音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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 絶望の中を藻掻き、たった一つの灯火に繋ぐ。

 其れは善意でも悪意でもない。

 天の使いを前にして、そんなものに意味など無い。

 其れは、原始的な感情。




 足掻き藻掻いて、それでも世界(地獄)を生きようとする、

 生存本能だ。



壊れた運命

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古来より、知性ある生き物達は自分達の住む世界の外側に、この世界を創り出したものが住んでいると信じていた。

 

 人には触れられぬ世界の外側から、この宇宙を観測し、時に干渉するものが存在するのだと信じて疑わなかった。

 

 真偽など、誰にもわからない。少なくとも人間には、それを確認する手立てなど存在しない。

 確認する手立てがないからこそ、人々はそれぞれで外の者を、外の概念を思い描いた。

 

 曰く、魂は幾度も輪廻を繰り返す。

 曰く、世界をお創りになったものが最後に作ったものが人である。

 曰く、外の御方は時に人にお告げをくださる。

 曰く、八百万のものが外の概念に通ずる。

 

 どれが正しいのかなど、誰にもわからない。

 確かめる手立てなど、人間が人間である以上存在しない。

 

 だが、それぞれの考えを信じる者達からすれば、他の考えは認められないものだった。

 他の外に対する考えを認められない者達は争い、その火種を最も被るのは、どこでだって、いつだって、争いには無関係な者達だった。

 

 無関係な者達も、奪われた憎悪と共に争いに乗り込んでいき、炎は益々大きくなっていく。

 

 譲れぬからこそ戦い、そして傷付き眠りについていく。星は血に汚れ、再生できないほど傷付くまで争いが繰り返されたこともあった。

 

 

 

 外の者が争いを繰り返す知性ある生き物に見切りをつけたのか、はたまた、これ以上傷付けられることを嫌った星の思し召しか。

 争いが起こる前に、はたまた争いが起きた後の文明を焼き払う裁定者が現れた。

 

 数多の文明を焼き尽くした裁定を振るう者は、外の者の導きの元にその力を振るう。

 

 それは、外の者が創り出した単一のものであれば、外の者の導きを受けたその文明の者であったことも、外の者がばら撒いた「病」であることもあった。

 

 

 

 

 

 ある文明、魔法と科学が発達したその星において、裁定者は一人の少女だった。

 

 宗教戦争で多くの大切な人を亡くし、憎悪に囚われた少女だった。

 

 少女は憎悪の念にその身を焦がしながら、あるものを発掘し、復元した。

 

 それは、全てを元に戻すため。

 違う考えを認められなかった奴らが起こした争いに、無慈悲に奪われた大切なものを取り戻すため。

 たった2つだけ残された、大切な人を守るため。

 そして、争いの大元となった奴らを皆殺しにするため。

 

 少女はそのために、禁忌に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 少女の願った通り、争いの大元となった奴らは皆死んだ。

 

 

 

 

 

 

 だが、失われたものは、決してその手に戻ることはなかった。

 

 

 

 

 守りたかったものも、一つは無惨な姿へと成り果て、少女自身がその手にかけた。

 何度も、何度も、炎の中で、肉の塊へと刃を振るった。

 

 少女の心は、既に壊れていた。

 

 

 

 

 

 迷いと共に振るわれた槍に、首を切り落とされる。

 

 

 

 

 

 

 一体何が間違ってたのかと言われれば、こう答えるしかあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 神の力に手を伸ばそうとした時点で、破滅の運命は決まっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、この星も、もう例外なんかではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ!? 壊理って子が本拠地に居る!?」

 

 数日後の早朝、ナイトアイ事務所にそんな声が響き渡った。八斎會の本拠地とは、トップ、組長の屋敷のことである。

 

「けっ、俺達の調査は無駄だったってわけか」

「いえ、新たな情報も得られました」

「どうやって、確信に?」

 

 ファットガムの疑問にナイトアイはどこからともなく、日本の女児向けアニメ「プリユア」のおもちゃを取り出す。

 

「八斎會の構成員が先日近くのデパートにて、女児向けの玩具を購入していました」

「は?」

「なんじゃそら」

 

 アンジェラは、その構成員はそういう趣味だっただけなのでは、と一瞬思った。ファットガムも同じことを思ったようで、「そういう趣味の人かもしれへんやろ! 世界は広いんやでナイトアイ!」とツッコミを入れていた。

 

「ちゅうか、何でお前も買うとんねん!」

「いえ、そういう趣味を持つ人間であれば確実に言わない台詞を吐いていた」

 

 ナイトアイは、このおもちゃを購入した八斎會の構成員が「めんど」と吐き捨てていたところを目撃し、彼に予知を使った。その予知に、壊理の姿が映っていたとのことだ。予知使うのかよとツッコミが入ったが、ともかくこれで決まりというわけだ。

 

「フーディルハインさん……やるぞー!」

 

