音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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きっと、それは運命だったんだよ。
僕らは―――だからさ。
また逢えるって、信じてたのに。







ごめんね、―――。


だけど、さようならは、まだ言わない。


第三章 Fist Bump
明くる日


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこまでも、どこまでも不条理が続くこの地獄のような世界。

 

 目に見えてもう手遅れで、人の手には余る。そんな光景ばかりが広がっていて。

 

 そんな世界にも、誰も手にしたことのない、手に入れられるはずのない光は、確かに存在した。

 

 

 

 

 

 

『あれが────────なの?』

『そう、私達の……希望。これが完成すれば、この終わった世界だって元通りにできる』

『へえ、すっごいねえ!』

 

 ああ、今にして思えば、なんて儚く脆い希望の皮を被った、深く暗い絶望だったのだろう。

 

 目の前の明るい笑顔を守りたい。

 

 ただ、そう願っていただけだったというのに。

 

 

 

 

 

 

 ……神の力に手を伸ばそうと、そう考えてしまった時点で、もう手遅れだということに、もっと早く気が付くべきだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、──────も元通りになる?』

『元通りにするよ……必ず』

『そっか!』

 

 ああ、でも、手を伸ばさずにはいられなかった。

 

 例え、それがどれだけ愚かなことだったとしても、

 

 たった一欠片でも、希望をちらつかせられたら、手を伸ばさずにはいられなかった。

 

 ああ、なんて愚かなことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アァ“…………ア“、ア“……』

 

 そのことに気付いたときには、もう、全てが遅かった。

 

 あなたは狂って、異形の姿に変わり果ててしまった。

 

 この世界を終わらせて、私がこの手にかけた。

 

 ああ、裏切ってしまった。

 

 あなたの願いを。

 

 裏切られてしまった。

 

 あなたの自我の限界に。

 

 この手に、もうあの頃のぬくもりは、あなたが教えてくれた暖かさは存在しない。

 

 あるのは、どこまでも気持ち悪くて生温かい肉の感触と、抉れた腸から零れ落ちた内蔵の、わずかに残った鼓動だけ。

 

 血にまみれた手で、その手に掲げた刃で、あなただったものをただひたすらに切り刻む。

 

 血潮が吹き出して顔にかかる。鉄のような臭いに、かつての嫌な景色が頭をチラつく。

 

 自分で作り出した光景だというのに、その惨たらしさとグロテスクさに、思わず胃の中のものをぶちまけたい衝動に駆られたが、あいにく私の臓器はとうの昔にその活動を停止していた。

 

 もう、戻ってこない。帰ってくることは二度とない。

 

 ただ、後悔と懺悔の思いだけを募らせて、私は刃を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

『……ごめんなさい、ごめんなさい……』

 

 

 

 もう、後戻りは出来ない。

 

 することは、赦されない。

 

 

 

 何度輪廻が巡ろうが、

 

 

 

 

 

 

 私達の罪は贖えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育祭の二日後の早朝。

 

「……あぁ……またか……」

 

 アンジェラはぼやきながらのそりと身を起こす。スマホの時計を確認してみると、まだ午前3時あたりだった。

 

 アンジェラは時折、妙に早すぎる時間に目が覚めることがある。そんな日は決まって妙に目覚めが悪く、頭が痛い。悪夢を見たという自覚そのものはあるのだが、肝心の内容が思い出せないでいた。

 

「……チッ」

 

 アンジェラは軽く舌打ちをすると、ベッドから立ち上がって近くの戸棚を漁り、花柄の可愛らしいラッピングされた小瓶を手に取る。小瓶の中には白い錠剤が入っている。もちろん、危険な薬などではない。

 

 これは、アンジェラ用に地元のかかりつけの病院で処方された精神安定剤だ。

 

 普段はそんな兆候など何も見せないが、ごくたまにある目が覚めて頭が痛い日に限り、アンジェラは普段の何倍も情緒不安定になる。普段の悪夢を見る日とは違い、うっかりすると自傷行為に走ろうとするくらいには。

 

 薬をふた粒ほど瓶から取り出して口に含み飲み込む。再び寝入る気にもなれず、アンジェラはため息をつきながら水を飲もうとキッチンまで歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンジェラちゃん、大丈夫?」

