当日、朝。
アンジェラはホームセンターの開店と同時にロープを買いに出て、特に何のトラブルもなく雄英に戻り、最後の準備に取り掛かる。壊理も通形と共にライブを見に来ると言っていた。なれば、余計に無様を晒すわけにはいかない。
器具のチェックは素早く、完璧に。ストレッチも発声練習も問題なし。手早くステージ衣装に着替え、インカムを装着し、義手からオブシディアスを召喚して体育館の天井へスタンバイさせる。オブシディアスの調整も問題なし。
体育館は満員御礼。非日常の熱気にわずかばかりの品定めをするかのような視線が混ざった会場が終幕後、どうなっているかは、一年A組の手腕にかかっている。
クラスメイトの殆どが品定めするかのような視線には気付かない中、アンジェラだけは舞台袖から観客席を見つめて、挑発的な笑みを浮かべて一言小さく言い放った。
「……上等だ」
「アンジェラちゃん、どしたん?」
「何でもない。ほら、もうすぐ開演だぜ」
10時丁度。体育館の電灯が消え、定刻通りにブザーが鳴る。幕が開き、スタンバイを終えたA組の生徒たちが姿を現す。会場に声援や野次が飛び、熱気が満ちていく。
一度バックライトが消え、写るのはA組のシルエットだけ。
耳郎は父の言葉を思い出し、深呼吸をして前だけを見据えた。
「行くぞコラァアアア!!
雄英全員、音で
爆豪の啖呵と大爆発をつかみに演奏が始まり、そして。
「よろしくお願いしま──っす!!」
耳郎の挨拶と共に、ステージが始まった。
一曲目は「Hero too」。耳郎がメインボーカルを務める、ポップな曲調の曲だ。アンジェラはダンスと同時に、サブボーカルとしてハモリパートを担当している。
一番は演出控えめに、しかしサビが終わりに差し掛かったところで、アンジェラが青山を上空に投げ飛ばし、青山がネビルビュッフェレーザーを放った。会場に青色の光が降り注ぎ、観客達も大いに盛り上がる。
「レーザーだ!」
「人間花火かよ!」
落ちてきた青山を尾白がキャッチし、青山は舞台袖から体育館の天井に移動した。
その後、峰田のハーレムパート、飯田のロボットダンスを経て、轟が氷を張り巡らし、八百万がクラッカーを鳴らし、2番のサビに入った。ここからはダンス隊が氷の上でダンスを披露し始める。2番のサビはメインボーカルとサブボーカルを交代し、アンジェラがメロディラインを歌い上げる。勿論、氷の上でキレッキレのダンスをしながら。
切島によるダイヤモンドダストと青山とオブシディアスによる動く人間ミラーボールが会場を盛り上げ、曲は一度落ち着いたパートに入る。ここからはメインボーカルとサブボーカルが元に戻り、耳郎がメロディラインの担当だ。
会場が熱気に包みこまれる中、耳郎の叫びと共にラスサビに入った。蛙吹の舌で操作された麗日が観客を浮かせ、葉隠は衣装ごとキラキラに光り、会場のテンションは最高潮だ。飯田とアンジェラ以外のダンス隊が氷の上で最後の盛り上げどころと踊る。
やがて、ダンスと共に演奏も終わる。会場には、溢れんばかりの拍手が湧いた。品定めをするかのような視線も、もう感じない。
ライブの余韻が残ったまま、バックライトが消える。だが、体育館のライトはまだ点かない。
ここまでが耳郎のターンだとするならば。
次は、アンジェラのターンだ。
インカムをヘッドセットに交換し、舞台袖からDJブースを持ち出し、慣れた手付きで素早くセッティングを終えたアンジェラは、耳郎達バンド隊に被らないように陣取り、息を吸った。
「……I'm hanging on to the other side
I won't give up'til the end of me」
アンジェラがアカペラで最初のパートを歌い上げると、バックライトが赤く点灯し、バンド隊による演奏とダンス隊のダンスが始まる。先程までよりも重々しく、ロック調なメロディが会場を包み込み、観客に思い知らせる。
まだ終わりなどではない、と。
2曲目は「Undefeatable」。アンジェラがメインボーカルを、耳郎がサブボーカルを担当する。また、アンジェラはダンサーからDJになっている。
一曲目よりも演出やダンスが力強いものになり、重厚な音に会場が更に盛り上がる。芦戸が氷の上でブレイクダンスを披露すると、会場からは自然と拍手が沸き起こった。
青山のレーザーと切島と轟のダイヤモンドダストに混ざり、アンジェラが足元に展開した魔法陣から放たれた七色の光が会場中を駆け巡る。カオスエメラルドの色と同じそれらは、ダンス隊の間を駆け抜けると上空に舞いキラキラとした光を舞い散らせた。
「It's time to face your fear!」
アンジェラの力強い歌声と共にライトが煌めき、青山がネビルビュッフェレーザーを放ち、曲はサビに突入する。口田が動物たちと共に動かすライトが氷の上でステップを踏むダンス隊を照らす。麗日と蛙吹が協力し、観客達を無重力にしていく。会場の熱気は、それはそれは凄まじいものだ。
「I'm hanging on to the other side
I won't give up'til the end of me
I'm what you get when the stars collide
