音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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 言ったでしょう?奇跡はあなたのためにあると。


アンジェラ・フーディルハイン∶Regeneration

 深い深い、微睡みの中。

 

 暗闇に星のような光が散りばめられた、深層意識の奥底の世界。

 

 今までは、ただただ宇宙空間のような景色が拡がっていただけのそこに、どういうわけか、切り抜かれた部屋のようなものが存在していた。扉が一つに、誰も座っていない椅子が八つ置かれた、殺風景で無機質な部屋……いや、本来あるはずの壁が半分以上取り払われて、外から中の様子が丸見えのそれを、果たして部屋と呼んでいいのかどうか。

 

 現世から切り離されていた神野区をもとに戻した後、あれ程のことをしたのだから当然と言えば当然なのだが、いつの間にやら気を失っていたらしいアンジェラは、深層意識の世界で意識を取り戻した(実際には意識を取り戻したわけではなく、アンジェラの身体は今だに眠りについているのだが、便宜上こう記す)。

 

 今まで何度かこの深層意識の世界を目にしたことはあるが、その時とは明らかに様子が違う。自身の深層意識の世界の変貌ぶりに驚くべきなのか、それ以外に目を向けるべきなのか、アンジェラは少しばかり悩んでいた。

 

「……誰だ? オレをここに呼び出したのは」

 

 アンジェラの怪訝そうな声が、どこまでも拡がっているように見えるこの空間に響き渡る。この深層意識の世界がアンジェラの意識を招く時は、大抵の場合何かしらの干渉があった時だ。それが自分由来であるのか、はたまた別の何かであるのか。それはまだ分からない。もしかしたらどちらでもないかもしれないし、その両方かもしれない。

 

 何にせよ、このまま文字通り宙ぶらりんな状態は如何ともし難い。アンジェラはそういう中途半端な状況が好ましく思えるような性格はしていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんにちは。はじめまして、とも言うべきかな、アンジェラ・フーディルハインさん」

 

 ちょうど、アンジェラの眼の前にあった空の椅子に白い光が現れ、収束し、人の形と成った。白髪で病弱そうな、小柄な男性。椅子に腰掛けた彼は、人の良さそうな笑みを浮かべている。

 

 確かにこの状況を作り出した誰かを呼びはしたが、その登場方法と男性が自分自身の記憶の中(アンジェラのこれまで)にも受け継いだ記憶の中(母親の昔)にも存在しない、本当の意味で見知らぬ人間であったことにアンジェラが呆気に取られていると、男性は苦笑いをしながら口を開く。

 

「まずは自己紹介をするべきだね。僕は死柄木与一。君が偶発的に受け継いでしまった“個性”、ワン・フォー・オールのオリジンだ」

「ワン・フォー・オールのオリジン……オール・フォー・ワンの、弟さん……でしたっけ?」

「まあ、概ねその認識で合っているよ」

 

 男性……与一はアンジェラの返答にこれまた苦笑いしながら肯定の意を示す。アンジェラはなるほど、と頷きかけて、ある重要なことに思い至って首を傾げた。

 

「……あれ? じゃあ、とっくの昔にお亡くなりになっているはず……地縛霊か何かですか?」

「九割くらいは正解かな」

「合ってるんかい」

 

 冗談のつもりで言ったのに、それが合っていると返されてアンジェラは素でツッコミを入れた。

 

「僕だけじゃない……八代目の八木君……オールマイトを含めた歴代のワン・フォー・オールの継承者達も居る。まだ存命の八木君は大分曖昧な輪郭しか持っていないけれど、他の継承者達は、今僕がしているように君に語りかけることも出来る筈だよ」

「オールマイトも……生霊かよ」

「在り方としてはまさにその通りだね。他の皆はまだ目覚めていなくて、実際に今こうして君と話が出来るのは、僕だけなのだけれど」

「…………目覚めて……いない?」

「……そうだね。それだけじゃない、色々と説明が必要だ。とはいっても、僕も完全に状況を把握しきれているわけではないんだけどね」

 

 そう前置きをすると、与一は語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 与一はまず、偽王が倒され、アンジェラが隔絶されていた神野区の空間をあるべき形に戻した後の話をした。

 

 アンジェラが意識を失ったのは、神野区の空間があるべき形を取り戻し、定着された直後のことである。

 

