実技試験後、雄英高校の教師陣は今しがた出た試験の結果について話し合っていた。
「本当、今年は豊作じゃない?」
とは、ある教師談だ。教師達が今見ているのは、実技試験2位の少年の結果だ。
「救助ポイント0で2位とはねぇ……」
「仮想敵は標的を補足して近寄ってくる。後半ほかが鈍っていく中、派手な“個性”で寄せ付け迎撃し続けた。タフネスの賜物だ」
「そして、それすらも上回る敵ポイントを出し、更に救助ポイントも最高点を出して歴代最高点を叩き出した一位の彼女」
教師達の目は、アンジェラの資料に向けられる。
教師達は、比較的優秀な子が多い今年の受験生の中でも、アンジェラは飛び抜けて優秀
序盤から見せた圧倒的な機動力、どこに居る敵をも捕捉する情報力、0ポイントの仮想敵を見ても全く動じない判断力、そして、その凄まじい戦闘力……。
“個性”にしたってそうだ。攻撃、索敵、移動、更には回復までこなせる万能すぎる“個性”。そして、それを自在に使いこなす発想力。
あらゆる面において、アンジェラは飛び抜けすぎている。そう、飛び抜けすぎているのだ。子供はおろか、並のプロヒーローと比べても。
「……それでも、彼女は立派なヒーローの卵だと、僕は思うけどね」
そう言ったのは、雄英高校の校長、根津。人間以上の知能という“個性”が発現した、動物である。
彼が示したのは、女子を救うために0ポイント仮想敵に立ち向かったアンジェラの姿。そこに、ヒーローの大前提である、自己犠牲、滅私奉公の精神が垣間見えた、と語る。
「彼女はいつか、すごいヒーローになるだろう。それまで彼女を教えるのが、我々の務めさ。彼女だけに言えることではないけどね」
教師達はその言葉に頷き、他の受験生のデータに目を向けた。
「……というわけで、無事に合格をもぎ取ってきた」
『やりすぎたの間違いだろ』
「……おっしゃるとおりで」
雄英高校から入学通知が来たその日。アンジェラはパソコンを使ってラフリオンの自宅に居るソニックとテレビ電話をしていた。アンジェラはこうやって定期的にソニック達とテレビ電話をしている。
このパソコン、テイルスとアンジェラの悪ふざけにより、ノートパソコンほどのサイズと重量でありながら、最高級パソコン以上のスペックを誇るオーバースペックパソコンである。魔法技術も所々使われているので、ソルフェジオや魔法機械との連携も可能である。閑話休題。
画面の向こうのソニックは呆れたようにため息をついた。やりすぎたのは事実で悪いのはアンジェラなので、肯定しか返すことができない。
……しかし、試験のことを思い出すとなんだか煮えるような気分になってくる。それは、何かに対する苛つきとかではないものの、なんだか、「足りない」。
アンジェラは手に持っていたペットボトル入りのコーラを思いっきり飲み干した。
「……っはぁ。なんかさぁ、こう、モヤモヤするというか、足りない、というか……」
『そりゃアレだ。お前、消化不良なんだろ』
「消化不良……?」
『実技試験で出てきたのはロボットなんだろ? それが予想以上に弱くて、お前の心が普段と比べてなんだか足りない、って思っちまってんだ』
なるほど。アンジェラはストン、と納得した。確かに、エッグマンとの小競り合いで出てくるロボットはもう少しタフだった。アンジェラが少し身構える程度には。それに慣れてしまった弊害だろう。アンジェラは眉をひそめながらコーラのペットボトルをもう一本開けた。
「……いつの間にか自分が戦闘狂になっていってるのには、危機感を抱いた方がいいのかねぇ」
『戦闘狂っつーか、それは比較対象が悪いだけだろ』
「あー……」
他愛のない話は盛り上がる。アンジェラは自身の口角が上がるのを感じていた。
「でも、まぁ、それなりに楽しみではあるな」
『そっか。なら一先ずは安心だな』
「一先ずって……。オレは大丈夫だって」
『アンジェラの言う大丈夫ほど当てにならない大丈夫も珍しいと思うぜ』
「……ほっとけ」
ソニックは普段は結構放任主義のくせして、こういうときはやけに過保護になる。それが多少うっとおしく思うことはあれど、煩わしく思うことはない。寧ろ、心の奥底では、歓喜しているかもしれない。
アンジェラは段々とむず痒くなって、逃げるように机の上に置いてあったコーラを飲み干した。
