姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 作:気力♪
『リモート授業』というものがある。
教材ビデオのようなもので、教科書についての全体講義を映像に記録して、それぞれに閲覧、学習させるスタイルのものらしい。
この授業のメリットは、現実での講義と異なって対面で授業を受けなくて良いという事、映像が故に倍速、巻き戻しなどが可能な事がある。
デメリットとしては教員への質問が返ってくるのが遅いこと、授業内容を間違って理解していても教員からの修正を受けられない事、共に学ぶ同じ年代の者達との情報交換が難しいことなどがあげられる。
総じて、一長一短なのだろう。
個人的には、倍速再生が可能なリモート授業の方がやりやすい。思考基準を戦闘時のようにイデアに移動させれば10倍速程度なら問題なく内容の理解が可能だからだ。
「ジエンくん、それ大丈夫?」
「む? 何がだ?」
「サボってるって思われない?」
事務室にてゆっくりと仕事をしている杏奈殿から忠言を貰う。確かに授業内容を理解していなければ『再生した』という事実だけを求め出席のみを確保するやり方と捉えられるだろう。だが、そこに問題はない。
「安心してくれ杏奈殿、これは去年の分の授業なのだ。出席はない」
「……自習、なんだ」
「うむ! 教員の方と話し合った結果、期日までに十分な学力を会得できていたのなら中学2年度としてクラスと合流できる制度があるらしいのだ! 己のような年齢や教育が特殊な者に対しての措置らしい!」
「へぇ……ジエンくんって、何歳?」
「12以上だな! 活動時間のカウントと検査によって確認できた肉体情報によるとだが」
「あやふやすぎ、では?」
「必要になるとは思っていなかったのだ」
「けど、そうだね。ジエンくんは13歳くらいに見えるよ」
「なるほど……」
己の外見年齢をメモしておく。年齢を語らねばならない時は13とすれば違和感なく溶け込めるであろう。
「それで、今学校は『別室登校』だっけ?」
「そうだ。この社会での常識、規範、マナー、そのあたりの講習をメインに受けている。多くの人が効率的に動くための前提なのだそうだな」
「……そんなに考える必要ある?」
「あるとも! ルールを守ろうとせぬ輩は集団に帰属できぬ。それで生きられる世ならば良いが、己程度ではそれもできん。しからば排除されぬ程度の常識は身につけねば、屍を晒してしまうだろうて」
「……固く、考えすぎてない?」
「それは言われたが、なかなか治らぬのだ」
そうしてゆるりと会話をしながらリモート授業をしていると、リオが嫌そうな顔で何かのテキストのあるタブレットを持ってきた。
「仕事か?」
「……うん、キリギリスに出資者からの紹介依頼だってさ。色々忙しいとかで私の所まで回ってきちゃったよ」
「して、どのような仕事なのだ? 異界破りであればありがたいのだが」
「期待通りの異界破りだよ。まぁまぁのレアケースではあるんだけど」
「レアケース?」
「今回異界化したのは湾岸沿いの撮影スタジオ。最近の大河*1とか特撮*2とかに使われたLEDスクリーンっていう凄い設備を導入したばかりの所で、金回りは良いらしいわ」
「ほう、LEDすくりーん……光る、幕?」
「でっかいスクリーンにCGだとかを映して撮影する手法だってさ。凄いよね技術の進歩」
「……そうか! アニメーションなどを大きく流したりできるのだな!」
「そのアニメーションとかを背景にして、人間が演技できるって話みたい。まぁ使ったことないから間違っているかもだけど」
