音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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お気に入り100人突破、皆様ありがとうございます。
今までグロやらホラーやら鬱やら続いてきましたが、今回は小休止回。肩の力を抜いてどうぞ。






まだ、特大の爆弾が残っていますので。


兄妹のはなし

 ヒーロー殺しステインが逮捕された日から一夜が明け、朝も通り越して昼。

 

「ん……ここは……」

 

 今の今まで気を失っていたアンジェラは、ようやく意識を取り戻した。最初に目に入ったのは、病院のものであろう無骨な天井。ジャパニメーションも踏襲済みのアンジェラは、あることを叫びたい衝動に駆られた。

 

「はっ、知らない天井!」

『ふざけてないでナースコール押してください』

「アッハイ」

 

 なんだか若干辛辣なソルフェジオに促されてアンジェラはナースコールを手に取り押した。ちなみにソルフェジオはペンダント形態に戻っている。

 

 枕元を見てみると、疲れ果てたのかウエストバッグを枕代わりにどべーっと寝そべって寝息をかいているケテルが居た。カラーパワーを無理に使わせたから疲れてしまっているのだろうか。

 

 それにしても、昨日はやべーことをしてしまった。文字通り血反吐をぶちまけた。多分後で怒られるんだろうなぁ……後悔も反省もしていないけど。

 

 そんなことをつらつらと考えながら、アンジェラは医者を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小娘、起きたか」

「グラントリノ」

 

 診察が終わった直後、アンジェラの病室にグラントリノがやってきた。診察の結果、アンジェラの身体は若干貧血気味なこと以外は異常なし。裂けた皮膚もガジェットの“個性”によって治され、もうほぼ完治に近い。暫くは経過観察のために入院しなければならないようだが、それは二、三日で済むらしい。

 

 そして、アンジェラがまだ気絶している間に、保須警察署署長の面構犬嗣さんが、別室に入院中の飯田と轟の元を訪れたとのことだ。

 

 面構署長は言ったそうだ。“個性”の武力行使、人を安易に殺められる力。本来であれば糾弾されるはずのそれらが容認されているのは、先人たちがモラルやルールをきちんと遵守してきたからだと。

 

 資格未取得者の保護管理者の指示なしでの“個性”使用及び他者へそれを振るうことは、例え相手が凶悪敵のヒーロー殺しステインであったとしても、立派な規則違反である。

 

 故に、飯田、轟、そして二人の現在の保護管理者であるプロヒーロー、エンデヴァー、マニュアルには然るべき処罰が下されることになった。インフィニットが合流してからのことは、インフィニットが上位国際エージェント免許を持っていたことと、そのインフィニットの監督下にあったことを踏まえて、処罰の範囲からは外れているそうだが、それ以前のことは庇いきれなかったらしい。

 

 しかし、処分云々はあくまでも公表すればの話。轟の炎によってわずかについた火傷痕から、エンデヴァーをステイン確保の立役者として擁立してしまおうと思えば擁立してしまえる。目撃者が限られていることもあって、この違反はここで握り潰してしまえるのだ。轟達には既にこの話が通っており、警察の方でも隠蔽の方向で動いているとのことだ。どちらにしろ、監督不行き届きということでエンデヴァーとマニュアルは責任を取らないといけないそうだが。

 

 ちなみに、これは大変余談であるが、GUNのエージェント免許はヒーロー専用のネットワークサービス、ヒーローネットワークを使えないこと以外はそこまでヒーロー免許と変わらないものである。ガジェットが持っているのは一般的なエージェント免許だが、インフィニットが持っているのは更に上位の権限を持つ上位エージェント免許である。

 

 そこまで話を聞いたアンジェラはふとある疑問を感じた。

 

「……あれ、オレは?」

 

 そう、そもそもの処罰の対象に、アンジェラと現在アンジェラの保護管理者であるグラントリノは含まれていなかったのだ。結構派手に暴れた、なんなら一番重傷だったはずなのだが。

 

「あー、お前さんの場合は、本部からアレが出たからな。タイミング的にギリギリセーフとのことだ」

「アレ? なんのことです?」

 