雄英高校入学式当日。
アンジェラは真新しい雄英高校の制服に身を包み、身支度を整えていた。
雄英高校には制服の着用以外に衣服に関する規定はない。あまりにも突飛すぎる格好は注意を受けることもあるようだが、逆に言えば、最低限のライン……常識さえ守っていれば、靴下や鞄は好きなものを持っていって構わないし、なんなら染髪や装飾品の着用なども自由である。流石、自由な校風を売り文句にしているだけのことはある。
両手足にリミッターを、左手中指に指輪型の演算装置、首には黒のチョーカーを身に着け、髪をリボンでポニーテールにし、ソルフェジオを首からかけ、黒いテリーヌバッグを手に取る。このテリーヌバッグの中にはウエストバッグと同じ空間が広がっており、ウエストバッグに入れたものを取り出すことが出来る。その逆もまた然り。
「おし、オッケー。ケテル〜! そろそろ行くぞ〜!」
《はーい!》
元気よく返事をしたケテルがテリーヌバッグの中に入ったことを確認し、アンジェラは玄関の扉に手をかけた。
雄英が広いことは、パンフレットの情報や入試時に見た様子から知っていた。なにせ一学年11クラス、全学年合わせて33クラスのマンモス校だ。当然、校舎自体もかなり広い。
アンジェラはあまりの広さに道に迷いそうになりながらも、なんとか時間前に自分の教室の扉の前にたどり着くことができた。バリアフリーだからだろうか。かなり大きい扉に、縦長に「1-A」と描かれている。
アンジェラが扉を開けると……
「机に足をかけるな!」
「あぁ?」
……すぐに閉めたくなった。
入試の時に会った真面目バカ君と、不良っぽい金髪の生徒が言い争いをしていたのだ。聞いた感じ、真面目バカ君の論点は多少ズレているし、不良っぽい金髪の生徒は売り言葉に買い言葉と言わんばかりに煽りまくっている。本当にヒーロー志望か、という真面目バカ君の疑問に、アンジェラは全力で同意したくなった。
と、言い争いをしていた真面目バカ君がこちらに気付いて近付いてきた。独特な体の動きをするやつだなぁ、とアンジェラは思った。
「おはよう! 俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ!」
「Good morning。オレはアンジェラ。アンジェラ・フーディルハインだ。ま、聞いての通りの留学生さ。ファミリーネームは長いから、気安くファーストネームで呼んでくれよ」
「うむ、アンジェラ君だな! すまない、僕は最初、試験会場で会ったとき君のことを誤解していた……」
「What?」
「君はあの実技試験の構造に気付いていたんだな。俺は気付けなかった……。君を見誤っていたよ。悔しいが、君の方が上手だったようだ」
感心しているところ悪いけど、オレも気付いてはなかったわ。
アンジェラは一応その言葉を口にしたが、真面目バカ君もとい飯田の耳に入っているかどうかはわからなかった。
「あ! 入試の時の女神様!」
背後からした声に振り返ると、そこにはアンジェラが入試の時に助けた少女が立っていた。少女は興奮気味に話しかけてくる。
「やっぱり合格してたんだ! そりゃそうだよね、あのビーム凄かったもん!」
「そういうそっちも合格してたんだな。……ってか、女神様はやめてくれ。ガラじゃない」
「あ、そうなんだ。えっと……」
「アンジェラだ。アンジェラ・フーディルハイン。留学生だよ」
「アンジェラちゃんだね。私は麗日お茶子。よろしくね!」
アンジェラは、入試で好印象を持った相手が同じクラスで良かったと思っていた。いくらコミュ力が高いアンジェラでも、異国の地での学校生活となると流石に色々と勝手が違ってくる。クラスメートとは一日の半分以上を共に過ごすのだ。アンジェラは日本の簡単な礼儀作法は知っていても、日本のヒーロー事情に詳しいわけでも、日本で流行りのものをよく知っている訳でもない。会話について行けない可能性もあるわけで。
そんなアンジェラにとって、麗日の存在は非常に助かるものになる。最初から話しやすい相手が居れば、日本のことについても色々と聞きやすい。ヒーロー科に留学生だからといって変な目を向けてくるような人間は居ないだろうが、気持ち的にも少し安心するものがあった。
「留学生かぁ……何処から来たの?」
「欧州のラフリオンだ」
