音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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決意と狂気は表裏一体、


死すらも厭わぬ決意は、狂気と何が違うというのか。


入寮と、アンジェラの決意

 

 時は流れて、入寮当日。

 雄英高校敷地内、校舎から徒歩五分の場所に建築された、築三日の学生寮、ハイツアライアンス。クラス毎に建てられているらしく、今アンジェラの眼の前にある建物にはでかでかと1-Aという文字が刻まれていた。

 

 ただ、クラスメイト達は新生活に対して素直にはしゃげるような状態ではないらしい。原因が明らかに自分にあるという自覚があるアンジェラには、何かを言うことなど出来ないのだが。

 

「……取り敢えず一年A組、無事にまた集まれて何よりだ。若干一名、無事とは言い切れない奴が居るがな」

「いやあの……すんません…………」

 

 相澤先生の刺すような視線に、アンジェラは言い返そうとも思わず、歯切れ悪そうに謝罪を口にした。クラスメイト達がなんだかソワソワしているのを見て、相澤先生は先に伝達しなければならないことを告げようと手を叩いて口を開く。

 

「さて、これから寮について軽く説明するが、その前に、今後の動きについて。当面は合宿で取る予定だった仮免取得に向けて動いていく」

「そういやあったな、そんな話」

「色々起こりすぎて頭から抜けてたわ」

 

 林間合宿の襲撃事件に始まり、神野の悪夢と呼ばれている先日の事件やオールマイトの引退など、この短期間で様々なことが起こっている。仮免について忘れていた者が現れても仕方ないだろう。相澤先生もそれを認識しているのか、忘れていた者に対して流石に今年度は仕方ないか、と言わんばかりの視線を向けた。

 

「仮免についてはまた明日、詳しい説明を行う。今まで忘れてた奴も、もう一度頭に入れ直しておけ。

 

 色々、主にフーディルハインに聞きたいこと言いたいこと色々あるだろうが、取り敢えず寮に入って説明聞いてからにしろ」

 

 恐らく、というか十中八九質問攻めにされるなぁ、とアンジェラはどこか遠い目で空を見上げた。質問攻めにされても守秘義務や緘口令などで答えられないことの方が圧倒的に多い。

 

 だが、答えられる限りのことは答えよう、と、アンジェラは覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 相澤先生に先導され、アンジェラ達は寮に入る。ドアが開かれると、そこには黄緑が基調の落ち着いた空間が広がっていた。

 

「学生寮は1棟1クラス。右が女子、左が男子と分かれている。ただし一階は共同スペースだ。食堂や風呂、洗濯などはここで行う。

 部屋は二階から1フロアに男女各四部屋の五階建て。一人一部屋、エアコン、トイレ、冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ」

 

 各部屋にはベランダもあった。ここまで良条件の物件もそうそう無いだろう。しかも、寮制になった経緯が経緯なので、引っ越し費用は殆ど雄英持ち、寮費も他の全寮制の高校と比べて格段に安い。寮費に関しては雄英が国立校ということも大いに関係しているが、それでも安いことには変わりない。

 

「部屋割りはこちらで決めた通り。各自、事前に送ってもらった荷物が部屋に入っているから、取り敢えず今日は部屋作ってろ。仮免試験の事も含め、明日また今後の動きを説明する。

 

 ああ、質問攻めにするのはいいが、荷解きは今日中に終わらせとけよ。以上、解散」

 

 相澤先生はそう言いながら飯田に部屋割り表を渡すと何処かへ行ってしまった。

 

 全員の視線がアンジェラに向けられる。アンジェラは逃げるつもりもなく、その視線を受け止めた。

 

「先に言っておく。緘口令が敷かれてるから、話せないことがかなりある。それでもいいか、と聞くことすら出来ない。悪いな」

「……緘口令はアンジェラちゃんがどうこうって出来るようなものじゃないし、それは仕方ない。

 

 裏を返せば、アンジェラちゃん。答えられることには、ちゃんと答えてくれるんだよね?」

 

