音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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 この世界は、独善に塗れている。  

 誰が、抜き去ることが幸福に繋がると考えたのか、

 どうすることが正解だったのか、

 一体何が真実だったのか、


 この不条理だらけの世界では、判別することすら難しい。






 この世界に、本当の「善意」など存在しない。




 そして、






 誰も彼もが、結局は同じ穴の狢でしかない。












 誰かが言った。

「エゴは、押し付けと何ら変わりない」と。











 ……別に、いいじゃないか。エゴであったとしても。







 その方が、純度100%の善意よりも、









 よっぽど、人間らしいだろう。



末の妹

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魂が揺さぶられるような叫びが木霊する。アンジェラの左腕の切断面からは、今だに血液が垂れ流れ、緑色の靄のようなものが纏わり付いていた。

 

 肉体の一部を失って、絶え間なく走っているであろう想像を絶するほどの激痛の中で、それでもアンジェラは、真っ直ぐにトゥーレシアを見据えていた。その視線に、どこかトゥーレシアを憐れむような何かが混ざっていることに気が付いた誰かが声をかける前に、アンジェラが口を開く。

 

「あいつも、可哀想な奴だ」

「……腕を斬り落とされた人間の言う事とは思えないな。何を持って、奴を可哀想だと?」

「仕方ないんだ、そうすることしか知り得なかったんだから。……オレは、ちょっとばかし運が良かっただけ。あいつらは、その機会すらも持ち得なかっただけ。本当に、それだけなんだよ。

 

 その点じゃ、昔のお前と似てるかもな、あいつらは」

「…………どうしてそんなことを知っているのかとか、色々と聞きたいことはある……何故、腕の治療を拒否したのか、ということも」

「……」

 

 シャドウの言葉に、アンジェラは一瞬言葉を詰まらせる。誰がどう見たって、今のアンジェラの姿はあまりにも痛々しく、見ていられないようなものであることは明白。普通の人間であれば、泣き叫ぶか気絶するか、如何なるものであっても、何らかの反応を見せるはずの、大きな傷。

 

「そうですよ、どうして……」

 

 しかし、アンジェラは今だに、その瞳に光を宿していた。泣き叫ぶことも、気を失うこともせず、ただただ、空に浮かぶ翡翠の少女を見据えていた。

 

「……まだ、何も伝えてなかった。

 ただの一言も、届くことはなかった。

 返すだけ返して、与えるだけ与えて、オレだけじゃなく、トモダチにすら、なぁんにも言わずに、勝手に満足して、勝手に、消えて………………」

 

 その声に込められていたのは、この場に、いや、もうこの世には存在しない者に対する、確かな怒りだった。

 

 誰かが何かを言う前に、アンジェラの足元に魔法陣が展開される。その魔法陣から放出される魔力がとてつもない規模のものであることを最初に察知したのは、物心つく前の頃から人知を超えた力(マスターエメラルド)に触れ続けてきた、ナックルズだった。

 

「おい、アンジェラ! そんな状態で、何考えて……! リミッターだって、壊れてるんだろ!?」

「……贖罪は、果たそうとする意思がなければ意味がない。特にお前はよく分かっているはずだぜ、ナックルズ」

「……アンジェラ、まさかお前に、原罪があるとでも?」

 

 ナックルズの問いかけに、アンジェラは不敵な笑みを浮かべながら、ソルフェジオを振り回した。

 

「原罪か……言い得て妙だが、その通りかもしれない。

 

 ……本当は、生きることさえ赦されてはいない(・・・・・・・・・・・・・・・・)のがオレ達だった。

 

 正当に与えられた命ではなかった。

 

 

 

 数多の罪咎なき犠牲の果てに、

 

 人知を超えた力に意味もなく手を伸ばそうとした愚か者たちの業の果てに、

 

 ただただ、居もしない「神」の座に手を伸ばそうとした人間の傲慢の果てに。

 

 

 …………そうして産み出されたのがオレ達だ。

 

 

 少女(ヒト)のカタチをした、人間(ヒト)ならざるヒトのなり損ない。

 

 

 それが、オレ達の正体だ。

 

 

 

 

 

 元より生を赦されているわけではなかった。

 

 生きることそのものが、母へ対する冒涜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………それが、何だというんだ?」

 