「ラフリオンって、チャオが居るあの?」
「多分その認識で合ってると思うぜ。チャオガーデンのことを言ってるんだろ?」
「そうそう! 前にテレビでチャオガーデンの特集をやってて、そこのチャオがすっごく可愛くて!」
「実物はもっと可愛いぞ〜」
そのまま二人はチャオの話題で盛り上がっていたが、
「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」
廊下側から気怠げな声がした。そこには、黄色い芋虫……ではなく、寝袋に入ったくたびれた男性が寝そべっていた。飯田と麗日がなんかいる、と言いたげに絶句する中、アンジェラはバッグからスマホを取り出してつい、と言わんばかりに呟く。
「……通報したほうがいいかな」
「やめろ」
流石に通報されては困ると思ったのか、男性は起き上がり寝袋から出てきた。全身黒ずくめに包帯のようなものを首に巻いた、その格好もくたびれている。
この人恐らく雄英の先生、つまりはプロヒーローなのだろうが、その格好はとてもプロヒーローはおろか先生にも見えなかった。
「ハイ、静かになるまでに8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」
どうやらこの人は時間にうるさい……というよりは、合理主義者のようだ。それも、結構な。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
まさかの担任だった。これにはアンジェラ達はおろかクラスのほぼ全員が驚愕の表情を浮かべている。相澤先生は気怠げな声色のまま、寝袋の中から何かを取り出した。
「早速だが、これ着てグラウンドに出ろ」
それは雄英高校の体操服だった。相澤先生が取り出したものは見本らしく、各生徒のものは教室後ろにあるロッカーの中に入っているそうだ。ちなみにこれは完全な余談だが、相澤先生が取り出したものは相澤先生が学生時代に使っていたものとのことだ。
「……一瞬、寝袋の中に全員分入ってるのかと思った」
「そんなに入らない」
アンジェラがつい思ったことを口にすると、相澤先生御本人から否定の言葉が返ってきた。
それはともかく、相澤先生に急かされたアンジェラは何か嫌な予感をひしひしと感じながら、体操服を持って更衣室に向かった。
嫌な予感っていうのは、こうも当たりやすいものなのかね。
アンジェラはつい、空を見上げてそんなことを思った。
「揃ったな。これから“個性”把握テストを行う」
『“個性”把握テスト〜!?』
相澤先生の言葉に、クラスの心が一つになる。
え? 初日からテスト!? と。
「入学式は!? ガイダンスは!?」
「ヒーローになるんなら、そんな悠長な行事、出てる時間ないよ」
「いや、ガイダンスはいるだろ」
アンジェラはつい、素でツッコんでしまった。
そんなツッコミもなんのその。自分のペースを崩さない相澤先生は言葉を続ける。
「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」
いや、確かにパンフレットにそう書いてあったが、流石に入学式をバックれてまでテストをするとは思っていなかった。予想の斜め上をかっ飛んでいく雄英の自由さに、流石のアンジェラも驚きを隠せない。
「お前達……フーディルハイン以外はやってるだろ。“個性”使用禁止の体力テスト」
「……?」
体力テスト、という聞き慣れない単語に、アンジェラが首を傾げる。どうやら、日本特有のものらしい。そんなアンジェラを見かねて、相澤先生が説明してくれた。
ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、1000メートル走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。これら8つの種目の結果を測定し、それぞれの結果ごとに設定された点数から、自分の身体能力がどれくらいなのかを測るものらしい。
「……それ、今の超人社会でやって意味あんのか?」
アンジェラは純粋にそう疑問に思った。相澤先生も同じ意見なのか、首を縦に振っている。
