メリッサに連れられるままにセントラルタワーにあるメリッサの父親の研究室にやって来たアンジェラとオールマイト。
オールマイトは年単位振りの親友との再会に心を踊らせ、その親友……デヴィット・シールド博士とフィストバンプをした。デヴィット博士の助手らしき人は思わぬ大物の登場に目を丸くしている。ひとしきり再会の挨拶を済ませたオールマイトは、アンジェラに向き直った。
「フーディルハイン少女、紹介しよう。私の親友、デヴィット・シールド博士だ」
「あー、名前は聞いたことあります。“個性”研究のトップランナーで、ノーベル“個性”賞を受賞した人ですよね」
「私も君のことは知っているよ、今年の雄英体育祭一年の部の優勝者であり、去年のライダズーカップ準優勝のアンジェラ・フーディルハインさん」
「知られてましたか……ちょっと照れるな」
「メリッサ……娘が君のファンなんだ。ぜひ仲良くしてあげてくれ」
「はい」
アンジェラは照れた笑みを浮かべながらも、内心では別のことを考えていた。
メリッサに、娘にとても慕われていて、研究が一段落したお祝いに親友との再会という、ビッグなサプライズまで用意してもらって……
特別な経歴や職は置いといて、「普通の父親」とはこんな感じの人なのだろうかと、アンジェラは考えざるを得ない。子供に将来を強制するでもなく、のびのびとやりたいことをやらせてあげる。本来、父親とはこんな感じの人なのだろうか。
こういう父と子の関係が、本来は「普通」なのだろうか。
産まれて、記憶を失くしてこの方、「親」というものにほぼ無縁な人生を歩んできたアンジェラには、さっぱり分からなかった。
と、オールマイトが少し咳き込む。よくよく見たら湯気が立ち上がり始めている。どうやら、体力の限界のようだ。
ワン・フォー・オールのことは知らなくても、オールマイトが弱体化していることは知っているのか、デヴィット博士が少しだけ顔を歪ませて口を開く。
「すまないが、オールマイトとは久しぶりの再会だ。色々と積もる話をしたい。メリッサ、フーディルハインさんにI・エキスポを案内して上げなさい」
「わかったわ、パパ」
「いいのか?」
「もちろん! 私、あなたのファンだもの、光栄だわ。行きましょ!」
「ああ、よろしくな」
アンジェラは何か胸の内に引っかかるものを感じながらも、メリッサに連れられてデヴィット博士の研究室を後にした。
デヴィット博士の研究室を出て広い廊下を歩きながら、メリッサはアンジェラが腕に抱えているふわふわしたかわいい生き物に視線を奪われていた。
「そういえば、さっきはアンジェラに夢中で気付かなかったけど、アンジェラが抱えているその生き物は?」
「ああ、こいつはケテル。うちの同居人でオレの“個性”の一部だよ」
メリッサの興味深そうな視線に気付いたのか、ケテルはアンジェラの腕の中で腕のような触手をパタパタとさせる。
「“個性”の一部? 独立した意思を持っているなんて、珍しいのね」
「そうみたいだな」
実際には、ケテルはアンジェラの“個性”でもなんでもないのだが、上手い具合に誤解してくれたらしい。
道中、お互いの好きなものなどの話をしながら、アンジェラはメリッサの案内でエキスポ会場にやってきた。空港前のゲートでもこの場所は目に入っていたが、近くで見るとやはり迫力が違う。
「ここ、人工の島なんだろ? こうして見ると、とてもそうとは思えないや」
「大都市にある施設は一通り揃ってるわ。できないのは、旅行くらいね」
「そうなのか?」
「ここにいる科学者とその家族は、情報漏洩を防ぐ守秘義務があるから」
I・アイランドは世界の科学の最先端を行く島だ。その技術や情報は、下手したら国を転覆させられるほどの絶大な力を持つものも少なくはない。故の守秘義務なのだろうが、アンジェラはそれがどことなく窮屈に感じた。それが若干顔に出ていたのか、メリッサは気を遣ってか話題を変える。
「最新アイテムの実演会とかサイン会とか、色々催し物があるみたい。夜には関係者を集めたパーティーも……って、アンジェラも出席するんだよね。マイトおじさまの同伴者なんだし」
「いや、パーティーには多分出席するけど、オレはオールマイトの同伴者じゃないぞ」
「え? そうなの?」