 魔法陣に更なる魔力が収束される。アンジェラ自身のものだけではなく、トゥーレシアが使いそこねて周囲にばら撒いてしまっていた魔力ですら、アンジェラは貪欲に吸収していく。

 

「いきさつはどうあれ、オレはこうして生を受けた。盗られていた記憶を取り戻したところで、今更、オレの生き方を変えることなんざ出来ねえよ。

 

 ヒトのなり損ないが、自分らしく生きちゃいけないって決まりもないだろ?」

 

 アンジェラの言葉には、一切の嫌味も自嘲も込められていなかった。

 

 ただ、自分がヒトのなり損ないであるという事実をありのままに受け入れて、その事実を語っているだけだ。

 

 その証拠に、アンジェラの瞳には、一切の陰りすら見えなかった。

 

 

 

 

 

「………………はぁ〜……」

 

 ソニックは、深く溜息を吐いて、呆れたように、しかし、どこか愛おしげな視線をアンジェラに向けた。自らを「ヒトのなり損ない」と評したこの少女は、その言葉とは真逆の、誰よりも人間らしい笑みを湛えている。

 

 一体これのどこが、「ヒトのなり損ない」だと言うのだろうか。

 

「アンジェラがヒトのなり損ないなら……オレとシャドウはさしずめ、生き物のなり損ない、ってトコか?」

「いや……そういう意味で言ったわけじゃ……」

「いいじゃないか、おそろいで」

 

 ソニックが放った何気ない一言に、アンジェラは思わず口角を上げる。

 

 そうだ、おそろい。

 

 ソニックとシャドウと、おそろい。

 

 別に血縁なんぞは求めてはいないが、その響きは悪くない。

 

「……お前ら、相変わらずぶっ飛んだこと考えるよなぁ」

「なに言ってんだ、お前らも共犯だよ。それこそ、最初から。

 まァオレは、自慢じゃねえが今まともにゃ動けねえからな。色んな意味で」

「本当に自慢じゃないな。まともに動けないような状態で、あれだけの啖呵を切ったのか?」

 

 インフィニットは呆れたように言う。実際、今のアンジェラはボロボロもいいところだ。左腕の喪失とリミッターを外しっぱなしにしての大規模な魔力行使は、ただでさえボロボロなアンジェラの身体に多大な負荷をかけている。

 

「だからこそ、だよ。オレは元より一人じゃ何も出来ない。自分の魔力を抑えておくことも、ままならない。

 

 

 

 

 ……ああいや、つまらない御託は、やめにしよう。

 

 今の(・・)トゥーレシアを放置しておくのが、目覚めが悪い……理由なんて、それで十分だろ」

 

 アンジェラがトパーズの輝きでもって射抜く視線の先には、酷く動揺して、まるで迷子のような表情をしながら、その背に魔法陣を展開している、トゥーレシアの姿があった。

 

「……まさか、左腕を斬り落とさせたのも、治療を拒んだのも……全て、」

ただの自己満足(・・・・・・・)だよ、いつものことだろ。元よりもう(・・)まともには動かない身体だ、腕の一つくらいなくなったって、差異はない」

 

 何かを察したシャドウの言葉を、アンジェラはその言葉が完全に紡がれる前に遮った。あくまでも自己満足を押し通そうとするアンジェラの態度に、ソニック達は思わず呆れ返る。

 

「無茶苦茶というよりは……イカれてるな、本当に」

「それも、元からだろ? 

 

 オレは誰よりもエゴイスト。

 

 磔にされた、雁字搦めで自由の無い押し付けられた「正義」だなんてお断り。

 

 オレはオレのやりたいようにやる。

 

 それは、昔からずっとそう。

 

 これからも、変わることはない。

 

 

 

 

 …………違うか?」

 

 そんな余裕など、欠片たりともないくせに、アンジェラは得意気にウインクしてみせた。その表情には、一切の無理を感じなかった。

 

「……相変わらずですね、本当に」

「だけど、下手に取り繕われるよりも、こっちのがアンジェラらしい」

 

 アンジェラの足元の魔法陣に、更に魔力が収束されていく。アンジェラが右手に携えた杖形態のソルフェジオにも、光が集まっていく。 

 

「そういうわけだ、トゥーレシア」

「……ははは、僕は君が羨ましいよ。ちゃんと自分の意思を持っている君が。

 

 

