音速の妹のヒーローアカデミア   作:えきねこ

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ともだち

 シルバーを保護したあと、アンジェラたちはシャドウと合流した。そこでアンジェラが麗日たちにシャドウのことを紹介したり、逆にシャドウに麗日たちのことを紹介したりしたあと、ソニックが口を開く。

 

「シルバーはオレとシャドウで手綱握っておくから、アンジェラは友達とエキスポ見学してきな」

「え、いいのか?」

「テイルスたちは今日レセプションパーティー前まで合流出来ないそうだ。僕らだけアンジェラと周ったなんて知られたら面倒なことになる。それに、あまりに大人数だとかえってまたシルバーが迷子になりかねん」

「……ごめんなさい」

 

 そんなシャドウのツンデレな後押しもあり、アンジェラは遠慮なくシルバーをソニックたちに預け、麗日たちとエキスポを見学した。明日はテイルスたちも合流できるそうなので明日はソニックたちと回るつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして18時、閉園のアナウンスが鳴った頃。

 

 エンデヴァーの代わりに顔を出さなくてはならない場所があるらしく途中で別行動になった轟と、ヴィラン・アタックのアトラクションで早々に別れた爆豪とそれを追った切島を除くアンジェラたちは、閉店したカフェの入口で息絶え絶えになってドカリと座り込んでいるいる上鳴と峰田の元を訪れた。

 

「よっ、お疲れ」

「労働、よく頑張ったな!」

 

 飯田はそう言いながら疲れ果てている二人の前にレセプションパーティーへの招待状を差し出す。メリッサが余っていたので、せめて今日くらいは楽しんでほしいと譲ってくれたものである。

 

「上鳴……」

「峰田……」

「「俺たちの労働は報われた〜!!」」

 

 よかったな、とアンジェラは涙ながらに喜び合う二人に生暖かい目を向けた。

 

 パーティーに参加する人数が二人増えたところで、飯田が言う。

 

「パーティーにはプロヒーローたちも多数参加するほか、アンジェラ君のお兄さん方や友人たちも参加するそうだ! 雄英の名に恥じないためにも、正装に着替え、団体行動でパーティーに出席しよう! 

 

 18時30分にセントラルタワーの7番ロビーに集合! 時間厳守だ! 爆豪君や轟君には俺からメールしておく」

「ソニックたちにはオレからメールしとくよ。テイルスとエミーにも伝えるから、オレが着く前に会ったら仲良くしてやってくれ」

「ありがとう、アンジェラ君! では解散!」

 

 飯田は“個性”のエンジンでかっとばし、何処かへと去ってゆく。それをアンジェラは、相変わらずフルスロットルの方向性を間違ってるなー、と生暖かい目で見送った。

 

 

 

「また後でね!」

「See you later〜」

 

 麗日達が宿泊するホテルの前で別れたアンジェラはソニックたちにメールを送ると、自分もホテルに戻ろうとする。しかし、それはメリッサによって止められた。

 

「アンジェラ、ちょっと私に付き合ってくれないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メリッサに連れられてアンジェラがやって来たのは、アカデミーにあるメリッサの研究室だった。

 

 たくさんの機械と資料、テーブルの上に置かれた実験器具やノート、資料棚の上に所狭しと置かれたトロフィーを目にしたアンジェラは感嘆の声を漏らした。

 

「メリッサって、よっぽど優秀なんだな」

「実はね、私、そんなに成績よくなかったの。だから一生懸命勉強したわ。どうしてもヒーローになりたかったから」

 

 メリッサは倉庫を開けて探しものをしながら、少し恥ずかしそうに言う。アンジェラは少しだけ予想外だな、と思った。

 

「ヒーローに? プロヒーローじゃなくて?」

「ううん、それはすぐに諦めた。だって私、無個性だし」

「へぇ、そうだったのか」

 

 メリッサはなんでもないようにプロヒーローを諦めた理由たる先天的なハンディキャップを口にし、アンジェラもメリッサが無個性であること自体には然程興味なさそうに棚に飾られている写真を見る。そこに写っていたのは、今よりも若いデヴィット博士に抱っこされた幼い頃のメリッサだった。

