音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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今回のアンジェラの話には賛否両論あるかと思いますが、アンジェラはこういう考えなんだと思っといてください。


継がれた種火を吹き消した

「すまない!!」

「……What?」

 

 オールマイトに連れられて、仮眠室に入るやいなや、オールマイトはアンジェラに見事な土下座をかました。それはもう美しい土下座であった。

 

 アンジェラは感謝されるいわれはあれど、土下座される理由は全く分からず、混乱の真っ只中に居る。

 

「……これが、ジャパニーズ土下座か?」

 

 混乱しすぎて、頓珍漢なことを口走ってしまっていたアンジェラなのであった。

 

 

 

 

 

 仮眠室にあった給湯器で淹れたお茶を飲み、双方が落ち着いた所で、オールマイトは煙を上げて萎んでしまった。このことに関してはUSJの件で知っていたのでアンジェラは驚きはしなかった。

 

「さて……色々と聞きたいことはあるだろうが、取り敢えず私の話を聞いてくれ」

「はぁ…………」

 

 そう前置きしてオールマイトが語ったのは、オールマイトの秘密そのものであった。

 

 オールマイトのその萎んだ姿は、今のオールマイトの本来の姿らしい。何を言っているのか若干掴みづらいが、普段見る筋骨隆々な姿は、プールで腹筋を力み続けている人のようなものとのことだ。

 

 そうなってしまったのは6年前、ある敵と戦ったときに受けた傷に起因する。胃袋全摘出、呼吸器官半壊、度重なる手術と後遺症によって、憔悴してしまったオールマイトの今のヒーローとしての活動限界は、一日一時間半程度しか残されていないそうだ。

 

 ヒーローとしての限界に達したオールマイトは、次世代のオールマイト……自身の後継者を探しだし、育成するために雄英高校に教師として着任したそうだ。この教職を勧めたのは雄英高校の校長先生であるらしい。

 

「ふーん……」

 

 アンジェラはお茶を啜り、オールマイトが渡してくれた肉まんを齧りながら話を聞いていた。オールマイトが寄る年波には勝てなくなっただけではなく、そんな大怪我を負っていたとは流石に思っていなかったが、同時にある疑問を抱いていた。

 

「さて、ここからが本題なんだが……」

「え、今のが本題じゃないんですか?」

 

 なんと、オールマイトの話にはまだ続きがあるらしい。オールマイトが萎んだ経緯はともかく、それ以上の秘密に干渉するつもりは微塵もないアンジェラはそれとなくオールマイトにそのことを伝えるが、オールマイトは苦々しい顔で頭を下げた。

 

「それに関しては本当にすまない……! 私は君に許可を取ることもなく巻き込んでしまった……! しかし、巻き込んでしまったからには話さなければならないんだ……。そうしなければ、君は逆に危険に巻き込まれてしまう……」

「は、はぁ…………」

 

 そんなことを言われてしまえば話を聞くしかないだろう。オールマイトは全く意図していなかったようだが、どうやらアンジェラはもう既にオールマイトの事情に巻き込まれてしまっているらしい。ならば、話を聞かなければ危なくなるのはアンジェラの方だ。アンジェラは観念したようにため息をついた。

 

 

 

「私の“個性”は、聖火のごとく引き継がれてきたものなんだ」

「……………………What?」

 

 アンジェラは目が点になった。雄英に来てからこんなことばかりな気がして若干頭が痛くなってくる。

 

 ……それはともかく、引き継がれてきたものとはどういうことだ? アンジェラの頭には既に大量の質問が発生していた。

 

「一人が力を培い、一人へ託し、また培い、次へ……そうして救いを求める声と義勇の心が紡いできた、力の結晶。冠された名は……「ワン・フォー・オール」」

 

「ワン・フォー・オール」。一人はみんなのためにという意味の言葉である。

 

「ワン・フォー・オールの継承は、元から持っている人物が「渡したい」と思いながら遺伝子の一部を摂取させることでなされる。USJ事件のとき、君私を治療してくれただろう? あのとき、頭の片隅で君になら渡してもいいと思ったんだが……まさか、フーディルハイン少女の傷口に私の血か汗が入り込んでしまったとは」

「………………あー……それか、昨日から感じてたこの違和感は……」

 

