい度No.1のスマホを見せる。DDSにて共有されている海外での投稿動画だった。
その中では、ダンジョン内部にてドワーフ混じりと思われる兜の男性が手際よくケルピーを捌いて、馬刺しにしていた。
それを固定カメラ(おそらくスマホ)にて撮影しているようだった。
『センシ』と呼ばれている彼の言葉は英語圏のものであんまり分からぬのだが、撮影者と会話しながらレシピというか、悪魔調理法の指南をしているようだった。
悪魔の処理、調理、どれにも澱みはなく、さくさくと、しかし丁寧に悪魔が食事に変わっていく様はちょっとした魔法である。
「で、これが悪魔食界隈に絡んでいないDDSのグルメ界隈で話題になっていてな。多種多様な失敗談が湧いて出ているのだよ」
「ふーん……で、人型悪魔食のマニュアルなんだ」
「うむ。最初の何人かには無償提供をすることになるだろうが、そこから口コミで広めていけばそれなりに稼ぎになると踏んでいる」
なおキリギリス掲示板の悪魔食界隈で出た話となるが、『センシ』殿が出ているこの動画を撮影したのは彼の一党のリーダーであるらしい。
キリギリス掲示板にて動画がちょっぴり拡散した際に火消しに来た者によると、リーダー殿の個人的興味のために記録した映像が、寝ぼけて操作を間違えて投稿されてしまったらしい。
現在DDSにて出回っている映像の方は二次拡散だ。そのときに出回った映像がなんかの拍子にDDSに投稿されてしまったことによるものだろう。迷惑な事だ。
現在彼らは動画投稿をしておらず、元気に自由に欧州圏でダンジョンに潜り戦いと食事を繰り広げているとのこと。
「けど、人型悪魔の捌き方って、実質人間の捌き方じゃない? そんなん広めたら一般市民が食肉に早変わりしそうで怖いと思うんだけど」
「己の地元では食肉加工技術の共有でむしろ人間の生存率は上がったのだが、この世界でもそうだとは限らぬからなぁ……」
「やはり公開するのはやめるか」と口に出す。苦渋の決断、と言うほどではないがまぁそこそこに悲しみがある。
「てか、なんで人の捌き方が知られると人間のの生存率が上がったのさ。ジエンの地元ってカスオブカスの世紀末世界でしょ?」
「世紀末世界でも美味しい物は食べたいであろう? そうなると人を殺す際に処理しやすいように形を整えて殺すようになる」
「それは人殺しの効率を低下させ、死体の損傷を少なくし、結果としてハンターが助けに入るまでの猶予時間の増大、および蘇生成功率の向上に繋がったわけだ」
多分、このあたりの効果は
「なんか、塞翁が馬ってやつだね」
「そうだなー」
だが、それは口に出さない。皆の想像している己の地元のイメージをさらに斜め下にぶっちぎる実情が知れ渡ると、そこでランク8とかいう地位に居た己のイメージもさらに下がってしまうためだ。
まぁ、下がっても『まぁ良いか』と思われる方向に評価は調整しているので大事にはならないと思うのだけれども、この前のシャナイア殿のように『生かしておけぬ……』となられたら困る。
そう思う正義感の強い者を、己の生存だけの理由で殺してしまうのは忍びないというものだろう。
「む? 貴様、何故ここにいる?」
「む? そちらこそ何故に?」
「要件が早く終わったのでな。貴様との待ち合わせまでに食事を取ろうとしたまでよ」
そんな言葉を言ってのける者は、ドイツ国旗を模ったような配色の覆面を被った変なのであった。
「……ねぇジエン。何? この……何?」
「この前の学園模擬戦で友人となった者だ。──今の名前は、何で通すべきだ?」
「『ルドガー・バーホーベン』とは仮の名。今は『シュバルツ・ブルーダー』で通している」
「ということでシュバルツ殿だ。偽名だが、気にしてくれるなよ」
「名前より何よりその顔面の覆面取るべきだと思うんだけどなぁ……キン肉マンじゃないんだから」
「そういえばアニメやっていたらしいな。皆が楽しげに語っているので、良い作品だと思うのだが、まだ見れていないのよな」
「そういう素晴らしい作品とか思ってるなら、そのアニメの見かたやめた方が良いと思うけどなぁ」
