アンジェラがソルフェジオに身体を貸し、クラスメイトたちと話していた丁度その頃。轟は入場ゲートに向かう途中で、エンデヴァーと対峙していた。
エンデヴァーは轟が左側……炎の力を使わないことを咎めた。炎を使えば、障害物競走も騎馬戦も圧倒できたはずだと。轟がエンデヴァーに抱える憎悪を、子供じみた反抗としか捉えていない。
「分かっているのか? お前にはオールマイトを超えるという義務があるんだぞ?
兄さんたちとは違う、お前は最高傑作なんだぞ?」
普段なら、苛つきしか感じないエンデヴァーの言葉。轟が、幼い頃からずっと聞き続けてきた呪いにも似た言葉。
轟は苛立ちを隠さないまま、会場へと入っていった。
第二試合、轟VS瀬呂。
瀬呂が試合開始と同時にテープで轟を拘束して場外までもっていこうとしたが、会場が文字通り凍りつくほどの大規模な氷結で逆に瀬呂を拘束し決着。ほぼ一瞬で決着がつき、瀬呂は観客からのドンマイコールを浴びた。
第三試合、上鳴VS塩崎。
試合開始前にプレゼント・マイク先生の塩崎に対する「B組からの刺客」という煽り文句に塩崎本人から異議申し立てがあるというプチハプニングはあったものの、試合自体はすぐに終わった。
序盤から上鳴は全力で放電したが、塩崎が“個性”であるツルをアースに用いて放電を無力化。そのままツルで上鳴を拘束した。
瞬殺である。あえてもう一度言おう、瞬殺である。
直後、B組の観覧席から感じ悪い男子がA組を煽り散らかしていたが、同じB組の拳藤に止められ(物理)ていた。
「……あれ、なんだったんだ?」
「さあ……」
アンジェラとナックルズのふと出た言葉に、A組のほぼ全員が賛同したとかなんとか。
第四試合、飯田VS発目。
…………というか、この試合に関しては試合(?)と言わざるを得ない。
本来サポート科しか装備を許可されていないサポートアイテムを飯田が装備していたのだ。発目が「対等に戦いたい」と言っていたと飯田が伝えると、主審のミッドナイト先生から許可は下りたが、アンジェラは違和感を感じていた。
「……発目ってそんなこと言うかな? これってもしかして…………」
アンジェラの予想は大当たり。
飯田は発目のサポートアイテム解説のためのダシにされていたのだ。そのまま発目は自身の開発したサポートアイテムを説明し続け、十分後。
「すべて余すことなく見ていただけました……もう思い残すことはありません」
そんなことを言いながら自発的に場外。飯田は利用されながらも二回戦に進出したのだった。
第五試合、青山VS芦戸。
先手必勝とばかりに青山がネビルレーザーで果敢に攻めるが、芦戸は“個性”も駆使して難なくそれを回避。副作用で腹痛を起こした青山の隙を突いて酸で攻撃、ベルトとズボンを溶かしてグーパン。そのまま青山失神KO。芦戸、文句なしの快勝である。
第六試合、常闇VS八百万。
八百万はまずシンプルな盾を創造してダークシャドウの攻撃を防いだが、ダークシャドウの猛攻に押しやられそのまま場外。常闇は決して八百万の身体に攻撃することはなかった。それだけ余裕があったということだろう。八百万は悔しそうに俯いていた。
第七試合、鉄哲VS切島。
スティールと硬化というダダ被り“個性”に紹介までダダ被り、ついでに言うならディスプレイに映し出されたポーズまでダダ被りというどこを見てもダダ被り対決。
そんな二人は真っ向から殴り合っていたのだが、同じような“個性”な上に実力まで拮抗していたようで中々決着がつかない。
その様子を少しだけ見ていたアンジェラは、ふと立ち上がって何処かへと向かって行った。
「麗日!」
「アンジェラちゃん……」
アンジェラが向かった先は選手控え室。このあとの第八試合を控えた麗日と、先程試合を終わらせた飯田がそこに居た。
「皆の試合、見なくていいの?」
「大体短期決戦ですぐ終わってる。今は切島と鉄哲……B組のやつがやってる。実力が拮抗してたし、多分すぐには終わらないんじゃねぇかな」