 アンジェラはオールマイトを治療したことに微塵も後悔の念を抱いた訳では無いが、まさかそれが遠因となってこんな厄介そうなことに巻き込まれることになるとは思ってもいなかった。

 

 そして、昨日から感じていた違和感、ソルフェジオが言っていたアンジェラに宿った『何か』の正体が分かって、なんだかスッキリしたような感覚も覚えていた。

 

「……生半可な肉体では受け取りきれずに、四肢がもげて爆散してしまっていた。ひとまず大丈夫そうでよかった……君、言っちゃあなんだけどとてもワン・フォー・オールに耐えうる肉体には見えなかったから、かなり心配してたんだよ」

「誰がチビだ誰が。っつーか、四肢がもげるってやべぇじゃん……」

 

 アンジェラは確かに華奢な見た目をしているが、その実7つのカオスエメラルドの力に耐えられるくらいには頑丈だ。ゆえに、ワン・フォー・オールを受け取り切ることができたのだろう。

 

「まぁ……言われていれば絶対に受け取ってませんでしたね」

 

 これはアンジェラの本心であった。アンジェラは任務で日本に来ただけで、ヒーローという職に就くつもりはない。日本に居るうちに気持ちが変わることはあったかもしれないが、少なくともワン・フォー・オールは絶対に受け取ろうとはしなかっただろう。

 

 何世代にも渡って継承されてきた崇高な正義の炎は、風の化身たるアンジェラが宿すには少々不釣り合いすぎた。

 

「幻滅しますか? 偶然とはいえ、そんな御大層なもんを受け継いだ人間がオレみたいなやつで」

「いや、私も打診だけはしようとは思っていたが、君が受け継いでくれる確率は低いと思っていたんだ。君は空色の英雄。風のように自由なヒトだものね」

「へぇ? 知ってるんですか」

「昔アメリカにいた頃のツテで、話だけは少しね」

 

 オールマイトほどのヒーローならば世界中にコネがあるのだろう。そしてアンジェラの存在は欧州や北米では広く知れ渡っている。オールマイトがアンジェラの旅路の話を知っていても何ら不思議ではない。

 

 アンジェラは肉まんを食べきりお茶を啜ると、その黄金の瞳を細めて首を傾げた。

 

「……事情は分かりました。その上で聞きたいことがあります。

 

 

 どうして、そんなにボロボロになってまでヒーローを続けているんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジェラは、オールマイトが理解できない。

 

 凄いヒーローなのは分かる。日本という国の平和の象徴を担うほどに偉大な人物なのは理解できる。その功績にケチをつけられるのは、敵くらいなものだろう。

 

 しかし、アンジェラにはオールマイトのその在り方が、全くもって理解できなかった。

 

 平和の象徴。そう言われれば聞こえはいいが、その実、一人に全てを押し付けているだけだとアンジェラは感じている。

 

 オールマイトが立ち続けていれば、市民の大多数は平和になるだろう。しかし、そこからあぶれてしまった者達は? オールマイトも人間であり、決して全知全能の神などではない。噂では、オールマイトは相棒を持っていないらしい。トップヒーローならば数十単位で持っていそうなものなのに、オールマイトには一人もいない。

 

 たった一人の人間にできることには限度がある。しかも、今のボロボロな状態で何故立ち続けるのか。

 

 アンジェラには、全くもって理解できなかった。

 

 しかし、アンジェラはオールマイトの在り方に批難したいわけでも、苦言を呈したいわけでもない。オールマイト本人にも覚悟があってのことだろうし、そういう覚悟ある人物の覚悟を踏み躙るようなことをアンジェラは言いたいわけではない。

 

 ただ単純に、知りたかったのだ。

 

 そこまでオールマイトを突き動かすものとは、何なのか。

 

 アンジェラの行動原理は単純だ。

 

「やりたいからやる」

 

 ただこれだけ。

 

 そこにいくらかの社会的常識やモラルなんかは入り混じっているが、根幹は至極単純なものであった。長らくソニックと暮らしていたアンジェラは、その考え方さえもソニックにそっくりになっている。

 

 しかしアンジェラは、オールマイトの行動理念がそんな単純なものではないと、この数刻で見抜いていた。

 