「アニメーション……これか」
「控えめに言ったとしてもこれは作品への冒涜だな。3000倍速程度か?」
「だいたい3600倍速であるな。もうちょい早くても見れるのだが、スマホをちょいといじった程度ではこの程度が限界なのだ」
「では聞くが、内容の理解はできているのか?」
「うむ」
「ヨブ・トリューニヒトなる民主主義政治家が今完全なる私怨にてロイエンタール殿に始末された場面であるな。ブライドのために流れで生まれた戦争を実際のものとしたのは『殺せる盤面が回ってきたら殺すよなぁ』と納得できるし、その上でも敵となってしまった皇帝に対しての敬意を捨てていないのは好ましい。従って死んだ兵士たちは気の毒であろうが、己は好ましく思うな」
「……クッ、完全に内容を理解しているか」
「てか、見てたの銀英伝だったんだ」
情操教育と、政治への理解の足がかりと、敬語の勉強と、ついでに推し作品への布教として『銀河英雄伝説(旧アニメ版)』の視聴を薦められた感じあった。
間違いなく推し作品の布教が理由の9割であとは己に薦める理由をでっち上げるための言い訳だったが気にしない。事務員さんそういうところあるし。
「だが……やはりあまり好ましく思えんな。アニメーションは行間を時間で演出していることも多い。1倍速で感じる緊張感と、3600倍速で感じる緊張感は異なろう」
「あー……最近だと『ダンダダン』のアニメでそういう演出ありましたね。互いに悩んでもどかしい時間を作ってから『また明日』ってなるやつ」
「なるほど、そちらのアニメーションは見ていなかったが、興味が湧いた。『ダンダダン』で検索すれば作品にアクセスできるか?」
「はい。漫画も10月いっぱいまで無料公開してますよ」
「……なぁ、つまり行間の時間感覚を感じるには、倍速再生は難しいという話でいいのか?」
漫画を読んでいたスマホにて『ダンダダン』を検索し、ジャンプ+にて読み始めつつそう口にする。
「ならば、己の意識の方を3600倍速まで加速すれば、相対速度は等しくなり時間のギャップは生まれないのではないか?」
「そんな妙なことできるわけ……そっか、ジエンなんだ」
「……戦闘時のように、
「というか、己皆の言っている非戦闘時の、1秒を1秒として認識する思考方法が苦手なのだよ。何故にそんなことができるのか不思議でならん」
「……常在戦場って話?」
「いや、これは逆立ち歩きを覚えているのに二足歩行を知らない、という話だな」
「そうそう」
まぁ、1秒のカウントの仕方覚えてからは他人に合わせるのは不可能ではなくなったのだけれども。聞いたこと見たことを秒数のカウントに合わせて整理すれば普通に会話もできるし、他人の言葉も理解できる。
のだが、他の皆はその辺りを行わずとも自然に会話ができるというのだから、びっくり仰天であった。世界が変われば己と似たような性質の人間もいるか? と思ったが、未だ見つからない。
意識して常に思考の加速をしている人間はそこそこいるので、やはり自然にやる事ではないのだろう。その自然を教えろください。
「話は逸れたが、貴様は何をしていた? 待ち合わせの時間はまだ早かろう」
「あ、ジエンはこの人と待ち合わせしてたんだ」
「ちょいと、違法レルムを回って知り合いたちの所在を確認していた感じだな。だがすぐに皆死んでいたと分かってしまったのだよ。違法レルムを電磁波でレンチンしたのと、富士山で大炎上した『ダービー』なる者の蜂起*7に賛同したので殆どだ」
「富士山の件の首魁は『
あ、ついうっかり。
「荼毘って漢字読めないのはわかるけど、ダービーって変な呼び方するのは違くない?」
「さては貴様……知り合いだったな?」
ギラリと鋭い視線で己を見るシュバルツ殿。下手に誤魔化すよりは、正直に話した方が良いだろうな。
「この世界の『荼毘』なる者との接点はない。己の
なんでも、仇であるところの肉親をどこぞの悪魔に先に殺されてしまったことで燻っていた所だったらしい。そんな意気消沈でなんならもうすぐで自分の炎で燃え尽きるだけだった彼に、「どうせ死ぬなら笑って死のうぜ!」と救世主陣営への決死行の際に誘ったことがあった。
