体育祭までニ週間。この期間、アンジェラは新たに手に入れたワン・フォー・オールの力を身体に馴染ませることと、属性魔法の練習に注力した。ワン・フォー・オールは言わずもがな、属性魔法ももっと使いこなせるようになれば、戦略の幅が更に広がる。
アンジェラが唯一得意とする属性魔法は風属性の魔法だ。主に風圧や突風を発生させる魔法だが、極めれば天候すら操ることが可能となる。ちなみにアンジェラはまだその領域には達していない。せいぜい、局所的に雨雲を集めて雨を降らせることができる程度だ。幻夢の書を使えば、天候を変えることは可能ではあるのだが、データの読み取りに時間がかかりすぎるため実戦的ではない。
今アンジェラが習得しようとしているのは、風属性の上位属性にあたる雷属性の魔法と、2つの属性を組み合わせた属性魔法、言うなれば、複合魔法だ。例えば、水を生成する魔法に風の弾丸の魔法を組み合わせることで、水の弾丸を発生させることができる。遠距離攻撃は砲撃魔法やカオススピアなどがあるものの、手数は多いに越したことはない。また、砲撃魔法よりも属性魔法の方が燃費がいいという利点もある。
そんなこんなで、アンジェラは体育祭までのニ週間、雄英の校庭の一角で練習をしていた。別にヒーローになりたいわけではないアンジェラがここまでするのには、ある理由がある。
オールマイト土下座事件(?)の翌日の朝のこと。アンジェラが朝食を取っていると、突然GUNから支給された通信機が鳴った。
ちなみに、通信機はリミッターに内蔵されている。GUNの技術部とテイルスにちょいといじってもらって導入されたものだ。閑話休題。
アンジェラはなんだなんだと通信を繋げた。
「なんです、こんな朝っぱらから」
『よし、繋がったわね』
「って、ルージュ?」
てっきり司令官か誰かが連絡してきたもんだと思っていたアンジェラだったが、実際に通話してきていたのはルージュだった。少しだけ呆気にとられていたアンジェラだったが、仕事の話だとルージュに言われると、はっと平静を取り戻した。
『もうすぐ雄英体育祭らしいじゃない』
「ああ。今年は中止になると思ってたんだがな」
『その体育祭関連の話なんだけどね』
ルージュの話は、要約してしまえば至極単純なことであった。
体育祭で目立て。
「シンプルでいいねェ、嫌いじゃない」
『あのねぇ、アンジェラちゃん。ふざけてないで真面目にやらなきゃ駄目よ?』
「Sorry,sorry〜」
『まぁ、あなたらしいといえばらしいけどねぇ……』
雄英体育祭は日本一の祭典だ。実際にテレビ中継や会場で観ていなくとも、ニュースなどで特集が組まれるなどしてその情報は拡散される。故に、体育祭で目立てば、ヒーローや民衆だけでなく敵にも己の情報が行き渡るのだ。
それは、ターゲットである天使の教会とて例外ではない。
というより、元々アンジェラは釣り餌として日本に来たのだ。獲物が餌に食いついてくれなくては困る。
しかし、目立てとはイコール全力を出せというわけではない。目当ての獲物が食い付いても、それを出し抜けなければ意味がないのだ。
ルージュの言葉なき命令に、アンジェラはニヤリと笑って応えた。
「…………OK、ま、なんとかするさ」
『お願いね』
アンジェラがするべきことは、一つでも多く武器を用意し研ぎ澄ますこと。獲物に、体育祭での姿が全力であると錯覚させること。
カオスコントロール、そして幻夢の書には頼らない。切り札は、最後の最後まで取っておかなければならない。
あまり、ワン・フォー・オールも使わない方がいいだろう。完全に使わないわけではないが、獲物をちゃんと餌に食いつかせたいのであれば、
カオスコントロールと幻夢の書が使えないのは痛手だが、それでも、アンジェラは二重の意味でそう簡単に負けてやる気は毛頭なかった。
そんな事情もあり、アンジェラは体育祭までの期間を特訓に費やしていた。
そして、時はあっという間に流れ…………
体育祭当日。
アンジェラ達は現在、クラス別の控室に居た。雄英体育祭では公平性を保つためにコスチュームではなく、体操服で行われる。ただし、靴だけはコスチュームのものを使用してもよいそうだ。芦戸なんかはコスチュームを着たがっていたが、学年別総当りなので仕方がない部分もあるだろう。
クラスメイト達からの緊張が漂ってくる中、アンジェラは平常心を保っていた。今緊張したところで何も起こらないし、無駄に体力を消耗するだけだ。
「皆! 準備はできてるか? もうじき入場だ!」
飯田が皆に号令をかける。アンジェラはテリーヌバッグから出てきたケテルが肩の上に乗ったことを確認して、一口ペットボトルの麦茶を飲んだ。
ほどよい緊張感に場が支配された中、珍しい人物がアンジェラに声をかけた。
「フーディルハイン」
「轟か。何だ?」
その人物とは、轟である。アンジェラは正直、轟のことはあまり知らない。知っていることといえば、せいぜい氷結と炎の2つの“個性”を併せ持っていることと、クラスの中でもあまり人付き合いはしない方だという、クラスメイト達の誰でも知っていることくらいだ。
