「お、轟。通過してたのか」
使い魔達を一度戻して移動していたアンジェラと、アンジェラと行動を共にした麗日、瀬呂が控室に辿り着くと、轟がソファ座っていた。控室には、他のA組の面々の姿は見えない。
「フーディルハイン、麗日に瀬呂も……そうか、通過できたのか」
「うん。他の皆は……」
「まだ来てない。俺が最初で、その次がお前らだ……一緒に行動してたんじゃなかったのか?」
「傑物学園の奴の“個性”で分断された。俺達はフーディルハインのおかげで合流出来たんだが……」
「そうか……」
轟は少し心配そうに、控室にあるモニターに目を移す。そのモニターは試験会場の様子を中継していた。他のA組の面々が通過出来るか心配なのだろう。
ほんの気休めにしかならないかもしれないが、アンジェラは笑みを浮かべて口を開く。
「大丈夫だ、こういう時は仲間を信じてやれよ」
「……そうだな」
轟は、どこか安心したような表情で頷いた。
その後、ターゲットとボールを返却し、麗日にオブシディアスとクリスタラックのことを聞かれ、「“個性”で作った使い魔」だと説明しながら、控室に用意された軽食をつまみつつ他のクラスメイト達が来るのを待っていたアンジェラ。
待てども中々クラスメイト達が通過することはなかったものの、残席数が27になったところで八百万、耳郎、障子、蛙吹が、21名のところで爆豪、切島、上鳴が控室にやって来た。
「A組はこれで11人か」
「アナウンスでは、残席は18人……」
「あと9人、か……」
さしものアンジェラも心配を顔に滲ませていたが、最終盤、青山のレーザーをきっかけに集まった残りの9人がコンボを決めて通っていく。そして、最後の最後で飯田と青山が同時に通過し、A組が全員通過したと同時に一次選考が終了した。
『えー、一次選考を通過した100人の皆さん、これをご覧下さい』
通過者が全員控室に到着し、落ちた人の撤収が終わると、アナウンスが流れ、モニターにフィールドが映し出される。何だろうとアンジェラと麗日が首を傾げていると、突然、フィールドのあちこちが爆発した。
『次の試験でラストになります。皆さんには今からこの被災現場で、バイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』
「「……パイスライダー?」」
「バイスタンダー。現場に居合わせた人のことだよ、授業でやったでしょ?」
「一般市民を指す意味でも使われたりしますが……」
上鳴と峰田の謎な言い間違いに葉隠がツッコミを入れ、八百万が補足を加える。アンジェラが頭の中で呆れていると、アナウンスで二次試験の内容の説明が開始された。
一次選考を通過した者達を仮免を取得済みと仮定し、どれだけ適切な救助を行えるかを試す、という内容のようだ。モニターには老人や子供のような人々が瓦礫の中を歩いている様子が映されていたが、彼らは要救助者のプロ、「Help.us.company」略してHucの皆さん。彼らが被災現場と化したフィールド全域に傷病者に扮してスタンバイしており、彼らの救助を行い、それをポイント式で採点される。演習終了時に基準値を満たしていれば合格となる。
二次試験の内容が説明された直後、アンジェラは足早に近くに居た職員の元へ向かう。彼女には、どうしても事前に確認しなくてはならないことがあった。
「あの、質問いいですか」
「どうぞ、内容によっては答えられませんが」
「……オレの技の一つに骨折くらいなら治せる回復技があるんですけど、Hucの人達って実際に怪我しているわけじゃないですよね」
「はい、あくまで血糊などで傷病者に扮しているだけであって、実際に怪我をしているわけではありませんが……」
「その回復技……怪我がない人に使おうとすると逆に危険なんです。下手したら、死の可能性が……」
アンジェラの回復技……もとい、回復魔法を健康体の人間に使おうとすると、回復魔法のグレードにもよるが、少なくとも人体に悪影響を及ぼし、酷い時には腕が骨から変形し戻らなくなったり、身体から結晶が生えたり……と、碌な事にならない。下手をすれば逆に命の危険もある。傷を治す力を傷のない者に使おうとしているのだから、それが逆に悪影響しか及ぼさないのは想像に難くないだろう。