「そうだな。フーディルハインの言うとおりだ。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。ま、文部科学省の怠慢だな。
実技入試成績の次席は爆豪だったな。中学の時ソフトボール投げ、何メートルだった?」
「67メートル」
「じゃあ、“個性”使ってやってみろ」
相澤先生に呼ばれたのは、朝飯田と言い争っていた金髪の不良っぽい生徒だった。相澤先生は彼にソフトボールを手渡す。
「円から出なきゃ何してもいいよ。早よ。思いっきりな」
爆豪は軽くストレッチをすると、腕を大きく振りかぶって手のひらから爆風を出した。
「死ねえー!!」
「……Why?」
ボールという無生物に死ねとはこれいかに。
そんなことはさておき、爆風を乗せられたボールは天高く舞い上がり、遥か彼方へ飛んでいった。彼は口はともかく、能力は優秀なようだ。
「まず、自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
相澤先生はそう言いながらスマホに転送された爆豪のソフトボール投げの結果を皆に見せる。その結果は、705.2メートル。“個性”ありきとはいえ、普通の感性から言えばかなりの記録だ。アンジェラは素の力だけでソフトボールよりも遙かに重い車を1キロ近く投げ飛ばす
「なにこれ、
「“個性”思いっきり使えるなんて、流石ヒーロー科!」
クラスメート達は口々に興奮を語るが、その中の発言が相澤先生の琴線に触れてしまったようで、相澤先生の雰囲気がガラリと変わる。
「面白そう、か……ヒーローになるための3年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?
……よし、8種目トータル成績最下位のやつは見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
『はああああああああ!?』
突然の除籍宣言に全員が大きな声を上げる。アンジェラは嫌な予感の正体はこれだったか、とこめかみに手を当てた。
「生徒の如何は俺達の自由。
ようこそ。これが雄英高校ヒーロー科だ!」
不敵な笑みと声で髪をかき上げる相澤先生。当然、理不尽だという不満の声が続出するが、相澤先生はそれらも全て一蹴した。
「自然災害、大事故、そして身勝手な敵達……日本は理不尽にまみれている。そういうピンチを覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったのならお生憎。これから三年間雄英は君たちに全力で苦難を与え続ける。更に向こうへ、Puls ultraさ。
……全力で乗り越えてこい!」
この言葉に、アンジェラは相澤先生が本当に
「さて、デモンストレーションは終わり。ここからが本番だ」
本来は各種目出席番号順で行うのだが、体力テストそのものをやったことがないアンジェラは立ち幅跳びと反復横跳び、ソフトボール投げは最後に回された。これらは普通のやり方にもコツがあるため、他の人のやり方や結果を見て少しでも対策をしろ、ということらしい。聞いたところによると、留学生には毎回この処置を取っているそうだ。
第一種目、50メートル走。
これは普通に走るだけなのでアンジェラも普通に出席番号順で走る。一緒に走るのは爆豪だ。二人共クラウチングスタートの姿勢を取る。
魔法による身体強化は必要ない。
というか、使ったら十中八九事故る。
スタートの合図が鳴ると共に、空色の弾丸がコースを突き抜けた。
「0秒14!」
「あれ、意外と計測されるもんだな」
爆豪に向かう風圧を抑えるためにブーストも使わずに少し控えめに走ったつもりではあった。
しかし、アンジェラはもう少し速く走っているもんだと思っていた。計測される速度など、全然
「ぜ、0秒!?」
「まさか、俺よりも速いとは……!」
「蒼い光が突き抜けたかのように見えた……」
「加速系の“個性”かしら?」
クラスメートは口々にアンジェラの“個性”について議論しているが、アンジェラは“個性”……魔法を一切使っていない。素でこれくらいの速さである。
「…………」
爆破の“個性”を活用して4秒台でゴールした爆豪は、悔しげにアンジェラを睨みつけていた。
第二種目、握力
魔法で手に身体強化を施し、握る。ものすごくシンプルだが、それ故に効果的な方法。