メリッサは目を丸くしてアンジェラの顔を覗き込む。まぁ、オールマイトと一緒に居た時点でそう勘違いをするのも無理はないのだが。アンジェラは苦笑いをしながら訂正を入れる。
「オレは元々別口で招待状貰っててな、オールマイトもI・エキスポのプレオープンに招待されてるっていうから、プライベートジェットに便乗してきただけだ。話す機会が多いのは事実だけどな」
「あら、意外とちゃっかりしてるのね」
「飛行機代安く済むどころかタダになった」
したたかだとは思っていたが、予想以上のアンジェラにメリッサは妙な関心を寄せる。アンジェラが別口で貰った招待状が、弟分の科学者が貰ったものだと伝えると、目をキラキラと輝かせた。
「アンジェラの弟分なら……かなり若いわよね? そんな年齢でI・エキスポに招待されてるなんて……とっても優秀な子なのね」
「まぁな、いつも助けられてるよ。後でテイルス……弟分のことだけど、そいつと同伴者達と待ち合わせしてるから、よかったら一緒に行かないか?」
「ええ、ぜひお願いするわ!」
メリッサは楽しみが一つ増えた、と、口笛でも吹きそうなほどにテンションが上がっていた。その上がったテンションのまま、ガラス張りのスタジアムのようなパビリオンを指差す。
「アンジェラ、あそこのパビリオンもおすすめよ!」
メリッサに連れられるままにそのパビリオンに足を踏み入れると、そこには様々なヒーローコスチュームやサポートアイテムなどが展示されていた。
空水両用の多目的ビーグル、深海七千メートルにまで耐えられる宇宙人のようなデザインの潜水服、三十六種類のセンサーが内蔵されているヘルメット型のゴーグルなど……そのどれもが最先端の科学技術を駆使して作られたものだ。ゴーグルを試着させてもらったとき、アンジェラはあまりの視界の広さと情報の多さに少し酔ってしまった。
そんなちょっとしたハプニングがありながらも、アンジェラは楽しそうだ。ケテルも最新鋭の対敵用捕縛銃を撃たせてもらったり、小さい身体を全力で駆使して楽しんでいた。
「実は……ほとんどのモノはパパが発明した特許を元に作られているの!」
メリッサは誇らしげに言う。つまり、ここにあるサポートアイテムの殆どにデヴィット博士の技術が使われているというわけで。デヴィット博士は改めて凄い科学者なんだなと、アンジェラは関心した。
「ここにあるアイテムのひとつひとつが、世界中のヒーローたちの活躍を手助けするの」
そう言うメリッサの瞳には、父デヴィット博士に対する憧れや尊敬の光が強く宿っている。メリッサが抱くその感情は、アンジェラがソニックやシャドウに抱くものと似ているのだろうか。それとも、似ているようで全くの別物なのだろうか。あいにく親というものに縁もゆかりもないアンジェラには分からなかったが、メリッサがデヴィット博士のことをとても尊敬していることだけは分かった。
「デヴィット博士のこと、尊敬してるんだな」
「パパのような科学者になるのが夢だから」
「メリッサって、ここのアカデミーの……」
「うん、今三年」
「Iアイランドのアカデミーといえば、全世界の科学者志望憧れの学校だろ?」
世界中の科学者が集まるIアイランドには、科学者養成機関も存在する。当然、世界的に見ても最難関中の最難関だ。そこに入学しているということは、その時点でメリッサは将来有望な科学者のタマゴ、ということになる。
「憧れに向かって、頑張ってるんだな」
「ええ……でも、私なんかまだまだ。もっともっと、勉強しないと」
メリッサは自分に言い聞かせるように口を開く。憧れに向かってがむしゃらにひた走るメリッサのような人の姿は、アンジェラも嫌いではなかった。メリッサに微笑ましそうな視線を向けるアンジェラと、無邪気にメリッサにじゃれつくケテル。
と、そんな二人の横から、アンジェラには聞き馴染みの深い声がかかった。
「やっほー、アンジェラちゃん」
「Hello,麗日」
ヒーローコスチュームを身に纏った、麗日の声である。アンジェラは驚くこともなく、普通に挨拶を返した。
「アンジェラ、お友達?」
「学校のクラスメイトだ。麗日がここにいるってことは……」
アンジェラはキョロキョロと辺りを見渡す。すると、麗日と同じくコスチュームを身に纏った八百万と耳郎がこちらに近付いてくる姿を発見した。