そのときノリノリで燃え盛ってくれた彼がいたからこそ、今日の己は生きているのである。己を生かした多くの犠牲の一つであり、大切な記憶だ。
「しんみりした感じに言ってるけど、ジエンが生き残ってるあたり普通に捨て駒にしたよね? それ」
「普通に己も捨て駒の側だったぞ。ダービー殿が良い感じに燃えてくれたことで悪魔王陣営が横槍を仕掛けてくる隙が生まれてな。その時逃げられる位置に居た己はさっさと撤収した訳だ」
己が死ぬかダービー殿が死ぬかは、コインの裏表程度の違いであったのだろうと思っている。己が生き延びたのはまぁ運が良かったと言う話だ。
「少し話は逸れるが、異界の私が貴様と死合ったのは私が『救世主』、あるいは『悪魔王』の手勢となっていたからか?」
「……なんのことか?」
「貴様の動きは明らかにそうだったが?」
誤魔化そうとしたが、見透かされた瞳と共にぶった斬られる。あんまり言いたく無いことを暴かんとしやがって
言いたく無いだけで隠す理由はないから、普通に話すのだけれどね。
「己の地元では、『救世主』と『悪魔王』なる二台巨頭がいた。どこから出てきたかは知らぬが、法の世界と混沌の世界を望む強者たちだった」
「……ふむ」
「レベルは90程度なので、この世界基準ではまぁ普通だな。本人たちがどこかやる気がなかったというのもあるかもだが」
「そんな連中に対抗する人間たちは、食えずに弱る事はあっても数が増える事はあまりない。そういうことで、GPが上がって敵戦力が整う前に最大戦力で首を獲りに行ったのだよ。『決戦』とか呼ばれていたことだ」
「当時、人外ハンター商会全盛期には様々な強者がいた。ハンターネーム『ニッカリ』や風殿などだな。だが、それでも手傷を負わせるまでしかならなかった」
「ただ、運のいいことにその負傷によって膠着状態が生まれたのだよ。『救世主』と『悪魔王』、互角の両者が同じ程度の傷を受けたことで、互いに傷を治す事に専念するしかなくなった。治療が遅れた方が先に治った方に負けるからだな」
「──そこに付け込んみ、リソースの配分をコントロールしたのが人外ハンター商会だ」
「──人間を食わせる量か」
シュバルツ殿の言葉に頷き、言葉を続ける。
「片方が過剰にリソースを得たならば、天秤を整えるために逆側にリソースを流せるように整えた。無論、リソースを得た側を攻撃することもやったのだが、『決戦』の際に敵主力と戦える戦力は全員死んだからな。攻撃に成功することなど稀だった」
「そんなことが可能だったのか?」
「可能だった。人外ハンター商会は各シェルターの通信網、物流網、生産網を掌握していたからな。食料やエネルギーを人質にすれば、逆らえぬよ」
シュバルツ殿の内側に秘められた殺意が研がれていくのを感じる。外道も外道の話であるから当然だ。
「笑える話なのは、悪魔たちのスタンスだ。彼らは人間が増えない事を理解しているから、効率的にリソースを確保するために人間を生かして利用しようとした。対して己たちはそいつらが天秤を崩す要因になると知っているから、積極的に殺そうと動いていた。悪魔が人の命を守り、人間が人の命を奪う側、という冗句のような事に為っていたのだよ」
そう、誤解の出ないように前提情報を与えていく。この時点で、だいたい察したような気配はあるが、ここで口を閉ざすことこそ余計な邪推を生んでしまう。まぁここから出てくる邪推なぞだいたい正しいのだけれども。
「まぁ、そんなクソども相手には刃向かわんとするのが人間の魂であろう?そういうわけで、シュバルツ殿のいたシェルターは『皆で頑張ろう!』となり、それを邪魔に思った己により壊滅させられた、という話だよ。嘲笑ってくれてかまわんぞ」
「……貴様は、命じられただけであろう?」
「途中で放り出して死を選べる自由は常にあった。そうしなかったのは、我が身可愛さでしかなかろうて」
なるべく平坦に、なるべく主観の混じらないように語る。加害者が『そうしなければ皆死んでいたんだ!』だの感情的に語ったところで『だからどうした』と殺されるのがオチである。
