音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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 君はいつまで気付かなかったのだろう
 その心がどれだけ美しかったのか
 差し伸べられた手が、どれだけ救いになったのか




新技とオペレーション

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼を助けたのは、本当にただの気紛れだった。

 

 その行為が、周囲からどんな目で見られるかも分かっていた。

 両親ですら止めた。彼の“個性”は危ないものだから、と。

 

 

 

 ……誰も、何も分かっていない。

 少なくとも、私の周囲ではそうだった。

 

 彼の持つ“個性”の素晴らしさを。

 彼が抱くヒーローへの憧れを。

 

 

 ……正当に評価してくれる人は、誰一人として居なかった。

 折角の素晴らしい“個性”なのに。これでは“個性”が可哀想だ。

 

 周りが理解しようとしない理由も分からなかった。

 ただ漠然とした「敵っぽい」、「悪者っぽい」という俗に塗れた価値観でしか周囲を見ることが出来ない。

 

 ……そんな人間には、なりたくなかったから。

 私は私のために、彼を庇った。

 私の欲を満たすために、彼に彼自身の“個性”の素晴らしさを説いた。

 

 悪いこと、だなんて思わなかった。

 どんな善行も結局は、「そうしたい」という本人の欲でしかないから。

 どんな人間も欲と完全に切り離すことは出来ないと、幼心に分かっていたから。

 それがどんなに欲を満たすための行動であったからって、顔に出さなきゃ、口にしなきゃ、本人には伝わらないから。

 

 ……ただ、我慢ならなかっただけだ。

 あんなにも素晴らしい彼の“個性”が、彼自身からも嫌われている現状が。

 

 

 

 だって、私は水子だから。

 母親の腹の中に置いてきてしまったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続く第3試合は尾白、轟、障子、飯田のA組チームと、角取、骨抜、回原、鉄哲のB組チームの試合。第2試合の講評で被害は最小限に、と言われたばかりなのに、冒頭から鉄哲が自陣前を更地にしようと暴れまわる。傍目から見ても、何も考えていないと自分から言っているような動きである。これにはブラドキング先生も呆れ返っていた。そして案の定A組チームに位置を知られ、轟の氷結でB組チームは固められてしまった。これまでのような視界を遮る氷塊ではなく、周囲の状況を把握出来るように改良された氷結だった。

 

 しかし、鉄哲の独断専行に柔軟に対応してみせた骨抜の機転により、柔らかくされた地形に足を取られるA組チーム。回原が尾白を引きつけ、飯田は骨抜が見張る中で沈められ、固められていく。角取の飛ばした角で障子が追いやられ、同時に鉄哲が氷の向こうから轟に拳を向ける。

 

 その時、轟は咄嗟に右手を声の方に向けた。モニターの向こうのアンジェラたちは、またしても氷結でなんとかするつもりなのか、と思ったが。

 

 ガキンっ! 

 

 響いたのは、まるで金属同士がぶつかるかのような鈍い音。

 鉄哲は驚きとともに着地する。

 観覧席の皆も驚いていた。

 

「……冷落氷槍!」

 

 轟の手には、氷で形作られた精巧な槍が握られていたのだ。

 

 

 

「おお、新技だ! 氷の槍!」

「なるほど……“個性”ゆえのステゴロの弱さを武器で補ったか。“個性”で作った槍だし、下手に近接用のサポートアイテムを増やすよりもずっといい」

 

 

 

 鉄哲は轟に拳を撃ち込む。轟は氷の槍で拳を受け止める。どの角度に力を入れさせればいいのかも計算づくなのか、その槍は氷とは思えない耐久性を見せる。壊されてもまたすぐに槍を作り出し、鉄の拳を受ける。周囲に仲間も居る以上、大規模な攻撃は出来なかった。

 

 

 

「うーん」

「どうしたの、アンジェラちゃん」

 

 一方OZASIKIにて。アンジェラは何やら考え込むような素振りを見せていた。麗日はその態度が気になって聞いてみる。

 

「いや、大したことじゃないんだけどさ……なんで轟のやつ、氷で武器作るにしてもわざわざ槍にしたんだろう……って。ほら、氷で作るならもっと簡単な武器も……」

 

 そこまで口にして、アンジェラは麗日からジト目を向けられていることに気がついた。そんな視線を向けられる覚えがないアンジェラに、麗日は一つため息をついて言う。

 

