大盛りあがりの会場。アンジェラのゴールを皮切りに次々とゴールゲートを潜る生徒たちの表情は様々だった。自分の結果であれば通過しているだろうと安堵する者、もっと上位をとれたと悔しがる者、通過できたかとハラハラする者、なんかセクハラしてる奴……
「……おい峰田」
「ハッハイ!」
ドスの効いたアンジェラの声に、八百万の背中に張り付くというセクハラを働いていた峰田はビクっと反応する。アンジェラは笑顔であったが、目は一切笑っていなかった。ケテルはアンジェラの肩の上でケタケタと笑っている。アンジェラの背後にがしゃどくろのような恐ろしいものが見えたと後に峰田は語った。
「いいか、一度しか言わないからよく聞け。
降りろ。早急に」
「さ、サーイエッサー!!」
さしもの性欲の権化たる峰田も、あまりの恐ろしさにすぐさま言われた通りに地面に降りた。うっかりちびりそうだったと後に峰田は語る。
「ありがとうございます、アンジェラさん……」
「Don't worry.災難だな……色々と」
席が前後ということで、アンジェラはなにかと八百万と峰田と関わる機会がある。しかし、峰田の性欲にはアンジェラも呆れ返っていた。USJでの一件で、やるときはやるやつだということは分かっているのに勿体ないとつくづく思う。
そんなふうに選手側がわいわいとしている中、教師用の観客席にて観戦していたオールマイトは、アンジェラの“個性”……もとい魔法の使い幅に驚いていた。
(すごいな……彼女の“個性”は。ワン・フォー・オールがなくてもナンバーワンを目指せていたかもしれないな)
オールマイトは同時に、アンジェラが少なくとも敵よりの思考の持ち主ではなかったことに改めて安堵を覚えていた。
ちなみに、体育祭に参加するメリットがない経営科の生徒の一部は、アンジェラをどう売り込むかという仮定で話し合いを繰り広げていたとかなんとか。
最後の一人がゴールしたところで、ミッドナイト先生から結果が発表された。
上位42名が通過、第二種目に進める者たちだという。ヒーロー科の生徒全員と、普通科とサポート科から一人ずつだ。予選落ちしてしまってもまだ見せ場は用意されているらしい。
そして、次からいよいよ本選だ。ここからは取材陣も白熱してくるのだという。アンジェラは「仕事」がやりやすくなるな、と頭の片隅で思っていた。
「さーて、第二種目よ。私はもう知ってるけど……何かしら……何かしら……
言ってるそばから、コレよ!!」
ミッドナイト先生が指し示した先にあったのは、空中ディスプレイに表示された「騎馬戦」の文字であった。どうやらこれが第二種目のようだ。ミッドナイト先生が説明を始める。
「参加者は二人から四人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ。基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど、一つ違うのが……
先程の結果に従い各自にポイントが振り当てられること!」
つまり、入試の時のようなポイント稼ぎ方式である。組み合わせによって騎馬のポイントも変わるため、誰と組むかよく考えなくてはならない。そして、与えられるポイントは下から5ずつ。42位が5ポイント、41位が10ポイントといった具合だ。
このまま順当に行けばアンジェラのポイントは210ポイントだが、そこは雄英。普通の範疇で終わらす筈もない。
「上を行く者にはさらなる受難を。雄英に在籍している以上何度でも聞かされるよ。これぞPULS ULTRA!
