音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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圧縮訓練

 入寮の翌日、アンジェラ達は朝食後、教室で自分の席についていた。時期的にはまだ夏休み期間中なので座学の授業があるわけではない。

 

 では、何をするのかというと。

 

「昨日話したと思うが、ヒーロー科一年A組は、仮免取得を当面の目標とする」

『はい!』

 

 そう、ヒーロー仮免試験に関わることである。昨日、相澤先生がポロッと話していた。

 

「ヒーロー免許ってのは、人命に直接関わる責任重大な資格だ。当然、取得のための試験はとても厳しい。仮免といえど、その合格率は例年5割を切る」

「……仮免でそんなキツイのかよ……」

 

 相澤先生が提示した仮免試験の合格率の低さに恐れおののく峰田。受験者の半分を切る人数が毎回不合格となっているというのは、確かにかなりキツいように感じる人も居るだろう。雄英では、峰田のように恐れを全面に押し出してくる者の方が珍しいが。

 

「そこで今日から君等には、一人最低でも二つ……必殺技を作ってもらう」

 

 事前に打ち合わせでもしていたのだろうか、相澤先生の言葉に合わせて教室のドアが開かれ、エクトプラズム先生、セメントス先生、そしてミッドナイト先生の三人が入ってきた。

 

「「学校っぽくってそれでいて」」

「「ヒーローっぽいのキター!!」」

 

「必殺技」という言葉の響きに、クラスメイト達は湧き上がる。間髪入れずに、エクトプラズム先生達が話し始めた。

 

「必殺、コレスナワチ必勝ノ型・技ノコトナリ!」

「その身に染み付かせた技・型は他の追随を許さない! 戦闘とは、いかに自分の得意を押し付けるか!」

「技は己を象徴する! 今日日必殺技を持たぬプロヒーローなど、絶滅危惧種よ!」

 

 裏を返せば、必殺技を持たないプロヒーローが極稀に居るのか。

 アンジェラは5秒くらいそう思った。

 

「詳しい話は実演を交えて合理的に行いたい。コスチュームに着替えて、体育館γへ集合だ」

 

 相澤先生の号令を皮切りに、クラスメイト達はいそいそと準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育館γ。ガワは普通にありそうな体育館だったが、内部は一般のそれとは異なる、床が石材でできた建物。

 

「体育館γ……通称、トレーニングの台所ランド、略してTDL」

 

 いや、その名称は流石にマズいのでは? 

 あまりにも危なくツッコミどころ満載の名称に、アンジェラは真顔でそう思った。

 

 ただ、理由もなくこんな危ない名前をしているわけではないらしく。

 セメントス先生が床に手をついて“個性”で地形を変えてみせた。

 

「ここは俺考案の施設生徒一人ひとりに合わせた地形やモノを用意できる。台所ってのはそういうことだよ」

 

 じゃあランドどっから来たんだよ。

 アンジェラは5秒くらいそう思った。

 

 さっきから思考があちこちに飛んでいるような感覚に陥ったアンジェラだが、それもこれも危ない名称のこの体育館のせいだと頭の中で開き直っていた。

 

 そんな風にアンジェラの思考が若干トリップしていると、飯田が手を挙げて発言した。

 

「質問をお許しください! 何故仮免許の取得に必殺技が必要なのか、意図をお聞かせ願います!」

 

 真面目なのだが、どこかせっかちな飯田らしい質問だ。その疑問に答えるべく、相澤先生は口を開く。

 

「順を追って話すよ。ヒーローってのは、事件、事故、人災、天災、あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。取得試験では当然その適性を見られることになる。情報力、判断力、機動力、戦闘力、他にも、コミュニケーション能力、魅力、統率力など……別の適性を毎年違う試験内容で試される」

「その中でも戦闘力は、これからのヒーローにとって極めて重視される項目になります。備えあれば憂いなし、技の有無は合否に大きく影響する」

「状況に左右されることなく安定行動を取れれば、それは高い戦闘力を有していることになるんだよ」

「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハナイ……例エバ、飯田君ノレシプロバースト。一時的ナ超速移動、ソレ自体ガ脅威デアルタメ、必殺技ト呼ブニ値スル」

