音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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平和の象徴

 平和の象徴の降臨は、生徒たちに安心を、敵達にプレッシャーを与えた。オールマイトは進行方向上に居た敵を一網打尽にしながらセントラル広場に文字通り飛んでくる。

 

「フーディルハイン少女! 怪我はないか!?」

「オレは大丈夫です! それより相澤先生が敵の“個性”で目をやられて……!」

「何……!」

「単に視界を潰されただけです……怪我はフーディルハインに治してもらってほぼ無傷です」

「フーディルハイン少女、相澤君を安全な場所まで頼めるかい?」

「Of course! 直ぐ戻ってきます!」

「…………ん?」

 

 オールマイトが来た今、相澤先生を背に庇って戦う必要もなくなった。アンジェラは相澤先生を背負うと、守護の幕(ディアスメイル)を解除し、出入り口まで走る。その道中、蛙吹と峰田の姿を見つけた。

 

「梅雨ちゃん! 峰田!」

「アンジェラちゃん! 大丈夫!?」

「フーディルハイン、無事だったか……って、相澤先生!?」

「大丈夫。視界を潰されただけだ。大きな怪我はない」

 

 アンジェラの言葉に蛙吹と峰田は、自分たちを守るために敵の群れに飛び込んだ先生が無事であることに安堵した。

 

「みっともないところを見せたな……。すまない」

「そんな! 先生が謝ることなんてなにもないわ!」

 

 相澤先生としては複雑な心境だろう。守るべき生徒にこうして守られ、みっともないような姿を晒してしまっている。生徒の優秀さに喜ぶべきなのか、自分のみっともなさに恥じるべきなのか。

 

「梅雨ちゃん、先生に肩を貸してやってくれないか」

「それはいいけど……アンジェラちゃんはどうするの?」

「オールマイトんとこに戻る」

「オールマイトんとこって、敵の居るとこじゃんか! そんな危険な場所に近付く必要なんか……!」

「そうよ、アンジェラちゃん。こうして相澤先生を救けてくれたんだもの。アンジェラちゃんは十分に働いたわ。あとは、オールマイトに任せましょう?」

「フーディルハイン、いくらお前が強いからって、それは看過できない……」

 

 3人はアンジェラの行動を咎める。確かに、アンジェラもオールマイトに任せてもいいという確信があれば、もうオールマイトの所に戻ろうと思ったりしなかっただろう。なにせ相手は平和の象徴。無敗のヒーローだ。普通なら、そう考えるのが自然である。

 

 しかし、今回ばかりは話が違った。

 

「相澤先生、無傷とはいかなくても、五体満足で戻ってくるって約束します。

 だから、行かせてください」

 

 アンジェラの金の瞳が、光り輝く。蛙吹と峰田は、不謹慎にもそれがとても美しいと思ってしまった。

 視界を潰された相澤先生も、アンジェラの声色からアンジェラが引き下がる気がないことを確信する。はぁ、と吐かれた溜息は、果たして誰のものだったか。

 

「……ちゃんと五体満足で戻ってこないと、除籍処分にする」

「……!」

「分かったら行け」

「……はい! ケテル、もう少し頼むな」

《任せて!》

 

 相澤先生は折れることにした。脳無相手でも引けを取らないほどの戦闘力をアンジェラが持っていたことも大きいが、やはり一番の要因は、アンジェラが決意を抱いていたことだった。

 

 相澤先生の許しを得たアンジェラは、すぐに音速のスピードでオールマイトの元へと戻る。

 

「相澤先生……」

「フーディルハインは確かな決意を持っていた。それでも後先考えずに突っ走ったりせず、俺の許可を得ようとした……不安は残るが、信用するには、十分だよ」

 

 相澤先生は知っていた。過去、職場体験中に敵と遭遇し、後先考えずに突っ走った雄英生が大怪我を負ったことを。その生徒は、普段から後先考えずに突っ走るタイプだったようだ。相澤先生が担任する生徒ではなかったが、その悪評は相澤先生の耳にも届いていた。

 

 そんな話を知っていたからこそ、相澤先生はきちんと許可を取ってから戻ろうとしたアンジェラに好感を覚えたのだ。

 

 蛙吹は不安そうに、爆音と爆発のような煙が湧き出たセントラル広場の方角を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジェラがセントラル広場に戻った時に目に飛び込んできたのは、そこにはバックドロップの体勢のオールマイトと、黒霧のワープゲートで上半身と下半身が違う場所に出現している黒い脳無の姿だった。

 

