音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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連投します。


騎馬戦

「よーし、組み終わったな! 準備はいいかなんて聞かねーぞ!」

 

 今この場に、12組の騎馬が揃った。

 

 アンジェラの騎馬の総ポイントは一千万と325ポイント。布陣は右翼を発目、左翼を麗日、前騎馬が常闇、そして騎手がアンジェラだ。アンジェラと麗日も発目のサポートアイテムを装備している。

 

「いくぞ、お前ら! 作戦通りに!」

「うん!」

「はい!」

「……ああ」

 

 

『サァ行くぜ! 残虐バトルロイヤル! 

 

 3……2……1……!』

「スタート!」

 

 プレゼント・マイク先生のカウントダウンとミッドナイト先生の合図が響き渡る。今ここに、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 そして、スタートの合図と同時にアンジェラ達の方へ突っ込んでくる、騎馬の群れ。彼らの狙いは唯一つ。

 

「実質一千万の争奪戦だぁ!」

 

 そう、一千万という実質的な勝利への切符を持つ、アンジェラ達のハチマキである。

 

「いきなり襲来か……追われし者の運命、選択しろ、フーディルハイン!」

「いいねェ、こういうの! そりゃ、逃げの一手だ! 時間を稼ぐぞ(・・・・・・)!」

 

 アンジェラは手元に意識を集中させる。そこに現れたのは、数多の水色に光る魔力弾。

 

「牽制は任せろ! 星の弾丸(ストライトベガ)っ!」

 

 魔力弾がアンジェラ達を狙う騎手の頭部を狙い撃つ。魔力ダメージ魔法による魔力弾なので肉体に傷こそつかないが、再現された痛みに悶える騎手たち。

 

「っ! アンジェラちゃん、足元が!」

 

 この隙に逃げようと思っていたアンジェラ達だったが、麗日達の足元の地面がぬかるみ、脚を取られてしまった。どうやら、B組の“個性”のようだ。

 

「っち、麗日、発目、顔避けろ!」

 

 アンジェラは発目のサポートアイテムである、背中のジェットパックを起動させる。その推進力で、足元のぬかるみから脱出することに成功した。

 

「どうですか、ベイビーは! カワイイは作れるんですよ!」

「機能性バッチリ、凄いぜベイビー!」

 

 麗日以外は麗日の無重力(ゼログラビティ)で浮かしているので、総重量は麗日+装備や衣類品のみ。麗日の“個性”と発目のサポートアイテムなしではできなかったであろう高機動戦略だ。

 

「よし、麗日! 足元気をつけとけ! 常闇、周囲の警戒頼む!」

「オッケー!」

「了解した!」

「ケテルも索敵に入ってくれ! ダークシャドウの死界を埋める感じでな!」

《いえっさー!》

 

 アンジェラは全員に指示を出すと、もう一度魔力弾の弾幕を形成させ、麗日達の足元に手を伸ばし、魔力を込める。

 

触れる境界線(エスディーアベント)

 

 アンジェラが唱えると、麗日たちの足元に巨大な魔法陣が現れる。

 

 触れる境界線(エスディーアベント)。点ではなく面の攻撃に強い防御魔法陣を出す防御魔法だ。

 

「着地成功! ……これ、着地っていうのかな?」

「細かいことは気にしない気にしない」

 

 魔法陣の上に降り立ったアンジェラ達。会場はいきなりの巨大な魔法陣出現に沸き立った。

 

『おーっとここでフーディルハインチーム、空中に逃げたかと思ったらその空中で留まったぁ!?』

『予選で見せていた空中移動技の応用だろ。フーディルハインチームの場合、一千万をそのまま保持し続けていれば勝てる。実に合理的だ』

 

 プレゼント・マイク先生と相澤先生の実況に、会場に来ているプロヒーロー達や経営科達は早速分析を始めた。

 

《お姉ちゃん! 九時方向!》

 

 ケテルのテレパシーを受け取ったアンジェラがその方向を向くと、そこには騎馬から離れて飛んできた爆豪の姿があった。

 

「そのふざけたモン、ブッ壊す!」

「させるか!」

「ダークシャドウ!」

 

 常闇は爆豪の爆破をダークシャドウで防ぎ、アンジェラは魔力弾の集中砲火を爆豪に浴びせた。その衝撃で推進力を失い、地面に向かって落ちる爆豪。チームメイトの瀬呂がテープを用いて騎馬に戻していたので、失格扱いではない。

 

「このまま終了まで待機してればいいの?」

「いや、そうしたいのは山々だが、コレは本来防御用で、長時間出したままにしておくことは前提にない。いずれ崩れ始める」

 

 そう、アンジェラは完全な航空戦はハナから考えていない。上空で魔法陣の上に留まっているのだって、単なる時間稼ぎでしかないのだ。

 