しかし、救助演習で回復魔法を使わないのは行動的に不自然。採点基準は不明で、試験官側がどれほど受験者のデータを持っているかは分からないが、回復が使えるのに使わなかったからと落とされてはたまったものではない。
職員はアンジェラに少し待つように指示し、スマホを取り出して何処かへ連絡をする。そして、何らかの指示を受けたのか、通話を終了させないまま口を開いた。
「分かりました。何か目印になるような行動は可能ですか?」
「あ、それなら回復技を使うと判断した時、手に緑色の光を出します。これでどうでしょう?」
アンジェラはそういうと右手に小さめの魔法陣を展開し、緑色の小さな光を放つ。それを確認した職員は再びスマホで何処かへと連絡をし、通話を終了させるとスマホを仕舞った。
「試験官の許可が下りました。この試験中に回復技を使う際は、代替としてその行動をお願いします」
「ありがとうございます」
アンジェラは一礼すると、その場を離れていった。
「いやぁ、申し訳ないっすけど、エンデヴァーの息子さん。俺はあんたらが嫌いだ。あの時よりいくらか雰囲気かわったみたいっすけど、あんたの目はエンデヴァー同じっす」
「……!」
アンジェラが職員の元から戻ってくると、彼女の耳にちょうど夜嵐が轟に向けて放った一言が入ってきた。夜嵐はどうやら轟のことを敵視しているらしく、彼の目は試験会場に入る前にアンジェラ達に見せた、やり過ぎな熱血人のものと同じとは思えないほどに、冷たかった。
轟が呆気に取られていると、夜嵐は士傑生に呼ばれそそくさとその場を離れていく。それと入れ替わるように、アンジェラはどこかショックを受けたような表情をしている轟に近付き、彼に声をかけた。
「轟、気にするな……ってのは無理な話かもだけどよ、今が試験中だってことは、ゆめゆめ忘れるなよ」
「……ああ。エンデヴァーの目と同じ……か。他人に言われて、ここまでショックを受けるものなんだな。断ち切ったと、思ってたんだが……」
「自分じゃそう思ってても、周りがそう見てくれるとは限らない。こればっかりは仕方ないさ。自分で断ち切ったと強く思うからこそ、余計に強く受けたショックなんだと、オレは思うぜ」
アンジェラはそう言うと、どこか儚げな、朗らかな笑みを見せた。
「断ち切るってのも、すぐに全部を、じゃなくていい。寧ろ、曲りなりにも産みの親で、産まれたときからの呪縛なんだ。少しずつ、少しずつでもいいんだよ。すぐに捨てられないからって、お前を責める奴なんか誰も居ない。
断ち切るっていう選択をするのと同じくらい、いや、それ以上に、実行するのには勇気と時間が必要なんだから」
それは、人の心が儚く脆く、砕けやすいことをよく知っているアンジェラだからこその言葉。今にして思えば、轟がエンデヴァーという呪縛に心を縛られ続け、どれほど苦しんできたかを、その幼さ故の感受性で理解出来てしまっていたことが、アンジェラは体育祭で轟に、エンデヴァーを切り捨ててはどうか、と提案をした理由の一つなのかもしれない。
そんなアンジェラだからこそ、轟がエンデヴァーを切り捨てるという選択をした時に、一体どれほどの勇気をその胸に抱いていたのかが、轟の家族以外の他の人間よりも理解出来る。夜嵐の言葉に轟がショックを受けたことを責めるなど言語道断。寧ろ、轟を責めるような人間が居れば、アンジェラはお礼参りにでも行くのだろう。
「……その勇気をくれたのはフーディルハインだ。フーディルハインの言葉が無かったら、俺は切り捨てるっていう決意を抱くことすら出来なかった」
「よせやい、オレはエンデヴァーが、自分の野望のために家族を贄にする人間が気に食わなかっただけだ。オレはオレのやりたいようにやっただけさ。
それに、最後にその決断をしたのはお前自身だ。
ま、その助力の一端を担えたのだとしたら……それは、素直に誇らしいかな」
アンジェラがそう言って、誇らしげな笑みを轟に見せた、その時。
控室に、ベルの音が響き渡る。