 グラントリノはアンジェラに茶色い封筒を手渡す。アンジェラは首を傾げながらそれを開けてみた。中には一枚の書類と免許証サイズのカードが入っていた。カードには、アンジェラの顔写真とフルネーム、何かのIDなどいくつかのアンジェラにまつわる個人情報が刻まれている。

 

「……えーっと……コレは?」

「お前さんの緊急エージェント免許証だ」

「なんすかそれ」

「要は、エージェントの仮免だな。GUN上位職員複数人の推薦がなきゃ得られない、ある意味普通のエージェント免許より貴重なもんだぞ?」

「へー……」

 

 GUNエージェントに仮免などは本来は存在しない。外部の者がエージェントと同等、とまではいかないにしろ、ほぼ同等の権限を得ることができるのがこのカードなのだろう。刻まれているIDはそのまま、仮とはいえGUNエージェントとしてのIDとのことだ。そしてこのカードは、発行されたその瞬間から効力を発揮する。そしてカードに刻まれていた発行日時は、丁度昨日の夕方。そう、アンジェラがステインと遭遇する、その直前である。

 

「なるほど、ギリギリセーフってそういうことか」

「天使の教会の案件に関わるんなら必要だろうって、本部司令その他上位職員複数人の推薦で発行された。それさえあればGUNの施設は上位クリアランスが必要な場所以外は大抵入れる。無くすんじゃないぞ? あと、大丈夫とは思うがくれぐれも不用意に他人に話さないようにな」

「はーい」

 

 アンジェラは取り敢えず、ケテルが枕代わりにしていたウエストバッグの中にエージェント免許証を仕舞った。後でカードケースでも買おうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、お前ら」

「アンジェラ君! 目を覚ましたんだな!」

「うん、元気そうだな」

 

 グラントリノとの会話の後、アンジェラは飯田と轟の病室に顔を出した。そこには昨日のことで話があったのであろうガジェットとインフィニットの姿もあった。

 

「もう動いても大丈夫なんですか?」

「ああ、お前のおかげでな。Thanks,ガジェット」

「いえ、むしろこれくらいのことしか出来なくて申し訳ないです……!」

 

 ガジェットは申し訳なさそうに頭を下げるが、アンジェラとしてはガジェットが居なければあやうく後遺症が残りかけたのだ。あの行動に後悔なんてものは微塵もないが、ガジェットのおかげで助かったという感情にも嘘偽りはない。

 

「いや、こうしてオレが五体満足で居られるのは間違いなくお前のおかげだよ、ガジェット」

「はぁ……本当はあんなことしてほしくなかったんですが」

「ガジェット、そこまで気に病む必要はない。俺達ではこのバカの行動を止めることなんて出来やしないのはとっくに分かっていたことだろう」

「バカとはなんだバカとは」

 

 なんだかんだ言って、インフィニットもアンジェラのことが心配だったのだろう。普段あまり素直にならないのに、珍しいこともあるものだとガジェットは苦笑いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの一件(・・・・)で懲りたかと思ったが、どうやら全然懲りていなかったらしいな」

 

 突如、扉の方から轟と飯田は全くもって知らないが、アンジェラ達にとっては聞き馴染みのありすぎるどことなく甘い声が響く。勘違いでもなんでもなく、怒気を含んでいるであろうその声にアンジェラはブリキ人形さながらに、ギギギ……という音が出そうな動きで扉の方を向く。

 

「アンジェラ」

「げっ、シャドウ!?」

「オレも居るぜ」

「ソニックまで!?」

 

 そこに居たのは、アンジェラの義兄たるソニックとシャドウであった。まさかの人物の登場に、アンジェラは思わず声を裏返してしまう。

 

「何でここに……?」

「ガジェットから連絡が入った。また相当無茶を押し通したらしいな?」

「うっ……き、昨日の今日でどうやってここまで……」

「No way! アンジェラならよくわかってるだろ?」

「……カオスコントロールか……」

 

 アンジェラは思わずこめかみに手を当てる。ガジェットから連絡を受けて、上司を脅してかどうかは知らないがどうにかしてカオスコントロールによる国境越えの許可をもぎ取りでもしたのだろう。シャドウは目的のためならば手段を選ばない所がある。ソニックまで交渉に参加していたのだとしたら、脅された上司哀れ、としか思えない。