結果は960キロ。ゴリラだとか馬鹿力だとか言われたが、それは身体強化魔法を使っていたからである。ちなみにこっそりと測った素の握力は65キロ。魔法がなくても十分凄い記録だが、アンジェラの比較対象がナックルズであったため、全然凄いとは思えなかった。ナックルズなら多分すぐに握力計を壊す。
「あの絶世の美女の細腕のどこにそんな力があるんだよ……」
「人は見かけによらないんだな……」
第三種目、立ち幅跳び。
他の人が跳ぶのを見て、これがどんな種目なのかをなんとなく理解したところでアンジェラの番になった。
つまり、これは
……既にこの考えがおかしいとは言ってはいけない。
やることはこれまた単純。飛行魔法で飛ぶ。以上。
アンジェラは飛行魔法が苦手とはいえ、狭いところでスピードを出したらほぼ100%事故るだけで、宙に浮かぶ分には何ら問題はない。
うっかりスピードを出しすぎて事故らないように細心の注意を払って飛んでいると、相澤先生から声がかかった。
「フーディルハイン、いつまで飛べる?」
「多分半日以上は飛べるんじゃないんですかね。スピード出し過ぎたら事故りますけど」
「……無限扱いにしてやるから降りてこい」
なんか無限扱いになった。
第四種目、反復横跳び。
これも他の人がやるのを見て、アンジェラはなんとなく察した。
普通にやりゃいいや、と。
アンジェラは体力お化けなので、並大抵のことでは疲れない。その証拠に、マッハで反復横跳びをして、息一つ乱していない。計測を買って出てくれた麗日はおろか、相澤先生ですら目で捉えられなかったので、測定不能扱いになった。
「速いなぁ……」
「身体強化系の“個性”なのかな」
「でも先程は空を飛んでいましたわね」
「本当、どんな“個性”なんだろう?」
アンジェラの活躍を見て、クラスメート達は口々にそんなことを言っていた。
第五種目、ボール投げ。
アンジェラは全力のボール投げとかはしたことがないため、取り敢えず一回目は普通に身体強化魔法を使って投げる。記録は705.3メートル。
「これならアレ使ったほうがいいな……」
そして二回目。アンジェラはソルフェジオを手に取り、バズーカ砲に変形させる。これにはクラスメートはおろか、相澤先生も驚愕の表情を浮かべる。
「はぁ!? バズーカぁ!?」
「超パワーに超スピードに飛行……さらには武器まで出せるって、どんな“個性”だよ!?」
周囲の驚愕をよそに、アンジェラはバズーカの中にソフトボールを入れ、空に向かって構える。足元に魔法陣が、バズーカの発射口に環状魔法陣が現れた。
「……
コマンドワードと共に引き金を引く。バズーカから空色の砲撃が発射され、ソフトボールと共に天高く打ち上がった。
攻撃魔法には、大きく分けて3つの種類が存在する。
そのうち一つは
もう一つが今回使った
最後の一つは属性魔法。物理ダメージ魔法や魔力ダメージ魔法は純粋な魔力のみで構成された魔法だが、属性魔法は魔力を別のエネルギーなどに変換し放つ魔法である。感覚的には物理ダメージ魔法に近いが、変換というプロセスを踏む必要がある。
アンジェラは今回、魔力ダメージ魔法である
「……もうちょっとで2000いったな」
『改良の余地ありですね』
「そうだな…………ん?」
ソルフェジオを元のペンダント型に戻して皆のところ移動しながらソルフェジオと会話をしていたアンジェラだったが、周囲の空気が死んでいるのを見て、ただただ首を傾げていた。
第六種目、上体起こし。
身体強化魔法を使い、風切り音がするほど速く上体起こしをする。また計測が出来なかったので測定不能扱いを受けた。ちなみに、アンジェラは息一つ乱していない。
「アンジェラちゃん、体力凄いねぇ……」
「伊達に走ってねぇからな」
それは理由になるのだろうかと、麗日は5秒くらい思った。
第七種目、長座体前屈。
これに関しては普通にやった。これでどうやって魔法を使えと言うんだ。しかもアンジェラは身長が低い。
ただし、アンジェラは新体操選手並に身体が軟らかいので、身長というハンデがありつつも平均以上の記録は出た。
第八種目、1000メートル走。
魔法も使わずに普通に走って一位をぶっちぎった。その記録、およそ10秒。風圧などで周囲に迷惑をかけないように最大限配慮してこれである。当然のごとく、アンジェラは息一つ乱していない。
