音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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冴えたやり方

 あの後、アンジェラはナイトアイに契約内容を詳しく聞いた。

 

 どうやら、ナイトアイが言う「事案」は、GUNからナイトアイに依頼された、というものではなく、ナイトアイが独自に調査を進めているものらしい。天使の教会と繋がるかもしれないというのは、あくまでもナイトアイの憶測に過ぎず、しかし、そこそこ可能性が高いのだという。

 

 実際、ナイトアイ事務所が現在本格マークをしている、件の「事案」の主犯と思しき組織が、天使の教会の構成員らしき人物と接触を図ったことは事実らしい。その顛末は不明だが。

 

 とはいえ、全てがあくまでもナイトアイの憶測に過ぎないので、慢性的人手不足なGUN日本支部からは人を回せないらしい。情報共有はしているらしいが、基本はナイトアイ達ヒーローが事を片付けることになる、とのことだ。故のインターンへの誘いなのだろう。

 

 そのことをナイトアイから直々に聞かされたアンジェラは、「この事案の後はインターン続けませんけど、いいんですね?」と少しばかり挑発的にナイトアイに問うた。

 

「問題ない。相棒二人、インターン生一人で基本この事務所は滞り無く回っている。君にはこの事案の間、一時的に力を貸して欲しいだけだ」

「……なら、引き受けます。あなたが人に道を強制するような人じゃないことは、痛いほど分かった。

 ま、せいぜい上手く使って見せてくださいよ」

 

 アンジェラは通形から念のために持ってくるようにと言われていた、インターン用の書類をナイトアイに手渡す。

 

 可能性があるのなら、天使の根首を掻っ切るチャンスがあるというのなら。

 

 アンジェラに、迷いなど無かった。

 

「やはり君は、面白い子だな」

 

 ナイトアイはそんな事を言いながら、その書類に判を押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「インターン先、決まったんだ! よかったね、アンジェラちゃん!」

「すごいじゃん!」

「おめでとう、アンジェラ君! 俺も、うかうかしていられないな」

 

 寮に戻ったアンジェラがクラスメイト達にインターン先が決まったと報告すると、クラスメイト達は口々にアンジェラを褒めた。

 実際には、インターンというよりも一時的な協力関係を敷いた、という方が正しいのだが、アンジェラはそのことはおくびにも出さずクラスメイト達からの賛辞を素直に受け取った。

 

「けど、ホントすげぇよフーディルハイン」

「ああ、なんてったってあのサー・ナイトアイの事務所だもんな」

「通形先輩の推薦だって?」

「よくやったな!」

「へへ、Thanks」

 

 インターンが決まったこと自体はなんとも思っていないアンジェラだが、クラスメイト達からの賛辞は悪い気はしない。

 

 麗日達もインターン先を探しているようだが、受け入れの実績が少ないと学校側からNGが出たり、そもそも募集していなかったりと中々に苦労しているようだ。

 

 爆豪もベストジーニストの元でのインターンを考えていたようだが、ベストジーニスト側から現在インターン生の面倒を見れる状態ではないと断られてしまったらしい。

 

 轟は、まだインターンを考えていないようだ。もう少し地力を鍛えてからインターンは考えることにする、らしい。だが、一年生中には始めたいとも言っていた。

 

「つうか、元から敷居が高いんだよ……」

「インターンの受け入れ実績があるプロにしか頼めないからなぁ」

「仕方ないよ。職場体験と違って、インターンは実戦。もし何か合った場合……」

「プロ側の責任問題に発展する」

 

 いつの間にやら共同スペースに来ていた相澤先生が、尾白の言葉を引き継いでそう言った。相澤先生はそのまま続ける。

 

「リスクを承知の上でインターンを受け入れるプロこそ本物。常闇、その本物からインターンへの誘いが来てる。九州で活動するホークスだ」

 

 ホークス。日本のヒーローランキング三位のトップヒーロー。確か、常闇の職場体験先でもあったはずだ。その縁を辿って指名が来たのだろう。中々のビッグネームからの誘いにクラスメイト達は驚愕する。

 

「どうする、常闇?」

「謹んで受諾を」

「分かった。後でインターン手続き用の書類を渡す。九州に行く日が決まったら教えろ、公欠扱いにしておく」

「よかったな、常闇」

「恐悦至極」

 