 黒い脳無はオールマイトの脇腹に指を突き立てており、オールマイトはそこから出血している。

 

 白い脳無はオールマイトに一歩、また一歩と近付いている。先程アンジェラが戦ってみた感じでは、白い脳無は黒い脳無ほどのパワーはないように感じた。黒い脳無を10とすれば、白い脳無は7ほどのパワーしかないだろう。

 

 しかし、拘束された状態では躱すことも受け流すこともできない。アンジェラは腕に魔力を集束させ、目にも留まらぬスピードで白い脳無を殴り飛ばし、同時に白亜の鎖(フィアチェーレ)で地面に拘束した。

 

「おととい来やがれェ!!」

「……さっきの子供……!」

「フーディルハイン少女!?」

 

 死柄木弔は計画が上手くいかない苛立ちからか、首のあたりを執拗に掻きむしり、苛立ちのままに叫ぶ。

 

「っち、黒霧!」

「私の中に血や臓物があふれるので嫌なのですが……あなたほどの方なら喜んで受け入れよう!」

 

 黒い脳無の上半身がワープゲートに沈んでゆく。オールマイトが半端にワープゲートに収まったところを見計らってワープゲートを縮小させ、引き千切るのが狙いらしい。

 

 アンジェラは黒霧に蹴りを入れようとしたが、後ろから爆音が響いてきたので、咄嗟に爆音の進行方向から退いた。

 

「どけ邪魔だ!」

「危っな!」

 

 アンジェラがジャンプしたとほぼ同時に、背後から爆豪、轟、切島が現れた。爆豪は黒霧の纏っている鎧のような部分を押さえつけ、轟は黒い脳無の身体を凍らせ、切島は死柄木弔に攻撃を仕掛けようとしたが、その攻撃は躱されてしまう。

 

「っち、いいとこねー!」

「スカしてんじゃねぇよモヤモブがぁ!」

「平和の象徴はお前らごときには殺れねーよ」

 

 約1名ヒーローらしからぬ言動をしているが、敵の移動手段は抑えた。アンジェラも地面に降り立ち、敵を見据える。

 

「はっ、このうっかり野郎め、やっぱ思った通りだ。モヤ状のワープゲートになれる箇所は限られてる。そのモヤゲートで実態部分を覆ってたんだろ。そうだろ!? あんとき……全身モヤの物理無効人生なら、危ないっつー発想が出ないもんなぁ。動くなよ? 少しでも怪しい動きをしたと俺が判断したらすぐ爆破してやる!」

 

 爆豪はそう言いながら、手のひらから爆発を発生させる。傍から見たらどちらが敵だかわかったもんじゃない。アンジェラは5秒くらいそう思ったが、すぐに思考を眼の前の敵達の対処へと切り替えた。

 

「攻略された上にほぼ無傷……凄いなぁ、最近の子供は。恥ずかしくなってくるぜ、敵連合」

 

 どうでもいいのだが、その直球すぎる団体名はどうにかならなかったものか。

 

 アンジェラが頭の片隅でそんなことを思いながら目で捉えたのは、普通の人間であれば認識することすら困難なスピードで爆豪に襲いかかろうとしている白い脳無。アンジェラは脳無を遥かに上回るスピードで脳無の懐へと潜り込み、最大まで魔力を纏った拳を撃ち込んだ。

 

「ハッ、不意打ちのつもりだろうが、そうはいかないね!」

「何っ……!?」

 

 白い脳無はソニックブームを起こしながら吹き飛び、USJの壁をぶち抜いてその向こうへと吹っ飛んでいった。

 

 しかし、アンジェラも無傷とはいかず、あまりのパワーの反動で右の指ぬきグローブがボロボロに千切れ、手から腕にかけての皮膚が一部裂け、血が流れ出していた。アンジェラは痛みに思わず息を吐く。

 

「っ……」

『我が主、大丈夫ですか?』

「折れちゃいねぇよ……」

「フーディルハイン少女! なんて無茶を……!」

「っ、オールマイト!」

 

 オールマイトはアンジェラに下がって、と言いかけたが、アンジェラの叫び声に気付く。

 

 アンジェラは、オールマイトを拘束していた脳無がいつの間にかワープゲートから抜け出し、轟に凍らされた部分が崩れてゆくのを目撃していたのだ。崩れた部分からミシミシと嫌な音を立てて肉が生えてくる。その肉は脳無の失われた手足を補完した。

 

「まずは出入り口の奪還だ……」

 

