音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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意思なき獣

 水難ゾーンを突破したアンジェラ達。敵はあれで全部だったようで、こちらへ追撃してくる様子はない。

 

「今朝快便だったから、奴ら一日くっついたままだぜ」

 

 それならば、雄英教師陣も簡単に拘束できるだろう。アンジェラ達は念の為、なるべく敵の塊から離れた場所へと移動していた。

 

「さて、これからどうするかだが、このまま水辺に沿って、広場を避けつつ出入り口まで行くのが最善の手だろうな」

「そうね。広場では相澤先生が敵を大勢引き付けてくれている」

「相澤先生ってやっぱスゲェヒーローだったんだな……ヒーローらしからぬ見た目だけど」

「峰田、ちょいと調べたが、相澤先生はイレイザーヘッドっていうアングラ系ヒーローだぜ。“個性”を消すっていう“個性”の持ち主だ」

 

 相澤先生は確かに強いだろう。しかし、相澤先生は自身の“個性”は身体能力をどうこうできる訳じゃない。あくまでも、相手の“個性”を消すだけで、集団戦には不向きの“個性”であるはず。

 

 それでも、未だ戦闘音が聞こえるということは、相澤先生が持ちこたえているということなのだろう。プロとはやはり、苦手であるはずのこともある程度の水準ではこなせるものであるらしい。それに今は、アンジェラのかけた強化魔法が作用しているから、並大抵もことは大丈夫のはずだ。

 

 しかし。

 

「…………嫌な予感がする」

《ピシピシ感じるよー……あのせんせー、危ない》

 

 アンジェラの勘は言う。

 

 あのままでは、相澤先生が危ないと。

 

 ケテルも、アンジェラの隣でブルブルと身体を震わせている。

 

「敵集団の大多数を占めているチンピラ共の制圧は、相澤先生には簡単だろうが……黒モヤとボス格、それに脳みそ剥き出しのキモい奴二体を全員相手にするとなると、相澤先生じゃ多分歯が立たない」

「ふ、フーディルハイン? 何言って……」

「……やっぱり、オレも加勢する」

「いや、何言って……!」

「別にお前らを連れて行こう、ってわけじゃねえんだ。お前らは、早いとこ出入り口まで行って助けを呼んでこい。ケテル、お前も梅雨ちゃん達について行け」

《りょーかいっ!》

 

 ケテルは元気よく敬礼のまねごとをすると、蛙吹の側にふよふよと近付いてくる。

 

「アンジェラちゃん、本当に大丈夫なの?」

 

 蛙吹は心配そうにアンジェラの顔を覗き込む。蛙吹には、あの敵集団の中に突っ込もうとするアンジェラが無謀なことをしようとしているようにしか見えなかった。

 

 アンジェラは不敵に笑い、ソルフェジオをペンダントに戻す。

 

「Don't worry.勝算のない戦いに無謀に突っ込むほど、オレはバカじゃねぇさ。……じゃ、Good luck!」

 

 アンジェラはそう言うと、音速で駆け抜けて行った。

 

 行き先は、相澤先生が戦っているであろうセントラル広場だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セントラル広場にて、相澤先生は敵の集団との長期戦に突入していた。敵の数もどんどんと減ってはいるが、本来の戦闘スタイルからかけ離れた状況に相澤先生の負担も大きく、“個性”を発動できる時間も短くなっていく。

 

 敵の数も数えるほどになった頃、敵のボス格と思しき奴が動き出した。他の有象無象とは訳が違うと、相澤先生も直感的に見抜き、そのボス格の“個性”を消しつつ、肘打ちを土手っ腹にぶち込む。

 

 しかし、そのボス格敵は相澤先生の肘を掴んでいた。その間に、相澤先生の“個性”が切れる。

 

「動き回るので分かりづらいけど……髪が下がる瞬間がある。一アクションを終えるごとだ。そしてその間隔は、だんだん短くなっている。

 無理をするなよ……イレイザーヘッド」

 

 敵が、相澤先生の“個性”の弱点を分析していた。ボス格に掴まれた相澤先生の肘が少しずつ崩れていく。ボス格の“個性”によるもののようだ。

 

「……あれ? 崩れにくいなぁ」

 

 しかし、敵の言葉を信じるなら、相澤先生の肘が崩れる速度は遅いようだ。

 

 相澤先生はこれを好機と、回し蹴りでボス格をふっ飛ばして拘束から抜け出しつつ、距離を取り、他の敵を制圧する。しかし、多少とはいえ肘が崩れたダメージは大きく、先程までのような動きはできない。それでも、相澤先生は戦い、敵を制圧した。

 

 残ったのは、ボス格と、

 

「カッコいい、カッコいいなぁ……ところでヒーロー、

 