 

 前、アンジェラは飯田から「レシプロバーストは“個性”の間違った使用方法」だと聞いたことがある。飯田の中では滅多に使わないようなものだったようだが、先生方の話では、レシプロバーストは十分に必殺技と呼べるものらしい。レシプロバーストを必殺技とは思っていなかった飯田はジーン、と感動している。

 

「なるほど、自分の中にこれさえやれば有利、勝てるって型を作ろうってことか……」

「その通り! シンリンカムイのウルシ鎖牢なんか、模範的な必殺技よ。相手が何かする前に縛っちゃう」

 

 確かに、初手で拘束されたりしたら、下手な敵ではテンパったまま警察のお世話になるだろう。それを考えてみると、シンリンカムイの技は必殺技の例としてかなり分かりやすいと言える。

 

「中断されてしまったが、林間合宿での“個性”を伸ばす訓練は、必殺技を作り上げるためのプロセスだった。

 

 つまり、これから後期始業まで、残り10日余りの夏休みは、“個性”を伸ばしつつ必殺技を編み出す……圧縮訓練となる」

 

 セメントス先生が作ったいくつかの岩山の上に、エクトプラズム先生の分身がスタンバイしている。どうやら、一人ひとりにエクトプラズム先生の分身が個人授業をしてくれるようだ。

 

「なお、“個性”の伸びや技の性質に合わせて、コスチュームの改良も並行して考えていくように。Puls Ultraの精神で乗り越えろ、準備はいいか!」

『はい!』

 

 こうして、仮免試験に向けた必殺技を作り上げる訓練が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……が、アンジェラには必殺技以前の問題があった。

 

「……ソモソモ、君ハ仮免試験ニ参加出来ルノカ?」

 

 今のアンジェラは、新しい肉体を掌握しきれておらず歩行機能が低下している。松葉杖を使ってやっと動けるような状態だ。このままでは、仮免試験までに松葉杖を一本減らすことは出来ても松葉杖なしでの歩行は間に合いそうもない。

 

 が、アンジェラもただ無為に入院生活を送っていたわけではない。考え事やソルフェジオと相談をする時間だけは大量にあったのだ。当然、策は考えてある。流石に入院中に試すわけにもいかなかったので、まだ机上の空論でしかないのだが。

 

「考えはあります。万が一それがうまくいかなかったら……最悪、犬に乗ります」

「…………犬ニ乗ル?」

「はい、犬に乗ります」

 

 アンジェラの意味不明な発言にエクトプラズム先生の分身が首を傾げる。流石のアンジェラにも自分が意味不明なことを言った自覚はあった。苦笑いしながら左腕の義手を地面に翳す。

 すると、義手から緑色の粒子のようなものが溢れ出し、其れがアンジェラの足元で形となって現れる。

 

 姿を見せたのは、生物とすら形容出来ない四足歩行のナニカ、アンジェラの使い魔となったミミックである。

 

 ミミックの如何ともし難い見た目にエクトプラズム先生は思わずマスクの下で顔を顰めるが、同時にアンジェラが言った「犬に乗る」とはこういうことか、と納得した。ミミックの背に跨りその背を義手で撫でたアンジェラは、苦笑いしながら口を開く。

 

「まあ、乗るのは最終手段ですけど。乗ったままでいなきゃいけなくなりますし。乗らなくても色々とこいつが活躍できそうなシチュエーションは思いついてます」

「ソ、ソウカ……トコロデ、ソレハ犬ナノカ?」

「? 犬でしょ?」

「…………犬、トハ…………?」

 

 エクトプラズム先生は自身の持つ犬の定義が崩れるような音を聞いた気がした。アンジェラは本気でミミックを使い魔化しただけの、見た目がちょっと変わっているだけの犬だと思っているようで、どこまでも純真無垢でエクトプラズム先生の疑問を理解できない、といった顔をしている。

 

「……ソノ犬? ノ見タ目ハドウニカ……出来ナイノカ?」

「? できますけど……」

 

