音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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 張り裂けそうなほどにこの胸が痛むのは、きっと、愛のせいだった。





白夜

 

 

 

 

 

 

 

「よお、昨日の今日で精が出るな」

 

 翌日の早朝。結局一睡も出来なかったアンジェラは何気なしに離れ小島の遺跡を訪れた。先日までは訪れなかった奥地にまで足を運んでみると、セージが黒いモニュメントに手をかざしている所に遭遇した。このモニュメントのデータを解析しようとしているのだろう。

 

「アンジェラ・フーディルハイン。もう身体は平気なの?」

「珍しいな、お前がエッグマン以外のヤツを心配してくれるなんて」

「あなたにもしものことがあれば、ドクターの楽しみが減ってしまう」

「へーへー、そうですかい」

 

 それにしても、とアンジェラは黒いモニュメントへと目を向ける。

 

 この黒いモニュメントには見覚えがある。スターフォール諸島でカオスエメラルドを保管するために使われていたというものと同じものだった。カオスエメラルドを携えてこの星にやって来た古代人たちは、この装置を使ってカオスエメラルドを護ると同時にその無限のパワーを抽出していたという。スターフォール諸島の分島とも言えるこの島にあってもおかしくはない設備だが、スターフォール諸島のものと比べると少し違和感があった。見た目は全く同一のものであるが、こびり付いたような魔力を感じる。

 

「……故郷の星を捨てて「裁定」から逃れた古代人達の宇宙船、その動力として使われていたのが混沌の宝珠……カオスエメラルドだ」

 

 がさり、と草が揺れる音。振り向けば、そこにはアテネの姿があった。昨日までと違うのは、狐の仮面を頭に着けていることくらいか。

 

「古代人はカオスエメラルドが7つ揃うと奇跡を起こす……もとい、無限のパワーを発生させるということも当然知っていた。その力が、世界を救うことも滅ぼすことも出来るということも。

 

 だから、こうして閉じ込めた。本当に必要な時以外に、7つが揃うことのないように」

 

 ぱちん、とアテネが指を鳴らす。

 黒いモニュメントに張り巡らされていた魔力が晴れていく。

 魔力の痕跡そのものが消え失せたその時、モニュメントの中心には先程までなかった青色に光り輝く宝珠が浮かんでいた。

 

「……驚いたな。ここまで近付いていて、気配すら感じなかったなんて」

「私がどれだけ解析してもその膜を剥がせなかったのに……それも、魔法?」

「ああ、この結界はボクが後付けしたものだよ。万が一にも、この島の巨神にカオスエメラルドが行き渡ることのないように。カオスエメラルドを封じ込めたその上に、魔力の結界を貼っていたのさ。

 

 その必要も、もうないんだけど」

 

 アテネはそう言うと自嘲気味に笑ってモニュメントからカオスエメラルドを取り出した。

 

「スターフォール諸島の遺跡にはカオスエメラルドを引き寄せる力があるみたいでね。それは意図して起動させることも出来れば、近くに飛んできたカオスエメラルドを勝手にキャッチしてしまうこともあるんだ。キミ達には、覚えがあるんじゃない?」

「……一体、何処まで知っているんだ?」

「さあ、何処までだろうねぇ」

 

 くすくす、くすくすと、楽しげな笑い声が響く。掴みどころのなくのらりくらりとしたアテネの物言いに、アンジェラはただただ呆れるしかなかった。スターフォール諸島の一部である那歩島(イカロス島)にそれはそれは長い間住み着いているアテネであれば、遺跡のあれこれを知っていても何もおかしくはないが。それ以上の「何か」を見透かされているような気がしてどうにも落ち着かない。

 

 アンジェラがどこかやきもきした感情を抱えていると、不意にセージが口を開いた。

 

「1つ、教えてほしい。カオスエメラルドが世界を救うことも滅ぼすことも出来るというのなら、何故古代人達はその力を最大限に使って「裁定」と戦おうとしなかったの」

 

