チャオとは、超常黎明期以前から主にラフリオンで生息が確認されている生物である。
人間の子供並の知能を持ち、人間の道具を使ったり、ボディランゲージなどによる意思の疎通も可能。個体によっては、言葉を話すこともできる。基本の体色は水色だが、食べたものや世話された環境などによって、成長した姿が大きく変わるという特性を持つ、不思議な生き物。主食は木の実。
そんなチャオだが、自然の綺麗な環境か、人間がチャオの保護を目的に作ったチャオガーデンでしか生息できない。
チャオは生きるために綺麗な環境を必要とするのだが、超常黎明期以前の環境破壊などによってチャオの生息できる環境はどんどん減っていき、現在になっても自然界に生息するチャオの目撃例は物凄く少ない。アンジェラ達ですら、エンジェルアイランドでしか自然界で生きるチャオを見たことがなかったくらいだ。閑話休題。
さて、そんなチャオだが、ラフリオンではその生息数と周辺国での知名度と比較して、かなりメジャーな存在である。それはひとえに、チャオガーデンの存在があるからだろう。
チャオガーデンは前述の通り、チャオの保護を目的に作られた施設である。チャオの生息環境を出来る限り再現し、チャオのための施設も揃えられている。
さて、これはそんなチャオの楽園で起こった一騒動のお話。
「…………何があったし」
チャオガーデンの中心で、クリーム色のセミロングヘアとオレンジ色の瞳を持ち、胸元の水色のリボンがオシャレなオレンジ色のワンピースと、赤と黄色の靴、白い手袋を身に着け、ウサギの耳が頭から生えている幼い少女、クリーム・ザ・ラビットがある一点を見つめながらオロオロしており、クリームの友達で、赤いリボンを着けたチャオ、チーズが口をあんぐりと開け、周囲のチャオたちも何かに怯えている。
彼女らの視線の先には、この状況に頭を抱えているナックルズと、何が何やらといった感じでポカンとしているシルバー、
そして、何故か頭から地面にめり込んでいるメフィレスの姿があった。
「……本当に、何があったし」
アンジェラは望んだ。この訳のわからない状況を理解するための時間を。
この日、アンジェラは久しく訪れていなかったチャオガーデンに足を運んでいた。いつもはスリルを求める気質のアンジェラだが、あの穏やかな場所も存外気に入っていた。暫くチャオたちの様子も見ていなかったことだし、丁度いい。
行きがけに、転んだお婆さんがその衝撃で落とした林檎を拾うのを手伝った。どうやら、何かにぶつかったらしい。林檎を拾おうとしたとき、アンジェラもお婆さんがぶつかった
不穏な空気が流れ始めたのは、一本の電話がかかってきた時からだった。
『アンジェラサン!』
「おー、クリームか。珍しいな」
『助けてクダサイっ!』
「……ん?」
クリームの声はかなり切羽詰まったものだった。妹分のような存在であるクリームからのいきなりの救援要請に、アンジェラは一瞬呆けたような声を出す。
『今、チャオガーデンに居るんデスけど、そこで……』
「まさか、あの生卵野郎だかどっかの敵だかが襲撃に来たのか?」
『いえ、そうではないんデス。けど、大変なことが起こってるんデス!』
「……?」
エッグマン他敵が襲いかかってきて慌てているのなら、分かりたくないがまだ分かる。しかし、そうでなくてクリームが大変だと慌てるようなことなど、アンジェラには予想が出来なかった。クリームは普通の女の子ではあるが、その胆力には眼を見張るものがある。普段なら、ちょっとやそっとでは慌てたりしないのだが……
『えーっと、ワタシも何て説明したらいいか……とにかく、早く来てくだサイ!』
「あ……ああ……」
アンジェラは頭の上にはてなマークを乱立させながら、チャオガーデンへと急いだ。
そして現在。アンジェラはここへ来たことを若干後悔し始めていた。どう収拾つけるんだよ、このカオス。
「というか、マジで何があったんだ?」
「あー……それが俺にも何が何やら……」
