セントラルタワーの7番ロビー。飯田を筆頭としたレセプションパーティーに参加するA組男子たちと、ソニックたちは既に正装に着替えて集まっている。元々レセプションパーティーに参加する予定などなかった峰田と上鳴は、カフェの制服に上着を羽織って正装の代用品としていた。
ちなみに、シャドウと初めて対面した際、峰田は「もう一人の兄貴もイケメンかよ…………!!」と嫉妬の炎を纏っていたとか。閑話休題。
「悪い、遅くなった!」
そう言いながらエレベーターから現れたのは、正装に身を包み肩にケテルを乗せたアンジェラだ。アンジェラはウエストバッグに荷物を全部詰め込んでいるので、飯田から電話を貰った後メリッサの研究室で着替えさせてもらい、先にセントラルタワーに向かったのだ。
アンジェラの服装は、黒を基調としたゴシックなワンピースドレスだ。腹部に青のレースで飾られたコルセット、胸元に黒くフリルが控えめなジャボを着け、その中心には宝石代わりにソルフェジオがくっついている。
膝上までのスカートの部分は一、二枚の生地で纏められていて、裾の部分にもフリルはない。スカートの後ろ部分にはベルト代わりの大きな青いリボンの結び目が前方からも見えるほどに主張している。
ワンピースドレスの上に前を開けた黒の長袖ボレロを羽織っており、一気に引き締まるような雰囲気を醸し出している。靴は黒く光沢のあるパンプスで、普段ポニーテールにしている髪を解き、青い薔薇の装飾が施された黒いドレスハットを頭の上に乗せ、首には黒いチョーカーをつけている。両手足のリミッターの金の輝きが、アンジェラの色香を更に引き立たせていた。
ちなみにソニックたちの服装はそれぞれ色が少し違うスーツとネクタイだ。スーツは、ソニックが紺色、シャドウが黒、シルバーが灰色、そしてこの場にまだ居ないテイルスが赤茶色であり、ネクタイの色はそれぞれのパーソナルカラーだ。このスーツとネクタイは、テイルスのもの以外は元々ソニックの所有物であり、シャドウとシルバーはソニックのものを借りている。テイルスはわざわざお店でソニックのスーツとおそろいのものを買ったそうだ。
ちなみに何故ソニックがそんなにたくさんの正装を持っているのかというと、単純にソニックとお店両方の発注ミスが原因、とのことだ。閑話休題。
少女らしさと大人らしさが混在し、妖しげな色香をも放つアンジェラの姿に、真っ先に上鳴と峰田が反応を見せる。
「おお〜!? いきなり真打ち!?」
「流石はフーディルハイン! A組でも指折りの美女! ちっこいけど!」
「上鳴、次ちっこいとか言ったら殴るぞ?」
「ゴメンナサイ!」
アンジェラがいい笑顔で拳を構えると、余計なことを言った上鳴は即座に謝った。
「あれ? 他の奴らは?」
「まだ来ていない……団体行動を何だと思っているんだ!」
「まぁ、女っつーのはこういうとき男よりも身支度に時間がかかるもんだぜ飯田。ドレスって結構着づらいしな。オレは着やすいやつ持ってきてたからまだ早めに準備終わった方だけど。あとテイルスは多分エミーを待ってんだろ」
規律を重んじる飯田は今だに集まらない他の面々に憤慨するが、その理由がなんとなく分かるアンジェラは今この場に居ない面々に代わって弁明する。テイルスは身支度はすぐに終わらせるだろうが、エミーを待って結果集合時間に遅れているのだろう。結局ホテルに行く時間もなかった二人は、学者サンたちの部屋を借りて着替えているのだと、さっきテイルスから来たメールにあった。ホテルのチェックイン自体はアンジェラたちが済ませているので問題ない。
「ごめんごめん、お待たせ!」
「ちょっとエミーが着替えに手間取っちゃって……」
と、エレベーターから正装に着替えたテイルスとエミーが申し訳無さそうな顔をしながらやって来た。
エミーの服装は、ピンクを基調としたガーリーなワンピースドレスだ。色以外の雰囲気は全体的にアンジェラのドレスと似ているが、上に白の長袖カーディガンを羽織っており、腰には小さめの白いリボンがベルト代わりに巻かれ、髪を白いリボンで下の方で纏めている。靴は白いパンプスであり、その上にタイツを履いている。両手に着けた白く上品な手袋と、両手首に着けた金色のブレスレット、そして首から下げた紅いガラス玉のペンダントのアクセサリーが、その魅力を更に引き立てていた。
話には聞いていたが予想以上の美少女の登場に峰田と上鳴が盛り上がった。
「おお──! さらなる美少女! こりゃ盛り上がる〜!!」
「ねぇねぇ彼女、ラインやってる?」
「外国人だぞやってるわけねぇだろ」
「上鳴君、峰田君! まずは自己紹介をしないか! お二人が困惑しているだろう!」
自己紹介そっちのけで騒ぐ峰田と上鳴を諫める飯田。上鳴のライン発言に至極冷静なツッコミを入れたのはアンジェラだ。上鳴の発言が何か引っかかったのか、シルバーが首を傾げながらアンジェラに問う。
