音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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月光

 数日後、深夜、某所にて。

 

 とある迷惑動画投稿者がGUNによって逮捕された。自らを「ジェントル・クリミナル」と名乗る敵だ。一応、六年間警察の目を欺き続けたということで、ある程度のレベルの警戒の中、突入作戦は決行されたが、完全な不意打ちだったこと、共犯者と思しき女性を先に抑えられたからか、かなりあっさりと逮捕することが出来た。

 

「……私の、夢が……」

「恨むなら、アイツの逆鱗に触れた己を恨むんだな」

 

 拘束具を取り付けられ、連行されていくジェントルに、インフィニットはため息をつきそう言った。ジェントル・クリミナルの情報を提供したハッカーもそうだが、あの犯行予告と題された動画だけでジェントルの次の狙いを予測し、そのハッカーに調査を依頼した「彼女」には、ほとほと呆れるしか無い。

 

 最初の段階では五分五分くらいの確立に見ていたようだが、その段階でインフィニットが知る限り一番のスーパーハッカーを動かして見せるのだから、「彼女」の人脈の広さと行動力の高さには恐れ入る。

 

 ルビーの瞳が写すのは、今ここには無いトパーズに射竦められた夢追い人の成れの果て。子供らしい夢を見る暇など全くないまま、先に大きな絶望と憎悪をその心に刻みつけられたインフィニットには、ジェントルの「歴史に名を刻みたい」という夢も、そこにかける情熱も、全くもって理解出来ない。理解するにも値しない。

 

 理由が何であれ、あろうことか「彼女」の逆鱗に触れようとしたこいつに、同情の余地は全くない。

 

 自然とそう思ってしまう自分に、インフィニットは思わず苦笑いする。

 仕方がないと自嘲する。

 

 瞳の宝石に囚われ、抜け出せなくなってしまった者は数知れず。

 いくら兄妹だからって、そんな所まで似なくていいのにと、ひとりごちた。

 

『寄りかかった船だ、文化祭の警備も協力してやろうか?』

「珍しいこともあるものだ。貴様が「ヒーロー」に手を貸そうとするなんて」

『別に、ヒーローに手を貸すつもりはこれっぽっちもない。ただ、ヒーローの卵とはいえ、ただ純粋に青春するのを邪魔されようとした高校生に手を貸すのはやぶさかではない、っつー話だよ。

 

 それに、お姫サマのクラスのライブの映像と引き換えだ。中止にされでもしたら溜まったもんじゃない』

「……そういうことにしておいてやる」

 

 通信機から聞こえる声の主は、ヒーローやヒーロー公安委員会に声をかけられても、決して協力しようとはしない。過去に何度か公安委員会に勧誘されたらしいが、それを思いつく限りの罵倒と共に全て蹴り、今ではGUNが協力者として雇い入れている。正当な報酬と身分の保証を引き換えに、ハッカーとしてその力を貸すことが条件だ。ヒーロー公安委員会が提示しても決して首を縦に振らないであろうその条件も、GUNであればと快諾したらしい。

 

 何故か。それは彼が、ヒーローを心の底から嫌っているからだ。本人曰く、憎むとは若干違うものであるらしいが、その嫌いようは、憎んでいると他人に勘違いされても可笑しくはないものだった。

 

 ……だから、酒の肴にハッキングをするようなイカれた感性の持ち主になってしまったのだろうか。いや、これは恐らく関係ないなと、インフィニットは自己完結させた。

 

『それに、お姫サマの頼みは、どうにも断れなくてね。正常を取り繕って無駄だぜ。どうせ、お前もそういうタチなんだろ?』

「……」

『気持ちは分からんでもないぜ。俺も同類だからな。

 

 リゼもそうなんだけどさ、今まで頭ごなしに否定されるだけだった俺の理論に、アイツ、真剣な顔して耳傾けてさ。他の奴らみたく、そんな考えしてるなら敵だって言わずに、真剣にディベートしてくれて。その上、そういう議論が好きな連中を紹介してくれたんだよ。アイツからしてみれば、単に面白いってだけの時間だったんだろうが、その時間で、一体俺がどれだけ救われたことか』

 

 彼が、「彼女」とその友人に救われたタチであることは知っていた。初めて出会った時……まだ彼がアンリーゼ大学に留学していた頃に、うっすらとそういう話をされたことがあったと、インフィニットはふと思い出す。