 アンジェラが義手に魔力を込めると、義手から伝わった魔力がミミックに届き、ミミックの身体が空色の魔力光で包まれる。魔力光が晴れると、ミミックの見た目は赤みがかった普通の犬のような姿に変わっていた。使い魔の主は使い魔の身体をある程度自由に弄くり回せる。これはその応用だ。

 

「ウム……仮免試験ニ限ラズ人前デソノ犬……ヲ使役スルノデアレバ、ソノ見タ目ニシナサイ。元ノ姿デハ、恐怖シカ与エナイ」

「……ウ"ゥ…………」

「分かりました」

 

 エクトプラズム先生に唸り声を浴びせるミミックを撫で諌めながらアンジェラは頷く。エクトプラズム先生の言う事は、アンジェラには完全に理解出来るわけではないが、ミミックの元の見た目が恐怖心を煽ることはなんとなく分かる。アンジェラはちょっと変わった犬と思っているが、他人から見たらそうではないという意味だろうと、アンジェラは受け取っていた。間違ってはいないが致命的なところを理解出来ていない。ただ、アンジェラはエクトプラズム先生の言葉の意図そのものは正しく認識していたからまだいいだろう。

 

 ……が、ミミックはその姿を与えた元の主、トゥーレシアを馬鹿にされたと受け取ってしまったのか、エクトプラズム先生を威嚇していた。

 それを感じ取ったアンジェラは、優しい声で語りかける。

 

「落ち着け、エクトプラズム先生はお前の元の姿は他の人をびっくりさせちゃうって言っただけだ。アイツを馬鹿にしたわけじゃないさ」

 

 主の言葉を受けたミミックは、威嚇することをやめた。アンジェラは威嚇をやめたミミックの背を撫でてやる。

 

「………………」

「OK,puppy」

 

 その光景を見たセメントス先生は、ミミックは犬だなと思い始めていた。元の見た目はともかく、アンジェラからの扱いは完全に愛犬に対するそれだ。

 

「やあ、フーディルハイン少女!」

「オールマイト、療養してなくていいんですか?」

「それ、君が言うのかい?」

「確かに」

 

 と、アンジェラの元にオールマイトがやって来た。どうやら、各個にアドバイスをして回っているらしい。

 

 オールマイトのズボンのポケットに入っている栞まみれのハウツー本については、アンジェラは触れないことにした。本から入るのも大事なことだ。

 

「この大きな犬は……」

「オールマイトは知っているでしょう、アイツですよ」

「ああ……随分見た目が様変わりしたね。大きな可愛いワンちゃんじゃないか。

 

 ところで、フーディルハイン少女はそもそも仮免試験に参加出来るのかい?」

「ああ、その件ですが。ちょっと考えがあるんですよ」

 

 アンジェラは浮遊魔法でミミックの背からゆっくりと降りると、その場で浮遊する。オールマイトとエクトプラズム先生は浮かぶことが策なのかと思ったが、それは見当違いである。浮遊魔法はあくまでもその場で浮遊するだけの魔法であり、飛行魔法のように空中機動戦が出来るわけではないのだ。そして、アンジェラは飛行魔法を使った空中機動戦は不得手である。というか、そもそもの飛行魔法への適性自体がほぼ無いのだ。練習したところで、スーパー化のような機動力は得られない以前に、あっちこっちで事故を起こす可能性が極めて高い。

 

 それよりも、アンジェラには試したい事があった。机上の空論とは言うが、ソルフェジオと相談して試算は既に完了しており、あとは実行してみるだけである。

 

 アンジェラが義手を握り込むと、アンジェラの足元に魔法陣が展開され、そこから空色の魔力光と花弁のような光が溢れ出した。その奔流はアンジェラの身体を包み込む。

 

 そして、花弁が舞い散るように光が晴れると、アンジェラの右手はリミッターと一体化した青い装甲の指ぬき手甲に覆われ、黒くフリルのあったヒーローコスチュームは白基調にフリルとリボンを取っ払ったようなものに変わり、半袖のジャケットは胸元部分まで丈が縮まり、追加された巫女服のような袖とは脇の部分で繋がっている。腰のリボン型のベルトは細めの空色の帯に、グラインドシューズはリミッターと一体化した、足の部分が青い装甲で覆われた白いブーツに変化した。

