音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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 願いは時に、心を縛る呪縛となる。




 託されたものは時に、未来を強制する鎖となる。






 もし、もしも……









 あなたがそれを、振り切ることが出来るのであれば……






教皇(Waw)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……時は遡り、脳無格納庫。

 

 この場所を、ベストジーニストを主体にMt.レディやギャングオルカ、虎といったヒーロー陣や、警察やGUNの機動隊、そして、ガジェットとインフィニットが制圧していた。あまりにあっさりと仕事が完了したので、巨大化して脳無を両手に持ったMt.レディが「オールマイトの方行くべきだったんじゃないですかね?」とぼやくと、ベストジーニストは厳しい口調で言う。

 

「難易度と重要性は切り離して考えろ、新人!」

 

 それは、日本で五本の指に入るヒーローにまで登り詰めたベストジーニストだからこその言葉だった。ベストジーニストはすぐさま機動隊に移動式牢(メイデン)を用意するように頼む。

 

 その最中、虎が誘拐されていたラグドールを抱えてきた。

 

「虎さん、その人が誘拐されていたというチームメイトですか?」

「生きてはいるようだな……不幸中の幸い、か」

「ああ、しかし、様子がおかしい……何をされたのだ、

 ラグドール……!」

 

 ラグドールは虚ろな瞳をしており、意識があるのかも分からない状態だった。チームメイトでなくても、彼女の様子がおかしいのは明らかだ。そんな様子を見たギャングオルカが口を開く。

 

「取り敢えず……ガジェット君、彼女に回復を頼む」

「効果があるかはわかりませんが……やってみます」

 

 ガジェットは“個性”を行使するも、ラグドールの様子はおかしいままだった。ガジェットは首を傾げながら「効果がないみたいです……ごめんなさい」と、謝罪を口にする。

 

「いや、ガジェットが責任を感じる必要は無いだろう。ガジェットの“個性”で干渉出来ない何かが弄られた、と考えるのが妥当だ」

「ふむ……彼の回復はかなり万能だと聞き及んでいたが……」

 

 虎がそう言い首を傾げた、

 

 

 

 

 

 その直後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「済まない、虎……前々からいい“個性”だと……ちょうどいいから、「貰うこと」にしたんだ。こんな身体になってから、ストックも随分と減ってしまってね」

 

 くぐもった声が、暗闇から聞こえてくる。どことなく楽しげな、男の声だった。

 

「止まれ! 動くな!」

 

 警戒心を強めたギャングオルカがそう静止の言葉をかけるも、声の主は止まろうとはしない。ベストジーニストは“個性”を使い繊維を操り、男を拘束した。

 

「ちょ、ベストジーニストさん! もし民間人だったら……!」

「状況を考えろ新人……その一瞬の迷いが現場を左右する。敵には何もさせるな……!」

 

 ベストジーニストはMt.レディにそう言うと、拘束を更に強める。

 

 しかし、次の瞬間、ベストジーニストの拘束が破られたかと思うと、

 

 

 

 

 

 

 

 凄まじい爆発音と、微かな肉を抉る音がその場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、痛たた……一体、何が……」

「まさか、敵連合のブレーン、とやらが、動いた……?」

 

 ベストジーニストの“個性”によるものか、いつの間にか服の繊維を操作されて、ガジェットとインフィニットは瓦礫の影に移動していた。

 

 敵連合にブレーンらしき存在が居るということは、事前に聞かされていた。同時に、そいつはオールマイトに匹敵する強者でありながら狡猾で用心深く、自分の安全が確保されなければ表に出てくることはない、とも聞かされていた。

 

 しかし、今のこの状況……少し周囲を見渡して見る限り、かなりの広範囲に届いたらしい衝撃波と破壊の跡は、状況がひっくり返ったことを如実に表していた。

 

 この状況を一瞬にして作り出すことが出来るのは、オールマイトクラスのパワーを持つ者だけであると、二人は直感的に理解していた。

 

「……何にせよ、まずは状況を確認しないと……」

 

 一度深呼吸をしたガジェットがそーっと、瓦礫の外を覗き見る。

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

 そして、そこに見えた光景に、言葉すら失った。

 