「アンジェラさん、ごきげんよう」
「よっ、フーディルハイン。何やら楽しそうだね」
「おう、八百万に耳郎。楽しんでそうだな」
「ところでアンジェラさん、そちらの方は?」
麗日達はケテルがじゃれ付いている見知らぬ少女に目を向ける。アンジェラはメリッサにエキスポを案内してもらっていることと、メリッサがここのアカデミーの生徒であることを簡潔に伝えた。
「そっかー、アンジェラちゃんってやっぱり人と打ち解け合うの得意だよね」
「ま、今回はたまたまみたいなとこあるけどな」
そんな感じで意気投合し談笑し合う女子5人組。ふと、アンジェラが時計を見ると、もうすぐ12時過ぎだった。
「あ、やっべ、もうこんな時間か……」
「フーディルハイン、なにか用事でも?」
麗日達3人は首を傾げる。そういえば、アンジェラは麗日達には別口でIエキスポの招待状を貰っていたことは話してあるが、それがテイルスから送られてきたものだとは言っていなかったな、と、ふと思い出した。
「アンジェラ、人と待ち合わせしてるらしいの」
「そうなん?」
「ああ、今から皆で一緒に行かないか? ここの近くのカフェを集合場所にしてるんだが」
アンジェラからの提案に、麗日達は興味津々といった感じで賛成した。
先程のパビリオン会場の近くにある小洒落たカフェ。アンジェラ達はそこのテラス席で談笑しながら、アンジェラの待ち人を待っていた。ケテルは麗日達に可愛がられてご満悦だ。
「へぇ〜! お茶子さんたち、プロヒーローと一緒にヒーロー活動したことあるんだ!」
「訓練やパトロールくらいですけど」
「ウチは事件に関わったけど、避難誘導をしたくらいで」
「それでも凄いわ!」
「私は何故かテレビCMに出演するハメに……」
「普通じゃできないことね。素敵!」
麗日達は順番にケテルを撫でくりまわしながら職場体験の内容で盛り上がっているようだ。八百万のシュンと落ち込みながら放たれた発言に、アンジェラは職場体験の一ヶ月後くらいから流れ始めた、八百万と拳藤がスネークヒーローウバウミと出演していたCMはそれか、と妙なところで納得を見せた。
「お待たせしました」
と、アンジェラが頼んだソーダのグラスが目の前に置かれた時にした、これまた聞き覚えのある声にアンジェラが顔をあげると、そこにはウエイター姿の上鳴と峰田の姿が。
「あんたら何してんの?」
「エキスポの間だけ臨時バイトを募集してたから応募したんだよ、な」
「休み時間にエキスポ見学できるし給料もらえるし、来場したかわいい女の子と素敵な出会いがあるかもしれないしな!」
何故か得意気な上鳴と峰田の品定めをするような視線は、突然現れたアンジェラ達のクラスメイトにきょとんとしているメリッサにロックオンされる。二人は下心丸出しでアンジェラに詰め寄る。
「おい、フーディルハイン、あんな美人とどこで知り合ったんだよ!?」
「紹介しろ、紹介!」
「いや、紹介はいいんだが……峰田、ドサクサに紛れてオレの胸触ろうとするのはやめろ」
上鳴はアンジェラの身体に直接接触してはいないからまだいいが、峰田の手はあからさまにアンジェラの豊かな胸部装甲へと伸びていた。それに気付いたアンジェラは額に青筋を立てながら、峰田の頭にガシっと掴みかかりアイアンクローをお見舞いする。峰田の頭からギリギリ……と何かが潰れるような音がして、麗日達は少し引いた。あまりにもあからさまなセクハラを働こうとした峰田と、それに対するアンジェラの報復に上鳴は顔を青くしながら、
「すみません、フーディルハインさんあの人どちらさまですか、紹介してください」
と、一歩下がって妙にへりくだっていた。アンジェラは峰田をそこいらにポイッと捨てると、頬杖をついて呆れたような視線を上鳴に向けた。
「別に上鳴にキレてるわけじゃないんだからそんなへりくだんなくても……」
「いや……なんとなく」
「えっと……あなたたちも雄英生?」
メリッサの困惑したような声が後ろから聞こえてくる。上鳴と何故かわずか数秒で復活して立ち上がった峰田はメリッサの前にやってきてカッコつけたポーズを取る。
「そうです!」
「ヒーロー志望です!」
