姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 作:気力♪
「仕事の後の銭湯は格別であるなー」
「ふむ。湯自体に特別なものはないが、設備は入念に整備されている。良い湯だな。ネーデルガンダムが入れないのが残念だ」
「であるなー。本人は駐車場でのんびりネットを楽しんでいるという話であるが」
仕事終わりの裸の付き合い。というには己のガントレットと奴の覆面が異彩を放つが、まぁだいたい裸の付き合いである。
こちらの銭湯『草津温泉風湯布院』では身体に機械やら悪魔やらが混ざっている人でも銭湯を楽しめるようにするルールとして、そういう部位にはラップのようなものをつける事が義務付けられている。
前提として耐水性能は必要であるが、ラップみたいなやつでお湯に油などなどが入らないようにすれば良いらしい。まぁ故障しても温泉側は一切負担しないという話なので扱いには気をつけないとダメなのであるが。
とはいえルールは厳密に定められているわけではない。様々な世界の技術が急に湧いてきたがために、ルールの想定外が多発するしてしまうからだ。
加えて、ルール違反となれば殺しにかかる『
なので、マナー寄りのルールしてそれとなく強制するのが対応がやりやすいとのことだった。
「して、今回の仕事をどう思った?」
「ネーデルガンダム殿の再起動実験のほうか? 特にどうとも思わぬよ。学園の時に約束した事であるし」
「……貴様自身の『ケガレ』を活用されることに、不快はないという事か」
「さすがに基礎出力が減るような使い方なら拒絶するし不快に思うぞ。しかし、余波での汚染を良い感じに使う程度ならばさして気にすることもあるまい」
「それを本音で言っているあたりが、貴様の性質なのだろうな」
などと直接の表現を使わずに話していると、「あれ、これ僕も聞いて良い感じ?」と小声で声をかけて来る者がいる。
己と同年代から少し下くらいで、この銭湯というか『由崎ナサ』殿の所にちょくちょく来ている少年だ。
名を、『王道遊我』という。
発明家であり、漂流者であり、「聖華学園はキュークツそうだから」という理由で入寮せず、どこぞの会社付きとなり色々なものを作っている発明家であった。
「己は構わぬぞ。でなければ湯に浸かりながら話すものかよ」
「なら良いや。それって、ジエンの『精神位相差エンジン機構』の事だよね。話聞いた時は普通に便利そうだなって思ったんだけど、なんかマズかったの?」
「わからぬ。肉体の霊的素質以上の出力を引き出せるイカしたシステムだと思っているのだが」
「あの狂気をイカしたシステムなどと片付けるなたわけ」
「時に少年、貴様はコイツのシステムをどういうものだと認識している?」
「残留思念とかをストックして、自分自身の『
「うむ。歩いているだけで周囲の怨念などを吸収できるので、街の掃除にも使える便利システムだぞ。己の通学路では悪魔が出にくくなったとはお巡りさん達が良く言っている」
「……周囲の怨念を自らの内に引き込むことに抵抗感はないのか?」
「いや、便利だし」
「ジエンがそういう考えだから、『便利』って事でいいかなって」
「あと、それがジエン的にキツいとか辛いとかだったら普通に捨てられるから問題なさそうかなって。COMPの機能なんだからオフにしちゃえば問題ないわけだし」
「……確かにそうか」
「アレであるよ。シュバルツ殿は少々真面目が過ぎるのだ」
「……真面目? この覆面で真面目なんだ」
遊我殿が頭にはてなマークを浮かべている所であったが、十分身体も休まったので湯から上がる。
そして水風呂に10秒ほど入ってから、今日一度目のサウナへと踏み込んでいく。
皆のいう「ととのう」なる感覚を味わってみるために、今日も熱風の中に踏み込むのだった。
中に居る者たちに軽く挨拶をして、空いているスペースに座る。
暑さがあるが、不快さはあまりない。
