音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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 あなたはどれだけ見過ごしてきたのでしょうか
 その力の持つ素晴らしさを
 憧れを追い求める実直さを




1年の総ざらい

 

 

 厳正なるくじ引きの結果、アンジェラは麗日、芦戸、峰田とA組5番チームを組むことになった。対戦相手は物間、庄田、柳、小大、そして心操である。

 

 物間が心操にうざ絡みしている光景を余所に、麗日はふと思い出したかのように言う。

 

「B組5番……アンジェラちゃんと心操君は、体育祭以来の再戦やね」

「ま、あの時は実質オレは戦ってねーんだけど、な」

 

 アンジェラは薄く笑うと、右の手でそっとソルフェジオに触れた。

 

「体育祭から今日まで、どれだけ仕上げてきたのか……相棒も楽しみにしてるだろうよ。勿論、オレもな」

 

 

 

 

 

 第1試合のメンバーはそれぞれの自陣に向かう。それ以外の者たちは、OZASIKIの大きなモニターで試合を観戦することとなっていた。

 

 と、遅ればせながらOZASIKIにオールマイトとミッドナイトが姿を現す。

 

「あっ、オールマイトとミッドナイトが来た。熱愛?」

「やめて。歳上管轄外」

 

 芦戸のからかいをそう軽くあしらったミッドナイト。オールマイトは単純に考えて50は超えているはずなので、当たり前と言えば当たり前である。

 

 そして、ミッドナイトはとある疑問をオールマイトに投げかけた。

 

「どっちが勝つと思います?」

「どうだろうね……多くのピンチを乗り越えてきたA組は確かに強い。しかし、成績を見ると、実はB組の方が伸びているんだ。トラブルがない分、カリキュラムをきちんと消化しているからだろう。着実に実力を上げている」

 

 確かに、A組のメンバーはアンジェラを筆頭にトラブルに巻き込まれやすい。その弊害は物間のやっかみだけでなく、カリキュラム通りの授業を行えないことがある、という面にも現れていた。

 

 トラブルに巻き込まれるということは、実はヒーローという職業を考えると悪いことばかりではない。不測の事態、しかも判断を誤れば命を落としかねない事態が起きた時、事前にトラブルに巻き込まれていれば、冷静に立ち回れるという利点はある。経験という観点で見れば、トラブルというものはある種貴重なものなのだ。

 

 だが、トラブルというものは彼らの能力を考えて舞い降りてくれるわけでは決してない。トラブルで潰れたカリキュラムは後日取り戻さなければならない以上、実際にカリキュラム通りに訓練できる時間は、なるほど、A組よりもB組の方が多いことになる。

 

 とどのつまりは、一長一短なのである。

 どちらの方がいい、とは、とてもじゃないが言い切れない。

 

「ピンチに力を発揮するA組か、堅実に全体を底上げしているB組か……楽しみだ」

 

 オールマイトがそう言ったとほぼ同時に、A組B組双方のスタンバイが完了したらしい。マイクを持ったブラドキング先生が、どこぞの格闘大会やらスポーツ大会の実況者のようなノリで声を張り上げる。こういうことをやってみたかったのだろうか。

 

「じゃあ、第1試合!」

「ノリノリだな」

「スタート!」

 

 ブラドキング先生の合図と共に、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第1試合。序盤、口田の索敵で発見した塩崎を確保しようと動いたA組+心操チームだったが、宍田と円場がA組陣地を奇襲。口田と心操を円場の空気凝固で一時的に行動不能に陥らせる。切島の活躍で口田は解放されたものの、直後に切島が宍田に投げられ塩崎に捕まり、切島は確保。A組チームも蛙吹が円場を確保するも、B組チームもまた、宍田が口田を確保した。心操は上鳴と蛙吹によって解放されたが、戦力差的には互角、心操のことを考えると若干A組チームが不利か。

 

 

 

「これは、両チーム早くも削り合い! 宍田、円場の荒らしが覿面! 残り人数は同じでも精神的余裕はB組にありか!?」

 

 なお、OZASIKIではブラドキング先生が試合内容を実況している。あまりにもノリノリ過ぎて他の先生方は若干引き気味である。

 

 そして。

 

「我が教え子たちの猛撃が、ついに、A組を打ち砕くのか!?」

 

 ブラドキング先生は、実況は実況でもB組偏向の実況を行っていた。

 これにはA組の一部からクレームが入る。物間が飛び抜けてアレなだけで、B組全体(教師を含む)にA組への対抗意識が存在しているらしい。対抗意識を持つのは別に悪いことではないが、せめて実況は公平にしてほしいものだ、とアンジェラは思った。

 

 

 

 試合の続きだが、先に動きを見せたのはA組チームだった。宍田の嗅覚が敵陣に向かう彼らを捉えたが、宍田は何故か蛙吹が3人居る、と言った。

 

 このカラクリは、USJの時に蛙吹がアンジェラと峰田に教えてくれた彼女の“個性”の一部、弱毒性の粘液によるものである。それを上鳴と心操の身体に塗ることで、2人の匂いを蛙吹の匂いで上書きしたのだ。2人でさえ忘れかけていたものだ。B組に対策できるわけがない、とは峰田の談である。

 

 そして、塩崎の広範囲に及ぶツルに対し、上鳴の身体を張った機転で隙を作って心操が塩崎を洗脳。B組チームのコミュニケーションを分断することに成功。途中、心操の捕縛布を使った一撃が宍田に通りきらなかったものの、直後に蛙吹が捕まえた鱗をぶつけて2人の意識を刈り取り、そのまま塩崎を含めた3人をプリズンへ。この試合はA組の勝利と相成った。