 本命は俺じゃない」

 

 脳みそ剥き出しの二体の敵。

 

 脳みそ剥き出し敵達が相澤先生に手を向けた、その時。

 

「ッ、相澤先生から、離れろォッ!!!」

 

 空色の風が吹き荒ぶ。脳みそ剥き出し敵達は吹き飛ばされ、背中から地へ落ちる。ボス格の表情は分からないが、驚いているのは伝わってきた。

 

 そして、相澤先生の居た場所に影がもう一つ。

 

「間に合ったァ! 相澤先生、大丈夫ですか!?」

「な、フーディルハイン!?」

 

 それは、水難ゾーンから音速で走り抜けてきたアンジェラだった。アンジェラは相澤先生の崩れた肘を視界に入れると、軽く舌打ちをする。

 

「って、若干間に合ってないな、コレ……」

「フーディルハイン、何故ここに……!?」

「嫌な予感がしたんで、走ってきました!」

 

 そんな会話をしている間にも、脳みそ剥き出し敵達はアンジェラ達の方へと近付いてくる。

 

「オレはあいつらを沈めてくるんで」

「フーディルハイン、無茶だ! お前にはまだ……」

「勝算のない戦いに、むやみやたらに突っ込んだりしませんって。癒やしの鈴蘭(ヒールベル)

 

 アンジェラは回復魔法の癒やしの鈴蘭(ヒールベル)で相澤先生の傷をある程度まで治すと、ソルフェジオをナックルダスターに変形させ、腕に装着する。

 

 回復魔法を使ったって、表面上の傷は治るが内部のダメージまで治るわけじゃないし、“個性”のインターバルが元に戻る訳でもない。ここまでの長期戦で、相澤先生はかなり消耗している。

 

 それなら、今自分がするべきことは、戦うことだ。

 

「へぇ……お前、生徒だろ? 先生を守るために来たのか……ヒーローだなぁ。ムカつくなぁ」

「勝手にムカついて結構。オレはやりたいことをやるだけさ」

「そんなお前はコイツで相手をしてやる……対オールマイト用敵、脳無だ!」

 

 ボス格の命令で、脳みそ剥き出し敵……脳無達がそれぞれ左右から一直線にアンジェラ達の方へと向かってくる。アンジェラは足元に魔法陣を現出させ、無詠唱で左右に砲撃を放った。脳無達をノックバックさせ、スタンさせることはできたようだが、すぐに体制を立て直される。心做しか、白い体色の脳無の方が黒い体色の脳無よりも遠くへ吹っ飛び、スタンから立ち直る時間も長いように感じた。

 

 黒い体色の脳無の拳がアンジェラへと迫る。アンジェラはその音速のスピードで、最小限の動きで躱して、反撃とばかりに脳無の腹に身体強化魔法を乗せた蹴りをお見舞いした。

 

「オラァッッ!!」

「──────!」

 

 黒い体色の脳無は大きくノックバックした。蹴りの衝撃は風となって周囲に伝わっていく。

 

「っち、次から次へと……!」

 

 黒い体色の脳無に続けと言わんばかりに白い体色の脳無がアンジェラへと迫る。アンジェラは魔法陣を出現させ、魔力を圧縮し、放った。

 

機械的な熱線(テクノランチャー)!!」

 

 機械的な熱線(テクノランチャー)は物理ダメージ砲撃魔法。脳無の皮膚が抉れるくらいの火力があり、砲撃だけでなく熱によるダメージを与える追加効果がある。アンジェラはもう殺さなきゃいいや、的な精神で機械的な熱線(テクノランチャー)を撃ったのだが、しばらくすると、脳無の皮膚が再生され、元通りになってしまった。

 

「……な!?」

 

 これには流石のアンジェラも驚くも、脳無が二体ともアンジェラの方へと迫ってきていたので、身体強化魔法を施した脚を思いっきり振るってふっ飛ばした。

 

「……脳無はショック吸収に超再生持ちなんだけどなぁ……強いなぁ、あの子。本当に学生か?」

 

 戦闘が膠着状態になってきた頃、ボス格はアンジェラの背後に回ってアンジェラを塵にしようとしていた。

 

 しかしそれは、相澤先生の拳に阻まれる。

 

「相澤先生! もう大丈夫なんですか!?」

「何とかな。フーディルハインの“個性”のおかげだ。お前がバフをかけてくれたおかげで、消耗が思ったより少なく済んだ」

「そうですか、よかった……」

「フーディルハイン、もうここまで来たからには逃げろとは言わない……来るぞ!」

 