予選通過一位、アンジェラ・フーディルハインさんに与えられるポイントは、一千万!」
「………………………………」
つまり、一位の騎馬を崩してしまえば、どんな状況でもトップに立てる。
周囲のアンジェラを見る目が変わる。それは、獲物を見つけた肉食獣のようだった。さしずめ、アンジェラは獲物といったところだろうか。
「そう、上位の者ほど狙われる下剋上サバイバルよ!」
…………しかし、普段のアンジェラからは想像もつかないことだが、周囲の空気に気付かないほどに、
「…………?」
アンジェラは、ずっと首を傾げていた。
ミッドナイト先生の説明は続く。
競技の制限時間は15分。各選手に振り当てられたポイントの合計が騎馬のポイントになり、騎手はそのポイントが書かれたハチマキを頭に装着する。終了までにハチマキを奪い合い、保持ポイントを競う。獲ったハチマキは首から上に巻かなければならない。取りまくれば取りまくるほど管理が大変になる。ハチマキは取りやすさを重視したマジックテープ式だ。
また、ハチマキを獲られても、騎馬が崩れても、アウトにはならない。試合中は“個性”発動あり。ただし、悪質な崩し目的の攻撃はレッドカード、すなわち一発退場である。爆豪が舌打ちしたような気がしたが気にしない。
チーム決めの交渉は15分。かなり短いが、全体の尺も押しているのだろう。
皆がチーム交渉に動いている中、珍しくアンジェラはポツンと立ち尽くし、首を傾げていた。
そんなアンジェラに声をかける者が居た。麗日だ。
「あれ、アンジェラちゃん、珍しいね。アンジェラちゃんってこういうとき速攻動くタイプだと思ってたんやけど」
「ああ、麗日。ちょうど良かった」
麗日の方に振り向いたアンジェラは、しかし未だに首を傾げていた。麗日はどうしたのだろう、と疑問を抱く。
「聞きたいんだが……
騎馬戦って、何だ?」
そう、アンジェラがずっと首を傾げていたのは、緊張でも、ましてや不安だからでもない。
単純に、騎馬戦とは何かが分からなかったのである。
「…………あ、そっか! ラフリオンに騎馬戦ってないの?」
「ああ、初めて聞いた。ハチマキを奪い合うってのは理解できたんだが、他がさっぱりで……」
「だから首傾げてたんだ……」
麗日はこれが所謂カルチャーショックだろうか、と若干間違った感想を抱きながら、アンジェラに騎馬戦の基本的なルールを手短に教えた。
「……I see.大体理解した。要は、オレの場合はハチマキ獲られなきゃいいんだろ?」
「うん、そういうこと! ね、アンジェラちゃん、組も!」
「おう、いいぞ。オレ、身長の問題で騎手ってのやるしかないと思うけど」
アンジェラはかなり身長が低い。クラスの女子の中ではおそらく一番低い。本人の身体能力は高く、高校生を持ち上げるくらいはわけないものの、身長が低いせいで手足も短いので、馬は務まらないだろう。
「……となると、アイツと組みたいな……」
麗日の説明からある策を考えついたアンジェラは、早速その人物……飯田へ交渉に向かった。
しかし。
「すまない……断る」
「……何か理由でも?」
ハッキリと断られてしまった。麗日はショックを受けたような表情になったが、アンジェラはある程度予想はしていたのか落ち着いた様子のまま聞き返す。
「入試の時から、君には負けてばかり。素晴らしい友人だが、だからこそ、君についていくばかりでは、未熟者のままだ。
君をライバルとして見るのは、爆豪君や轟君だけじゃない。俺は、君に挑戦する」
それは、紛れもない宣戦布告だった。開会式の直前に、轟がアンジェラにやったものと同じ。
自分を超えるため、夢に一歩でも近付くために、飯田はアンジェラに挑むつもりなのだ。
そんな飯田の宣戦布告に、アンジェラは満面の笑みを浮かべて言い放った。
「っくっくっく……いいねェ、そういうの! 面白いッ!!
