音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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第十二章 I'm with you
那歩島


「ねぇ、もうすぐこの島に沢山のヒーローが来るんだって」

 

 離れ小島の森に囲まれた遺跡に、少女の声が響き渡る。不満や不安を一切隠すことなく曝け出す少女の服の袖を、少女の弟は掴んで少女の垂れ流す不平不満をなんとか抑えようとした。

 

「この島にヒーローなんか必要ないのに……」

「で、でも……来てくれるのは、いいことだと思うよ、お姉ちゃん……」

「フンっ、活真はわかってないわね。この島にはヒーローなんかよりもよっぽど頼りになる「守り神様」が居るのよ。ヒーローの出番なんかないわ」

「そうだけど……ヒーローも、救けてくれるよ」

「……そうね、事故が起きた時は、頼りにはしていいかもね。

 でも、あなたよりはよっぽど弱いでしょうね。まだ高校生らしいし」

 

 少女と少女が「活真」と呼んだ彼女の弟の視線の先に居るのは、まるで水が人に近い形をとったような見た目の生き物。エメラルドグリーンの瞳が揺らめき、常人には水の音としか聞こえないゴポゴポ、という音を立てる。少女と活真はその音に反応を見せる。

 まるで、その生き物の音を、「言葉」を、理解しているかのように。

 

「……えー……きっと、すぐに化けの皮が剥がれるわよ。活真ったら、「こんとんさま」というものがありながらヒーローなんかに憧れちゃって!」

「お、お姉ちゃん……だって、テレビで見るヒーロー、かっこいいし……前に島に居た、おじいちゃんだって……」

「あのおじいちゃんヒーローでも、大災害のときはこんとんさまに頼り切りだったじゃない。それに、あのおじいちゃんヒーローはこの島に長く居たからいいけど、今度来るのは余所者の、しかも高校生なのよ。そんな奴らにこんとんさまのことが知れてみなさい? 

 

 今みたいにこんとんさまと一緒に遊んだりすることも、できなくなっちゃうかもしれないのよ」

 

 活真は姉の言い分が分からないでもない。この島にとっては守り神でも、余所者にとっては不安分子で極めて珍しい生物。もしその存在が島の外に伝承以上のものとして知られでもしたら、薄汚い大人に連れて行かれてしまうかもしれない。そんな不安は、活真にも確かにあった。

 

「……そうだけど……でも……」

 

 ゴポゴポ。

 水の音が揺らめく。

 

「……もう、こんとんさままでそいつらの肩を持つつもり? いいわ、だったら私がヒーローの化けの皮を剥いでやるんだから!」

「お姉ちゃん、流石にお仕事の邪魔をするのはよくないよ……」

「……ふーんだ!」

 

 少女はふくれっ面でその場を後にする。活真はそんな姉を追いかけて、急いで遺跡を飛び出した。

 

 残された水の生き物、少女が「こんとんさま」と呼んだそれは、幼い子供達を見送ると、森の奥へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文化祭が滞りなく終わった数日後、間もなく11月に入ろうかというある日のホームルーム。事前の予定にはなかった、ある行事の予定が相澤先生によって伝えられた。

 

「ヒーロー活動推奨プロジェクト。お前らの勤務地は、遥か南にある那歩島だ。駐在していたプロヒーローが高齢で引退。後任が来るまでの間、お前らが代理でヒーロー活動を行う」

『ものすごくヒーローっぽいのキターッ!!』

 

 クラスメイトの殆どが立ち上がって叫ぶ。せり上がる幼い頃からの憧れに一時でもなれるという興奮が抑えられないのだろう。何せ、職場体験でもインターンでもない、本物のヒーロー活動が出来るのだ。アンジェラはどこか微笑ましげにクラスメイト達の様子を眺めていた。

 この後の展開を予想しながら。

 

「話を最後まで聞け」

 