 麗日の言葉に、アンジェラは真剣な眼で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジェラが話をすると確約したこともあり、飯田がまず先に荷解きを終わらせてしまおうと言った。なるべく早く荷解きを終わらせられれば、それだけアンジェラの話を聞ける時間が増える、という考えのようだ。話に注力しすぎて荷解きが今日中に終わらなくなる可能性も考慮したのだろう。荷解きを終えたら共同スペースに集合しよう、という取り決めがなされると、クラスメイト達は各々の部屋に向かって行った。

 

 逃げるつもりは毛頭ないが、こりゃ逃げられんなとアンジェラはひとりごちた。

 

 

 アンジェラの部屋は麗日の隣だ。同じ階には芦戸も住んでいる。松葉杖をつきながら歩くアンジェラの歩調に合わせて、麗日と芦戸が歩いていた。

 

「あ、そうだ。二人とも、自分の部屋のが終わってからでいいからさ、ちょっと荷解き手伝ってくれないか? 一人じゃどうも今日中に終わりそうもなくてさ」

「わかった……さっき、結構びっくりしちゃったんだ。フーディルハインが松葉杖つきながら歩いて来たの見てさ。神野で何があったのかなって」

「………………」

 

 普段よりも芦戸の声のトーンが低い。アンジェラは罪悪感で顔を俯かせてしまった。あの状況、自分の肉体だったものの状態を鑑みれば、今の状態がどれだけ恵まれたものかということは分かっているはずなのに。

 

「アンジェラちゃん……脚、治るの?」

「ああ、今もリハビリ中。ちゃんと完治するってさ」

「そうなんだ、よかった…………」

 

 麗日は少し安堵したかのように見えて、その視線はアンジェラの左腕の義手に向いている。恐らくだが、クラスメイト達は既に気付いているのだろう。

 そこに、もう肉が存在しないことに。

 

 アンジェラは左腕の義手に、少しばかり力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやっと荷解きが終わったのは、もう既に日が沈みきった時間帯だった。他のクラスメイト達はもう少し早く荷解きを終えていたようで、既にラフな格好で共同スペースに集まっている。

 

「……全員、もう居るのか」

「皆、時間を確保するために手早く荷解きを終わらせたそうだ。かくいう俺もそうだ」

 

 アンジェラは「そうか」と一言告げると、ソファに腰掛け松葉杖を立て掛ける。クラスメイト達が向けてくる視線が痛いが、なんとか顔には出さないようにした。

 

「まずは、心配かけて悪かったな」

「本当だよ! すっごい心配してたんだからね!? しかも、戻ってきたと思ったらそんな……ボロボロになってて!!」

 

 麗日がクラスメイト達を代表して悲痛な声を上げた。アンジェラは反論することもなく、真っ直ぐにそれを受け止める。色々状況的に仕方なかったところも多いうえ、アンジェラにして言わせてみれば、死ぬかもしれなかったところを、腕一本だけで済ませられた上棚ぼた的に、気が付いた時にはかなり差し迫っていた寿命の問題も解決してしまったのだから、こうやって心配される謂れはないのだが、緘口令やら諸々の問題の関係上、そんなことを言うわけにもいかないので黙っていた。

 

「事件のことを聞こうとは思わない。あれほどの大事件だ、緘口令が敷かれていないと逆におかしいからな。

 

 ……ただ、これだけは聞かせてくれないか。

 その左腕と脚は、どうしたんだ?」

 

 アンジェラの左腕を覆う、生気など感じさせない黒鉄のプロテクター。それについて問う飯田の声は、しかし大方の予想がついているような、どちらかといえば確認をするかのような声だった。

 

 アンジェラも隠しておく必要もないとばかりに、右腕を義手の付け根に添えた。アンジェラの不可解な行動に首を傾げたクラスメイト達だったが、次の瞬間、息を呑んだ。

 

 

 

 パキ、と。小枝でも折れるかのような小さな音を鳴らして、義手がアンジェラの肉体から外れたのだ。アンジェラは外した義手を膝の上に置く。

 

 当然ながら、義手があった場所に肉はない。

 

「っ、何、を……!?」

「言葉にするより、実際に見せた方が早いと思ってな。何があったかは話せないが、見ての通り、オレは先の事件で左腕を失った。脚の方は一時的に機能が低下しているだけで、リハビリすればちゃんと治る」