『敵により大規模テロが発生、規模は〇〇市全域。建物倒壊により傷病者多数。道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ。到着するまでの救助活動は、その場に居るヒーロー達が指揮を執り行う。一人でも多くの命を救い出すこと』
控室の壁が倒れると同時に、演習のシナリオがアナウンスされた。そして、ブザー音と共に「スタート!」というアナウンスが流れる。
これが意味するものはただ一つ、二次試験の始まりである。
「取り敢えず、一番近くの都市部ゾーンへ行こう。なるべくチームで動くぞ!」
飯田の主導の下、A組の面々は塊となって都市部ゾーンへ向かう。救助演習でなるべくチームで動こうとするのは、運用効率を考えても妥当な判断だろう。
だが、爆豪は独断で別方向へと向かって行く。アンジェラは爆豪らしいな、と苦笑いしながらも、これは伝えねばと口を開いた。
「爆豪! 最低限、傷病者に対する対応くらいは心がけろよ!」
「っち……俺に命令すんな!」
「いや、命令とかじゃなくて親切心! じゃねぇと、多分お前落ちるから!」
「……善処する」
「爆豪がそんなこと言うとかレア過ぎじゃね?」
「流石フーディルハインだな!」
「うっせぇ、黙ってろ! っつーか、何で着いてくんだテメェら!」
「「なんとなく!」」
本当に大丈夫なのだろうか。
アンジェラは一抹の不安を抱えながらも、爆豪となんとなくと言って爆豪について行った上鳴と切島を横目にA組の塊について行った。
被災現場を走っていると、アンジェラの耳が子供の泣き声を聞き取った。要救助者に扮したHucが近くに居るのだろう。
「どうした、アンジェラ君!」
「子供の泣き声がする」
アンジェラ達が声の方へと向かうと、そこには泣き叫ぶ子供が居た。
「ううっ……助けて……おじいちゃんが潰されて……」
「そうか、お前も怖かったろうに、良く頑張ったな」
『マスター、このHucの想定であれば、回復魔法で十分に治癒可能です』
「傷が深くないなら……オレが治せるか」
アンジェラは優しげな笑みを浮かべ、その子供を抱きかかえると義手から淡く小さな緑色の光を発した。回復魔法を使うと判断した時のサインである。
「ボウヤ、おじいちゃんが何処に居るか教えてくれ。オレ達が助ける」
「うう、あっち……」
「よし、ありがとな。
オレはこの子を救護所に運ぶ。お前らは先に行け」
「よし」
「頑張っぞ!」
このエリアの救助活動をクラスメイト達に任せ、アンジェラは子供を抱えて救護所まで駆けていった。道中、痛みは引いているだろうが不安と恐怖はまだ残っているであろう子供にケテルを見せてあやしつつ、アンジェラ達は救護所に辿り着いた。もう既に救助された人がかなり集まっている。
「君、そのボウヤ見せて!」
と、受験者の女性から声がかかった。アンジェラは子供を下ろして口を開く。
「頭を怪我してるのをオレの“個性”で治しました。出血は多いけど、受け答えはハッキリしてます」
「……うん、大丈夫そうね。じゃあ、右のスペースに運んで」
「はい、運んだ後、オレも治療を手伝います。骨折程度までならオレの“個性”で治せます」
「ありがとう、助かるわ」
受験者の指示通り、アンジェラは子供を指定されたスペースへと運び、その後骨折程度までの怪我だとソルフェジオが判断を下したHucに、回復魔法代わりの緑色の光を灯す。
……その最中、アンジェラの背筋に悪寒が走った。
「っ、何か来る……!」
アンジェラがそう叫んだ刹那、試験会場の壁が爆発され吹き飛んだ。そして、アナウンスが鳴り響く。
『敵により大規模テロが発生』
「これって、演習のシナリオ……!」
「マジか!?」
「おい、あれ!」
誰かの叫びにつられて爆発が起きた場所を見ると、そこには日本のナンバー10ヒーロー、ギャングオルカとその相棒達の姿があった。
ちなみに、ギャングオルカは敵っぽい見た目のヒーローランキング第三位である。閑話休題。
『敵が姿を現し追撃を開始。現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ、救助を続行してください』
敵の制圧と救助の並行処理、しかも敵役はナンバー10のギャングオルカ。これは、仮免試験にしては中々にハードルが高い。
だが、アンジェラはやらねばならぬ。
