音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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試験結果

「っと、わっ……」

 

 アナウンスが終わったと同時に、アンジェラが身に纏っていた霊沌装束(フェクト・ミディル)が解除されてしまい、空色の粒子となって消え去った。制服姿になったアンジェラは、霊沌装束(フェクト・ミディル)と共に足の補助具が消えたせいで足がもつれてしまい、その場に尻もちをつく。

 

「フーディルハイン、大丈夫か!?」

 

 轟は一目散に地面に座り込んでしまったアンジェラに駆け寄り、そう声をかけた。アンジェラは少し疲れた様子で苦笑いをして口を開く。

 

「はは……Don't worry.ちょっと気が抜けちまっただけさ」

「そうか……立てそうか?」

「大丈夫だいじょ……わっ!」

 

 アンジェラはなんとか立ち上がろうとしたが、足に上手く力が入らずふらついてまた転びそうになる。轟は咄嗟にアンジェラの肩を支え、彼女の転倒を阻止した。

 

「……まだ駄目か。脚に力が上手く入らない」

「その状態でよくギャングオルカと戦えたな……フーディルハインのことだから、今更疑問に思ったりはしねぇが」

「あ、あの! 大丈夫っすか!?」

 

 “個性”で飛んでいた夜嵐が地上に降り立ち、アンジェラ達に駆け寄ってきた。彼は純粋にアンジェラのことを心配しているようで、目の敵にしているはずの轟への嫌悪が、今の夜嵐の顔からは読み取れない。

 

「ああ、元々歩行機能が一時的に低下してたんだ。試験中は“個性”でなんとか動けるようにはしてたんだが……なんか、試験が終わったら力抜けちゃってさ」

「あ、そういえば朝……」

 

 夜嵐は朝、自分が勝手に雄英の円陣に入った時、アンジェラが松葉杖をつきながら歩いていたことを思い出した。あの時は一瞬目に入っただけだった上、控室で見かけた時、アンジェラは普通に歩いていたので気にならなかったが、夜嵐はアンジェラがかなり無理を通して仮免試験に参加していたと思い立ち、朝にも見せたオーバーアクションで頭を下げた。地面に頭が激突してしまっている。

 

「ごめん! あんたがそんな無理をして、それでも真剣にこの試験に挑んでいたのに、俺は、自分の都合であんたの手を煩わせてしまって……!」

「ちょ、気にしなくていいって! こうなったのは自業自得だし、自分で無理してるって意識もなかったし……それに、手を煩わせたって言っても、それはオレが勝手にやったことだし、寧ろ、変なこと蒸し返したりしなかったか?」

「大丈夫っす! あんたのおかげで曇ってた目が晴れたっす! あんたは俺の大恩人っすよ!」

「んな大袈裟な……」

 

 アンジェラは苦笑いしながら、集まってきた使い魔達とケテルの頭を順番に撫でた。頭を撫でられたオブシディアスとクリスタラックは順番にアンジェラの義手に吸い込まれるようにして戻っていき、ケテルはアンジェラの頭の上に乗っかる。ミミックは外に出たままだ。

 

霊沌装束(フェクト・ミディル)はどうやら、着用時に魔力と同時に活力も消耗するようです。マスターだから仮免試験中ずっと発動させてても保ったようなものですね』

 

 冷静にそう分析するソルフェジオに苦笑いしながら、浮遊魔法でミミックの背に乗った。松葉杖は更衣室に置いてきたので、取りに戻らなくてはならない。

 

「じゃ、オレは先に行くわ。

 あと夜嵐、お前頭拭いとけよ」

 

 アンジェラはそう言うと、ミミックを更衣室の方向へと走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミミックを義手に戻し、待機中にフィールドに用意された広場に二次試験の受験者全員が集まっている。目を引く巨大なモニターの前に用意された壇上に上がった目良が、今か今かと発表の時を待ち侘びている受験者達に向けてアナウンスを始めた。

 

「えー、皆さん、長いことお疲れ様でした。これより発表を行いますが、その前に一言、採点方式についてです。

 我々ヒーロー公安委員会とHucの皆さんによる二重の減点方式であなた方を見させてもらいました。つまり、危機的状況でどれだけ間違いのない行動を取れたかを、審査しています。

 

 取り敢えず、合格者の方は五十音順で名前が載っています。今の言葉を踏まえた上でご確認ください」

 

 目良のアナウンスが終わると同時に、巨大なモニターにズラーッと合格者達の名前が表示された。パッと見、かなりの人数が受かっているように見える。

 

 アンジェラは出席番号では後ろの方だが、五十音順では前の方となる。名前が出るとなるとやはり最初の方だろうか、と頭の片隅で思いながらモニターを見ると、アンジェラの予想通り、アンジェラの名前は最初の方にしっかりと表示されていた。

 

「……」

 

 それを確認したアンジェラはクラスメイト達の顔を伺う。どうやら皆も無事に合格したようで、彼らの表情には安堵や喜びが見て取れた。多少の不安要素だった爆豪も、どうやらちゃんと合格出来たようだ。

 