「で、異界発見者の情報によると、そのLEDスクリーンのあるスタジオが中心に馬鹿強い悪魔が流れてくるようになったんだってさ」
「ふむ……出てくる悪魔の傾向は?」
「レベル40後半から70台まで。出てくる悪魔の種族傾向もあんまりなくて、妖精も魔王も女神も天使もよりどりみどりだそうよ」
「幅があるのは恐ろしいな。キリギリスの者達にサポートは頼むのか?」
「報告はするけど、それだけね。そもそも修羅勢だとかの手が空いてないから回ってきた話だから、増援は遅くなると思う。だから、ゆっくり慎重にね」
「……それで、レアケースとは?」
「悪魔の数とレベル分布。数があんまり出ないけど、GP以上の悪魔が出てるのよ」
「共食いなどで強くなったか?」
「かもね。それなら数が少ないのも理解できるし」
GPとはゲートパワーの事を指す。悪魔だのの影響で魔界との門がどれほど開きやすくなるかの指標なのだとか。基本的にはGP+10程度がその異界での野良悪魔の強さ上限だ。
己のいた世界のGPは基本的に20程度だったことを考えると、この世界の戦士達はどれほど血反吐を吐いて戦っているのだろうか? と敬意を抱かざるを得ない。
「……して、観測されたゲートパワーはどれほどだ?」
「GP48で発見、そこから最大50、最小46までゆらゆら動いてるわ」
「下りもするのか……奇妙だな」
「異界出来上がった後に上がりもしないんだけどね。普通は」
奇妙であるが、なんとでもなるだろう。GP50以上の特級異界と想定しておけば大きく上回ることはないはずだ。
「して、ボスの暗殺は狙うか? そんな奇妙な異界化を起こしてまで行う企みは分からぬが、ボスを殺せれば立ち消えよう」
「微妙なのよね。GP相応ならボスは80台乗りそうってのと、ギミック系な感じがするの。LEDスクリーンなんてそれっぽいじゃない」
「──なら、私も行く?」
デスクに座ってなにやら『テツノツツミ』なるものの調べ物を切り上げた杏奈殿がそう告げる。リオの相棒であるのだから実力は確かである。しかし、リオの返答は想像に難くない。
「馬鹿言ってんじゃないわよ。下半身ごと赤ちゃん吹き飛ばされたくないなら引っ込んでなさい」
「そうだ! それに杏奈殿が無理をする場面ではないぞ! あと何時間で街が滅びるという訳でもないのだからな!」
「……そっか」
「まぁ、現地見てから決めましょうか。……とジエンくん、これこれ」
「む? 腕輪に、服か?」
「呪殺無効の『鳥人の腕輪』*3に電撃吸収の防具*4よ。サイズ調整が終わったから」
「……なるほど、胸部につけるプロテクターのようなもの*5か!」
「そうそう。ただ衝撃属性に弱くなるんだけど、耐性装備買ってたよね?」
「うむ! 先日購入できた『ヤクトヘルム*6』が火炎、電撃、氷結、衝撃、呪殺、魔力、緊縛、針に75%耐性だ! 検証はまだだが、おそらく正しい。耐性の上書き*7は確認できているので衝撃弱点は隠せる筈だぞ」
「おーけー。私は『氷結吸収』のブリザードローブ*8を着て行くわ。他にもいくつか持って行くから、ボスの属性が分かって余裕があったら着替えましょ」
「うむ!」
「二人とも、お気をつけて」
そうして侵入することになった異界を見る。スタジオ、というのがどういうものかはわからないが、大掛かりな倉庫のようなものがいくつかあり、その周辺に建物がある。
「最新技術に投資した一念発起の大冒険、無駄にさせたくはないわね」
現在は人払いの結界の内側に入り込んだ所。
外縁部に悪魔の姿はないが、異界外部のGPを測定した限りでは出て来ていてもおかしくはない。
周辺封鎖をしていた者達が対処したかと思うと、頭が下がるばかりである。
「じゃあ、ジエンくん」
