音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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依頼

 アンジェラがアンジェラという名を与えられてから、数多の冒険を経て、ブラック彗星事件から2年の月日が流れた。

 

 この間に、アンジェラは更に美しく成長した。身長こそ一ミリも伸びていないが、その美貌と美脚っぷり、グラマラスな体型には更に拍車がかかり、特に胸部は推定Fカップと、ここ数年で急激な成長を遂げている。エミーにすごく羨ましがられた。

 

 大学院に通いながら、語学系の家庭教師のバイトをして色々と自由に生活していたアンジェラだったが、ある日、GUN司令官直々のお呼び出しを食らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、オレ何かやらかしましたっけ」

「どうしてそうなる」

 

 用意された応接室のソファに座りながら紅茶を飲むアンジェラ。そんなフリーダムな様子に、司令官は割と素でツッコミを入れてしまった。

 

 敬語混じりとはいえ、アンジェラがやけに馴れ馴れしいのは最早慣れたもの。アンジェラにとって敬意を払うということは、ただ単純に面倒くさいだけのものであるのだ。流石にアンジェラもTPOくらいはわきまえるが、こうして応接室での対応が始まると途端に崩れる。

 

 そのことを指摘するのは最早無駄でしかないと知っている司令官は、時間もないと早速本題に入ることにした。

 

「数年前から、世界各地で無個性の人間が相次いで行方不明になっているという事件は知っているかい?」

 

 アンジェラもその事件についてはよく知っている。アンジェラがソニックと過ごし始めた辺りのころ、丁度テレビのワイドショーなどでやっていた事件だ。

 

 

 

 なんでも、未だ行方不明者が一人も見つかっておらず、行方不明者の近くには、数日前からある共通の特徴を持つ人物達が近付いていることから、そいつらが犯人なのではないかと言われている事件。

 

 あくまでも噂話だが、「世界を一つに束ねる」とかそんなことをスローガンに掲げ、人々に接触している組織のしわざなのだとか。

 

 

 

 アンジェラは司令官の話を聞きながら、記憶の奥底からその事件について聞いたことを引っ張り出していく。そして、ようやく思い至った。

 

「……ああ、あの白いローブを纏った、名前忘れたけどエッグマンよりも痛そうな連中の起こした事件のことですか? 確か、何とかの教会……とかなんとかって名前だった気が」

 

 アンジェラは音速で走れたり、あらゆる方面にコネがあることもあって、流石に本職や本気の方々よりは劣るが、一般人と比べれば情報通な方である。

 

 そのアンジェラが記憶の根底から呼び起こして、ようやく思い出せたのが、奴らの見た目の情報と名前だけ。しかも両方うろ覚えだった。そのうえ、エッグマンよりも痛そうというアンジェラの謎認識は、緊張感を孕んでいたこの空間に爽やかな笑いを生み出した。

 

「……その認識の仕方はともかく、概ねそのとおりだ」

 

 これには司令官も思わず苦笑い。アンジェラは首を傾げていた。

 

「『天使の教会』。オカルトじみた内容の教義と人々の心に漬け込む話術、そして、高い戦闘力と隠蔽力で先の誘拐事件の他にも世界各国で何件もの大事件を引き起こし、未だ尻尾も見せない組織だ。GUNの諜報部も捜索にあたっているが、世界中に支部があるということ以上の情報は掴めていなかった」

「ようは傍迷惑な宗教団体でしょう。それがなにか?」

「GUNの諜報部が、奴らの本部が日本に潜伏中であることを突き止めた」

 

 そんな極秘情報をあくまでも一般人である自分に言っていいのだろうか。アンジェラはそう思いつつ、このあとの言葉を予測し、先手を打った。

 

「……つまり、オレに民間協力者になれ、と」

「話が早くて助かるよ。君のオカルトじみた“個性”なら、奴らも釣れるんじゃないかと思ってね」

 

