音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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サバイバル講習

 ある日の放課後の職員室。相澤先生は一人自分のデスクで頭を悩ませていた。

 

 というのも、次の日のA組のヒーロー基礎学は、本来であればランチラッシュを講師とした特別授業だったのだが、そのランチラッシュが急遽呼び出されてしまい、明日は雄英を丸々一日空けることとなってしまったのだ。ならばと他の日にその授業を振り替えよう、と考えた相澤先生だったが、中々丁度いい日が見つからない。

 

 どうしたものか、と相澤先生がキーボードに手を置いた時、彼に話しかける者が居た。紙束を抱えたガジェットだ。

 

「あの、相澤先生。この前のヒーロー基礎学の資料を……どうかしたんですか?」

「ああ、ガジェットか。実は……」

 

 

 

 

 一連の話を相澤先生から聞いたガジェットは、ふと思いついた。

 

「それなら、授業を別日に振り替えなくてもいい策がありますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしも、救助活動中に天気が急変し、むやみやたらに動けなくなってしまったら。

 もしも、その間に食料が尽きてしまったら。

 最後に頼れるのは己の知識と経験のみ。周囲の状況が回復するか、救援が来るまではなんとか生き延びなくてはならない。勿論、救助対象も一緒に。そうならないことが一番なのだが、可能性が零ではない以上、緊急事態に対処するための訓練も必要である。

 

 基本的な事項の多くは普段のレスキュー訓練の時に学ぶことが出来る。今日の授業は、その普段の授業では取り扱わない、しかし、生きるためには非常に重要なもの。

 

 

 

 

「……というわけで、今日のヒーロー基礎学ではサバイバル講習を行います」

 

 体育着姿で校内の森林地帯に集められたA組の面々は思った。

 不安だ、と。

 

 何も、サバイバル講習そのものが不安なわけではない。本来講師を務めるはずだったランチラッシュが急な仕事で雄英を開け、この授業を担当する先生が相澤先生一人になったことが不安なのだ。

 

 相澤先生の食生活を知らぬ者はクラスには居ない。基本ゼリーや携帯糧食で食事の全てを済まし、まともな食事をした所を見た者は、少なくともクラスメイトには居ない。何故かアンジェラが相澤先生の隣でニコニコしているが、それを気にしていられないほどに不安だった。

 

 そんな生徒たちの不安を知ってか知らずか、相澤先生は言った。

 

「えー、アシスタントを紹介します。フーディルハインさんです」

「どーもー、アシスタントというよりもほぼほぼ講師のアンジェラ・フーディルハインでーす。採点以外は全部オレが担当しまーす。アレルギーとかある人は今のうちに申し出てくださーい」

 

 その瞬間、皆の目が点になったのは言うまでもない。

 麗日が代表して皆の疑問を声にする。

 

「アンジェラちゃんが、先生? サバイバル講習の!?」

「そこまで驚くか? 旅好きって言ったことなかったっけ」

「いやそれは知ってるけどさ……料理上手なのも知ってるけど……それとこれとは別の話じゃ……」

「あれ、言ってなかったっけ。

 オレ、一番得意な料理はこーいうサバイバル料理なんだけど」

 

 麗日の目が普段の3割増で丸くなった。アンジェラと友達になってそこそこ経つが、まだまだ彼女のミステリーは計り知れない、と頭の片隅で思う。それこそ、こういう意外な一面もまだまだたくさんあるのかもしれない。

 

「……え、なにそれ、豪快……」

「豪快っつーか、野宿することも多いからなぁ……必要に駆られただけで」

「……ひょっとして、じっくり遺跡眺めてたりしたら時間忘れて夜になってた、とか?」

「Wow,すげーな耳郎、よく分かったな! まさにそんな感じでさ。結局、時間足りなくなって帰る手間も惜しくて……って繰り返してたら、必然的に上達して」

「あー、それならなんか納得かも」

 

 わいのわいのと話が盛り上がる中、相澤先生の咳払いが響く。すると、瞬きの間に皆が静まり返り背筋を正した。相澤先生の教育が行き届いている証である。

 

 アンジェラは「すみませーん」と平謝りすると、ぱん、と手を叩いて口を開いた。

 

「えーと、それじゃあ早速授業に入ります。まず、食べられる野草の見分け方を解説して実際に採ってもらった後、場所を移動して“個性”などを駆使して魚を獲ってもらいます。野草採集と魚獲りは複数人でやってもらっても構いませんが、ちゃんと人数分の食材は確保してください。時間の関係上、この授業は5限までずれ込むことが予想されるので、この授業で作ったものが今日のお昼になります。食材が足りない、なんてことにならないように気を付けてください」

