音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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サー・ナイトアイ

 インターンの説明会の翌日、朝のホームルームにて。

 

「えー、ヒーローインターンですが、昨日職員会議で協議した結果、校長を始め多くの先生が、

 

「やめとけ」という意見でした」

『……えええええええええっ!?』

「あんな説明会までして!?」

「でも、全寮制になった経緯から考えると……そりゃそっか……」

「クソがッ、先生達も敵にビビってんじゃねぇよ!!」

「別にそういう意味じゃないと思うぞ……」

 

 教室内は若干荒れ気味だ。クラスメイト達がわいのわいのと口を挟む。しかし、相澤先生の話はまだ終わってはいない。

 

「……が、今の保護下方針では、強いヒーローは育たないという意見もあり、方針として、インターンの受け入れ実績が多い事務所に限り、一年生の実施を許可する、という結論に至りました」

「よかったな爆豪、行ける可能性出てきて」

「……ならそうと先に言えや……!」

 

 アンジェラは、爆豪の素直じゃない態度に思わず苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、更に時は流れて週末。

 

 雄英から電車に一時間ガタンゴトンと揺られ、アンジェラはサー・ナイトアイの事務所の前にやって来ていた。

 

「ここがサーの事務所だよね!」

「……一体、オレに何の用なんでしょうか?」

「さぁ、俺にも分かんないけど……サーが、フーディルハインさんと直接会って話をしたいって」

 

 通形の言葉に、アンジェラはナイトアイが自分と話をしたいという理由が、何度考えてもやっぱり回目検討もつかず、首を傾げた。

 

 そもそもの話をしよう。

 まず前提として、通形は現在、サー・ナイトアイの事務所でヒーローインターンを行っている。アンジェラがそのことを知ったのはつい二日前のことだ。

 

 二日前の放課後、アンジェラは通形から「サー・ナイトアイが君に会いたがってるんだよね」と告げられた。インターン絡みでプロ側から指名が来ることもあるのかと聞いたら、通形はインターンでナイトアイからの指名を受けたが、今回のことがインターン絡みの話かどうかは分からない、と言われた。ただ、サー・ナイトアイがアンジェラと直接会って話をしたいらしい、と。

 

 アンジェラは何故だろうと疑問を抱きながらも、特段急ぐ予定もなかったので通形の話を了承し、今に至る。

 

 疑問は尽きないが、それも呼び出したナイトアイに問いただせば分かるのだろう。

 

 アンジェラはそう思いながら、通形の案内でナイトアイの事務所を進み、執務室であろう部屋の扉を開いた。

 

「失礼しま…………」

 

 ……が、アンジェラはその先に見えた光景に、固まった。

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハっ、やめ、やめてください、許してください、アハハハッ!」

「全く、大きな声出るじゃないか」

 

 車輪付きの拘束具に下乳丸だしの際どいコスチュームを着たヒーローが拘束され、猫じゃらしのようなものでくすぐられて強制的に笑わされていたのだ。その拘束具の前に立つ人物が、恐らくこの事務所の主、サー・ナイトアイだろう。

 

 アンジェラは顔をひきつらせながら、通形に問いかける。

 

「……なんすかこれ」

「相棒のバブルガール。ユーモアが足りなかったようだね。

 ああ、言ってなかったけど、サーはああ見えてユーモアを最も尊重してるんだよね」

 

 アンジェラは一瞬、母たちの忌まわしい記憶が脳裏に浮かびかけたが、どうにもバブルガールからはサー・ナイトアイに対する悪感情は感じない。寧ろ、ナイトアイを尊敬もしているように感じる。奴らのように、ナイトアイが我欲を満たしているようにも感じない。奴らと同一視するのは流石に失礼というものだろう。

 

 アンジェラが自分でそう無理矢理納得していると、ナイトアイがアンジェラの訪問に気が付いて近付いてきた。

 

「サー、ご指名の一年生、連れてきましたよね」

「うむ、ミリオ、ご苦労だった。アンジェラ・フーディルハインさん、ご足労頂き感謝する。サー・ナイトアイだ」

「アンジェラ・フーディルハインです。それで、オレに何の用事でしょうか? 