「……アンジェラちゃん、まさか、気付いてないの?」

「What? どういう……」

「……あのね、このクラスで槍なんて使うの、アンジェラちゃんだけだったでしょ。那歩島の時とか、凄かったじゃん」

「え、もしかしてアレに影響されて……?」

 

 アンジェラは信じられないものを見るような目を麗日に向けた。麗日は更に呆れ返る。那歩島でアンジェラが見せた槍術は、幻想的で凍りつくような舞だった。状況が状況だったからなのかもしれないが、今でも鮮明に思い出せる。

 

「アレ、正直テキトーに振り回してただけなんだけど……」

「嘘でしょアンジェラちゃん」

「マジもマジ、大マジだって。槍の使い方なんて学んだことないし」

 

 そっかー、アレに影響されたのかー、とアンジェラはどこか他人事のように呟いた。そのわざとなんじゃないか、というくらいの態度に、麗日は苦笑いした。

 

 

 

(……アンジェラちゃんは、轟君に気があるわけじゃない……それは確かなんだろうけど………………

 

 

 

 

 

 

 ……なんで私、こんなにホッとしとるんやろ。

 胸のざわざわは止まらないのに)

 

 

 

 

 

 

 

 さて、試合は骨抜に動きを封じられていた飯田の新技、レシプロターボで戦況が動いた。本人にも制御不可能なほどに加速した飯田は、縦横無尽に駆け回って骨抜を追い詰める。が、骨抜を捕まえることは出来ずに逃がしてしまった。

 

 丁度その頃、尾白が回原に追い詰められていた。蓄積されたダメージで回避をミスし、落下していく尾白にとどめを刺そうとした回原だったが、超速で駆けつけた飯田に捕まり、そのままプリズンに入れられてしまった。

 

 轟と鉄哲による氷の槍と鉄の拳の鍔迫り合いが続く。しかし、いくら何度でも槍を即座に作れるからと言っても、流石に近接戦闘に慣れていない轟に不利が傾いてきた。そして、とうとう氷の槍の生成が追いつかず、鉄哲の拳が轟に届いた。咄嗟に轟は炎を放つも、鉄哲の鋼の肉体にただの炎は大したダメージにはならず、そのまま追い詰められる……

 

 

 かに思われたが。

 

「灼炎……煉槍!」

「うおあちっ!?」

 

 轟は右手に収束させた灼熱の槍を振るった。先ほどの炎よりも温度が高いのか、鉄哲の身体がよろけた。そのまま拳と灼熱の槍をぶつけ合う2人。しかし、轟も限界以上の熱を込めているらしく、両者共に疲労の色が濃く見えた。

 

 丁度その頃、障子が角取を追い詰めていた。一度は尾白と共に確保寸前まで行くも、骨抜の乱入により角取の拘束が緩み、混戦状態に。再度尾白が角取を確保するも、角取が飛ばしていた四本の角で牢屋に押し入れられてしまい、そのままリタイア。限界まで続いた轟と鉄哲の戦いも、骨抜の乱入による轟の気絶で幕を閉じ、一時は飯田が轟を保護するも、骨抜と鉄哲の合わせ技で飯田もダウン。直後、骨抜と鉄哲も意識を失い、最後は角取が角を使ってチームメイトと轟ごと上空に逃げ、タイムアップ。試合は引き分けで終わった。

 

 

 

 

 続く第4試合。砂藤、瀬呂、耳郎、爆豪のA組チームと、鎌切、取蔭、泡瀬、凡戸のB組チームの試合。序盤から取蔭の策略で耳郎の索敵を逆手に取られ、凡戸の放った接着剤で爆豪以外のメンバーが瀬呂が張った罠の中に閉じ込められる。そのまま鎌切が切り落とした瓦礫がA組チームを襲うも、爆豪の爆破が接着剤やテープごと瓦礫を吹き飛ばした。

 

 再度、耳郎が索敵を行い、爆豪、瀬呂、砂藤が敵の方へと向かう。途中、泡瀬に爆豪が柱の間にくっつけられるも、砂藤の力技で爆豪を解放。泡瀬を追い詰め、途中で爆豪が耳郎と瀬呂に泡瀬の相手を任せ、2人が泡瀬を確保。爆豪は凡戸に迫り、ある程度までダメージを与えると、近くに潜んでいた砂藤が凡戸を確保。そのままの勢いで、爆豪と瀬呂の連携で鎌切をダウン。そして、瀬呂が爆豪から渡された爆弾を取蔭の本体に戻ろうとしている身体の一部に引っ付け、爆破。取蔭がなんとかその爆発を躱せた、かと思えば、直後に爆豪の爆破にやられ、確保。