 だけど……僕はもう、止まれない」

 

 トゥーレシアの背に背負われている魔法陣が巨大化して、翡翠色の膜のようなものを周囲に広げていく。遠目に、爆発に包まれて落下していく何かの姿が映ったような気がした。

 

「奴らを……英雄を、天使を、その全てを焼き尽くすまで、僕は止まれない……止まらないと、自分で決めた!」

「なぁんだ、ちゃんと自分の意思持ってんじゃん」

 

 アンジェラはまるで悪戯っ子のような笑みを浮かべると、ソルフェジオをトゥーレシアに向けて構える。足元の魔法陣も、更なる輝きを放っていた。

 

「ちょ、フーディルハイン少女……もしかして、戦うつもりかい!?」

「逆に聞くがな、オールマイト。トゥーレシアと戦って、今のあんたに勝ち目があるとでも?」

「それは……」

 

 未知の力であの日本の裏社会の帝王たるオール・フォー・ワンを一方的に殺してみせたトゥーレシアに、衰え切ったオールマイトが敵う道理はない。このまま戦ったところで、徒に蹂躙されて終わるだけだと、オールマイトは断言出来た。

 

「厳しいこと言うようだけどなオールマイト、トゥーレシアはやろうとしてることこそ斜め上にぶっ飛んじまってるが、その根幹の感情は、誰に断ずることも出来ない、正当なものなんだよ。

 

 ……あんたが平和の象徴として君臨してしまっていたから起きた悲劇だということも、事実なんだよ」

「……「母」とやらの、絶望……君は、彼女の言葉を信じるのかい?」

 

 オールマイトは、鋭い視線をアンジェラに向けた。オールマイトは、否、ヒーローであれば、トゥーレシアの言葉の全てを鵜呑みにするようなことはまずない。言葉巧みに人々を拐かし、罠に嵌めるための発言であるとオールマイトが警戒することは、至極当たり前のことだ。オールマイトがトゥーレシアの話を信用しようとしないのも、至極真っ当な事である。

 

 

 

 

 

 

 ……其れは、知る由もない真実を知らぬから発せられた言葉であるのだと、アンジェラは理解していた。責めるつもりも、毛頭なかった。

 

 

 

 

 ただ、アンジェラは真実のみを口にする。

 

 

 

 

 

 

 其れが、どんなに残酷で、今更どうしようもない真実だとしても。

 

「「母とやら」、か…………オールマイト、母は昔、あんたに無邪気に憧れていた。どんな人でも笑顔で救い出す、最高のヒーローであるあんたに。

 

 信じる信じないって話じゃない、オレは最初から知っていた(・・・・・)んだ。今の今まで、記憶が封じられていたってだけで。せめてオレだけは、全てを忘れて幸せになりなさい、って。

 

 

 

 

 

 ……せめて、せめてそんな曖昧で不明瞭な呼び名じゃなくて、ちゃんと名前で呼んでやってくれよ。もう、母の耳には届かないとしても、魂へのせめてもの手向けとして、かつての憧れからの手向けだ、ほんの少しは、天使の呪いに縛られ続けている母の魂も、浮かばれるだろうさ」

「……お生憎様だけどねフーディルハイン少女。私、その人の名前を知らないんだ」

「おおっと、そうだったな。それは失敬。知らない名前を呼ぶことなんて、出来やしないもんな」

 

 アンジェラはうっかりしていた、とでも言わんばかりの表情で、紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、誰よりも素晴らしい平和の象徴(スーパーヒーロー)に憧れて、

 

 力が無いがゆえにその憧れへの道を断ち切られ、

 

 

 

 天使に攫われ、英雄に見捨てられ、

 

 

 

 世界の全てに裏切られて、

 

 

 

 深い深い絶望に突き落とされて、

 

 

 

 

 人としての全てを捨てさせられて尚、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 組み上げ、顕現させる舞台装置として生かされ、魂を縛られ続けている、一人の哀れで幼い少女の、名前を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緑谷出久」

 

 

 

 

















なんやかんや100話いきました。ありがとうございます。

そして、記念すべき100話目で最大級のサプライズの投下である。








「出久悪堕ち」、「出久闇堕ち」タグは必要でしょうか?(両方は文字数の関係で付け足せないのでどちらか片方だけ)

  • 「出久悪堕ち」タグがいる
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