 手足を取り戻した脳無は、死柄木の命令に従って出入り口……黒霧を奪還すべく、爆豪に襲い掛かる。アンジェラは誰よりも早くそのことに気が付き、一瞬は脳無を吹き飛ばそうかと思ったが、黒い脳無は予想以上に素早かった。魔力を込める時間がないと瞬時に判断したアンジェラは、爆豪の首根っこを掴んで脳無の進行方向上から離脱した。

 

 その直後、脳無の拳が空を切る。砂煙と風圧の中、アンジェラはなんとか地面に着地した。

 

「フーディルハイン! 大丈夫か!?」

「Don't worry.オレよかこいつを心配してやれ」

 

 アンジェラは雑に爆豪を離す。爆豪が抑えていた黒霧は奪還されてしまったようだが、背に腹は代えられないだろう。

 

「あの敵はヤベェけど……俺等でオールマイトのサポートすりゃ……!」

「やめとけ。お前らじゃ足手まといになるだけだ」

 

 オールマイトのサポートに意欲を示す切島だが、それをアンジェラが冷たい一言で咎めた。

 

「フーディルハイン少女の言う通りだ……逃げなさい! フーディルハイン少女には皆のサポートを頼みたい」

「……分かりました」

 

 そう言われてしまっては断れないと、アンジェラは頷いた。そんなことを言いつつ、危なくなったらサポートに入るつもり満々である。

 

「さっきのは俺がサポートに入らなきゃヤバかったでしょう」

「それはそれ。ありがとな、轟少年」

 

 轟は脳無の強さからいくらオールマイトでもサポートが必要だと思ったが、オールマイトはそれを否定し、力強さを示すように拳を握った。

 

「でも大丈夫、プロの本気を見ていなさい!」

 

 その言葉と共に、オールマイトは脳無に戦いを挑んだ。

 

 脳無の拳とオールマイトの拳がぶつかり、その衝撃で風圧が起きた。真正面からの殴り合いだ。やたらめったらに撃ち込んでいるのではない。一発一発が、100%以上の拳だと、アンジェラは感じた。

 

 風が吹き荒ぶ。そのせいで、誰もオールマイトと脳無の方には行くことができなかった。

 

「君の“個性”がショック無効ではなく吸収なのなら! 限度があるんじゃないか!? 私対策!? 私の100%を耐えるなら! 更に上から捻じ伏せよう!!」

 

 拳と拳がぶつかり合う。オールマイトの拳が、脳無に確実にダメージを与えていた。オールマイトも傷口に拳を入れられ、血を吐いていたが、攻撃の手は緩めることはない。

 

「ヒーローとは、常にピンチをぶち壊してゆくもの……!」

 

 オールマイトの攻撃が、脳無のショック吸収を完全に上回った。オールマイトは拳に最大限の力を溜める。

 

(ヴィラン)よ……こんな言葉を知っているか!? 

 

 更に向こうへ! 

 

 PULLS ULTRAAAAA!!!!!!!!!!!!!」

 

 雄英高校の校訓と共にオールマイトが放った一撃は、脳無の腹部にクリーンヒットし、脳無をUSJの天井をぶち破った先に天高く舞い上がらせた。

 

「……wow」

 

 これにはアンジェラも感嘆の声を溢した。自分でほぼ同じようなことをやっていたはずというのは気にしてはいけない。

 

 死柄木は脳無が2体とも負けるとは思っていなかったようで、悔しそうな声を滲ませた。

 

「っち……! 脳無が2体ともやられた……! しかも一体は生徒……子供にだ……!」

「死柄木弔……オールマイトもそうですが、あの娘は危険です。ここは逃げるべきでしょう」

「っ、分かってるよ……おい! オールマイトと…………そこの青いの!」

 

 死柄木の叫びに、アンジェラはワンクッション置いてからようやく死柄木の言った「青いの」が自分であると気が付いた。

 

「あ、オレ?」

「お前以外に誰がいる……まあいい、今度は殺してやるからな! せいぜい首洗って待ってろ!!!」

 

 死柄木はそう言うと黒霧のワープゲートに包まれて消え去っていった。

 

 アンジェラはしばらくぽかーんとしていたが、少ししてようやく口を開いた。

 

「……あ、今の宣戦布告か」

『気付くの遅いです』

 

 

 

 

 

 

 

 敵が撤退してから少し、アンジェラはオールマイトの元へと駆けていった。腹部からかなり出血しているようだし、応急処置をしておいたほうがいいというアンジェラの判断である。

 