 まるで解けるようにスーパー化……と言い切ってしまっていいのか分からない変身形態が解除され、アンジェラに力を与えていたカオスエメラルドは7つそれぞれがバラバラの方角へと飛び去っていった。

 カオスエメラルドは一度7つ揃い力を発揮させると、バラバラに飛び去っていくという特性を持っていることくらい、アンジェラは知っている。なんなら、何度もその光景を目にしている。カオスエメラルドが飛び去って大丈夫なのか心配していた与一だったが、アンジェラからカオスエメラルドの特性を聞くと大丈夫なのか、と納得したようだ。

 

 重力に従って地上に落ちてゆくところだったアンジェラを、まだ少し余力を残しスーパー化したままだったソニックとシャドウが支え、地上まで降ろした。それと同時に、二人のスーパー化も解除された。

 

 その様子を見届けたエッグマンは、ソニックに「何か」を渡すとエッグモービルを駆りどこかへと去っていった。状況が状況だったので、誰も追いかけようとはしなかったそうだ。まぁ、今回はエッグマンが手を貸してくれたみたいなもんだし、貸し作っちゃったしなぁ、とアンジェラは思った。

 

 エッグマンは去る前に何か言伝を残していったそうだが、与一は「それは目覚めてからお兄さん達に聞いた方がいいと思う」と、この場で語ることはしなかった。

 

 そして、一向に目覚める気配のなかったアンジェラはGUN日本支部に併設された病院へと担ぎ込まれ、今に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……かなり端折ったところも多いけれど、これが大まかな君が気絶してからの経緯だよ」

「I see……つまり、今オレは病院のベッドの上、ってことですか」

「そうだね。もう丸三日は眠り続けているかな」

「……は? 三日? そんなに?」

 

 まさかの日数眠り続けているという事実に、アンジェラは唖然とする。与一はアンジェラの反応が予想内らしく、苦笑しながら口を開いた。

 

「仕方ない……といえば仕方ないのかな。僕が把握し得る君の現状を鑑みるに……正直、今こうして話が出来るようになっているのも、想定よりも随分と早いと言わざるを得ないんだよ」

「それは……どういう……?」

 

 与一がアンジェラの疑問を晴らす決定的な言葉を発しようとした、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生まれ変わり、再誕、生まれ直し。

 色々と言い方はあるけれど、一番分かりやすくて近いのは……

 

「肉体の再構成」、かしら」

 

 突如として与一の言葉を遮った、第三者の声。

 

 聞き紛うはずがない、友達の声。

 

 不思議なことではあるが、何らおかしな事ではない。

 だって彼女は、ずっとアンジェラの傍に居たのだ。

 人としての姿かたちを失っても、それでも尚、彼女の傍に。

 

 

 

 

 

「再構成……つまり、オレの身体は丸々別のものに置き換わったと、そう言いたいのか? 

 

 

 

 

 

 

 

 メリッサ」

 

 アンジェラはそう言いながら、声がした方に振り向く。

 

 そこには、確かにメリッサの姿があった。

 

「アンジェラの感覚器官を通して、外の様子を見てきたわ。そして、あの時……アンジェラがカオスエメラルドの力と私の力を同時に使ったあの時、一瞬、そう、ほんの一瞬だけ、それが途切れた。

 

 それに、今までは数瞬、それも感覚的に「声」を届けることしか出来なかったけれど、今はこうやって深層意識の世界で会話をすることが出来ている。「私」は「あの時」から変わっていないから、要因があるとすれば……」

「オレ自身の変化……か」

 

 呟くように放たれたアンジェラの言葉に、メリッサは頷いた。聡明なメリッサをもってしても、何故メリッサがアンジェラと会話出来るようになったのか確定的な事は言えないが、あるだけの判断材料を掻き集め、推察した結果なのだろう。

 

「そう、君の変化、論点はそこだ。そしてそれが、僕以外の歴代ワン・フォー・オール継承者達が今眠りについている要因にも繋がっている」

「それが、肉体の再構成……?」

「そう、結論から言ってしまえば、今の君の身体は今まで君が使っていた肉体(・・・・・・・・・・・・)ではない、新しい肉体なんだよ。

 

 ……いや、肉体と呼べるかは分からない(・・・・・・・・・・・・・)、かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 前提として、アンジェラ・フーディルハインは元々人間ではない。部分的に人間の遺伝子を宿してはいたが、その遺伝子構造は人間のそれとは根本から異なるものである。