 アンジェラの予想通り、教室に響き渡る相澤先生の低い声。その声に、騒然となっていた教室は一気に静まり返る。相澤先生は大人しく席についたクラスメイト達を確認すると、資料を配り、プロジェクトに関する説明を開始した。

 

 この「実務的ヒーロー活動推奨プロジェクト」は国家主体で行われるものであり、ヒーロー科生徒がプロヒーロー不在地区で実際にヒーロー活動を行うものだ。期間は正式に駐在するヒーローが来るまでとのことだが、短くて二週間、長くて一ヶ月はあるという。

 

 アンジェラ達1年A組の勤務地は、沖縄県に位置する人口1000人程度の小さな離島、那歩島である。1年を通して温暖な気候であり、本州では秋風が冬風に変わりつつあるこの時期であっても、海で泳げるほどには暖かい、というか暑い。

 

「このプロジェクトは規定により、俺たち教師やプロヒーローのバックアップはない。当然、何かあった場合、責任はお前らが負うことになる。その事を肝に銘じ、ヒーローとしてあるべき行動をしろ。いいな?」

 

 全て自分たちだけでヒーロー活動を行う。その責任の重さが分からない者はここには居ない。

 その上でクラスメイト達はやる気を漲らせる。夢が叶うという奮い立つような思いを胸に秘めたクラスメイト達に、アンジェラは本心を隠しながら苦笑いをすることしが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、飛行機とフェリーを乗り継ぎ、1年A組の面々と壊理は那歩島にやって来た。

 

 壊理がついて来た理由は簡単なもので、今の壊理の精神状態で長期間アンジェラと引き離すことは危険であると判断されたからだ。A組の面倒以外にも、相澤先生や通形などにも少しずつ心を開いているものの、壊理本人もアンジェラと長期間離れることを嫌がった。数日や一週間ならまだしも、最低二週間はキツいらしい。

 ならいっそ連れて行ってしまえば良いと、相澤先生の許可が下りたのだ。那歩島がここ30年ほど大きな事件も起きていない平和な島だからというのもあるだろう。

 

 そんなこんなで那歩島にやって来たアンジェラ達は、島の役人たちと話し合った末、廃業していた旅館「いおぎ荘」を借り上げ、一階のラウンジを臨時のヒーロー事務所とすることにした。クラス単位で来ると聞いて、事前にある程度準備を整えてくれていたらしい。寝泊まりは二階の大部屋を男女に分けて行う。

 

 学校側から支給された機材をセッティングし、その日はクラス総出で事務所の整理を行い、本格的な活動は翌日からになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日より始まったA組の面々によるヒーロー活動。大きな事件はなく、ヒーローというよりも何でも屋に近い活動だったが、クラスメイト達は真摯に活動と向き合っていた。壊理も事務所で書類整理や洗濯など、出来ることをお手伝いしている。

 

 そうして那歩島でヒーロー活動をしていると、島のあちこちに目をやる機会がある。弟とはぐれたという姉からの通報を受けて、麗日と耳郎と共にその弟、島乃活真を探しに出たアンジェラは、渡り鳥(サーチャー)をあちこちに飛ばしながら、近くにある石造りのモニュメントに目をやった。

 

「……やっぱり、どっかで見たことあるんだよなぁ……」

「きっと、旅の何処かで見たりしたんじゃない? アンジェラちゃん、世界のあちこちに行ったことあるんでしょ?」

 

 那歩島にはあちこちに、こういう石造りのモニュメントがある。島民たちはこれらを待ち合わせ場所や目印に利用しているが、いつから、何の為にあるのかは知らないらしい。

 

「昔からの伝承に従って、取り壊されも移設されることも、これまで一度もなかったんだと。要は、街と融合した遺跡だな」

「へぇ……っていうかフーディルハイン、よく知ってるね」

「調べたんだよ。こういうの見ると血が騒いでね」

 

 隙間時間や寝る前などに、アンジェラは図書館で借りたこの島の歴史書を読み漁っている。遺跡に目がないアンジェラが、この島の謎のモニュメントに目をつけないわけがなかった。