 また、目を引くのは脚部全体を上から覆う包帯のようなパーツだ。幾重にも折り重なったそれは覆うとはいってもブーツとはくっついてはおらず、腰の辺りで帯と繋がっていた。

 

 和洋折衷、といったような様相になったアンジェラは、恐る恐る浮遊魔法を解除し、地に足を付けてみる。

 

「…………!」

 

 アンジェラとソルフェジオの予想通り、アンジェラは転ぶこともなくその場に立つことが出来た。

 

 この姿は魂の残響(ソウルオブティアーズ)を使った時に纏う防護服を参考にしたものであり、あれの廉価版、といったイメージだ。林間合宿や神野では気付きようもなかったが、魂の残響(ソウルオブティアーズ)での変身は一度使うとインターバルが発生し、その日のうちにもう一度使うことは出来ないことをソルフェジオが突き止めた。それを聞かされたアンジェラが提案し、入院中にソルフェジオと共に術式を完成させたのだ。机上の空論というのは、入院中はリハビリに専念していたため試せなかったという意味である。

 

「フーディルハイン少女、あ、歩けるのかい!?」

「歩行機能そのものが回復したわけじゃありませんよ。脚に巻き付いてるコレが補助具になっているんです。ただ、元の身体能力を発揮できるわけではないんですけど。いやー、上手く行ってよかった」

「ナルホド、“個性”デ脚ノ機能ヲ補助スルノカ……」

「そういえば、合宿の襲撃時に変身したと報告があったね。その時とは姿が違うようだけど……」

「あっちは一日一回しか使えない切り札で、こっちは汎用性に特化させたマイナーチェンジ版みたいなものです。その変身を元に作ってみました」

 

 試しにサマーソルトキックを始めとした蹴り技をエアで繰り出してみるアンジェラ。重石が乗ったような感覚があり、流石に元の身体能力からは程遠いが、それでも脚が使えるのと使えないのとでは大きな差がある。

 但し、脚の機能をこの補助具に頼り切っていると、脚の機能の回復を逆に阻害してしまうという欠点もある。アンジェラとしては、この補助具を使うのは仮免試験とその慣らしの時のみに限定するつもりでいた。アンジェラはその旨をエクトプラズム先生とオールマイトに伝える。

 

「フム、ソレナラソノ補助具を使ウノハ日ヲ置イタ方ガヨサソウダナ」

「フーディルハイン少女は多種多芸だし、他にも色々と磨けることがある。ただ、慣らしとはいっても直前だけってのもそれはそれで問題が出てくるから、数日に一度はその補助具で身体を動かした方がいいと思うよ」

「分かりました。じゃあ今日は近接に重きを置くことにします」

 

 オールマイトはアンジェラに「頑張ってね」と伝え、他の生徒の元に向かて行った。次は切島にアドバイスをするつもりのようだ。

 

「トコロデ、ソノ姿ヤ元ニナッタトイウ姿ノ名前ハ決メテイルノカ?」

「名前……」

 

 エクトプラズム先生の問いかけに、アンジェラは少し悩むような素振りを見せる。単純に、考えるのを忘れていたのだ。

 

「うーん、こっちは霊沌装束(フェクト・ミディル)、元になった方は魂華装束(ソウル・ブルーム)、なんてどうでしょう?」

「フム、悪クナイ。デハ、今日ハソノ霊沌装束(フェクト・ミディル)デ動ク訓練ヲメインニシヨウ」

「はい」

 

 無事に変身形態の名前も決まり、その後体育館γの使用時間ギリギリまで、アンジェラはエクトプラズム先生相手に組手のリハビリを行った。

 

 

 

 

 




ヒーローコスチューム→洋
霊沌装束→和洋折衷
魂華装束→和

形態のグレードが上がる度に、アンジェラさん和風になっていきますね。
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