GUNから特別講師として出向したガジェットの元には、連日多くの生徒が相談にやって来る。ガジェットの人当たりのいい性格や、若くとも確かな実力が皆の心を掴んだのだろう。特に一年A組の生徒は、クラスの中心人物とも言えるアンジェラの友人ということもあり、相談でなくてもガジェットに話しかける者が多い。同じく出向してきたインフィニットに聞きたいことがあるときのクッションのような役目もこなしている。
そんなガジェットと生徒たちの交流を、少しだけ覗いてみよう。
・一年B組 拳藤一佳
「物間が不用意な発言をしてフーディルハインを怒らせたんですけど」
ある日のB組のヒーロー基礎学の直前の時間。B組のクラス委員長であり、B組一の問題児物間のストッパーでもある拳藤は、少し早めにグラウンドに出たついでにガジェットにそう零した。
「はぁ……あの人、セクハラとかの直接的な行動ならともかく、発言じゃあ滅多なことでは本気で怒らないはずなんですけど……怒ったフリみたいなことはよくしますけどね、遊びで」
「あー……多分、アレは本気で怒ってたかもしれないです……」
拳藤は、以前物間が食堂でアンジェラを怒らせた件のことを話した。物間が飯田に関するとてもデリケートな話題でA組をバカにしたこと、それに対するアンジェラの反応を。
話を聞いたガジェットは、ああ、と納得したように頷いた。
「それ、結構本気で怒ってますね」
「やっぱり……ウチも背筋が寒くなったし……やっぱ、物間にちゃんと飯田とフーディルハインへ謝らせないと」
「……待ってください、ひょっとして物間さん、アンジェラさんや飯田さんに謝ってないんですか?」
突然顔を顰めたガジェットに、拳藤は驚きつつも「そ、そうですね……多分、物間の性格上A組の人たちには謝ったりしないですから……」と返す。
「………………」
ガジェットは更に顔を顰める。拳藤は、やっぱり何かマズいことでもあったのだろうか? と、ガジェットの少しオーバーとも言えるリアクションをちょっとだけ疑問に思った。
「あ、あの、ガジェットさん?」
「……物間さん、ものの見事にアンジェラさんの地雷を踏み抜きましたねぇ……」
「じ、地雷?」
思った以上に物騒なワードが飛び出し、拳藤は冷や汗をかいた。
「アンジェラさんにお兄さんが居るって話は聞いたことありますか?」
「ありますけど……」
そこまで言って、拳藤は思い至る。
「物間がアンジェラの地雷を踏み抜いた」、その言葉の真意を。
「えっと……つまり、フーディルハインは……」
「飯田さんの境遇を、もしも自分がこうだったら、と重ねていたんでしょうね。本人が意識しているかは分かりませんが」
拳藤は頭を抱えた。
そりゃ、フーディルハインが怒るわけだ、と。
そして、どうにかして物間に謝らせなければ、とも思っていたが、あのA組を敵対視する物間がそうあっさりとA組である彼女らに謝るだろうか、という問題にぶち当たり、更に頭を抱えた。
・一年A組 峰田実
「ガジェット先生、モテるにはどうしたらいいですか」
「まずはセクハラをやめましょう」
真顔で言い放つガジェットに、それでも女体触りたい……! と頭を抱える峰田。ガジェットは思う。本当に勿体ない、その度を越したセクハラさえなければ、峰田はそれなりにクラスメイトの女子達と仲良く出来ただろうに、と。まぁ、峰田本人が望む形かどうかは分からないが。
「どこの誰がセクハラなんかしてくるような人と仲良くしたいと思うんですか」
「じゃあオイラはどうすりゃいいってんですか先生!」
「セクハラをしないという選択肢は無いんですか?」
ガジェットは呆れ顔で言い放った。ここまでくると、峰田のその女性の身体への執念には感心すら覚えてしまう。
同じ男としては多少、本当に砂の一欠片くらいの多少、その気持ちが分からんでもない。ガジェットは決してそういう欲が無いわけではない。
が、真似したいなどとは決して思わない。それとこれとは話が別である。
「百歩、いや、一億歩譲ってオイラが女体に拒絶されてるとしてもですよ? フーディルハインの報復はちょっと酷すぎないですか!?」
「そこは一歩も譲っちゃ駄目ですよ……で? 何やらかしたんです?」
峰田は救助訓練レースの後に更衣室で起こった出来事をガジェットに話した。あのときの痛みはさしもの峰田もトラウマになっているらしく、背筋にゾワゾワとした悪寒が走った。
「……そりゃ、怒りますって」
「何で!」
「迷惑どうこう以前にそれはただの犯罪行為です。女性陣が抵抗するのは当たり前かと」
ガジェットは冷静にツッコミを入れる。本当に、勿体無い。その執念をもっと別のことに活かせばいいのに。
「……別に、女性の身体に興味を持つなとか、そういうことを言いたいわけじゃないんですよ。それは男性としてごく当たり前のことで、悪いことではありません」
「そうでしょう!? だから女子更衣室を観ようとしたって……」
「しかし」
ガジェットの言葉に何やら光を見出したらしい峰田が瞳を蘭々と輝かせて興奮しているところに、ガジェットが冷静な声で水を差す。
「それとこれとは話が別です。相手が嫌がることを無理矢理やっちゃいけません」
まるで幼い子供に言い聞かせるかのような言葉を放つガジェット。峰田は目に涙を浮かべながらガジェットに縋りついた。
「じゃあ、オイラはどうすればいいんですか先生!」
「だから、セクハラをやめりゃあいいんですよ」
次回から劇場版編に突入します。序盤辺りの大筋自体は原作と一緒ですが、かなりのオリジナル展開が含まれます。