「客観的に見ても……クラスの全員が束になってかかったところで、お前に掠り傷一つ与えられるかどうかも怪しい」
「そうか?」
「それにお前……オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはないが、お前には勝つぞ」
それは、宣戦布告だった。轟の鋭い眼光がアンジェラを穿く。
「オォ、クラス最強に宣戦布告!?」
「オイオイどうした? 直前にやめろって」
クラスのムードメーカー的な立ち位置の切島は、本番直前ということもあり轟の行動を諌めようとしたが、轟は切島の手を払って言った。
「仲良しごっこじゃねぇんだ。なんだっていいだろ」
その一言に、息を呑むクラスメイト達。確かに、轟の言う事にも一理あると考える者もいた。
そんな中、宣戦布告をされた張本人のアンジェラはというと、
「……ふーん、面白れぇ」
その一言と共に、ニヤリと冷徹な、それでいて楽しそうな笑みを浮かべていた。
その笑みをうっかり視界に入れてしまった者たちは、それが自分に向けられたものではないことは分かっているのに、死神の鎌を首のかけられたような錯覚を覚える。当事者である轟は、よりハッキリと、本当に、死神の囁き声でも聞こえてくるのではないかという感覚に襲われた。
「お前がどこ向いて、何がしたいのかとかは知らねぇけどよ…………
It doesn't matter.
勝つのはオレさ」
まるで詠うように、しかし圧倒的な威圧感をもってアンジェラは口を開いた。
『Hey! 刮目しろオーディエンス! 群がれマスメディア! 今年も、お前らの大好きな高校生達の、青春暴れ馬ァ! 雄英体育祭が始まりeverybody、Are you ready!?
一年ステージ、生徒の入場だぁ〜!』
プレゼント・マイク先生のハイテンションな実況に会場は沸き立つ。カメラのシャッター音も途切れることなく響き渡っていた。
『雄英体育祭! ヒーローの卵たちが、我こそはと鎬を削る年に一度の大バトル!
どうせアレだろ、コイツらだろ!
敵の襲撃を受けたのにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!
ヒーロー科、一年A組だろォ!?』
ちょっとオーバーな実況なのは、今一番ホットな話題であるUSJ事件当事者であること以上に、プレゼント・マイク先生が相澤先生の同期だからかもしれない。アンジェラは頭の片隅でそんなことを思っていた。
A組の入場を皮切りに、B組、普通科、サポート科、経営科と次々と入場していく。全11クラスの一年生がそれぞれの入場ゲートから入場し壇上の前に集まると、今年の一年生の主審の先生が壇上に登った。
「選手宣誓!」
今年の一年生の主審は、過激すぎるコスチュームで国をも動かしたベテラン、十八禁ヒーローミッドナイトだ。近代ヒーロー美術史の先生である。
彼女の登場に、会場に居る男性陣が色めき立つ。常闇の「十八禁なのに高校に居ていいのか」という全くもって当然の疑問に、峰田が全力でいい! と言っていた。アンジェラはうわー……とでも言いたげな視線を峰田に向けていた。当然の反応である。
「選手代表、1−A、アンジェラ・フーディルハイン!」
ミッドナイト先生に呼ばれたアンジェラは、特に臆することもなく壇上に上がった。クラスメイト達の半分くらいは心の中で「爆豪じゃなくてよかった……」と思っていたとかなんとか。
マイクの前に立ったアンジェラは、少し高かったマイクの位置を調整すると、何でもないような顔で言った。
「宣誓、我々生徒一同は、スポーツマンシップとヒーローシップに則り、正々堂々、戦うことを誓います」
このとき、会場の皆は思った。
肩になんか乗っけてること以外は普通だ。と。
しかし、それは一瞬のみのことであった。
何故なら、テンプレの宣誓をした直後、アンジェラがニヤリ、と笑って、凄まじい威圧感を放ったのだから。
元々、面白いこと、楽しいことが好きなアンジェラだ。選手宣誓を、ただの選手宣誓で終わらすはずがない。
その威圧感に生徒たちや観客は背筋が凍るような感覚に襲われ、プロヒーローたちですら薄ら寒いものを覚えた。ケテルはなにやら楽しげに笑っている。
「そして…………お前ら、天辺目指す気ならヒーロー科とか普通科とかそんなもん関係なしに全力で来い。オレも、全力で獲りに行く。以上です」
今度こそ宣誓を終えると、アンジェラはスッと威圧感を引っ込めて壇上から降りた。
この宣誓に対する反応は様々だ。A組のクラスメイトたちはアンジェラらしい煽り方に爆豪よりはマシだなと思っていたり、気が引き締まったと思っていたり。B組も気が引き締まったと感じていたが、他の科の生徒たちは半分以上が気圧されていた。
アイツには、勝てないと。
しかし、それでも諦めない者は居る。A組に宣戦布告を仕掛けた普通科の少年は、アイツを超えなければ、とアンジェラを睨みつけた。
プロヒーローたちは、一体どんな経験をしたらあそこまでの威圧感を放てるようになったのだろう、と身震いしていた。
「さぁ、それじゃあ早速始めましょう! 第一種目は所謂予選! ここで毎年多くの者が
さて運命の第一種目!