 受け継がれてきた意志。それは時には呪縛となる。何人もの人生を縛り付けて、それでもなお受け継がれなければならないものとは、果たして一体何なのか。

 

 それは、本当にオールマイトの意志が介在するものなのか。

 

 アンジェラはただただ、知りたかった。

 

 ここまで秘密に踏み込んでしまったのだから、もう聞きたいことは全部聞いてしまえ、と思っていたのもある。アンジェラも、オールマイトの秘密を聞かされなければこんなこと聞くつもりもなかった。

 

「……君は」

「べつにアンタの在り方をどうこう言うつもりはありません。ただ単純に知りたいだけです」

 

 アンジェラはそう言ってカラカラとした笑みを見せる。しかし、その黄金の瞳は鋭く輝いたままだった。

 

「ヒーローとして限界だと自分で気付いているのなら、どうしてその時点でヒーローを辞めなかったのか。後任が見つかるまで退くわけにもいかなかった、だけならまだ分かりますが、どうもそれだけじゃないようにも見える。

 

 そこんとこ、どうなんですか?」

 

 アンジェラの言葉、そして言外にかけられた圧に、オールマイトは思わず固唾を飲む。

 

 この歳で、ここまでのプレッシャーを放つことができるとは……。

 

 オールマイトは思った。アンジェラのプレッシャーは、ハッキリ言って上位のヒーローでさえも出すことの叶わないものだと。それを、たった十五歳の少女が放つことができるなんて……

 

「一体、どんな環境で育ったんだい、君は……」

 

 つい、といった感じで出てしまった言葉にオールマイトは口を咄嗟に噤む。アンジェラは一瞬ぽかんとしながら、先程までとは打って変わって満面の笑みでこう答えた。

 

「どんな環境ってそりゃぁ…………

 

 

 これ以上ってないくらい最高の風の下、ですかね」

 

 

 

 

 

 

 

 オールマイトは話した。ワン・フォー・オールのルーツを。オール・フォー・ワンという巨悪の存在と、それによって支配されていた日本のことを。

 

 超常黎明期。ある一人の男がいた。後の世でオール・フォー・ワンと呼ばれることになる男であった。

 

 その男は“他者から個性”を奪い、自分のものとし、他者に与えることができるという“個性”の持ち主であった。

 

 その男は“個性”の出現により混沌とした世の中で、その圧倒的な力によって瞬く間に闇の支配者として君臨した。

 

 男は“個性”を与えることで他者を信頼、あるいは屈服させていった。しかし、“個性”を与えられた者の中には、その負荷に耐えられずに物言わぬ人形となってしまった者も居た。

 

「……脳無みたいな?」

「ああ……おそらくはね」

 

 しかし、中には元来の“個性”と与えられた“個性”が混ざりあったケースもあったという。

 

 男には弟が居た。彼はひ弱で無個性だったが、確かな正義感の持ち主だった。

 

 そんな弟に、男は「力をストックする」という“個性”を与えた。それが家族ゆえの優しさからくる行為なのか、はたまた屈服させるための行為だったのかは、今となっては分からない。

 

「…………まさか」

「ああ、そのまさかさ」

 

 無個性だと思われていた弟にも、一応は宿っていた。

 

 周囲も自身でさえも気付きようのない、ただ「“個性”を与える」だけという、意味のない“個性”が。

 

「力をストックする“個性”と、与える“個性”が混ざりあった。それが、ワン・フォー・オールの「オリジン」さ」

 

 オールマイトはそこまで話すと一呼吸置いた。

 

「皮肉な話だろう? 正義はいつだって悪から生れ出づる」

「……でも、オール・フォー・ワンって敵は大昔の人物なんですよね? なんでそんな人物の話を?」

 

 アンジェラの疑問はもっともであった。しかし、相手は“個性”を奪うことができるような奴だ。何でもアリだった。

 

 おそらくは、成長を止めるとかそんな感じの“個性”を奪ったのだろうとオールマイトは推測する。

 

 それに対して、弟はあまりにも無力であった。だから、次世代に託すことにしたのだ。今は敵わずともいつの日にかこの力が巨悪を討ち滅ぼす力となることを信じて。

 