「承知した。勧誘メインで情報を探っていこう」
| 妖精 | ティターニア | LV49 | 地震無効 物理魔法(核熱、重力、衝撃、電撃)弱点*9 |
まず最初に接敵した悪魔は『妖精ティターニア』シロエwikiによると地震系が無効で物理魔法に弱いだけなそうなので、マリンカリンを仕掛けてから交渉に入る。
「……魅了の術をかけてから会話するのが、あなたのスタンス?」
「許せとは言わないが、理解はしてほしい。貴女のような強者を相手に警戒をしないというのは無理なのだ」
「……ふふっ、てっきり私の全てを使い潰してやるとか言うと思ったのに」
「今の所欲しいのは情報なのだ。……無論、悪魔召喚士としてティターニア殿も仲魔にしたくは思うが」
「情報というと、この異界の主のこと?」
「そうだ。出現する悪魔のレベルがかなり高いと聞く。さぞ名のある悪魔が主なのだろうとな」
「……倒すつもり?」
「無論だ」
「なら、丁度いいわね。私も連れて行ってくれないかしら。アイツの事は嫌いなの」
「……良いのか?」
「ええ、魔法での魅了というのは癪だけど、あなた個人は気に入ったのよ」
「承知した! よろしく頼むぞティターニア!」
「ええ、今後ともよろしく」
妖精ティターニアが仲魔になった。
| 妖精 | ティターニア | LV49 | 地震無効 物理魔法(核熱、重力、衝撃、電撃)弱点*10 |
| マグナス メディラマ コンセントレイト マハガルーラ(LV49)マハブフーラ(LV51)神々の加護(LV52)氷結ハイブースタ(54) | |||
地震魔法『マグナス』を習得しているのはありがたい。『メディラマ』『コンセントレイト』などを現在覚えており、多少のレベル上げで『マハガルーラ』『マハブフーラ』を覚えるであろうという情報がシロエwikiのデータにあった。なぜかレベルが1つ高い49で仲間になったので疾風魔法を既に獲得できている。これによっって2つの合体魔法が使用可能圏内に入った。
| 火炎→疾風→火炎 | メガブレイズ |
| 火炎→地変→マハラギオン | ロワゾー・ド・フー |
マハラギオンを使える手持ちが居ないのは、これからの交渉次第だろう。
「して、この異界の主とは何者なのだ?」
「『堕天使パイモン』よ。人間の欲望由来の『シャドウ』っていうのを喰らって増長して、クリエイターを気取っていたわね」
「堕天使パイモン……レベルは52*11、ディアラハンにマハ・ブフーラ、催眠術を使う悪魔がデータベースからヒットしたな。元はこれか?」
「異界の主になったことで獲得したスキルとか、シャドウを取り込んだって事で強化された特性とかある筈よ。データは参考程度にね」
「心得た。ひとまず氷結で攻撃するのを避けるのと、『子守唄』を防ぐための精神状態異常防御アクセサリーを準備だな」
ストックの中にティターニアを入れる。現在召喚している仲魔はペルセポネーとクイーンメイブだけ。MAG消費を抑えるためと、全体攻撃で全滅することのリスクを鑑みてストックの中に仲魔を残しておきたいという考えからだ。控えの仲間ができたのでゲンブを召喚してもいいだろう。
「しかし、このティターニアは『電撃』を弱点としているのか。以前戦った相手は電撃使いだったのだが」
「最近同じ悪魔でも特殊なスキルや耐性を持ってる奴が現れるみたい。この異界レベルのGPで、魔界に近い影響下なら」
「なるほど、他の『軸』の同名悪魔が混ざっているのだな」
今回の異界は発生してから時間が経っていないのもあるとはいえ、外側に対しての能動的アクションが少ない。
出現する悪魔は異界の主からの命令で絶殺の意思を刻まれておらず、会話が通じるあたり魔界から迷い出ただけなのかもしれない。
