音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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二学期始業

 仮免試験の翌日、雄英高校の二学期始業式。

 

 校庭に向かう途中、物間がB組在籍の留学生角取ポニーに妙な言葉を教えて煽ってきたが、即座に拳藤に手刀で気絶させられた。相変わらず、学習しない男である。アンジェラは、ジト目で物間を睨み付けていた。

 

 そして校庭に整列すると、校長の話が始まった。前置き代わりに校長が語ったのは毛並みの話。日本の始業式における校長の話は死ぬほどどうでもよくてあり得ないほど長いとアンジェラも噂には聞き及んでいたものの、これほどとは思っていなかった。苦笑いでなんとか耐え忍ぶ。

 

 と、途中から根津校長の話がライフスタイルの乱れから社会の混乱へ言及する内容へと変わる。毛並みの話からよくこんな真面目な話に繋げられるなと、アンジェラは妙に関心した。

 

「……あの事件の影響は、予想を超えた速度で現れ始めている。これから社会には、大きな困難が待ち受けているだろう。特に、ヒーロー科諸君にとっては、顕著に表れる。2、3年生の多くが取り組んでいる郊外活動、「ヒーローインターン」も、これまで以上に危機意識を持って考える必要がある」

 

 インターンとは、一般に職の経験を積むために企業や組織で労働に従事することを指す。早い話が本格的になった職場体験だ。大学時代、アンジェラはかなり変則的な形でインターンに参加したことがある。

 

 アンジェラの中でインターンは、主に大学生がやるものだというイメージがあるが、高校生のうちに仮とはいえ資格を取れるヒーローは、高校生からインターンをするのだろうか。まぁ、その辺りは相澤先生からいずれ説明があるのだろう。

 

「暗い話はどうしたって空気が重くなるねぇ。大人たちは今その重い空気をどうにかしようと頑張っているんだ。君たちはぜひともその頑張りを受け継ぎ、発展させられる人材になってほしい。

 経営科も普通科もサポート科もヒーロー科も、みんな社会の後継者であることを忘れないでくれたまえ」

「根津校長、ありがとうございました」

 

 最初の毛並みの話はともかく、蓋を開けてみれば根津校長の話はためになるいいスピーチだったと、アンジェラは思った。

 

 その後、生活指導のハウンドドッグ先生から寮生活における注意事項を伝達され、始業式はお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあまあ、今日からまた通常通り授業を続けていく。かつてないほどに色々あったが、上手く切り替えて、学生の本分を全うするように。今日は座学のみだが、後期はより厳しい訓練になっていくからな」

 

 教室に戻り、相澤先生が話をする。色々あった、の部分で一瞬、自分に視線が向けられたような気がしたアンジェラだが、彼女の直感は間違っていない。

 

 途中、芦戸が何やら蛙吹に声をかけたのか、相澤先生は“個性”も使って芦戸を睨みつける。芦戸が「久々の感覚〜」と冷や汗をかいていると、蛙吹が手を挙げて質問をした。

 

「さっき始業式でお話に出たヒーローインターンってどういうものか聞かせてもらえないかしら」

「そういや校長がなんか言ってたな」

「俺も気になっていた」

「先輩方の多くが取り組んでいらっしゃるとか……」

「インターンって、職場実地研修のことですよね?」

 

 わいのわいのとクラスメイト達からも質問の声が出る。やはり皆気になるのだろう。アンジェラもこの機に乗じるように疑問を口に出す。相澤先生は「それについては後日やるつもりだったが……」と多少面倒臭そうに、だが生徒らの質問に答えてくれた。

 

「平たく言うと、校外でのヒーロー活動。以前行ったプロヒーローの下での職場体験、その本格版だ。フーディルハインの言う、職場実地研修の方が意味合いとしては近い」

「…………体育祭の頑張りは何だったんですかぁ!?」

 

 麗日が突然、そう叫びながら立ち上がり手を挙げた。飯田も麗日と同じ疑問を抱いたようだが、それはそれとして麗日には何か引っかかることでもあったのだろうか。顔が全然麗らかではない。

 

「ヒーローインターンは、体育祭で得たスカウトをコネクションとして使うんだ。これは授業の一環ではなく、生徒の任意で行う活動だ。むしろ体育祭で指名を頂けなかった者は、活動自体難しいんだよ。元々は各事務所が募集する形だったが、雄英生徒引き入れのためにいざこざが多発し、このような形になったそうだ。

 分かったら座れ」

「……早とちりしてすみませんでした……」

 

 麗日は申し訳無さそうな顔で席につく。

 雄英高校のインターン生というものは、それだけでかなりの泊だろう。そりゃ、事務所が募集してたらいざこざも起こるかとアンジェラは思った。

 

「仮免を取得したことで、より本格的、長期的に活動に加担できる。ただ一年生での仮免取得はあまり例がないこと、敵の活性化も相まって、お前らの参加は慎重に考えているのが現状だ。