 

 汲み上げ、顕現させる生きた舞台装置に改造された緑谷出久が、天使の策略によって産み出すことを強制された娘たち。人間だったものから産まれた、人の形をした人ならざるもの、失われし時間の偶像(フェイタル・マギア)の九女、ナーディこそが、アンジェラの正体だった(・・・)

 

 失われし時間の偶像(フェイタル・マギア)はいわゆるプロトタイプ、と言うべきものらしく、その肉体構造に致命的な欠陥を抱えていた。

 具体的に言えば、彼女らは10の歳を重ねることを赦されていない。10に至るどこかの段階で、その肉体は崩れて死に至る。個人差はあるようだが、10の年までその肉体で生きることは不可能である。

 

 それは、当然アンジェラも例外ではなかった。本来であれば、アンジェラも死なないまでも、もう既に肉体の崩壊が始まっていてもおかしくはない。

 

 それでも、アンジェラの肉体が崩壊の兆しすら見せていなかったのは、ひとえにカオスエメラルドの加護のおかげである。定期的にアンジェラの肉体に注がれていたカオスエメラルドの力が、アンジェラの肉体の崩壊を食い止めていたのだ。それが、数少ない「契約者」を失わんとしたカオスエメラルドの「意思」によるものなのか、はたまたただの偶然でしかないのか、確認する術などない。

 

 しかし、カオスエメラルドの力があっても、それは時間稼ぎにしかならない。アンジェラの肉体が10の歳を重ねるまで保たないという決定的な事実は覆らない。事実、神野区の事件の時点で、アンジェラの肉体は限界に差し掛かっていた。

 

「……あの時、君がカオスエメラルドの力と魂の残響(ソウルオブティアーズ)……メリッサさんの力で変身した時。君は注ぎ込まれたカオスエメラルドの力、古い肉体、それに宿っていた強大な魔力、そして、ワン・フォー・オールを礎とし、それがメリッサさんの力と反応したことで……新しい肉体を産み出し、自我と魂をそこに移したんだよ」

「……なんって、壮大な「引っ越し」だよ、それ」

「そうだね、自我と魂という点で言えば、引っ越しとも言える。古くなって崩れかけていた古い物件(肉体)から、新しく作った物件(肉体)に引っ越しをしたんだ、君は。

 それが、全て無意識で行われていた」

「………………今の、オレの肉体は……何と、言えます?」

 

 与一は少し考える素振りを見せる。今のアンジェラの肉体を何と形容していいものか、与一は答えあぐねていた。

 

「膨大なエネルギー……魔力の塊みたいなものね。姿かたちは前とそこまで変わらないけれど、その構造は根本から違う。いわば……エネルギー生命体、かしら?」

 

 口ごもった与一の代わりに答えたのはメリッサだ。アンジェラはふむ、と納得しかけて、ある重要な見落としに気がついて口を開く。

 

「えーっと、それと、歴代が眠っていることの何処に関係が……?」

「…………先に、これだけ言っておこう。少なくとも僕は、君に責任を問うつもりは全く無い。君が人間ですらないことは誰にも知る由なんてなかったし、君にワン・フォー・オールが宿ったことも、誰が意図したものでもない。この件に関して、君が責任を感じる必要は、一切無いんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ワン・フォー・オールという“個性”は、君が新しく肉体を作り出した時に、その力の全てが魔力に書き換えられ、消失した。その時に、ワン・フォー・オールに宿っていた、僕を含む歴代継承者の自我と魂の欠片はワン・フォー・オールから切り離され、君の深層意識の世界に根付いたんだ。その負荷で、僕以外の継承者達の意識は眠りについてしまったんだ」

 

 アンジェラは、無言で与一の話を受け止めた。

 ワン・フォー・オールの消失。それが重大な事であるというのは言われなくとも分かる。しかし、そのオリジンがアンジェラに責任を問うつもりがないと言うのであれば、責任を感じるのはお門違いだ。

 

 そもそもアンジェラは、意図して新たな肉体を作り出した訳でもなければ、意図してワン・フォー・オールをその材料として使った訳でもない。全てはアンジェラの意思が関わらぬところで起きた事。強いて言うならば、アンジェラの生存本能によるものなのだろうが、生存本能など生物であれば誰もが持っているものであり、アンジェラ自身の意思がワン・フォー・オールの消失に関わっているわけではないことに変わりはない。

