音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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グラントリノに関する設定改変があります。この世界線だったら有り得なくはないと思ふ。


グラントリノ

 まどろっこしいと思いつつ、新幹線でアンジェラがやって来たのは山梨県甲府市。貰ったメモを頼りに歩いていると、辿り着いたのは廃れたビルだった。事前に(・・・)話は聞いていたとはいえ、なんでこんなとこにという思いが頭の片隅を過りつつ、アンジェラはドアをノックした。

 

「雄英から来ました、アンジェラ・フーディルハインです」

 

 返事はない。だが、中から人の気配はする。鍵は開いているようなので勝手に開けてみると、中で黄色いスーツに身を包んだおじいさんが血のようなものをぶちまけて倒れていた。

 

 アンジェラは特に慌てることもなく、スマホを取り出して呟く。

 

「……葬儀屋ってどう連絡すればいいんだっけ」

「生きとる!」

「あ、生きてた」

 

 アンジェラは死んでいないことは気配で分かっていたので、特に慌てることもなくスマホを仕舞った。

 

 ちなみにこの場にツッコミ役は存在しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、ソーセージにケチャップをぶっかけたやつ運んでたら、コケた」

「紛らわしっ」

 

 老人はヒーローコスチュームであろうスーツにかかった血のようなもの、ケチャップを払うと、アンジェラに問いかけてくる。

 

「で? 誰だ君は」

「雄英から来た、アンジェラ・フーディルハインです…………いや、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 GUNの民間協力者、と言ったほうがいいですかね? 

 

 

 

 

 

 元雄英教師にして元GUNエージェント、グラントリノさん?」

 

 アンジェラは不敵な笑みを浮かべる。老人……アンジェラを指名したプロヒーロー、グラントリノはドボけたフリをしてアンジェラの出方を伺おうと思っていたが、アンジェラの笑みに彼女にはそんなフリは意味がないことを悟った。

 

「……体育祭で只者じゃないことは分かっていたが……本部もこんな切り札を隠し持っていたとはな」

「オレは職員じゃないですよ。兄の一人……シャドウはエージェントですけど」

 

 アンジェラはそう言いながら苦笑いする。アンジェラはあくまでも民間協力者。バイトのようなものであり、GUNの正式な職員ではない。

 

 それなのに、天使の教会拿捕という大捕物に、GUN内部に丁度いい“個性”持ちが居なかったことやら天使の教会をこれ以上放置しておけないということも関係しているだろうが、最も重要な役割とも言える釣り餌として参加しているということは、それだけ信頼されているということ。

 

 グラントリノは、久方ぶりに冷や汗が頬を伝ってゆく感覚を覚えた。

 

「さて、フリもお前さんには意味がないようだし、早速だが仕事の話をしようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育祭の振替休日、ナックルズが帰っていった後アンジェラはレポート作業に勤しんでいたが、唐突に通信が入った。集中していたので少し驚いたものの、アンジェラはすぐに通信を繋ぐ。

 

「はい、アンジェラです」

『やあ、アンジェラ君』

 

 通信の相手は、GUNの司令だった。ということは、仕事の話だろう。前はルージュが通信してきたのに、今回は司令自ら指示を出すとは。ルージュは仕事中だろうか。

 

『まどろっこしいのは嫌いだろうから、早速本題に入らせてもらおう。雄英高校では、もうすぐ職場体験があったね』

「はい……日程表見る限りそうですね」

『君には多くのヒーローから指名が入るだろうが、君には行ってもらいたい事務所がある』

「行ってもらいたいというか……仕事上、行かなきゃいけないトコでしょうソレ」

『まあ、そうだな』

 

 アンジェラは苦笑いした。それならそうとはっきり言えばいいものを。

 

『そのヒーローは、GUN日本支部の元エージェントであり、過去一年間だけ雄英高校で教員をしていた方だ。現在は隠居なさっているが、時折日本支部の特別講師としてその技術を若輩達に教えている。

 

 オールマイトと何らかの関わりがあるようだが、その情報については黙秘を貫かれているそうだ』

 

 オールマイトとの関わりというと、アンジェラの脳裏に浮かんでくるのは、事故ってオールマイトから受け継いでしまったワン・フォー・オール。ひょっとして、そのヒーローもワン・フォー・オールに何らかの関わりがあるのではないか、という考えがアンジェラの頭を過る。

