音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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更新します。職場体験編です。


ミルキーウェイ

 爆豪のヒーローネームは再々考でひとまずは名前を使うことで最終的には落ち着き、仮ではあるが、全員のヒーロー名が決定した。

 

 寝袋から出てきた相澤先生はプリントを片手に職場体験に関する説明を始める。

 

「期間は2週間。肝心の職場だが、指名のあった者には個別にリストを渡すから、その中から選択しろ。指名のなかった者は、予め学校がオファーしておいた全国の受け入れ可の事務所40件。この中から選択してもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ」

 

 相澤先生がある程度の説明を終えたと同時にチャイムが鳴った。

 

「今週末までに提出しろよ」

「あと2日しかねえの!?」

「効率的に判断しろ。以上だ」

 

 いや、指名ない人や指名が2桁ほどの人はともかく、指名が3桁超えの人にはちょっとキツくね? 

 

 アンジェラは、遠い目をしながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の昼休み。やはりというかなんというか、話題は職場体験一色だった。

 

「皆どのプロ事務所に行くか決めた〜?」

 

 そういう芦戸は学校がオファーした受け入れ可の事務所のリストを見ている。アンジェラもちょっと見せてもらったが、様々な系統のヒーロー事務所が満遍なくリストアップされていた。

 

「オイラはMt.レディ!」

「峰田ちゃん、やらしいこと考えてるわね」

「違うし!」

 

 本人は違うと言っているが、どこからどう見ても煩悩に塗れた動機しか思いつかない。蛙吹のツッコミは的確であった。

 

「アンジェラちゃんはどう? どこ行くか決めた……って、まだ決められないか、その指名の数じゃ」

「……いや、もう決めた」

「え、もう!? その量で即決って凄いね!?」

 

 アンジェラの指名は8000件以上。これは一年生の指名としては過去最高の数値らしい。ただ、それに合わせてアンジェラ用のリストはものすごい分厚くなっている。目を通すだけで一日かかりそうだ。

 

 だからこそ、麗日は驚いた。この量の指名がありながら、アンジェラはすぐに決めたと言ったのだから。

 

「え、どこどこ!?」

「んー……ナイショ」

「えー、教えてくれてもいいじゃん!」

「そういう麗日はどこに行くか決めたのか?」

「うん! バトルヒーロー、ガンヘッドの事務所!」

 

 ガンヘッド。聞いたことがないヒーローだった。アンジェラは日本のヒーローは本当にメジャーどころしか知らない。スマホで調べてみたところ、ゴリッゴリの武闘派ヒーローのようだ。

 

「意外だな、麗日はてっきり13号先生みたいなヒーローになりたいのかと」

「最終的にはね。でも、体育祭で爆豪君と戦って思ったんだ。強くればそれだけ可能性が広がる、やりたい方だけ向いてても見聞狭まる、と!」

「確かに……麗日の“個性”は触りさえすれば無力化できるもんな。近接格闘術とは相性がいい」

 

 近接格闘術を身につけた麗日が戦う様子を想像して、アンジェラは一人頷く。掌の肉球で対象に触れることで発動する麗日の“個性”は近接においてその強みを発揮する。というか、触れる必要があるから“個性”を用いて相手を浮かせて無力化しようと思ったら、近接戦を強いられることになるだろう。格闘技ができるとかの話は聞いたことがないし、この機会に格闘の基礎を覚えておけば、今後出来ることが一気に増えるだろう。

 

 アンジェラはそんなことを思いながら、机の上で寝そべっているケテルを撫でた。

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後。帰りのホームルームが終わった直後の教室。

 

「アンジェラちゃん、一緒に帰ろう?」

「悪いな麗日。今日は用事があるんだ」

「あれ、そうなの? ……っていうか、何でコスチュームケース持ってるん?」

 

 麗日の視線はアンジェラが抱えているヒーローコスチュームのケースに向けられている。アンジェラは苦笑いしながら答えた。

 

「いやー、USJん時にグローブ破けてさ、それをこの前ふと思い出して。修繕ついでにサポート科の方でちょっくら改良してもらおうかと」

「あー……USJの時、大変だったんだってね。話には聞いたよ」

「まあ、怪我はしたけど大したことはなかったし」

 

 麗日との話に一区切り付けたアンジェラは、その足でサポート科の発明工房まで赴く。そのままドアを開けると……

 

「おや? あなたはいつぞやの!」

「あれ、発目?」

 