ナックルズの説明によると、まずクリームとチーズがチャオガーデンに初めて来たシルバーに、チャオガーデンの設備なんかを案内していて、そこにエンジェルアイランドで採れた野菜や果物を差し入れにナックルズがやって来たという。その後、4人は果物をチャオにやったりと、チャオの世話をしながら談笑していたのだが、
突如として、空からメフィレスが降ってきたのだという。
そのままメフィレスが地面にめり込んで、今に至るらしいのだが……
「は?」
「な? 意味分かんないだろ?」
アンジェラも目が点になるほどには意味が分からない状況だった。
取り敢えず、メフィレスに何があったのかを聞かないことには話が進まない。気は乗らないが、アンジェラは地面にめり込んでいるメフィレスを雑に引っ張り上げた。
「おーい、起きやがれ」
「ううう……あなたのために歌うことが、こんなにも辛いことだなんて……」
「一体どんな夢見てんだお前……。っつーか、よくこの状況でグースカと……」
アンジェラはなんとかメフィレスを起こそうと揺すったり、ペシペシと叩いたり、地面に思いっきり叩きつけたりしてみたが、メフィレスが起きる気配はない。……というか、
「いやいやいや、それ逆に気絶するだろ!」
ナックルズのツッコミが冴え渡る。アンジェラは渋々、ほんっとうに渋々といった感じでメフィレスを雑に地面に落とした。そのとき、メフィレスの身体から何かが落ちてくる。
「……………………なんでこいつりんごなんか持ってるんだよ」
その転がり落ちた物体とは、赤くみずみずしい美味しそうなりんごであった。ますます意味がわからない状況に、アンジェラは頭を抱える。
何が何やら、と今の今までずっとぽかーんとしていたシルバーだったが、ふと、何かを思い出したかのように呟いた。
「あ、りんご」
「りんごがどうかしたんデスか?」
「いや、あいつりんご苦手だったなって……」
「じゃあ何で苦手なもんわざわざ身体に入れてんだよ」
「さぁ……」
メフィレスの意味のわからない行動(割といつものことだったりするが)に一同が呆れていると、ふと、唸り声とぐちゃり、という気色悪い音と共に、地面に落ちていたメフィレスがぐにゃぁと姿を歪ませて、再びシャドウそっくりなヒトの姿へとなった。ようやく目を覚ましたかとアンジェラが一つため息を零す。
「ため息を吐きたいのはこっちだよ……」
「自分の行動を省みてから物を言えよお前」
メフィレスがムカつく言動なのはいつものことなので一言で流しつつ、アンジェラはソルフェジオを杖に変形させてメフィレスを脅…………笑顔で何があったのかを聞き出そうとする。
「脅迫だよね?」
「HAHAHA……お前がそう思うんならそうだろうよ、お前ん中ではな」
その笑顔は綺麗を通り越して最早薄気味悪い。背後に何か怖いオバケみたいなものが見えるとはクリーム談である。
「うへぇ……アンジェラ怖ぁ……」
「こりゃ、普段の鬱憤もぶつけてんなアンジェラの奴……」
シルバーとナックルズも、アンジェラの行動に若干引き気味ではあるものの、止めようとはしなかった。メフィレスの突発的なイタズラで一番被害を被っているのはアンジェラであることを知っていたからだ。
ある時は、買ってきたチリドッグを勝手に食べられたり、ある時は部屋全面に落書きをされたり、ある時はエクストリームギアのエア噴出口を塞がれたり…………
メフィレスがこういうイタズラに命を賭けるような奴であることは周知の事実ではあるものの、アンジェラが被害に合う回数はその中でも群を抜いて多い。シルバーと同じ、いや、それ以上かもしれない。
まぁ、そんなこんなでアンジェラはここぞとばかりにソルフェジオを突き付けて脅……………………おはなしをしようと笑顔で迫っていた。その笑みの中に隠しきれていない怒りのようなものが滲み出ているのは、気のせいではないだろう。
「まぁ、アンジェラの言い分も分かるけど、一回落ち着けって。これじゃ話も聞けねぇよ」
苦笑いでそう言うナックルズの言い分ももっともなので、アンジェラはしぶしぶ、ほんっとうにしぶしぶソルフェジオを下ろした。