「なーなーアンジェラ、らいん、ってなんだ?」
「スマホのアプリの一種。日本でメジャーなやつ」
アンジェラはシルバーの質問に答えながら呆れたような笑みを見せる。こいつら(特に峰田)、こんなんでレセプションパーティー色々と大丈夫なのかな……と、ほんの少しだけレセプションパーティーに峰田と上鳴を誘ったことに早くも後悔しつつも、何か問題を起こしたら殴ればいいか、とすぐに思考を切り替えた。殴るのもそれはそれで別の問題であるとアンジェラの思考にツッコミを入れてくれる人物は残念ながら存在しない。
「あはは……楽しそうな人たちだね」
「ま、退屈はしてねぇかな」
クラスメイトの様子を見ていたテイルスは、アンジェラの返答にそっか、と返す。アンジェラがひとっところに留まることが苦手であることを知っているテイルスは、仕事とはいえ、珍しいこともあるものだ、と妙な納得をした。
「ごめん! 遅刻してもうた」
と、そんな中正装に着替えた麗日がやって来る。その直後、八百万と八百万の後ろに隠れて耳郎も遅れながら集合場所にたどり着いた。お嬢様な八百万はともかく、耳郎は正装なぞ着慣れていないようで少し恥ずかしそうだ。
「馬子にも衣装ってやつだな!」
「女の殺し屋みてー」
耳郎の恰好を見てそんな失礼なことを言う上鳴と峰田。当然、耳郎が反応しないわけもなく、ふたりとも耳郎のイヤホンジャックを耳に突っ込まれて爆音を直接耳に叩き込まれていた。
「黙れ」
「なんだよ、俺褒めたじゃんかー!」
「褒めてない!」
馬子にも衣装というのは、どんな人間でも身なりを整えれば立派に見える、といった意味の警句であり、決して褒め言葉などではない。むしろ罵倒の言葉である。上鳴の頭の弱さが垣間見えた瞬間だった。
「アンジェラちゃんもビッと決まってるね! カッコいいよ!」
「Thanks,麗日。麗日も似合ってるじゃないか。その服、八百万に借りたのか?」
「うん、正装なんて持ってないし……」
麗日の家庭事情を知るアンジェラはああ、と納得する。耳郎がどうなのかは知らないが、麗日の実家の財力では、失礼なことだが正装なぞ滅多に買えるものではないだろう。
とはいえ、これから楽しいパーティーってときにそんな話題を出すのは野暮どころかマナー違反。アンジェラは曖昧な返事を返すに留めた。
と、エレベーターから眼鏡を外してドレスに身を包んだメリッサが駆けて来る。
「アンジェラたちまだここにいたの? パーティー始まってるわよ?」
メリッサの大胆な恰好は上鳴と峰田のハートを直撃したのか、二人してまた騒いでいた。それを冷ややかな目で見る耳郎。
「メリッサ、それがな、爆豪と切島がまだ来てなくて」
「……駄目だ、爆豪君、切島君のどちらの携帯にも応答がない」
爆豪と切島に連絡しようとスマホを片手に持った飯田が言う。ひょっとしたら、携帯をホテルに忘れてきてしまいでもしたのだろうか? その上で迷子にでもなってるんじゃ……
「……迷子はシルバーだけで十分だ」
「シャドウ、なにか言った?」
「…………いや」
今日はもうこれ以上迷子の面倒を見たくないシャドウが、ついそうぼやいた。それを聞いていたらしいテイルスが聞き返すも、面倒を起こしたくないシャドウは曖昧に言葉を濁す。
その瞬間。
『I・アイランド、管理システムよりお知らせします。警備システムにより、I・エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたという情報を入手しました。I・アイランドは現時刻をもって厳重警戒モードに移行します。島内に住んでいる方は自宅または宿泊施設に、遠方からお越しの方は近くの指定避難施設に入り、待機してください。今から10分以降の外出者は、警告なく身柄を拘束されます。くれぐれも外出は控えてください。また、主な主要施設は警備システムによって、強制的に封鎖します』
その緊急アナウンスとともに、窓の防火シャッターが次々と閉まり、入口が塞がれていった。
「携帯が圏外だ。情報関係はすべて遮断されちまったらしい」
「マジかよ」
「エレベーターも反応ないよ!」
「マジかよ!」
セントラルタワーの7番ロビーに閉じ込められたアンジェラたちは、まず状況を確認しようと各々動く。アンジェラが確認した限り、通話だけでなくインターネットも遮断されていた。
この中でI・アイランドのセキュリティシステムに一番詳しいであろうメリッサは、どこか考え込むような素振りで口を開く。
「爆発物が設置されただけで、警備システムが厳戒モードになるなんて……」
I・アイランドの警備システムはかのタルタロスと同等のもの。そんな警備システムをくぐり抜け、爆発物を仕掛けるなどそう簡単に出来るはずもない。出来たとて、このレベルの警戒には少々違和感を感じる。
Iアイランドで初めて犯罪が起きたから? Iエキスポ中を狙われたから?