 体育祭の騎馬戦でアンジェラ達とチームを組んだ発目が、そこに居た。

 

 発目は体育祭の時と変わらない、いや、それよりも高いテンションでアンジェラにまとわりついてくる。

 

「ひょっとして、約束のアレ、見せに来てくれたんですか?」

「いや、コスチュームの件でちょっと……」

「コスチューム改良ですか! そっちも興味あります! お話、私も伺ってよろしいでしょうか!?」

「それはいいんだが、その前に先生に話を……」

 

 発目はやはり根っからの発明家らしい。こちらの話はお構いなしとばかりグイグイ来る。さしものアンジェラも若干たじろいでいると、工房からパワーローダー先生が顔を出す。

 

「クケケ……発目、話を聞くのはいいが、客の話を遮るようなことはするなよ」

「はっ、失礼しました!」

 

 発目は案外あっさり離れたが、その顔からは反省の色が全く見えない。発目が暴走するのはいつものことなのか、パワーローダー先生はまた暴走しそうな発目を放ってアンジェラに話を振ってきた。

 

「それでフーディルハイン、コスチュームのどこを改良したい? 小さな改良ならこっちでいじってからデザイン事務所に書類を提出すれば手続きしといてくれるけど、大きな改良となるとこっちで申請書作成して、デザイン事務所に委託という形になる。出来上がったコスチュームを国に審査してもらって、許可が出たらこっちに戻ってくる。ま、ウチと提携してる事務所は超一流だから、三日後くらいには戻ってくるよ。職場体験には十分間に合う」

 

 アンジェラはパワーローダー先生の話を興味深そうに聞いていた。コスチューム改良に国の許可がいるというのは初めて知った。

 

 そんなことを頭の片隅で考えなから、アンジェラはコスチュームケースからグローブを取り出した。

 

「USJのときに破けちゃいまして。修繕ついでにもうちょっと頑丈にしてもらえないかなと」

「なるほど、ちなみになんで破けちゃったんですか?」

「なんで先生じゃなくて発目が聞いてんだよ……そんなことは置いといて、身体強化技使ってパンチしたら、オレのパワーにグローブの方が耐えられなかったらしくて」

「ほうほう……」

 

 発目はアンジェラのコスチュームケースから勝手に説明書を取り出して目を通していた。誰も取っていいとは一言も言っていないが、別にいっか、とアンジェラは気にしないことにした。

 

「フーディルハイン、その程度の改良だったら、こっちで弄ればすぐに出来るよ」

「そうですか、助かります」

「発目、いい加減説明書をフーディルハインに返しなさい」

「はっ、これはこれは、すみません!」

「別にいいよ」

 

 アンジェラは苦笑いしながら発目から説明書を受け取った。同じ科学者でもテイルスやエッグマンとは違うタイプだな、と思いながら。

 

「じゃあフーディルハイン、改良するのはグローブの耐久度でいいんだね?」

「はい。あ、あまり重くしたりはしないでください」

「フーディルハインさん! 先生が作業を進めいている間、エクストリームギア見せてください!」

「OKOK。ちょっと落ち着け」

 

 アンジェラはパワーローダー先生にコスチュームケースを渡すと、工房の隅っこの方へ移動した。着いてきた発目は今までにないってくらい目を輝かせている。

 

 アンジェラは本当にエクストリームギアが好きなんだな、と思いながらテリーヌバッグから自身の愛機を取り出した。

 

「これがオレのエクストリームギア、「ミルキーウェイ」だ」

「こ、こ、こ、これが本物のエクストリームギア……!」

「ほう……こいつは驚いた」

 

 作業に取り掛かりながら、発目が勝手なことをしないように視界の端で見張っていたパワーローダー先生も思わず目を丸くする。

 

 アンジェラも体育祭の後で調べたのだが、日本におけるエクストリームギアの知名度はほぼ皆無。サポート業界で細々と知られているくらいだ。欧州や北米ではかなりの知名度を誇っていただけに、アンジェラは日本に来て一番のカルチャーショックを受けた。

 

 オールマイトの存在がある日本では、そもそもスポーツ業界が諸外国と比べても凄まじく早いスピードで衰退しヒーロー業界にそのお株を奪われているのに加えて、そもそもの国土の狭さがエクストリームギアの無名さに拍車をかけているのだろう。

 

「さ、触っても……?」

「いいけど、壊すなよ?」

「誓って、壊しません!」

 