ヒーローになる気なぞさらさら無くとも、母を
そのためならば、なりたくないヒーローの仮面を被ることすら、アンジェラは厭わない。それは彼女にとって、耐えることですらない。
其れを成すために必要とあらば、ヒーローでも何でも、幾らでも完璧に演じてみせる。その程度の覚悟、母を殺す覚悟に比べれば、なんと小さきものだろう。
……その覚悟の決まり方が、どうあがいても10にも満たない幼子のものではないとツッコミを入れる者は、当然ながら居なかった。
「皆を避難させろ! 奥へ! 敵から出来るだけ距離を置け!」
「ミミック、オブシディアス、クリスタラック!」
アンジェラと真堂が同時に飛び出し、アンジェラは義手から使い魔達を召喚し、即座に指示を与える。
「ミミックとケテルは救助者の護衛を、オブシディアスとクリスタラックは敵の迎撃に入れ!」
簡潔に告げられた主の命を受け、使い魔達は各々の役割を実行せんと動き始める。ミミックについて行くような形で、ケテルも救助者の方へと向かって行った。
「キュウウウ!」
クリスタラックは軽い身のこなしでギャングオルカの相棒の群れの中に飛び込むと、地面からクリスタルのような輝きを放つ結晶を生やして、そこから光線を発射しギャングオルカの相棒達をなぎ倒していく。
「あの生き物を狙え!」
「撃て撃てー!」
ギャングオルカの相棒達は腕に取り付けた装置からトリモチのようなものを発射し、クリスタラックを狙う。しかし、クリスタラックは飛んできたそれらを、地面から生やしたクリスタルも活かした軽い身のこなしで躱し、そのついでにギャングオルカの相棒数人に手刀を入れ、昏倒させていった。
クリスタラックはクリスタルを使ったトリッキーな戦い方が特徴の使い魔だ。アンジェラの魔力によって構成されたクリスタルを生み出し、その力を自在に操る。力はそれほど無いが、その分軽い身のこなしを得意としている。
「インターバル一秒ほどの振動で畳み掛ける!」
ちょうどその頃、真堂は地面に手を当てて、“個性”で地面を割った。その判断そのものは悪くない。実際にギャングオルカの相棒達は足を取られ、動きが鈍る。
「近付かせない……っ!?」
「ぬるい」
だが、流石はナンバー10。この程度では足止めにもならず、真堂は間近への接近を許してしまう。そのままギャングオルカが超音波での攻撃をしようとした、その瞬間。
「グルアアッ!!」
「なっ!?」
オブシディアスが隙だらけとばかりにギャングオルカの横っ腹に突進を喰らわせ、その巨体を壁へと吹き飛ばした。
オブシディアスはパワー特化型の使い魔だ。その攻撃の瞬間的な威力は、時にアンジェラの打撃をも上回る。その分スピードは控えめだが、それはアンジェラ達を基準に考えた時の話であり、至近距離から即座に加勢に入れるくらいのスピードは保持している。
「今のは……」
「真堂さん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……お蔭で助かった」
それが心からの感謝だと理解したアンジェラは、真堂は表裏は激しいが悪い人ではない、と彼への評価を改めた。
その直後、壁に叩きつけられたギャングオルカが立ち上がる。
「まさか、俺が不意を突かれるとはな……」
「ま、この程度じゃやられちゃくれねぇか」
アンジェラはニヤリと笑い、迫りくるギャングオルカに義手を突き出して魔法陣を展開した、その時。
ギャングオルカに、氷結が襲いかかった。
「轟!」
アンジェラが氷結の出処へと目をやると、そこには轟の姿があった。その氷結は轟が放ったものだったのだ。広がる氷結はギャングオルカの相棒達の足を奪っていく。ギャングオルカも負けじと超音波アタックで氷結を砕くが、轟は砕かれたそばから氷結を迫らせていった。
と、突然、風が吹く。何だと思いアンジェラが上空を見ると、そこには夜嵐の姿があった。
「吹ーきー飛ーべー!」
その掛け声と共に、夜嵐は突風を地面へと叩きつけ、ギャングオルカの相棒達を吹き飛ばした。クリスタラックも危うく巻き込まれかけたが、その軽い身のこなしで範囲外へと脱出した。
「敵乱入とか、中々熱い展開にしてくれるじゃないすか!