ガラス向こうに置かれているテレビに流れている広告混じりの画面を見ながらぼーっとしてみる。
……ダメだ、暇。
2秒ともたずにガントレットを操作し始めて、『ハンターメモ*1』の流し読みを始める。
内容は全て覚えているし、この世界で学んだことをもとに情報の更新もしたので昔のままの気持ちという訳ではないのだが、だいたい懐かしい気持ちと言って差異はないだろう。
「ジエン、僕も来たよー」
「遊我殿だけか。シュバルツ殿は?」
「耐えられはするだろうけど、機械混じりの身体に不具合出たら面倒だからってさ。すっごく悔しそうにしてた」
「む。サウナの『ととのう』というのはそんなに魅力的なのか。やはり己も試してみたいな」
「僕もあんまり分かってないんだよね。ランナーズハイみたいな感覚らしいって聞いたことはあるんだけど」
「ククク……愚か者め」
「え、誰?」
「私は……そうだな、『謎のサウナー仮面X』としておこう」
「別仮面つけてなくない?」
「あー……遊我殿。この人昔邪悪サウナ組織で下っ端をしていた者でな。名前は名乗れぬ類の人なのだ」
遊我殿は「邪悪サウナ組織?」一瞬悩んだが、「まぁ、そういうこともあるよね!」と秒で思考停止した。
特に悪い人ではないし、ただの変な人としてスルーすることにしたのだろう。
「して、何故に愚か者と?」
「簡単なことだ。ジエン君、君はこのサウナという神聖な空間において一瞬たりとも『リラックス』をしていない。時間を無駄にせず自己研鑽に努めるのは美徳だが、サウナにおいては邪道も邪道!」
「休もうと意識すること。それが、『ととのう』への第一歩なのだ」
「あー、それちょっと分かるかも。僕もサウナ入ってるときに『
「休むことそのものを主目的とすること、それが『ととのう』への前提条件ということか」
「たしかに己も苦手だな。未来のタスク量と休憩時間を計算して、逆算して体力の回復を行なっているので、『休むために休む』というのはあんまりしないのだよ」
「アニメとかゲームとか漫画とか、やっときたい事多いのだよなー」と呟けば「……クッ、それもそうだ」と論破されかけていた。
そんなんだから漫画のネームボツにされまくってるのだよ。もっと我を貫け我を。
「まぁ、やってみようか。思考に回すリソースと、肉体補強に回すリソースを全て引っ込めて、うなる熱に身を任せれば良いのだろうか?」
「ええい言語化をするな野暮な男め! 感じるのだよサウナを!」
ぷんすか怒っている彼を尻目にちょっとやってみる。
「ふぁ〜」
「……ッ⁉︎」と息を呑む声がする。そんな変な仕草はしていないつもりなのだが
「ジエン! ストップストップ!」
「貴様、熱に身を任せろと言ったが
「む?」
脱力している意識を戻し、神経からの
「しまった、溶けてるな」
グッと力んで人型を取り戻す。
手足をプラプラさせながら形を戻し、細かい部分の微調整をすれば、元の人体に巻き戻る。
「気を抜き過ぎたな」
「気を抜くとスライムになるのは病気か何かじゃないかなぁ⁉︎」
「いや、そうならないように設定をしている筈なのだが……あ」
やっべ『人型キーパ*2』アプリ再設定するの忘れてた。
「うむ! 原因は分かった! 普通に安全装置入れ忘れてただけだな!」
「重大インシデントスレスレではないか⁉︎」
「特に問題は起こらなかったが、幸運だっただけだな。気をつけねば」
「やらかしたなー」と口に出しつつも実のところそんなにミスとは思っていない。
『人型キーパ』アプリケーションは、己のガントレットに搭載されているハンターアプリだ。己に適したハンターアプリとして悪魔召喚プログラムが自動で組んだものである*3。
効果としては、
特に悪魔変身を阻害するシステムではなく、気合を入れれば『人型キーパ』があっても普通に悪魔の力を振るうことができる。要は悪魔変身者の補助輪であった。
「てか、ジエンってシフターだったの?」