 

 ああ、だから、彼は自分を「同類」と評したのか。

 インフィニットは一人、そう納得した。

 

「……お前のそれは、恩義と友情の域を出ていないだろう。ある種の崇拝の域には達していそうだが」

『崇拝ねぇ……仮にしてたとしても、アイツはそういうの嫌がるだろ。俺は、友達の嫌がることはしない主義だっつーの』

「それは当たり前だ。

 ……そうか、友達、か」

 

 彼は、あくまでも大学時代の友人として、そして自分を救ってくれたという大きな恩義に報いるため、「彼女」に手を貸しているだけだ。大学時代に「彼女」以外にもリリィやリゼラフィ、それ以外にも同じ学科の友人たちが居たから、というのも大きいだろうが、彼の持つ感情は言わば、「崇拝混じりの恩義ある友情」である。リゼラフィに対しては恩義の方が強いだろうが、恐らく、「彼女」に対しては、崇拝の方が度合いが高いだろうと、インフィニットは何となく思った。

 

『? お前もそうなんじゃ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………テメェ、まさか……』

「そのまさか、だと言ったら、お前はどうする?」

 

 通信機から、ノイズ混じりにため息が聞こえる。その程度の反応は、インフィニットにとって予測するまでもないものだった。

 

『どうもしねぇよ。嫌なら嫌って、お姫サマならはっきりと言うだろうし。アイツ、そっち方面にはとことん疎いしお前もどーせおくびにも出さないだろうしで、そもそも全く気付いてないだろうけど』

「違いない」

 

 自分でもわかっている。不毛だと。

 だが、無視してしまうには、あの一対のインペリアルトパーズは、あまりにも輝かし過ぎた。

 あの瞬間を、インペリアルトパーズの輝きを真の意味で見つけてしまったあの瞬間を、忘れることなど出来やしない。

 ある意味、麻薬よりもよっぽど質が悪い。

 

『……見物だな』

「何か言ったか」

『いんや、何にも?』

 

 彼……彩芽の声は、まるでいたずらっ子のような声だったと、後にインフィニットは述懐する。

 ともかく、これで「彼女」……アンジェラの懸念も払拭された。彩芽の協力が取り付けられるのであれば、文化祭もまず間違いなく滞りないまま終えられるだろう。

 

『あ、報酬は雄英高校の方に請求しといてくれな。話もつけといてくれ。俺から話しに行きたくない』

「分かっている、事務処理はこちらで済ませておこう」

『毎度あり〜』

 

 月の光が雲に隠れる。

 鈴虫の鳴き声だけが、夜の静寂を切り裂いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れて、文化祭前日の夜。

 アンジェラ達は体育館で最後の通し練習を行っていた。

 

「始める前は素人芸がって不安だったけど……バンド隊もダンス隊も、素人以上のもんになっちまったな。芦戸も意外と鬼コーチだったし」

「ああ、好きだからこそガチでやれるんだろうな。フーディルハインが昔やったっていうバンドの映像見せられてから、それまで以上に皆気合入ってたし」

 

 ダンス隊が芦戸の指導の下最終確認をしている間、演出隊の瀬呂と切島がしみじみと言う。アンジェラがクラスメイト達に提供した動画も、彼らにとっていい刺激になっていた。

 

 これなら、本番も大丈夫。切島達にはそういう確信があった。

 

「モウ、9時ダロぉぉ!! 生徒は、9時までダロぉぉォ!!」

「やっべ、帰りまーす……」

 

 と、オブシディアスが青山をロープで釣り上げたところで、ドガァン、と大きな音を立てて体育館の扉が開け放たれ、ハウンドドッグ先生が大声でアンジェラ達に退室を促してきた。どうやら、体育館の使用時間を過ぎてしまったらしい。本番前日の夜にお説教は勘弁と、アンジェラ達は慌てて寮へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜。クラスメイトの半分は、既にベッドに入り寝息を立てている頃。

 

「わー、眠れねぇぇぇ!!」

「興奮マックス────!!」

 

 やかましい。

 ケテルと小さくなったクリスタラックを肩の上に、小さくなったオブシディアスと子犬モードのミミックを膝の上に乗せながら、青山と共に道具の最終点検をしていたアンジェラはそう思った。