 

 クラスメイト達は、うまく言葉を繋ぐことすら出来なかった。事実をただ淡々と伝えるだけのアンジェラに、恐怖すらも感じた。この中で唯一そのこと、それ以上のことさえも事前に知っていた爆豪でさえ、アンジェラから全くと言っていいほど感情の起伏を感じられないことに恐れを抱いた。

 

 アンジェラ自身は、必要以上にクラスメイト達に恐怖を与えるであろう自分が抱く一般から見れば異常な思考、「片腕だけで済んだと本気で思っている」ことを悟らせないために、極力感情を押し殺しているのだが、そのことが逆にクラスメイト達を恐怖させる原因になってしまっている。

 

 クラスメイト達の反応からそれに気が付いたアンジェラが、しかし何を言うべきか迷っていると、俯向きながら轟が口を開いた。

 

「それは……俺達のせい、なのか? フーディルハインに救われておきながら、眼の前で連れ去られていくのを見ていることしか出来なかった、俺達が……」

「絶対に違う」

 

 罪悪感を声に滲ませた轟と、彼に同調するかのように更に暗い顔になった障子と常闇を、アンジェラは強い口調で擁護する。そんな言葉をかけられるとは思っていなかった三人は、ぽかん、と固まってしまった。

 

「言うべきかどうか分からないし、言ったところで納得されるとも思わない、納得させられるだけの説明を出来るわけでもないけれど。

 

 この腕は、半ば自分でやったようなもんだ。きっと、過去に戻れたとしても、オレは同じ決断をする。同じように、腕を斬り落とさせる。その行動に、決断に、後悔をすることは決して無い」

 

 アンジェラは、自分が納得できるように行動しただけだ。その結果がどうあれ、それが覆ることはない。

 あまりにも堂々と語るアンジェラに、クラスメイト達は一周回って心配よりも呆れが全面に出ていた。彼女の言葉には微塵も嘘など感じることはなく、事実アンジェラは真実しか話していないのだ。

 

「……その結果、腕を一つ失ってしまうとわかっていても、アンジェラちゃんは同じ決断を下すの?」

「梅雨ちゃん、ちょっとちがうかな。腕を失くすことそのものが、オレの決断なんだ。誰に何を言われようが、そこは曲げられないね」

「どうしてかって、聞いてもいいかしら?」

 

 蛙吹の問いかけにアンジェラは少し考える素振りを見せる。蛙吹は聞いてはいけない事だったのかと少し焦るが、アンジェラは義手を左腕に装着すると、薄く笑みを浮かべ口を開いた。

 

「んー、色々あるけど、強いて言うなら…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プライド、かな」

「…………はぁ?」

 

 予想だにしない発言に、蛙吹はついつい首を傾げ普段は出さないような呆れた声を出した。

 

「くだらないと思うか? たかだかそんなもののために腕一本を犠牲にするのは愚かなことだと思うか? 

 ……それは概ね正しいぜ、人間として正常な思考だ。傷付くことは痛いし、オレだって出来れば回避したいと思う。

 

 だけどな」

 

 アンジェラは義手を握り込むと、晴れ晴れとした笑みを浮かべた

 

 

 

 

 

「そんなこと滅多にないことだけどな、それでも、生きてりゃあるわけよ、

 

 その行動が身を滅ぼすと分かっていても、覚悟を示さにゃならん時がな。

 

 オレの場合は、其れがあの時だった。覚悟の対価として差し出したのが左腕(コレ)だった。ただ、それだけだ」

 

 トパーズの眼に宿っていたのは、確固たる決意だった。誰に何を言われようが曲がることはない、決して折れ曲がることはないとすら錯覚させるような、強い強い決意。

 

 滲むような狂気すらも感じるそれを、しかし麗日達は直視することしか出来なかった。決して、目を逸らすことなど出来なかった。

 

 目を逸らしたら、それこそヒーロー、いや、アンジェラの友人として失格だと、なんとなく感じていた。

 

「……それは、誰の、何の為の決意なの?」

 