「微妙だな。いや、悪魔変身とかはできなくはないのだけれど、悪魔変身先が雑魚すぎて変身する意味がカケラもないのだよ」
「ジエンならどんな悪魔でも使いこなせると思うんだけど……」
「なんというか、火炎、氷結、電撃、衝撃、破魔が弱点になってな。加えて言えば己の『技』による打点確保もできなくなるので、打点の意味でも使う理由はなく、さらに言えば悪魔の身体では動きのキレ鈍るので本当に使い道はないのだよ」
「けど、悪魔変身者ってカードとかを使った悪魔合体で変身先を変えられるんじゃなかったっけ?」
「試したが、八回中八回合体事故で合体先は変わらなかったのだよ」
「合体事故で変わらない? ……あ」
「うむ、そういうことなのだ」
どこの合体事故からでも成立するある悪魔。それはMAGが足りなかったが故に大悪魔がそうなったり、あるいは合体法則が適していない時に出力される事故の姿。
そう、『外道スライム』である。
なお、己の変身先の悪魔はもともと別物だったのだが、一回闇落ち(笑)した時の流れで『ぐちゃぐちゃ』にされた結果『外道スライム』となったのだ。というダーティが行きすぎている成り行きについては話さない。『遊我』殿も『元邪悪サウナ組織所属、現在漫画家志望の謎のサウナー仮面X』殿も笑い話として笑ってくれるタイプの人間ではないからだ。
相手に合わせてネタの黒さ深さを変えること。これがTPOというものだ。カスとクズしかいない世界で周りを笑わせるために培ったネタの数々がこの世界では「不謹慎」とか「そういうの、どうかと思うな? (訳:お前を殺す)」という反応が返ってくることがある。なので注意しているつもりなのだ。まぁ根っこが根っこなので頻繁にガバるのだけれども。
「では、今度こそ『ととのう』に向けて一歩踏み出してみせよう!」
「……今の流れで再度サウナに集中するというのか⁉︎」
「……あ、僕はもう出るね。ツッコミしてただけだけど、熱くなっちゃった」
「無理はするなよ少年。ヒートショックを起こさないよう、水風呂に入る時は足先からゆっくり入るのだ」
「なんか怖いって聞くよねー」
ひらひらと手を振りながら遊我殿はサウナを出ようとする。
その時ちょうど誰かがサウナの中に入ろうとしてきており遊我殿は扉を掴み損ねてふらついていた。
「無事か?」
「ありがと、おじさん」
ツギハギ殿の逞しい腕に支えられ姿勢を正した遊我殿は、水風呂の方に向かって言っていた。
「ジエンか。今日は学園で知り合った者と組んで仕事をすると言っていたが、もう済んだのか?」
「うむ。ゲルマン忍者のシュバルツ殿と、オランダ人のネーデルガンダム殿と組んで異界破りをしていた。己の体質がネーデルガンダム殿の仲間たちの意識を呼び起こせるということでな。協動のついでに起こせるだけは叩き起こした感じだぞ」
「ほう、素直に明るい話だな」
「ついでに、「お嬢様らしからぬ挙動にペナルティが入る『強制お嬢様フィールド』と、異界全体が回転し続けて重力が変な向きをしていた『クイズ:ターイム、ショック』のボス狩りを終えた所だ。どちらのボスも尖ってはいたが、別次元と思えるほどには強くはなかったな」
「相変わらず異界の名前には気が抜けるものが多い、安価で名前を決める文化はいまだ馴染めぬな」
「で、その異界はどんな地獄だったんだ?」
「うむ。『強制お嬢様フィールド』の方は、お嬢様らしからぬ言動、挙動全てにペナルティで異界からの万能属性攻撃、『忘却』か『魅了』のペナルティが降ってくる異界だ。ただそのルールはペルソナ使い、認知異界系列の組み方でな、異界の主であった『神獣ヤツフサ』の嗅覚圏でのみが影響下であったのだ。だから、催涙ガスばら撒いて鼻を馬鹿にしてからサイボーグやマシンのチームで首狩り戦術をやったわけだ」
「貴様は後詰めか?」
「いや、ネーデルガンダム殿に乗って召喚でのサポートしつつ操縦をしていたな。まぁ危険を察知して「かわせ!」と指示を出す程度のものだがな」