「そっか……じゃあ、もう次、すぐ」
そう言う麗日の身体は少し震えている。切島と鉄哲の試合が終わればその次は麗日の試合だ。
そしてその相手は、爆豪である。
「しかし、まぁ、爆豪君も女性相手に全力で爆発は……」
「するんじゃねぇの?」
何でもないように言い放ったアンジェラに、麗日と飯田は苦い顔をする。
「あいつのことはよく分かんねえけど、爆豪は、いや、皆、本気で一番になろうとしてる。ここまで勝ち上がってきたってことは、それだけ警戒しなきゃいけない相手ってことだ。手加減なんて考えないだろうな」
アンジェラはそう言うと麗日に近付いた。その視線は柔らかく、まるで聖母を思わせる雰囲気を纏っていた。
「麗日の“個性”で爆豪に対抗する策、付け焼き刃だけど考えてきたんだが……」
「おお、よかったじゃないか麗日君!」
「ありがとう、アンジェラちゃん。
でも、いい」
その麗日の言葉に、アンジェラと飯田はあっけにとられた。麗日は自身の手をギュッと握りしめて続ける。
「アンジェラちゃんは凄い。どんどん凄いとこ見えてくる。
騎馬戦のとき、あの時は仲いい人と組んだ方がやりやすいって思ったけど、今にして思えば、アンジェラちゃんに頼ろうとしてたんかもしれない。
だから、飯田君が挑戦するって言ってたの聞いてて、本当はちょっと恥ずかしくなった。
だから、いい」
麗日はそう言いながら立ち上がり、ドアの前に歩みを進める。声に不安と決意が入り交じっている。
「皆、将来に向けて頑張ってる。そんなら皆、ライバルなんだよね。
だから…………
決勝で逢おうぜ…………!!」
麗日は二人の方を向いてサムズアップする。その声も、身体も恐怖からか震えていたが、その目には、確かな決意が宿っていた。
アンジェラは呆れたように笑って口を開く。
「それがお前の決意なら、オレは何も余計なことはしない。……爆豪だって無敵じゃない。必ず付け入る隙はある。それを探し出して見せてくれよ」
「…………! うん!」
切島と鉄哲の試合はダブルノックダウンと相成り、勝敗は回復後に腕相撲などの簡単な勝負で決められることとなった。
そして始まる第八試合。爆豪VS麗日。
観客席に戻ったアンジェラと飯田は、二人の入場を固唾を呑んで見守っていた。
「アンジェラ君、先程麗日君に言おうとした爆豪君対策とは?」
「いや、大したことじゃないんだが。
爆豪の“個性”はおそらく、動けば動くほどエネルギーが溜まる。だから長期戦は不利でしかない。“個性”の応用の仕方や格闘センスなんかもこの歳じゃずば抜けて高い。ただ、麗日が一回“個性”で浮かせちゃえば主導権を握れる。
だから、麗日が選択するとしたら……」
スタートの合図と同時に、麗日は爆豪に向かって低姿勢の突進をかました。速攻をしかけて爆豪を浮かせようとしたのだ。
しかし、爆豪は容赦のない爆撃で麗日を止める。上着を浮かせて囮にするなど諦めずに突進を続ける麗日だったが、ことごとく爆撃に阻まれ近付くことすらままならない。麗日の様子は、一見するとヤケを起こしているようにも見える。
そのうち、自然と客席から爆豪に向かってブーイングが巻き起こる。女の子を甚振って遊んでんじゃねえと、そんなに実力差があるならさっさと場外にもっていけと。
アンジェラは表情一つ変えずに、麗日の様子を見守っていた。
「……アンジェラ、上」
「ああ……そうくるか、麗日」
ナックルズに促されて上を見上げたアンジェラは、ニヤリと笑みを浮かべていた。ブーイングは今なお鳴り止まない。プレゼント・マイク先生もブーイングに賛同していたが、相澤先生にマイクを奪われた。
『今遊んでるっつったのプロか? 何年目だ? シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ! 帰って、転職サイトでも見てろ!