「………………………………ああ」

 

 アンジェラがそう答えるまでに、随分と時間がかかった。

 

 今、アンジェラは教室にて自身の机に突っ伏していた。頭の上にはケテルが乗っかっている。明らかに様子がおかしいアンジェラを心配して麗日が声をかけた結果が先の言葉だ。

 

 アンジェラは、行きの電車や駅構内で見知らぬ大勢の人々に話しかけられた。体育祭効果の有名税、だろうか。ラフリオンでエッグマンをしばき倒した件やライダズーカップなどの件つながりでそういう経験はあったのだが、今回はかつてない規模で絡まれた。

 

 駅構内や電車が割と混んでいたのもあるだろうが、アンジェラは元々色んな意味で目立つ容姿をしている。空色の長く美しい髪やプロのモデル顔負けに整った顔立ちもそうだが、なんてったって、140cmの低身長に不釣り合いなほどの大きなバストを抱えた(具体的に言えばバストは八百万並)トランジスタグラマーだ。目立つなという方が難しい。

 

 一人が気付くと、他の周囲の人々にまで話しかけられる。朝っぱらから精神安定剤を服用していたのも相まって、アンジェラは教室に到着するまでで既に疲労困憊であった。

 

「超声かけられた……もう疲れた……」

「あはは……アンジェラちゃん優勝者だもんねぇ」

 

 現在、アンジェラは抗いがたい睡魔に襲われている。疲れているのも理由だが、これは精神安定剤の副作用によるものだ。このまま寝入ってしまいたいが、学生である以上そういうわけにもいかない。

 

「それだけアンジェラちゃんが凄いって思われてるってことだよ」

「…………そうか……」

 

 まぁ、これだけ目立てば連中……天使の教会もアンジェラの存在に気が付くだろう。仕事の進みが早くなると考えれば、決して悪いことばかりではない。

 

 それに、いつまでもこのお祭り騒ぎが続くわけでもあるまい。しばらくの辛抱だ。

 

「……お祭り騒ぎ、といえば……」

 

 アンジェラは机に突っ伏したまま顔だけ上げてスマホを弄る。見ているのはあるネットニュースサイトだ。そのサイトも体育祭を大きく取り上げていたが、同じくらいに大きく取り上げている話題がある。

 

 東京都保須市で起こった一大事件、「インゲニウム襲撃事件」である。

 

 インゲニウム……保須を拠点に活動する人気プロヒーローであり、飯田の敬愛する兄である。飯田曰く、規律を重んじ人を導く愛すべきヒーローなのだとか。

 

 そんなインゲニウムだが、パトロール中に敵による襲撃を受け、もうヒーロー活動は叶わないかもしれないほどの重傷を負ったそうだ。

 

 インゲニウムを襲撃した敵は、今巷を賑わせている連続殺人犯。ヒーロー殺しの異名を持つ敵。敵名、ステイン。長い刃物と血のような赤い巻物が特徴の敵である。

 

(…………なんか、嫌な予感がするんだよなぁ……)

 

 朝、昇降口ですれ違った飯田には「兄の件なら心配無用だ、要らぬ心労をかけて、すまなかったな」と言われたが、敬愛する兄が再起不能なほどに傷付けられてどんなに辛いかということは、痛いほど知っている(・・・・・・・・・)

 

 アンジェラは、なんとも言い難い不安に苛まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育祭の熱からくるわいわいした雰囲気も、相澤先生の入室と共に収まった。相澤先生の教育が行き届いている証拠だ。アンジェラはのそりと顔を上げた。

 

「おはよう。早速だが、今日のヒーロー情報学はちょっと特別なことやるぞ」

 

 特別。その二文字の言葉によって、クラスメイト達に緊張が走った。相澤先生が特別と言ったときは、たいてい何らかの抜き打ちテストが行われるからだ。ヒーロー関係の法律やらが苦手な一部の面々の顔がしかめっ面になる。

 

 

 

 

 

「コードネーム……ヒーロー名の考案だ」

『胸膨らむやつキターーーー!!!』

 

 予想とは違う、嬉しい意味での特別発言にクラスメイト達は沸き上がった。驚くほどに変わり身が早い。いいのかそれで。

 