……それにしてはレベルが高いのが気になるが。
「外周ぐるっと回ったけど、かなり穏やかね。アラームトラップや軍勢での奇襲、ワープトラップも見当たらない」
「……もう少し、踏み込もうか」
「そうね。キリギリスに所感を投げてから……と」
まずは、と背の高い建物、『ガクヤ』の方へと進んでいく。『
道中、依頼主より支給されたスタジオマップとは異なる道がたまに見える。迷宮化及び部屋位置のシャッフルは起きている。外周から見ただけでは配置の変化は少ないようだから、マップを参考にできるのでは? と思ったが、そう甘くはないらしい。
──扉の前に着く。鍵はなく、ドアは開く。ドアへの接触をトリガーにしたトラップはなし。ドアへのアクションを狙った奇襲はなし。外側からの奇襲可能性を一時的にカット。
ドアを開け、侵入する。
数秒経っても入り口が閉じる様子はなし、侵入と同時に鍵がかかって閉じ込められはしないらしい。脱出経路の一つとして記憶しつつオートマッピングにテキストでメモ。
「奇襲なし、トラップは見えないけど『コアシールド*12』と」
「エストマ*13はかけておくか?」
「まだいいかな。ジエンくんの手持ちをもうちょい強化したい」
「感謝する! しからば強くなった仲魔達によってリオを勝利に導くことを約束しよう!」
「死なないだけで十分だって」
警戒しつつ進んでいくと、廊下を歩いている悪魔達が見える。
背後を取れており、周辺から増援の気配はなし。
気付かれにくいような静かな歩法によって接近して、『バインドボイス*14』を発動する。
「奇襲かよ⁉︎」
「最近の人間はおかしすぎない⁉︎」
「ググゥ⁉︎コシャクナ!」
| 邪龍 | ファフニール | LV60*15 |
| 霊鳥 | ジャターユ | LV55*16 |
| 夜魔 | サキュバス | LV47*17 |
まず、この集団の中で最も目を引いたのはレベル60のファフニール。見た目が機械龍*18のものでなく紫色の龍のものである*19のが特徴だろうか? 耐性の傾向としては物理が通りにくい。
共にいるのは47レベルのサキュバス。記録では破魔銃撃あたりが有効で、魔法攻撃が通りにくい傾向だ。
霊鳥ジャターユはwikiでは47レベルでガン弱点破魔無効*20のものと、32レベルで電撃弱点衝撃無効*21のものの記録があった。新種か、軸のズレだろう。
ファフニール、サキュバスにはバインドボイスが通ったがジャターユには効果なし。しかし、緊縛への無効耐性故ではなかった。奇襲で十分なアドバンテージを得られたという確信が、魂を『ニヤリ』と震わせた*22
「クイーンメイブ!」
「ええ、『ジオダイン』」
続けてのジオダインがジャターユにヒット、電撃弱点はズバリだったらしい。集合知の恐ろしさだろう。弱点を突けたことで
「銃撃が通るなら、
| マッドアサルト | 貫通属性大ダメージ ダウン状態の相手にはダメージ増加 | ペルソナ3 |
そして追撃のリオの一撃。大槍の突撃を思わせるそれは、ジャターユにの胴を貫きその命を終わらせた。
一体撃破。
ペルセポネーは『パンデミアブーム*24』を使用。次のターンは緊縛で動かないが、その次が生まれた場合に一瞬で仕留められるように*25である。
そして、己の遅らせた出番が来る。
「ファフニール。交渉をしよう」
「ジャターユヲアアモ簡単ニッ⁉︎」
「次は貴殿がこうなるだろう、返答次第によってはな」
「ウグゥ……何ガノゾミダ⁉︎マッカハナイゾ!」
「貴殿自身だ。その強靭なパワー、もし動かれていたら己達は窮地に陥っただろう」
「ム、ソウカ?」