 

『そのヒーローの名は、グラントリノ。今回の天使の教会拿捕のため、こちらから協力を要請したヒーローだ』

「了解、その人のとこ行けばいいんですね?」

『そういうことだ』

 

 これが、アンジェラが職場体験先を即決した理由である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本部から久しく連絡があり、天使の教会拿捕のための釣り餌を民間協力者に任せるって言われた時は驚いたもんだが……GUNから上げられた資料と体育祭を見て、別の意味で驚いた。

 

 小娘……お前さん、とんでもなく強いな」

 

 グラントリノはGUN日本支部から送られてきた資料の内の一枚を片手に言う。そこには、主に戦闘に関するアンジェラのデータが纏められていた。

 

「おそらくだが、体育祭でも本気は出していなかっただろう? この資料を見る限り、最終種目、お前さんならどの相手でもその気になれば瞬殺できたはずだ」

「そりゃ勿論。瞬殺したら目立てっていう仕事を達成できないし、相手のためにもならない。色々話したい奴も居たし、あそこまで勝ち上がってきたヒーローの卵たちには、ちゃんと敬意を払いたいと思いましてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あと、そっちのが面白いし」

「絶対最後のやつが本音だろうそれ」

「全部本音ですよ? 割合は知りませんけど」

 

 グラントリノは、GUN司令からアンジェラがどんな人物かをある程度聞いていた。

 

 超がつくほどの気まぐれでマイペース、世間からは若干逸脱した独自の価値観やルールを持ち、堅苦しいものや束縛を嫌うその性質は、とてもヒーローになれる器であるとは思えない。

 

 しかし、一方でお人好しな面も持ち合わせ、人当たりもいい。豪胆なように見せかけて、他者の痛みを自らの痛みのように理解してしまう高い感受性を持つ繊細なその心は、良くも悪くも人間らしい。

 

 まさしく、「風の化身」。アンジェラ・フーディルハインという少女は、その言葉が相応しい人物であった。

 

「……お前さんがヒーローになるつもりが毛頭ないということは知っている。そのくせ、ラフリオンで「空色の魔女」なんて呼ばれていたり、その理由がエッグマンの野望を暇つぶしがてらに阻止しているからだったり、お前さんが“個性”の一部としているケテルっつー生き物が、本当はウィスプっつーエイリアンだということや、

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワン・フォー・オールを継いだこともな」

「……やっぱり、ワン・フォー・オールについて知ってる口でしたか」

 

 アンジェラは自身の予想が当たっていたな、と呆れ返る。オールマイトからグラントリノに関する話は聞いたことがなかった。まあ、とっくの昔に隠居していたらしいから、カウントし忘れていたというのが真相だろうが。

 

「俊典……オールマイトから連絡があった。不慮の事故でうっかりワン・フォー・オールを継承しちまったそうだな」

「いやぁ……事故とはいえ、こんな御大層な力を預かってしまったのがオレみたいなヒーローになる気のない奴で申し訳無い」

「いや、そのことを責めるつもりはない。聞けばUSJのとき、オールマイトを治療したのが切っ掛けらしいな。つまり、敵連合が来なきゃお前さんがワン・フォー・オールを継ぐこともなかった。過失があるとすればそれは敵連合だけのものだ」

「フォロー、感謝します……」

 

 アンジェラはたはは、と苦笑いする。この正義の灯火とも呼べる力を受け継いでしまったのが、胸の内にどうしようもないほどの憎悪(・・・・・・・・・・・・・)を秘めた小娘で、本当に申し訳無い気分になる。一応、オールマイトにワン・フォー・オールを返す方法を探してはいるのだが、今だに解決の糸口すら見つからないでいた。

 

「天使の教会の拿捕は、オールマイトですら成し遂げられなかった大捕物だ。

 

 昔、オールマイトは天使の教会が起こしたテロの現場に居合わせたんだが、被害者こそ全員救助できたものの、天使の教会の構成員は誰一人として捕まえることができなかったそうだ」

 

 猿も木から落ちる。

 

 日本では、どんなに達人だと言われている人物でも失敗することがある、ということを言いたいときにこのことわざを使うそうだ。

 

