レクリエーションが終了し、スタジアムのフィールドには、セメントス先生の“個性”によって最終種目のステージが作られていた。ステージが完成したと同時に、プレゼント・マイク先生による最終種目までハイテンションなアナウンスが入る。
「Hey,guys! Are you ready!?
色々やってきましたが、結局これだぜガチンコ勝負! 頼れるのは己のみ! ヒーローでなくともそんな状況ばっかりだ、分かるよな!?
心技体、知恵知識! 総動員して駆け上がれ!」
会場は最高に沸き立つ。アンジェラはステージの入口付近の壁に背中からよりかかって、呼ばれるのを待っていた。その表情に緊張による強張りは一切なく、寧ろこれから巻き起こるステージを楽しみにしているようにも見えた。
「Hey!」
「オールマイト」
そんなアンジェラの元に、トゥルーフォー厶のオールマイトが現れた。
「フーディルハイン少女、君は本当に素晴らしい。後継になってくれないのが惜しいくらいだ」
「オールマイト、オレはアンタの後継にはなりませんよ」
「ああ、分かってる。そのことを強制するつもりは毛頭ない。でも、ここまで来たからには体育祭、最後まで駆け上がってきてくれよ!」
「勿論、最高のパーティーにしてやりますよ!」
アンジェラはステージに向かって足を進め、入口から出る直前に立ち止まった。オールマイトがどうかしたのか、と思っていると、アンジェラはその黄金の瞳を輝かせて、オールマイトの方に頭を向けた。
「オレはアンタの後継にはなりませんけど、もし、アンタたちだけではどうしようもない巨悪が現れたとしたら。
そん時は、頼まれれば手伝いくらいはしますよ」
そう言って薄く笑みを浮かべたアンジェラは、そのまま踵を返さずステージの方へ歩みを進めていった。
「……やはり君は、ヒーローではないけれど、とても良い人だな」
オールマイトは、そう呟いて笑った。
『オーディエンス共! 待ちに待った最終種目が、遂に始まるぜ!
第一回戦!
欧州はラフリオンよりの留学生! 現在連続一位のマジカル・ガール! ヒーロー科、アンジェラ・フーディルハイン!
VS
ゴメン、まだ目立った活躍ナシ! 普通科、心操人使!』
ステージの四隅にある仕掛けから炎が舞い上がる。プレゼント・マイク先生のコールに合わせて、アンジェラと心操はステージの上に立った。
最終種目、ガチンコバトルのルールはいたって単純。
相手を所定の枠の外へ出して場外判定にするか、行動不能にする。あとは、まいったとか言わせても勝ち。出張保健室に保健医のリカバリーガールが待機しているため、道徳倫理は一回捨て置いてOK。ただし、命に関わるようなものは当然アウトである。
「クソの場合は止めるからね」
ステージの近くにはセメントス先生が、壇上には主審であるミッドナイト先生待機している。いざというときはセメントス先生のセメントを操る“個性”によって、もしくはミッドナイト先生の眠らせる“個性”によって止めるのだろう。
アンジェラが軽くストレッチをしていると、心操が口を開いた。
「まいった……か。これは心の強さを問われる戦い。
強く思う将来があるなら、なりふり構ってちゃ駄目なんだ」
心操の声と同時に、プレゼント・マイク先生によるスタートの合図が響く。アンジェラは頭の中に入り込んでくる違和感を感じながら、そっとソルフェジオに触れた。
「あの猿はプライドがどうとか言ってたが、チャンスを溝に捨てるなんて馬鹿だと思わないか?」
アンジェラの心を抉るように語りかける心操。その意図を確信しているアンジェラは、ニヤリ、と笑いながら、
「オレに揺さぶりをかけるためとはいえ、酷いこと言うなぁ」
敢えて彼の策に乗ってやった。
瞬間、アンジェラの動きがピタリと停止した。
『オーイオイどうした!? 大事な初戦だ、盛り上げてくれよぉ! フーディルハイン、開始早々、完全停止ィ!?』
アンジェラは停止したまま動かない。観覧席で観ているA組のメンバーは困惑し、尾白はせっかく忠告したのに……と苦言を呈している。
「フーディルハイン、お前はいいよな、恵まれてて。
……振り向いてそのまま場外まで歩け」
