音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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仮免試験

 訓練の日々は流れ、仮免試験当日。

 

 A組一同は、バスで試験会場である国立多古場競技場にやって来た。試験本番ということもあって、会場付近は緊張感に包まれている。

 

「うぅ〜、緊張してきた……」

「試験って何やるんだろ……はぁ〜、仮免取れっかなぁ」

 

 緊張のあまりそんなことを呟いた峰田に、相澤先生は言った。

 

「峰田、「取れるか」じゃない、取ってこい」

「ももも、もろちんだぜ!」

 

 緊張感は全然隠せていないものの、峰田はそう言い切ることが出来た。それは、特訓による自信のお陰だろうか。

 

「この試験に合格し、仮免許を取得出来れば、お前ら卵は晴れてヒヨッコ……セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」

 

 滅多にない、相澤先生からの激励であった。それに触発され、熱が出てきたのか、緊張感に包まれているクラスメイト達の眼に、確かな火が灯った。

 

「しゃあ、なってやろうぜヒヨッコによぉ!」

「いつもの一発決めていこうぜ! せーの、

 

 Plus「Ultra」!」

 

 切島が雄英の校訓を景気付けに叫ぼうとしたその時、他校の生徒であろう見知らぬ男子が混ざってきた。テンションとやる気が高めに見える人だ。

 

 突然過ぎる出来事にアンジェラ達が困惑していると、同校の生徒らしき男子が混ざってきた男子に注意をする。

 

「勝手に他所様の円陣へ加わるのはよくないよ、イナサ」

「あっ、しまった! どうも、大変、失礼いたしました!」

 

 同校の生徒らしき人にイナサと呼ばれていた、混ざってきた男子は飯田以上にオーバー過ぎる動きで頭を下げ、謝罪をした。勢いが凄すぎて頭と地面が激突してしまっている。

 

「何だ、このテンションだけで乗り切る感じの人は!」

「待って、あの制服!」

「あれか……西の有名な……」

「東の雄英、西の士傑……」

 

 制服と制帽から察するに、彼らは日本において雄英高校に匹敵する難関校である士傑高校の生徒のようだ。クラスメイトからコンマ一秒遅れてそのことを理解したアンジェラは、しかしあまりの衝撃に微妙な顔をすることしか出来なかった。

 

「一度言ってみたかったっす、Puls Ultra! 自分、雄英高校大好きっす! 雄英の皆さんと競えるなんて、光栄の極みっす! よろしくお願いします!」

 

 額から血をダラダラ流しながら、混ざってきた男子は元気よく言った。いい人そうだが、試験よりまず先に病院に行くべきなのではないかとアンジェラは5秒くらい思った。同じ士傑生の反応はオーバーでも何でも無い、どこか慣れたようなものなので、心配するだけ無駄のような気もするが。

 

 混ざってきた男子を止めた男子を先頭に、士傑生達は一足先に会場へと向かっていった。

 

「夜嵐イナサ……」

「先生、知ってる人ですか?」

「ありゃ、強いぞ」

 

 意味ありげな視線を混ざってきた男子……夜嵐に向け、口を開いた相澤先生の言葉に、クラスメイト達は困惑する。

 

「夜嵐……昨年度、つまりお前らの年の推薦入試、トップの成績で合格したにも関わらず、何故か入学を辞退した男だ」

「じゃあ、一年ってことですか」

 

 推薦入試トップの成績ということは、少なくとも入試時点での実力は轟以上。しかも一年で仮免試験を受けに来ている。一年生の時点で仮免試験を受けるのは全国でも少数派であることを考えると、その実力は高そうだ。

 

「夜嵐イナサ……だっけ。雄英大好きとか言ってた割に、入学は蹴るってよく分かんねえな」

「ねぇ、変なの」

「変だが本物だ、マークしとけ」

 

 相澤先生の警告をクラスメイト達が耳に入れたその直後、相澤先生に話しかけてくる声があった。

 

「イレイザー? イレイザーじゃないか! テレビや体育祭で姿は見てたけど、こうして直で会うのは久しぶりだな!」

 

 その女性の声が耳に入った瞬間、相澤先生は露骨に嫌そうな顔をしていた。相澤先生がここまで感情を表に出すのも珍しいとアンジェラが興味深そうにその光景を眺めていると、相澤先生に近付いてきた女性が相澤先生にちょっかいを掛け始める。

 