『はーい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 簡単な食べられる野草の見分け方の解説を終えると、皆早速野草採集に乗り出した。配られたプリントに載っている写真を元に、指定された範囲内で野草を探すのだ。基本は地道な作業だが、口田が動物たちに野草の在処を探してもらっていたり、障子が複製腕で地面を注意深く観察していたり、と、自身の“個性”を活かしている者もちらほらと見受けられる。

 

「フーディルハインせんせー、これ食べられますかー?」

「どれどれ……あー、粗方OK。ただ、これはアカサネって言って、ユリサネと見間違えやすいんだけど、食べたら最悪死ぬ」

「えっ、全然違いが分からない……」

「そういう時は茎を割ってみな。こっちがユリサネ、で、こっちがアカサネ」

「あ、本当だ。中身が結構違う」

 

「アン……フーディルハイン先生! 必要数採集終わりました! 確認をお願いします!」

「うん、無理して先生とか呼ばなくていいから。それで……よし、毒物は無いな。けど、この組み合わせだと食べ合わせが悪くなる。ユリサネとタツミソウは分けて料理したほうがいいぜ。ほい、仕分け用のビニール袋」

「おお、ありがとう……ございます!」

「だから無理して敬語とか使わなくていいって」

 

 相澤先生から授業の殆どを一任されるだけあって、アンジェラの知識量は相当なものだった。プリント自体は事前にランチラッシュが作成していたものだが、そこに記載されていない知識も、まるで滑るように彼女の口から出てくる。経験に裏打ちされた彼女の知識と分かりやすい解説に、皆興味深そうに耳を傾け、彼女の指示を守って野草採集を楽しんでいた。

 

 とはいえ、あっさりと指示に従う者ばかり、というわけではないわけで。

 

「けっ、こんな授業やって何になるってんだ」

「はい、爆豪お昼抜き、と……」

「あぁん!? どうしてそーなるんだよ!!」

「オレ最初に言ったよな? この授業、5限までずれ込むって。それともアレか? 爆豪は出来ない、ってことか?」

「んなわけねぇだろ! 簡単だわ!」

 

 敢えて小馬鹿にするような、挑発的な物言いをして爆豪を煽ったアンジェラ。案の定、爆豪は乗せられて、キレ散らかしながらかなりのスピードで野草を採っていった。爆豪から集めた野草を渡され、確認し終えたアンジェラは一つため息をついて一言。

 

「うん、毒草も無いし合わせもいいんだけどさ……お前、そういう挑発にすぐ乗る所なんとかしたほうがいいと思う」

「何だと、コラ!」

 

 周囲に集まっていたクラスメイト達は、声にはせずともうんうんと頷いてアンジェラに同意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 粗方野草採集を終えたアンジェラ達は、校内にある大きめの川にやって来た。訓練のために人工的に作られたこの川は、しかしリアリティをより高めるために、川の中の生態系も再現されている。つまりは、川の中に魚が居る。それも、結構沢山。

 

「えー、次は魚を獲ってもらいます。“個性”の使用は自由ですが、危険行為は減点対象なので気を付けてください。あと、獲り過ぎると後日この授業を行うB組が獲る魚がなくなっちゃうので、計量のために獲った魚は逐一相澤先生の所まで持ってきてください」

 

 アンジェラが事務的な口調で諸注意を説明し終えると、クラスメイト達は早速魚を獲るべく川へと繰り出す。

 

「よし、ここは俺の電撃で……」

「アホ!! 危険行為は減点対象だって言ったばっかだろーが!」

 

 開始早々、川に電撃を放とうとした上鳴の頭を、アンジェラがツッコミを入れながらぺちん、と叩いた。

 

「えー、駄目なのかよ電撃」

「上鳴、電撃を使うなとは言わねぇ。だけどな、パワーは弱めろ。それか遠くに離れろ。お前思いっきり放電しようとしてたろ。川の水は電気を通すんだぞ?」

「はーい」

 