「ああ! だからこそそのパワーが欲しいのだ! 無論、契約として貴殿を強くすることを約束する!」
「……イマヨリ強イ、オレ……ッ!」
「どうか?」
「キメタ! オレハ『邪龍ファフニール』、コンゴトモヨロシク』」
「ああ!」
| スカウト+ | 交渉成功時、レベルの低い悪魔を確立で仲魔に引き込む | ハンターアプリ(真4F) |
「サキュバス。オ前モ来ルトイイ! コイツノ混沌ハ強イゾ!」
「……まぁ、身体が成長途中でも良いか。ファフニールに釣られてあげる」
「私は『夜魔サキュバス』今後ともよろしく」
「うむ! 心強いぞ!」
ファフニールとサキュバスが仲魔になった。
| 邪龍 | *26ファフニール | LV60 | 全体的に強く破魔が無効*27 |
| 噛みつき ファイアブレス マカラカーン 毒ガスブレス モータルジハード | |||
| 夜魔 | サキュバス | LV47 | 銃弱点、火炎耐性、氷結無効、破魔弱点、呪殺無効 |
| エナジードレイン スクンダ マリンカリン マハラギオン 子守唄(48) メパトラ(49) | |||
ファフニールのステータスを確認する。見れば緊縛に対して87.5%耐性だった。緊縛が通ったのは運の上振れという奴だったようだ。
その他耐性も高水準で、殆どを87.5%耐性を持っており、神経を25%の耐性かつ破魔無効。『マカラカーン』のスキルに加えて『モータルジハード』を会得している。物理スキルが単体だけと心もとないが、強靭なタフネスの壁として相当に有用である。
サキュバスの方はwikiに乗っていたデータと異なるスキルを所持していた。『マハラギオン』と『マリンカリン』だ。何らかの原因で身に着けたのだろう。耐性系を身につけられていないことを祈るばかりだ。
「送還、『ゲンブ』。召喚、『ファフニール』」
「早速出番カ!」
「相応にMAG消費はあるが、敵に奇襲された時のリスク軽減を選ぼう」
「それに、またファフニールが出てきた時は会話対処にできるしね」
「できればスキル変異で良い全体物理を獲得して欲しいものだな」
ファフニールを先頭に出して前に進んで行く、さほど小部屋を確認できた訳ではないのに、突き当たりの階段があった。他の分かれ道は全て見たので、ここが唯一の階段だろう。
「階段までのマッピングデータをクラウドに共有、階段自体の罠をチェック……OK」
「リオのCOMPは探索特化に仕上げているのだったか?」
「そうよ。悪魔召喚機能は最低限に、『バックアッパー*28』と『ネオクリア*29』、『百太郎*30』、『ハニー・ビー*31』、『スキャニング・ゼロ*32』なんかを仕込んでるわ」
「インストールソフトという奴だな。己の拡張アプリは悪魔会話に尖らせているので、少し目新しい」
「その拡張アプリもびっくり性能だけれどね。解析と量産できれば良かったけど」
「……たしか、『こんぱいる』というのができなかったのだな? 使っているコトバが違う故と聞いたぞ!」
「逆コンパイルっていう奴らしいわね。答えから暗号を作り出すみたいなものだから、相当に難しいんでしょ」
「スマホの
「むしろガワ分かってるのは相当に凄いから」
雑談を交えつつ、油断を装う。もし階段の周辺にて待ち構えている悪魔がいれば攻め込んでくるところだろう。
装った油断であるとバレてまだ潜まれている可能性はあるが、クイーンメイブ、ペルセポネー、ファフニールと3体の悪魔がそれぞれの知覚によって警戒している。
不意打ちには逆撃できよう。
「……おっけー、行こう」
「うむ! 大事なしだ!」
階段のスキャニングが終わる。トラップの可能性は低い。ヨシ!