 常闇は表情を変えぬまま障子からの祝いの言葉に返したが、アンジェラにはなんとなく常闇のテンションが高いことが分かった。

 

「それから、切島。ビッグ3の天喰がお前に会いたいそうだ。麗日と蛙吹にも、波動から話があるらしい。明日にでも会って話を聞いてこい。以上だ」

 

 相澤先生は伝えることを伝え終わったのか、去って行った。ビッグ3の話とは、この流れで行くとやはりインターン絡みの話なのだろうか。

 

 切島に麗日、蛙吹は明日まで待てないと、すぐに三年生の寮へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、インターン活動一日目。

 

 コスチュームに身を包んだアンジェラと通形、そしてバブルガールが、執務室でナイトアイに今日の指示を聞いていた。

 

「本日はパトロール兼監視。私とバブルガール、ミリオとフーディルハインの二手に分かれて行う」

「ナイトアイ事務所は、今秘密の捜査中なんだよ」

 

 バブルガールがインターン初日のアンジェラにそう補足を入れた。この秘密の捜査とやらが、ナイトアイの言っていた事案なのだろう。

 

「死穢八斎會という小さな指定敵団体だ。ここの若頭……いわゆるナンバー2である治崎という男が、妙な動きを見せ始めた。ペストマスクがトレードマークだ」

 

 ナイトアイはそう言いながら、アンジェラ達に治崎という男の写真を見せる。ペストマスクを身に着けた男の写真だ。

 アンジェラは、まず最初に何故にペストマスク? と思った。

 

「もっと他になかったんですかね、マスク。

 でも、指定敵団体って警察の監視下にありますよね? 特に日本のは大人しいイメージありますけど」

「過去に大解体されてるからね。でもこの治崎ってやつは、そんな連中をどういうわけか集め始めてる。最近、あの敵連合とも接触を図ったわ。顛末は不明だけど」

 

 敵連合。林間合宿を襲撃し、アンジェラを攫って行った奴ら。

 

 アンジェラは正直、敵連合に微妙な感情しか抱いていなかった。死柄木以外を自分からどうこうしようとは、どうしても思えなかった。特にトガヒミコは。

 

 確かに、彼らは友人達の命を狙った。しかし、それと同時にアンジェラにとっては、記憶を取り戻し、肉体を再編させるきっかけとなった奴らでもあるのだ。

 

 ただし、敵対するのならそれまでだが。

 

「ただ、奴が何か悪事を企んでいるという証拠を掴めない。そのために八斎會は黒に近いグレー。敵扱いができない。

 我がナイトアイ事務所が狙うのは奴らの尻尾。くれぐれも、向こうに気取られぬように」

「「「イエッサー!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コスチューム姿で、街を闊歩するアンジェラと通形。途中、通形がアンジェラに話しかけてきた。

 

「パトロールくらい職場体験でもやってるよね?」

「いや、色々あって基本活動未経験なんですよ」

「へぇ、変わってんね。でも大丈夫。今回実際にホシを監視するのはサー達で、俺達はパトロール。色々教えるよ。着いておいでよ!」

 

 頼もしいことだがその動きは明らかに変だと、アンジェラは5秒くらい思った。

 

「そういやさ、ヒーロー名聞いてなかったよね、お互い」

「ああ、そっか。アンジェラです」

「それ、名前……いいの?」

「いいんです。これは、大事な大事な名前なので」

「俺はルミリオン。全てとまではいかないが、100万……オールではなく、ミリオンを救う人間になれるようにルミリオンと命名した」

 

 通形ミリオのミリオとミリオンを掛け合わせた、中々に洒落たネーミングだ。オールではなくミリオンを救う人間とは、オールマイトよりもよっぽど「人間」らしい。

 

「コスチュームを纏って街に出れば俺達はヒーローだ。油断はするなよアンジェラさん」

「……はい、ルミリオン」

 

 アンジェラがなんとも言い難い微妙な感情をその胸に隠しながら返事をし、二人はパトロールを続けようと歩き出そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっ!」

「おっと」

 