アンジェラの勘は、そのどれもが違うと言っていた。
「……とりあえず、パーティー会場の様子を確認したい。会場にオールマイトが居る。なんとか指示を仰げれば、この状況がどの程度悪いもんなのかも分かる」
今この場で頼れる大人はオールマイトくらいだ。それはヒーローである以前に、彼が雄英教師であるから。親などの保護者がこの場に居ない以上、現状でアンジェラたちの一番の保護者たりえるのは教師であるオールマイトだ。
「オールマイトが!?」
「なんだ、それなら心配いらねえな」
オールマイトの名前が出たことで安堵する麗日と峰田。アンジェラは嫌な予感をひしひしと感じながらメリッサに問う。
「メリッサ、どうにかしてパーティー会場まで……いや、会場そのものに行くのは危険か。その近くまで行けないか?」
「非常階段を使えば……」
メリッサが指さしたのは、隅にある重厚なドアだった。
「ところでアンジェラ、オールマイトと一緒に来たのか?」
「んにゃ、偶然オールマイトがI・エキスポに招待されたって聞いて、便乗してプライベートジェットに乗せてもらっただけ」
「……だから電話で飛行機代はいらないとか言ってたのか」
「ちゃっかりしてるわね」
レセプションパーティーの会場は、銃で武装した敵によって占拠されていた。嫌な予感が的中したことに内心舌打ちをしつつ、アンジェラと耳郎は吹き抜けになっている会場の上の階からなんとか拘束されているオールマイトに指示を請おうと、耳郎はイヤホンジャックを床に刺し、アンジェラはスマホのライトでオールマイトの注意を引きつつ、いざとなったら耳郎を抱えて逃げられるように構える。
スマホのライトに気が付いたのか、オールマイトが顔を上げる。そのことを視認したアンジェラは、耳郎に目きかせをし、オールマイトに耳を手に当てるジェスチャーを送る。
その意図が通じたのか、オールマイトは小声で話す。耳郎のイヤホンジャックはオールマイトの小さな声を正確に聞き取り、その情報を正しく認識した耳郎は狼狽えた。
「……大変だよ、フーディルハイン……!」
耳郎が聞き取ったオールマイトのメッセージはこうだ。
敵がタワーを占拠し警備システムも掌握。Iアイランドに居る全ての人間が人質にとられた。オールマイトを含むヒーローも全員捕まっている。
そして、オールマイトはアンジェラたちにすぐにここから逃げるように指示を出した。
非常階段の踊り場に戻った二人は、全員にその情報を共有する。ことの重大さに、クラスメイトたちは言葉を失った。よもや、そんな事態になっているとは、彼らには想像もつかなかったのだ。
ソニックたちは今まで巻き込まれた数ある事件の経験があるからか、なんとなく想像がついていたので特に驚きはせず、この状況をどうにかするために考えを巡らせる。
そんな中、飯田が口火を切った。
「オールマイトからのメッセージは受け取った。俺は、雄英校教師であるオールマイトの言葉に従い、ここから脱出することを提案する」
「飯田さんの意見に賛成しますわ。私達はまだ学生。ヒーロー免許もないのに敵と戦うわけには……」
飯田の意見に賛同したのは八百万だ。しかし、二人の声色には悔しさが滲み出ている。
「なら、脱出して外にいるヒーローに……」
「脱出は困難だと思う。ここは敵犯罪者を収容するタルタロスと同じレベルの防災設計で建てられているから」
「じゃあ救けが来るまで大人しく待つしか……」
上鳴の言葉はある意味正しい。脱出が困難なのだとすれば、救けが来るまで大人しくが普通は得策である。状況がどう転ぼうが、アンジェラたちはまだ敵に見つかっていないのだ。
しかし、それを聞いた耳郎が立ち上がって口を開く。
「上鳴、それでいいわけ?」
「どういう意味だよ」
「救けに行こうとか思わないわけ!?」
実際にその目でレセプションパーティーの参加者たちが人質になっている姿を見た耳郎は、珍しく苛立ちを募らせている。
と、轟がおもむろに口を開いた。
「俺たちはヒーローを目指してる……」
「ですから、私達はまだヒーロー活動を……」
「だからって、何もしないでいいのか?」
「それは……」
轟に反論しようとした八百万も、真っ先に委員長として脱出を提案した飯田も、心の奥底では救けたいと思っていた。麗日も、上鳴もそうだ。