「それじゃあ、こっからは落とし穴に注意して、分断されてどうにかなるほどヤワじゃないとはいえ、面倒だからね」
「万が一はある。だが考えすぎればスタミナを消耗するだけだ。普段通りに行くぞ!」
「ジエンくんはもうちょい気を抜いて良いと思うよー」
ファフニールを盾にしながら先に進む。
小部屋を開けると、誰かの忘れ物と思われる鞄などがある。軽く触れたが罠ではない。
「そういえば、この異界に取り残された人はいたのか?」
「全員脱出が確認されたわ。もともと資材搬入とスタジオの工事で撮影はできなかったらしいのよ。かなり大掛かりな工事になってて、騒音があったから」
「音?」
「ドラマとかの撮影でその工事の音が入ったら、興醒めじゃない?」
「そんなものか……?」
リオのCOMPから警戒音が鳴る。『百太郎』だ。己の警戒より早い。己の警戒察知よりも早いあたり精度が良いことは理解できるが、100%反応するわけでないらしく頼り切りは駄目らしい。
| 魔獣 | ケルベロス | LV64 |
| 妖鬼 | フウキ | LV63 |
| 幽鬼 | ヴェータラ | LV63 |
「めまいの方から入るよ」
先手を取ったリオの放つ『霞駆け』。神速の踏み込みからの連撃が4回先制ヒットする。内訳はフウキに2回、ケルベロスに1回、ヴェータラに1回。
物理反射、無効は無し。物理耐性、強耐性は見えない。
wikiからの情報を反芻、ケルベロスには氷結有効で火炎に耐性、フウキは衝撃、疾風が通らない。ヴェータラは破魔弱点、呪殺無効、この辺りがメジャーな耐性だ。
銃撃は待機、フウキに『めまい*33』が発生している、次ターン放置可能。優先度を下げる
狙いをケルベロスに、氷結属性合体魔法は氷結→地変→ブフダインのアイスクラッシュが使用可能。しかし地変系を使えるティターニアは現在ストック内部。現在出しているのはクイーンメイブ、ファフニール、ペルセポネーの三体。4体目は無理すれば出せるが、今は無駄に無理をする場面ではない。
「ペルセポネー、『ブフダイン』!」
故に、妥協。霞駆けの1発のダメージがあるのなら、ブフダインの一撃と追撃で何発か使う
凍結はせず、確定撃破はなし。
だがダメージも大きく、
「ファフニール、クイーンメイブ、やれ」
力の強いファフニールの『モータルジハード*34』で瀕死になったところをクイーンメイブがトドメを刺す。蝶のような華麗なATTACKだった。
これで、残る
「……手傷を入れるか! 『百麻痺針*35』!」
体毛より作り出した麻痺針を2本ヴェータラに投げつける。ダメージ軽微。
「ッ!? 動けん!?」
ヴェータラに追加効果の緊縛が通った。プラン変更、ダメージ量を優先。
「ペルセポネー、氷結だ」
「はい、召喚主」
己と合わせているペルセポネーが追撃に移る。今回の戦闘で最初に動けたのはリオだったが、『
己が5人でも簡単に合わせられるような統率力を持っていたらより楽だった、というだけの話だ。
「ガギィッ⁉︎」
「氷結有効、『めまい』と『緊縛』で手番消滅確認、増援警戒ヨシ!」
「ジエンくん事あるごとに『ヨシ!』って言ってて可愛いなぁもう!」
発端となったのが工事現場での安全を注意するための作品であったらしい可愛らしいネコの言葉『〇〇ヨシ!』がつい出てしまう。
コメントとして使われている様しか知らないが、勢いと雰囲気で使いたくなってしまうのは魅力的だからだろう。
己が警戒に回っている手番*36で、リオが『千烈突き*37』を放つ。ヴェータラとスイキに3回ずつヒットした。『マヒ追加*38』が付与されたその突きにてヴェータラに麻痺が入る。
フウキには霞駆けが2回ヒットした。ヴェータラには麻痺針2本とブフダインがヒット。その上で千烈突きを3回被弾した。
8割以上は削れていると判断、レベルはフウキが64と高いので
「ペルセポネー、ブフダインでヴェータラにトドメを」
そう指示してから、悪魔からの
| プリンパ | 敵単体に混乱を付与 |
