音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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第十一章 Can you fell the sunshine?
Little knight


 その後。雄英高校と各ヒーロー事務所との間でインターンの自粛が取り決められ、元々八斎會の事件の後ナイトアイ事務所でインターンを継続する気がなかったアンジェラ以外のクラスメイト達もインターンが中止と決定したのは、八斎會への押入りの二日後のことだった。

 

 その日の朝、アンジェラは相澤先生に連れられて、壊理が一時的に身を寄せていた病院に足を運んでいた。職員会議やら何やらで許可が降りたということで、壊理を雄英で預かることになったからだ。

 

 書類やらのやり取りは相澤先生に任せて、アンジェラは一足先に壊理の病室を訪れていたのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……あのな、いつまでそうやって引っ付いてるつもりなんだ?」

「…………」

 

 病室に着いた途端、壊理がアンジェラの脚にしがみついて離れなくなってしまった。寂しかった、と彼女の顔が物語っている。

 

「あー……わかったわかった。後でアップルパイ作ってやる」

「うん」

 

 ワプトの話によれば、アンジェラと壊理はほぼ同い年らしい。壊理の方が一応歳下らしいが。

 だが、見た目からはそうとは見えない。アンジェラは生れた時から成長していないし、壊理はこれから成長するだろうし、いつか逆転する日が来るのだろう。その事実から目を逸らしたい衝動に駆られそうになる。ただでさえ低い身長が、今後一切伸びることがないと分かりきっているというのは、結構辛いものがあった。

 

「これからは、淋しくはないさ」

「淋しくは……ね」

 

 壊理は、赤いフードで顔を隠した。

 

「王様、私、強くなりたい」

「……「ソレ」は、呪縛……いや、呪いを呪いで解いたのか」

「そうだって、お姉ちゃんは言ってた。私の魂が特別だから、自我を保てているって」

「言っとくけど、オレも教えられるほど熟達してるわけじゃねぇぞ」

「………………」

「後悔、してるか?」

 

 少しの間が歯痒く感じた。ふと唐突に降りかかる喪失に、壊理は慣れていて、慣れていない。ぽっかり空いた穴の埋め方など、誰も教えてはくれない。教えてくれたのは、何時だって自分自身だった。

 

「これは、何度も、何度も、形を変えて繰り返されてきたこと。ねぇ、王様。私、「王様」のことは王様よりも知っているんだよ」

「……らしいな」

 

 素直に認めざるを得なかった。壊理とアンジェラは根幹の部分で同類だ。分かっていたつもりではいたが。

 壊理は、アンジェラよりも「王様」のことを知っている。それこそ、産まれた時から。

 

「だから、後悔って感覚が、分からない」

「……それでいい、それが正常だ」

「どの口が」

「まぁな」

 

 減らず口を叩くアンジェラに、壊理は苦笑いをする。ふたりとも、全くの別人のはずなのに、こういうところは「変わらない」らしい。

 魂が、覚えているのだろうか。

 いや、覚えているとしたら、魂か、それか…………

 

「さて、先生の話も終わる頃かな……そろそろ行くか。エスコート頼むぜ、小さな騎士様(Little knight)?」

「畏まりました、王様」

 

 二人はまるで、戯曲を演じるように手を繋いで、病室を後にする。

 

 これも、永い時の中で、幾度となく繰り返されてきたことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壊理の着替えや日用品を揃えた後、相澤先生の車でアンジェラ達は雄英高校に戻ってきた。壊理は流石に少し緊張しているのか、車から降りると、またもやアンジェラの脚に引っ付いて離れなくなってしまった。

 

「あー、連絡行き届いていると思うが、雄英で……というよりも、このクラスで預かることになった子だ。皆、仲良くするように」

 

 寮の共同スペースに集まっていたクラスメイト達の視線に、壊理は咄嗟にアンジェラの背に隠れ、顔だけを覗かせる。単純に視線というものに慣れていないだけだろう。クラスメイト達に対して興味自体はあるようだと、アンジェラは思った。