Now face it, you're just an enemy!」
本来は男性ボーカルが歌うこの歌を、アンジェラは力強く歌い上げる。その歌声は魂の髄まで響き渡り、観客の心臓を高鳴らせる程のものだった。それほどまでにアンジェラの歌は圧倒的で、引き込まれるものがあった。
その場の誰もが時間を忘れてこの熱気を楽しむ中、ついに終わりの時が来る。一曲目と同じく、ダンス隊はずっとロボットダンスをしていた飯田以外氷の上で最後のパートを踊り切る。
そして、バックライトが消え、曲が最後の静かなパートになると、ライトがアンジェラと耳郎だけを照らし出す。
「「Welcome to the mind of a different kind
Where we've been groving slowly
Think I'm on eleven, but I'm on a nine
Guess you don't really know me
Running from the past is a losing game
In never brings you glory
Been down this road before
Already know this story」」
最後の静かなパートは二人でメロディラインを歌い上げ、静けさと余韻を残してステージは終わった。
会場から溢れるのは、割れんばかりの大歓声。
ライブは大成功だと、誰の目から見ても明らかだった。
「王様〜!!」
クラス総出でライブの後片付け(主に轟が出した氷の撤去や機材などの片付け)をしていると、通形に連れられた壊理が満面の笑みを浮かべて、アンジェラへと駆け寄った。
「あのねあのね! ダンスでぴょんぴょんしてね、冷たくてキラキラして、グルグルってなってね……凄かった! 王様の歌、とってもカッコよかったよ!」
「壊理ちゃん、ライブの始まりからずっと興奮しっぱなしだったもんね。勿論、俺も楽しませてもらったぜ!」
「そうですか、それはなにより」
アンジェラはそう言いながら微笑む。壊理はA組のステージを目一杯楽しんでくれたようだ。
外野で峰田がなんだかソワソワしているような気がするが、片付けが早く済むのならそれに越したことはない。理由は大方見当がつくが。
峰田のことは放っておいて、壊理と通形との会話もほどほどに、アンジェラはクラスメイト達と共に後片付けに戻った。何せ、片付けるものが山のようにあるのだ。テキパキと終わらせなければ文化祭を十分に楽しめない。
片付けを済ませたアンジェラ達は、まずミスコンを観に行った。
B組の拳藤は青のマーメイドドレスを纏い、ステージに大きな板を何枚か並べ、中華風の演舞を披露した。かなりの大きさ、厚さの板を手刀で砕く。
3年サポート科ミスコン女王と司会者に煽られた絢爛崎美々美は、その技術力を活かして作り上げた自分の顔を模した巨大な金ピカのマシンに振袖姿で搭乗し、ステージをグルグルした。あれほどの規模、しかも変形までするマシンを造れる技術力は素直に凄いし、これならインパクトは抜群だろうと思ったアンジェラだったが、これはミスコン。通形に抱っこされてステージを見ていた壊理が、不思議そうな声で一言。
「これは何する出し物?」
「ちょうど今、分からなくなったところだよね」
観客にインパクトと困惑を残し、絢爛崎は高笑いしながらマシンと共に舞台裏へと消えていった。
次にパフォーマンスを見せたのは波動。波動は昨年のミスコンの準グランプリであり、今年は絢爛崎へのリベンジに燃えていると通形が語っていた。
そんな波動は、青色の可愛らしいフリフリなドレスに身を包み、“個性”を使って宙を舞う。まるで、純真無垢な妖精のように幻想的な舞う波動に、観客達は引き込まれていった。
ミスコンの結果発表は夕方5時。波動に投票したアンジェラは、ステージ上で堂々と不正をそそのかし拳藤に手刀を浴びせられている物間を無視して、壊理にパンフレットを見せてどこに行きたいかを聞いた。
いっぱいあって選べない、とのことなので、テキトーにあちこちブラブラと歩きながら、気になった所に行くことにしたアンジェラ達。途中でクレープを買って食べ歩いたり、サポート科の技術展示会を覗いたり、ミニ遊園地に行ってみたり、爆豪がオールマイトの在学中の記録を抜けないとキレ散らかしていたアトラクションをアンジェラがやってみたところ、いとも簡単にオールマイトの記録を抜いてしまったり。
締めのイベントであるミスコンの結果発表では、リベンジを果たした波動がグランプリに輝いていた。
「王様、今日は楽しかった!」
「ああ、そうだな」
文化祭という非日常を、目一杯楽しんだアンジェラ達であった。
めぐり ねをはる 母なる泉よ
かざし はいよる 忌むべきものよ
はらみ はきだす 忌むべき母よ
ねがい のろいて そしていね
てんへと還る翼をうばい
されど
意思なしその所業を何と申すか
届かぬものへ伸ばし続けた手すらも食む
その傲慢ちきを何と申すか
彼方、煌めきの先より来たりしは
楽園へ導く天駆ける方舟
此方、此岸の縁から彼岸の果てへ
それを死と呼ばずに何と申すか
忌むべき母は未だ来ず、されど時の流れは止まらず