数分前。
アンジェラは保須市内を駆け回っていた。新幹線から確認した限り、保須市内は大炎上中。おまけに脳無も複数体現れているようで、街中が大パニックに陥っていた。
「こりゃ……凄まじいお祭り騒ぎだな」
アンジェラは騒ぎの中心へと向かっていた。グラントリノがどこにいるのかは分からないが、騒ぎの中心に向かっていればいずれ合流できるだろう、という考えのもとだ。一応、探査魔法を使ってはいるものの、保須市はかなり大きい街だ。そんな中から一人の人間を探すなど、砂の中に紛れた落し物を探すと同義であった。
そんな最中、アンジェラの耳にあるプロヒーローの声が聞こえてくる。
「天哉くーん!」
飯田の名前を呼ぶその声は、おそらく飯田の職場体験先のヒーローのものだ。アンジェラはその声がした方へと走った。
瞬間、アンジェラの眼の前でトラックが爆発し、炎上した。周囲を見渡すと、脳無のような化け物が複数体、ヒーローを襲っている。先程新幹線に現れた脳無らしき敵といい、アンジェラの中で嫌なパズルが完成しそうで思わず舌打ちが出てくる。
「もう、なんでこんなときに限ってどっか行っちゃうんだ、天哉くん!」
何処かに行った? この状況で? あの真面目な飯田が?
アンジェラの頭の中にあった疑念が確信に変わる。
脳無らしき敵、保須市、飯田、ヒーロー殺し……。
おそらくは今この街で、アンジェラだけが考えられる最悪のケース。
敵連合とヒーロー殺しが、繋がっているのではないか?
「……ッチ!」
アンジェラは踵を返さずその場を後にした。今自分が出せる最高速度で、保須市内の路地裏を虱潰しに駆け回る。
飯田が今職場体験先のヒーローと共に居ないのは、飯田がヒーロー殺しを発見してしまったからではないのか。飯田は、自身の胸の内のドス黒い感情に、アンジェラが抱え続けているものと同じ、憎悪の感情に囚われて、周りが見えなくなってしまっているのではないか?
アンジェラは考える。自身の憎しみが一番強かったあの時期に、眼の前に恨みを抱く相手が居たとしたら、その相手がしでかしたことをしっかりと覚えていて、それでいて悪いと思う素振りも何も見せなかったのだとしたら。
アンジェラであれば、十中八九、相手に手をかけているだろう。抱えた激情のまま、相手を殺すことに、一切の躊躇を抱かないだろう。
(……こりゃ、あいつのことをどうこう言える立場じゃねえな、オレは)
恨みに囚われている人間の視野は総じて狭い。アンジェラの場合は、恨みを抱くそもそもの原因が
しかし、飯田の場合は違う。
恨みを抱く相手が現存し、その理由も存在してしまっている。自分がもしその立場になったと考えるだけで、怒りが湧き上がってくる。
アンジェラは飯田の怒りも嘆きも憎しみも、あの教室の誰よりも理解できてしまうから、強い言葉をかけることができなかった。同じ憎しみをずっと隠し続けているアンジェラに、飯田の行動を止めるなど、出来るはずもない。
だが……
失う悲しみを知っていたはずなのに、失ってからでは、全てが遅いことなど、とっくに分かっていたはずなのに、何故行動しなかったのかと、後悔の念がふつふつと燃えたぎる。
(……いや、そんなことを考えるのは後にしろ! 今なら、まだ間に合うかもしれない!)
アンジェラは駆ける速度を更に上げた。ヒーロー殺しの被害者の六割が、人気のない路地裏などで発見されている。
なれば、騒ぎの中心から飯田の体験先、ノーマルヒーローマニュアルの事務所辺りの路地裏を、虱潰しに探す。自身が持てる、最高速度で。
そして、アンジェラは発見する。
今まさに、飯田に手をかけようとしているヒーロー殺しと、そのヒーロー殺しと交戦したであろう懐かしい赤を。
空色の風は吹き荒ぶ。
友を助ける。そのどこまでも純粋な想いと共に。
アンジェラに吹き飛ばされたステインは、口ではアンジェラを舐めたようなことを言いつつ、頭の中では真逆のことを考えていた。
これまで、ヒーロー殺しとしてかなりの場数を踏んできたからこそ分かる。眼の前のちっこい小娘は、その見た目とは裏腹に「別格」であると。自身
彼女とは、戦いたくはない。しかし、自分には成さねばならぬ義務がある。そこにいる贋物達を、始末せねばならぬ。
そのためには、眼の前の少女と戦わなくてはならないだろう。自身の感情と義務を天秤にかけ、ステインは後者を選び取り刀を構えた。
刀を構えたステインを見て、アンジェラも構えを取る。一切の油断も隙きもない構えだ。
「やめろ、アンジェラ君! 言っただろう、君たちには関係ないって!」
飯田の悲痛な叫びが路地裏に響く。しかし、アンジェラは構えを解こうとはしない。
「だから、言ったろ?