ネーデルガンダム殿は自身のAIで動く機械生命体である。しかし、その機体はデモニカ規格のデバイスを差し込む形で操縦できるマシンなのだ。
「だが、解せんな。どうして嗅覚で『お嬢様であるかどうか』の挙動を判別できる?」
「現地では『共感覚』作用によるものと推測されていたぞ。曰く、光を味覚で感じたり、音を色で認識したりできる性質のことらしい」
「わずかな情報を複数の感覚で情報処理することで『お嬢様度』を判定できたということか」
先行調査隊は『音による自動反応』、『監視カメラの存在の有無』、『千里眼による知覚』などなど様々な視点から調べていたが、条件を調べ切る程の時間的猶予がなくなったことで乱暴な解き方になったのである。
「だが、『お嬢様度』というのなら、真実『お嬢様らしい』のを連れてくれば良かったのではないか? 気高い生き方をしているこの世界の女たちなら、通るやつもいるだろう」
「いや、戦闘行為そのものが『お嬢様らしくない』と判定されるのでペナルティの回避不能だったのだよ」
「……いつもの正気ではない異界か」
「戦闘距離まで近づければ異界ルールによる攻撃は使えなかったから、楽な方だったな」
きょうび、レベル70帯以上が出張る異界にはロクなものはない。シロエWikiによる敵データ共有、多種多様な有用スキルの発見、装備の組み方の最適化、様々な理由からレベル+20程度が一般バスターの射程圏内なのだ。
今回の『強制お嬢様異界』のボス『神獣ヤツフサ』はレベル85*4なので、60レベル帯のバスターなら普通に処理できるレベルになっている。
にも関わらず己やシュバルツ殿が出張ったのは、『クソゲー』を強いてくる異界であるからだ。
最精鋭は神話レベルの戦いをし、中堅クラスは狩れる格上を狩っている。そうなると、1.5線級の面々は各地のデビバスがお手上げとした異界を処理することが多くなり、結果『クソゲー請負人』となることとなっている
どこかの組織に属してもいない『我欲』の異界は、本当に色々と濃いのだ。今回の『伏姫ちゃんは我が子を産んでくれなかったが、理想のお嬢様であれば話は別だろう!』という『お姫様を孕ませた犬畜生』の側面が強調されてしまった『神獣ヤツフサ』は、間違いなくその類であった。
失恋のショックを正しく受け入れる事ができず妙な方向に暴走している犬である。そう考えると同情の余地もあるのやもしれんが、もう殺した。
「もう一つの方はどうだった?」
「ガスプラント、というか『巨大な球体』を依代として現世に現れた異界でな。3層の球体が高速で回転し続ける遠心力で、外殻内側が大地となり、中心が天になる状態を生み出して『小さな地球』を生み出そうとしている異界であった。ボスは『龍神アナンタ』であったな。面倒なのは異界中心の天、というか『宇宙』の場に奴が居座り続けている事でな。戦闘エリアでは姿勢制御も難しく、呼吸もできず、剣にも銃にも威力も乗らない*5。という面倒な地の利を取られていた盤面での戦闘開始となってしまったぞ」
「宇宙空間……なかなかの神話体験だな」
「ネーデルガンダム殿が宇宙にも適応しているマシンである事が本当に頼りになったな」
なお、基本3回行動に加えて1/4程度体力が削れる事に『マガツヒチャージ*6』を使い、その次のターンに半呼吸4回追加の『龍の眼光*7』を使い『禍時:乱舞*8』なる連続攻撃が最大ヒットとなる確率操作能力を発動し、『氷結貫通*9』付きの『絶対零度*10』を振り回してくる強敵だった。
「あ、そういえば『アナンタ』の方は『ユニークスキル*11』を所持していたぞ。ヒット回数が多い程打点が上昇するタイプのものだ。強いと噂の『秘神オニャンコポン』様がお付きにしてる『龍神ニャミニャミ』と同系統か、同一のもの*12だったな」
「特化構築にすると凄まじい火力を叩き込めるという話だったな。敵の使う『禍時:乱舞』があれば理想値だが、『千烈突き*13』や『八艘飛び*14』など安定してヒット数を稼げる技使いと組めば