 言われてみれば、とアンジェラはスターフォール諸島で観た古代人の記録を思い出した。

 

「裁定」との戦いで使われたのは、各島にあった巨神。その巨神にはカオスエメラルドを収めた黒いケージは確かに存在していたが、各巨神に搭載できるカオスエメラルドは1つずつのみ。裁定と戦っていたのは那歩島(イカロス島)の巨神は除いた4体。搭載出来るカオスエメラルドの総数も単純に考えれば4つ。

 

 ……カオスエメラルドの総数の半分しかない。

 

 地上にカオスエメラルドを使ったエネルギー砲が設置されていたとはいえ、普通に考えれば巨神にカオスエメラルドを7つ搭載するか、7体の巨神を使えばいい話だ。確かにこれではセージの言う通り、カオスエメラルドの力を最大限活かすことができていない。更に、彼らには十分備える時間があったということもセージは知っている。それで勝つことが出来たかどうかは分からないが、少なくとも勝率は上がっただろう。

 

 アテネはああ……と少し考え込む素振りを見せると、どこか自信なさげに言った。

 

「……あくまでも予想として聞いてほしいんだけど。

 彼らは恐れていたんじゃないかな。本領を発揮したカオスエメラルドを」

「恐れていた?」

「彼らはカオスエメラルドをずっと「集団で」使い続けてきた。いくら彼らの志が同じだったとしても、上層部は力を使った際のリスクを無視できなかったはずだ。ただでさえ光る爆弾みたいなカオスエメラルドに、果たして本領を発揮させていいものか、ってね。そこに大いなる力に対する信仰心やら何やらが混ざって、彼らはカオスエメラルドの本当の力を発揮させることが出来なかった……こんなところじゃないかな」

 

 アテネの手に握られたカオスエメラルドが陽の光を反射してきらり、と輝く。

 

「真に恐ろしいのは恐怖ではなく、恐怖に歪ませられた視界だからね」

 

 その言葉がアテネ自身に向けられていると、アンジェラはなんとなく思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祭囃子は鳴り響かない。

 静けさに支配された厳粛な儀式の最後を余所者、しかもヒーロー科の生徒が務めるという前代未聞の事態を、島民たちはわりとすんなり受け容れた。何せ、長老様直々のご指名だ。余所者という点は否定の理由になり得なかった。

 

 ぴーひゃらと、奏でられた横笛の音が静寂を掻き消していく。風に揺られたビャクヤカスミの花弁が、夜の闇へと溶けていく。

 

「……彼らの魂の旅路にどうか祝福があらんことを」

 

 多くの人々が見守る中、白い袴を纏い、2人の子供が吹き鳴らす笛の音に合わせて祭壇の上で用意された台詞を読み上げた異邦人の巫は、トパーズの瞳を細めて月を見上げる。彼女の視線の先には、狐の仮面を被り、その手には青色に煌めくカオスエメラルドを握りしめ、石柱の一つに腰掛けるこの島の長老の姿があった。

 

「……まさか、引き受けてくれるとは思わなかった」

「よく言うぜ、最初からそうするつもりだったくせに」

 

 巫の役目を果たしたアンジェラの声音には、滲むような皮肉が見え隠れしていた。アテネは石柱から降り立ち、包帯まみれの手で祭壇を撫でる。

 

「確かめたかった。キミが本当にあの子じゃないってことを」

「誰が何を言おうが、事実がどうあろうが、オレはオレだ」

「ああ、本当にその通りだった」

 

 金色の髪が夜風に揺れる。鋭いトパーズの眼光に射られたアテネは、慈しむような表情で月を見上げた。

 亡霊達の冥福を祈る厳粛な儀式の空に、満ち満ちた丸い月とそれを飾るように散りばめられた星々が浮かんでいる。

 

「ようやっと……ボクの中のあの子(ネメシス)が死んだ。死んでくれた。縛り付けてあの子が死ぬことを許さなかったボクから……いなくなった」

 