爆豪は、ここまで勝ち上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろ、本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断もできねぇんだろうが!』
実況には中々参加していなかった相澤先生がプレゼント・マイク先生からマイクを奪ってまで放った言葉は、ブーイングを文字通り無きものとした。
「……ふふっ」
アンジェラは笑っている。麗日の捨て身の策、それを見抜くことすらできていないプロヒーローを。
麗日は爆豪の爆発によって発生した瓦礫を浮かせ、武器として蓄えていた。そして、絶え間ない突進と爆炎で爆豪の視界を狭めて、悟らせなかったのだ。
麗日は瓦礫を降らせる。その様はさながら流星群のようだった。その隙に浮かせようと、麗日は突進を仕掛けた。
しかし、爆豪は大規模な爆発でその瓦礫を全て粉砕。麗日も吹き飛ばされてしまう。なおも立ち上がろうとした麗日を爆豪は名字で呼び、本気で潰そうとしたが麗日がキャパオーバーでダウン。この試合は爆豪の勝利となった。
「いやー、負けてしまった!」
「……麗日?」
第二回戦の第一試合に出番を控えたアンジェラは控室に入る。そこには、先程試合を終えてリカバリーガールに治療してもらった麗日が居た。先の試合でのされたから元気ないかと思っていたが、逆に元気そうだ。
「最後勝てると思って調子乗ってしまったよ! クッソー! いやー、爆豪君強いね! 完膚なかったよ!」
麗日は元気に言うが、アンジェラはそんな麗日をそっと抱き締めた。
「え、ちょ、アンジェラちゃん!? 何して……!?」
「オレが気付いてないとでも思ったのか? から元気だろ、それ」
麗日は目を見開いた。心臓がきゅっと締め付けられるような思いだった。
「どう、して……」
「気付くさ。だって、
友達、だろ?」
麗日の瞳から一粒、また一粒と涙が零れ落ちる。麗日はなんとかそれを拭おうとするが、アンジェラは優しい声で言った。
「我慢する必要はない……海ができるまで、泣いていいぞ」
その優しい声で、朗らかな笑みで、そんなことを言われてしまったらもう駄目だった。麗日は涙を抑えることを止め、恥も外聞もなく泣きじゃくった。
「ごめんね、アンジェラちゃん……」
「No problem.元気出たならそれでいいんだ」
麗日はそのまま数分間泣き続けていたが、麗日の携帯に着信が入ったと同時に泣き止んだ。アンジェラは麗日が泣き止んだことを確認すると、丁度一回戦で引き分けた切島と鉄哲の二回戦進出の切符を賭けた腕相撲の結果が放送されたこともあって、麗日から離れてドアに手をかける。二回戦進出の切符を勝ち取ったのは切島のようだ。
「あ、私が居たせいでアンジェラちゃん準備が……」
「麗日の様子見に来ただけだから、本当に気にすんなって」
「…………イケメンや……」
「麗日、オレ口調こんなだけど一応女だ」
アンジェラは困ったような笑みを浮かべながらドアを開く。麗日は立ち上がり自分の携帯を胸に抱えて、今度は満面の笑みをうかべて言った。
「アンジェラちゃん、頑張ってね!」
「Of course!」
会場までの道すがら、アンジェラはエンデヴァーとエンカウントした。
エンデヴァー、ナンバーツーヒーロー。轟の父親であり、轟が炎を絶対に戦闘で使おうとしない原因を、轟の家族をぶち壊した原因を作り出した張本人。
「……何か、用か?」
アンジェラはもう敬語を使おうという気にもなれなかった。こいつには、礼儀を取り繕うという気には、全くもってなれなかった。
エンデヴァーは少し顔を歪める。息子と同年代であろう少女にナメたような態度を取られているのだ。苛つきを感じてもおかしくはないだろう。
「……君の活躍、見せてもらった。素晴らしい“個性”だ。パワーもスピードも、オールマイトに匹敵しているかもしれないな」
アンジェラエンデヴァーの言葉を黙って聞いている。無表情のまま。
「うちの焦凍には、オールマイトを超える義務がある。君との試合は、テストベッドとしてとても有益なものとなる。くれぐれも、みっともない試合はしないでくれたまえ」
あくまでも見下したような態度を変えないエンデヴァー。アンジェラをテストベッドと揶揄し、自身の息子に将来を強制している。自身の息子を、自分の代用品としか見ていないその言葉。
ブチィッ!!
アンジェラは、自身の毛細血管が何本か千切れたような感覚を覚えた。
「……ほんっと、クズだな」
「なっ……!?」
「いや、吐き気を催す憎悪ってこういうことを言うんだなって、つくづく思うわ……轟も運が無いな。こんなクソみたいな父親を持って」
アンジェラはエンデヴァーに蔑みの視線を向ける。その表情からは、何も読み取ることができない。
エンデヴァーは反論しようとしたが、できなかった。背筋が凍って、息をすることすら困難になってゆく。何が起きているのかと、頭が混乱していく。敵と戦闘したわけでもないのに、膝をつく。
アンジェラが、エンデヴァーに特大の殺気を浴びせていたのだ。
それは、クラスメイトに見せた威圧とは比べ物にならないほどの圧を以てエンデヴァーを押し潰す。一歩間違えば、そのまま心臓麻痺を起こしかねない威圧感だ。それをアンジェラは、心臓麻痺を起こすギリギリまでで抑えている。