 ……まさか、アレを見せつけるために呼び出したとか?」

 

 アンジェラがジト目で指さしたのは、拘束されてくすぐられているバブルガール。奴らと同一ではないとは無理矢理だが納得したアンジェラだが、やはりそれとこれとは話が別である。

 

「白昼堂々と教育的指導とはいえあんなもの持ち出すとか……あ、ひょっとして、そういう趣味(・・・・・・)がおありで?」

「ふふふ……」

「いやどっちだよ!?」

 

 ナイトアイの意味ありげな笑いに、アンジェラは思わず素でツッコミを入れた。直後、アンジェラはこれが明らかに日本語での目上の人に対する言葉遣いでないことに遅れて気が付いたが、元はと言えばナイトアイのせいなので態度を変えることはしない。

 

「君は面白い子だな……私に対してそんな言葉遣いをするとは。ああ、別に怒っているわけではないよ。随分とキレのあるツッコミをするんだね」

「ついついやっちゃいまして……謝りはしませんけど」

「はははっ! 構わないさ。大元になったのは私の行動だ。それに、元気なツッコミはユーモアをより引き立たせるスパイスとなる。その謝りません、と開きなおるところも、ユーモアがあっていいじゃないか」

 

 なんだかよくわからないが、アンジェラのツッコミはナイトアイに好印象を与えたらしい。ユーモア……というより、ナイトアイはお笑い好きなのだろうか。少なくとも、アンジェラはそう思った。

 

「ミリオとバブルガールは退室を」

「「あっ……はい」」

「元気がないな」

「「イエッサー!」」

 

 通形と、いつの間にやら通形に拘束具を外されていたバブルガールはそう返事をすると、部屋を出ていった。この部屋に、アンジェラとナイトアイだけが残される。

 

「あの……それで、オレに何の用で?」

 

 アンジェラはそもそもの疑問をナイトアイにぶつけ、首を傾げた。アンジェラには、ナイトアイにわざわざ呼び出される理由が分からない。先のインターン説明会で通形を破ったことが一応理由としては考えられるが、それでは忙しい時間を縫ってまでアンジェラを呼び出し話をする理由としては少し薄い。

 

「……君にはいまいちピンとこないかもしれないが、私にはあるんだよ。君を呼び出し、直接言わねばならぬことが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ありがとう」

「……えっ?」

 

 全く予測すらしていなかった言葉、心からの感謝を述べられて、アンジェラは先の比ではないほどに困惑した。アンジェラには、ナイトアイからお礼を言われるような心当たりが全くない。

 

 そんなアンジェラに、ナイトアイは説明した。

 ナイトアイはなんと、オールマイトの元相棒なのだということを。

 ナイトアイは元々オールマイトの大ファンだった。それはアンジェラにも、事務室内にナイトアイが集めたであろうオールマイトグッズが沢山飾られていることから分かる。相棒を取らない主義だったオールマイトだが、根負けするような形でナイトアイを迎え入れたそうだ。

 

 ……だが、六年前。コンビは解消された。原因は、価値観の違いだった。

 

「オール・フォー・ワン……君も、オールマイトから聞かされているだろう。奴との戦いで、オールマイトが大怪我を負ったことも」

「……はい」

「私は、ボロボロになった身体で、それでも平和の象徴として立とうとするオールマイトに言ったんだ……「引退すべきだ」、と。もう、ふかふかのベッドで安眠を取って良いんだと。

 

 だが、オールマイトはそうはしなかった……私には、理解出来なかった。象徴論は分かる。彼のことを、今でも敬服している……だが、あの時のオールマイトが、私には……

 

「平和の象徴」という、狂った舞台装置のように見えた」

「……」

 

 アンジェラは、ただただ黙ってナイトアイの話を聞いている。そのトパーズの瞳に、感情を映さぬまま。

 

「私は、オールマイトのためになりたかった……だが、彼は「平和の象徴」として、みんなのために戦い続ける道を選んだ。

 そのまま私達はコンビを解消した。ケンカ別れのようなものだ。あのまま、自らを人柱にし続けるオールマイトを、私は手伝いたくなかったんだ。

 

 ……だが、ある時。オールマイトから電話がかかってきたんだ。

 

 内容は、彼の持つ“個性”……ワン・フォー・オールが、事故で君に渡ってしまったこと。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が、生き延びていたオール・フォー・ワンを始末したら……ヒーローを引退する、という報告だった」

 

 アンジェラはこの時ようやく、ナイトアイがわざわざアンジェラをここに呼び出した理由を理解した。

 