今年は……コレ!」
ミッドナイト先生が指し示した空中ディスプレイに映し出されたのは、障害物競走の文字であった。
「計11クラス全員参加のレースよ。コースはこのスタジアムの外周約4キロ! コースを守れば、何をしたって構わないわ!」
ミッドナイトに急かされて、皆が一斉に位置につく。
人数に比べてスタートゲート狭すぎね? とアンジェラは思った。
ゲートのランプが一つずつ、カウントするように音を立てて消えてゆく。そして、3つ目のランプが消えたその時。
「スタート!」
ミッドナイト先生の合図に合わせて、皆一斉に走り出した。
『さーて実況していくぜ! 解説Are you ready!? イレイザー!』
『無理矢理呼んだんだろうが』
実況席の放送から、相も変わらずハイテンションなプレゼント・マイク先生の声と、普段よりも機嫌が悪そうな相澤先生の声が響いてくる。どうやら、マジで無理矢理呼ばれたらしい。
『早速だがイレイザー! 序盤の見処は!?』
『……今だよ』
なんだかんだ相澤先生も実況に混ざってくれていた。そして、相澤先生が言ったことが確かなら、つまりはスタート地点がもう最初の篩、というわけだ。
その言葉通りというべきか、スタートゲートの中はもう人でいっぱいになっており、とてもじゃないがちゃんと進めない。
「こんなの、飛びゃいいだろっ!」
アンジェラはその場で大きくジャンプして、
そのままスタートゲートの外までスピードを出しすぎて事故らないように細心の注意を払いながら飛んでいると、何やら寒さを感じた。
「……轟か!」
《寒いよ〜》
スタートゲートの外に出ると、地面は轟の氷によって凍らされていた。氷結に巻き込まれて足を取られる者も多くいたが、クラスメイト達を始めとした、回避を行っていた者も多くいた。
『早速篩にかけにきましたか。いかがされますか、我が主』
「取り敢えず様子見だ。まだ障害物、ってのは出てきてないし」
『かしこまりました』
アンジェラは氷が途切れたところで地面に降り立ち、
そのまま走っていると、峰田が何かに殴り飛ばされて転がっていた。
『さぁ、いきなりの障害物だ! まずは手始め……
第一関門、ロボ・インフェルノォ!!』
やけにテンションの高い実況が響き渡る。そして、その言葉と同時に姿を現した入試のときの仮想敵たち。どうやら、アレが障害物らしい。
「…………ハァ」
アンジェラは思わずため息をついた。
0ポイントの仮想敵も多いとはいえ、アンジェラにとっては全てひっくるめて「鈍臭い鉄の塊」でしかない。
眼の前では轟が不安定な態勢の0ポイント敵を凍らせていた。凍らされた仮想敵は、そのまま倒れてくる。
「ソルフェジオ」
『かしこまりました』
アンジェラはソルフェジオを手に取り、身の丈ほどはある大剣へと変形させる。そのままワン・フォー・オールを全身に発動させ、大きくジャンプすると、足元に魔法陣を現出させ、ソルフェジオに風の魔法を纏わせ、振るった。
「
ソルフェジオから放たれた風の斬撃は倒れかけていた仮想敵を粉々に砕いた。
アンジェラはソルフェジオをペンダントに戻すとそのまま地面に着地し、轟の後を追う。
『1−A轟が倒した仮想敵を、同じく1−Aの留学生、フーディルハインが一撃だァ! なんつーか、アレだな! ズリぃな! 倒れてきた仮想敵を狙ったあたり、フーディルハインは人助け精神も満載じゃねぇか!』
『轟は合理的かつ戦略的。フーディルハインも人助けをしながら自らの能力のアピールも欠かさない』
『流石は推薦入学者と入試首席ぃ!』
そのまま走っていると、次の障害物が見えてきた。
『オーイオイ第一関門チョロいってよ! じゃ、第ニ関門はどうよ!