 

「あの……壊理、です」

「うん、よろしくね、壊理ちゃん」

 

 おずおずと自己紹介をした壊理に、クラスメイトを代表して麗日が手を差し伸べる。壊理は一度アンジェラを見やり、恐る恐るその手を取った。

 

「フーディルハイン、授業外では基本お前に壊理ちゃんの面倒を見てもらうことになるとは言ったが……大丈夫か?」

「大丈夫です。授業中は先生方が見てくれるんですよね?」

「ああ、そうだが……何かあれば、遠慮なく言えよ?」

「大丈夫ですってー」

 

 アンジェラの軽い物言いに本当に大丈夫なのか心配になってきた相澤先生だったが、壊理は今のところアンジェラに一番懐いてるし、何より、アンジェラ本人が積極的に壊理の面倒を見ようとしているので、止めようにも止められない。とりあえずはアンジェラに任せて、クラスメイト達や教師達に壊理を慣らしていくのが、壊理の精神的にも正解だろう。

 

「よろしく、おねがいします」

 

 壊理はアンジェラの背の後ろからぺこり、と頭を下げる。これなら、割りと直ぐに慣れそうだなとアンジェラは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい、私……というよりも、ミラーソード「ソルフェジオ」は、制作者(マイスター)・ワプトが教会からくすねてきたものです。そこに後から搭載された魔導演算用の人工知能が「私」です』

「だから、ワプトが制作者(マイスター)ね……」

 

 ワプトからの贈り物の一つである、ひし形のくぼみのあるナイフを手で玩びながら、アンジェラは相棒の声に耳を傾ける。青いひし形の宝石は、ナイフのくぼみにピッタリと嵌りそうだ。

 いや、元々そうあるべきなのだ。あるべき所になかっただけである。

 

「お姉ちゃんは、ソルフェジオをコアユニットとミラーソードとしての本体に分離させて、コアユニットの方にあなたを搭載して、王様に託した。私はそう聞かされてる」

『コアユニットに残された機能は「私」以外は必要最低限のものでした。恐らく、目を逸らさせるために、でしょう。万が一、マスターが戦う術を知らない状態で奴らに見つかっても、そのまま目をつけられないように』

「……あれで、最低限……?」

 

 最低限にしては機能が満載だったような気がする。後付けのAIはともかく、各種武器への変形など最たるものだ。アンジェラが首を傾げるのも当然だった。

 

『最低限ですよ……「神」にその刃を向けるのなら、対人性能がいくら高かろうが意味はありません』

「……」

 

 相棒が語る「神」が何を指すのか、気付けないほどアンジェラは鈍くはなかった。「本体」に戻ろうが、ソルフェジオの対人性能は大して変わらない。演算性能や耐久度が増すくらいだ。

 

「なるほど……そりゃ、意味ないわな」

 

 いくら人間に対して強かろうが、アンジェラにはさしたる意味がない。

 こちらを覗く深淵を穿つための力でなければ、意味がない。

 

「ま、今のオレじゃあまだまだ使いこなせないだろうけど……」

「大丈夫、それは元々「王様」のものだったから。王様なら、使いこなせるようになる。というか、今の王様の状況が異質すぎるだけ。魔法は少なくとも百年単位はかけて熟させていくもの……王様の成長スピードはハッキリ言って異常」

「そうは言っていられない状況だけどな」

 

 ナイフ……ミラーソードのくぼみにソルフェジオのコアユニットを嵌め込む。柄から刃に空色の光が迸り、やがてひし形の宝石へと収束された。

 

「ああ、使いこなせないって言えば……壊理」

 

 アンジェラはウエストバッグから幻夢の書と指輪型の魔導演算装置を取り出すと、壊理に差し出した。突然のことに、壊理は目をパチクリとさせる。

 

「それ、やる」

「えっ……王様の魔導書を?」

「オレじゃあソレの性能を100%活かすことが出来ないからなぁ。使える奴が持ってた方がいいだろ? 

