「さて! 最初からビッグなサプライズだったわけだけど、そろそろ授業を始めようか!」
アンジェラとインフィニットの言い争い……というかじゃれ合い? が沈静化すると、オールマイトが本日のヒーロー基礎学の内容を説明し始めた。
「さて、今日のヒーロー基礎学だが、職場体験直後ってことで、遊びの要素を含んだ救助訓練レースを行うことにする!」
「救助訓練ならば、USJでやるべきなのではないでしょうか!?」
大きく手を挙げて質問したのは、体操服姿の飯田だ。飯田のコスチュームはステインにボロボロにされてしまったようで、現在修復待ちである。
「あそこは災害時の訓練になるからな。私は何て言ったかな? そう! レース!
ここは運動場γ! 複雑に入り組んだ迷路のような密集工業地帯! 5人4組に分かれて、一組ずつ訓練を行う! 誰が一番に私を救けに来てくれるかの競争だ! 勿論、建物への被害は、最小限に、な!」
オールマイトはそう言いながら爆豪を指差す。最初の戦闘訓練で、アンジェラに阻まれたとはいえ屋内で大規模攻撃を繰り出そうとしたからだろう。アンジェラはたはは、と笑っていた。
オールマイトの指示に従って、一組目の瀬呂、飯田、尾白、芦戸、そしてアンジェラは自身に割り当てられたスタート位置につく。他のクラスメイト達とガジェット達はゲート近くにある「OZASHIKI」とデカデカと書かれた待機場所にて、大きなモニターでVTR中継を見ていた。
「飯田まだ怪我完治してないんだろ、見学すりゃいいのに……」
「クラスでも機動力良い奴が固まったなぁ」
「うーん……しかし、この中ではアンジェラさんがダントツのトップでは?」
「確かに……“個性”無しでも運動神経凄すぎるもんなぁ……俺目で追えねえもん」
「ケロ、アンジェラちゃん、空も飛べるわよ」
「あー、そういや体力テストの時飛んでたね、ふわーって」
「じゃあやっぱアンジェラちゃんが一位かなぁ」
クラスメイト達はわいのわいのと自身の意見を交換する。そんな中でも、やはりトップ予想は満場一致でアンジェラのようだ。
「ガジェット……先生はどう思います?」
「ああ、先生は付けなくていいですよ。本当に歳があまり変わらないので」
ガジェットに聞いたのは麗日だ。クラス内でも特にアンジェラと仲がいいことも相まって、アンジェラの故郷から来たアンジェラと親しい人が気になるのだろう。
「うーん、僕は他の方の“個性”を基礎的な情報しか知らないので何とも言えないんですが……多分、すぐに終わるんじゃないですかね? ああ、ちゃんと見たければ瞬き厳禁ですよ。多分、あの距離なら……」
ガジェットの発言に、麗日達は首を傾げた。
直後、オールマイトによるスタートの合図がなされる。全員が一斉に飛び出した。やはり、こういうごちゃついた地形では上の方が安定して行けるのか、全員が上からオールマイトの元へ向かう。
が、モニターで見ているクラスメイト達は、全員目が点になり口があんぐりと開いていた。スタート直後にモニターに映った水色の残像。それは他の走者達が動きやすい上へと辿り着いたときには、もう既にゴールに到着していた。
「…………嘘ぉ」
「あー……やっぱり」
「相変わらず冗談みたいな奴だな、アイツは」
ガジェットは予想通りの結果に苦笑いをする。インフィニットに至っては呆れ顔だ。
「あーっと……フーディルハイン少女……流石、だね?」
「いやまだまだこんなもんじゃないですよ」
「それ以上速く走れるの!? 今だって全盛期の私以上だったよね多分!?」
「だってまだ光速の域に達してないし。身体強化技使わずに光速を出すのが今のオレの目標ですね」
「…………それはもはや人間を卒業した何かだよ……」
オールマイトはそう言いながら、とんでもない爆弾発言をかました残像の正体、アンジェラに一位の証のタスキを手渡す。アンジェラは首を傾げながらもそれを巻いた。
「うちの兄さんたちは出来ますけど?」
「……まあ、目標を高く持つことはいいことだ、よ?」
「何故に疑問形?」
オールマイトは噂話程度の知識しかないとはいえ、アンジェラの兄たちについて知っている。その知識と、アンジェラの考え方の根底に何があるのかを思い出し、肩をガックリと落とした。
「君は……頼もしいなぁ、本当に。