落ちればアウト! それが嫌なら這いずりな! ザ・フォール!!』
そこには、底が見えない穴に、いくつかの足場が点々としていた。足場と足場は綱で繋がっている。これを伝っていけということだろう。
「ま、オレには関係ないけどな」
アンジェラは綱には目もくれず思いっきりジャンプすると、足元に防壁魔法陣を展開した。
防壁魔法陣は簡易防壁そのものであり、上に乗ることができる。アンジェラはジャンプしては足元に防壁を展開し、またジャンプして足元に防壁を展開しを繰り返し、第二関門を難なく突破した。後ろをちらりと見ると、爆豪が追い上げてきている。“個性”の性質上、スロースターターなのだろう。
『マジか! フーディルハインは魔法陣的なのをジャンプで伝って難なく突破ぁ! ロープが意味を為してねぇなコリャ!』
『そういう突破の仕方もある』
『さぁて先頭二人が一足抜けて下はダンゴ状態! 上位何名が通過するかは公表してねぇから安心せずに突き進め!
そして早くも最終関門! かくしてその実態は……』
アンジェラは丁度最後の障害物の前まで来たところで、一瞬呆けたような顔をした。
『一面地雷原! 怒りのアフガンだァ! 地雷の位置はよく見りゃ分かる仕様になってるぞ! 目と脚酷使しろ! 因みに地雷は競技用で、威力は大したことねぇが、音と見た目は派手だから、失禁必至だぜ!』
「『人によるだろ、人に』」
つい、相澤先生とツッコミが被ってしまった。というか、いくら雄英だからってまさか障害物競走に地雷を持ち込むとは思っていなかった。
「さて、驚くのはこのくらいにしておいて……この地雷、飛びゃ回避できるだろうけど……」
《面白くなーい》
「ケテル、大正解」
アンジェラはニヤリと笑い、ケテルを腕に抱く。そして、全速力で駆け出した。すぐ後ろには爆豪が迫っていたがすぐに突き放す。そのスピードのまま轟も引き離した。
「っな、フーディルハイン!?」
「Hey,guys! おっ先ー!」
「……っチ!」
アンジェラのスピードは身体強化魔法抜きの場合でもマッハは軽く超える。そのあまりのスピードに、地雷が発動することなくアンジェラは駆け抜けていった。そのままスピードを緩めることなくゴールへと走る。
『フーディルハイン、その圧倒的なスピードでなんと地雷原即クリア! イレイザーヘッドお前のクラスすげえな! どういう教育してんだ!?』
『俺は何もしてないよ。奴らが勝手に火ぃ点けあってんだろ』
轟と爆豪も全速力で追い上げるもの、アンジェラの圧倒的なスピードには敵わない。
『雄英体育祭、一年ステージ!』
『無視か!』
『選手宣誓通り、最初にこのスタジアムに帰ってきたのは、
A組、アンジェラ・フーディルハインだぁぁぁぁ!!!』
沸き立つ会場。アンジェラは少し照れくさそうに笑った。
その頃、スタジアムの通路にて。
「あれ……ここ、さっきも通った気が……道に迷ったか……?」
赤い少年が、道に迷っていたそうな。
Q,アンジェラさん、ワン・フォー・オールをどうこうする方法は調べへんの?
A,アンジェラさんとソルフェジオで調べてはいますが、これといって成果はありません。そもそも幻夢の書は様々な形体化された魔法の扱い方が書かれている本なので、この世界にしかない“個性”をどうこうする方法は書いていないのです。よって、一からその方法を調べるしかないのですが、アンジェラさんは前にも言ったように独学で魔法を勉強しているので、それには果てしないほどの年月がかかります。その間にオールマイトは間違いなく死にます。長生きしたとしても死にます。
なので、まずは日本での仕事を終わらせて、そのあと魔法にまつわるであろう遺跡を探して巡って方法を探ろう、とアンジェラさんは考えています。ソニックさんたちに頼もうにも、序章にあったように魔法にまつわるギミックは現状アンジェラさんにしか解けなどころか察知も出来ないので。
………魔法にまつわる設定、どこか、具体的にはアビスで見たぞと思ったそこの貴方。その考えは間違いじゃありません。
白状します、アビスの上昇負荷見てこの設定思いつきました。