棒立ちだったアンジェラは、その場でくるりと後ろを振り向いて一歩、また一歩と場外へ歩いていく。
その光景を無言で観ていたナックルズは、ふと口を開いた。
「あの心操ってやつの“個性”は洗脳か?」
「あ、はい。多分そうだと思います。騎馬戦のとき、俺も恐らくあいつの“個性”にかかっていたので……」
ナックルズの問いかけに答えたのは尾白だ。ナックルズはそうか、と呟くと軽くため息を吐いた。
「アンジェラ
「わ、わざと!?」
「そんなことして、フーディルハイン君に何か得でもあるというのですか!?」
「あるといえばあるかもしれないが、ない可能性の方が高い」
ナックルズはただ、と前置きをしてアンジェラを見やる。場外に向かって歩いていたアンジェラは、あと半分という所で停止していた。
「ちょっとしたご褒美というか、そんな感じなんだろ。アンジェラは突拍子も無いことを考え付くような奴だ」
心操は困惑していた。衝撃を与えたわけでもないのに、洗脳が解除されたのか? いや、そんなわけは……
『おや? フーディルハイン再び停止! 一体なにが起こったというのか!?』
心操は軽く舌打ちをして、再びアンジェラを洗脳しようと口を開こうとする。
しかし、その前に口を開いた存在が居た。
「……あなた、心操とか言いましたか」
それは、アンジェラの声だった。しかし、口調は全くの別人。
「お前……何をした!?」
心操は大声を張り上げる。アンジェラはゆっくりと振り返った。
「
振り返ったアンジェラの姿に、心操は、否、ナックルズとケテル以外の会場に居る全ての人物は目を見開いた。アンジェラの瞳は、本来トパーズを思わせる黄金色であるはずだ。
しかし、今のアンジェラの瞳は、サファイアのような美しい蒼色に染まり上がっていた。
「……アンジェラの気まぐれに付き合わされて、ソルフェジオも大変だな」
《お姉ちゃんかっこいー!》
ナックルズはそうぼやいて、横ではしゃいでいるケテルを諌めた。
そう、今アンジェラの身体を使っているのはアンジェラではない。ソルフェジオがその肉体を使っているのだ。主たるアンジェラの同意の上で、ソルフェジオは一時的にその肉体を使うことができる。
「っ、お前、誰だ!」
「私はあなたの相手をしたく、
ソルフェジオは、アンジェラの肉体を自らのものが如く操り、音速の脚で心操との距離を詰める。心操は距離を詰められたことよりも、アンジェラが返答したのに洗脳がかかっていないという事実に驚愕していた。
「何で、洗脳が……!」
「私は
ソルフェジオは心操の腕を掴むと、場外へ向かって思いっきり投げた。
「っ!!」
心操は来るであろう衝撃に備えて目を瞑るが、一向に痛みが肉体を突き抜けることはなかった。寧ろ、背後からは何か軟らかい感触がする。そっと目を開くと、心操の背後には光の網がかかっていた。心操が壁にぶつかる直前に、ソルフェジオが
しかし、壁に近いということはそれ即ち場外であるということを意味する。
「心操君場外! フーディルハインさん2回戦進出!」
『初戦にしちゃ地味な戦いだったが、取り敢えず両者の健闘を称えてClap your hands!』
ミッドナイト先生とプレゼント・マイク先生のコールが響く。会場いっぱいに湧き上がる拍手。ソルフェジオは心操に近付いてホールディングネットを解除した。
「……いい“個性”ですね。プロもきっとそう思っていますよ」
「…………!!」
ソルフェジオはそう言うと柔らかな笑みを浮かべた。その視線の先では、試合を観ていたプロヒーロー達が心操の“個性”の有用性について話している。群衆の声に紛れて聞こえてきたそれに、気付いたアンジェラの真意に、心操は目を丸くした。
「お前…………まさか……」
「憧れに向かってがむしゃらに、ひたすらに頑張るヒトは、私も
「…………情けでもかけたつもりか?」
「いえ、応援したかったのです。余計なことでしたか?」
「……余計といえば余計だ。
でも……ありがとう」
心操は立ち上がり、退場しようと歩みを進める。が、フィールドの半分まで行ったところで歩みを止め、ソルフェジオに問うた。
「……あんた、名前は?」
ソルフェジオは少し予想外な質問に驚きを見せたが、柔らかく微笑んで言った。