 

 それに、ソレは元々お前のものだったはずだし。適材適所ってやつだよ」

 

 アンジェラの魔法の適性と近距離を中心とする戦闘スタイルでは、幻夢の書の性能を活かしきれないというのは紛うことなき事実である。その戦闘スタイルが魔法を得る前に既に確立されてしまっているのだから、尚更だ。

 

「そりゃ、そうだけど……王様、これ人前で使ったりしたこと……」

「……外装変えて、オレと“個性”が似てるって主張すれば、なんとか……?」

「あるんだ」

「仕方ないだろ、まさかこの星であいつら以外に魔法を使える奴に会うとも、ワプトがあんな細工をするとも思ってなかったんだから! 特に、ワプトの細工を予想出来た奴が居たら拍手喝采してやるよ!」

 

 アンジェラは思いっきり開き直った。壊理は苦笑いしながら、差し出された幻夢の書を受け取り指輪型の魔導演算装置を左手の薬指に嵌める。

 

 ふと、アンジェラは魂の残響(ソウルオブティアーズ)に右手を添えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……マスター、どうされましたか?』

「いや……

 

 魂だけって、どういう状況なのかなって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、そういうのは私よりもアンジェラの方が詳しいんじゃないかしら」

「知識じゃなくて、感覚の話だよ。肉体が無いって感覚が分からないわけじゃないが……あの時は、ソルフェジオの中に押し込まれてたからなぁ」

「……それ、私と会う前の話よね。何がどうしたら、肉体と魂が分離するなんて経験するのかしら」

「文句はエッグマンに言ってくれ」

 

 暗闇に星のような光が散りばめられた空間で、メリッサは呆れたようにため息をついた。これまでも何度か彼女らが巡ってきた奇想天外でスリル満点な旅路の話は聞いていたものの、毎度毎度、アンジェラの話は予想の斜め上をかっ飛んでいくものばかりで、飽きることがない。

 

「でも……多分、私のはあまり宛にならないかも。私はアンジェラの感覚器官から外を観測出来るから」

「そういや……それってさ、どんな感覚なんだ?」

「そうね……例えるなら、4Dの映画を見ているかのような感じかしら。

 

 ……どの感覚を私に流すかは、アンジェラの方に決定権があるみたいだけど」

 

 アンジェラは苦笑いする。メリッサの言葉の意味が分からないほど、アンジェラは鈍くはない。寧ろ、「上手くいってたか」と言葉を紡ぐタイプだ。全く悪びれても、反省してもいない。

 

 自分自身を容赦なく実験体にするその様は儚く、しかし強かなものだ。呆れるしかなかった。

 

「おっと、お説教は勘弁してくれよ。痛くもないし、あってもなくても正直変わらない。誰も不利益は被らないだろ?」

「そういうことじゃ……いや、その通りなんだけどさ……

 やっぱりアンジェラって……「人間」じゃないんだね」

「今更だろ?」

「そうだね、今更だ」

 

 お互いにお互いが発した言葉がなんだかおかしなものに思えてきて、どちらともなく笑い出す。アンジェラが人間ではないなんて、生れた時からそうだっただけだ。それを知ったのがつい最近というだけで。

 

 本当に、今更だ。

 

「そうだ、最近はアンジェラ、昼だけじゃなくて朝も夜も学食でしょ? 明日は休みだし、アンジェラの手料理が食べたいわ」

「食うのはオレだけどな……いいぜ、何がいい?」

「そうね……アンジェラの一番得意な料理、とか?」

「せっかくなら、クラスの奴らにも振る舞ってやるか」

 

 他愛のない話は、微睡みが醒めるまで続いた。

 

 

 

 

 




かなり分かりづらいですが、アンジェラさんが言及した「肉体と魂の分離を経験した」というのはソニック本編の話です。
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