 

「えっと……どちら様で?」

「お二人も話くらいは聞いたことがあるんじゃないですか? アンジェラさんのお兄さん達ですよ」

「ああ……そういえば、前にアンジェラ君からそんな話を聞いたな」

「俺も、話には聞いていたが……」

 

 飯田はUSJ事件の前に、轟は体育祭の時にちらっとそういう話は聞いていたが、詳しいことは聞いたことがなかった。アンジェラの話から、アンジェラが二人の義兄のことを慕っていることはなんとなく察しがついていたが。

 

「そんなお兄さん方がどうしてここに?」

「決まっている。無茶ばかりの妹に説教をしに来た」

 

 飯田の疑問に答えたのはシャドウだ。アンジェラは今すぐここから逃げ出したい衝動に駆られた。逃げ出したところで、病み上がりのアンジェラが元々アンジェラよりも速く地を駆けるソニックとシャドウから逃げられる謂われはないのだが。

 

「あのー……見逃してくれたりは」

「「するわけないだろ」」

「ですよねぇ!!」

 

 駄目だ、逃げられない。

 いや、元から逃げられるわけがないのだが、ここで逃げようとする素振りを見せたら説教の時間が更に延びる。

 

 観念したアンジェラは、頬をもちもちとつねられながら小一時間ほど説教されましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通り説教が終わり、ようやく解放されたアンジェラは既に疲労困憊の状態だった。

 

「あー、痛かった」

「……全然反省していないように見えるんだが」

「ソンナコトナイデスハンセイシマシタ」

「棒読みがすごいぞアンジェラ君!?」

 

 ベッドの上で正座させられていたアンジェラは、飯田のツッコミを受けながら脚を伸ばしていた。

 

「まあ、オレたちがそれをどうこう言える立場じゃないのはわかってるけどさ……流石に血を吐くまで身体を酷使するのは、な」

「うっ……」

「こいつは昔からどうも他人を頼る、ってことが苦手なんだよ。飯田に轟、だっけ? そういうことだから、ちょっとばかしでも気をかけてやってくれ」

「ちょ、ソニック!?」

 

 アンジェラは心外だとでも言わんばかりの表情でソニックを睨む。が、ソニックはどこ吹く風であった。

 

「そりゃ、昔よりはマシにはなったけどな」

「え、血を吐いてぶっ倒れて、それが昔よりもマシ……?」

「いや、全然マシとは思えないのですが!?」

「普通はそう思うだろうな。だけど、本当にマシになった方なんだよ。そもそもアンジェラは自分の弱みを見せようとしない。限界になってからようやく表に出すからな」

 

 ソニックはそう言いながらため息をつく。アンジェラはこうと決めたら梃子でも動かない。それは重々承知の上だが、せめて大きな怪我を負ってほしくない、少し頼るくらいはしてほしいと思うのは、ただのエゴだろうか。

 

 アンジェラは自身のやりたいことを突き通さないと気が済まない質なのはよく分かっている。他ならぬ、ソニックが元々そうなのだから。

 

 が、それを加味しても、アンジェラは自身の弱い所を見せたがらない。そして、無茶を押し通す。例え、そのせいで自身がどれだけ傷付こうとも。

 

 人の痛みには敏感なくせに、自身の痛みには無頓着な妹。だからこそ、例え意味がないかもしれないとしても、二人は、いや、彼女に関わった人物達は心配し続ける。

 

「…………まぁ、心配かけて、悪かったよ」

 

 アンジェラは目を伏せがちに言う。アンジェラだって、分かっているのだ。どうしてここまで心配されるのか。

 

 だけど、飛び出さずにはいられない。ヒーローになりたいわけでは決してないのだが、何かができるのだと認識してしまえば、いや、しなくても、駆け出さずにはいられない。

 

 それはアンジェラの美点であり、欠点であり、精神の歪みであった。アンジェラはそれを、正しく認識している。認識こそしているが、治すことは出来ない。

 

 アンジェラは自身の心情を隠すように、曖昧に笑った。

 

 

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