「許可があればいいんだな?」
今まで話を黙って聞いていたアンジェラが、この状況を打開する言葉を口にした。当然、クラスメイトたちとメリッサは目を丸くする。
「……アンジェラちゃん、それってどういうこと?」
「お前らはヒーロー免許を持っていない。だから行動しようにも何も出来ない。だが……
ヒーロー免許や、それに準ずる権限を持つ奴の許可さえあれば、お前らも堂々と“個性”が使える。救けに行けるってこった」
「それはそうですが……今この場にそんな権限を持つ人なんて……」
八百万の沈んだ声に、アンジェラは得意気な表情を浮かべる。そして、シャドウに視線を向けると、一言放つ。
「いけるよな、シャドウ?」
「……彼らは役に立つのか?」
「まだまだ未熟だが、そんじょそこらの一般人よか遥かに役に立つことは保証するぜ。少なくとも、そんじょそこらの敵にゃ負けたりしねえよ。
というか、オレらだけで行ってこいつらをここに残しておくのはかえって危険が増すだろ。オレたちはまだ見つかっていないだけで、ここに居続けて見つからないって保証はどこにもない」
「確かに……ここに残して敵に見つかって人質になったりされたら逆にこっちが不利になるわね」
「それに、連絡役と護衛兼ねて誰か残していても、敵が予想以上に厄介だった場合に色々面倒なことになる……だったら最初から一緒に来てもらう方がいいのか」
アンジェラの言葉に自身の意見も乗せつつ同意するエミーとシルバー。麗日たちの頭の上には疑問符が浮かんでいたが、保須の一件でシャドウがGUNの機密事項を口にしていたことを思い出した飯田と轟は、アンジェラの考えに気付いたようでバッと顔を上げた。
「ま……まさか……シャドウさん……!?」
「……まあ、こんな状況だ。アンジェラの考えにも一理ある……仕方ない。
GUNエージェントの権限において、君たちに戦闘と“個性”使用の許可を与えよう」
シャドウの口から出された戦闘の許可。麗日たちの瞳に、一縷の希望の光が宿る。次いで、テイルスが口を開いた。
「メリッサさん、Iアイランドの警備システムって何処にあるんですか?」
「このタワーの最上階よ。……そうね、敵がシステムを掌握しているなら、認証プロテクトやパスワードは解除されているはず。私達にも、システムの再変更が可能だと思う」
「敵は恐らく、警備システムの扱いに不慣れ……だったら、これ以上警備システムを使って何かやらかされる前に、警備システムを元に戻せれば……状況は一気に逆転する!」
「予想ばっかだな、大丈夫か?」
全てが予想でしかない作戦に、シルバーが大丈夫かと不安要素を口にする。
「もし仮に敵にシステムをうまいこと操れる奴が居たら、僕が警備システムを掌握し直すよ。流石に遠隔からのハッキングは設備もないし難しいけど、最上階にさえ行ければ何とか……!」
「ここでくよくよ悩んでいても何も始まらないわ。とにかく前進してみるしかない!」
力強く宣言したエミーに、麗日たちもつられてか声を上げる。
「行こう、アンジェラちゃん! 私達にできることがあるのに、何もしないままなんて嫌だ!」
「フーディルハイン、ありがとな。許可があるのなら、心置きなく戦える」
「そういうことでしたら……私も当然行きますわ!」
「ウチも!」
「戦闘の許可をいただけたのなら、俺が反対する理由もない……しかし、皆! 俺たちが学生の身分であることには変わりないんだ。
危なくなったらすぐに撤退する。それが守れるのであれば、俺もいこう!」
「だったら俺も行くぜ!」
「私も行くわ、警備システムを弄れる人は多い方がいいでしょ?」
口々に宣言したクラスメイトたち。峰田は最後の最後まで渋っていたものの、最後には「ああ、わかったよ! 行きゃいいんだろ!?」と同行することにした。
「……いい仲間たちだな」
ソニックは感慨深そうに呟く。まだ未熟とはいえ、妹がこんなにも頼もしい友人たちに恵まれているのは、兄として嬉しくもあり、少しだけ寂しくもあった。
「まだ危なっかしいとこもあるけど……そうだな。
でも、オレはまだまだ兄離れは出来そうもないよ」
「……お前、ホントそういうとこだぞ」
やっと本題に突入します。