「未来を切り開くために戦う正義の忍者のシュバルツ殿と、邪悪のハンタージエンが殺し合うこととなった、というのが己の世界であったことだ。自身が邪悪の尖兵になってしまったなどということはない。安心してくれ、シュバルツ殿」
「……解せんな」
「嘘は語っていないが」
「いや、そうではない。私は私を理解しているつもりだ。勝算のない戦いに向かう集団を諌められぬ程の醜態を晒すには、特別な故があるように思う。無論、これは私が私自身を買い被っている可能性もあるが」
その言葉を適当にぶった斬るのは忍びないので、そのとき何があったかを思い返す。
その当時はシュバルツと名乗らず「キョウジ」と名乗っていた彼はの行動はお台場エリアのシェルター付近に限定されていた。
また、彼の弟が『決戦』の際に亡くなったことも知っている。その妻が出産の際に命を落としたこともある。
そのことから、「子供を、未来を守る」ということに関して絶対的な芯を置いている強力な戦士である。
なので、先んじてシェルター内部に致死性の毒を撒いてから交戦を開始する。というのが方針だった。
そこに、妄想混じりの物語を加えて話を作る。戦った際の鬼気迫る表情が、どのようにして肉付けされていたのかを逆算する形での思考である。
「──おそらくだが、シュバルツ殿の甥子か姪子がシェルター内にいたのだろう。弟殿の死亡時期から逆算するに、己と同世代だ。それが10歳程になっていたならまぁ廃人になっているからな。助けが無ければ生きれまい。そういう理由でコミュニティから大きく背くことができなかった……というのが、推測できる」
「……廃人になるとは?」
「己たちの世代の子供達は自分と死者たちとの境界が曖昧になりがちでな。死者の『死んだ』という記憶の残滓に釣られて
これは、『ワクチン』と称して投与された過去の決戦で死んだ戦士たちの
「とはいえ、戻って来れる面々は3日とかからず生きてることを思い出すし、己など2時間以上死を錯覚した覚えはない。なのだが、皆が皆そういう訳ではなくてな」
「歳を重ねるごとに知識が深まり、死の『解像度』が上がっていく。なので、10歳になってもまだ生きていた面子など数える程度しかいなかった。シュバルツ殿の甥子、あるいは姪子とて介助がなければ生きてはいけなかったのだろうよ」
「そういう者が身内にいるならば、心は弱り今のシュバルツ殿には考えられぬ道を選ぶこともある」
「まぁ、これは己の記憶と周辺情報からの推測という面が大きい。また別の理由にてその道を選んだ可能性は十分にあるぞ」
「いや、おおよそのところは正しいだろう。理由はないが、納得はした」
「ねぇジエン。なんでそんなクソ重い話を俺が老いるところでやったわけ? 気まずいんだけど」
「だそうだぞシュバルツ殿。話を持ち出すのはいいが、場所は選ぶべきだったように思う」
「確かにそうだ。謝罪しようスズキ少年。変わりといっては何だが、ここの支払いは私が持とう」
「いや、払うべきは10:0でジエンですよシュバルツさん。このアホが無駄に重い話をするのが悪いです」
「すまぬな。できるだけ軽く話したつもりであるだが」
「お前が軽い感じで話すこと自体が重いんだって」
「むぅ……」と唸りつつメロンソーダを啜る。やはり、御涙頂戴の感動小噺にして、その後すぐに切り替える方が皆は受け入れやすいのだろうか? と無意なことを考える。
「あとさ、シュバルツさんからは見えてないかもだけど……」
「そんな重たい話しながらスマホで『ダンダダン』読み進めてるのはマジでどうかしてると思う。マジで神経を疑うから。いやジエンがおかしいのは十二分に知ってるんだけどさ」
その時。初めてシュバルツ殿が戦慄の表情を示した。「マジかコイツ⁉︎」みたいな表情であり、今まで飄々としていた彼の面が初めて歪んだ時であった。
「貴様という奴は……」
「いや、読んでいると止まらなくてな。キリの良いところまで、と思っていたのだが……つい」
「ついで許される範囲じゃなくない?」