 

 体育祭とは全く違う。自身の憧れに向かって直向きに努力してきた心操の姿に、アンジェラは面白い、と口角を上げた。

 

 

 

 

 

 第1試合の講評の後、第2試合が始まるまでの間、アンジェラはチームメイトの麗日、芦戸、峰田と共に作戦会議に励んでいた。

 

「コンボ作ろー! 必殺っぽいの!」

「第5試合……心操の変声機が厄介だな」

「うんうん。さっきの試合でもB組のコミュニケーションを分断してたもんね」

「ネバネバアシッドプカプカキック!」

「どんな技だよ!?」

「瞬殺遊泳玉!」

「だからどんな技!?」

 

 ……作戦会議というよりも、芦戸の即興技名に峰田がツッコミを入れているだけのように見えるが。アンジェラと麗日は苦笑いだ。

 

 このままでは作戦会議の意味がない、と思ったのか、そういえばさ、と麗日が話を逸らした。

 

「アンジェラちゃんは心操君の洗脳、自力で防いでたよね」

「自力で防いだ、っつーよりも、ソルフェジオに一時的に身体貸して戦ってもらっただけなんだけど」

「じゃーさ、フーディルハインの身体使ったソルフェジオが心操とっ捕まえに行くのが一番手っ取り早いんじゃない?」

 

 芦戸の策も確かにアリ寄りの策ではある、とアンジェラは思った。コミュニケーションを分断さて、てんやわんや、を防ぐためには、心操を真っ先に狙いに行くべき。第1試合を観ていれば誰だってそう思うだろう。実際、アンジェラも心操の優先順位は高い、と見ている。

 

 しかし、そう簡単にいかないのが世の常。

 

「うーん、でもアレも大概初見殺しみたいな所あるぜ? ソルフェジオそのものに洗脳かけられる可能性も捨てきれない。そうなったらおじゃんだ。ソルフェジオに洗脳がかかるかどうかは分からんが」

「確かに……体育祭の時ならともかく、今じゃB組もA組の情報持ってるもんな。そこ不透明な状況でやるにはちょっと不安な作戦だな」

「ぶー、いい案だと思ったのにぃ」

 

 芦戸は不満そうに頬を膨らませる。

 

「まぁまぁ、芦戸の案も間違ってるわけじゃない。

 

 そこでちょっと試したいことがあるんだけどさ……」

 

 アンジェラは3人にだけ聞こえるように小声で「試したいこと」を伝える。

 3人の反応はアンジェラの予想の通り、可能なのか、と言わんばかりの驚愕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 第2試合は常闇、葉隠、八百万、青山のA組チームと、小森、拳藤、黒色、吹出のB組チームの試合。序盤、常闇がダークシャドウを放ち斥候を任せたものの、黒色にダークシャドウを操られてしまう。葉隠の技でダークシャドウの制御を取り戻した常闇だったが、黒色に青山を奪われてしまう。

 

 が、常闇の新技「黒の堕天使」で青山を奪い返し、そのまま青山がネビルビュッフェでステージの影の形を変え、黒色の動きを遮った。そのまま黒色を追い詰めた葉隠と八百万だったが、小森がステージ中に生やしたキノコで足を止められ、吹出が具現化したオノマトペで八百万がチームから分断されてしまった。そんな八百万を捕らえようと、拳藤が力で押し切ろうとする。一方、黒色がまたしても青山を捕らえ、空中から追おうとした常闇も小森のキノコと吹出のオノマトペのコンボで落とされてしまう。そのまま青山はプリズンへ入れられてしまった。

 

 と、拳藤に攻め込まれていた八百万が、大砲を創り何かを打ち上げた。その何かを常闇がキャッチする。それは、「YAOYOROZU'S LUCKY BAG」と書かれた袋だった。中身を確認すると、3本の滅菌スプレーと常闇用のサーモグラフィゴーグル。八百万の言葉なきメッセージを確認した2人は、滅菌スプレーで滅菌処理をして、常闇はB組の本陣へ、葉隠は吹出の方へと攻め込んだ。あわや、このまま押し切れるかと思いきや、気絶した八百万に大砲付きで絡みつかれたままの拳藤が葉隠を倒し、常闇も小森の仕掛けた肺攻めで咳き込んでしまい、そのままゲームセット。この試合はB組の完全勝利となった。

 

 しかし、ステージはかなりの範囲で破損。B組に対する偏向実況をしていたブラドキング先生も、この破壊の主な要因を担った吹出と拳藤には「被害は最小限に」と苦言を呈していた。そして、このままでは試合に使えないとし、次の試合まで移動を兼ねたインターバルを挟むことになった。

 

 

 

「ダッハハハハハ!! 第2試合はB組の完勝だったね! やはり文化祭の時と同じように、最後に勝つのはB組ということさ! でも悔しがることはないよA組、実力差が、はっきりと出ただけのことさ!」

 

 休憩が始まった途端、アンジェラ達の前に物間が現れて高笑いしながらそう語る。いつものやつである。

 

「アッハハハ……ゴボッ」

「ごめんな」

 

 ……物間が拳藤に手刀を入れられて、連れて行かれるまでがワンセットである。これにはあの峰田ですら呆れていた。

 

「相変わらずブレねぇな、アイツ」

「どうせ叩かれるんだからやらなきゃいいのに」

「あはは……」

 

 なお、アンジェラは全く興味なさげにボーっと空を眺めて聞き流していたのだとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リンバス7章で無事死亡しました。
今からシャドジェネやってきます。
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