 しかし、未だ土煙が舞い散るそこに立っていたオールマイトは、なんだか萎んで見えた。

 

「オールマイト……?」

「HAHA……バレちゃったか」

 

 アンジェラは驚きのあまりしばらく言葉を失ったが、それどころではないと首を振ると、幻術魔法を展開し、その場で切島達には先に戻ってハンソーロボを呼んでほしいと頼んだ。爆豪は何やら言っていたが、まぁ気にしなくていいだろう。

 

 アンジェラはパズルのピースが嵌ったような感覚を覚える。何故いきなりオールマイトが雄英の教師に着任したのか甚だ疑問であったが、おそらくオールマイトはヒーローとしての限界を迎えているのだろう。何十年も不動のナンバーワンとして君臨し続けたオールマイトであるが、流石に寄る年波には勝てないということか。

 

 何かつっかかりを感じつつも、アンジェラは納得したように頷いた。

 

「なるほど……だからアンタ雄英の教師に」

「まぁ、そういうことなんだよね……こっちの不手際で見つかって言うことではないけれど、くれぐれも他の人に話したりはしないでね?」

「……んな無粋なことするわきゃないでしょう……ちょっと引っかかりますが、事情は聞きません。オレが首突っ込んでいい問題でもないでしょうし」

 

 アンジェラはそう言うと、ウエストバッグから応急セットを取り出し、その中にある包帯を掴んだ。

 

「それにしても、君には随分と救けられた……ありがとう、フーディルハイン少女」

「お礼は別にいいです。ほら、包帯巻いちゃうんでじっとしててください」

 

 アンジェラは慣れた手付きでオールマイトの腹部に包帯を巻く。自身も手を怪我しているからか、少しおぼつかない手付きではあったものの、その処置自体は的確だった。

 

「先に自分の怪我を治せばよかったのに」

「アンタの方が重傷でしょう。オレの“個性”で治せればよかったんですけど、流石に腹に空いた穴はすぐには治せなくて……」

「応急処置だけでも十分だよ。ありがとう」

 

 アンジェラの使える回復魔法は、アンジェラ自身に回復魔法に対する適性がないため、ある程度の怪我を治すことしかできなかった。相澤先生の崩された肘でも、結構ギリギリのラインだったのだ。崩された範囲が小さかったからこそ癒やしの鈴蘭(ヒールベル)で即座に治せたようなものである。

 

 アンジェラの自身の中途半端さに対する苛立ちをよそに、オールマイトはあることを考えていた。

 

 今まで本当に信頼してきた自分の秘密。自身の後継者は、彼女がいいのではないか、と。

 

 そんなことがオールマイトの頭を一瞬過ぎったが、オールマイトは彼女に聞いてみないと分からないな、彼女の経歴を考えると、厳しいかもな、とその考えを頭の片隅に追いやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。主犯格二人を除く敵は、駆けつけた雄英教師陣に捕縛され、後に駆けつけた警察によって逮捕された。アンジェラとオールマイトによって外に殴り飛ばされた脳無達も確保されたらしい。

 

 USJ内で散り散りにされたクラスメイトは教師陣によって保護された。負傷者は数名程度でそのほとんどが擦り傷切り傷程度の本当に軽い怪我であり、生徒の中で一番怪我が酷かったのは、自身の強化魔法の反動で腕の皮膚が裂けたアンジェラであった。そのアンジェラも回復魔法で怪我を治し、一日で完治した。

 

 相澤先生は筋肉に軽いダメージこそあったものの軽傷。白い脳無によって潰された視界もこの日のうちに回復したが、万全とはいかないようだ。

 

 13号先生は全身の裂傷が酷かったものの、命に別条はない。しばらく入院するようだ。

 

 オールマイトも腹部に穴を空けられるも命に別条なし。オールマイトは保健室での処置で十分とのことだ。

 

 雄英高校に敵の集団が攻め込んでくるという前代未聞の事件は、こうして幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……ここで、誰も想定していなかったことが2つ。

 

 一つ。アンジェラの手の傷口にオールマイトの血が触れてしまっていたこと。

 

 

 

 

 

 

 そして、もう一つは、オールマイトの頭の片隅に追いやられたはずの考えが、『彼ら』にオールマイトの想いだと認識されてしまったこと。

 

 

 

 

 

 カチリ…………

 

 

 誰にも知られずに廻り始めた運命は、もう止められない。止めることなど、気付くことなど、誰にもできやしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、アンジェラさんに起きた変化とは一体何でしょうか?(すっとぼけ)
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