 アンジェラのオカルトじみた“個性”というのは、まんま魔法のことである。ブラックドゥーム事件の数カ月後、アンジェラは役所に魔法を“個性”として登録していた。“個性”としての登録名は『魔術』。体内に溜め込んだ魔力というエネルギーを自由自在に操る“個性”……ということになっている。この設定を考えたのはソルフェジオだ。魔法も魔術もほぼほぼ同じ意味だというツッコミは受け付けない。

 

ちなみにわざわざ魔法を魔術という“個性”として登録させた理由は、『“個性”に見えるから』という何とも雑な理由だったりする。

 

 それはともかく、天使の教会は無個性の人間だけでなく、霊と話せる“個性”や、大地の声を聞く“個性”など、オカルトじみた“個性”の持ち主も誘拐しているらしい。魔術なんてオカルトの頂点に立っていそうな“個性”、奴らにとっては格好の餌だろう。

 

 司令官の話を物凄くざっくりとまとめると、アンジェラを日本のヒーロー科高校の中でも特に難易度と知名度が高く、体育祭が日本全国で放映されるなど露出も多い雄英高校に入れ、盛大に目立ってもらい、天使の教会を釣る、という計画のようだ。丁度、GUNが雄英高校に対して毎年行っている講師の派遣があることもあり、例えアンジェラのサポートのためにGUNの職員が雄英高校に出入りしたとしても、カモフラージュがしやすいこともある。

 

 ただし、この作戦を実行するたには、アンジェラは一般入試で日本国立最難関の雄英高校ヒーロー科に入る必要があった。

 

 数年もの時間を要する、大掛かりな作戦。しかも司令曰く、これは割りと本気で最終手段らしい。アンジェラはニヒルな笑みを浮かべた。

 

「釣りの餌扱いですか、オレは」

「すまないね。しかし、そんじょそこらのトップ(・・・)に負けるほど、君はヤワじゃないだろう?」

「……そりゃそうか。で、流石にここまで大事になってくると、タダで動くわけにもいかないんですが」

「そこらへんは安心してくれていい。タダ働きをさせるつもりはない。日本滞在期間の衣食住雑費と雄英高校の学費はこちらで負担する他、給料も出す。大学院への休学願もこちらでなんとかしよう」

「ちなみに給料はどれくらいで?」

「そうだな……大体月これくらいだ。勿論、衣食住費と学費は別途で負担する」

 

 司令官は弾いた電卓をアンジェラに見せる。その額は、ちょっといいサラリーマンの月収くらい。

 

「引き受けましょう」

「決断早くない?」

「欲しい物があって……日本はオカルトの本場ですし。ところで、あなたそんなキャラでしたっけ」

「君相手に固さを保つことが、馬鹿らしく思えてきてね……」

 

 そう語る司令官の顔は、菩薩のようにも見えた。

 

「……ごめんなさい?」

 

 そしてアンジェラは平坦な声でそう謝った。確実に、反省も後悔もしていないタイプの反応であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジェラがGUNからの協力要請に了承して3日。大学院への休学願いも提出し、出発のための荷造りをしていたアンジェラ。ソニック達にも今回の件は伝えてあり、シャドウは若干渋っていたものの最終的には了承してくれた。つくづくツンデレという言葉が似合う男である、とはソニック談である。

 

「んー……流石に荷物が多いな」

 

 そんなことを頭の片隅で考えつつ、アンジェラは自室の床に広げた荷物をどうしようかと悩んでいた。

 

 トランクは大きめのものを用意するつもりではいるが、如何せんアンジェラは多趣味。それに伴って荷物も増えに増えまくる。郵送という手もあるが、費用は馬鹿にならないしもう一度荷物を広げるのも正直言って面倒くさい。

 

 荷物を全部、一つのバッグに纏めて収納できたら楽なのになぁ……。

 

「…………あっ!」

 

 アンジェラは、ふと思いついた。こういうときの為の魔法だ、ということを。

 

 アンジェラの使う魔法は、時間に直接干渉することと、死んだものを生き返らせることは、世界の理そのものに反するのか出来ない。しかし、それ以外のことなら術者の技量と発想次第で大抵のことは出来る、汎用性に長けた力である。身体強化や砲撃などの戦闘魔法以外にも、物に性質を付与する魔法や、日常で役立つような魔法なんかも存在するのだ。