「威力上昇の効果がどこに乗るのかは不明だが、おおよそ一発につき1%上昇程度ではないか? とのことだな。特化パーティであれば1ターン10ヒットは狙えるだろうから、プレスターンでの連撃か『ワンスモア』での追加行動があればプレロマ一回分にちょい届かないくらいのブーストかけられるとは思う。まぁ、全弾ヒットすればの話だが」
「む……それもそうか」
「今回己たちも『フォッグブレス*15』やらをかけまくって『デクンダ*16』誘発し、『威圧の構え*17』で基本プレスを1つ潰して『バルーンシールド*18』で一回の確定回避、そこから回避運ゲーで抜けたぞ。『当たらなければどうということはない』のだ」
なお、先遣隊の話によると『デカジャ*19』の方も所持していたとの話だ。
2段階の強化、もしくは弱体化がトリガーとなり『デカジャ』『デクンダ』を使い出すと聞いていたので、自陣、敵陣にそれぞれ1段階『スクカジャ/スクンダ』を入れて敵の『マガツヒスキル』使用時にどちらか片方を入れれば1手無駄にする。
バルーンシールドの回避で2手潰せるので、『威圧の構え』を組み合わせれば回避運ゲーを1回成功すれば敵のターンを凌ぎ切れるのだ。
6行動のうち2手潰して1回確定回避と1回の回避運ゲー。普通に勝てる賭けである。
その運ゲー突破率を高めるために1段階の回避強化、もしくは命中弱体化を残すというのが『龍神アナンタ』討伐のためのメインプランであった。
「『ミナゴロシの愉悦*20』からの『ティタノマキア*21』など、事故率の高い技をガンガン飛ばしてくるから油断ならない相手であったよ。殺したが」
「洒落にならん相手が多いな本当に」
「ツギハギ殿の方はどうであった? 『有給休暇』という奴であったのだろう?」
「特段妙なことはしなかったな。都内にある美味いラーメン屋に行き、ついでに買い物をしたくらいだ」
「どのような店だったのだ?」
「俺が元の世界で自衛隊をやっていた頃の贔屓にしていたラーメン屋だな。親父の口は悪いが、味と量については一級品だった。俺の知る親父は東京封鎖を越えたあたりで病でぽっくり逝ったらしいが、弟子が店を継いで上手くやっていたよ」
「なるほど。思い出の味は味わえたのか?」
「あいにく昔の味を覚えていられるほど記憶力は良くなくてな。親父の味と弟子の味が同じかは断言できん。だが、過去の話云々を無しにしても常連になりたいと思える程に、美味かったよ」
「それは良いな!」
そうして話に華を咲かせていると、「んッンン』と失敗した咳払いの失敗みたいなことを『謎のサウナー仮面X』が行った。
手振りで、『サウナではお静かに』という張り紙を指さしてくる。おのれ。
「すまない。邪魔をしたな」
「あ、いえ。大丈夫です」
そんな姿をいわゆる『ジト目』にて見つめる。こいつ、己と遊我殿が子供だからの侮ってイキっていたが、歴戦の戦士(ガチ)なツギハギ殿の肉体を目の当たりにしてチキりやがってるぞ。
というかそれなら己の『技』『速』特化ボディにも畏怖するべきでは? とも思いたくなるが、小さく軽く素早いタイプの筋肉にはあんまり威圧感とかはないのよなー。いや、見る人が見れば慄いてくれるのだけれども。
「と、しまったしまった。今彼からリラックスについての教授を受けていてな。『ととのう』にはリラックスが重要であるらしいのだ」
「だろうな。だがお前の落ち着きのなさは筋金入りだ。というか『落ち着く』ということそのものが苦手な
「……む」
「無理に落ち着こうなど考えたところでリラックスなどできるものか。試してみたところで妙な失敗をするだけだろう。……などと言ったが、リラックス云々で失敗など生まれんか」
グッ……と胸を抑える。ついさっき失敗したばかりであった。
「その顔……もうすでにやらかした後か」
「『人型キーパ』付け直すの忘れていてな。リラックスしたら