「結婚しようぜ?」

「しない」

 

 そのやり取りに芦戸はキュン、とした感覚を覚えたらしいが、アンジェラは女性の態度が結婚を申し込む女性のそれではなく、相澤先生をおちょくっているだけであると気付いており、さっき微妙になった表情が更に微妙そうになった。

 

「プハッ、しないのかよ、ウケる!」

「相変わらず絡みづらいな、ジョーク」

 

 どうやら、彼女はヒーローのようだ。ここに来ているということは、どこかのヒーロー科の先生なのだろう。

 

「私と結婚したら、笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ?」

「その家庭幸せじゃないだろ」

「仲が良いんですね」

「昔、事務所が近くでな! 助け、助けられを繰り返すうちに、相思相愛の仲へと……」

「なってない」

「いいな、その速攻のツッコミ! いじりがいがあるんだよなイレイザーは」

 

 なんだかアンジェラは、漫才を見せられている気分になってきた。どうやらこれは、あの二人のお決まりのやり取りらしい。

 

「ジョーク、お前がここに居るってことは……」

「そうそう! おいで皆、雄英だよ」

 

 ジョークの視線の先には、どこかの制服に身を包んだ高校生達が居た。彼女は彼ら、傑物学園高校2年2組の受け持ち……つまりは、担任教師とのことだ。

 

 そのジョークの生徒の中でも、一見爽やかな印象を抱く黒髪の男の人がクラスメイト達の手を握り、挨拶を始めた。

 

「俺は真堂! 今年の雄英は、トラブル続きで大変だったね。しかし君たちは、こうしてヒーローを志し続けているんだね、素晴らしいよ! 不屈の心こそ、これからのヒーローが持つべき素養だと思う!」

 

 見た目や言葉こそ爽やかなイケメンだと感じる人も多いだろうが、アンジェラはどうにも彼……真堂からは胡散臭さしか感じなかった。これは、外面と内面が全く違うタイプの人間だと、アンジェラは直感的に理解した。

 

「その中でも、神野事件を中心で経験したフーディルハインさん。君は特別に強い心を持っている……とその前に、君はそもそも試験に参加出来るのかい?」

 

 真堂の視線はアンジェラがついている一本の松葉杖に向けられている。リハビリのかいあって松葉杖一本で動けるようにはなったものの、仮免試験までに松葉杖なしでの歩行をするのは間に合わなかったのだ。

 

 彼の内面と外面の差はともかく、これに関しては疑問に思われて当然だと思ったアンジェラは、当たり障りのない顔で答えた。

 

「ああ、試験中は動けるように策は用意してるから、ご心配なく」

「そっか、やっぱり君は強い心の持ち主だね! 今日は君たちの胸を借りるつもりで、頑張らせてもらうよ」

 

 真堂はそう言うと手を差し伸べてくる。どうやら握手を求めているようだ。

 

 アンジェラはどうすべきか一瞬考えて、愛想笑いを浮かべて握手に応じることにした。今は無理に話を大きくする必要はない。

 

「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」

『はい!』

 

 相澤先生の指示に従い、アンジェラ達は移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 ……その最中、ジョークがした意味深な発言を、アンジェラは聞き逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 説明会の会場。コスチュームに着替えた学生でぎゅうぎゅう詰めになったこの場所で、アンジェラは既に霊沌装束(フェクト・ミディル)に身を包み待機していた。

 

 少し待っていると、説明が始まる。

 

「えー、ではアレ……仮免のやつをやります……あー、僕、ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠……よろしく……仕事が忙しくてろくに寝れない……人手が足りてなーい、眠たーい! 

 ……そんな心情の下、ご説明させていただきます」

 

 疲れ一切隠さないな、この人大丈夫か? 

 アンジェラは、5秒くらいそう思った。

 

「仮免のやつの内容ですが……ずばり、この場に居る受験者1540人一斉に、勝ち抜けの演習を行ってもらいます。

 

 現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降、ヒーローの在り方に、疑問を呈する動きも少なくありません。

 まぁ、一個人としては、動機がどうであれ、命懸けで人助けしている人間に、何も求めるなは、現代社会において、無慈悲な話だと思うわけですが……」

 

 目良は、ヒーローに対してアンジェラと似たような価値観を持っているらしい。ヒーローは、自己犠牲の果てに得る称号でなければならないと言えば聞こえはいいが、要はヒーローを名乗る者を人間と見做していないと同じ事。自己犠牲の果てに得る称号がヒーローであるならば、其れは生贄と何が違うというのか。