「突然、どういう心変わりだと。当然私はオールマイトに尋ねた……そしたら、オールマイトは、

 

「意図せずワン・フォー・オールの継承者になってしまった少女から、オール・フォー・ワンを始末してもヒーローを続けるというのなら、私の両手足をもぎ取ると脅されてしまってね」……と答えたよ。彼女であれば、オールマイトの両手足をもぎ取ることが可能だとも」

 

 ナイトアイが言う脅しとは、十中八九アンジェラがオールマイトを脅したあの時のことだ。あの時のことをオールマイトはナイトアイに伝えていたのだ。

 

「……私は、あの時そうすればよかったのだ。真にオールマイトのためになりたいと思うなら、彼を脅してでも止めなければならなかった。それは、彼がこのままでは死ぬという予知を伝えるのでは足りなかったのだと。

 

 私では成し得なかったことを……君は、成し遂げてくれた。

 だから、ずっとお礼を言いたかったんだ」

 

 アンジェラは思う。

 ナイトアイは、本当に、真の意味でオールマイトを尊敬しているのだと。

 尊敬しているからこそ、今まで自分を生贄に平和の象徴として君臨し続けてきたオールマイトを、休ませたかった。もう、後に託して良いんだと、オールマイトは戦わなくていいんだと、ナイトアイは言ったのだ。

 

 このお礼も、ナイトアイがオールマイトを真に尊敬しているが故のもの。彼がアンジェラに心からの感謝を述べているのだということは、痛いほど理解した。

 

 

 

 

 

 ……だが。

 

 

 

 

 

「……ワン・フォー・オールのことを知っているんですよね……オレが、偶発的に継いでしまったことも」

「ああ、オールマイトから聞いた」

「……なら、オレが、ワン・フォー・オールを消失させたことは? 消失させて、事実上私物化したことは、聞かされているんでしょうか?」

 

 ナイトアイとオールマイトを引き合わせ、コンビ解消の遠因となった力、ワン・フォー・オールは既にこの世に無い。意図したことではないとはいえ、アンジェラがワン・フォー・オールを触媒の一部として、新たな肉体を作り出した……つまり、アンジェラがワン・フォー・オールを私物化したことは、覆しようのない事実だ。

 

 そのことに、罪悪感を抱かなかったわけでは決して無い。

 だが、アンジェラはオールマイト以外の誰に責め立てられようと、そのことに対して罰を受けるつもりはなかった。元はと言えば、ヒーローの傲慢が招いたことだ。アンジェラはただ、本能から、魂から生きたいと叫び、その対価として意図せぬままワン・フォー・オールが支払われただけのこと。その力の元の持ち主であったオールマイト以外の誰にも、アンジェラを責める権利は無い。アンジェラを責めようというのなら、それはただの傲慢でしかない。そもそも、ワン・フォー・オールを手にした事自体、アンジェラの意図したことではないのだ。

 

 ……アンジェラが、オールマイトにワン・フォー・オールが消失したことを話した時。オールマイトは彼女に言った。

 

『オール・フォー・ワンが討たれた今、ワン・フォー・オールはその役目を終えた。これでよかったんだよ。それに、ワン・フォー・オールは最後の最後に、君を死の運命から救い出したのだろう? 

 

 ……それは、とても誇らしいことだ。オール・フォー・ワンという巨悪から生まれた力は、しかし最後まで、人のためになり続けたんだから。

 私は君を、決して責めたりしないよ』

 

 アンジェラの頭をポンポンと撫でながらそう言ったオールマイトがアンジェラを責めないというのなら、ワン・フォー・オールの件でアンジェラを罰することなど誰にも出来ないと、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 ……だが、アンジェラは、見つけてしまった。

 アンジェラが、ワン・フォー・オールをこの世から消し去ったことを、責める権利を持つ人物を。

 

「……他のヒーローや一般人に何を言われようが、オレはこのことに対して罰を受けるつもりなんかない……オールマイトだけが、このことに対してオレを罰する権利を持つのだと、ずっと思っていました。

 

 だけど………………

 

 

 

 

 ……幻滅しますか? オレはナイトアイが出来なかったことを確かに成し遂げましたが、同時に、ワン・フォー・オールという灯を消したんですよ。オレはそうとは思ってませんが……一般には、平和の火とも呼ばれるであろう灯を。

 