 アンジェラが再びモニターに目を移すと、轟がやって来て口を開いた。

 

「フーディルハイン、俺が合格出来たのは、お前のおかげだ。ありがとう」

「大したことは。お前の実力だろ?」

「それでも、あの時お前が止めてくれなかったら、俺は落ちてただろうから。ありがとう」

 

 ここまで真っ直ぐに伝えられた感謝を受け取らないのは、逆に轟に失礼だと感じ、アンジェラは苦笑いしながら言った。

 

「……You're welcome」

 

 

 

 

「えー、続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますので、しっかり目を通しておいてください。ボーダーラインは50点、減点方式で採点しております。どの行動が何点引かれたなど、下記にズラーッと並んでいます」

 

 目良のアナウンスと共に、職員によって配られ始めたプリント。アンジェラはそれを受け取ると、さっと目を通す。

 

「飯田、どうだった?」

「80点だ。全体的に応用が利かないといった感じだったな。アンジェラ君は?」

「オレは95点。戦闘の前、ちょっと敵の前で止まってたとこで引かれてた」

「こうして至らなかった点を補足してくれるのはありがたいな!」

「そうだな」

 

 戦闘の前に止まっていた……十中八九、轟と夜嵐の説得に入っていた時のことだろう。敵を前にしてやるようなことではないというのは確かにその通りなのだが、アンジェラはあの行動を後悔するつもりなどない。アンジェラは、自分のやりたいようにやった。それが減点対象になったところで、アンジェラは何も感じない。

 

「フーディルハイン、引かれたのそこなのか?」

「あ、轟。お前は何点だった?」

「俺は82点……それより、フーディルハインが点数引かれたのって俺のせい……」

「ああ、いいよ別に気にしなくて。オレはやりたいようにやっただけ。それが試験の減点対象になったってだけさ」

「……そうか」

「?」

 

 飯田は何が何やら、と、アンジェラと轟の会話を不思議そうに眺めていた。

 

 ちなみに、どこからか聞こえてきたのだが、爆豪は59点だったらしい。行動自体は完璧だったのだが、所々発作のように飛び出す暴言で点数が引かれていたとのことだ。

 

「心がけてればそのうち身体に馴染む。これ、教授の教えな」

「……チッ、言われなくてもやってやらぁ」

「頑張れ頑張れ、You can do it……mayby」

「おい、今何か余計なこと言ったか!?」

「やっべつい本音が」

 

 アンジェラは、思わず出た本音に苦笑いをするしかなかった。

 

 

「えー、合格した皆さんは、これから緊急時に限り、ヒーローと同等の権利を行使できる立場となります。すなわち、敵との戦闘、事件、事故からの救助など……ヒーローの指示がなくとも君たちの判断で動けるようになります。

 

 しかしそれは、君たちの行動一つ一つにより大きな社会的責任が生じるということでもあります」

 

 目良は続ける。

 オールマイトというグレイトフルヒーローが引退し、心のブレーキが消え去った今、増長する者はこれから必ず現れる。いずれ社会の中心になっていく若者に、規範となり、抑制出来るような存在にならなければならない、と。

 

 そして、二次試験に落ちてしまった者達も、3ヶ月の特別講習の後の個別テストで結果を出せば、仮免を得られると目良は発表した。その発表に、特に不合格者から安堵の息が洩れる。再試験ということは当然本試験よりも難易度は高くなるだろうが、それでも来年に再受験するよりはずっと合格率が高いはずだ。目良曰く、これからは質の高いヒーローがなるべく多くほしい、のだとか。

 

 アンジェラは、ただただ黙って目良の話を聞いていた。

 その表情からは、如何なる感情をも感じ取ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、おーい!」

 

 帰りのバスに乗る前、夜嵐が大声を出しながらアンジェラ達の方へと走ってきた。

 

「フーディルハイン! 俺達が合格出来たのは、あんたのおかげっす! ありがとう! 

 

 そして轟! また何処かで会うかもしれないから言っとく! 

 正直まだ好かん! 先に謝っとく! ごめん! 

 でも、絶対に今回みたいに他の人の手を煩わるようなことにはならないよう、俺は全力で努力するっす! 

 

 そんだけー!」

「……どんな気遣いだよ」

 

 アンジェラは苦笑いしながらも、夜嵐に向かって手を振った。

 

 夜嵐は、大胆と繊細、両方を持っている人物なのだろう。大胆に自分が求めるヒーロー像を目指して突き進むかと思えば、過去のことを繊細に引きずってしまう。

 

 だが、今回の一件を通して、彼は変わっていくのだろう。

 

 そしてそれは、轟も同じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れの空が若人達を淡く照らす。

 ヒーローという憧れへの一歩を踏みしめた高校生達を、祝福するかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ただ一人、本懐の為にヒーローの仮面を被っているだけの幼子を除いて。

 

 彼女は、爆豪以外のクラスメイトの誰にも悟られぬように、夕暮れの空を眺めながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その眼に、憎悪とも嫌悪とも取れるような、しかしそのどちらとも取れないような光を湛えて。

 

 

「ああ……全くもって……嬉しくないな」

 

 

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