 

 ヒーローを職とする者達は、今を生きようとする人間であって、無情に捧げられた人柱ではない。アンジェラは、その考えを認めることは出来ない。誰かがそうあることも、自分がそうなることも、認めない。

 

「あー、とにかく、対価にしろ義勇にしろ、多くのヒーローが救助、敵退治に切磋琢磨してきた結果、事件発生から解決に至るまでの時間は今、引くくらい迅速になっています。君たちは、仮免許を取得しいよいよその激流の中に身を投じる。そのスピードについていけない者、ハッキリ言って厳しい。

 

 よって試されるはスピード。

 条件達成者先着100名を通過とします」

 

 受験者の総数は1540人。つまり、例年は5割を切る人数の合格者が、今回は1割を切る人数である、ということにほかならない。

 当然、会場はざわつく。目良曰く、社会で色々あったのが理由らしい。要は、運がなかったということだ。

 

「……で、その条件というのがこれです」

 

 目良はボールと丸い装置を取り出し、一次試験のルールを説明し始めた。

 

 纏めると、受験者は丸い装置、もといターゲットを身体の好きな場所、但し、常に晒されている場所に取り付ける。足裏や脇にターゲットを取り付けてはいけない。ターゲットは受験者が六つずつ携帯するボールが当たった場所のみ発光する仕組みになっており、三つ発光した時点で脱落。三つ目のターゲットを発光させた人が倒したこととし、二人倒した者から勝ち抜け。

 

 つまりは、受験者同士での潰し合いである。

 

「えー、では、展開後ターゲットとボール配るんで、全員に行き渡ってから一分後にスタートします」

 

「展開」という謎の言葉にアンジェラが疑問を抱いた、その時。

 大きな振動音と受験者達のどよめきと共に、説明会会場の壁や天井が倒れ、地面に埋まった。無駄に大掛かりな仕掛けである。

 

 そしてその外側に広がっていたのは、様々な地形が組み合わさった試験会場。

 

「各々、苦手な地形好きな地形、あると思います。自分の“個性”を活かして、頑張ってください……

 一応、地形公開をアレするって配慮です。ま無駄です。こんなもののせいで睡眠が……

 

 私がなるべく早く休めるよう、スピーディーな展開を、期待してまーす……」

 

 説明の最後まで疲れを一切隠さない目良に苦笑しつつ、アンジェラは配られたターゲットを腹部に二つ、胸に一つ取り付けた。

 

 

 

 

 

 ルールが発表された瞬間、アンジェラは気が付いた。これは、学校単位での対抗戦になると。

 

 そして……

 

「これ、あんま離れずに塊で動いたほうがいいな」

「うん!」

「遠足じゃねぇんだぞ、俺は抜けさせてもらう」

「バッカ、待て!」

 

 アンジェラがその理由を説明する前に、爆豪はそそくさと行ってしまった。切島も爆豪について行くようだ。爆豪が単独行動をしようとするのは予想できたことなので、アンジェラはそこまで驚きはしない。

 

「俺も抜けさせてもらう。大所帯じゃ、却って力が発揮できねぇ」

 

 そう言うと、轟も何処かへ行ってしまった。轟は“個性”の関係上、それがベターな選択かと察したアンジェラは、他のクラスメイト達に呼びかけ固まって移動を開始する。

 

「っつっても、単独行動はあんま良くないと思うが……まぁ、あいつらならなんとかするか」

「何で?」

「そりゃ、オレ等はもう手の内バレてるようなもんだろ。“個性”不明っつーアドバンテージも失くしてる」

「それって……」

「そうか、体育祭か!」

 

 アンジェラは頷き、それと同時に感じていた。

 ピリピリとした、自分たちに向けられた敵意を。

 

「先着で合格なら、同校同士での潰し合いは無い。寧ろ、これは学校単位の対抗戦になる。

 

 そうすると、次はまずどの学校を狙うかって話になる。

 ……そしてその中に、手の内が既にバレた学校があるなら、

 

 オレなら、真っ先に狙いに行くね。

 

 さて、お客様方は、既にスタンバイしてるらしいぜ?」

 

 アンジェラが不敵な笑みを浮かべ、クラスメイト達に警告した直後。

 

『第一次試験、スタート』

 

 開始の合図が、鳴り響いた。

 

 

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