 その想いは代を重ねて、遂にオールマイトの代でオール・フォー・ワンを討ち取ることに成功した。

 

「私が子供の頃、人々はいつも敵の影に怯えていた」

 

 この国には柱がなかった。人々が寄り添える柱が。だからオールマイトはヒーローを志した。平和の象徴、人々が寄り添うことができる柱になるために。

 

 オール・フォー・ワンはオールマイトによって討ち取られた。そのときに出来た傷こそ、オールマイトが憔悴する原因となったものである。

 

「私が倒れるわけにはいかないのだよ……平和の象徴は、決して悪に屈してはいけないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……馬鹿なんですか?」

 

 アンジェラはハッキリとそう言った。オールマイトは全くもって予想すらしていなかった言葉に思わず声を漏らす。

 

「ふ、フーディルハイン少女?」

「いや、断言してやりますわ。アンタ馬鹿だ。ナックルズよりも馬鹿だ」

「え、さっきから馬鹿馬鹿言い過ぎだし、そもそもナックルズって誰?」

 

 アンジェラは混乱の真っ只中にいるオールマイトを放ってため息をつく。

 

「それってある種の強迫観念じゃないですか。そうしなきゃ、ああしなきゃって、自分の意志と混ざりあった別のモンでしょう。別にアンタの価値観にどうこう言うつもりはこれっぽっちもないですし、人々を救いたいと思ったことは間違いなくアンタの意志なんでしょう。

 

 でもね、アンタも人間なんですよ。できることには限度がある。この世に全知全能の神なんか存在しない。

 

 だからこそ、人ってもんは助け合うんです。足りないもんを補い合うんです。アンタは、それを疎かにしてるようにしか思えない」

 

 ま、受け売りですけどね。

 

 アンジェラはそう言って、薄く笑った。

 

 そしてアンジェラは、何年も悪夢に魘され続けて精神状態が悪化し、あわや包丁で自分を傷つけようとしたことを語った。そのときに、ソニックとシャドウ(二人の兄)から、自分は溜め込みやすいんだからもっと頼れ、と言われたことも。

 

 そして、アンジェラの話はヒートアップしていく。まるで、幼い子供が宝物を自慢するかのごとく、二人の義兄のことを、そしてラフリオンで出会ったかけがえのない仲間について語った。本人達を前にしては絶対に言わないであろう自慢話も、ここぞとばかりに話しまくる。

 

 その時のアンジェラは、まるで恋に恋する乙女のような…………

 

 

 いや、そんな綺麗なものなんかじゃない。

 

 それなしではいられないような、依存するような、狂気と美しさの混在した表情をしていた。

 

「……それは、君が恋愛的な意味で好きな人の話かい?」

「え? なに言ってるんですか」

 

 

 

 

 

 大事な大事な、仲間の話ですよ

 

 

 

 

 

 アンジェラはそう言うと、無邪気さを湛えて(瞳に狂気を滲ませて)、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オールマイトは感じた。

 

 アンジェラは、別に何を取り繕っているわけではない。他者を思いやれて、そのために行動できたり声を上げたりすることができる優しい心を持った少女だ。

 

 そのことは、間違いない。

 

 アンジェラは単に、内に渦巻く狂気じみた執着も、隠す気がないだけだ。

 

 誰しもが心に秘めた何か(・・)に対する執着。オールマイトで言えば、世のため人のためになることへの、平和の象徴への執着を、アンジェラは二人の義兄に、そしてラフリオンで出会った仲間たちに向けている。そして、アンジェラは少しばかりその程度が人よりも強すぎる。

 

 ただ、それだけの、普通の少女なのだと、心の底から思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん? じゃあオールマイトって、オレの事情知ってるんですか?」

「ああ、大まかなことは聞いているよ。君がヒーローを目指す気はないってことも、天使の教会瓦解のためにGUNに協力している民間協力者であるということも」

「あー……じゃあ、これでおあいこ、ってことですかね?」

「そうだね、君がヒーローになってくれないことは残念だけど、私も出来得る限りの協力はさせてもらうよ」

 

 オールマイトの言葉に、アンジェラはくすり、と笑った。

 

「じゃあ、お願いします」




ちょっと練り直したい設定があるので、少しだけ投稿をお休みします。
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