 アンジェラは大丈夫か本当に、と一抹の不安を抱えながら周囲を見渡す。明らかに危ないことをしでかそうとしていたのは上鳴だけで、他の皆は各々の“個性”を活かして罠を作ったり、直接魚を獲ったりしている。例えば、轟は軽い冷気を放出して囲いを作っているし、峰田はもぎもぎを魚にくっつけて捕まえている。八百万に至っては、創造の“個性”で網を作っていた。野草採集の時はぶつくさ言っていた爆豪も、サボったらまたアンジェラに煽られると思ったのかそれなりに真面目に取り組んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして、規定された量まで魚が集まったことを確認した相澤先生がストップをかけた。ちなみに、この時点で時刻は昼休みの直前である。

 

「それでは、採集した野草と魚で料理してもらいます。手順をミスると場合によっては危ないので、しっかり説明を聞いてください」

 

 事前説明を終えたアンジェラは、相澤先生からまな板と包丁を受け取ってその辺にあった平べったい岩の上に置いた。そして、魚を一匹受け取るとまな板の上に置いて絞め、包丁を逆刃に持ち替えて説明を始めた。

 

「まず包丁の刃を入れて、サルマナギ……この魚の肛門に向かって線を入れるように切る。腹が裂けたら、内臓を傷付けないように取る。この内臓は直火にかけて燻製にすると保存食になる。火が通ってないと食中毒になる可能性もあるから気をつけること。

 

 身は食べやすい大きさに切ったら、そうだな……この辺りだと、クオンの葉で包み焼きにするのが手軽でいいな。味付けはハクゲイの実をお好みで。

 

 焼いている間にさっき採った野草を軽く水で濯いで、食べやすい大きさに刻む。ビャクヤカスミの実を加えて和えて……っと、そろそろいいかな」

 

 口を動かしながらも、アンジェラの手はテキパキと淀みなく動く。皆、説明を頭に入れることも忘れて彼女の手腕に見惚れていた。食欲を煽る香りが鼻腔を刺激し、いつの間にやら、誰のものとも知らぬ腹の虫がぐぅ、と鳴った。

 

「……と、こんな感じ……って、お前ら、オレの説明ちゃんと聞いてたか?」

 

 じとぉ、とアンジェラが向ける疑惑の目を、クラスメイト達は否定することが出来なかった。

 

 

 アンジェラ手本を見せ終えると、クラスメイト達は各々準備をし、調理を開始した。当然ながら、料理自体に不慣れなクラスメイトも数多く。アンジェラの仕事には、そういうクラスメイト達に直接料理を教えることも含まれている。勿論、自分だけでテキパキとやってしまう人も中には居るのだが。

 

「アンジェラちゃーん、包丁が上手く入らへんのやけど……」

「ああ、そういう時は持ち方を工夫して……」

 

「フーディルハイン、野菜が上手く切れねぇ」

「いや、全部繋がってるじゃねーか。逆に難しいだろソレ」

 

「フーディルハインせんせー! 峰田がどさくさに紛れてあたしの胸に触ってきましたー!」

「よし、峰田は飯抜き……と」

「横暴だぁ!」

「ん? 今世迷言が聞こえた気がしたけど……

 何 か 言 っ た か ?」

「ナンデモアリマセン」

 

 

 

 ……大なり小なりトラブルはあったものの、概ね恙無く調理は終わった。全員分が完成したのを確認し、飯田の「いただきます」の号令で食べ始める。

 

「おいしい!」

「林間合宿でもそうだったけどさ、なんかキャンプとかで食べる飯っていつもの何倍も美味いよな!」

「確かに! 食材も自分で採ったものだしな!」

「命への感謝……」

 

 皆美味しそうに自分たちで作った昼食を口に運んでいく。アンジェラにとっては馴染み深い状況なのだが、クラスメイト達にとっては新鮮なものなのだろう。

 

 アンジェラにとっても、クラスメイトの先生になるという貴重な経験となったこのサバイバル講習は、どうやら中々の成功を収めたようだ。

 

 

 

 

 

 ちなみに、峰田は本当に昼飯抜きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その次の日。

 日本における人気ヒーロー番付け、ヒーロービルボードチャート.JPの下半期が発表され、引退したオールマイトに代わり、右腕を義手に取り替えたエンデヴァーがナンバー1ヒーローとなった。その数日後、エンデヴァーがナンバー2ヒーロー、ホークスと共に福岡で脳無の上位種と交戦したそうだが、

 

 轟とアンジェラは、自分でも驚くほどに無関心にしかなれなかった。

 

 

 




 Q.現実に存在しない野草や魚の名前が出たけど、バグ?
 A.いいえ、仕様です。


 ちなみに、この回の元ネタはメイドインアビスの食事シーン。アビス飯、美味そうなんだよなぁ。
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