 発目は元気よく返事すると、ミルキーウェイを壊れ物を扱うかの如く優しい手付きでペタペタと触り始める。その顔はキラキラはしているものの真剣そのものだった。

 

「ほうほう……ふむふむ……こ、これは……なんて素晴らしい! フーディルハインさん! ひょっとしてこのギア、誰かの手が加えられてたりします?」

「……! よく分かったな! オレの弟分が優秀なメカニックでさ、そいつに改造してもらったんだ」

「ええ、分かりますとも! このギアはおそらくホーギー社製の二型スピードタイプ機が大元になっていて、なおかつ元の機体の良いところを殺さずにその性能が底上げされているんです! 極限までスピードに特化させているから初心者が使うにはちょっと不向きでしょうけど、その分熟練者が使えばそのパフォーマンスを最大限に発揮出来るでしょう! それからそれから……」

 

 発目のマシンガントークは続く。アンジェラは、発目は本当にエクストリームギアが好きなんだな、と思いながら微笑ましそうな笑みを浮かべて相槌を打っていた。

 

「全く……フーディルハイン、すまないな。発目は病的なまでに自分本位なんだ」

「別に気にしてません。科学者ってのは多少は自分勝手じゃないとやっていけない生き物だって、分かっていますから」

「ああ……正直、俺も本物のエクストリームギアを見たのは初めてだ。それなのに、遠目から見てもそのギアがよほど腕の立つメカニックに整備されたものだと分かる。……いい弟分じゃないか。雄英に招きたいくらいだよ」

 

 パワーローダー先生はそう言いながらも作業の手は止めない。アンジェラはミルキーウェイを整備した弟分、テイルスを真っ直ぐに褒められて誇らしい気分になった。

 

 

 

 その後しばらくして、アンジェラのグローブの強化が終了し、アンジェラはパワーローダー先生からコスチュームを、発目からミルキーウェイを返してもらった。同時に発目と連絡先を交換し、今後定期的にエクストリームギアについて語り合う仲となるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れ、職場体験当日。各々がコスチュームを含む普段よりも多い荷物を抱えて学校近くの大きな駅に集まった。ちなみにアンジェラはコスチュームを含めて全部テリーヌバッグに詰め込んできた。こういうときに魔法というものは便利である。ケテルはテリーヌバッグの中だ。ぐーすかぴーと眠っている。毎度のことながら、本当に眠るのが好きな子だ。

 

「全員コスチューム持ったな? 本来なら公共の場じゃ着用禁止の身だ。落としたりするなよ」

「はーい!」

「伸ばすな、ハイだ、芦戸!」

「はい……」

 

 職場体験にテンションが上がっているのか、伸ばした返事をした芦戸を相澤先生が注意した。芦戸はがっくりと項垂れている。

 

「くれぐれも、体験先のヒーローに失礼のないようにな。分かったら行け」

『はい!』

 

 相澤先生の号令で、皆一斉に動き出す。アンジェラと麗日も自身の職場体験先に向かおうとする……

 

 

 

 

 

 

 

「飯田!」

 

 前に、飯田を呼び止めた。

 

 アンジェラには、飯田の怒りが分かる。分かってしまう。その胸の内に秘めた憎悪は、アンジェラ自身もずっと抱え続けているものだ。誰にも、怒りを向ける本人以外(・・)、敬愛する兄達にすら告げずに、ひたすらに、ひた隠してきた。

 

「お前の怒りはごもっともだし、その感情を抱くのを止める権利は誰にもない」

 

 だから、アンジェラは知っている。怒りというものがどのようなものなのか。憎悪に呑まれた人間が、どれほど厄介なものなのか。その身を持って知っている。

 

 アンジェラは、飯田に自分のようになってほしくなかった。

 

 だけど、その怒りを誰よりも理解できてしまうから、強い言葉をかけることは出来なかった。

 

「だけどさ、飯田。

 

 その怒りの使い方だけは、間違ったりするなよ。

 

 本当に呑まれそうになったら、教えてくれ。友達だろ?」

 

 そう真剣な表情と声で語るアンジェラの横で、麗日は頷く。自分もあなたの味方である、という意思を込めて。

 

 飯田は二人の方に振り返り、応える。

 

「……ああ」

 

 だが、その表情は今までにないほどに暗かった。

 

 

 アンジェラは、後にもっと強く言葉をかけるべきだったと、後悔することになる。

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