「どうした、ガジェット」

「………………」

 

 問いかけても返答が無いガジェットに、インフィニットは疑問を抱きながら瓦礫の外に目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

 そして、ガジェットと同じように、言葉すら失い、動くとことさえ出来なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 二人が、瓦礫の外に見た光景。

 

 それは、

 

 

 

 

 

 

 

 翡翠色の長髪に緑色の瞳を持つ、学ラン姿で右目を包帯で覆った7歳ほどの両脚がない小さな少女が、空中に出現していた緑色の魔法陣のようなものの上から、赤黒く光りを放つ、ボコボコとした長く太い棘のような形状になった右腕で、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 工業地帯のようなマスクを着けたスーツ姿の男を串刺しにしている、光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初から、

 

 生まれた時から、

 

 もう、全てが手遅れだった。

 

 もはや、何もかもが取り返しの付かない状態だった。

 

 それを象徴するものが、自分達であると、知っていた。

 

 

 

 

「教会」は、とっくの昔に狂っていた。

 

「崇高なる目的」のためならば、手段を選ばなかった。

 

 その「崇高なる目的」が何なのかは、分からない。

 

 

 

 

 

 ただ、分かっていることは、

 

「幻惑の宝珠」も、

 

「魂の残滓」も、

 

「永久の夜」も、

 

「失われし時間の偶像」も。

 

 

 

 

 

 

 

 その全てが、その「崇高なる目的」を達成するために必要な素材を産み出そうとした結果産まれた、副産物でしかないことと、

 

「母」が一体、どんな目にあってきたのかということと、

 

 この身体が、10年と保たないという確信。

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 母が抱いていた、ありとあらゆる負の感情。

 

 

 

 

 

 

 

 絶望の中で、狂気の中で産まれて、長らえることすら赦されない命。

 

 運良く外に出られても、表に溶け込むことなんて出来なかった。

 

 その方法を、知る術なんかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを為すには、自分はあまりにも、幼かった(・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガハッ…………!! き、君は…………!!!」

「…………」

 

 ぐしゃり。

 

 少女は無言で、棘をより深く突き刺す。スーツ姿の男は口から血を吐き出しているのか、マスクの縁から赤い液体がドバドバと垂れていた。

 

「…………」

 

 グサッ!!! 

 

 棘が更に深く突き刺さり、男の背中から腹にかけて、大きな穴を空けた。大量の血液が月光に照らされながら、男の腹から溢れ出して止まらない。よく見ると、棘の赤黒い光は男から少女へと流れているように見える。まるで、エネルギーを補給するかのように。

 

 それに呼応するかのように、男がどんどんと痩せ細って、干乾びたミイラのような姿になっていく。最初は抵抗していた男の身体から、どんどんと力が失われていく。

 

「ぁ……ぁ………………」

 

 少女はただただ、無機質な瞳を男に向けていた。そこからは、何の感情を読み取ることさえ出来ない。その幼い風体とあまりにも不釣り合いなその瞳は、見る者に死すら錯覚させるような本能的な恐怖を与える。

 

 そして、数秒も経たないうちに、男は完全に干からび切り、スーツとマスクだけを残して、身体は塵となって朽ち果てた。

 

「…………紛い物、だけど、これは……」

 

 少女はそう呟きながら、左腕を空中に向ける。その先に緑色の魔法陣のようなものが展開され、地面にも同じものが現れる。そして、それらが目を開けられないほどに眩い光を放った。ガジェットとインフィニットも思わず目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 数秒して、光が収まる。

 

 ガジェットとインフィニットは急いで外の状況を確認し、再び目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程まで、魔法陣があった場所には、

 

 

 

 ふらついた様子のアンジェラが、立っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 思考をすることすら億劫になるほどの目眩と頭痛の中で、アンジェラは何が起こったのかを理解した。

 

 先のワープ、アンジェラを敵連合の元からこの瓦礫の山に移動させたのは、空間転移の魔法だ。その証拠に、アンジェラは自身の周囲から、使いそびれたであろう魔力が漂っているのを感じる。

 