そして全ての種目が終了し、全員が集合したところで結果が一括開示された。結果は単純に各種目の評定を合算した数とのことだ。
総合一位はアンジェラだった。長座体前屈こそ平均より少し上程度の記録だったが、他で超人的記録を連発したためだろう。
「ちなみに除籍は嘘な。君らの力を最大限引き出す合理的虚偽」
その言葉に、最下位だった峰田というテイルスと若干声が似ている背の小さな少年はほっと胸をなでおろしたとか。
下校時。アンジェラは麗日と飯田に誘われて、一緒に駅まで行くことになった。
「しっかしアンジェラちゃん凄かったねぇ」
「そうか?」
「そうだとも! 俺は足には自身があったのだが、君には完敗だった。普段どんなトレーニングをしているんだい?」
そんなことを言われても困る。アンジェラの速力は、ソニック達と日常の中でいつの間にか手に入れていたものなので、説明のしようがない。
「うーん……真っ直ぐ前だけを見つめる、とか?」
「なるほど……! それを常に意識するのか!」
「あー、うん。多分そうだと思う」
適当に返した答えに飯田が一人納得しているのを見て、まあいいか、とアンジェラは思った。
と、アンジェラのバッグのチャックがひとりでに開いた。飯田と麗日は驚いていたが、アンジェラは驚いた様子もなく、バッグを開いた。中からケテルが勢いよく飛び出し、大きく伸びをする。どうやら、今までずっと寝ていたようだ。
《ふぁぁぁぁ……よく寝た〜》
「ケテル、お前寝過ぎな」
「あ、アンジェラ君、この生き物はなんだい?」
「あ〜、そういや学校じゃ姿見せてなかったな。一応入試のときも一緒に居たんだが」
アンジェラの言葉に、麗日は入試のときのことを思い出した。あの直後はアンジェラが女神様みたいだった、みたいなことしか覚えていなかったが、よくよく思い出してみると、あの日、アンジェラの傍にはふよふよと漂う金色の生き物が居たような……
「紹介するよ。こいつはケテル。オレん家の同居人だ」
「ケテル……ちゃん?」
「アンジェラ君の、ペットかい?」
「ペット」という言葉が気に食わなかったのか、ケテルは飯田に向かってタックルした。全然痛くはないが、そのしかめっ面からケテルが怒っているのがわかる。
「あー、ケテルはペットって言われるの嫌いなんだよ。そもそもペットじゃないし」
「そ、そうか……すまない、ケテル君」
《むぅ……もう言わないでね》
「……?」
ケテルは一応許してはいるのだが、ウィスプの言葉は普通の人間には分からない。しかめっ面のままなことも相まって、飯田はそこまで嫌だったのだろうか、と思っていた。アンジェラは彼をフォローすべく口を開く。
「飯田、ケテルはもう言うなよ、って言ってんだよ」
「そ、そうか……」
「それにしても可愛いねぇ」
いつの間にか、ケテルは麗日に撫でてもらっていた。麗日の撫で方が的確なのか、ケテルはふにゃふにゃな表情を浮かべている。こういうところはまだ幼い。
「さっきの答え合わせな。ケテルはオレの“個性”の一部だよ」
当然、これは嘘っぱちである。魔法にまつわるカラーパワーを持つケテルをアンジェラの“個性”の一部とすることで、ケテルがカラーパワーを使っても、少なくともウィスプの存在が殆ど知られていない日本では、アンジェラの“個性”として誤魔化せる。というか、ウィスプの存在はソニック達を除けばGUNの関係者の一部くらいしか知らない。
これはシャドウからの提案で、ケテルを無駄な争い……エッグプラネットパークの時のような出来事などに巻き込んだりしないための措置である。
「アンジェラ君の“個性”の一部?」
「そういえば、アンジェラちゃんの“個性”って何なの? 色々と出来るみたいだけど……」
「あー、それについてはまた今度でいいか? いかんせん、情報量が多くてな。それに、何度も説明すんのメンドイし」
“個性”として登録されている魔術だけでもかなりの情報量だ。とても、下校中の会話として話せるものではない。
「そっか〜。じゃあ楽しみにしてるね!」
「おう、ご期待に添えるようなプレゼンが出来るように頑張るわ」
「アンジェラ君の“個性”か……普通に興味をそそられるな」
そんなことを話しながら、アンジェラ達は駅までの道のりを歩んでいった。