アンジェラはそう言って、笑みを浮かべた。絶句している飯田の横で、ガジェットは困ったような笑みを浮かべる。
「飯田……っていうんですね、あなた。止めようとしても無駄ですよ。ああなったアンジェラさんは……梃子でも動かない」
ガジェットはアンジェラとはそれなりに長い付き合いだ。だから、アンジェラ・フーディルハインがどういう人間であるのかは、それなりに理解はしているつもりだ。
笑みを浮かべたアンジェラを見て、ステインは歓喜に包まれた。「別格」のあの少女は、その心までもが真のヒーロー足り得る、と。
「ハァ……良い」
ステインとアンジェラは同時に動き出す。ステインは水平に刀を振るうが、その時既にアンジェラの姿はそこにはなかった。
「……!」
この場で、ガジェットだけが認識できたアンジェラの残像。ステインの反応速度を遥かに上回るスピードで、アンジェラはステインに接近していたのだ。接近と同時に
「やはり……「別格」……!」
アンジェラは上半身にワン・フォー・オールを纏い、思いっきりステインの頭部を殴ろうと音速で拳を振るった。
しかし、アンジェラの拳はあと一歩というところでステインには届かなかった。
赤く光るブロックのようなものが急に現れ、ステインを守ったのだ。
「なっ……!?」
アンジェラは一瞬動揺してしまう。そして、その隙きを突いてステインは懐からナイフを取り出してアンジェラを切りつけようとした。寸でのところで
「ッチ……さっき切られたのか……!?」
『我が主、ヒーロー殺しステインの“個性”、解析しました。ガジェットの予測の通り、やはり血を舐めて相手を拘束する“個性”のようです。すぐに解除を……』
ソルフェジオの言葉が頭の中に響く。解除してほしいのは山々なのだが、ステインを守ったあの赤いブロックの存在を考えると、それより先にやってほしいことがあった。アンジェラは小声でそのことを言うと、ソルフェジオは了解、と言わんばかりに輝いた。
「赤いブロック……どこからともなく現れ…………!!」
ガジェットもステインが放った謎の攻撃の正体を掴んだようで、鋭くステインを睨みつける。
「ほう……コレを知っているか」
ステインはそう言うと、更に赤いブロックをどこからともなく出現させる。アンジェラはステインが赤いブロックを出したと同時に、ステインの胸元からあるモノの力を感じ取った。
「小娘……コレを使ったのはお前が初めてだ。やはり貴様はいい……生かす価値がある。最初の発言を撤回しよう」
「そりゃどうも……嬉しかねえけど……」
アンジェラは歯軋りをする。流石にこれは予測不能だった。
赤いブロックをどこからともなく出したあの力は、“個性”由来などではない。“個性”なんかよりもっと危険で、悍しい力。何故ステインが持っているのかは知らないが、あんなやつに持たせていいモノなどでは決してない。
それは、ガジェットがGUNに入る切っ掛けとなったある悍ましい事件を引き起こした元凶。ある敵によって創られ、数多の人間の人生をもめちゃくちゃに破壊した、幻想の兵器。
「ファントムルビー……仮想現実……!」
ガジェットは叫ぶように、ソレに付けられた名を呼ぶ。ステインは正解だ、とでも言うように笑った。
「ファントム……ルビー……?」
飯田は疑念と共にその名を復唱する。ガジェットはしまった、と言わんばかりの表情を浮かべた。そんなガジェットをフォローするかのように、アンジェラが口を開く。
「アレは……GUNの機密事項に分類される敵が開発した悍しい兵器だ」
「何故……そんなことをアンジェラ君が知っているんだ?」
「アレが関わる事件に昔巻き込まれたことがある。あの生卵……エッグマンでさえその危険性と
アンジェラは当時のことを思い出して苦い表情になる。
ガジェットと出会う少し前のことだ。
特に意味もなくステーションスクエアをぶらついていたある日のこと。ステーションスクエアに、敵が現れた。前もって言っておくがエッグマンではない。
その敵は、赤いブロックのようなものをどこからともなく出現させ、街を破壊し、人々に危害を加えていた。近くに居たGUNのそれなりに偉い人の協力要請に応じて、アンジェラもその敵と交戦した。