 そして、目には見えない魔力を辿った先に、両足がなく、右目を包帯で覆い、右腕が腕と呼ぶことすらはばかられるほどに歪な形になった、翡翠色の長髪に緑色の瞳の学ラン姿の少女を発見した。その右腕は棘のような形で地面に突き刺さっていたが、程なくしてシュルシュルと巻き戻されるように縮み、普通の腕のサイズになる。普通になったのはサイズだけで、形は未だに歪なままだ。

 

 アンジェラが虚ろな目で学ラン姿の少女の方を見ていると、少女はアンジェラの方を向いて、先程までの無表情とは程遠い柔らかい表情で口を開く。

 

「やあ、久し振り(・・・・)

 

 ……いや、君にとっては始めまして、かな。

 

 何にせよ、またこうして会えるとは思ってなかったよ。会う前に、僕は死ぬものとばかり思ってた」

「…………」

 

 アンジェラは、何も答えない。

 

 答えるだけの体力が残されていないのか、はたまた、答えるための言葉を持ち得なかった(・・・・・・・・・・・・・・・・)のか、それは、本人にしか分からない。

 

 少女はそんなアンジェラの様子を少し怪訝に思いながら、視線を別の方向に向ける。

 

 そこには、仰向けで地に伏した、ベストジーニストの姿があった。

 

「言っておくけど、僕は彼女が誘拐されたことなんてニュースを見るまで知らなかったし、少なくとも7年(・・)は、書面口頭ネット全部含めて一切言葉を交わしてもいない。そもそも彼女は僕のことなんて知らないだろうしね。彼女は敵連合の事件の発生そのものとは無関係だよ」

「君は……敵連合の手の者、か……?」

「それが敵連合と僕に組織的な繫がりがあるのかという問いかけなら、答えは「否」だね。「妹」の友達がお世話になったらしいから、そういう意味では繫がりはあるけど、手の者かと言われると違うかなぁ。妹の友達含めて、直接メンバーに会ったことはないし、

 

 そもそも、さっきのマスクの男、敵連合のブレーンらしいし。どうでもいいけど」

 

 世間話を語るかのように話をする少女に、ベストジーニストは本能的な恐怖を覚えた。こうして話をする姿は、その容姿にさえ目を瞑ればごくごく普通の、どこにでも居る小学生の少女にしか見えない。その声音も、小学生が休み時間にクラスメイトと駄弁る時の声に聞こえる。

 

 そんな、無垢とも思えるような少女が、平然と、何でもないように、人を殺した(・・・・・)。その相手が例え敵連合のブレーンであったとしても、ベストジーニストはショックを隠しきれない。

 

 ベストジーニストには、視線の先で浮かぶ少女が、とてつもなく恐ろしいものに見えた。それは、「健常者」としては、当然の思考回路であった。あんな幼い子供が、人殺しをするなんて、と。

 

 

 

 だからだろう。

 

「どうして、殺した……!?」

 

 ベストジーニストの口から、そんな発言が出てきたのは。

 

 

 

 

 

「どうしてって、君らにとっても邪魔な存在だったんでしょ? そんなふうに非難される謂れは無いはずだよ」

「っ……そうではない! 君が、君のような子供が、殺人に手を染めてはいけないと、言いたいんだ!!!」

 

 少女はひたすらにきょとんと、ベストジーニストが何を言っているのかが分からないと言わんばかりの表情で首を傾げながら、口を開いた。

 

 

 

 

 

「どうして? 「母」を冒涜することは赦したのに、敵を殺すことは赦さないの? いや、そもそも…………

 

 

 

 

 僕、人間じゃないし」

 












AFOさんは死にました。オリジナルのAFOさんの出番はもう終わりです。

神野編の構想を練り始めた時から、元々オリジナルのAFOさんにはここでご退場いただく予定ではありましたが、どうやってご退場いただこうか直前まで色々と考えまくった結果、もう余計なことは喋らないでもらおうと思い、こんな展開になりまちた。苦情は受け付けません。

「出久悪堕ち」、「出久闇堕ち」タグは必要でしょうか?(両方は文字数の関係で付け足せないのでどちらか片方だけ)

  • 「出久悪堕ち」タグがいる
  • 「出久闇堕ち」タグがいる
  • どっちもいらない
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