フウキに混乱が通った事を確認してからファフニールとクイーンメイブの手番をスキップに使う。ヴェータラが死亡したことによって敵はめまい状態かつ混乱したフウキのみ。無力化は成功した。
なので、可能な限りを
「フウキよ、貴公との宝を頂きたい」
「ハァ? 宝ぁ? こんなもんくらいならくれてやるよぉ!」
| トレード+ | トレード成功時に追加でもう一つアイテムを獲得 | ハンターアプリ |
「もう一つおまけだぁ! 魔石をくれてやる! 冥土には銭も宝もいらねぇもんなぁ!」
──己達は敵の奇襲から始まった戦闘に勝利した。
その上で『チャクラポット』『宝玉輪』に魔石を二つほど追加で稼ぐ事ができたのだった。
探索は順調に進んでいく。
時折レベルの高い悪魔が現れるが、それ以外は基本的に50台あたりのレベル。百太郎が機能しない事は一度あったが、リオも己も反応できていたので奇襲は受けずに済んだ。
「うん、おかしいね」
「ああ! 何かしらの罠を疑うな!」
つまり、『なまっちょろい』のだ。
外敵からの侵入に対してのカウンターがないような異界というのは、異常だ。意図的に発生させられた異界というのならば余計に。
「周辺探索切り上げて本命の偵察行くけど、どうする?」
「撮影スタジオの上から見るのはどうだ? こちらのビルディングは背が高いのだし、少し跳べば屋根上にはいける」
「んー、アリだね。穴開けて内部偵察かな?」
「穴を開けるとなると、偵察中に屋根ごと魔法で抜かれるのではないか? さすれば退路のない屋内に転がり落ちる可能性もある」
「一瞬視認できれば『ハニー・ビー』と『ネオ・クリア』で確認できるから。スキルが撃たれる前に回避に移ればそう大事にはならないって」
「なるほど、探索特化COMPの力か」
「そゆこと」
楽観が混ざっているので警戒は必要である。しかし一瞬見るだけで良いならリスクは最小限に抑えられよう。奇襲の類は自力とソフトで防げば良い。
などと考えていると、探索ソフトについてのことで一つ思い出した事があった。
「……そういえば、『タリ報*40』だったか? 動画*41の祈り手殿が使用したアプリは使わないのか?」
「武装COMPに特化したソフトだからってのがまず一つ。あとは容量の問題だね。『バックアッパー』外せばいけそうなんだけど、これ外すのは嫌だわ」
「外部への情報送信効率化プログラム……だったか?」
「加えて、探索記録の自動記録プログラムでもあるわ。これないと探索した情報まとめるの怠くてやってられないわね。……まぁ性質上ハッキング系には弱くなるんだけど。他人からのアクセスを受け入れる道を作る訳だし」
「……ふむ、一長一短か」
探索効率化のための『バックアッパー』と『タリ報』、どちらを優先するのかは好みの問題となるだろうか? 。容量をそれなりに食う事と『百太郎』との噛み合いがどうなのかを検証して見なければ答えは出せなさそうだ。
もっとも、タリ報を持っていた所でどうせ奇襲はゼロではないだろう*42。足りない部分を自身で警戒する必要があるのには変わりない。探りながら、最適なインストールソフトの組み合わせを学んでいこう。と思うのだった。
「それじゃ、跳ぼうか」
「心得た」
話しながら屋上まで探索し終えた『ガクヤ』ビルディングから外を見る。周辺の飛行悪魔の目は向いていない。地上の徘徊悪魔からの視線もなく、地上にいる悪魔からの射程外を確認。
ビルディング屋上からスタジオの屋根上までの跳躍時間は3秒未満、着地後の即時戦闘を考慮に入れつつ行動開始。
助走をつけて跳躍。射撃系スキルは発動待機、視界内の飛行悪魔の感知はなし。
背後を気配で観る。ビルディング屋上部に新たな悪魔は見えず、背面防御用悪魔召喚リソースのカット、前方に集中
1秒経過、悪魔からの反応なし。スタジオ屋上部に悪魔の存在見えず。隠形の可能性排除不可能、警戒続行。
狙撃警戒、防御用悪魔召喚継続待機、発射音、風切り音共に確認できず、通常弾速狙撃への対処リソースをカット。超高速攻撃のみ警戒。