 脳無達がアンジェラの方へ、ボス格敵が相澤先生の方へと向かってくる。相澤先生は戦えるようになったとはいえ、ダメージと疲労は相当なものだ。アンジェラは魔力弾で相澤先生を補助しつつ、脳無達をふっ飛ばしていた。

 

 と、黒い脳無を蹴り飛ばしたとき、アンジェラは白い脳無の様子がおかしいことに気付いた。心做しか、目が光っているような……

 

 相澤先生が相手をしていたボス格の敵が、相澤先生から離れて何やら呟いている。

 

「……本当は、オールマイトに使う予定だったんだけどなぁ。脳無」

 

 白い体色の脳無の瞳から光があふれる。その光はすぐにこちらに迫っていく。アンジェラは咄嗟に防壁を展開した。目の前が、光で包まれた。アンジェラは、反射的に目を瞑った。

 

 ……光が晴れ、アンジェラは目を開く。特に身体には異常は見られない。

 

 しかし、相澤先生の動きが不自然なものになっていた。

 

「相澤先生、大丈夫ですか!?」

「……っち、前が見えねぇ……あの光の仕業か!?」

 

 アンジェラがどういうことかと思っていると、ソルフェジオが告げる。

 

『我が主。解析の結果、あの光には一時的に視力を奪う効果があるようです』

「……それで相澤先生は……でも、オレはなんともないみたいだが」

『解析の後、私が我が主に防壁を貼らせていただきました。時間が足りなかったので、先生には貼れませんでしたが』

「そうか……さて、どうするか」

 

 相澤先生は目を潰された。先程まで使ってこなかったということは、発動にはかなりのインターバルがかかるか、こちらの行動を誘導する目的か……

 

 取り敢えずと、アンジェラは無詠唱で相澤先生の周囲に青い防郭を出現させる。範囲防御魔法の守護の幕(ディアスメイル)だ。相澤先生を安全な場所に運ぼうにも、敵の中でも特に危険度の高いであろうこいつらを放置して行くわけにはいかなかった。

 

「相澤先生、耳は大丈夫ですか?」

「ああ……何とかな」

「そりゃ結構。防郭を貼ったんで、その場から動かないでください」

 

 アンジェラはそこまで言うと、拳を構える。

 

「さて、まだ遊ぶかい?」

 

 脳無達が再び、アンジェラに襲いかかってきた。ボス格は静観に徹することにしたようで、後方で微動だにしない。

 

 アンジェラが相澤先生を背に庇い、カウンターを決めようと脚に魔力を集束させていたその時、ボス格敵の隣に黒モヤが発生し、黒モヤ敵が現れた。

 

「死柄木弔……」

「黒霧。13号は殺ったのか?」

「行動不能にはできたのですが……散らしそこねた生徒がおりまして、1名、逃げられました」

「……は? 黒霧……お前…………!! お前がワープゲートじゃなかったら、粉々にしたよ……!!!」

 

 会話の内容から察するに、黒霧というらしい黒モヤ敵は13号先生と一部のクラスメイト達と交戦し、13号先生を行動不能にまで追い込めたものの、クラスメイトの誰かにUSJ外に逃げられたらしい。そのクラスメイト経由で応援も呼ばれるだろう。

 

 そんな考察をしつつ、アンジェラは突進してきた脳無達に音速の重い蹴りをお見舞いした。その衝撃は凄まじく、脳無は吹き飛び、衝撃波で風は吹き荒れる。

 

「はぁ、異様に強い子供も居るし、流石に何十人のプロ相手じゃ敵わない。……ゲームオーバーだ。あーあ、今回はゲームオーバーだ……帰ろっか」

 

 アンジェラはその言葉に気味悪さを覚えた。

 

 これだけのことをしでかしておいて、あっさり引き下がるとは到底考えられない。オールマイトを殺す算段を用意してきたと言っていたのに、これでは雄英の危機意識が向上するだけで、他に大した成果もない。

 

 何が狙いだ? 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジェラは拳を構え直した。

 

 死柄木弔と呼ばれたボス格の敵はゆらり、とアンジェラの方を向く。

 

「ああ……でも、やっぱり、あの子供は殺したいなぁ!」

「っち、やっぱそう来るか!」

 

 死柄木弔がアンジェラに迫り、その手を向けてくる。アンジェラは咄嗟に防御魔法の守りの意志(ディフェソート)を展開しようと、腕を顔の前で交差させて魔力を込める。

 

 その時だった。

 

 ドカン!! と、扉が破壊される音が響いた。USJの出入り口のドアが破壊される音だった。

 

 そしてそこから現れたのは、普段笑みを絶やさない平和の象徴。

 

「もう大丈夫……何故って?」

 

 その平和の象徴は、笑っていなかった(・・・・・・・・)

 

「私が来た!!」

 

 

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