音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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第九章 Reach for the stars
全寮制とエトセトラ


「……じゃあ、フーディルハインは雄英に残る、と……?」

「はい、奴らが日本に居る可能性が高いのは事実ですし、オレ自身とGUNの目的が一致している以上、協力を惜しむつもりはありません。

 

 それに、雄英もなるべく今は生徒を外にやりたくないでしょう?」

 

 見透かされていると、相澤先生は思った。

 それが何らかの能力によるものなのか、それとも彼女自身の類稀なる才能なのかは分からないが。

 それと同時に、アンジェラの判断が雄英にとっても都合がいいものであることも、また事実であった。

 

「……事前に連絡行っているとは思うが、雄英は全寮制になる。今回の見舞いはその件の話も兼ねているが……それ以前に、フーディルハインはその身体で動けるのか?」

 

 相澤先生の視線はアンジェラが座する車椅子に向いている。アンジェラは少しばかり相澤先生の言葉の意味を考えて、ああ、と納得したように口を開いた。

 

「大丈夫です、一時的に歩けなくなっているだけなので。いずれ足の機能も回復すると」

「そうか……」

「ただ、まだ暫くはリハビリ、な?」

「…………はーい…………」

 

 アンジェラは不服そうに声を上げた。根っからのアウトドア派のアンジェラにとって、動きを制限されるのは結構辛いものがあるらしい。「アンジェラさんならすぐに杖で歩けるようになりますよ」とガジェットが苦笑いしながらなんとかフォローを入れようとしていた。

 

 アンジェラが今歩けなくなっている理由は単純だ。アンジェラはまだ、新しい肉体を掌握しきれていないのだ。肉体面だけで言えば、今のアンジェラは生まれたての赤ん坊のような状態なので当然といえば当然なのだが、それでも上半身は既に動かせる状態になっているのは、それだけアンジェラの魂と新しい肉体が馴染んでいるということ。この調子であれば一月もかからず自在に身体を動かせるようになると、ソルフェジオのお墨付きだ。

 ただし、それまでは車椅子か杖が手放せないうえにリハビリも必要になってくるが。そこはアンジェラの頑張り次第だろう。

 

「そうか……全寮制の件、お兄さん方はどうですか?」

「とは言っても、アンジェラの意思がこう固まってる以上は、僕らが反対するわけにもいかないだろう」

「そうだな。始まりが何であれ、それがアンジェラ自身の望みなんだったら、戦うんだって自分自身で決めたのなら。

 あとはとことん、突き進むしかないからな」

「…………」

 

 相澤先生は無言で居ることしか出来なかった。

 きっと、アンジェラは天使の教会を根絶やしにするまで、歩みを遅めることはあっても止まることはない。断言できる。そして、ヒーローを良くは思わないが憎いとも思わないというのもまた、事実なのだろう。

 

 教え子がヒーローを志すこともなく、心に渦巻く憎悪を糧に、社会に仇なすものたちと戦おうとしている。それは、ヒーローとして見れば凄まじく都合がいいことで、しかし担任の教師として見た時にそれを看過できるかと言われれば、相澤先生は否と答える。

 

「…………」

 

 ……だが、何故か、アンジェラが憎悪だけに囚われることはないと、相澤先生は言い切ることが出来た。

 彼女の眼は、憎悪だけに囚われた者達とはまるっきり違うものだったから。

 

 当然、完全に放任出来るというわけではない。他の生徒たちと同じように、教え導くことには変わりない。例え、彼女が決してヒーローにはならないだろうとしても、雄英高校に、一年A組に在籍している以上は、相澤が先生として教え導くべき、一人の生徒なのだ。

 

 やりきれなさと、呆れと。

 相澤先生は一つ、ため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日後。

 

 

 

「……」

 

 病室のベッドに立て掛けられた二本の松葉杖。この数日で、すっかり見慣れたもの。

 

 それを手に取り握り締め、恐る恐る床に足をつける。両脚がプルプルと震えたものの、なんとか立ち上がることが出来た。そのまま一歩、杖をつきながら踏み出す。

 

 アンジェラの脚は、確かに床を踏みしめた。

 