「待て……お前の悪魔化は確か『死神』とかいう怪物になると聞いていたぞ。フジワラとやり合った時*22に」
「己も最初聞いた時混同しかけたのだが、流石に別物ではないかと思ってるぞ。変身先が『外道スライム』だし、おおよそ強みというものがカケラもない弱体化状態が『死神』とかはちゃんちゃらおかしかろうが。施餓鬼米投げられて死ぬぞ己。というか死んだぞ己」
フジワラに詳しく聞いた所によると、『死』とか『終焉』とかそういう『終わり』の方向に意思の基本ベクトルが固定されてしまう精神特性と、悪魔の力の暴走レベルの出力を死ぬまで放出し続ける肉体特性が合わさって、まさしく『死神』と呼ぶべき全方位皆殺し存在となる。というのが、『ケガレビト』であるとか。
いや、『ケガレビト』という言葉は他の世界で結構色々に使われているから、己の世界の『ケガレビト』の話である。というか己以外全員死んでいるので己だけの話である。
アズサ殿が漏らした断片情報と掲示板で聞く話を総合すると、『家畜人間』なるMAG生産奴隷から叛逆決めて独立したロックンロール市民も『ケガレビト』というらしいので、そっちの風評被害にならないように注意するべきだろう。まぁそっちも大した数は居ないっぽいのだけれど。
「お前、それ琴葉やフジワラなりに話して居ないだろう」
「え、これ話さないとダメな奴か?」
「そういう個人の抱えている爆弾については、後で仲間に知られた時がややこしくなる。本人が『大したことではない』とか言っていたとしても、後出しでの言葉では言い訳にしか聞こえんからだ」
「……そういうものか」
さて、どういう冗句を絡めながら説明をするかと考え始めたところで、「あ、すいません出ます」と奥にいた『謎のサウナー仮面X』殿が外に出る。
それと入れ違う形で、遊我殿がまた入ってきた。水風呂で体を冷やしてから椅子でゆっくりして、二周目を始めようということらしい。
「あ、まだいたんだ」
「いたぞー」
「リラックスはできた?」
「四方山話に花が咲いてしまってな。いつも通りだらだらしているだけだったな」
「ま、そうなっちゃうよね」
「……俺は『ツギハギ』と名乗っている。お前は、なんと言ったか?」
「僕は『遊我』、発明家みたいなことやってるよ。よろしくね『ツギハギ』さん」
「発明家?」
「そうそう。己本気でびっくりしたのだが、車載式の『邪教の館*23』作ったの遊我殿なのであるよ。うちの学園の駐車場『関城殿がひーこら使ってた奴」
「うん。けど正直既存の小型安定型の『邪教の館.exe』への機能追加と動作安定化のためにアプリの優先度組み替えただけだからそう大したものじゃ無いんだけどね。『ナサ』なら2時間くらいで作っちゃうと思うよ」
「番台の司嬢の若旦那か。良き男で、たいそう頭が良いと聞くが、それほどなのか?」
「正直己は彼についての理解を放棄している。平然とした顔でとんでもないことやっているからな。キリギリスの天文部、数学部、機械工学部の論文にも名前が載っててビビるぞ」
「他の世界産の複雑な技術のシステムをこの世界の物理式に翻訳して世に出すスピードがちょっと人間業じゃ無いんだよね。必死に繋いだ情報の断片を読んで、「あ、ここはこうだね」って30秒くらいで組み直してたこともあった。あれはちょっと真似できないかな」
別世界では、電流の流れる向きが逆だったりエネルギー方程式の物理記号が違っていたり変な数字をベースにした対数グラフを使っていたりとそれはもうさまざまな『前提の違いによるこの世界では異常に見える原理式』がありまくるのだ。なんなら、この世界とは違う形で証明された数学式を前提に計算式を組み上げた結果解読不能レベルの異常数式となることが多々発生する。
この世界にて身近な例では、『ヤード・ポンド法』あるいは『尺貫法』による数字をベースにしたプログラムを組んでいるといえばわかりやすいだろうか?