「………………………………命拾いしたな。ナッコに感謝しろよ」
「待って僕殺される所だったの?」
メフィレスは若干命の危機を感じた。アンジェラは知らん顔でそっぽを向いて口笛を吹いているが、さっきのアレは本気で殺る気の目だったとは、この喧騒(? )を端っこの方で聞きながら、悟りを開いた菩薩のような顔でクリームと一緒にチャオと戯れていたシルバーの語るところである。
「いやぁ、話すと長くなるんだけどさ……」
「一言で纏めろ」
「ワープミスりました」
メフィレスはイブリースの力を借りて時空間をある程度操ることができる。
今回、メフィレスはその瞬間移動をミスってチャオガーデンの上空に移動してしまったらしい。その時点で既に気絶していたらしく、気付いたら空から落ちてチャオガーデンの地面にめり込んでいた……というのが真相のようだ。
「……何でアンタワープミスなんてしたんだよ。いつもは自由自在にあっちこっちワープするのに……」
「そこまでいうほど自由自在ってわけでもないけどね、シルバー」
それがさぁ、と困り顔(表情は分かりにくいが)でメフィレスは語る。
「ワープしようとした瞬間に林檎が視界に入ってきてね。びっくりしちゃって」
「あー……だからりんご持ってたのか。苦手なのに」
「背後にキュウリ置いたときのネコかよ」
アンジェラは、脳裏によぎった「苦手って、味が嫌いとかじゃないのかよ」という言葉は言わないでおいた。
「……ああ、そういえばそのちょっと前にりんごをばら撒いた婆さんを見たっけ」
「…………ん?」
「多分、その人が落としたりんごだったのかなぁ」
「…………んん?」
なんだろう。アンジェラには覚えのある話だった。いや、もしかしたら違うお婆さんの話をしているのかもしれない。というか、その可能性の方が高いよな、うん。
アンジェラが無理矢理な自問自答に決着をつけかけた、その時であった。
「いやー、まさかちょっと身体の一部を切り離して遊んでたら、ピタゴラ方式で婆さんが転ぶなんて思ってなかったよ。あ、そういえばアンジェラがその場に居たような……あのコケ方は傑作だったよ……っぷ、くくくっ……」
爆弾が投下されたのは。
「…………テメェの仕業かァァァァァァっっ!!!!!」
額に青筋を立てたアンジェラは、怖いくらいににこやかな笑みで、しかし目は一切笑っていないまま、音速の拳をメフィレスに見舞った。その一撃はメフィレスの肉体を弾き飛ばしたが、元々重油のような液体であるメフィレスには大したダメージにはなっていない。
「おや、アンジェラ。そんなに怒って大丈夫かい? 老けるよ?」
「黙れ、今度という今度は許さん! 締め上げる!」
「ワーコワーイ」
怒り心頭のアンジェラに、とにかく煽り散らかすメフィレス。乱闘開始数秒前のような雰囲気だが、ナックルズ達は大して動じなかった。これが、いつものことであると知っているからだ。アンジェラのことを知っているチャオ達も大してパニックには陥ったりしていない。アンジェラは確かに頭に血が上ってはいるが、チャオガーデンを壊すようなことはしないと分かっているのだ。
「……今回はどうなると思う?」
「取り敢えずメフィレスはいい加減反省するべきだと思う」
「……ああいうのをハンメンキョーシって言うんデスよね?」
「そうだなー。クリーム、メフィレスみたいになっちゃ駄目だぞ?」
「ハーイ!」
「チャーオ」
しかしまぁ、メフィレスも懲りないなぁ……。
未だに怒りの収まらないアンジェラと、未だに煽り散らかしているメフィレスを見て、シルバーは遠い目をしながらそんなことを思っていた。
そしてこのあと、メフィレスはアンジェラに宣言通り締め上げられた。しかし、全くもって懲りずに、今後もラフリオンのどこかにて、イタズラに命を賭けるメフィレスと、一番の被害者であるアンジェラとの追いかけっこがたびたび目撃されましたとさ。めでたくねぇ。
チャオガーデン行ってみたい。チャオに埋もれてみたい。ソニックファンなら半分はこう思ったことあるんじゃないですかね、冗談抜きで。