……授業が終わったら、私の元へ来なさい。話さなければならないことがある」
「……? わかりました?」
アンジェラは首を傾げながら、他の走者たちが到着するのを待った。
授業が終了し、アンジェラ達は女子更衣室で着替えながら先程の授業について話し合っていた。
「いやしかし、ガジェットさんのアドバイスは的確でしたわね。麗日さんが“個性”で浮かんだとき、姿勢を変えればもっと長い時間浮かんでいられるんじゃないかと仰られていましたのよ」
「あー、それ自分の番の後で本人から聞いた! 姿勢かー……ちょっと研究してみようかな?」
「アタシも、酸の粘性や溶解度を最大でどれだけのものにできるのか、ちゃんと調べた方がいいって言われたよ! 自分の中でなるべくわかりやすい段階をハッキリと決めたほうが、咄嗟に使わなきゃいけないときに役立つって」
「ケロ、私はインフィニットさんにアドバイスを貰ったわ。ガジェットさんとインフィニットさんって観察眼がいいのね」
「あー、フーディルハインが異常に戦闘強いのって、ひょっとして昔からインフィニットさんに鍛えられてたから?」
「なるほど、それならなんとなく納得がいくね!」
やはり、会話の内容はガジェットとインフィニットについてが主立っている。アンジェラは微笑ましそうに笑いながら、大事なところを訂正しようと口を開いた。
「いや、違うぞ。オレが初めてインフィニットに会ったのは、あいつがまだGUNのエージェントになったばかりの頃だったからな」
「……ん? それって、どういうこと?」
「あー……オレとインフィニットって、元々はスパーリング相手だったんだよ。最初に会ってから暫くは、オレあいつがGUNのエージェントだって知らなかったし。あいつが担当してた事件に巻き込まれてようやく気付いたからな」
アンジェラは当時を思い出してしみじみとした表情になる。話を聞いていた蛙吹は結論をはじき出したのか、ひょっとして、と前置きして口を開いた。
「アンジェラちゃんとインフィニットさんって、元々は対等な練習相手だったのかしら?」
「ま、そういうことだな。というか、アイツがGUNのエージェントだって知ってからも日本に来るまではたまにスパーリングしてたし。ついでに言うなら、ガジェットに基礎格闘術教えたのはオレ。いや、教えたっつーか、どっちかというとクセを直したの方が正しいけどな」
「……普通は驚くことなんだろうけど、フーディルハインなら有り得る、って思っちゃうな〜……」
「うんうん、アンジェラちゃんってなんでもありだもんね、かなり」
「アンジェラちゃん、“個性”なし縛りでも、全く勝てるビジョン見えへんもんなぁ……遠いなぁ」
そんな感じで談笑していると、ふいにソルフェジオが何かを聞き取った。
『我が主、男子更衣室の方が何やら騒がしいです』
「ん? ……確かになんか賑やかだな……って何だコレ」
アンジェラが男子更衣室の方を見ると、何やら壁に穴が開いている。同時に聞こえてくる、男子の声。
「見ろよこの穴ショーシャンク! 恐らく諸先輩方が頑張ったんだろう、隣のそうさ、分かるだろ? 女子更衣室!」
ああ、あの
女子達の心は今、一つになった。
「峰田君止めたまえ! 覗きは立派な犯罪行為だ!」
「オイラのリトル峰田はもう立派なバンザイ行為なんだよぉ!!」
何やら最低なことをしようとしている峰田を飯田が頑張って止めようとしているようだが、そんな程度で止まる峰田ではないだろう。ほら、何かを破る音が聞こえてきた。
「ウチがやる」
「オレも手伝うぜ、耳郎」
「助かる」
耳郎は男子更衣室側の壁に左耳のイヤホンジャックを突き刺し、アンジェラは魔法で聴覚を強化して峰田の様子を伺う。同時にアンジェラは極小の魔力球を用意する。物理的なダメージはないが、痛みを擬似再現する魔法をぎゅっと濃縮した代物だ。覗いてくるのならばまずこれを放ち、それでも離れないのであれば耳郎の右耳のイヤホンジャックで目玉を潰す。
「オレが合図したらイヤホンジャックを突き刺してくれ。掠って千切れるほどの痛みに襲われたくはないだろ?」
「うわー、えっぐ……」
「セクハラ魔人に容赦は無用。ただでさえそれだけでムカつくのに、テイルスと声が似てるから余計に腹立つ」
アンジェラの発言に、麗日たちはテイルスって誰? と一瞬思った。
「八百万のヤオヨロッパイ!!