 だが、いくら調べても既視感は拭えない。頂点に黒い三角錐型の石が取り付けられているそれにも、アンジェラは凄まじいデジャブを感じている。

 

 こりゃ、本だけじゃなくて現物を調べてみるかなぁ……

 

 アンジェラは頭の片隅でそんなことを考えながら、麗日と耳郎と共に迷子探しを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷子、活真はその後、程なくして港を見下ろす公園で見つかった。アンジェラは活真に怪我がないことを確認する。どうやら、すっ転んだりはしていないらしい。

 

「……ヒーロー……」

 

 カバンにエッジショットのストラップを付けている所を見ると、活真はヒーロー好きらしい。アンジェラは活真の憧れるような視線を筋違いだな、と思いながら受け取ると、近くの滑り台に目を向ける。

 

「隠れてないで、出てきたらどうだ?」

 

 実際に怒っているわけではないが、少しだけ声に怒気を含ませると、観念したかのように帽子を被った女の子が滑り台を滑り降りてきた。

 

「島乃活真君のお姉さん、島乃真幌ちゃんだな? 大方、余所者ヒヨッコヒーローを試そうとでもして、嘘の通報をして活真と一緒に待機してたってとこか。ひょっとしたら、タイムも計測してたり」

「うっ……その通りだけど……何よ!」

 

 アンジェラは苦笑いしながら、ふくれっ面になった女の子と視線を合わせる。彼女からは悪意を感じない。寧ろ、多少の申し訳無さが声に含まれているようにアンジェラは思いながら、なるべく優しい声色を心がけて口を開く。

 

「弟のことが心配なんだろ? この嘘通報も、悪戯目的じゃなくて弟のためにヒーローを試そうとしたから。違うか?」

「……その、通り……です」

 

 その優しい声色で逆に怒られていると思わせてしまったのか、女の子……真幌はカチコチに固まって萎縮する。アンジェラはそれに気付いて苦笑いをした。

 

「安心しろ、オレは怒っちゃいないさ。タイムアタックは生き甲斐なんだ。

 だけどな、いくら弟が心配だからって、嘘の通報をしていいってわけじゃない。理由は分かるな?」

「……繰り返していると、いつか誰も、信じてくれなくなる……」

「いい子だ、それが分かってるのなら上々」

 

 アンジェラはそう言って、帽子越しに真幌の頭を撫でる。

 

「これっきりにしてくれよ? 今回のことは、弟を心配するお前に免じて上手く誤魔化しておくからさ」

「……うん、ごめんなさい」

「謝れて偉いな。ほら、この場を見つかる前に」

「うん……行くよ、活真」

「えっ……うん。あの……ありがとう……」

 

 真幌は活真を引き連れてその場を離れていく。それと入れ違いになるように公園にやって来た麗日と耳郎に、それとなく誤魔化しを入れたアンジェラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方になると、ようやく依頼も落ち着いてくる。ひっきりなしに入ってくる依頼に疲れ切ったクラスメイト達が、各々ジュースを片手に椅子に座ってぐったりとしていた。

 

「疲れた……」

「労働基準法プルスウルトラしてるし……」

「委員長、ちょっと細かい仕事受けすぎじゃね……?」

 

 数日同じような状況が続き、疲弊し切った瀬呂が飯田に思わずそうぼやく。迷子や落とし物探しはともかく、小間使いのような仕事まで見境なく引き受けていては疲れ切っても無理はない。

 

「事件に細かいも大きいもないだろう」

「ヒーロー活動をしているとはいえ、私達はまだ学生……誠実にこなし、島の皆様からの信頼を得なくては」

 

 確かに、国からの要請でここに居るとはいえ、A組の面々がこの島の人々から見て余所者であることは変わらない。まずは信頼を得なければならないという八百万の意見に反対する者はいなかった。寧ろ、皆が賛成していたのだが、峰田が手を挙げて言う。

 

「はーい! ここに来て一度もヒーロー活動してないやつが居るんですけど……」

 