 ずっと道を見失っていた迷子が家路に辿り着けたような晴れやかな声で、その隻眼を夜空のように煌めかせてアテネはそう言った。アンジェラは赤翼をばさり、と揺らすと、ハッ、と鼻を鳴らして皮肉めいた声でアテネを挑発する。

 

「だったら今度は、アンタが死んでみるか?」

「ははは、とても魅力的なお誘いだ。王様の手にかかれるなんて、光栄過ぎて涙が出るね。

 

 ……でも、まだやめておくよ。今はまだ、時じゃない」

 

 不意にアテネが身を乗り出し、包帯まみれの右手をアンジェラの顎に添える。

 

「それまでは……「白夜」の名を授けると共に、君の力になろう」

 

 どういう意味だ、とアンジェラが聞き返すより前に。

 

 

 

 

 

「んむっ」

 

 包帯に包まれた唇が幼子の唇に押し当てられた。

 

「うえっ!?」

「は」

 

 あまりに突然のこと過ぎて、集まっていた者達もアンジェラ自身も全員もれなく固まってしまう。「これが、百合……?」と妙なことをほざいていた峰田は蛙吹が反射的に伸ばした舌に殴られていた。

 

 石化から復活し抵抗しようとしたアンジェラだったが、唇から流れ込んできた魔力を感じて大人しくなる。魔力のかたちを感覚的に掴んだアンジェラは、アテネのこの行動の目的を察したのだ。

 

 ……とはいえ、全く文句がないと言ったら嘘になるわけで。

 

「…………いきなり何すんだ、この耄碌(もうろく)ババア!!」

 

 互いの唇が離れると同時に、顔を真っ赤に染め上げたアンジェラが渾身の右ストレートを放つ。しかし、その時には既にアテネの姿はそこにはなく、紫色に輝く魔力光だけが残されていた。

 

『あっはっは、これは失礼! そのカオスエメラルドは餞別に取っておいてくれ。君なら上手く使えるんだろう? 

 それではボクはここらで御暇させてもらうよ。亡霊達の行く末に花束を手向けなきゃならないからね。 

 

 どうか、終わりゆく君らの旅路に祝福あれ』

 

 何処からともなく響いてきたアテネの声は、今までで一番明るく挑発的で、前向きなものだった。

 

 祭壇の上で顔を真赤にしながら羞恥に全身を震わせるアンジェラの手には、いつの間にか青色のカオスエメラルドが握られていた。先程アテネが持たせたのだろう。

 

「あ、アンジェラちゃ〜ん……」

 

 祭壇の下から麗日が心配そうに顔を覗かせる。アンジェラが怒りと羞恥に染まっていることは誰の目から見ても明らかで。どうしたものかと麗日が思考を巡らせていると、アンジェラが祭壇から降りてきた。

 

「ご、ごめんね、長老様がいきなり……」

「大丈夫……?」

 

 笛を吹いていた真帆と活真がいち早く復活してわなわなと震えるアンジェラの背を擦りながら言う。

 カオスエメラルドを握りしめたアンジェラはぎり、と歯ぎしりして口を開く。

 

「……あんの、ミイラババアッ……いつか宇宙の果てまでぶっ飛ばしてやるッ……!」

 

 それが出来るようになるまで、果たして何百年かかるか分からないが。

 アンジェラは今すぐに、そう叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燦然と輝く光の中に、キミは居た。

 二度と開かないと思っていたこの目は確かに開いた。

 キミの呪縛を継いだ新しい王様は、深淵よりも深いその光に飛び込もうとしている。

 行く末には何も残されていないことなんて、他の誰よりもわかっているはずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……でも、だからだろう。

 解ききれない柵に囚われていると自覚してもなお、

 あんなにも、あんなにも自由でいられるのは。

 

 







というわけで、長らく続いた映画第二弾編もこれにて幕引きです。次章はA組B組対抗戦をお届けします。
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