 

 当然、一つのバッグにたくさんの物を入れられるようにすることも出来るわけで。

 

 アンジェラは白地に青と赤のラインが横向きに一本ずつ入ったウエストバッグを押入れから引っ張り出し、内部に空間拡張魔法をかける。容量は、取り敢えず10トンくらいに設定しておいた。同時に、内部重量を感じなくさせる魔法やセキュリティ魔法などもかけておく。

 

 一通り必要な魔法をかけたウエストバッグに、地面に広げていた荷物を全部詰め込む。詰め込み終わったウエストバッグを持ち上げても、ウエストバッグ本体以外の重さは感じなかった。

 

「……キャリーケース要らずじゃん」

 

 何故もっと早く思いつかなかったのだろう。まぁ、アイデアなんてものは何かがきっかけで突然降って湧くようなものなので、アンジェラが発想に乏しいというわけではないのだが。元にガトリングガン形態を始めとしたソルフェジオの変形モードのいくつかは、アンジェラが考えたものだ。

 

 全部荷物を詰め込めたか部屋を確認していると、机の上に手のひらサイズのジュエリーケースを見つけた。

 

「……そういえば、あったな、これ」

 

 そのジュエリーケースには、アンジェラが数日前に道端で拾ったあるものが入っている。どうしたもんか、と取り敢えずジュエリーケースに入れておいて、荷造りをしたらどうにかしようと思っていた。

 

 アンジェラはジュエリーケースを開ける。そこには、青い手のひらサイズの綺麗な宝石が、淡い光を放ちながら鎮座していた。

 

 これはカオスエメラルド。別名、混沌を呼ぶ宝石。赤、黄、白、緑、水色、青、紫の7つが存在し、一つだけでもアンジェラの内包魔力量に匹敵するエネルギーを持ち、7つ全てが揃えば奇跡が起こると言われている。アンジェラの内包魔力量を全て爆発させると、大陸の一つや二つは余裕で吹っ飛ぶという試算が出ているので、いかにカオスエメラルドが規格外の物体であるかが分かるだろう。

 

 カオスエメラルドの力を操れるのは、先天的にその適正を持っている人物か、ブラックドゥームの細胞を持つ人物のみ。ソニック、シルバー、そしてアンジェラは前者、シャドウは後者である。

 

 ナックルズは少し特殊で、カオスエメラルドの力そのものを操ることはできないが、マスターエメラルドというカオスエメラルドの制御装置の役目を持つ宝石の力を使う事ができる。ちなみにそのマスターエメラルドは、ナックルズの住まいでもあるエンジェルアイランドという空に浮かぶ島の浮力源ともなっている。閑話休題。

 

 アンジェラは、ジュエリーケースを手にしばらく思案する。カオスエメラルドはいうなれば、時空間すら歪めるほどの膨大なエネルギーの塊。

 

 ……しかし、一つだけなら、実は言うほど危険でもない。下手なことをしなければ暴走も起こらないし、何より使える者が物凄く限られている。カオスエメラルドの力を燃料代わりにできる機械なども存在するが、そんなものが作れるのはテイルスかエッグマンくらいなものだ。複数個集まれば危険になる場合もあるが、意図して暴走させでもしない限りそんなことは起こり得ない。

 

「……持ってっちゃえ」

 

 つまり、持っていくだけ損はしない。アンジェラはそんな軽い理由で、カオスエメラルドの入ったジュエリーケースをウエストバッグに仕舞った。

 

 

 

 

 

 

 

「……ん? どうした、ケテル」

《アンジェラ……》

 

 荷造りを終えたアンジェラがダイニングでテレビを見ながらコーヒーを飲んでいた時のことだった。

 

 先程まで物がなくなってスッキリしたアンジェラの部屋を飛び回っていたケテルがアンジェラの元へとやってきた。その目はどことなくしょんぼりしているような気がする。

 