…………!」
熱い展開にやる気を滾らせていた夜嵐だが、その目が轟を捉えると途端にその表情に陰りが見える。轟が夜嵐のその態度につられかけていることを直感的に理解したアンジェラは、義手の魔法陣は仕舞わずに、今出せる限りの最大速度で轟に近付き、右手でその肩に手を置いた。
「轟」
「フーディルハイン……」
アンジェラは、黙って首を横に振る。
そこに込められた意味を理解したのか、轟は一言「……悪い」とだけ呟くと、ギャングオルカを見据えた。
ヒーローとして、敵を倒すのだという決意をその眼に宿して。改めて、試験に集中するために。
アンジェラは息をつく間もなく
「よっ、士傑の、夜嵐、だっけ?」
「あんたは……」
突然自身の隣に現れた雄英生に夜嵐は当然ながら困惑する。アンジェラは義手と魔法陣をギャングオルカの相棒達に向けて、無詠唱の射撃魔法を連発しながら口を開いた。
「お前が控室で轟に言った言葉、オレにも聞こえちゃっててさ。悪いな、盗み聞きするつもりはなかったんだが」
「い、いや、あんたが謝るようなことじゃないっすよ!」
「そうか。
でもそれは、轟だって同じことだ」
射撃魔法の弾道操作をソルフェジオに任せ、アンジェラは夜嵐に目を向ける。
「轟にも色々あったんだよ。その色々を言いふらすつもりはないし、お前が轟を目の敵にする理由を聞くつもりもない……なんとなく、予想はつくけどさ。
だけどな、夜嵐。この場が試験の場であることは忘れるなよ。
余計なお世話かもしれないが、あのままだとお前、試験のことも忘れて轟に突っかかりそうだったから。そしたら、二人とも落ちちゃうだろ?」
「……!」
夜嵐は、目を覚まされたような感覚に陥る。
ほんの数瞬、控室と今の状況だけで、彼女は夜嵐の目が曇った理由を暴き、その結果起きるであろう事態を予測し、しかしその答え合わせをするでもなく、夜嵐にただただ試験に集中するように声をかけたのだ。それだけでも、夜嵐にとっては凄まじい衝撃だった。
「意地を張り合うのも怒りをぶつけるのも、後でなら幾らでも出来る。
まぁ、すぐに轟と協力し合えって言うのもお前は納得しないだろうから、こう言わせてもらうわ。
アンジェラはそう言うと射撃魔法の斉射を止め、不敵な笑みを浮かべて右手を夜嵐に差し出した。
アンジェラは、分かっているのだ。
夜嵐が轟に突っかかろうとする理由が、エンデヴァーにあることを。
其れはとかく根深く、いきなり現れた第三者に轟と協力し合えと言われても、例え試験だとしても夜嵐は応じないだろうということを。
だからこそ、アンジェラは言ったのだ。
轟と協力し合え、ではなく、自分に協力しろ、と。
「……あいつのことは、正直好かん。
だが、ありがとう雄英の人! お蔭で目が覚めたっす!