もうちょっと複雑なのだが、だいたいそんな感じである。
そういう『意味不明』を『理解可能』に翻訳する能力がぶっ飛んでいるため、論文を組み立てる際に協力を頼まれるらしい。
「ちなみに、『ユザキホシゾラ』とは何者だ? みたいなネタがちょいちょい話されて居たりもするぞ。キラキラネームというやつだからな」
「『星空と書いてナサと読む』ってのは知らないと難しいよね」
「なるほど、ジエンなら話半分だが、遊我が言うなら言葉の通りなのだろう。若旦那を見る目が変わりそうだ」
「ま、論文発表の場が利権も何もないキリギリス掲示板であるから『若き天才博士』みたいには見られていないのだけれどな」
「とにかく『今新技術を共有しないと終わる』みたいな空気感だからねあそこ。短報で誤字修正もなくぶん投げて質疑応答で細部詰めていくやり方になっちゃってるから」
「己この世界のことは歴史しか知らぬのだが、情勢が落ち着いたらどれが先行研究で誰が権利者か? で血の雨が降るヤツであるよな」
「そのあたり、『漂流者技術権利法案』ってのが議論され始めたって掲示板にあったけど、ソースがどこにもないからデマっぽいんだよねえ……」
「お上は今本当に命懸けで日本の運営をしているからな。細かい部分は自衛するしかあるまい」
四方山話をしていたら、体も良い感じにあったまったのでそろそろサウナから出ることにする。
とくに『ととのう』に近づいた気はしなかったが、まぁ心身を休めることはできただろう。
さっさと上がって、次の戦いの準備をしよう
「そういえばジエン。今日はレベル上がったの?」
「遊我殿、気持ちよく風呂から上がろうとした己を刺すのはやめてくれないか?」
「あー……が、頑張って?」
現在の己のレベルは72きっかし。『造魔使い』との戦いよりさっぱり成長が止まったままである。
レベル85の神獣ヤツフサと、レベル98の竜王アナンタをぶっ殺してもレベルが上がらないとは、本気で成長限界であるらしい。
それなりの死闘を重ねて進化の兆しが皆無となれば、にっちもさっちも行かないのである。もうすぐ『セプテントリオン』来襲なので弱くなることに定評のある悪魔合体(己に限る)はリスキーであるからなー
「まぁ、別にレベルが上がらなくても勝てば良いだけであるし? 全然平気であるが?」
「相当気にしているな、アレは」
「気にしてたね。悪いこと言っちゃった」
「気にするな。どうせ大して傷ついていない。風呂上がりにコーヒー牛乳でも飲めば忘れよう」
「おおっと、それは違うぞ?」
「今日は、普通の牛乳の気分なのだ」
「もう忘れてるか」「だね」
没ネタ供養の小話です。
『人型キーパ』については実は聖華学園でのレクの時点からずっとオフのままだったのですが、特に話題に上がらなかったので没ネタの中での没ネタとなりました。ライブ感で書いているからそうなるのだ……
・『ととのう』には程遠いマグロみたいな生態をしているジエンくん
「仕事の後は休まなくてはならない」という技研のルールがあるから休憩しているだけで、高レベル異界2つ潰した後でも余裕でまだ動ける怪人。なお「魂の殻をブチ破らなくては勝利できない」試練ではなかったためレベルは上がらない。ガチの成長限界である。
・遊戯王SEVENSより、主人公『王道遊我』。
人類悪投下に名前があったので「今のうちにジエンくんと縁を作らなくては!」という理由からクソどうでもいいタイミングで登場した系少年。
ジエンくんの(キャラ的な)骨格を組み立てるのに参考にしたキャラの一人でもあったりする。
今回は『強すぎる使命感』も『
・有給消化中のツギハギさん
「有給1回も使わないまま技研が滅びかねない」という話をされたことで、特に予定はないが休みを入れた系男性。なお技研がやばいとかの話ではなく、セプテンで社会が崩壊したら「有給を取ってなかったなぁ……」という後悔が残ってしまうという話から。
技研の裏の目的としてはセプテンの後のクソ忙しい期間に「有給を使わないと法令的にヤバい!」にならないような調整が半分。「働きすぎだから休め」というのが半分。
地味にジエンくんのレベルを追い越し、73レベルに到達している。そういうところが働きすぎなのだ
・謎のサウナー仮面X
サウナという場所が理由で登場したアシスタント六年やっていた漫画家志望。『サウナウォーズ』出典。
かつて『
現在は、ただの漫画家志望に戻っている。
なお、その時の経験から筋肉のある大人相手にはイキれなくなった。子供相手ならイキって良いって話じゃねぇんだが?
今回が今年最後の更新となります。
よいお年を!