 震える声で麗日が尋ねる。せめてという懇願すらも感じるそれに、アンジェラは本心から、麗日達が望む答えを与えた。

 

 

 

 

 

 

「他ならぬ、オレ自身の我儘を貫き通す為の決意さ。それを、あの場で示す必要があった。

 

 我儘を貫き通すためには、それを手放さない決意が必要だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なるほど、よーくわかったよ。

 ……よかった。いや、何もよくはないけれど、それでも、アンジェラちゃんが他人の為じゃなくて自分自身のために自分の身体を賭したんなら……まだ、いいと思う。

 

 ……だけどそれは、心配しないと同義じゃないんだからね」

「あー、その節につきましては……うん。ごめん」

 

 流石にアンジェラも心配をかけたことに罪悪感は感じているのか素直に頭を下げる。麗日はため息をついて呆れたように笑うと、アンジェラの頭を撫でた。

 

「なにすんだよ」

「心配かけた罰! 皆〜!」

「?」

 

 アンジェラが疑問符を浮かべた次の瞬間、まるで示し合わせていたかのように、女子達にもみくちゃにされた。男子達は離れた場所に移動してどこか微笑ましそうにもみくちゃにされているアンジェラを眺めている。

 

「うわっ!? ちょ、お前らやめろって!」

「アンジェラさん、私に何かお手伝い出来ることがありましたら言ってくださいまし! アンジェラさんの決意が何に向けられたものなのかを聞くつもりはありませんが、微力ながらお力添えをしたく!」

「決意示すのに腕一本って! フーディルハイン、ぶっ飛びすぎ! もうこんな無茶苦茶すぎることしないでよ!?」

「ケロ、アンジェラちゃんは強いけれど、私達にもう少し頼ってほしいわ。お友達がこんなにボロボロになって帰ってきたら、悲しいもの」

「そうだよ! アンジェラちゃんは友達だもん! 力になれることがあれば遠慮なく言ってね!」

「フーディルハインはもう少し、周りに頼ってよ。ウチもさ、協力出来ることがあれば協力するからさ」

 

 女子陣にもみくちゃにされながら心配の言葉を投げかけられたアンジェラは、よっぽど恥ずかしかったのか頬を赤く染めている。それに萌でも感じた女子陣が更にアンジェラをもみくちゃにするという循環が発生し、アンジェラは割と本気で潰れるんじゃないかと思った。

 

「……示す手順はぶっ飛んでるけど、その決意は漢らしいな! 俺も協力するぜ!」

「うむ。しかしアンジェラ君、ここまで過ぎた無茶苦茶はもうよしてくれ……兄のように取り返しのつかないことにならないよう、俺も力を尽くさせてもらうからな!」

「フーディルハイン、先の件の借りは、いつか必ず返す」

「俺もだ、些細なことでも構わない、なにか力になれるのなら言ってくれ」

 

 アンジェラはもみくちゃにされながら、それでもなんとか言葉をひねり出そうと口を開いた。

 

 

 

「ああ、その時になって、オレがそう決断したら。

 その時は、頼む」

 

 

 

 

 

 クラスメイト達はアンジェラが抱える狂気を理解できたわけではないし、アンジェラも理解させるつもりは毛頭ない。

 それでも、アンジェラの言葉には本心しか無いことは事実。だからこそ、クラスメイト達はアンジェラの言葉にある程度の理解を見せたのだ。

 

 

 

 

 

 その後も、女子陣にもみくちゃにされながら、しばらくクラスメイト達から無茶苦茶をしたお説教を受けていたアンジェラであった。

 









えきねこです、よろしくおねがいします。
この挨拶の元ネタを知っている人がどれくらい居るのか気になるこの頃。

そんなことはさておき。アンジェラさんについて少々。
アンジェラさんが狂人なのは既にお気づきかと思われますが、原作緑谷くんとは結構ベクトルが違うんですよね。アンジェラさんはどっちかというと自分本位な人なので。人じゃないけど。
実は、アンジェラさんは多くの点で緑谷くんとは逆の性質を持ってます。どこなのかは探してみてね。
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