 通形はいつもの明るい雰囲気の中に真剣さが混ざったような空気で、腕をとにかく上下させてやる気を表現していた。やる気があるのは大変よろしいことなのだが、その動きは絶対に変だとアンジェラは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前8時、警察署前にヒーローと警察が集まった。アンジェラ達もコスチュームを身に纏い、警察署前で刑事の話を聞きながら、渡された八斎會構成員の“個性”リストを読み込んでいた。麗日達は緊張しているが、プロは落ち着いて事に当たっている。

 

「プロは皆落ち着いてんな……慣れか!」

「あれ? そういえばグラントリノが今朝から見えないけど……」

「あの人は来られなくなったそうだ」

 

 アンジェラがふと零した疑問に答えたのはナイトアイだった。それを引き継ぎ、刑事が口を開く。

 

「塚内が行っている連合の件に大きな動きがあったみたいでな。だがまぁ、こちらも人手は十分、支障はない」

 

 確かに、これだけ多くの人員が居れば、余程のことがない限り(・・・・・・・・・・)人手不足に陥ることはないだろう。グラントリノが連合の方を優先させたのも納得がいく。

 

「八斎會と敵連合、一気に捕まったりしてな!」

「かもな」

 

 アンジェラは切島の言葉に返事をしながら、左腕の義手の掌を開いたり閉じたりして動作確認をする。

 そこへ、相澤先生……いや、イレイザーヘッドがやって来て口を開いた。

 

「俺はナイトアイ事務所と動く。意味、分かるな」

「はい」

 

 アンジェラはその意図を即座に理解し、短く返事をした。

 イレイザーヘッドがアンジェラに確かめるように促したのだから、それを近くで支えるべきだと、「相澤先生」が考えたがゆえだろう。

 

「ヒーロー、多少手荒になっても仕方ない。少しでも怪しい素振りや反抗の意思が見えたら、すぐ対応を頼むよ。相手は仮にも、今日まで生き延びてきた極道者。くれぐれも気を緩めずに、各員の仕事を全うしてほしい。

 

 突入開始時刻は、0830とする! 総員、出動!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前8時半、死穢八斎會組長宅前。

 ヒーローと警察の機動隊が包囲する中、捜索令状を持った刑事がインターホンの前で最終確認とばかりに口を開く。

 

「令状読み上げたら、ダーッと行くんで。速やかによろしくお願いします」

「しつこいな、信用されてねえのか」

「そういう意味やないやろ、意地悪やな」

 

 この褐色肌のヒーロー……アンジェラが調べた所によるとロックロックというヒーローらしい、は、何だか毒を吐く事が多い。ファットガムの言うように、少し意地悪だ。

 

 ……そんなことを頭の片隅で考えているアンジェラは、やはり違和感は拭えなかった。

 

 何か、根本的なものを見落としているような、そんな気がしてならない。

 

 ……壊理に再び会えさえすれば、この違和感の正体が分かるのだろうか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああああっ!!」

 

 と、刑事がインターホンを押す直前、何人かの八斎會の組員と思しき男たちが門扉を勢いよく開けて出てきた。服はボロボロ、手足や顔にも怪我を負っている。中には、片腕が失くなってしまっている者も居て、全員が何かに怯えているような色を顔に出していた。

 

「って、ヒーローに、警察……!? こんな時に……!」

「いや、この際国家権力でも何でもいい! 頼む、助けてくれ!!」

「助けてくれって……」

 

 ヒーローや警察達は酷く困惑した。八斎會を包囲しに来たというのに、その八斎會の組員から頭を下げられて助けを求められたのだから無理もない。

 

 だが、そのボロボロな身なりに声に滲む恐怖心は、嘘偽りのものにはとても見えなかった。それが嘘だというのなら、一体何なら恐怖と呼べるのか、というような表情だった。

 

「屋敷の中にいきなり化け物が現れて……もう何十人も組員が殺されてる……あいつは……本物の化け物だ……!!」

 

 ガタガタと震えながら声を絞り出す八斎會の組員は、取り敢えず警察の機動隊が保護することとなった。彼らは涙ながらに、「ありがてぇ……あんたらは命の恩人だ……!」と、本音としか思えない感謝を口にする。

 

 ……と、アンジェラは開け放たれた門扉から、わずかながらに流れ出てきた魔力を、その肌で感じ取る。それが、八斎會の屋敷を荒らしているという化け物が出しているのかはまだ分からないが。

 

 とにかく、中を確認しないことには何をすることも出来ない。あまりにも予想外のことが起こりすぎてしまったため、念のためにとマイナーヒーロー達と機動隊の一部を残して、アンジェラ達は八斎會の屋敷へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 玄関には、少しばかり血の跡があるだけで、異常はなかった。

 

 だが、ナイトアイが予知で見た通りの道筋を進み始めて少しすると、変化はすぐに現れた。

 

「……」

「うっ……」

 

 漂ってきたのは、この緊張感には到底似合わない甘い香り。甘い、甘い、しかし、食欲を煽るようなものではなく、寧ろ吐き気を催すような、死を思わせる甘い香りが、進めば進むほど強くなる。麗日と切島は走る足は止めないまま、思わず手で口を塞いだ。

 