 オールマイトは完全無欠と思われがちだが、やはり失敗したことはあるのかとアンジェラは妙に納得した。まぁ、教師としての素人さ加減を見ていれば、オールマイトが必ずしも完全無欠の完璧超人ではないことはすぐにわかるのだが。

 

 しかし、流石に一人として捕まえられなかったことは意外に思った。

 

「一人くらいは捕まえてるもんだと……いや、それなら今頃もっと捜査が進んでいる筈か」

「ま、そういうことだな。連中がどんな手を使ったのかは不明だが、あのオールマイトを軽々と振り切るような連中だ。心してかかれよ」

「Yes,sir〜」

 

 アンジェラはニコリと笑って、敬礼をしてみせた。グラントリノは満足そうに頷く。

 

「うむ、その心意気やよし。戦闘に関してもあまり教えることはなさそうだし、司令も中々隅に置けないじゃねえか」

「お褒めに預かり光栄にございま〜す」

「ただ、それはそれとして職場体験っぽいこともやらなきゃならねえ。お前さんの実力も実際に体験してみたいし、今日明日は俺とここで組み手だ」

「……ここで、ですか?」

 

 ここは古ぼけたビル、すなわち屋内である。こんなところでアンジェラが暴れれば、おそらく、いや確実にこのビルは儚く脆く崩れ去るだろう。流石にそんな面倒なことは避けたいアンジェラは、あからさまなしかめっ面になる。グラントリノは意外と小さいことを気にするんだな、と言いながら苦笑いした。

 

「……ああ、言葉が足りなかった。正確に言えば、見たいのはワン・フォー・オールの練度だ。お前さん自身の“個性”の方は体育祭で見て特に問題ないことは分かっているが、GUNからの指令もあってお前さん、自分の“個性”ばっかり使ってワン・フォー・オールはあまり使ってなかったろう。仕事だから責めるつもりは毛頭ないが、お前さんがワン・フォー・オールをどれだけ扱えるかはちゃんと確認しときたい」

「そういうことは先に言ってくださいよ。あやうくこのビル、粉微塵に吹っ飛ぶとこでしたよ」

「お前さんが言うと冗談には聞こえんなぁ……」

 

 なにせ、体育祭で二回もステージを吹き飛ばした人物だ。このビルも、吹き飛ばそうと思えば簡単に吹き飛ばせる。アンジェラはそんなつもりはないと首を横に振った。

 

「さて、時間は有限だ。早速始めようじゃないか。小娘、コスチュームに着替えんさい。俺は上に居とくから」

「OK,just a moment please」

 

 グラントリノが上に行ったことを確認すると、アンジェラはテリーヌバッグからコスチュームケースを取り出してぱぱっと着替える。新しくなったグローブは、前のものよりもフィット感が強く、軽く、かなりの頑丈さを誇る。アンジェラはこのグローブが気に入ったようで、何度か手を握りしめていた。

 

「準備できました〜」

 

 階段の下からグラントリノを呼ぶついでにテリーヌバッグを階段の端っこの方に置く。少し待っていると、グラントリノが降りてきた。

 

「よし、まずはどれくらいワン・フォー・オールが扱えるのかを見せてくれ。部屋に関しては後で修繕するから壊しても気にせんでよい」

「OK」

 

 アンジェラは全身にワン・フォー・オールを行き渡らせる。イメージは、カオスエメラルドの力を使う感覚と同じだ。違いは、力の根源が内にあるか外にあるかだけ。

 

 痛みを伴わない上限である35%まで引き上げたワン・フォー・オールを全身に纏う。水色の電光のような力の波導がアンジェラの身体を包む。その姿を見たグラントリノは、おお、と感嘆の声を上げた。

 

「ワン・フォー・オールを継承してまだ一月足らずでもうここまで……お前さんも天才肌ってやつか」

「元々使ってた身体強化技と原理が似てただけですよ。人より身体が頑丈ってのもありますけど」

「なるほど、既に下積みが存在したと……ところで、ワン・フォー・オールは今どの程度扱える?」

「痛みを伴わなければ35%、怪我しない範囲なら45%ってとこですかね」

 