 そんな軽いお祭り騒ぎも、相澤先生が“個性”を使って睨み付けるとシ──ーン……と収まった。

 

「というのも、先日話した「プロヒーローからのドラフト指名」に関係してくる。

 

 指名が本格化するのは、経験を積み、即戦力として判断される二、三年から。つまり、今回一年のお前らに来た指名は将来性に対する興味に近い。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてこともよくある」

「……大人は勝手だ……!」

 

 峰田はそう不満気に言いながら机を叩く。その意見も尤もなのだが、社会を動かしているのが大人である以上は仕方のないことでもある。より優秀な人材を求めるのは、上に立つ人間としては当然のことだ。

 

「頂いた指名がそのまま自身へのハードルになるんですね!」

「そ。で、その集計結果がこうだ」

 

 相澤先生がリモコンを操作すると、黒板に指名件数のグラフが表示された。上から四桁はアンジェラが8653、轟が4156、爆豪が3556、それ以下は三桁か二桁で常闇が390、飯田が301、上鳴が152、八百万が108、切島が68、麗日が20、瀬呂が13だ。アンジェラが2位の轟に2倍近い差を離して一位である。

 

「例年はもっとバラけるんだが……3人に注目が偏った」

 

 結果に各々反応を見せるクラスメイト達。白黒付いた、とがくりとなる人、殆ど親の話題ありきだろうと複雑な気分になる人、指名が来たことを素直に喜ぶ人……。

 

 アンジェラはというと、半ばどうでもいい、みたいな顔をしていた。これだけ目立ったという指標にはなるが、正直ヒーローを目指していないアンジェラにとってはどうでもいい。

 

「この結果を踏まえ、指名の有無に関係なく、いわゆる、職場体験ってのに行ってもらう」

 

 職場体験。文字通り、プロヒーローの現場を肌で体感する場。アンジェラも大学時代に経験があるが、あれはヒーローではない一般企業の職場体験だ。

 

 ……何故か妙な職場ばかり教授に紹介されていたが、アンジェラが本格的に家庭教師をやろうと思った切っ掛けでもあるので、今となってはいい思い出だ。いや、教授が紹介する職場が一癖も二癖もあるものばかりだったのには正直引いたが。閑話休題。

 

「お前らはUSJん時に一足先に経験しちまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りのある訓練をしようってこった」

「それでヒーロー名か!」

「俄然楽しみになってきた!」

 

 USJ事件というイレギュラーがなければ、大半の雄英生にとって初めての敵との遭遇になるかもしれないのがこの職場体験という場なのだろう。敵との遭遇がなくても、平時のヒーローがどんな活動をしているか知ることができるのは貴重な経験になる。

 

「まぁそのヒーロー名は仮ではあるが、テキトーなもんは……」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!」

 

 相澤先生の言葉を引き継ぐ形で扉を開いて入ってきたのは、セクシーなポーズをとったミッドナイト先生だ。

 

「学生の時に付けたヒーロー名が、世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!」

 

 ああ、いわゆる黒歴史がそのまま世に残るかもしれないから、ちゃんと考えろってことか。

 

 アンジェラは実際に黒歴史が現在も具現化している人が居るのか、と一瞬思って苦笑いした。

 

「まぁそういうことだ。その辺のセンスはミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうの出来ん」

 

 相澤先生はそう言いながら黄色い寝袋を取り出した。どうやら寝るつもりらしい。

 

 ちなみに、相澤先生のヒーロー名イレイザーヘッドは、学生時代に同級生だったプレゼント・マイク先生に付けてもらったものであるそうだ。

 

 相澤先生、そういうの考えるの苦手そうだもんな……。

 

 アンジェラは、5秒くらいそう思った。

 

「将来自分がどうなるのか、名をつけることでイメージが固まり、そこに近付いていく。「名は体を表す」ってやつだ。オールマイト、とかな」

 

 配られたボードとマジックペンを手に、アンジェラはスラスラと事前に決めていたものを書いた。

 

 

 

 