 しかも、それを消して尚……オールマイト以外への罪悪感が、一欠片たりとて湧き上がってこない。それが異常だということは分かってます。だけど、仕方ないんですよ。無いものは無いんだから」

 

 虚ろな眼がナイトアイを射抜く。

 

 こういう時、アンジェラは自分がそもそも人間ではないのだと再確認する。

 

 罪悪感はあれど、それはあくまでもオールマイトやその周囲に立ち、支えてきた者達に対する罪悪感。

 

 当たり前といえば、当たり前のことだが。

 アンジェラは、自分が俗に言う民衆……一般市民からワン・フォー・オールという灯火を取り上げたということに、一欠片たりとも罪悪感を抱いていないのだと、再認識した。

 

「……でも、オレは少なくとも、あなたにはオレを罰する権利があると思っている。あなたがオレを咎めたいというのなら、オレはそれを甘んじて受け入れましょう。

 

 だけどっ……」

 

 アンジェラが次いで紡ごうとした、「オレは、生贄にはなりたくない」という言葉は、ナイトアイが席を立つ音にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

「……聞かされているよ、ワン・フォー・オールの顛末も、オールマイトがそれを咎めるつもりがないことも。

 

 オールマイトに責めるつもりがないことを、私に責めることなど出来やしない。それに君は、わざとワン・フォー・オールを消し去ったわけではないのだろう」

「……誓って、わざとでは」

「なら、余計に私は君を責めることなんて出来やしない」

 

 アンジェラは、目を見開いた。

 ナイトアイがアンジェラを責めるつもりがないと言い切ったことに、驚いた。ナイトアイは咎めて当然だと、思っていたから。

 

 

 だが。

 

「……私は、ヒーローであると同時にGUNの協力者でね。君がはなからヒーローになるつもりで雄英に居るわけではないことも知っているんだよ。君がGUNの民間協力者で、天使の教会を拿捕する作戦の下、日本に来たということも、君は、ヒーローにはなりたくないのだということも。

 

 ……私はそれでも良いと、今は思う。昔の私なら受け入れなかっただろうがね……君のことを詳しく聞かされたわけではないが、君が、ヒーローの傲慢の果てに生れたのだということは知っている。本当なら、ヒーローを恨んでも当然だというほどの過去の持ち主であることも。

 

 GUNからヒーローを恨んで当然だと断言されるほどの子にヒーローになれ、だなんて言うのは、ヒーロー以前に大人のやることじゃない」

 

 すとん、と。

 ナイトアイの言葉は、思いの外あっさりと、アンジェラの心に収まった。

 

 そうだ、罪悪感があろうが、アンジェラは根本からヒーローには向いていない。雄英高校に居るのだって、天使を根絶やしにしてやるためだ。それ以外の意義など無い。

 

 母を母と見ていないとはいえ、それでも、母を苦しめ続けたヒーローになど、なれるわけがないのだ。

 

 それは、考えなくても彼女にとっては極々当たり前のことで。

 それでも、ナイトアイというオールマイトを心から慕い、思ってきた人の存在を知り、その思いを知り、その前に立って、アンジェラの感情が暴走した。自分が何をしたいのかもわからなくなるその様は、まるで本当の子供のようで。

 

 いや、ようで、ではなく、実際にアンジェラは「子供」なのだ。

 

 幾ら達観していようが、肝が座っていようが。

 アンジェラが、クラスメイト達よりも断然幼い子供だという事実は、覆らないのだ。

 

 今まで認識しようとすらしていなかったそれを、アンジェラは今になってようやく自覚した。

 

 

 

「……さて、それも踏まえて、君に提案がある。天使の教会に繋がるかもしれない事案があるんだ。これに、うちのインターン生として参加しないか? 無論、この事案が解決した後でインターンを継続するかは、君の判断に委ねる。私からは決して強制しないと誓おう」

「……」

 

 アンジェラは少し、考える素振りを見せる。

 傍から見たら、ナイトアイがアンジェラの外堀を埋めようとしているようにも見えるだろう。

 

 だが、アンジェラはナイトアイはそんなことはしないだろうと、断言出来た。

 

「……もし、外堀を埋めようとする言動を少しでも見せたら、その手ぇもぎ取りますよ」

「はははっ、本気なのかジョークなのか、全くもって分からないな」

 

 もちろん、ニヤリと笑いながらそう言ったアンジェラの内心は、ジョーク半分本気半分である。

 

 

 

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