来いよ。その勝負、受けて立つ!」
「ッ……! ああ、こちらとて、負けるつもりはない!」
飯田はそう言うと、轟、八百万、上鳴の元に向かう。どうやら彼らが飯田のチームメイトらしい。
飯田の絶対に勝つという気概。それに応えずしてどうするのか。アンジェラは不敵な笑みを浮かべた。
「っつっても策は練り直しだけどな」
「根本的には進展してないよね、それ。寧ろ後退してない?」
麗日の言う事ももっともだが、飯田が誰と組むかを知れたのは収穫だろう。決して無駄ではない。
ただ、策が練り直しになった事実は変わらない。どうしようかと悩む二人の元に、近付いてくる影があった。
「私と組みましょう、一位の人!」
「いやお前誰だよってか近っ!」
近付くどころか急接近してきたのは、サポート科で唯一第二種目に進出した女子であった。全身サポートアイテムフル装備だ。
因みに、公平を期すため、サポート科は自身が開発したアイテム、コスチュームに限り装備可能らしい。閑話休題。
「失礼、私、サポート科の発目明と申します! あなたの事は知りませんが立場利用させてください!」
かなりあけすけな人だった。発目はアンジェラ達の様子は気にせずに話を続ける。
「あなたと組むと注目度が必然的にナンバーワンになるじゃないですか。
そうすると、私のドッカワイイベイビー達がですね、大企業の目に止まる訳ですよ。
それってつまり、大企業の目に私のベイビーが入るってことなんですよ!」
「ちょちょ、待って、ベイビーが大企業? それてどういう……」
話についていけなくなった麗日が問いかけるも、発目はアンジェラしか視界に入っていないようだ。麗日のことは完全に無視している。
「私、ベイビーがたくさん居るので、きっとあなたに見合うものがあると思うんです!」
「あー、ちょっと待て。つまり、ベイビーってのはお前の作ったサポートアイテムで、お前はオレを広告塔に利用したいと?」
「理解が早くて助かります! 大方その通りです」
発目は良くも悪くも科学者気質のようだ。だが、サポートアイテムによる戦力増強はかなりのアドバンテージとなるだろう。
発目のアイテム話を聞いていたアンジェラと麗日だったが、ふとアンジェラの目にあるものが留まる。
「あれ、そのホバーシューズってもしかして……」
「流石は一位の人! お目が高い! このホバーシューズは、ある競技用ギアの技術を応用して作ったものでして……」
「エクストリームギアだろ? 知ってるよ。ってか持ってる」
「本当ですか! 日本じゃイマイチ知名度が低いし製品も出回らないしであまりその技術を応用した製品も作られないんですが、私はエクストリームギアにはさらなる可能性があると確信してるんですよ!」
「それなら今度見せてやろうか? バラさない弄くり回さないって条件呑めるなら、だけど」
「ハイ! 我慢します! あ、基盤は見せてもらっても?」
「見るだけならいいぜ」
「やった──!! あ、チームの方は組んでいいですか?」
「Of course!」
エクストリームギアの話題で意気投合することに成功したアンジェラと発目。
「……なんか、釣ってる」
話についていけない麗日は、拗ねていたとかなんとか。
「よし、これで機動力は確保したな……あとは、
アンジェラは周囲を見渡した。皆、もう殆ど固まってしまっている。残りは作戦会議の時間にでも充てているのだろう。
誰か居ないか、とキョロキョロしていたアンジェラだったが、ついに相性のいい人物を発見した。その人物に近づき、肩に手を乗せる。
「常闇、オレと組んでくれ」
その人物とは、常闇である。彼の“個性”はダークシャドウ。伸縮自在の影っぽいモンスターをその身に宿している。
「……理由は?」
「お前には前衛を任せたい。ただ、前衛とは言っても任せたいのは中距離全方位防御だ。オレの“個性”でできなくはないが、どうしてもタイムロスが出る。その分、お前のダークシャドウならタイムロスは無いだろ? 攻撃はオレがやる」
「なるほど……」
常闇は自身の“個性”、ダークシャドウの弱点を話してくれた。そのものズバリ、光である。
「俺の“個性”は闇が深くなるほどに攻撃力が増すが、獰猛になり制御が難しくなる。逆に日光下では制御こそ可能だが、攻撃力は中の下といったところだ」
「OK,その情報を他に知ってるやつは?」
「USJで口田には話したが、奴は無口だ」
「OK,OK……それが分かりゃ十分だ。麗日、発目、よく聞け。作戦だが……」
常闇の“個性”の弱点を加味したアンジェラは、テレパシーでソルフェジオに声をかけた。
(……ソルフェジオ、あの魔法の準備にはどれくらいかかる?)
『今から準備したら騎馬戦後半戦まではかかるかと』
「よし……お前らにしてほしいことは……」
アンジェラさんがセクハラに厳しいのは女子だからなのもありますが、別に大きな理由があったりします。いつか書くかも。