 

「5歳になっても“個性”が発現しないから、お医者さんに調べてもらったの。そしたら発現しないタイプだって診断されたわ」

「確かに……ヒーローは“個性”があることが前提みたいなとこあるしな。GUNに就職するっていうのは考えなかったのか?」

 

 アンジェラは純粋な疑問を口にする。GUNのエージェントはその3割が無個性であり、その殆どがそんじょそこらのプロヒーロー顔負けの戦闘力を有している。ヒーローのような華があるとは決して言えないが、ヒーローのように人々の平和を守るために戦う仕事である。

 

 倉庫からなにやら箱を持ってきたメリッサは、あっけならかんとした様子で口を開く。

 

「それも少しは考えたけど……私にはそれ以上に、すぐ近くに目標があったから」

「目標?」

「私のパパ」

 

 棚に飾られている写真どれもこれもから、メリッサが愛されて育てられてきたのだということが分かる。特に写真のデヴィット博士の顔にはメリッサへの惜しみない愛情が見えていた。

 

 ソニックやシャドウという自慢できる二人の兄に愛されて、他にもたくさんの友人や張り合える人物に恵まれているという自覚はあるアンジェラだが、それでもやはり、親との想い出が何一つとしてないという事実は、少なからずアンジェラの胸を締め付ける。

 

 かつて、宇宙に浮かぶアークにいた頃のソニックやシャドウも、産みの親であるプロフェッサー・ジェラルドに愛されていたであろうことは、ジェラルドが残した記録や手記を見たアンジェラにはよく分かる。ソニックにその時の記憶があるのかどうかを聞いたことはないが、少なくとも「親に愛されていた」ということは知っている。

 

 それに反してアンジェラは、産みの親すら定かでなく、愛されていたかもわからない。ソニックに拾われたときの状況を考えると、そうでない可能性の方が高そうだが、真実が分からなければ割り切れるものも割り切れない。親を明確に憎む理由がある轟とも違い、アンジェラは、親になんの感情を抱くことすらも許されていないのだ。

 

「パパはヒーローになれるような“個性”を持っていなかったけれど、科学の力でマイトおじさまやヒーローたちのサポートをしている。間接的にだけど、平和のために戦っているの。

 

 それが、私の目指すヒーローのなり方」

 

 メリッサは誇らしげに自身の将来の夢を語る。直接ヒーローになれるような力はなくても、誰かのために戦うことはできる。メリッサは、そういうヒーローになろうとしている。

 

 それが、惜しみない愛情の中でメリッサが見つけた夢が、今のメリッサを形作っているのだ。

 

 メリッサは持ってきた箱をテーブルの上に置き、蓋を開ける。中に入っていたのは、赤いベルトのようなもの。

 

「このサポートアイテムね、前にマイトおじさまを参考に作ったものなの。アンジェラ、ちょっと手首のリミッター、外すか二の腕辺りまでズラせる?」

「ああ、ちょっと待ってろ」

 

 アンジェラはケテルを肩の上に乗せて、右手の手袋を外して右手首のリミッターを左手の人差し指でなぞる。すると、リミッターの隙間が広がった。アンジェラはリミッターを二の腕まで持っていって再び人差し指でなぞる。リミッターは二の腕に合わせてピタリ、と嵌まった。メリッサはそれを確認すると、アンジェラの右手首にベルトを巻く。

 

「ここのパネル、押してみて」

 

 アンジェラがメリッサに言われるままにパネルを押すと、青く光って蜂の巣状の模様がベルトに不規則に現れたかとおもいきや、変形して伸びたベルトが腕と手を覆い、装着される。

 

《すごーい!》

「これは……」

「名付けるなら、フルガントレット、かしら。アトラクションでアンジェラ、意図的に“個性”をセーブしているように感じて……それで思ったの。アンジェラって、強すぎる“個性”にリミッターを着けていてもなお、身体が追いつけてないんじゃないか、って」

 