2秒経過、地上部の悪魔がこちらを視認、敵性反応見られず、着地までの攻撃はなし。リソースをカット。
着地
受け身によって着地音を最小に、着地時の硬直を狙っての攻撃を警戒、即時奇襲なし。
悪魔召喚にてペルセポネー、ファフニールを壁とし展開、リオの着地を援護開始。
リオの跳躍から着地まで、周辺からのアクションは見られず。着地成功。
「……警戒網がないのか?」
「みたいね」
リオが地面に向けて抜き手の構えを取る。『貫通撃*43』に似た構えだ。
その一撃はするりと屋根を貫いた。周囲に罅は入っておらず、威力が音に変わったりしていない。力が100%貫通力に使われたことが分かる。
ただ、コツを理解すれば己でも技の使用は可能にも思えた。練度と威力をこうまで上げるのには時間がかかるだろうが。
「……視界良好。LEDスクリーンは健在、スクリーンのあるスタジオにMAG溜まりとボス悪魔を視認。情報通り、堕天使パイモンね。ついでに周辺から高レベル悪魔の出現を確認。MAGの濃縮がよく起きてるわ。アレが悪魔強化のカラクリかしら?」
「見られたか?」
「微妙。無視されただけかも」
「了解した。見られたものとして警戒する。周辺に移動悪魔はない、虚空からの出現に注意だ」
「待って、ここからアナライズを仕掛けてみる」
そう言うと、リオが懐から魔力の籠った眼鏡のようなものを取り出した。レルムにて売り出されていたのを覚えている。量産可能になったとかで、それなりの値段に落ち着いてきたものだ。
「『万里の眼鏡*44』か」
「そう、本人の視界を元にするアナライズだから、この距離でもいける筈。ダメならそれまでだけどね」
そうして、堕天使パイモンのアナライズが始まる。かかったのは10秒ほど、普通に一度の手番が起こるまでだ。
「……痛ッ⁉︎」
しかし、その眼鏡が突然に壊れる。アナライズに対してのトラップ系能力か? とリオの壁として『ゲンブ』を召喚できるように待機する。
「無事か⁉︎」
「問題ないわ。敵からのアクションが理由じゃなくて、『万里の眼鏡』で獲得できる情報量を超えた事が理由みたい」
「……というと?」
「あいつ、強化……というか変化してる」
「……悪魔合体ね、アレ」
「待っていて下さい、召喚主様」
より適した『堕天使パイモン』になるために身体の余剰パーツを削ぎ落とす。そして足りなくなった能力を足し合わせる為に5回目の合体を行う。
魔界より現れる悪魔は異界の主の支配下で、出現したてでは自我が薄い、だから容易く塗り潰せ、容易に私の血肉にできる。
全ては、召喚主様を守る為。召喚主様により高い権限を、命の自由を与える為に
最適化しなくてはならない。あの人だけの『
あとがき
2~3話程度続きそうな異界探索です。以降は省略する警戒描写をじっくり差しこんでみた。
ジエンくん
リモート授業の際に思考を戦闘時のように加速させるのを癖にした結果、対面授業の際に教員からは若干ビビられている。
また、キリギリスからのミーム汚染の結果常識がなかなか定着しないという問題を抱えているがひとまず学校関係は良好である。新学期始まってすぐくらい? なので第一印象だけで見られているともいう。
異界探索はかなり得意。警戒のリソースの優先順位、うまく気を抜いて体力を温存することなどをいつも以上に気にかけている。なので考慮できていない『リオに対する態度』はいつもより適当だったりする。
リオさん
新戦隊キングオージャーの推しはギラくんに決めた物理ウーマン。
ジエンくんの『パーティMPリカバリ』にかこつけてMP消費系の物理攻撃を多用している
COMPを探索系にしている理由の8割以上が『バックアッパーがあると報告書の作成が楽だから』だったりする。効率化に慣れすぎて元の不自由さを受け入れられないタイプ
探索において、ジエンくんの『混乱トレード』などの様々なヤバイのを見ているが、それも含めて『ジエンくん可愛い』と受け止めている。恋は盲目、あばたもえくぼ
堕天使パイモン
非常食ではない。