 まぁ体験談なども含め、後日ちゃんとした説明と今後の方針を話す。こっちも都合があるんでな」

 

 相澤先生はそう話を締めくくり、外で待っていたマイク先生にバトンを渡した。一限はテンションが異常に高いことを除けば普通な、マイク先生の英語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方と夜の境目、空の色がオレンジと黒のグラデーションカラーに彩られた時間帯。今日の分のリハビリを終え、クラスメイト達よりも一足遅く寮に戻ったアンジェラは、晩御飯や着替えの時間もそこそこに、共同スペースでパソコンを操作しながら、今日の授業で躓いたというクラスメイト達に英語を教えていた。

 

「うぅ……神様仏様フーディルハイン様……フーディルハインの教え方、すっごい分かり易い……」

「なんか、本職の先生みたいだ……まず真っ先に日本の英語教育にダメ出ししたのには驚いたけど……」

「しかもこの問題、フーディルハインが作ったんでしょ? 今日やった文法全部入った長文を一日足らずで作るとか、どういう天才よこのー!」

「あのなぁ、オレはそもそもヨーロッパ圏の出身だぜ? 英語は日常的に使うんだよ。まー、それでも英語が苦手なやつはたまに居るけどさ。それに、論文も英語で書くこと多いし、それくらいの文章なら、題材決めりゃ10分もあれば……」

「「「ああ、ありがたや、ありがたや……」」」

「はいはい、拝むな拝むな。拝む前にまずは解け」

 

 アンジェラがルーズリーフに手書きした問題を手に、アンジェラを拝んでいるのは芦戸、切島、砂藤の3人だ。砂藤はともかく、切島と芦戸はA組の中でも座学面の成績がよろしく無い部類になる。アンジェラは時折、そんな座学成績のよろしくないクラスメイト達に勉強を教えていた。切島や芦戸はその常連である。特に英語。

 

「でもさ、やけに手慣れてるよな。特に英語を教える時」

「あ、それ思った! 問題も作り慣れてる感じがするよね」

「そりゃ、前はバイトで英語の家庭教師してたしな。実際に慣れてる」

「あー、そういう……なんか普通じゃ驚くことも、フーディルハインだと驚きにはならねぇなあ……」

「ま、教授の推薦あってのことさ。相手も教授の知り合いの家の子だったし。

 

 ……それより、解き終わったのか?」

「「「はいバッチリ!」」」

 

 3人に威勢のいい掛け声と共に差し出されたルーズリーフを受け取ると、アンジェラはいつも通りに添削を始める。問題を作るというのは存外勉強になる行為で頭も使う。アンジェラは、そういうことは嫌いではない。どちらかというと調べていたい派ではあるが。

 

「ん、添削終わったぞ。ほいこれ」

 

 アンジェラは赤のボールペンで色々と書き込みをしたルーズリーフを切島達に手渡す。単純な正誤だけでなく、注意事項なども記載されたそれは……

 

「お、サンキュー……って、注意事項も全部英語で書いてある!?」

「読み解ければ理解も増すぜ?」

 

 と語るアンジェラは、ニヤーっといたずらっ子のような笑みを浮かべている。完全な確信犯である。

 

「もー、たまに出るこういうとこは意地悪というか、いたずらっ子だよね、フーディルハインって!」

「コレもある意味勉強……って言えば聞こえはいいけど……子供みたいなイタズラすんなぁ……」

「まーまー、難しい単語やら言い回しやらは使ってないから大目に見てくれよ」

 

 そう、アンジェラは問題を添削すると、時折、補足事項などを全部英語で書くというイタズラをするのである。こういう時のアンジェラは、本当の意味で年相応な笑みを浮かべている。周囲からは子供っぽいと評されるような笑みだ。

 

 だが、クラスメイト達は授業料だと思っているそうで、その場で文句は言われるがそれ以上は言われない。普段はクールなアンジェラが見せる可愛い一面として、ギャップを感じている人も居るのだとか居ないのだとか。

 

 そうして、夜はふけていく。

 寮生活をクラスメイト達と共に過ごす、ごくありふれた日常が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタカタ、カタカタ。

 

 寮内のアンジェラの自室に、キーボードを叩く音が響き渡る。

 デスクトップの画面が光とともに映し出しているのは、古ぼけた石板や何処かの遺跡の多角的な写真とその位置情報。そして、石板に記された内容を翻訳したテキスト。

 

「……やっぱ、現物が欲しくなるな。寮生活はこういうときに辛いね」

『今度、輸送出来そうなもんは纏めて送っといてやるさ。お前の好きな小説と一緒にな』

「お、Thanks」

 

 通信を繋げているソニックへの感謝もそこそこに、アンジェラはデスクトップの画面とにらめっこを続け、キーボードを叩く。

 

 

 

 