 グラントリノは感嘆を通り越して背筋が若干凍りそうな感覚に襲われた。ワン・フォー・オールは「力を蓄え、譲渡する」という性質上、継承された側は継承した側よりも更に強い力を発揮できる。オールマイトの100%は、おおよそだがアンジェラの90%ほどに換算されるのだ。アンジェラが気まぐれでマイペースとはいえ、少なくとも敵寄りの思考の持ち主でなくて心底よかったとグラントリノは思った。

 

 アンジェラは一度15%までワン・フォー・オールの出力を引き下げると、しきりに足を動かす。しばらくそのまま軽くジャンプしたりしていたが、うーん、と唸りながら足に纏ったワン・フォー・オールを解除した。

 

「あーでもやっぱり、足に振ると事故りそう……」

「なんだ、そんなことが心配なのか?」

「その身体強化技使った時点で制御不能なんですよ。それよりも出力が高いワン・フォー・オールだと、スピード出過ぎてこんな狭いとこじゃ曲がれなそうで……」

「そうか……素の身体能力が元々よくわからないレベルで高かったなお前さん。音速で走れるとか、それもう“個性”じゃないのか?」

「病院で検査してもらって、ちゃんとそれが“個性”じゃないって言われてんですよ。トレーニングの賜物だろうって。当時はソニックについて走ってた記憶しかないんですけど」

 

 十中八九そのせいだろ。

 

 グラントリノは5秒くらいそう思った。

 

「ま、事故りそうなら使わなきゃいいだけのカンタンなお話ですよ。オレって腕の力はそこまでないんで、足以外を常時展開するみたいな感じが基本形ですかね?」

「ふむ、そういう考え方もアリだな。スピード出し過ぎて事故って被害拡大ってのもシャレにならん。足にワン・フォー・オールを纏わせるのは攻撃する一瞬だけでいいっていうのはいい考えだな」

 

 グラントリノはそうアドバイスをすると、大きく息を吸い込んで足の裏の噴出孔から空気を勢いよく放出し宙を縦横無尽に飛び回る。壁に着地(?)したときにその部分が崩れていたがそこは気にしてはいけない。

 

「さて、ここからは実戦形式だ。お前さんが使っていいのはワン・フォー・オールだけ。それ以外の“個性”は使用禁止の組み手だ。いいな?」

「OK、よろしくお願いします」

「いい返事だ、行くぞ、受精卵小娘!」

 

 グラントリノは再び宙を飛び回る。四面に壁がある屋内だからこそ、こんなに立体的な動きが可能なのだろう。

 

「ふむ……」

 

 しかし、アンジェラの目はしっかりとグラントリノの姿を捉えていた。グラントリノのスピードは中々のものだが、アンジェラから言わせてしまえば、まだ遅い。

 

 アンジェラは構えを取る。グラントリノがアンジェラの背後を取り蹴りを入れた、その瞬間、

 

「……!?」

 

 アンジェラの姿は、そこにはなかった。

 

 そのことをグラントリノが認識した直後、グラントリノの背後から勢いよく風が吹く。その勢いは凄まじく、グラントリノは地面に叩きつけられた。

 

「……これは」

「風圧ですよ風圧」

 

 地面に叩きつけられる直前、“個性”で落下の勢いを殺したグラントリノは、高らかな声と共にその近くに綺麗に着地したアンジェラの姿を見やる。

 

「ワン・フォー・オールで風圧を発生させたんです。ちょっと勢い強かったですかね?」

「いや……というか、手ぇ抜いたろお前さん」

「生卵以外の御老体に無理はさせられませんので」

 

 その生卵とやらはいいのか。

 

 グラントリノは思わず呆れ返った。

 

 しかし、アンジェラが手を抜くのは予想の範囲内でもあった。なにせ、あのソニックとシャドウの妹だ。グラントリノを、いや、あの速すぎる男と呼ばれる日本のナンバースリーヒーローをも遥かに上回る速度で地を駆け抜ける兄達の姿をずっと見てきたアンジェラにとって、殆どのヒーローの動きは止まって見えることだろう。

 

「お前さん……まあ、力任せにワン・フォー・オールを使っていないことが分かればいい」

「そうですか」

 

 アンジェラはそう言うと無邪気に笑った。

 

 




というわけで、グラントリノにGUNの元エージェントという設定が生えました。今は引退して教官みたいなことをしています。
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