 十五分後、ミッドナイト先生にそろそろできた人から発表だと言われた。トップバッターは青山だったのだが、「輝きヒーロー I can not stop twinklimg」と、英語とフランス語が混ざった短文ネームだった。しかもIを取ってCan'tに省略しただけでOKが貰えてた。いいのかよ。

 

 二番手の芦戸は「エイリアンクイーン」と問題ありすぎるネーミングに流石にミッドナイト先生からNGを食らっていた。むしろ、なんでそれでいいと思ったのか。

 

 最初に変なのが来たせいで若干大喜利っぽい雰囲気になったが、3番手の蛙吹が小学生の頃から決めていたという「梅雨入りヒーロー フロッピー」で持ち直し、続く切島の憧れをリスペクトした「剛健ヒーロー レッドライオット」で完全に空気を変えることができた。

 

 そこからはマトモな発表タイムに入り、各々がいい感じのヒーロー名を決めていく。芦戸も二回目の「ピンキー」はOKが貰えていた。

 

 轟は「ショート」と下の名前をカタカナにしただけでミッドナイト先生からもいいの? と言われていたが、本人が納得しているようなので別に問題はない。最初二人と違っておかしくないし。

 

 ただ、口田の次に発表した爆豪の「爆殺王」は流石にアウト。ミッドナイト先生も「そういうのはやめた方がいいわね」と、芦戸の時と違って冷静に言っていた。口田の「ふれあいヒーロー アニマ」との落差が激しすぎる。というか、それヒーローというか敵の名前だろ、と、アンジェラは思った。

 

 また若干変な空気になりかけたところで、麗日が発表した。麗日のヒーロー名は「ウラビティ」。無重力(ゼログラビティ)と自身の名前の捩りだろう。中々に洒落ていていい名前だ。

 

「ヒーロー名、思ったよりずっとスムーズに進んでるじゃない! 残ってるのは再考の爆豪君と、飯田君、それにフーディルハインさんね」

 

 次に発表したのは飯田だ。飯田も自身の下の名前をヒーロー名にするようだが、その顔にアンジェラは違和感を覚えた。何か、まだだと耐えているような……。

 

 アンジェラは一瞬思考の海に沈みそうになったのを誤魔化すように立ち上がり教卓の後ろに立って、発表した。

 

「マジックヒーロー、アンジェラ」

「あら、貴女も名前?」

「アンジェラって名前は日本じゃヒーロー名っぽく聞こえるかなって思いまして。

 

 それに」

 

 アンジェラは一度瞳を閉じて、開き、満面の笑みを見せる。そのトパーズの輝きは、恍惚とした妖しげな色を放ち、凄まじい執着を、不安定な艶めかしい色香を、狂気じみた純情を、そこに孕んでいた。

 

 

 

 

「この名前は、オレが最初に兄に貰った、一番のたからものですから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「爆殺卿────!」

「違う、そうじゃない」

 

 爆豪のまたしても問題ありすぎな敵っぽいネーミングに、ミッドナイト先生は呆れ返っていましたとさ。

 




Q.何でGUNは精神安定剤を飲まなきゃいけないほどの人を派遣したの?

A.序章でも言及しましたが、アンジェラさんを日本に送り込むことは結構な最終手段なのです。釣り餌を用意しようにもまずGUN内部にちょうど良さげな“個性”の持ち主が居ませんし。あと、アンジェラさんは別に精神安定剤を常飲しているわけではありません。あくまでも悪夢を見て、頭痛がする日に飲んでいるだけです。




UA10000突破しました。御礼申し上げますm(_ _)m

ここでちょっとお知らせが。
今までは一日二話投稿してきましたが、これからは一日一話投稿になります。何故かというと、書き終わってない幕間がちらほらある上に、劇場版編の執筆で煮詰まってしまったからです。第二章の幕間も一話書き終わってないのです。とはいっても、その話は体育祭後のアンジェラさんとナックルズの話なので、本筋に大きく関わるわけではないのですが……書き終わってない幕間の中には結構重要な話もあるので。幕間なんかどうでもいいわと思われる方も居るとは思いますが、それ抜きにしても劇場版編を書く時間が欲しいです。

というわけで、今までよりもスローペースになるとは思いますが、これからも「音速の妹のヒーローアカデミア」をどうぞよろしくお願いいたします。
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