峰田の復活速度にアンジェラがため息をつくと、またまた聞き慣れた声がアンジェラ達の耳に入ってきた。
「なにを油を売っているんだ!? バイトを引き受けた以上、労働に励みたまえー!!」
“個性”を使いながらダッシュしてきたのは、コスチューム姿の委員長、飯田であった。飯田はアンジェラたちのテーブルを通り過ぎ上鳴と峰田に迫る。上鳴と峰田はその迫力に思わず叫び声を上げた。
「飯田!?」
「来てたん?」
立ち止まった飯田は振り返り言う。
「うちはヒーロー一家だからね。Iエキスポから招待状をいただいたんだ。家族は予定が合わなくて、来たのは俺一人だが……」
「飯田さんもですの? 私も父がIエキスポのスポンサー企業の株を持っているものですから、招待状をいただきましたの」
「で、ヤオモモの招待状が2枚余ってたから、別口で招待状を貰ってたフーディルハインを除くA組女子による厳正な抽選の結果、ウチらが一緒に行くことになったってわけ」
厳正な抽選(じゃんけん大会)である。
アンジェラも参加こそしていないが、面白そうという理由でその場で見物していた。芦戸の「やっちまった〜!!」という絶叫はよく耳に残っている。
ちなみに、そのじゃんけん大会が開かれる前にアンジェラは爆豪に招待状をあげていた。閑話休題。
「他の女子もこの島には来てて、明日からの一般公開日に全員で見学する予定なんだとよ。オレは一緒に行けるかびみょいけどな」
「それってさ、さっき話してたフーディルハインが待ってる人と関係あんの?」
「ああ、多分もうすぐ来るはず……」
アンジェラがそうぼやいた瞬間、アンジェラ達の耳にアンジェラと飯田以外は聞き覚えのない、しかしなんとなく安心できるような声が入ってきた。
「悪い、遅くなった!」
「あっ、ソニック!」
その声と共に現れたのはソニックだ。アンジェラがパァ、と瞳を輝かせる。保須の件で一度面識のある飯田は真っ先にソニックに向かって、
「お久しぶりです、ソニックさん!」
と言いながら深々とお辞儀をした。
「おお、久しぶりだな飯田! と、お前たちとははじめましてか」
ソニックは苦笑しながら飯田に返事をすると、麗日達に向き直った。
「オレはソニック。ソニック・ザ・ヘッジホッグだ。いつも妹が世話になってるな」
「い、いえ! アンジェラちゃんにはこっちが助けてもらいっぱなしで……あ、私、麗日お茶子です!」
「アンジェラさんのお兄さん……話には聞いていましたが、実際にお姿を拝見するのは初めてですね。私は八百万百と申します」
「ウチは耳郎響香です。フーディルハインは面白いやつで、一緒に居ると色々と楽しいです! それに、フーディルハインはどっちかというと世話を焼いてる方ですよ。特に上鳴がバカやらかしたりとか」
「ちょ、耳郎お前さ! いや間違いではないけど! ……その上鳴電気ッス。妹さんには色々ご迷惑をおかけしてまして……すんません」
「メリッサ・シールドです! ここのアカデミーの三年で、アンジェラとはついさっき友達になりました。去年のライダーズカップの決勝見ました、アンジェラと最後までデッドヒートを繰り広げていた人ですよね!」
麗日達は朗らかな笑みを浮かべながら、メリッサだけはちょっとテンション高めにソニックに名乗る。ライダーズカップとはどういうことだという視線をビシビシと感じながら、アンジェラは後で説明するから、と麗日達に目で訴えかけた。
そんな中、峰田だけは何故か目から血の涙を流していた。
「…………フーディルハインの兄貴っつーからちょっとは予想してたが……やっぱり凄まじいイケメンじゃねぇかよォ!!」
「何をしているんだ峰田君? 君はソニックさんとは初対面なのだから、まずは自己紹介をしないと!」
「チクショ────!! イケメンは爆ぜろォォォ!!!」
飯田の指摘も無視して、峰田は崖際の手すりに掴まって叫ぶ。案の定峰田は、ソニックの顔面偏差値の高さに妬みを覚えていた。
「……お前の場合は顔とかじゃなくて態度の方が問題だろ」
《セクハラ、ダメ、絶対!》
いつの間にかアンジェラの元へふわふわと戻ってきたケテルの頭を撫でながら、アンジェラは呆れたような視線を今だに嫉妬を叫び続ける峰田に向けた。
テイルス君の科学力って、ヒロアカ世界においてもかなりのチートだと思うんですよね。