「…………ふぅ」

「Congratulations! それで何とか日常生活は送れそうだな」

「うわっ……なんか凄い違和感ある……」

「そこは慣れるしかないだろ。しっかし、生まれたばっかの子鹿みてぇだな」

「うっさい、そこに触れるな」

 

 少しばかり、松葉杖をついて病室内をうろちょろと歩いてみたアンジェラは、ナックルズの指摘に若干顔を赤くしながら反論した。

 まだまだ違和感は凄まじいし傍から見てもフラフラしているが、この調子であれば、アンジェラはすぐに杖を使った歩行に慣れることだろう。杖での歩行にある程度慣れれば、次は普通に歩く訓練である。

 

 が、アンジェラの目下の悩みはそれではない。リハビリについても考えるべきではあるが、まずその前に考えなくてはならないことがある。

 

「とはいっても、引っ越しの準備はこれじゃ出来ないけどな……寮に着いた後の荷解きも……どーすっかなぁ……」

 

 流石に松葉杖をついたままでは荷造りと荷解きなど出来ない。辛うじて、衣服を纏められるかどうかといったところだ。衣服を纏めるのも、普段とは比べ物にならないほどの重労働になることには変わりないだろう。アンジェラはどうしようかと頭を悩ませた。

 

「荷造りならオレとナックルズでやるよ。アンジェラは服の類いを袋に詰めるとかだけしてくれればいいから。荷解きに関しては学校で先生に相談しな」

「おい待て、何で俺が手伝う前提なんだよ! シャドウとか、他にも居るだろうが」

「いやシャドウ達は後始末やらなんやらで暫く手が離せないんだって。

 それに、てっきりそのつもりで残ってたのかと」

「……うっ……」

 

 図星。ソニックは即座にそう判断した。

 ナックルズは誰かと張り合ったり素直じゃなかったりすることが多いが、アンジェラに対してはなんとなく甘いと、ソニックは常日頃から思っていた。

 

 思っているだけで口にはしない。こんな面白そうなネタ、すぐに摘み上げてしまうのは勿体無い。本心がどうかは実際に確認してみないと分からないが、ソニックは然るべき時にこの話題でいじってやろうと画策していた。

 

 ……と、アンジェラがどことなくぼーっとしているのに、ソニックは気が付いた。久し振りに立ち上がって疲れでもしたのだろうか、と声をかける。

 

「アンジェラ、どうかしたか?」

「……ああ、いや、なんでもない」

 

 アンジェラの返答がどことなく歯切れが悪いなと思いつつ、恐らくだがあまりつっついてはいけない事なのだろうとも思ったソニックは、「そうか、病み上がりなんだからあまり無理はするなよ」とだけ言うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それからも、松葉杖を使った歩行の訓練やリハビリをしつつ、GUNや雄英高校と協議や日程の調整などを行う日々が続いていた。

 

 アンジェラの入寮日は他のクラスメイト、並びに雄英生徒と同様の日程となる。雄英高校でも歩行リハビリのための設備を比較的早めに整えられるため、アンジェラの入寮日を遅らせる必要がないとの判断がされた、とのことだ。それに伴い、アンジェラの退院日も決定し、以降の検診やリハビリの管理はリカバリーガールに引き継がれる。ただ、アンジェラの場合は足を怪我したわけではなく、新しい肉体を掌握しきれていないから歩行機能が低下しているのであって、医学的知見がどこまで役に立つかは分からないが。少なくとも、普通のリハビリよりは短い期間でリハビリを終えることが出来るだろうというのはソルフェジオの見解だ。

 

 また、入院中に仕事の合間を縫って見舞いに訪れたシャドウから、新しいリミッターを渡された。渡された瞬間はもうリミッターは必要ないかもと一瞬思ったアンジェラだったが、実際には、目眩などの症状は軽くなるだろうが、力に振り回されやすくはなっているからどっちみちリミッターは必要だとソルフェジオに提言された。

 ただ、抑える魔力は今までよりは少なくていいとのことなので、リミッターの数は一つ、ちょうど義手になった左腕分減った。一瞬、右腕にガッチャガチャと2個もリミッターを着けなければいけないのかと思っていたアンジェラは安堵の息を吐いたとかなんとか。

 

 

 

 

 そんなこんなで時間は過ぎ、退院日。

 