 と、突然、アンジェラは路地裏から飛び出してきた女の子とぶつかってしまった。白い長髪に、額に一本の角がある幼い女の子だ。何故か、両手足に夥しく包帯が巻かれている。アンジェラはその女の子と目線を合わせるように屈むと口を開いた。

 

「すまなかったな、Lady。大丈夫かい?」

「……!」

 

 その女の子はアンジェラの存在に気が付くと、その赤い瞳を一瞬だが輝かせる。アンジェラがどうしたのだろう、と疑問に思い、ひとまずその子の服についてしまったであろう埃を落とそうと右手をその子に近付けた、その時。

 

 

 

 

 

 

 

「駄目じゃないか壊理。ヒーローに迷惑かけちゃ」

 

 路地裏から現れたのは、ペストマスクの男。

 死穢八斎會の若頭、治崎だった。

 

「うちの娘がすみませんね、ヒーロー。遊び盛りで怪我が多いんですよ、困ったものです」

 

 どうやら、壊理と呼ばれたこの女の子は、治崎の子供らしい。アンジェラはいきなりの事態に胸に迫った困惑を隠しながら、愛想笑いをする。

 

「こちらこそ、ぶつかってしまってすみません」

「その素敵なマスクは八斎會の方ですよね? ここらじゃ有名ですよね」

「ええ、マスクはお気になさらず。汚れに敏感でして。

 お二人共初めて見るヒーローだ」

「そうです、まだ新人なんで緊張しちゃって。さ、立てよ相棒。まだ見ぬ未来に向かおうぜ?」

 

 アンジェラと通形の会話に当たり障りない顔で答える治崎は、しかし明らかに警戒している。ピリピリとした空気が周囲に伝わっていく。

 

「どこの事務所所属なんです?」

「学生ですよ! 所属だなんて烏滸がましいくらいのぴよっこでして。職場体験で色々回らせてもらってるんです。では我々、昼までにこの区画を回らないといかんので。行くよ」

「はーい」

 

 アンジェラが愛想笑いのまま通形に着いて行こうとした、その時。

 

 壊理がアンジェラの耳元に口を近づけて、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってるから、絶対来てね。「王様」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

 アンジェラが困惑を隠しきれずにいると、壊理はアンジェラから離れて治崎に着いていく。

 

「なんだ、もう駄々は済んだのか?」

「……」

 

 壊理は怯えたように頷き、治崎は「ご迷惑をおかけしました。お二人共お仕事頑張って」とアンジェラと通形に告げると、路地裏の闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、通形はバブルガールを通じてナイトアイに連絡を取り、四人は合流した。ポタリ、ポタリと、雨が降り始めていた。

 

「すみません、事故りました。まさかあんな、転校生と四角でばったりみたいな感じになるとは……」

「いや、これは私の失態。事前にお前達を見ていれば防げた」

「取り敢えず無事でよかったよ。下手に動いて怪しまれたら危なかったかも」

 

 例えばだが、あそこで治崎を捕らえようとした場合、事前に聞いていた治崎の“個性”と合わせて考えると、どう転ぼうが建物一軒は倒壊していただろう。そもそも、こちらはまだ調査中の身。下手に動いて怪しまれでもしたら本末顛倒である。

 

「あっ、そうだサー。怪我の功名というか……新しい情報を得ましたよね。治崎には娘がいます」

「……娘?」

「壊理と呼ばれてました。手足に包帯が巻かれてて、普通なら(・・・・)、虐待を疑うようないで立ちの子供で…………」

 

 アンジェラはそこまで言うと、何か深く考え込むような素振りを見せる。まるで、パズルのピースそのものが間違っているような、何かが食い違っているような、そんな違和感を感じる。

 

「どうした、フーディルハイン」

「……うーん、にしては、違和感があったんですよね……なんか、こう根本がひっくり返るような……なにかがあるような……言ってたことも気になるし………」

 

 アンジェラは違和感にうーん、と頭を悩ませる。どうにも言語化が難しいが、先の会話の中、アンジェラは違和感を感じっぱなしだった。

 

 特に、壊理がアンジェラにだけこっそりと告げた言葉が、その違和感を加速させた。その声色にも、怯えなど見えなかった。寧ろ、まるで希望が見えたかのような喜びすら感じた。