轟! お前のことは好かんが、ここは協力するっすよ、この人に!」
轟に向かってそう叫ぶ夜嵐の顔からは、轟に対する嫌悪感が消えたわけではない。
だが、それ以上に、彼の本質であろう熱血が、ヒーローになってやろうという熱い思いが、その表情の全面に現れていた。
「……」
轟はどういう気遣いだと内心苦笑しながら、頷く。
もうこの二人は大丈夫だと確信したアンジェラは、無粋にもトリモチのようなものを撃とうとしたギャングオルカの相棒達に向かって魔法陣を展開した。
「
魔法陣から放たれたのは、二種の魔力弾の群れ。一目見たらただばら撒いているようにも見える無数の魔力弾は、しかし、計算され尽くした動きでトリモチのようなものを焼き、ギャングオルカの相棒達の武器を破壊していった。
「オブシディアス、クリスタラック!」
「グゥルッ!」
「キュル!」
アンジェラは間髪入れずに、使い魔達へ指示を与える。彼らに与えた名前だけを呼ぶその声に乗せられた、使い魔達のみが理解るアンジェラの指示は、「雑魚共を掃討しろ」という、実に単純明快なもの。
主の命令に従い、オブシディアスとクリスタラックはギャングオルカの相棒達を相手取り……いや、一方的な蹂躙を見せる。彼らは主に与えられた力を存分に披露し、ギャングオルカの相棒達の武器を破壊し、時には完全にその意識を刈り取っていった。ギャングオルカの相棒達はオブシディアスとクリスタラックの対応に追われ、ギャングオルカに加勢をする暇すらない。
そして、かくいうギャングオルカは、轟と夜嵐が力を合わせて作り上げた熱風牢獄に閉じ込められていた。一部の動けるギャングオルカの相棒達は轟を優先して止めようとしたようだが、轟は氷結で防壁を築きトリモチのようなものを防いでいた。
「へぇ、いいアイデアじゃん」
「あんたも、あのペットさん達も……轟も! すっげぇイカしてるっす!」
「Hehe,そう褒められると悪い気はしねぇなぁ。あいつらはペットではないけどな」
「それは失礼したっす!」
アンジェラは苦笑しながら義手を突き出して魔法陣を展開し、魔力を収束させる。
あの熱風牢獄は確かに強力だ。だが、相手は日本のナンバー10ヒーロー。破られると考える方が自然だろう。
二人に協力させるよう動いたのはアンジェラだ。なれば、次の手を打つのは彼女の役目だろう。
アンジェラは横目でギャングオルカの相棒達の方を見る。オブシディアスとクリスタラックだけでなく、尾白や芦戸、常闇などA組のクラスメイトの一部や士傑の受験者など、救助者の避難を終わらせた者が続々と加勢しに来ている。あの分だと、ギャングオルカの相棒達への対処は彼らで十分事足りるだろう。
と、ギャングオルカが超音波を発して熱風牢獄を破った。
それと同時に、アンジェラは魔法陣をギャングオルカへと向けて、収束した魔力を解き放つ。
「
「なっ……!?」
ギャングオルカは咄嗟に放たれた砲撃へと超音波を向けようとしたが、それよりも前に意識を刈り取ることに特化した砲撃がギャングオルカに命中する。アンジェラが思ってたよりも早く破られたがゆえに収束は十全とはいかなかったが、熱風牢獄のダメージも合わさって、ギャングオルカはなんとか意識を保っているような状態だ。
その時、会場全体にサイレンが鳴り響いた。
『えー、ただいまをもちまして、配置された全てのHucが危険区域より救助されました。誠に勝手ではございますが、これにて仮免試験全工程終了となります』
それは、試験終了のアナウンスだった。そのアナウンスを耳にしたアンジェラはゆっくりと地面に降り立ち、
『集計の後、この場で合否の発表を行います。怪我をされた方は医務室へ、他の方は着替えて、しばし待機でお願いします』