際限なく湧き上がってくる赤いブロックにそれなりに苦戦もしつつ、なんとか敵を
アンジェラは敵のすぐ近くに居たので、その呟きが聞こえていた。
否、聞こえてしまっていた。
『赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい血を血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい血を見たい肉を削ぎ落として皮を剥ぎ取って内蔵を引きずり出して血を吹き出させて犯して嬲って殴って切り裂いて喰らって抉ってもぎ取って藻掻き苦しむ様を見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たいアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいいアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ…………!!!』
ただひたすらに呟かれる、意味がありそうで意味などこれっぽっちもない言葉の羅列は、その場ではアンジェラにしか聞こえなかったようだが、アンジェラに訳がわからぬものへの確かな恐怖を植え付けた。今思い出しても悪寒が走る。アンジェラはその後しばらく悪夢にコレが出てきた。
その後、アンジェラが事情聴取ついでに文句を言いにGUN本部へと赴いたとき、アンジェラに救援要請を出したGUNのそれなりに偉い人から、あの敵が拘置所で自殺したと聞いた。
その理由について、その偉い人はアンジェラになら、と緊急時以外の守秘義務契約と共にアンジェラに話してくれた。
敵が自殺した原因は、その敵の体内に埋め込まれたファントムルビーという兵器による精神汚染だという。ファントムルビーは仮想現実を実体化させる兵器で、どこかの敵組織によって研究、開発が行われているらしい。使用者の体内に埋め込んで使うのだが、適合係数が低いと強力な精神汚染が発生し、終いにはヒトですらないナニカに変貌してしまう。その情報と、ファントムルビーの弱点についての情報、そしてGUNのあるエージェントがファントムルビーを無理矢理埋め込まれた被害者であること以外は公開権限がないと教えてくれなかったが、アンジェラはそれ以上深くに首を突っ込むつもりもなかった。
例え、アンジェラの友人にファントムルビーが根付いていたとしても、自分の対応は変わらない。
つい、気味が悪いことを思い出してしまったアンジェラはあからさまに顔を顰める。
ステインが一歩一歩と飯田に近づいてゆく。飯田に貼った防壁を突破しようと刀を振り上げたその瞬間、
紅の美しい炎がステインめがけて迸った。
「フーディルハイン……こういうのはもっと分かりやすく書くべきだ。遅くなっちまっただろうが……」
アンジェラたちがなんとか視線を後ろに向けると、スマホを見せながら左側から美しい炎を吹き出している轟の姿が、そこにあった。
まさかのステイン強化。驚かれた方も多いかと。
そして、ソニックフォースよりキーアイテムのファントムルビーが設定を結構変えての登場です。設定を変えたとは言っても大まかな能力は変わっていません。ただ、使用時の副作用が洒落にならないことになっています。分かりやすく説明すると、6層の呪い「死か人間性の喪失」みたいなものです。余計分かりにくいですねハイ。取り敢えず、この作品においてはファントムルビーを宿した人間はよほどの適性がない限り化け物になると思っていただければ……
コアなソニックファンの方は「大まかな能力が変わっていないのなら仮想現実を実体化はおかしくね?」とお思いでしょうが、切羽詰まった状況ならあの説明になってしまってもおかしくはないかなと……
一応こちらで明言しておくと、ファントムルビーの能力は仮想現実を実体化させるものではなく、「本物に限りなく近い幻を見せる」ものです。その場に存在はしていないけれど、受けた本人にとっては本物。しかもどこからともなく出せる……ソニックシリーズにおいても結構凶悪な能力ですよね。この作品においてはエッグマン様が作ったものではありませんが。
じゃあどこの誰が作ったの?となりますが、それはまた別の機会ということで……