 アンジェラは退院した後、自室で荷造りをしていた。

 とはいっても、松葉杖をつきながら荷造りなど出来ないので、アンジェラは衣服の整理に尽力し他の荷物を纏めているのはソニックとナックルズとケテルと、そして……

 

 

 

 

「…………」

「うん、傷付けずに入れろよな〜」

 

 頭の上に教科書を乗せた犬のようななにか……ミミックが、ダンボールの中に教科書を詰め込む。その眼から知性など感じないというのに、器用なものだ。

 

 ミミックは、元はトゥーレシアが使役していた使い魔である。使い魔になる前は赤みがかった野良犬だったらしい。トゥーレシアがソウル化した時、主だったトゥーレシアの自我の境界線が曖昧になったことでトゥーレシアの使い魔としてのミミックの存在も曖昧となっていたが、ミミックがそれに抗おうとしていた所を見たアンジェラがミミックに刻まれた主従を書き換え、現在はアンジェラの使い魔となっている。使い魔とその主という関係性になったからか、アンジェラはミミックが伝えようとしていることがなんとなく分かるらしい。閑話休題。

 

《お姉ちゃーん、コレはどこに入れればいいのー?》

「あ、それはテリーヌバッグん中でいいぜ」

 

 ミミックに負けじとお手伝いを頑張るケテルに指示を出しながら、衣服の整理を進めるアンジェラ。張り切るケテルを微笑ましく思いながら、しかし彼女の思考回路は別の事に傾いていた。

 

 

 

 違和感があるのだ。

 勿論、古い身体と今の身体の勝手が違うことは当たり前だ。勝手が同じなのなら、今アンジェラが歩く時に松葉杖を必要とすることもない。それも、違和感と言えば違和感だろう。

 しかし、アンジェラの思考が傾いているのは、そのことについてではない。

 

 目覚めてから、心がすっと軽くなったような気がするのだ。まるで、今までは重石のようなものがアンジェラの心に巣食っていて、それがぽっかりとなくなったかのような感覚。

 

 不都合があるわけではない。寧ろ、心に巣食っていた気味の悪い何かが失くなって気分がいいとさえ言える。

 

 

 

 

 

 

 

 ……しかし、何故かアンジェラは、素直に喜べずにいた。

 例え気に食わなかったものだとしても、それがアンジェラの心を守っていたと気付いていたからだろうか。

 

 

 

 

 いや、思い出したからだろう。

 その()を仕掛けたのが、誰なのか。

 

 

「…………せめて、一目会うときまでに、死んでなきゃいいけど」

 

 アンジェラはそう呟くと、作業に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荷造り作業が一段落し、アンジェラ達は紅茶を飲んで一息ついていた。アンジェラが好きなアールグレイを淹れたのだが、味覚の違和感にアンジェラは思わず苦い顔をする。肉体を掌握しきれていない弊害は、こんなところにも現れるらしい。慣れてしまえばどうということはないだろうが、慣れるまでが大変だとアンジェラはひとりごちた。

 

「……お前もヒトが悪いことするなぁ」

「ヒトが悪いこと、って?」

「分かってるくせに」

 

 おちゃらけたように言うソニックに、アンジェラはしかし否定をすることはなかった。ソニックが言わんとしていることの心当たりなど、一つしか無い。

 

「ああ、あれか……確かに、先生には言っておいてもよかったんじゃないか?」

 

 コンマ1秒置いて、ナックルズもソニックの言わんとしていることを理解したらしい。意味ありげな視線をアンジェラに向けてきた。

 

 それは、アンジェラがソニック達にのみ伝えた、彼女が日本に残る、本当の目的。

 

 別に、それが母親だからではない。同情や哀れみは大いに抱えているが、それ以上の感情ではない。例え、アンジェラがその願いを母から託されていたのだとしても、それは揺るがない。

 

 

 

 天使の教会に打撃を与えるのに一番効果的なのがそれ、というだけだ。

 

 

 

 

 

 

 アンジェラはアールグレイを一口飲む。やはり、味覚に違和感があると思った。

 

「だって、先生達に言ったら止められるだろ? 

 例え、人の形も人としての自我もとうに失っているとしても、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 母を殺す、なんてさ」

 















私は、デク君は嫌いではありません。寧ろ好きな部類のキャラです。(信じてもらえるわけ無い弁明)
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