《お姉ちゃんと離れたくない! 一緒がいい!》

 

 

 ケテルはアンジェラをお姉ちゃんと呼び慕っている。まだ子供であることも相まって、アンジェラが遠くへ行ってしまうのではないかと心配なのだろう。

 

 ケテルは撫でろ撫でろと言わんばかりに頭をアンジェラの手に押し付けてくる。アンジェラが仕方なしとわしわしと撫でてやると、ケテルはちょっとご機嫌になったようだ。ケテルの頭を押し付ける力がちょっと弱まった。

 

 そんなケテルを見かねて、アンジェラは口を開く。

 

「んー、そっか。なら、一緒に来るか?」

《いいの?》

「ああ、いいのいいの。元々お前、オレについてきたじゃん。それと同じだって」

 

 その言葉が嬉しいのか、ケテルはくるくる回って全身で喜びを表現している。アンジェラは苦笑しながら再びケテルの頭を撫でた。

 

《お姉ちゃんと一緒!》

「OK,OK。取り敢えず落ち着けって」

 

 そんなこんなで、ケテルもアンジェラの日本行きに着いていくことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 今日はアンジェラ達が日本に出発する日である。

 

 まぁ、だからといって特になにか変わったことがあったわけではない。シャドウは朝早くに仕事に行ったし、ソニックも朝食時に一言、「こっちはちょっと寂しくなるけど、頑張ってこいよ」と言っただけだ。

 

 冷たいと思われるかもしれないが、よくよく考えてみてほしい。ソニックもアンジェラも、一ヶ月近くふらっと一人旅をするなどしょっちゅうである。ソニック達にとっては、今回の件はそれの期間が長いバージョン、みたいな認識でしかないのだ。ソニックもシャドウも隠しきれていないほどのシスコンではあるものの、別に事前報告さえあれば長期間家を離れることをあーだこーだ言うほど過保護でも、アンジェラの実力を信じていない訳でもなかった。別の意味では仕方ないとはいえかなり過保護だが。

 

「……ああ、言い忘れてた」

 

 朝食を済ませ、空港に向かおうと玄関のドアに手をかけたアンジェラに、ソニックが呼びかける。アンジェラは何か忘れ物でもしただろうかと、ソニックの言葉に耳を傾ける。

 

「本当に、どうしようもなく辛くなったら、いつでも連絡してきていいからな。というか、限界になる前に連絡してこい。お前、ガス抜き下手だからな」

 

 アンジェラの耳を甘い声が擽る。その声色は、いつも以上に穏やかなものだった。

 

「一体、いつの話をしてるんだか。でもまぁ……わかったよ」

 

 もう、一人では抱え込んだりしない、とは決して明言は出来ない。これからも自分は、辛くても一人で抱え込もうとしてしまうだろう。それは、心配をかけたくないというアンジェラの性のようなものであり、美点であり、大きな欠点でもある。

 

「ケテル、アンジェラのこと、くれぐれも宜しく頼むな。限界になってぶっ倒れないように見ててやってくれ」

《わかったー!》

 

 ソニックの言葉に、ケテルはその短い手で器用に敬礼をした。アンジェラはその様子を苦笑しながら眺めている。

 

 限界まで溜め込んで、吐き出すことすら辛くなることもあるだろう。これから、きっと、何度でも。

 

 でも、辛くても、頼れる人が居る。

 

 それを知っているだけで、アンジェラの心はスッ……と晴れやかになっていく。

 

「行ってらっしゃい!」

「行ってきます!」

 

 だからこそ、アンジェラは、今は前を見て進む。進むことができるのだ。

 

 未来に何があるかなんて、今気にしていても仕方がない。

 

 ならば、今を自分の出せる最高速度で駆け抜けるだけ。自分から引き受けた以上、やり遂げるだけだ。

 

 それが、アンジェラの生き様なのだから。

 

 ソニックとアンジェラの手のひらが、パァン、という乾いた音を奏でた。




ようやっと序章終わりです。次回から舞台が日本、雄英に移ります。
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