『あと12分』

「あと12分……それまで、粘り切るぞ!」

「うん、分かってる!」

「ふふふ、私のドッカワイイベイビー、ぜひお役立てください!」

「防御は任せろ、フーディルハイン」

 

 アンジェラはニヤリ、と笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残り時間3分。騎馬戦もいよいよ佳境に突入した。

 

 そして、このタイミングで防壁魔法陣が崩れ始める。

 

『おーっと、難攻不落かと思われていたフーディルハインの足場が崩れ始めた!』

『恐らくだが、長時間、しかも足場としての運用は本来のアレの用途とは外れてるんだろう』

『ナイス解説!』

 

 アンジェラは思わず舌打ちをする。

 

「っち、防壁が崩れた! 着地するぞ!」

「うん!」

 

 アンジェラは防壁を粉々に砕き、魔力弾へと変換して地面に向かって撃つ。アンジェラたちが着地してくると察した者たちが着地狩りを行おうとするも、降りしきる弾幕の雨の中ではそれも出来ない。アンジェラたちは発目のホバーシューズもあり、安全に地面に着地することができた。

 

『あと30』

「なるべく動け! 固まってると格好の餌食だ!」

「「「了解!」」」

 

 弾幕の雨がやんだと同時に、麗日達は走り出す。

 

 周囲はもう混戦状態。一千万は諦めて、2位から4位までの騎馬のポイントを獲ろうとする者が多くなってきたが、やはり一千万を狙う者のほうが多い。もうハチマキを獲られた者たちは、無くすものがないのであればとよりその色が濃い。あっという間に周囲を包囲されたアンジェラ達。

 

「常闇テメェ、なに一人だけハーレム築いてんだコラァ!!」

 

 障子、蛙吹と組んでいる峰田はそんなことをのたまっていた。実にどうでもいい。

 

 そんなことはともかく、アンジェラ達はなんとか他の騎馬から逃げ回っていたが、ふと、冷気を感じた。

 

「これは……轟か!」

 

 アンジェラ達の眼の前には、轟達の姿があった。どうやら、本格的にアンジェラの一千万ポイントを獲りにきたようだ。

 

「距離をとれ!」

「うん!」

 

 麗日達はホバーシューズの機動力で轟から距離をとる。

 

 と、上鳴が放電し、痺れている隙に他のアンジェラ達を狙っていた騎馬が轟の氷によって凍らされた。轟達は、放電のダメージを八百万の創造で回避したようだ。

 

 アンジェラ達は常闇のダークシャドウとアンジェラの防御魔法で直撃こそ回避できたものの、強力な電気を浴びたせいかアンジェラが背負っているバックパックから煙が出ていた。

 

「Shit! バックパックがイカれた!」

「ベイビー! 改善の余地あり!」

 

 もう空中移動は不可能。周囲も轟によって凍らされ、逃げ回れるエリアも狭い。

 

 しかし、いや、だからこそ、アンジェラは楽しそうに笑っていた。

 

「Hehe……いいねェ、こう、追い詰められた時が一番燃える!」

 

 轟達が突っ込んでくる。アンジェラは麗日たちになるべく左側に重心を置くように指示を出し、常闇のダークシャドウを全面に押し出すことで轟達を牽制し、轟の攻撃を掻い潜っていた。

 

「っち、全然隙がねぇ……!」

「まだだ、まだ時間はある!」

 

 轟はどうアンジェラを攻略しようか考えつつも、ハチマキを狙って攻撃を仕掛けていた。

 

 拮抗する戦況。しかし。

 

 

 

 

 

 

 

『発動準備完了』

 

 ソルフェジオの一言により、戦況は一変する。

 

「……! よしっ!」

 

 アンジェラはソルフェジオを杖に変形させて構えた。

 

「アンジェラちゃん、もしかして!」

「ああ、準備完了だ。これで決めるぞ!」

 

 アンジェラの周囲に魔力が渦巻く。アンジェラの様子の変化を感じ取った飯田は、切り札を切るしかないと構えた。

 

「これを使えば俺は使い物にならなくなる……必ず獲れよ、轟君!」

 

 飯田はそう言い、エンジンを吹かす。狙うは唯一つ、一千万のハチマキだ。

 

「トルクオーバー……レシプロ、バースト!!」

 

 トルクの回転数を無理矢理引き上げることによって、爆発力を産む飯田の切り札、レシプロバースト。使用後はエンストを起こしてしまうという副作用はあるものの、飯田の機動力を最大限に活かせる裏技だ。

 

 レシプロバーストの超加速によってアンジェラ達の方へと迫る。その勢いのまま、轟はアンジェラのハチマキを奪い取ろうとしたが……

 

時を止める境界(アンハードサークル)っ……!」

 

 轟がアンジェラに手を伸ばしたその瞬間、ガキィン! という金属と金属がぶつかりあったような音がした。

 

 と思ったら、轟がアンジェラに伸ばしていた腕は、アンジェラの杖とそこから現出した魔法陣、そして、その魔法陣から伸びた光の鎖によって阻まれていた。

 