「いや、許すか許さないかを決めるのはシュバルツ殿だ! どうか?」
「許す訳なかろうが戯けめ。ここの代金は貴様が持て」
「……あい分かった! 好きに食べると良いぞ大の大人よ! 金欠男子中学生に奢らせる気分はさぞ惨めであろうがな!」
「その男子中学生が貴様でなければ末代までの恥となろう。しかし、貴様であれば何の躊躇いもあるものか。精々惨めたらしく呻いていろ」
「おのれシュバルツ・ブルーダーッ!」
「ところで、フラットウッズモンスターって知ってる?」
「なんの話であるか突然に。あいにく心当たりはないな」
「へー、そうなんだ」
スズキ殿が突然に謎の言葉を言ってのける。普通に意味不明だった。
なにか分かった風にニヤニヤしやがってからにちくしょうめ。
「あ、店員さん。うな重の松お願いします」
「せっかくだ、私も同じものを貰おうか」
「うな重はかっとび過ぎではないか貴様ら⁉︎」
その喧騒は、駐車場にネーデルガンダム殿が来訪するまで30分くらい続くのだった。
あとがき
ダンダダン無料公開の間に投稿したかったので前編です。まぁ後編でもやることは久々のリオさん側での日常話なんですけど。
・特技は3600倍速動画に意識を合わせて等速アニメとして見ることなジエンくん(重い話のあとには身体を張ってでもオチを作るタイプ)
人類屈指の才能を無駄遣いすることにかけては右に出る者がいない類の超人。なお、スマホを電撃魔法の応用でタップすることについては「Bluetoothマウスの信号を思念操作した方が安全で確実じゃないですか?」とぶった斬るフジワラちゃんがいるとかいないとか。
動画の3600倍速はむしろ遅いと感じているレベルであり、コンテンツの消化速度を高めるための効率化には頭を悩ませている。
スマホ5台でアニメ漫画掲示板などの同時視聴をしていてもジエンくん基準では『ゆっくり』であり、特別なことがなければ隅々まで内容を把握し、感動できている。
ワクチン(鴻上製)の改良が全く無い初期ロットを投与された世代であるが、ジエンくん本人は死の錯覚に呑まれずに生きていた。「むしろ何故死んだままにいられるのかが分からない」というのがジエンくんの談。絶対に基準にしてはならない外れ値である。
・催眠クソ野郎(冤罪)、ただし異世界では真なスズキくん。
前世でやらかした結果が今世に追いついてきた結果、健全で純愛な初恋が蹴っ飛ばされようとしている男子高校生。男子高校生として積み上げていた好感度は現在マイナスまで落ちているので、初恋の成就は絶望的である。
なお、それはヘタレて全然アプローチを仕掛けなかったからであり、なんなら健全に好感度を積み上げたところで催眠アプリでも使わなければ普通に振られる程度の魅力しか無い普通の男子高校生であることが原因である。
催眠系の異能で他者を害することからギリギリで踏みとどまれた善良さを持っている。のだけれど、それが魅力的な男性として映るかといえば微妙な話であった。
そういう点を美徳と思ったからジエンくんは手助けをすると決めたが、それは前世で催眠エロエロをしていた女子たちが足を引っ張るのを止めるのがメイン。背中を蹴っ飛ばされていないので、ヘタレ男子の高校生の恋は実ることはないだろう。
モデルはサークル【ショコラテ】様の『催眠カノジョ』シリーズより、主人公の『鈴木』くん。えっちな同人誌で男子生徒との会話は数える程度で、ほぼ捏造です。
ドリフによってわりと洒落にならない迷惑を被ってるが、それでも等身大で生きてる感じにしてみました。ジエンくんの属性弾の仕入れ先としてちょいちょい使う予定です。
・過去周回の話を流れで聞いた結果、男子中学生からうな重を奢られる事となった謎のゲルマン忍者シュバルツ・ブルーダー
クソ重い話の最中に漫画を読み進められていたという事実から割と本気でジエンくんの事を殺すべきかと悩みはじめた。が、『ダンダダン』のアニメを見た事で納得した。
ジエンくんはジエンくんなので、うな重(松)を奢られた所でカケラの良心も痛まない。そういうことになった。