「魔法」という力は“個性”よりもよっぽど「技術」に近く、であれば、それを作り出した存在が必ず居る。失った記憶を取り戻し、血の繋がった姉たちが魔法を操る姿を目にしてから、アンジェラは確信に至った。

 

 天使の教会が、魔法にまつわる技術を持っている、と。

 

 

 

 

 

 魔法とは、危険な力だ。順当に使うことが出来れば便利で強力な武器となるが、一歩間違えば術者はおろか周囲すらも取り返しの付かない事態に陥れる。「唄の魔法」や「ソウル化」などは、その骨頂と言えるだろう。

 

 なれば、アンジェラも無知のままではいられない。何の意味もないことだとしても、奴らの根首を掻っ切るために、やれることは全てやっておかねばならない。

 

 そう考えたアンジェラは、ソニックに頼んで世界中に点在する遺跡の写真を送ってもらっているのだ。ほんの少しの前進しか得られないとしても、やらずにはいられなかった。

 

『……にしても、何でお前はこの石碑の文字を読めるんだ? 軽く洗ってみただけだけど、世界中のどの古代文明の文字でもなかったぞ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「さあ……」

『お前の母親……緑谷だっけ? そいつは別に、普通の人間だったんだろ?』

「ああ、ごく普通にこの星で生まれ育った人間だった。それは確かだ」

 

『まぁ、選別楽で助かるけどさ……』と、デスクトップのスピーカーからソニックの呆れたような声が聞こえてくる。

 

 アンジェラは何故か、魔法関連の遺跡に刻まれた文字を読むことが出来る。アンジェラ本人には、そんな文字を学んだ覚えなどない。本来の記憶を取り戻してもその理由は分からないままだったが、アンジェラが石碑に刻まれた文字を見ればそれが魔法関連の遺跡かどうか分かるので、ある種の便利能力扱いをされていた。

 

「うーん……こうなると、色々とデータ欲しくなってくるな……あいつらにも協力……いや、ナックルズはともかく、あいつらはそういうタマじゃねぇか……」

 

 アンジェラがこの作業を始めてそれなりに経つが、各所の石碑や石板の文章を読み解いて、段々と分かってきたことがある。まだ仮説の段階でしかないそれを立証するには、まだまだ情報が必要だ。

 

 頭の中で自分が知り得る範囲での情報ソースとなりそうな場所やものを洗い出していると、ソニックの声がスピーカーから響き渡る。

 

『やっぱり、お前の本質は学者なんだな』

「ん? それ、どういうことだ?」

『調べ始めた理由はかなり暗いはずなのに、今のアンジェラ、すっごく楽しそうな声してる』

 

 アンジェラはこの時、ようやく自分の口角が上がりっぱなしであることに気が付いた。

 

 ……そうだ、未知を知ることに、「魔法」という未知を紐解くことに、アンジェラは確かな喜びを感じている。紐解くことを、心から楽しんでいる。

 

 始まりとなる、天使の教会の根首を掻っ切るという目的を忘れているわけでは決してないものの、それはそれとして、アンジェラは「楽しんでいる」のだ。未知を知り、紐解くことを楽しむ者は、なるほど、「学者」なのだろう。

 

「いいじゃん、何事も楽しんだもん勝ちだって、言ったのはソニックだろ?」

『ああ、そうだな。頼りにしてるぜ、アンジェラ先生?』

 

 喜びと似ているが違う、どこかドロリとした感情が、アンジェラの心に染み渡る。

 

 

 人はこれを、「愉悦」とでも呼ぶのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『……ところで、何か欲しい情報でもあるのか?』

「ああ、ちょっとな……エンジェルアイランドの方はそこまで心配いらないだろうけど……

 

 

 

 

 

 ジェット達に情報を求めるとして……どんくらい請求されると思う?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
















えきねこです、よろしくおねがいします。

前回の補足になりますが、原作と違い、爆豪と轟、ついでに夜嵐が仮免に受かりました。轟と夜嵐については前回、前々回をご覧いただければ理由は明白ですが、爆豪君に関して少々補足をば。

まず、原作で爆豪君が仮免に落ちたのは、元々暴言を吐きまくっていることもそうですが、それと同じかそれ以上に、緑谷君へのコンプレックスやオールマイトを終わらせてしまったことへの罪悪感を抱え、肥大化させまくった状態で仮免試験に臨んだ事も原因なのだと私は考えています。少なくとも、コンプレックスや罪悪感をちゃんとケアすることが出来ていれば、爆豪君は原作でも仮免試験に受かっていた可能性があるのではないでしょうか。その場合、暴言のせいで結構ギリギリにはなるでしょうが。

この作品で爆豪君が仮免試験に受かったのは、ひとえに緑谷君へのコンプレックスもオールマイトへの罪悪感も無い状態だったからです。その上、仮免試験前にアンジェラさんとタイマン張って話せたことも要因の一つです。暴言のせいで結構点数は引かれてますが、これでもまだマシな方です。
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