 本番を明日に控えて興奮するのは大変結構だが、大変やかましい。そのやかましい奴ら……峰田と上鳴は共同スペースを走り回りながらワイワイと騒いでいた。

 

「静かに! 寝てる人もいるから!」

 

 芦戸の注意で峰田と上鳴は騒ぐことは止めたものの、走り回ることは止めはしなかった。ああでもしないと興奮を消化しきれないのだろう。何でもいいけど明日に響かないようにしてほしいと、アンジェラは呆れた。

 

「皆、盛り上がってくれるだろうか」

「そういうのはもう考えない方がいいよ。恥ずかしがったり、おっかなびっくりやんのが一番良くない。舞台に上がったら、あとはもう、楽しむ」

「そうそう、折角のステージだ。まずは自分たちが楽しまなきゃ」

「耳郎、お前めっちゃてれってれだったじゃねぇか」

「あれはまた違う話でしょ!」

 

 先の峰田と上鳴ほど騒がしくはないが、夜ふかし組も明日のステージを前に興奮しているのは同じだ。興奮して眠れないから、クラスメイトとおしゃべりして気を紛らわそうとしているのだ。

 アンジェラはおしゃべりに参加しながら、ロープを手に取る。

 

「……っと、ロープ解れてる」

「ワオ☆ずっと練習で酷使してたもんね。僕らの友情の証じゃないか☆」

 

 青山はアンジェラの膝の上からテーブルに飛び乗ったオブシディアスを撫でながら嬉しそうに言ったが、それはそれとしてほつれたままのロープを本番で使うわけにもいかない。

 

「いや、危ないって。悪いな、気付かなかった」

「八百万に作ってもらえば? ですわ」

「ヤオモモもう寝てるよ。便利道具扱いしないの」

 

 流石に夢の中のクラスメイトを叩き起こしてロープを作ってもらうわけにもいかない。明日も八百万は朝からシンセの最終確認で忙しいだろう。芦戸の言葉はそういう意図あってのものだったが、上鳴は自分と八百万の扱いの違いに納得がいかないらしい。

 

「俺のことは充電器扱いするじゃん……」

「これが男性蔑視」

 

 いや、人徳の差だろ、とは、武士の情けで言わないでおいたアンジェラだった。

 

 そんなことはともかく、アンジェラはほつれたロープを片手に思案する。

 

「オレが明日朝イチで買ってくる。気付かなかったのオレだし、ぶっつけ本番で青山を白亜の鎖(フィアチェーレ)で吊るすわけにもいかないしな」

「いやいや、本番朝10時からだぞ。店って大体9時からじゃん」

「雄英から15分くらいの所にあるホームセンターなら、朝8時からやってるんだよ」

「けっこーギリじゃん。ま、フーディルハインなら大丈夫か」

 

 上鳴はアンジェラのスピードなら問題はないだろうと、ひとりごちた。

 その後もおしゃべりや道具の点検、などをしていると、芦戸が口を開いた。時計を見ると、0時を回ろうとしている。流石に何人かの夜ふかし組の顔にも睡魔の気配が漂ってきた。

 

「さーて、そろそろガチで寝なきゃ」

「そんじゃ、また明日やると思うけど、夜ふかし組、一足お先に……

 

 

 絶対成功させるぞ──!」

『おーっ!』

 

 切島の号令に、腕を突き上げ応える夜ふかし組。

 久方ぶりの目一杯楽しめるお祭りに、アンジェラのテンションも心なしか上がっていた。

 

 

 

 

 

 




えきねこです、よろしくおねがいします。
ちょっと今後の予定をば。

文化祭編が終わったら、原作ではビルボードチャートからのA組B組対抗戦ですが、この作品では色々前倒しして先に劇場版第二弾編をやります。理由は、劇場版第二弾をそのまま時系列に組み込もうとすると、色々と齟齬が生じてしまうからです。あーでもないこーでもないと色々考えた結果、この作品なら12月じゃなくて11月でもよくねと思い前倒しすることにしました。バタフライエフェクトってことで許してちょ。

そして内容ですが、先に予告しておきます。「フロンティアベースのオリジナルストーリー、回想で新ソニ(ダイジェスト)」になる予定です。恐らく、いや絶対に今までで一番の長丁場になります。流石に真幌ちゃんと活真くんは出します。お暇な時にでもお付き合いくださいませ。
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