 メリッサの言葉はいい得て妙だ。

 

 アンジェラのリミッターに作用しているのは、アンジェラの内に渦巻く強大な魔力であり、“個性”であるワン・フォー・オールには恐らくさほど作用していない。そして、アンジェラはワン・フォー・オールを100%で使えるというわけでもない。瞬間的にも最大で45%ほどが限界である。

 

「そのフルガントレット、マイトおじさま並のパワーで拳を放っても、3回はなら耐えられるくらいの強度があるわ。きっとアンジェラ本来の力を発揮できると思う」

「………………」

「それ、アンジェラが使って」

「……いいのか? 大事なものなんじゃ……」

「だから使ってほしいの! 困っている人たちを救けられる、素敵なヒーローになってね!」

 

 アンジェラは、笑顔で言うメリッサに、テイルスと似た何かを感じた。

 

 テイルスは昔、尻尾が二本あるという理由でいじめを受けて、目に見えて自信を喪失しており、今の勇敢なテイルスからは考えられないほど臆病だった。

 

 そんなテイルスは、ソニックやアンジェラとの出会いを契機に少しずつ自信をつけ、今やソニックの相棒とも呼ばれるほどに成長した。その成長をずっと傍で見守ってきたアンジェラだからこそ、メリッサとテイルスがどことなく似ていると感じたのだ。

 

 メリッサもテイルスも、誰かのためを一番の理由に掲げている。その、誰かを手助けできるような存在になりたいという夢を持った。

 

 アンジェラはフルガントレットを見つめる。オールマイト並のパワーで拳を放っても3回までなら耐えられるほどの強度と、最新の圧縮技術。これを作り出すメリッサの技術力がいかに凄いかが、身につけた肌を通して伝わってくる。

 

「……あのな、メリッサ」

 

 だから、アンジェラはメリッサには話さなくてはと思った。すべてを包み隠さずに話すことはできないが、せめて、根本的な違いは話さなくては、と。

 

 アンジェラは神妙な面持ちで、肩の上のケテルを撫でながら口を開く。

 

「オレ、ヒーローになりたくて雄英に居るわけじゃないんだ」

 

 メリッサは今までにないほど真面目なアンジェラの声音に、静かにアンジェラの話に耳を傾ける。

 

「ここだけの話なんだが……オレが雄英に居るのは、ある依頼を受けたからなんだ。その内容や依頼主が誰なのかとかは話せない。

 

 だけど、少なくともヒーローになりたいとは、一度も思ったことがない」

 

 アンジェラはフルガントレットを纏った右手を握りしめる。

 

「オレはソニックに拾われて、一緒に世界を巡っていくうちに……いつからか、言葉の歴史や遺跡に興味を持った。

 

 人々が産み出し、培い、使ってきた言葉と歴史の関係を紐解きたいと思った。人々が言葉の変化とともに営んで、歩んできた歴史を、もっと深くまで知りたくなった。

 

 強くなりたいっていう気持ちが弱いわけじゃない。むしろ、人よりも強いと思ってる。いつの日にか、ソニックとシャドウに勝ちたいと……ずっと、思い続けてる。

 

 誰かが困っているのを見かけたら、手を貸したいと何度も思って、実際に手を貸してきた。誰かを助けるっていう行為自体は好きだし、お礼とかを言われると心がぽかぽかした。

 

 

 

 

 

 だけど、ヒーローになりたい、って思ったことは、一度もない。

 

 

 

 

 

 

 誰かのために戦うことはあったし、その行為を否定するわけでもない。

 

 だけど、オレは、誰かのためだけに(……)戦って死ぬのは、真っ平ゴメンだ。オレが戦うのは基本自分のためだし、人に手を貸すのも自分がそうしたいっていう欲求を満たすためだ。自分が損しかしないと分かっているのなら、手を貸したりしないし戦ったりもしない。

 

 オレは、根本的に心がヒーローには向いてないんだよ」

 

 アンジェラはそこまで語ると一呼吸置いて、メリッサの顔を見やる。メリッサは意外と深刻そうな顔はしておらず、ただただ黙って話を聞いていた。

 