 

 わずか5分足らずのパーフェクトゲーム。A君チーム、文句なしの完全勝利である。

 

 

 

 

 

「物間……ごめんな。一勝二敗一分で、もうB組勝てなくなっちゃった」

 

 第4試合の講評が終わった後、取蔭は意気消沈しながら物間に謝る。

 

「何を謝るんだい取蔭、未熟だった同胞が省みて成長している。いいことさ。確かに、B組の勝利は消えたが、まだ負けてない」

 

 そんな取蔭に、物間は励ましの言葉をかける。

 A組への過激な発言が際立つ物間だが、なんだかんだB組のクラスメイト達からは一目置かれているのだろう。それも、拳藤というストッパーあってのことだろうが。

 

「僕はね、分かってほしいだけさ。何のトラブルも起こさない真面目な者と、悪目立ちして不相応な注目を浴びる者、どちらが正しいのか」

 

 仰々しい仕草で語る物間。

 彼の中でA組は、「未熟ゆえにトラブルを起こし不相応な注目を浴びる者」という位置づけなのだろう。

 

「誰もが他人の人生の脇役であり……

 

 

 ……自分の人生の主役なんだ!」

 

 そんな物間の暴走にも、B組の面々はもう慣れたもの。全てをスルーして作戦会議に入った。

 

 

 

 …………物間が大声で放った言葉を、アンジェラが聞いていた、なんて、知る由もなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第5試合。今日の授業の最終試合。

 A組チームB組チームが両自陣にスタンバイした頃。試合前最後の会議の時間である。

 

「取り敢えず、心操狙いでいいんだよな? なんか不安なってきた……洗脳されたくねぇよ〜……」

「あんまそこだけに囚われんようにね。向こうは姿見せんでも、どっから来るか分かんない攻撃が揃っとるもん。私らは……」

 

「浮かす!」

「溶かす!」

「くっつける!」

 

 3人の“個性”は近距離〜中距離戦向きのもの。B組チームの“個性”と比べると、明らかに不利である。

 

「やっぱりここは、アンジェラちゃんの策でいこうか。相手の意表突く意味でも。そんで、その間にウチらが罠を用意して嵌める!」

「向こうは十中八九フーディルハインが初手で敵陣に向かう、って思ってるはずだしな。オイラだって向こうの立場だったらそう思う!」

「フーディルハインが洗脳されたら一巻の終わり……うん、囮としても十分じゃない?」

「いやー、実は不安要素がないわけじゃないんだけど……」

 

 肩にケテルを乗せたアンジェラは困ったように笑う。彼女の手には、待機状態のソルフェジオが握られていた。

 

「おいおい、フーディルハイン、お前()が頼りなんだぜ!?」

「とはいっても、実戦稼働は初めてだし。テスト稼働はしたけど、万が一を考えてコアユニットごと移すから、オレはあんまし派手な技が使えなくなるし」

「でもさ、こんなゴチャついたとこでアンジェラちゃんの派手な技は使ったら逆に危ないよね。それに、その派手な技を抜きにしてもアンジェラちゃんは十分過ぎるほど強いし!」

「ま、単純な防壁や射撃なんかは使えるし、頼りにしてくれていいぜ?」

「本当、頼りにしてるぜフーディルハイン……」

 

 アンジェラはチームメイト達に任せろ、言わんばかりのサムズアップと笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

「……ほんとはオレが単騎で敵陣に乗り込んでいってもいいんだけど」

「「「流石に授業にならないからダメ!! 今度にして!」」」

「ですよね」

 

 

 

 

 

 

 




※しれっと追加された轟君の新技です。
「冷落氷槍」
右手から氷でできた槍を生成する。普通に武器として使える他、衝撃を受ける角度を計算すれば、氷とは思えないほどの耐久性を見せる。
「灼炎煉槍」
収束させた炎の槍を生成する。流石に赫灼熱拳よりも温度はいくらか低くなるが、継戦能力と取り回しやすさはこちらの方が上。

どちらもアンジェラさんの槍さばきに影響を受けて作られた技。林間合宿の後から練習はしていたみたいだけど、この対抗戦でようやくお披露目出来るレベルに仕上がったらしいよ。
なお、肝心のアンジェラさんは槍を使う時はテキトーに振り回しているだけの模様。
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