芦戸の腰つき!!
葉隠の浮かぶ下着!!
フーディルハインのロリ巨乳!!
麗日のうららかボディに、蛙吹の意外おっぱァァアアア!!」
セクハラ常習犯の覗き魔に慈悲をかける必要はない。アンジェラは容赦なく、痛覚を感じさせる魔法をぎゅっと濃縮した小さな魔力球を穴に向かって放った。直後、峰田の悲鳴が聞こえてくる。それでも離れていないようなので、アンジェラは耳郎に指示を出して、イヤホンジャックを峰田の目に突き刺させた。そのまま心音を眼球に直接響かせ、目玉から反省を促す。峰田の声が更に大きくなった。
「ありがとう、響香ちゃん、アンジェラちゃん」
「なんて卑劣……すぐに塞いでしまいましょう!」
「アイツ一回マジで処した方がいいんじゃねえかな……その程度でセクハラやめるかなぁ」
覗き魔に女子全員が怒り心頭……一人だけものすごく物騒なことを呟いている中、耳郎だけは別のポイントで落ち込んでいた。
「……ウチだけ、何も言われてなかったな……
……というか、前々から疑問だったんだけどさ……何でフーディルハインはそんなに胸大きいの」
「うわ矛先がこっちに来た」
耳郎の視線は、アンジェラの女子高生としては低すぎる身長には不釣り合いなほどにたわわに実った二つの果実に向けられている。その眼差しには、明らかに羨ましいとかそんな感じの感情が込められていた。
「んなもん知らねえって……特に何か特別なことしてた記憶はないし」
「ウッソだぁ! じゃあなんでその身長で八百万並のバストなのさ! ちょっと分けろください!」
「それじゃあ身長寄越せ! 15センチくらい! ついでに手足のリーチも寄越せ!」
「いやそれは欲張りすぎとちゃうんやない?」
「だってオレ身長伸びたこと一回もねぇんだもん! ちょっとくらい欲張ったっていいじゃねぇか!!」
いいなー、羨ましいなー、とアンジェラは他の女子を見やる。アンジェラは身長が140センチとクラス全体で二番目に低く、女子の中では一番低い。格闘技をメインウェポンとするアンジェラにとって、手足のリーチの短さは課題でもある。大半の相手に対してはスピードと技術でゴリ押せるので、あってないような弱点だが。
「…………ん?
と、麗日がアンジェラの発言に違和感を感じる。身長が伸びたことがない? 一回も? 麗日は何か薄ら寒いものを感じながらアンジェラに問いかける。
「アンジェラちゃん、それってどういう……」
「どうって、言葉通りの意味だけど」
「……え?」
「だから、一回も身長伸びたことがないんだよ。1ミリも」
アンジェラは、本当に何でもないように、まるで雑談を話すかのように言った。人として、異常なことを。
「……え? 成長期だよね? 15とかそこらへん……だよね?」
「あ、これも言ってなかったか。
オレ、自分の年齢知らねぇよ?」
ピシリ、と女子更衣室の空気にヒビが入る。
アンジェラは、何でこいつらこんな反応しているんだろう? と、本当に意味がわからないと言わんばかりに首を傾げた。
スランプ気味です。幕間書き終わらねぇ、本編も進まねぇ。
更新が止まっても、まぁ、スランプだなとか思って気長にお待ち下さい。なるべく早く書き上げるようには頑張ります。