「……幻滅したか?」

 

 アンジェラは困ったような笑みを浮かべて薄く言葉を紡ぐ。メリッサは微笑んで、首を横に振った。

 

「ううん……むしろちょっと納得しちゃった。アンジェラは自分の心に正直に生きてるんだね。

 

 そういう人、かっこよくて私、好きよ」

「…………!」

 

 あまりにも予想外な言葉にアンジェラは口をつぐむ。メリッサは、アンジェラがどう生きたいのかを理解した上で、それをかっこいいと言ってのけた。それが、凄まじい衝撃で、言葉すら出てこない。

 

「幻滅する要素なんてどこにもないわ。私、もっとアンジェラのファンになっちゃった! 

 

 それに、その話ってあまり人にしちゃいけないんでしょ? 本当は依頼を受けて雄英に居るってことすらも、話しちゃいけないんでしょう? それなのに、アンジェラは私にそれを話してくれた。アンジェラの本当の気持ちを、話してくれた。

 

 都合のいいことを取り繕うのも、嘘を纏うのも簡単よ。誰にだってできる。時には、嘘をつかなくちゃいけないことだって、悲しいけれど生きている以上あるかもしれない。

 

 だけど、嘘をつかれた側は、本当に必要な嘘だったとしても裏切られたと感じるかもしれない。嘘をついた人を、罵倒してしまうかもしれない。

 

 そうかもしれないと分かった上で、アンジェラは真実の断片を見せてくれた。それは、誰にだってできることじゃない。とっても勇気がいることで、アンジェラがかっこいいことの、何よりの証だわ」

 

 ヒーローに憧れを抱くメリッサは、てっきり利己主義だと告白した自分を罵倒はしないまでも、少なくとも軽蔑するだろうと思っていたアンジェラは度肝を抜かれた。メリッサは確かな憧れの視線をアンジェラに向けて続ける。

 

「何に憧れるかなんて人それぞれの自由よ。アンジェラが凄い力を持っていて、だけどヒーローになりたいとは思っていなかったとしても、それを責める権利なんて誰にもないわ」

 

 一般論で言う強“個性”の持ち主は、ヒーローになるべき、なるであろうなどと言われる。どの国であってもトップチャートに名を連ねるヒーローの“個性”は派手で強いものが多い。

 

 例え、本人が別の憧れをその胸に抱いていたとしても、周囲の期待に押しつぶされてヒーローを目指さざるを得ない人間は、少ないながらも存在する。アンジェラが所属している大学の研究室の歳上の後輩の一人もそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が、一体どんな覚悟で自らの憧れを貫き通そうとしたのか、自分はよく知っている筈なのに。こんなことでクヨクヨと悩んでいるなんて、本当にらしくない。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ははっ、何をウジウジと……」

 

 アンジェラは、メリッサが正しく「学者」であると感じた。俗世の一般論に流されない柔軟な発想は、まさにその証とも言えよう。

 

 アンジェラは迷いを振り切ったような表情でフルガントレットを撫でた。

 

「ありがとな、メリッサ。おかげでスッキリした」

「友達だもの、当然よ!」

 

 メリッサは心底嬉しそうな表情で微笑む。友達の力になれたのが嬉しいという純粋な感情のみが湛えられたその瞳には、アンジェラを悪く思うような感情など一切感じない。

 

 アンジェラは、少しバツが悪そうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の話が盛り上がっていた、その時。アンジェラの携帯が音を立てた。発信相手は飯田だ。

 

「Hello?」

『何をしているんアンジェラ君! 集合時間はとっくに過ぎているぞ!?』

 

 電話に出た瞬間、鳴り響く怒号。時間を確認してみると、とっくのとうに18時30分など過ぎていた。




アンジェラさんは機密情報を全部はっきり吐くようなことはありませんが、状況によっては人を見てちょろっと秘密を暴露することはあります。暴露するときも内容によっては今回のように本当にぼんやりとしか話しません。口が軽いようでわりと固い………のか?
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