 そして、変化というのは当然ながら匂いだけではない。

 壁や床には赤い液体が、まるでカーペットのようにぶちまけられており、時には人の腕や脚、腸や血肉などが転がっているところにすれ違うこともあった。甘い香りの正体はこれか、と、アンジェラはどこか他人事のように思った。

 

「これ……人の……うっ」

「一体、何が起こったっちゅうねん……あんま、仏さんの一部分見たらあかんで、特にインターン生!」

「……いえ、大丈夫ですファット! それより、こんな所に小さな女の子が居るって、余計に早く助けないと……!」

 

 ファットガムがアンジェラ達インターン生に注意を促しながらも、アンジェラ達はナイトアイの先導の元進む。

 

 と、壁の一部が無くなっている場所でナイトアイが立ち止まった。本来なら、ここに隠し通路を開く仕掛けがあったのだが、無惨にもそれは破壊され、粉々になっている。

 

 そして、その通路の中には、腹に大きな穴を空け、そこから血を垂れ流している八斎會の組員が転がっていた。息はないが、血がまだ固まっていないことから、その組員が死んでまだ時間が経っていないことが分かる。

 

「酷い……」

「誰が、こんなこと……」

 

 麗日と蛙吹は、自分の精神がガリガリと削られていくような感覚に囚われていた。仮免持ちヒーローとはいえ、まだ高校一年生なのだ。死体を前にして精神が抉られるのも無理はないだろう。切島も、先はファットガムの言葉に啖呵を切ってみせたが、実際に人の死体を目にしてしまうとその精神を摩耗させてしまう。

 

 ただ、アンジェラはこんな中でも平常心を保っていた。ショックを受けていないわけでは決して無いが、せいぜい人間が小動物の死体に抱く程度のものでしかない。「同族」でも何でも無いものの死体に、大きなショックを受けることはない、それと同じだ。

 

 平常心を保ってはいたが、今まで心の中に渦巻いていた疑念は、何とも形容し難い違和感は消えることなく、寧ろその勢いを増していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を下り、アンジェラ達は地下通路に辿り着く。道は、ナイトアイが予知で見た通りに続いていた。

 

 そう、道筋そのものは。

 

 壁や床のみならず、天井からまるで雨漏りのように甘い香りを放つ赤い液体が滴り落ち、あちこちに肉の塊や死体が転がっている。中には、首がどこにもない死体もいくつかあった。

 

 アンジェラ自身は平気だが、こんな凄惨が過ぎる場所、プロヒーローでも正気を保つので精一杯なはずだ。アンジェラは周囲の状況を冷静に把握すると、口を開く。

 

「ナイトアイ。やることやって、さっさとこんなトコおさらばしましょう」

「……とは言うが、どうするつもりだ?」

「ダッシュで」

 

 有無を言わせる気など、アンジェラには微塵もなかった。平気なだけで、アンジェラもこんな気味悪い場所に長居したいとは思わない。

 

「君なら可能だろうが……平気、なのか?」

「大丈夫です」

「……そうか。なら、任せる。道筋は……」

「既に頭に入ってます」

 

 アンジェラは短く告げると、赤い液体で彩られた地下通路を音速で駆け抜けていった。

 

 ソニックブームを撒き散らしていったアンジェラを見送ると、ナイトアイ達もまた壊理が居るであろう場所へ向かって走り出す。先行していったアンジェラが壊理を保護し戻ってきたらそれでよし、その前に合流出来れば出来たで、戦力が多いに越したことはない。ここで一体何があったのかも、突き止めねばならない。

 

 ナイトアイ達は赤い液体をピシャリ、ピシャリと跳ねさせながら、アンジェラの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジェラがその道筋を辿り切るまで、恐らく一分もかかっていない。

 時折、道のど真ん中に転がっている死体を躱しながら、アンジェラはナイトアイに教えられた道を風圧を発生させ駆け抜ける。

 

 走れば走るほど、壊理が居るであろう場所に近付くほど、周囲に漂っている魔力もより濃くなっていくのを肌で感じる。魔力の大元が、近くにある証だ。

 

 何故、と考えるよりも先に、アンジェラは確信を持って足を動かしていた。

 

 確かに、作戦上自分が真っ先に行くべきだと思ったことも事実だ。アンジェラのスピードならば、それが可能だ。

 

 だが、それ以上に、アンジェラは、ソルフェジオは、この地下通路に入った瞬間、確信を持った。有無を言わせる気がなかったのは、100%私情だ。

 

 確かめなければならない。

 だが、それは壊理のことではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……やがて、アンジェラは一つの部屋の前に辿り着いた。

 赤に濡れた、辛うじて子供が書いたであろうことだけが分かる張り紙がある扉だ。

 

 ナイトアイに言われた部屋はここではない。

 

 だが、アンジェラは、その部屋の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶり。血の繋がったおねーちゃん。

 

 そして、制作者(マイスター)

 

 右目はトパーズの、左目にはサファイアの輝きを宿し、アンジェラはその部屋に足を踏み入れる。

 

 その部屋の主は、点滴まみれでベッドに腰掛けている金髪赤目の少女。

 

 

 

 

 

 アンジェラは、この時生れて初めて、自分から血の繋がった姉に会いに来た。

 

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