 

 そして何より、アンジェラには、壊理が自分を助けて欲しいと思っているようには、どうしても見えなかった。

 寧ろ、誰か別の人を助けて欲しいようにも見えた。

 

 

 

 ……その、助けて欲しい人の中に、何故か治崎も含まれているように感じたことが、アンジェラの頭を最も悩ませる要因となっていた。

 

「うーん……分からねぇ……何を判断するにしても、ピースが足りない……」

「……取り敢えず、今日の所は二人共事務所に戻っていろ。バブル、行くぞ」

「は、はい!」

 

 こうして、インターン一日目が終了した。

 

 アンジェラの中に、もどかしい疑問を残したまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死穢八斎會の屋敷の地下に作られた、巨大な空間。

 治崎と壊理は、ある場所を目指して歩いていた。

 

「ねぇ、廻さん。これで、よかったんだよね? これで、皆助かるんだよね?」

「……ああ、壊理のおかげだ。ありがとう」

 

 壊理は、本当に嬉しそうに笑う。

 その笑顔からは、治崎への怯えなど一切感じない。

 

「皆……お姉ちゃん(・・・・・)も、助かるよね?」

「………………」

 

 その問いに、治崎は明確な答えを返すことが出来なかった。

 彼は、壊理に肯定を返したかった。自分がそう、信じたかった。

 

 

 

 親父……死穢八斎會の組長と、自分との間にいつの間にか開いていた溝を埋めてくれた彼女には、感謝しか無い。自分が抱えていた大きな野望は、しかし彼女が言う「敵」の前ではあまりにも小さく。

 

 たかが人の裏を牛耳る程度では、「神」には抗おうとすることすら出来やしないのだ。

 

 そんな野望など、いとも簡単に粉々になって消えるくらいには、彼女が与えた衝撃は大きかった。

 

「……奴らは英雄症候群の病人だが……「神」の狂信者共よりは、何倍もマシだ。お前の存在が知れれば、奴らは救けに行こうと動く」

「私はいいの……廻さんや、組の皆は……?」

「…………お前が口添えしてくれれば、少しはマシな結末になるかもな。奴らに目を付けられた時点で、命があるまま終われるんならまだマシだと、思うようになっちまったよ」

「……お姉ちゃんは……?」

「…………あいつ、は…………」

 

 本当は、分かってる。

 分かっているのだ。

 彼女はどう足掻いても、助かりはしないのだと。

 そんな奇跡、起きやしないのだと。

 

 何より、彼女が、生きることを望んでいないのだと。

 本人がそう認めてしまえば、自分たちにはどうすることも出来ない。

 

 せめて、彼女の望みを、叶えてやることしか彼らには出来ない。

 

「……ねぇ、廻さん。今日、ヒーローに会ったでしょ?」

「ああ、あの学生だっていう……奴らから、アイツの言う奴に情報が行けば…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「居たよ、「王様」」

 

 治崎は、目を見開いた。

 

 壊理はどこまでも嬉しそうに、笑っている。

 その喜びが嘘偽りのものとするならば、一体何なら喜びになれるのかというような笑みだった。

 

「王様、来てくれるよ。そしたら、お姉ちゃんも、王様に直接会ってお話してくれるよね」

「……本当……よくやったな、壊理……」

「お姉ちゃんのためだもん」

 

 二人はある扉の前に立つ。子供が書いたような拙い字で、「おねえちゃんのへや」と書かれた張り紙が貼ってある扉だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん! 居たよ、王様が居たんだよ!」

 

 治崎が扉を開くと、壊理は真っ先にその部屋の主の下へ駆け寄る。

 

「「王様」……そっか、やっぱりあの子が王様なんだね」

 

 金髪に赤い瞳を輝かせた少女は、飛び込んできた壊理に優しげなほほ笑みを見せる。

 

「加減良さそうだな、ワプト」

「ついに目も腐り始めたの? 治崎」

 

 若頭たる治崎にも臆さず挑発する少女は、あちこち点滴まみれでベッドの上に腰掛けている。

 

 その背後では、緑色の液体に満たされた肉の塊が、脈動を繰り返していた。

 

 

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