 峰田の視線の先には爆豪の姿。爆豪はこの島に来てから、何だかんだ一度もヒーロー活動をしていない。そんな彼にもどうやら彼なりの持論はあるらしく、爆豪は威嚇するように顎を上げ口を開いた。

 

「わざと事務所に残ってんだよ、お前らが出払ってる時に敵が出たらそうすんだ、あァ!?」

「この島に敵はいねーだろ」

 

 切島がぐったりしながらそう言った時、ドアの開く音がした。

 

「お邪魔するよ」

「村長さん!」

 

 やって来たのは、島民たちを引き連れた那歩島の村長だった。

 

「さっきは、ばあちゃんを病院にまで運んでくれてありがとね」

「バイクの修理助かったわ!」

「うちのバッテリーも!」

「ビーチの安全ありがとー!」

「捕れたての魚やで!」

 

 島民たちは次から次へと、豪勢な料理を運んでくる。所狭しと机の上に並べられた沢山の料理は、どれもこれも美味しそうだ。

 

「お礼というわけじゃないけど、よかったら食べとくれ」

 

 皆、ご馳走の数々に目を輝かせる。何せ、働き詰めで腹ペコだったのだ。

 

『いっただっきま────す!!』

「君たち、少しは遠慮したまえ!」

 

 飯田がクラスメイト達を注意するも、空腹の高校生達はどこ吹く風。皆、がっつくようにご馳走の数々に舌鼓を打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ご馳走を胃袋に収め、歯磨きをして風呂にも入ったアンジェラは、寝る前に少し散歩してくると八百万に告げて外に出た。目的は勿論、この島のあちこちに点在する古代のものと思しき遺跡の調査である。

 

 昼間よりもよっぽど生き生きとした表情でアンジェラが向かったのは、那歩島と海を挟んで細い道で繋がっている離れ小島。昨日、図書館から借りてきた本によると、そこには本島に遺されているものより大きな遺跡があるらしい。

 

 その遺跡はいつ、誰が、何の為に造ったのか、その一切が不明なものだった。那歩島の伝承にも、「壊してはいけない、動かしてはいけない」とだけ記載されている、謎の遺跡。

 

 アンジェラの知的好奇心を刺激するには、それだけの材料があれば十分だった。

 

「中々のアドベンチャーが待ってると思わないか、相棒?」

『明日への支障が無い範囲にしておいてくださいよ、マスター』

 

 ソルフェジオの呆れたような声を耳に入れながら、アンジェラはケテルを腕に抱き離れ小島を目指す。事務所から離れ小島まではかなり距離があったが、アンジェラにとっては近所も同然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの青い軽装と赤い靴で、草木に覆われた離れ小島を駆け回る。所々にある石造りのモニュメントに既視感を抱きながら駆けていると、開けた場所に辿り着いた。7つの柱に囲まれた、石でできた円形の祭壇のような場所。祭壇は小高い丘に隣接しており、その小高い丘には大きな黒い円形の扉のようなものがある。

 

 月が天高く微笑んでいるというのに、その場所には先客が居た。

 

 白髪のショートヘアに黒いドレスの、アンジェラよりも見た目は少し幼いであろう少女。アンジェラに背を向けて、黒い扉に触れている。水色の電脳的なモヤのようなものを纏わりつかせた彼女がここに居ることに、アンジェラは心底驚いた。

 

「まさか、こんなところで会うとはなぁ。お前も遺跡に興味あったりするのか?」

「……アンジェラ・フーディルハイン……何故、ここに」

「遺跡巡りはオレのバイブルなんでね。

 

 それよりも、Dadは一緒じゃないのか?」

 

 少女は黒い扉から手を離し、振り向いた。

 アクアマリンの光が鈍く輝く。

 

「ドクターはここには居ない。この島に来たのは私の独断」

 

 この遺跡に来たのは「正解」かもな。

 

 少女……セージの言葉に、アンジェラは自然と口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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