アンジェラは、エンデヴァーがどうにも許せない。
アンジェラが抱くべき憎しみではないとは分かっているのだが、轟のあの憎悪に燃えた表情が、かつて、悲しい事情があって狂ってしまったとはいえ、生みの親による記憶操作によって誘導され、人類を滅ぼそうとしたシャドウと被って見えて、その表情を作り出した張本人であるエンデヴァーに殺意にも似た怒りを感じる。
「きっ、貴様……!」
「ああ、オレをどうこうしようとか思ったりすんなよ。お前はオレより弱い」
エンデヴァーの“個性”はヘルフレイム。地上最強とも言われるほどの出力を持つ炎系最強の“個性”。
だが、それはあくまで“個性”の中だけだ。
アンジェラは、ブレイズやあの忌まわしいメフィレスは、エンデヴァー以上の炎を軽々と操ることを、その身をもって知っている。
だから、アンジェラにとってエンデヴァーは「脅威にすらなり得ない」。
「お前の話は轟から聞いた。マスゴミ共にでもこの情報売りつけたら、お前のヒーロー人生はオシマイだろうな」
「……何故……」
「ん? それ、どっちの意味だ? オレが轟から話を聞いた件か? それとも…………
この情報売りつけたらお前のヒーロー人生オシマイって方か?」
エンデヴァーはたじろぐ。その様子を見たアンジェラはため息をついた。
「その様子じゃ後者ってとこか。前者ならまだしも、後者でたじろぐたぁ……お前さぁ、自分のしてることの重大さが分かってねえんだな。親なしのオレでも分かるってのに」
「……貴様、は…………」
「心配しなくても、轟が心の底から望まない限りそんなこたぁしねえよ」
アンジェラは殺気を引っ込めると足早にその場を去ろうとする。エンデヴァーは、未だ立ち上がることすらままならない。
アンジェラは数歩進んで、一度振り向いた。
「……あ、そうそう。轟から聞いたよ。お前、オールマイトを超えたいんだって。
……別にそれが悪いとは言わねえよ。
オレが怒りを感じるのは、そのための手段だ。
オレはオールマイトじゃない。轟もお前じゃない。
それくらい、その中身のなさそうな頭でも分かるだろうに」
アンジェラはそれだけ言うと、今度こそ、この場を立ち去って行った。
「……」
エンデヴァーは、アンジェラが立ち去って暫くしても立ち上がることができなかった。
僕のヒーローアカデミアという作品において、ヒーローサイドにおける戦犯は、同率一位で一部を除いた公安とエンデヴァーだと思っています。公安に関しては現在放送中の6期最新話のネタバレになってしまうので深くは言及しませんが、前線に立たない人間が腐ってると末端もグズグズになっていくとはこういうことなんだなと思いました。
エンデヴァーに関しては、燈矢君の一件があったにも関わらず、それを省みて行動しているとはとても言えません。エンデヴァーの強くなりたいという願いは確かに一個人の夢として尊重すべきでしょうが、だとしても子供にそれを強制していい理由には、家庭をズタボロにし、妻を精神病に追い込み、子供に無理矢理自分の夢を背負わせていい理由には絶対になってはいけません。強くなりたいのなら自分だけで完結させるべきだった、子供に背負わせるべきではなかった。仮に子供に自身の夢を背負わせるのなら、せめて兄妹全員にちゃんと愛情を注いで育てるべきだった。エンデヴァーは、それら全てを蔑ろにし、自分の心を護ることを優先してしまった。それならそれで、家から完全に手を引くべきだったのです。親としての役目を果たせないのであれば、それはもう親とは呼べない。
原作ではエンデヴァーの家族がエンデヴァーと歩み寄ろうとしていますが、私はそれに疑問符を抱かずにはいられません。何故、あそこまでのことをやらかしたエンデヴァーを受け入れようとする必要があるのか。多少は非があったであろう冷さんはともかく、親を選ぶことができない子供たちは無理してエンデヴァーを赦そうとしているように見えて仕方がない。あの状況だからということもあるのでしょうが、エンデヴァーは決して赦されてはいけないと個人的には思っています。エンデヴァーも冬のインターン時点では自分のしたことがアレだったとは気づいているようですが、体育祭編ではそれも怪しいものです。原作でも緑谷君に対してテストベッドとか言ってましたし。
今回、アンジェラさんにはエンデヴァーに対してガチギレしていただきました。私の意見を代弁してもらったのもありますが、アンジェラさんはその性格と生い立ち上、エンデヴァーにキレそうだなって。敬語すら使ってませんしボロクソに罵倒してます。本気の殺意すら向けていますおお怖い怖い。今までこの作品を見てきてくださった方々でしたらなんとなく察しはついているでしょうが、アンジェラさんは結構サイコパスというか、独自ルールで動く人なので。
そして、アンジェラさんの存在は、その言葉は轟家の物語に大きな変化をもたらします。
色々と賛否両論その他諸々あるかとは思いますが、誹謗中傷だけは、どうかしないでください。どうしてもこの意見が受け入れられないのであれば、そっとブラウザバックをして、自分の好きな動画や小説で気分をリフレッシュさせてください。
それ以外の意見などでしたら大歓迎です。長々と失礼致しました。