 

 そんなアンジェラにワン・フォー・オールが消失したことに対する責任を突き付けるのは、果てしなく間違っている。

 

「これも一つの完遂だ。これで良かったのだとすら思う。オール・フォー・ワンを討つために培われ、継がれてきたこの力の本懐はもう無い。これ以上の継承は、例え君が魔力も持たない普通の人間であったとしても、破滅しか産み出さなかっただろう。そして、「あの時」、あの場にあったなにか一つでも欠けていたら、君は10の歳を迎えることすら出来なかっただろう。

 

 君の母上を絶望の奥底に落としてしまった遠因となったワン・フォー・オールが、最後の最後で君を救い出した一端となった。

 

 僕はそれを、誇りに思うよ」

 

 与一はそう言うと、本当に誇らしげに、笑った。

 

 アンジェラはとても複雑な気分だった。アンジェラは母を本当の意味で母として見ていない。産んでくれた恩義こそ感じる。その運命と現在の姿に同情や憐れみは感じるが、それだけだ。思い出したかつての記憶の中でも、母親と話なぞ出来るわけがなかったので当たり前といえば当たり前なのだが。

 

 だから、母親を絶望に突き落とす遠因が自分を救ったのだと言われても、いまいちピンとこなかった。

 

「それに、本来であればワン・フォー・オールと共に消失するはずだった僕らの意識も、何の因果かこうして君の新しい肉体そのものに宿っている。これ以上の贅沢は、望む気にもなれないよ」

「……まあ、あなたがそれで納得しているのなら……それでいいんでしょうけど」

「……ああ、だけど、どこかに行ってしまった死柄木達はどうにかしてほしいかな。君の本懐のついでくらいに思ってもらって構わないから」

 

 与一はそう言い、困ったように笑う。死柄木達は恐らく、トゥーレシアの魔法で逃されたのだろう。(フォニイ)の友人への、せめてもの恩返しとして。

 

 しかし、アンジェラはトゥーレシアやフォニイを憐れみはしても、その遺志に従うつもりは毛頭ない。例えフォニイの友人だとしても、敵対するのであればそれまでだ。

 

「つまり、アフターケア、ってことか。まあ、引き受けてもいいけど」

「大丈夫よ、マイトおじさまは一人だったけれど、アンジェラには私達がついてるもの!」

「そうだ、今までの継承者達にはなかったものを、君は持っている。君はワン・フォー・オールの継承者として振る舞う必要は無い。これは僕個人からの依頼だと思ってくれればいい。

 

 だって、もうこの世界にワン・フォー・オールは存在しないんだから」

 

 与一はどこか微笑ましげに、そして懐かしそうに頷いた。彼が思い出しているのは、オール・フォー・ワンの元から救い出してくれた、彼のヒーロー達のこと。ワン・フォー・オールが消え去り、自分も消え去る運命にあったはずなのに、今こうしてアンジェラの深層意識の世界に存在できていることは、奇跡というべきなのだろうか。それとも、アンジェラが持つ無意識な優しさが作用したのだろうか。

 

 どちらにせよ、与一の考えは変わらない。ワン・フォー・オールそのものが消え去ったこともまた、覆しようのない事実に他ならない。なれば、最後の継承者たる幼子の行く末を、たまにアドバイスを送りつつ見守ることこそが自分の、自分達過去の亡霊の役割なのだと、与一は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、八木君によろしく伝えておいてくれ。

 

 

 少し遅れてしまったけれど、お誕生日おめでとう、アンジェラ・フーディルハインさん」

 

 

 

 

 与一が放った言葉に聞き返す間もなく、アンジェラの意識は強制的に、深層意識の世界から引き上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……少し、いじわるなこと言ったかな」

「大丈夫ですよ、アンジェラは賢いですから」

「そうだね。それに、深い意味はないし……次に会った時にでも、答え合わせをしようかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








ワン・フォー・オールがこの時点で消失することは、最初期から決定していました。アンジェラさんの意思はそこに関係ありません。この件に関してアンジェラさんに責任を問うことは、果てしない間違いなのです。そもそも、10にも満たない子供にそんな責任を押し付けるのもどうかしているわけですが。
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