「ソルフェジオ。『
「そっか……覚えとく」
心操はそう言うと、今度こそ退場していった。それを見届けたソルフェジオは、そっと瞳を閉じる。次に瞳を開けると、サファイアのような蒼い瞳はトパーズのような黄金色の瞳に戻っていた。
「……人付き合いが苦手なお前が、珍しいな」
『少し、思うところがあって』
「そうかい」
そう言うと、アンジェラは通路に戻っていった。
「ちょ、麗日、近い近い。What's up?」
観客席に戻ると、アンジェラは麗日にその目をじーっと覗き込まれた。当然ながら、その色はトパーズのような黄金色である。
「いや……試合中にアンジェラちゃんの目の色が文字通り変わったような気がして」
「そうか? 俺は気が付かなかったが……」
「…………よくこの距離で見えたな」
A組のクラス観覧席はスタジアムの二階にある。確かに試合は見やすいが、個人個人の目までうかがい知ることは極めて難しいはずだ。麗日は視力がいいのかな、と思いながらアンジェラは首から下げたペンダント形態のソルフェジオをそっと撫でた。
「あれ、ソルフェジオのこと言ってなかったっけ?」
「ソルフェジオって、ひょっとしてそのペンダントのこと?」
「……アンジェラのことだ。どうせ“個性”を説明したときに同時に言った気になってたんだろ」
ナックルズのため息が聞こえてくる。アンジェラはちょっとむっとするが、実際そうなので反論のしようがない。アンジェラは恥ずかしそうに後頭部を掻いた。
「あー、悪いな。隠すつもりはなかったんだ。
ソルフェジオはオレの“個性”の一部だ。オレの意志に合わせて武器とかに変形する。さっきの試合は、ソルフェジオがオレの代わりに身体を動かしてたんだよ。普段はあんま主張しない奴なんだが、珍しくねだってきてな」
「あ、そうだったのか。てっきりアンジェラの策かと思ってたが」
“個性”の一部であるということはケテルの時と同様全くの嘘っぱちだが、それ以外のことはあながち間違いでもない。
と、麗日が何かを思いついたかのように口を開いた。
「ねえアンジェラちゃん、ひょっとしてアンジェラちゃんの身体を使ってる状態なら私達もソルフェジオと話せる?」
「ああ、できるけど。話してみたいのか?」
麗日は物凄い勢いで頷く。飯田や他のクラスメイトたちも興味があるらしい。
アンジェラは瞳を閉じ、開ける。開けられた瞳は再びサファイアのような深い蒼色に染まっていた。
「……私と話していても面白いことなんてないでしょうに」
そう自嘲気味に話すのは、アンジェラの身体を借り受けたソルフェジオであった。麗日は興味深そうにソルフェジオを見る。
「やっぱり、目の色変わってる……普段の金色の目も綺麗だけど、その蒼い目もカッコいい!」
「そんな褒められるようなものではないかと」
「……やっぱ、アンジェラの姿で敬語使われると違和感しかないな」
「ナックルズ、あなたは余計なこと言わないでください」
「この状態だと、アンジェラ君はどうなっているのですか?」
「
ソルフェジオの話を興味深そうに聞く麗日と飯田。他のクラスメイトたちも聞き耳を立てていた。
「……でも、どうして今までそうやってお話してくれなかったの?」
そんな中、麗日のこの質問にソルフェジオは若干顔を歪ませた。マズイことを聞いただろうか、と麗日が内心で戸惑っていると、ソルフェジオが薄く口を開く。
「別に……私は
「いや、そうかもしれないけどさ……やっぱりソルフェジオとも仲良くしたいよ」
麗日にそう反論され、恥ずかしそうに瞳伏せるソルフェジオ。次にその瞳が開かれた時には、トパーズの輝きが戻っていた。
「あれ? アンジェラちゃん?」
「……気を悪くしないでくれよ。ソルフェジオはあんま人と話すの好きじゃないんだ」
アンジェラはそう言うと、困ったような笑みを浮かべた。
サブタイトルの元ネタはメイドインアビスに出てくるナナチというかっこかわいいキャラの台詞です。憧れは止められねぇんだ。んなぁ〜。
ヒロアカもソニックも全く関係のない作品ですが、これ書いてた時期丁度アビスにハマってたからね仕方ないね。
あと、心操君には合ってる言葉だと思う。