 轟は阻まれていない方の腕をアンジェラのハチマキに伸ばそうとするが、その腕はアンジェラの方へ伸ばされる前に、空中に現出した魔法陣と光の鎖によって動きを封じられた。

 

「勝ったと確信したとき、人は予想外のことが起こると戸惑う……有名な話だ。そして、その戸惑いは大きな隙を生む」

 

 アンジェラはニヤリと笑う。まるで、イタズラが成功した子供のような目をしていた。

 

 轟が悔しそうに周囲を見ると、騎馬戦のフィールド全体に巨大な魔法陣が張り巡らされていた。先程までは、あんなものなかったのに。

 

『おおっと!? フィールド全体にいきなり現れた謎の魔法陣! そして急に動きを封じられた轟! これもフーディルハインの仕業かぁ〜!?』

「こういう多対多の戦いで大切なのは、何だと思う? 

 

 機動力、攻撃力、テクニック……どれも大切だが、違う。

 

 正解は、フィールドを制圧する力。そして、作戦立案力だ」

「まさか、これ全部フーディルハインが……!」

「Exactly! ここまで準備するのにはかなり時間かかったがな」

 

 そう、これがアンジェラの作戦。フィールドに張り巡らされた魔法陣は大型結界、時を止める境界(アンハードサークル)の魔法陣である。この結界の内側は、結界の主がある程度自由に干渉できる。

 

 本来なら事前に魔法陣を展開しておかなければならない拘束魔法を、結界内に自在に展開することくらいは容易いのだ。

 

 ただし、これほどの大規模魔法となると発動までにかなりの時間を要する。幻夢の書が使えない今の状況は、それに拍車をかけていた。

 

 とにかく逃げに徹して時間を稼ぎ、術式を準備。準備が完了したら向かってくる騎馬を全て拘束。これこそが、アンジェラの考えた作戦だった。

 

「鎖を投げ飛ばしたら当然拘束を警戒されるし、その鎖を相手に利用されかねない。こんな混戦状態なら尚更だ。

 

 だからこその結界だ。コレならどこから拘束されるか相手は分からないから迂闊にオレたちに手出し出来ねぇよ」

「すごい……やっぱりすごいよアンジェラちゃん!」

「ああ、見事な作戦だ。最初に空中に留まったのもこの作戦を実行するための陽動か」

「Yes.話が早いな常闇」

 

 轟はなんとか鎖から拘束から抜け出そうともがくも、鎖が外れる気配は一向にない。力いっぱい引っ張っても、どんなに“個性”を使っても。

 

 途中、爆豪達もアンジェラのハチマキを狙ってきたが、アンジェラの拘束魔法によって動きを封じられた。

 

 そして。

 

『TIME UP!』

 

 プレゼント・マイク先生のアナウンスが響いた。

 

 騎馬を崩したアンジェラは、すぐさま魔法陣を消して轟達の拘束を解除し、ソルフェジオをペンダントに戻した。それと同時に、プレゼント・マイクが順位発表のアナウンスをしていた。

 

『んじゃまぁサクッと結果発表するぜ! 

 

 一位、フーディルハインチーム! 

 ニ位、轟チーム! 

 三位、爆豪チーム! 

 四位、鉄哲チーム……ってあれ、心操チーム!? いつの間に順位逆転してたんだよ!? 

 

 まぁ、以上4チームが、最終種目へ進出だぁ──!!』

 

 沸き立つ会場。轟達と爆豪はアンジェラに勝つことが出来なくて心底悔しそうにしている。麗日たちは嬉しそうに笑っている。

 

「やったね、アンジェラちゃん!」

「ああ、お前らのおかげだ」

「何を言う。この作戦の一番の功労者はフーディルハインだ」

「いや、麗日の無重力(ゼログラビティ)が無けりゃ防壁の上に高校生四人なんて乗れなかったし、発目のサポートアイテムが無けりゃ空中機動の陽動も無理だった。常闇のダークシャドウの防御が無きゃ最初の爆豪の突撃の時点でハチマキ取られてたかもしれねぇ。これは全員で獲った勝利だよ」

「ふふふ、嬉しいこと言ってくれますね。是非今後ともサポート科発目明をご贔屓に!」

 

 アンジェラたちはそれぞれ自分たちの勝利を称え合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなアンジェラを、轟は何やら思い詰めたような表情でじっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、丁度騎馬戦が終了して少し経った頃。

 

 

「……あれ、やっぱここさっきも通ったよなぁ…………

 

 ……あ、コレがあった」

 

 赤い少年は荷物の中に使えるものがあることにようやく気が付いた。

 

 




Q.何でアンジェラさんは防壁が崩壊したときに触れる境界線(エスディーアベント)をもう一回使わなかったの?

A.そもそも連続で使えないからです。アンジェラさんは防御魔法が特別得意というわけじゃないので。
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